(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セルロース系原料に対し、塩基存在下、芳香環含有酸化アルキレン化合物及び芳香環含有グリシジルエーテル化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を、エーテル結合を介して導入後、微細化処理を行う、改質セルロース繊維の製造方法であって、
前記改質セルロース繊維が、下記一般式(1)で表される置換基及び下記一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基がエーテル結合を介してセルロース繊維に結合し、セルロースI型結晶構造を有するものである、改質セルロース繊維の製造方法。
−CH2−CH(OH)−R1 (1)
−CH2−CH(OH)−CH2−(OA)n−O−R1 (2)
〔式中、一般式(1)及び一般式(2)におけるR1はそれぞれ独立して少なくとも1個の芳香環を有する炭素数6以上30以下の官能基を示し、一般式(2)におけるnは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
平均繊維径が5μm以上である改質セルロース繊維であって、下記一般式(1)で表される置換基及び下記一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基がエーテル結合を介してセルロース繊維に結合し、セルロースI型結晶構造を有する、改質セルロース繊維。
−CH2−CH(OH)−R1 (1)
−CH2−CH(OH)−CH2−(OA)n−O−R1 (2)
〔式中、一般式(1)及び一般式(2)におけるR1はそれぞれ独立して少なくとも1個の芳香環を有する炭素数6以上30以下の官能基を示し、一般式(2)におけるnは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
下記一般式(1)で表される置換基及び下記一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基、並びに下記一般式(3)で表される置換基及び下記一般式(4)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基がエーテル結合を介してセルロース繊維に結合し、セルロースI型結晶構造を有する、改質セルロース繊維。
−CH2−CH(OH)−R1 (1)
−CH2−CH(OH)−CH2−(OA)n−O−R1 (2)
〔式中、一般式(1)及び一般式(2)におけるR1はそれぞれ独立して少なくとも1個の芳香環を有する炭素数6以上30以下の官能基を示し、一般式(2)におけるnは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
−CH2−CH(OH)−R2 (3)
−CH2−CH(OH)−CH2−(OA)n−O−R2 (4)
〔式中、一般式(3)及び一般式(4)におけるR2はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上20以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、一般式(4)におけるnは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の製造方法によって製造された改質セルロース繊維を使用した成形体は、驚くべきことに、優れた機械強度や靱性を発揮する。このような作用効果を示唆する従来技術は存在しないため、かかる作用効果の発現は当業者であっても予想することさえ困難である。
【0013】
[改質セルロース繊維の製造方法]
本発明の製造方法としては、具体的には次の二つの態様が挙げられる。第一の態様は、セルロース系原料に対し、塩基存在下、芳香環含有酸化アルキレン化合物及び芳香環含有グリシジルエーテル化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を、エーテル結合を介して導入後、微細化処理を行う、改質セルロース繊維の製造方法である。そして第二の態様は、セルロース系原料に対し、塩基存在下、芳香環含有酸化アルキレン化合物及び芳香環含有グリシジルエーテル化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、一般式(3A)で示される酸化アルキレン化合物及び一般式(4A)で示されるグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物とを、エーテル結合を介して導入する、改質セルロース繊維の製造方法である。なお、本明細書において、「エーテル結合を介して結合」とは、セルロース繊維表面の水酸基に修飾基が反応して、エーテル結合した状態を意味する。更に本明細書において、所定の置換基をエーテル結合を介してセルロース系原料に導入するための化合物をエーテル化剤という。
【0014】
[第一の態様の改質セルロース繊維の製造方法]
第一の態様の方法により製造される改質セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される置換基及び下記一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基がエーテル結合を介してセルロース繊維に結合し、セルロースI型結晶構造を有する。
−CH
2−CH(OH)−R
1 (1)
−CH
2−CH(OH)−CH
2−(OA)
n−O−R
1 (2)
〔式中、一般式(1)及び一般式(2)におけるR
1はそれぞれ独立して少なくとも1個の芳香環を有する炭素数6以上30以下の官能基を示し、一般式(2)におけるnは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
【0015】
(セルロース系原料)
本発明で用いられるセルロース系原料は、特に制限はなく、木本系(針葉樹・広葉樹)、草本系(イネ科、アオイ科、マメ科の植物原料、ヤシ科の植物の非木質原料)、パルプ類(綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等)、紙類(新聞紙、段ボール、雑誌、上質紙等)等が挙げられる。なかでも、入手性及びコストの観点から、木本系、草本系が好ましい。
【0016】
セルロース系原料の形状は、特に制限はないが、取扱い性の観点から、繊維状、粉末状、球状、チップ状、フレーク状が好ましい。また、これらの混合物であってもよい。
【0017】
また、セルロース系原料は、取扱い性等の観点から、生化学的処理、化学処理、及び機械処理から選ばれる少なくとも1つの前処理を予め行なうことができる。生化学的処理としては、使用する薬剤には特に制限がなく、例えばエンドグルカナーゼやエキソグルカナーゼ、ベータグルコシダーゼといった酵素を使用する処理が挙げられる。化学処理としては、使用する薬剤には特に制限がなく、例えば塩酸や硫酸などによる酸処理、過酸化水素やオゾンなどによる酸化処理が挙げられる。機械処理としては、使用する機械や処理条件には特に制限がなく、例えば、高圧圧縮ロールミルや、ロール回転ミル等のロールミル、リングローラーミル、ローラーレースミル又はボールレースミル等の竪型ローラーミル、転動ボールミル、振動ボールミル、振動ロッドミル、振動チューブミル、遊星ボールミル又は遠心流動化ミル等の容器駆動媒体ミル、塔式粉砕機、攪拌槽式ミル、流通槽式ミル又はアニュラー式ミル等の媒体攪拌式ミル、高速遠心ローラーミルやオングミル等の圧密せん断ミル、乳鉢、石臼、マスコロイダー、フレットミル、エッジランナーミル等の磨砕機、ナイフミル、ピンミル、カッターミル等が挙げられる。
