(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図7は、従来のシリアルバスデコード機能を有しシリアルバスに接続される波形測定装置の構成例を示すブロック図である。
図7において、解析対象となる入力信号は、入力端子1からA/D変換部2に入力されてデジタル信号に変換された後、波形データ処理部3に入力される。
【0003】
波形データ処理部3は、制御部4の制御の下、波形データメモリ5に対して、A/D変換された入力信号データの書き込み処理および入力信号データメモリ5からの信号データ読み出し処理を行う。また、波形データの立ち上がりエッジや立ち下がりエッジのエッジ位置の検出処理も行う。
【0004】
表示部6は、A/D変換されたデータ、制御部4で検出/算出された各種データに基づく波形データ、シリアルバスデコード結果などを表示する。
【0005】
制御部4は、シリアルバスデコード設定自動化処理部41およびシリアルバスデコード部42を備えている。制御部4は、波形データ処理部3を制御することにより、波形測定装置の動作を統括的に制御する。
【0006】
シリアルバスデコード設定自動化処理部41は、入力信号検出部41a、縦軸スケール算出部41b、閾値算出部41c、ビットレート検出部41d、横軸スケール算出部41e、シリアルバス別特有情報検出部41fなどを備えている。
【0007】
シリアルバスデコード設定自動化処理部41は、波形データを参照し、波形データおよびシリアルバスデコードを表示するために必要な各種データを求める。
【0008】
入力信号検出部41aは、シリアルバスを介して伝送されるデータに関する信号数(チャネル数)を検出する。
【0009】
縦軸スケール算出部41bは、検出された入力信号を波形表示するための縦軸のスケールの値を算出する。
【0010】
閾値算出部41cは、シリアルバスを介して伝送されるデータからビットレートを検出する際の閾値を算出する。なお閾値とは、立ち上がりエッジや立ち下がりエッジを検出処理するのにあたってエッジ判定を行うための境界値を指す。
【0011】
ビットレート検出部41dは、シリアルバスを介して伝送されるデータのビットレートを検出する。
【0012】
横軸スケール算出部41eは、シリアルバスを介して伝送されるデータをシリアルバスデコード表示する際の横軸のスケールを算出する。
【0013】
シリアルバス別特有情報検出部41fは、シリアルバス別にデコード処理を行うのにあたって必要となる特有の情報を検出する。たとえばシリアルバスの一種であるPSI5(Peripheral Sensor Interface 5)バスでデコード処理を行う場合には、
図8に示すようにデータフレームのデータサイズ(10ビット/16ビット)の情報と、エラー検出(Parity/CRC)の情報が必要となる。これらのシリアルバス別特有情報を、シリアルバスを介して伝送されるデータから検出する。
【0014】
シリアルバスデコード部42は、入力信号である波形データのシリアルバスデコード処理を行う。
【0015】
検出/算出データメモリ7は、入力信号、縦軸のスケール値、閾値、ビットレート、横軸のスケール値、シリアルバス別特有情報などの各種データを記憶する。
【0016】
操作部8は、ユーザの操作による指示を制御部4に入力する。
【0017】
ところで、PSI5(Peripheral Sensor Interface 5)プロトコルは、電圧変調と電流変調を1つの信号線上に重畳して伝送する通信プロトコルとして制定されている。PSI5プロトコルでは、ECU(Electronic Control Unit)からの同期信号を受けて、センサがデータ信号を出力する。
【0018】
図8は、PSI5プロトコルに基づく伝送信号の説明図である。(a)は同期信号であり、電圧変調されている。(b)はデータ信号のデータフレームフォーマット例であり、電流変調される。(c)は10ビットのデータフレーム例を示している。なお、(c)に記載されているT
BITは、1ビット時間を表している。
【0019】
図9はPSI5プロトコルに基づく伝送信号の波形例図であり、(a)は同期信号波形を示し、(b)はデータ信号波形を示している。
図9の波形例図では、同期信号波形に同期信号パルスPが発生したタイミングで、データ信号波形に同期信号パルスPに起因した異常ノイズANが発生している。
【0020】
このような異常ノイズANが発生している波形に対してシリアルバスデコード設定自動化処理を実行すると、閾値の算出処理で異常ノイズANが検出されてしまい、検出誤差が生じることがある。
【0021】
図10は、PSI5バスにおける従来のデコード設定自動化処理手順の一例を示すフローチャートである。
<ステップS101>
はじめに信号が入力されている入力チャネルを検出する。具体的には、入力信号の最大値と最小値の差が一定以上(たとえば電圧7mV以上、電流4mA以上)であることを検出条件として、この検出条件を満たせばチャネル表示をオンにし、検出条件を満たさない場合はチャネル表示をオフにする。この処理は全チャネルに対して実施する。