【0018】
また、上記機械処理の際に水やエタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、トルエン、キシレン等の溶媒、フタル酸系やアジピン酸系、トリメリット酸系などの可塑剤、尿素やアルカリ(土類)金属水酸化物、アミン系化合物などの水素結合阻害剤、等の助剤を添加することで機械処理による形状変化の促進を行うこともできる。このように形状変化を加えることで、セルロース系原料の取扱い性が向上し、置換基の導入が良好となって、ひいては得られる改質セルロース繊維の物性も向上させることが可能となる。添加助剤の使用量は、用いる添加助剤や使用する機械処理の手法等によって変わるが、形状変化を促進する効果を発現する観点から、原料100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、また、形状変化を促進する効果を発現する観点及び経済性の観点から、好ましくは10000質量部以下、より好ましくは5000質量部以下、更に好ましくは3000質量部以下である。
【0019】
セルロース系原料の平均繊維径は、特に制限はないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上、更に好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上である。また、上限は特に設定されないが、取扱い性の観点から、好ましくは10,000μm以下、より好ましくは5,000μm以下、更に好ましくは1,000μm以下、更に好ましくは500μm以下、より更に好ましくは100μm以下である。
【0020】
セルロース系原料の平均繊維径は、例えば、絶乾したセルロース繊維をイオン交換水中で家庭用ミキサー等を用いて攪拌して繊維を解した後、更にイオン交換水を加え均一になるよう攪拌して得られた水分散液の一部を、メッツォオートメーション社製の「Kajaani Fiber Lab」にて分析する方法が挙げられる。かかる方法により、平均繊維径がマイクロオーダーの繊維径を測定することができる。なお、詳細な測定方法は実施例に記載の通りである。
【0021】
セルロース系原料の組成は、特に限定されないが、セルロース系原料中のセルロース含有量が、セルロースファイバーを得る観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、入手性の観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下であるものが好ましい。ここで、セルロース系原料中のセルロース含有量とは、セルロース系原料中の水分を除いた残余の成分中のセルロース含有量のことである。
【0022】
また、セルロース系原料中の水分含有量は、取扱い性の観点から、少ないほど好ましい。例えば、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更に好ましくは絶乾処理したもの、即ち10質量%以下である。
【0023】
(塩基)
前記置換基の導入は塩基の存在下で行われる。ここで用いられる塩基としては、特に制限はないが、エーテル化反応を進行させる観点から、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、1〜3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0024】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0025】
1〜3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン、トリス(3−ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0026】
4級アンモニウム塩としては、水酸化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、フッ化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0027】
イミダゾール及びその誘導体としては、1−メチルイミダゾール、3−アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0028】
ピリジン及びその誘導体としては、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
【0029】
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド等が挙げられる。
【0030】
塩基の量は、セルロース系原料の無水グルコースユニットに対して、エーテル化反応を進行させる観点から、好ましくは0.01等量以上、より好ましくは0.05等量以上、更に好ましくは0.1等量以上、更に好ましくは0.2等量以上であり、製造コストの観点から、好ましくは10等量以下、より好ましくは8等量以下、更に好ましくは5等量以下、更に好ましくは3等量以下である。なお、無水グルコースユニットを「AGU」と略記する。AGUはセルロース系原料がすべて無水グルコースユニットで構成されていると仮定して算出される。
【0031】
セルロース系原料と塩基の混合は溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、特に制限はなく、例えば、水、イソプロパノール、t−ブタノール、ジメチルホルムアミド、トルエン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサン、1,4−ジオキサン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
セルロース系原料と塩基の混合は、均一に混合できるのであれば、温度や時間は特に制限はない。
【0033】
(芳香環含有酸化アルキレン化合物及び芳香環含有グリシジルエーテル化合物)
次に、前記で得られたセルロース系原料と塩基の混合物に、芳香環含有酸化アルキレン化合物及び芳香環含有グリシジルエーテル化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を添加して、前記置換基をセルロース繊維に結合させる。
【0034】
芳香環含有酸化アルキレン化合物は、一般式(1)で表される置換基をセルロース繊維に結合させるために使用される。芳香環含有酸化アルキレン化合物としては、例えば、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、又は炭素数6〜20のヘテロ芳香環を有する酸化アルキレン化合物等が挙げられる。具体的には、スチレンオキシド及びその誘導体等が挙げられる。これらの中で、入手性および反応性の観点からスチレンオキシドが好ましい。
【0035】
芳香環含有グリシジルエーテル化合物は、一般式(2)で表される置換基をセルロース繊維に結合させるために使用される。芳香環含有グリシジルエーテル化合物としては、例えば、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、又は炭素数6〜20のヘテロ芳香環を有するグリシジルエーテル化合物等が挙げられる。具体的には、フェニルグリシジルエーテル、トリチルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルおよびこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中で、入手性および反応性の観点からフェニルグリシジルエーテルおよびトリチルグリシジルエーテルが好ましく、フェニルグリシジルエーテルが更に好ましい。
【0036】
芳香環含有酸化アルキレン化合物及び芳香環含有グリシジルエーテル化合物の量は、得られる改質セルロース繊維における置換基の所望の導入率により決めることができる。例えば、得られる成形体の機械的強度の観点から、セルロース系原料の無水グルコースユニットの1ユニットに対して、かかる化合物の量は、好ましくは10.0等量以下、より好ましくは8.0等量以下、更に好ましくは7.0等量以下、更に好ましくは6.0等量以下、好ましくは0.02等量以上、より好ましくは0.05等量以上、更に好ましくは0.1等量以上、更に好ましくは0.3等量以上、更に好ましくは1.0等量以上である。ここで、芳香環含有酸化アルキレン化合物及び芳香環含有グリシジルエーテル化合物の両者を使用する場合、化合物の量は両者の合計量である。
【0037】
(エーテル反応)
前記化合物とセルロース系原料とのエーテル反応は、溶媒の存在下で、両者を混合することにより行うことができる。溶媒としては、特に制限はなく、塩基を存在させる際に使用することができると例示した前記溶媒を用いることができる。
【0038】
溶媒の使用量としては、セルロース系原料や置換基を導入するための化合物の種類によって一概には決定されないが、セルロース系原料100質量部に対して、反応性の観点から、好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは75質量部以上、更に好ましくは100質量部以上、更に好ましくは200質量部以上であり、生産性の観点から、好ましくは10,000質量部以下、より好ましくは7,500質量部以下、更に好ましくは5,000質量部以下、更に好ましくは2,500質量部以下、更に好ましくは1,000質量部以下である。
【0039】
混合条件としては、セルロース系原料や置換基を導入するための化合物が均一に混合され、十分に反応が進行できるのであれば特に制限はなく、連続的な混合処理は行っても行わなくてもよい。1Lを超えるような比較的大きな反応容器を用いる場合には、反応温度を制御する観点から、適宜攪拌を行ってもよい。
【0040】
反応温度としては、セルロース系原料や置換基を導入するための化合物の種類及び目標とする導入率によって一概には決定されないが、反応性を向上させる観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは40℃以上であり、熱分解を抑制する観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、更に好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0041】
反応時間としては、セルロース系原料や置換基を導入するための化合物の種類及び目標とする導入率によって一概には決定されないが、反応性の観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1時間以上、更に好ましくは3時間以上、更に好ましくは6時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは60時間以下、より好ましくは48時間以下、更に好ましくは36時間以下である。
【0042】
反応後は、未反応の化合物や塩基等を除去するために、適宜後処理を行うことができる。該後処理の方法としては、例えば、未反応の塩基を酸(有機酸、無機酸など)で中和し、その後、未反応の化合物や塩基が溶解する溶媒を用いて洗浄することができる。所望により、更に乾燥(真空乾燥など)を行ってもよい。
【0043】
かくして、一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基が導入された、微細化処理前の改質セルロース繊維が得られる。
【0044】
[微細化処理前の改質セルロース繊維]
第一の態様の方法における微細化処理前の改質セルロース繊維は、一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基がエーテル結合を介してセルロース繊維に結合し、セルロースI型結晶構造を有するものであり、具体的な構造は、例えば、一般式(5)で示すことができる。
【0046】
〔式中、Rは同一又は異なって、水素及び一般式(1)〜(2)で表される置換基から選ばれる置換基を示し、mは好ましくは20以上3000以下の整数を示し、但し、全てのRが、同時に水素である場合を除く。〕
【0047】
一般式(5)におけるmは好ましくは20以上3000以下の整数であり、機械的強度および靱性発現の観点からより好ましくは100以上2000以下の整数である。
【0048】
一般式(5)における一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基は下記の通りである。なお、改質セルロース繊維における一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基がいずれか一方の場合であっても、各置換基においては同一の置換基であっても2種以上が組み合わさって導入されてもよい。
−CH
2−CH(OH)−R
1 (1)
−CH
2−CH(OH)−CH
2−(OA)
n−O−R
1 (2)
〔式中、一般式(1)及び一般式(2)におけるR
1はそれぞれ独立して少なくとも1個の芳香環を有する炭素数6以上30以下の官能基を示し、一般式(2)におけるnは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
【0049】
一般式(1)及び一般式(2)におけるR
1は、少なくとも1個の芳香環を有する炭素数6以上30以下の官能基である。R
1の炭素数は、機械強度や靱性発現の観点から好ましくは6以上であり、反応性および入手性の観点からの観点から好ましくは25以下、より好ましくは20以下である。R
1の具体例としては、フェニル基、トリチル基、ナフチル基、トリル基やキシリル基などのアリール基、又はベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基等が挙げられる。
【0050】
一般式(2)におけるnは、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。nは0以上50以下の数であるが、入手性及びコストの観点から、好ましくは0であり、同様の観点から、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは15以下である。
【0051】
一般式(2)におけるAは、炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基であり、隣接する酸素原子とオキシアルキレン基を形成する。Aの炭素数は1以上6以下であるが、入手性及びコストの観点から、好ましくは2以上であり、同様の観点から、好ましくは4以下、より好ましくは3以下である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が例示され、なかでも、エチレン基、プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0052】
一般式(2)におけるAとnの組み合わせとしては、入手性及びコストの観点から、好ましくはAが炭素数2以上3以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基で、nが0以上20以下の数の組み合わせであり、より好ましくはAが炭素数2以上3以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基で、nが0以上15以下の数の組み合わせである。