【0022】
<ステップS102>
ステップS101における入力チャネル検出の結果を確認する。信号入力が検出されたチャネルがない場合には、シリアルバスデコード設定自動化処理を異常終了させる。
<ステップS103>
一方、信号入力が検出されたチャネルに対しては、縦軸のスケールを算出する。具体的には、ステップS101で信号入力が検出されたチャネルごとに、入力信号の最大値と最小値の表示が可能な縦軸のスケールを算出する。
【0023】
<ステップS104>
ステップS101で信号入力が検出されたチャネルについて、縦軸のヒストグラム情報を取得する。このステップS104で取得したヒストグラム情報は、次のステップS105の閾値算出処理で参照する。
図11は、これらステップS101からステップS104までの処理手順を説明する波形例図である。
【0024】
<ステップS105>
ステップS104で取得したヒストグラム情報に基づき、入力信号の最大値と最小値の中央値を閾値とする。このステップS105の処理は、ステップS101で信号入力が検出されたチャネルに対して実施する。
【0025】
図12は、ステップS105における閾値算出処理の具体的な流れを説明するフローチャートである。はじめに、縦軸のヒストグラム情報を取得する(ステップS121)。次に、縦軸のヒストグラム情報から入力信号の最大値と最小値を取得する(ステップS122)。そして、入力信号の最大値と最小値の中央値を閾値として算出する(ステップS123)。
【0026】
<ステップS106>
ステップS105で算出された閾値を参照し、ビットレートを検出する。この処理は、データ信号入力指定チャネルに対して、ステップS101で信号入力が検出されている場合に実施する。
【0027】
図13は、
図10のステップS106におけるビットレート検出処理の流れを説明するフローチャートである。PSI5プロトコルに基づくビットレート検出は、125kbpsと189kbpsの2種類のみに対応する。これは、PSI5 V2.1の仕様書において、ビットレートが125kbpsと189kbpsの2種類以外は定義されていないことに基づく。
【0028】
<ステップS131>
図13のステップS131では、横軸のスケール値を500μs/divに設定して入力信号のデータアクイジションを実行する。このスケール値は、PSI5プロトコルのビットレート、同期パルス1周期ごとのスロット数を考慮したものであり、アクイジション毎にデータフレームが20フレーム以上認識できる横軸のスケールである。
【0029】
<ステップS132>
データ信号波形に対して、
図10のステップS105で算出された閾値を境界値として用い、データ信号の立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジ検出処理を行う。
【0030】
<ステップS133>
ステップS132で検出された立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジに基づいて、エッジ間隔の長い上位3パルスの位置情報を抽出する。ここで上位3パルスとしているのは、抽出した3パルス間には必ず1つ以上のデータフレームが存在している状態にするためである。
【0031】
<ステップS134>
抽出した上位3パルスの中央に位置するパルスの位置情報を参照する。これは
図14に示すPSI5データ信号波形サンプルのように、中央に位置するパルスの後にはデータフレームが存在していると仮定していることに基づく。
【0032】
<ステップS135>
中央に位置するパルスの位置情報から入力データ信号の周期T
BITを算出する。中央に位置するパルスの終了位置は、
図8のデータフレーム例にあるS1ビット内の立ち上がりエッジ位置に該当する。このS1ビット内の立ち上がりエッジ位置からS2ビット内の立ち上がりエッジ位置までの区間を入力データ信号の周期T
BITとする。
【0033】
<ステップS136>
入力データ信号の周期T
BITが125kbpsと189kbpsのどちらかの周期T
BITに該当するかを確認する。
【0034】
<ステップS137>
入力信号の周期T
BITが125kbpsと189kbpsのどちらかの周期T
BITに該当した場合は、ビットレート値を保持して正常終了する。
【0035】
<ステップS138>
図15に示すようなPSI5データ信号波形が入力されている場合は、中央に位置するパルスの後にデータフレームが存在せず、同期パルスを起因としたノイズがあるため、ステップS136において該当ビットレートを検出できない。このような場合には、中央に位置するパルスから遡ってT
GAPを満たす最初のパルスを検索して位置情報を抽出する。
ここで、T
GAPとT
BITの大小関係は、PSI5 V2.1の仕様書の記載に基づき、T
GAP>T
BITとする。
【0036】
<ステップS139>
抽出した位置情報から入力データ信号の周期T