【0053】
(平均繊維径)
第一の態様の方法における微細化処理前の改質セルロース繊維の平均繊維径は、置換基の種類に関係なく、好ましくは5μm以上である。取扱い性、入手性、及びコストの観点から、より好ましくは7μm以上、更に好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上である。また、上限は特に設定されないが、取扱い性の観点から、好ましくは10,000μm以下、より好ましくは5,000μm以下、更に好ましくは1,000μm以下、更に好ましくは500μm以下、より更に好ましくは100μm以下である。なお、改質セルロース繊維の平均繊維径は、前記したセルロース系原料と同様にして測定することができる。詳細は、実施例に記載の通りである。
【0054】
(結晶化度)
改質セルロース繊維の結晶化度は、強度発現の観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下、更に好ましくは75%以下である。なお、本明細書において、セルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0055】
(導入率)
第一の態様の方法における微細化処理前の改質セルロース繊維において、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対する一般式(1)で表される置換基及び/又は一般式(2)で表される置換基の導入率(MS)は、機械的強度および靱性発現の観点から、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.005モル以上、更に好ましくは0.03モル以上である。また、セルロースI型結晶構造を有し、機械的強度および靱性発現の観点から、好ましくは1.5モル以下、より好ましくは1.3モル以下、更に好ましくは1.0モル以下、更に好ましくは0.8モル以下、更に好ましくは0.6モル以下、更に好ましくは0.5モル以下である。ここで、一般式(1)で表される置換基と一般式(2)で表される置換基のいずれもが導入されている場合は合計した導入モル率のことである。なお、本明細書において、導入率は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができ、また、導入モル比又は修飾率と記載することもある。
【0056】
(微細化処理)
第一の態様の改質セルロース繊維の製造方法では、前記微細化処理前の改質セルロース繊維を微細化処理する工程を包含する。微細化処理は公知の微細化処理方法により実施することができる。例えば、平均繊維径が1nm以上500nm以下の微細改質セルロース繊維を得る場合は、マスコロイダー等の磨砕機を用いた処理や有機溶媒中で高圧ホモジナイザー等を用いた処理を行うことで微細化することができる。あるいは、後述のように、樹脂と改質セルロース繊維を混合と同時に微細化することもできる。また、本発明における改質セルロース繊維は、前記反応後に、例えば、前述のような、セルロース系原料に対して行う前処理と同様の処理を反応物に対して行なって、チップ状やフレーク状、粉末状にしてもよい。かかる処理によって形状変化がもたらされることで、得られる本発明の改質セルロース繊維を有機溶媒や樹脂組成物中で微細化させる場合に、微細化処理の効率を向上させることができる。なお、本明細書において、微細化処理前の改質セルロース繊維と区別する観点から、微細化処理後の改質セルロース繊維を「微細改質セルロース繊維」と称する場合がある。
【0057】
平均繊維径が1nm以上500nm以下の微細改質セルロース繊維を得る際の微細化処理に用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3〜6のケトン;直鎖又は分岐状の炭素数1〜6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2〜5の低級アルキルエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、微細化処理の操作性の観点から、炭素数1〜6のアルコール、炭素数3〜6のケトン、炭素数2〜5の低級アルキルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、コハク酸メチルトリグリコールジエステル、トルエン等が好ましい。溶媒の使用量は、改質セルロース繊維を分散できる有効量であればよく、特に制限はないが、改質セルロース繊維に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは2質量倍以上、好ましくは500質量倍以下、より好ましくは200質量倍以下使用することがより好ましい。
【0058】
また、微細化処理で使用する装置としては、高圧ホモジナイザー以外にも、公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、グラインダー、マスコロイダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における改質セルロース繊維の固形分濃度は50質量%以下が好ましい。
【0059】
微細化した改質セルロース繊維の平均繊維径は、例えば、1〜500nm程度であればよく、取扱い性、入手性及びコストの観点から、好ましくは3nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは20nm以上であり、機械強度や靱性発現の観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下である。
【0060】
かくして、第一の態様の方法により製造される微細改質セルロース繊維が得られる。
【0061】
[第一の態様における微細改質セルロース繊維]
第一の態様の方法における微細改質セルロース繊維は、前述の微細化処理前の改質セルロース繊維と同じく、一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基がエーテル結合を介してセルロース繊維に結合し、セルロースI型結晶構造を有するものであり、具体的な構造は、例えば、上記一般式(5)で示すことができる。
【0062】
(平均繊維径)
第一の態様における微細改質セルロース繊維の平均繊維径としては、置換基の種類に関係なく、好ましくはナノオーダーである。
【0063】
微細改質セルロース繊維の平均繊維径は、取扱い性、入手性、及びコストの観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは10nm以上、更に好ましくは20nm以上であり、取扱い性、機械的強度および靱性発現の観点から、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下である。なお、本明細書において、微細改質セルロース繊維の平均繊維径は、以下の方法に従って測定することができる。
【0064】
具体的には、微細化処理を行った際に得られた分散液を、マイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて測定することができる。一般に、高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6×6の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析される高さを繊維の幅と見なすことができる。なお、詳細な測定方法は実施例に記載の通りである。
【0065】
なお、微細化処理によって、改質セルロース繊維の結晶化度や置換基の導入率等はほとんど影響を受けないため、これらの性質については微細化処理前の改質セルロース繊維と同じである。
【0066】
[第二の態様の改質セルロース繊維の製造方法]
本態様の方法により製造される改質セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される置換基及び下記一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基、並びに下記一般式(3)で表される置換基及び下記一般式(4)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基がエーテル結合を介してセルロース繊維に結合し、セルロースI型結晶構造を有する。
−CH
2−CH(OH)−R
1 (1)
−CH
2−CH(OH)−CH
2−(OA)
n−O−R
1 (2)
〔式中、一般式(1)及び一般式(2)におけるR
1はそれぞれ独立して少なくとも1個の芳香環を有する炭素数6以上30以下の官能基を示し、一般式(2)におけるnは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
−CH
2−CH(OH)−R
2 (3)
−CH
2−CH(OH)−CH
2−(OA)
n−O−R
2 (4)
〔式中、一般式(3)及び一般式(4)におけるR
2はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上20以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、一般式(4)におけるnは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
【0067】
一般式(1)及び一般式(2)におけるR
1は、第一の態様と同じである。
【0068】
更に、一般式(3)及び一般式(4)におけるR
2は、水素又は炭素数1以上20以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。アルキル基の炭素数は、機械強度や靱性発現の観点から好ましくは3以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは10以上であり、反応性および入手性の観点から好ましくは25以下、より好ましくは20以下である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イソステアリル基、イコシル基等が例示される。
【0069】
一般式(4)におけるnは、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。nは0以上50以下の数であるが、入手性及びコストの観点から、好ましくは0であり、同様の観点及び得られる樹脂組成物の機械的強度および靱性発現の観点から、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは15以下、更に好ましくは10以下、更に好ましくは5以下である。
【0070】
一般式(4)におけるAは、炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基であり、隣接する酸素原子とオキシアルキレン基を形成する。Aの炭素数は1以上6以下であるが、入手性及びコストの観点から、好ましくは2以上であり、同様の観点から、好ましくは4以下、より好ましくは3以下である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が例示され、なかでも、エチレン基、プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0071】
一般式(4)におけるAとnの組み合わせとしては、入手性およびコストの観点から、好ましくはAが炭素数2以上3以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基で、nが0以上20以下の数の組み合わせであり、より好ましくはAが炭素数2以上3以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基で、nが0以上15以下の数の組み合わせである。
【0072】
上記置換基の導入は、特に限定なく公知の方法に従って行うことができる。具体的には、セルロース系原料に対し、塩基存在下、芳香環含有酸化アルキレン化合物及び芳香環含有グリシジルエーテル化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物(「(b)化合物」とする。)と、下記一般式(3A)で示される酸化アルキレン化合物及び下記一般式(4A)で示されるグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物(「(a)化合物」とする。)とを、同時に又は別々に、エーテル結合を介して導入する方法が挙げられる。ここで、これら化合物の導入が「同時に又は別々」であるとは、本態様においては、化合物の導入順序は特に限定されないことを意味し、例えば、(a)化合物と(b)化合物の導入を同時に行ってもよく、あるいは、(a)化合物を先に導入後、(b)化合物を導入してもよく、(b)化合物を先に導入後、(a)化合物を導入してもよいことを意味する。本態様においては、得られる樹脂組成物の機械的強度および靱性発現の観点から、(b)化合物を先に導入後、(a)化合物を導入する方法が好ましい。以下、かかる方法を例に挙げて詳細を説明する。
【0073】
(b)化合物が先に導入された改質セルロース繊維としては、上記の第一の態様で製造されたものを、微細化処理の有無に関わらず使用することができる。
【0074】
一般式(3)で表される置換基を導入するための化合物としては、例えば、一般式(3A)で示される酸化アルキレン化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。該化合物の総炭素数としては、得られる樹脂組成物の機械的強度および靱性発現の観点から、2以上であり、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、同様の観点から、22以下であり、好ましくは18以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。
【0076】
〔式中、R
2は水素又は炭素数1以上20以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。〕
【0077】
一般式(3A)におけるR
2のアルキル基の炭素数や具体例は、一般式(3)におけるR
2と同じである。
【0078】
一般式(3A)で示される化合物の具体例としては、酸化プロピレン、酸化ブチレン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシオクタデカン等が挙げられる。
【0079】
一般式(4)で表される置換基を導入するための化合物としては、例えば、一般式(4A)で示されるグリシジルエーテル化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。該化合物の総炭素数としては、得られる樹脂組成物の機械的強度および靱性発現の観点から、4以上であり、好ましくは5以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは10以上であり、得られる樹脂組成物の機械的強度および靱性発現の観点から、100以下であり、好ましくは75以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは25以下である。