BITを新たに算出する。この周期T
BITの算出方法は前述のステップS135と同様である。
【0037】
<ステップS1310>
ステップS139で新たに算出した入力データ信号の周期T
BITが、125kbpsと189kbpsのいずれの周期T
BITに該当するかを確認する。いずれかの周期T
BITに該当した場合はステップS1310の処理を実行してビットレート検出処理を正常終了し、該当しない場合はビットレート検出エラーとして異常終了する。
【0038】
図10に戻る。
<ステップS107>
ステップS106におけるビットレート検出の結果を確認する。ビットレート未検出の場合には、シリアルバスデコード設定自動化処理を異常終了する。
【0039】
<ステップS108>
次に横軸のスケール値を算出する。同期信号をデコード表示に含める場合は、同期パルスのデコード表示数が10以下となる横軸のスケール値を算出する。具体的には、横軸のスケールを1ms/divに設定してデータアクイジションを実行した後、同期信号波形に対する立ち上がりエッジ検出処理でエッジ検出数を確認し、エッジ検出数が10以下になるまで横軸のスケールを降順に変更して繰り返す。
【0040】
同期信号をデコード表示に含めない場合は、データフレームのデコード表示数が30以下となる横軸のスケールを算出する。具体的には、横軸のスケールを1ms/divに設定してデータアクイジションを実行した後、データ信号に対するT
GAPを超過するLowレベルのパルス幅検出処理でパルス検出数を確認し、パルス検出数が30以下になるまで横軸のスケールを降順に変更して繰り返す。
【0041】
<ステップS109>
次に特有情報を検出する。PSI5プロトコルでは、
図8に示したように、データビット数が10ビット/16ビット、エラー検出がParity/CRCとなるデータフレーム仕様になっている。入力データ信号からこれらを検出するため、前述の信号入力チャネル、縦軸のスケール値、閾値、ビットレート、横軸のスケール値などのすべてのデータを参照し、以下に示す組み合わせの順序でデータ信号のデコード処理を行う。
【0042】
組み合わせ順序1=データビット数:16ビット、エラー検出:CRC
組み合わせ順序2=データビット数:10ビット、エラー検出:CRC
組み合わせ順序3=データビット数:10ビット、エラー検出:Parity
【0043】
デコード処理の結果、正常データフレームが1フレーム確認できればデータビット数とエラー検出の算出処理は終了する。たとえば、組み合わせ順序1で正常データフレームが確認できた場合、組み合わせ順序2、3でのデコード処理は実施しない。また、すべての組み合わせで正常データフレームが確認できなかった場合、特有情報は未検出となる。
【0044】
<ステップS1010>
ステップS109の特有情報検出結果を確認する。特有情報が未検出の場合、シリアルバスデコード設定自動化処理を異常終了させる。
【0045】
<ステップS1011>
ステップS101〜S1010において検出または算出した信号入力チャネル、縦軸のスケール値、閾値、ビットレート、横軸のスケール値、PSI5プロトコルの特有情報であるデータビット数、エラー検出のすべてのデータを図示しない波形測定器に設定して、シリアルバスデコード設定自動化処理を正常終了させる。
【0046】
図14は、PSI5プロトコルに基づくデータ信号波形サンプル例図である。
図14において、TLは閾値レベルを表している。ISはアイドル区間を示し、DFはデータフレームを示し、NIFは同期パルスを起因としたノイズの影響による非アイドル区間を示している。
【0047】
PW1〜PW3は抽出したエッジ間隔の長い上位3パルスのそれぞれのパルス幅を示している。PW1は3つのパルスの中で最大パルス幅を有する1番目のパルス幅を示し、PW2は3つのパルスの中で中央に位置する2番目のパルス幅を示し、PW3は3つのパルスの中で最小パルス幅を有する3番目のパルス幅を示している。
【0048】
図14のデータ信号波形サンプル例図では、中央に位置する2番目のパルス幅PW2の後にデータフレームDFが存在しているので、この中央に位置する2番目のパルス幅PW2の後のデータフレームDFから入力データ信号の周期T
BITを算出できる。
【0049】
図15はPSI5プロトコルに基づく他のデータ信号波形サンプル例図であり、
図14と共通する部分には同一の符号を付けている。
図15のデータ信号波形サンプル例図では中央に位置する2番目のパルス幅PW2の後にデータフレームDFは存在せず、同期パルスに起因したノイズが存在しているので、ビットレートを検出できない。
【0050】
そこで、
図15の場合には、前述のように中央に位置するパルスから遡ってT
GAPを満たす最初のパルスを検索して位置情報を抽出し、入力データ信号の周期T
BITを算出する。
【0051】
特許文献1には、シリアルバスを解析する際に必要な初期設定を自動化することで、ユーザの利便性を高めた波形測定装置が記載されている。