【0081】
〔式中、R
2は水素又は炭素数1以上20以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、nは0以上50以下の数、Aは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示す。〕
【0082】
一般式(4A)におけるR
2のアルキル基の炭素数や具体例は、一般式(4)におけるR
2と同じである。
【0083】
一般式(4A)におけるnは、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。nの具体的な数は、一般式(4)におけるnと同じである。
【0084】
一般式(4A)におけるAの炭素数や具体例は、一般式(4)におけるAと同じである。
【0085】
一般式(4A)で示される化合物の具体例としては、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、(イソ)ステアリルグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル付加グリシジルエーテルが挙げられる。
【0086】
一般式(3A)で示される化合物や一般式(4A)で示される化合物の量は、得られる改質セルロース繊維における前記一般式(3)で表される置換基及び/又は一般式(4)で表される置換基の所望の導入率により決めることができるが、反応性の観点から、セルロース系原料の無水グルコースユニットに対して、好ましくは0.01等量以上、より好ましくは0.1等量以上、更に好ましくは0.3等量以上、更に好ましくは0.5等量以上、より更に好ましくは1.0等量以上であり、製造コストの観点から、好ましくは10等量以下、より好ましくは8等量以下、更に好ましくは6.5等量以下、更に好ましくは5等量以下である。
【0087】
(エーテル反応)
一般式(3A)で示される化合物や一般式(4A)で示される化合物と、第一の態様で得られた改質セルロース繊維とのエーテル反応は、第一の態様と同様にして、溶媒の存在下で両者を混合することにより行うことができる。用いる溶媒の種類、使用量や混合条件、反応温度等の各種条件は、第一の態様を参照することができる。
【0088】
反応後は、未反応の化合物や塩基等を除去するために、適宜後処理を行うことができる。該後処理の方法としては、例えば、未反応の塩基を酸(有機酸、無機酸など)で中和し、その後、未反応の化合物や塩基が溶解する溶媒を用いて洗浄することができる。所望により、更に乾燥(真空乾燥など)を行ってもよい。
【0089】
かくして、一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基、並びに一般式(3)で表される置換基及び一般式(4)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基が導入された改質セルロース繊維が得られる。
【0090】
[改質セルロース繊維]
第二の態様の方法における改質セルロース繊維は、一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基、並びに一般式(3)で表される置換基及び一般式(4)で表される置換基から選ばれる1種又は2種以上の置換基が、エーテル結合を介してセルロース繊維に結合し、セルロースI型結晶構造を有するものであり、具体的な構造は、例えば、一般式(6)で示すことができる。
【0092】
〔式中、Rは同一又は異なって、水素、一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基から選ばれる置換基、又は一般式(3)で表される置換基及び一般式(4)で表される置換基から選ばれる置換基を示し、mは好ましくは20以上3000以下の整数を示し、但し、全てのRが、同時に水素である場合、同時に一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基から選ばれる置換基である場合、並びに同時に一般式(3)で表される置換基及び一般式(4)で表される置換基から選ばれる置換基である場合を除く。〕
【0093】
一般式(6)におけるmは好ましくは20以上3000以下の整数であり、入手性およびコストの観点からより好ましくは100以上2000以下の整数である。
【0094】
第二の態様において、セルロース繊維の平均繊維径、結晶化度、一般式(1)で表される置換基及び一般式(2)で表される置換基から選ばれる置換基の導入率の好適な範囲は、前記第一の態様と同様であり、同様の測定方法により求めることができる。
【0095】
(導入率)
また、本態様における改質セルロース繊維の無水グルコースユニット1モルに対する、一般式(3)で表される置換基及び一般式(4)で表される置換基から選ばれる置換基の導入率は、セルロースI型結晶構造を有し、機械的強度および靱性発現の観点から、好ましくは1.5モル以下、より好ましくは1.0モル以下、更に好ましくは0.8モル以下であり、好ましくは0.01モル以上、より好ましくは0.02モル以上、更に好ましくは0.04モル以上である。ここで、一般式(3)で表される置換基と一般式(4)で表される置換基のいずれもが導入されている場合は合計した導入モル率のことである。
【0096】
(微細化処理)
第二の態様の製造方法では、前記のようにして置換基が導入された改質セルロース繊維を微細化処理する工程を包含してもよい。微細化処理は、前述の第一の態様の製造方法で説明した処理方法を採用することができる。
【0097】
かくして、本態様の方法により製造される微細改質セルロース繊維が得られる。
【0098】
本態様における微細改質セルロース繊維の平均繊維径としては、置換基の種類に関係なく、好ましくはナノオーダーである。
【0099】
微細改質セルロース繊維は、取扱い性、入手性、及びコストの観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは10nm以上、更に好ましくは20nm以上であり、機械的強度および靱性発現の観点から、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下である。
【0100】
[樹脂組成物]
本発明の方法によって製造された改質セルロース繊維は、微細化処理が行われたか否かに関わらず、低極性媒体との親和性に優れることから、公知の樹脂と混合して樹脂組成物とすることができる。従って、本発明はまた、熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂とかかる改質セルロース繊維とを含有してなる、樹脂組成物を提供する。得られる樹脂組成物は、混合する樹脂の特性に応じて加工することができる。
【0101】
以下、樹脂組成物における樹脂の種類を大きく二つに分けて、それぞれ態様A及び態様Bとして説明する。
【0102】
(態様A)
態様Aの樹脂組成物における樹脂としては、熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂を用いることができる。
【0103】
熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸樹脂等の飽和ポリエステル系樹脂;ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ABS樹脂等のオレフィン系樹脂;トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂;ナイロン樹脂;塩化ビニル樹脂;スチレン樹脂;ビニルエーテル樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスルホン系樹脂等が挙げられる。硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂が好ましい。具体的には、エポキシ樹脂;(メタ)アクリル樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ポリウレタン樹脂;若しくはポリイミド樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いても良い。なお、本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂とは、メタクリル系樹脂及びアクリル系樹脂を含むものを意味する。
【0104】
樹脂の種類によっては、光硬化及び/又は熱硬化処理を行なうことができる。
【0105】
光硬化処理は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線照射により、ラジカルやカチオンを発生する光重合開始剤を用いることで重合反応が進行する。
【0106】
前記光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物、2,3−ジアルキルシオン類化合物類、ジスルフィド化合物、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物等が挙げられる。より具体的には、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ベンジルメチルケトン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0107】
光重合開始剤で、例えば、単量体(単官能単量体、多官能単量体)、反応性不飽和基を有するオリゴマー又は樹脂等を重合することができる。
【0108】
前記樹脂成分にエポキシ樹脂を用いる場合は、硬化剤を使用することが好ましい。硬化剤を配合することによって、樹脂組成物から得られる成形材料を強固に成形することができ、機械的強度を向上させることができる。尚、硬化剤の含有量は、使用する硬化剤の種類により適宜設定すればよい。
【0109】
態様Aにおける樹脂としては、熱可塑性樹脂、及びエポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、若しくはポリイミド樹脂から選ばれる硬化性樹脂、からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂を用いることが好ましい。
【0110】
態様Aの樹脂組成物における各成分の含有量は、樹脂の種類にもよるが、下記のとおりである。
【0111】
態様Aの樹脂組成物中の樹脂の含有量は、成形体を製造する観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上であり、改質セルロース繊維を含有させる観点から、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは98質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。
【0112】
態様Aの樹脂組成物中の改質セルロース繊維の含有量は、得られる樹脂組成物の機械的強度や靱性発現の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、得られる樹脂組成物の成形性及びコストの観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0113】
態様Aの樹脂組成物中の改質セルロース繊維量は、樹脂100質量部に対して、得られる樹脂組成物の機械的強度や靱性発現の観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上、より更に好ましくは5質量部以上であり、また、得られる樹脂組成物の成形性及びコストの観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは45質量部以下、更に好ましくは25質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
【0114】
態様Aの樹脂組成物は、前記以外の他の成分として、相溶化剤;可塑剤;結晶核剤;充填剤(無機充填剤、有機充填剤);加水分解抑制剤;難燃剤;酸化防止剤;炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;防曇剤;光安定剤;顔料;防カビ剤;抗菌剤;発泡剤;界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レべリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。相溶化剤としては、セルロースと親和性の高い極性基と樹脂と親和性の高い疎水性基からなる化合物が挙げられる。より具体的には極性基としては、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、グリシジルメタクリレートが例示され、疎水性基としては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン等が例示される。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の樹脂組成物を添加することも可能である。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されても良いが、例えば、樹脂組成物中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%程度以下、更に好ましくは5質量%程度以下である。
【0115】
態様Aの樹脂組成物は、前記樹脂と改質セルロース繊維を含有するものであれば特に限定なく調製することができ、例えば、前記した樹脂と改質セルロース繊維、更に必要により各種添加剤を含有する原料を、ヘンシェルミキサー等で攪拌、あるいは密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練又は溶媒キャスト法により調製することができる。
【0116】
態様Aの樹脂組成物の製造方法としては、前記樹脂と微細改質セルロース繊維を混合する工程、もしくは前記樹脂と改質セルロース繊維を混合と同時に微細化する工程を含むものであれば特に限定はない。
例えば、前述の製造方法によって得られた改質セルロース繊維と、熱可塑性樹脂、及びエポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、若しくはポリイミド樹脂から選ばれる硬化性樹脂、からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂とを混合する工程が挙げられる。
本工程では、改質セルロース繊維と前記樹脂とを混合する。例えば、前記樹脂と改質セルロース繊維、更に必要により各種添加剤を含有する原料を公知の混練機を用いて溶融混練又は溶媒キャスト法により調製することができる。溶融混練及び溶液混合の条件(温度、時間)は、用いる樹脂の種類に応じて、公知技術に従って適宜設定することができる。
【0117】
かくして得られた態様Aの樹脂組成物は、機械強度及び靱性に優れるため、日用雑貨品、家電部品、家電部品用梱包資材、自動車部品等各種用途に好適に用いることができる。
【0118】
(態様B)
また、本発明では、態様Bの樹脂組成物として、ゴム系樹脂を用いることができる。ゴム系樹脂は、強度を高めるために、補強材としてカーボンブラック配合品が汎用されているが、その補強効果にも限界があると考えられる。しかしながら、本発明では、ゴム系樹脂に本発明の微細改質セルロース繊維を配合することで、機械強度及び靱性に優れる樹脂組成物として提供することが可能になると考えられる。
【0119】
本発明において使用するゴムは特に限定されないが、補強性の観点からジエン系ゴムが好ましい。ジエン系ゴム以外にも、ウレタンゴムやシリコーンゴム、多硫化ゴムといった非ジエン系ゴムにも用いることができる。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)及び変性ゴム等が挙げられる。変性ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム、水素化天然ゴム、水素化ブタジエン−アクリロニトリル共重合体ゴム(HNBR)等が挙げられる。これらの中では、ゴム組成物の良好な加工性と高反発弾性を両立させる観点から、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)及び変性ゴムから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、天然ゴム(NR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)及び変性ゴムから選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。ジエン系ゴムは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0120】
態様Bの樹脂組成物がゴム組成物である場合、各成分の含有量は下記のとおりである。
【0121】
態様Bのゴム組成物中のゴムの含有量は、組成物の成形加工性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは55質量%以上であり、改質セルロース繊維等を含有させる観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下、より更に好ましくは70質量%以下である。
【0122】
態様Bのゴム組成物中の改質セルロース繊維の含有量は、得られる組成物の機械強度及び靱性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、製造時の操作性の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に15質量%以下である。
【0123】
態様Bのゴム組成物中の改質セルロース繊維量は、ゴム100質量部に対して、得られる機械強度及び靱性の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、より更に好ましくは15質量部以上であり、また、製造時の操作性の観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
【0124】
態様Bのゴム組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、ゴム工業界で通常用いられる補強用充填材、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、老化防止剤、プロセスオイル、植物油脂、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、酸化マグネシウム、ワックス、フェノール樹脂等のタイヤ用、その他一般ゴム用に配合されている各種添加剤を従来の一般的な量で配合させることができる。
【0125】
補強用充填材としてはカーボンブラックやシリカ等が好適に用いられ、カーボンブラックとしては、例えば、チャネルブラック;SAF、ISAF、N−339、HAF、N−351、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N−234などのファーネスブラック;FT、MTなどのサーマルブラック;アセチレンブラック等が挙げられる。カーボンブラックは、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0126】
加硫剤としては、例えば、硫黄、硫黄化合物、オキシム類、ニトロソ化合物、ポリアミン、有機過酸化物等が挙げられる。加硫剤は、単一種だけを用いてもよく、また、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0127】
加硫促進剤としては、例えば、グァニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、チウラム系、ジチオカルバメート系、ザンテート系のもの等が挙げられる。加硫促進剤は、単一種だけを用いてもよく、また、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0128】
加硫遅延剤としては、例えば、サリチル酸、無水フタル酸、安息香酸等の芳香族有機酸、N−ニトロソジフェニルアミン、N−ニトロソ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジハイドロキノン、N−ニトロソフェニル−β−ナフチルアミン等のニトロソ化合物等が挙げられる。加硫遅延剤は、単一種だけを用いてもよく、また、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0129】
老化防止剤としては、例えば、アミン系、キノリン系、ヒドロキノン誘導体、モノフェノール系、ポリフェノール系、チオビスフェノール系、ヒンダート・フェノール系、亜リン酸エステル系のもの等が挙げられる。老化防止剤は、単一種だけを用いてもよく、また、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0130】
プロセスオイルとしては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどが挙げられる。プロセスオイルは、単一種だけを用いてもよく、また、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0131】
植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落下生油、木ろう、ロジン、パインオイルなどが挙げられる。植物油脂は、単一種だけを用いてもよく、また、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0132】
態様Bのゴム組成物は、ゴム及び前記改質セルロース繊維を含有するものであれば特に限定なく調製することができる。例えば、ゴムと改質セルロース繊維、更に必要により各種添加剤を含有する原料を、例えばロール等の開放式混練機、バンバリーミキサー等の密閉式混練機等を用いて混合することにより調製することができる。溶融混合時の温度は通常10〜200℃であり、好ましくは20〜180℃である。また、有機溶媒を用いてゴムと改質セルロース繊維が溶解した溶液を調製後、有機溶媒成分を除去することで調製してもよい。
【0133】
態様Bのゴム組成物の製造方法としては、ゴムと本発明の微細改質セルロース繊維を混合する工程、もしくは前記樹脂と改質セルロース繊維を混合と同時に微細化する工程を含むものであれば特に限定はない。
混合する対象は、ゴムと改質セルロース繊維のみでもよいが、更に必要により各種添加剤を用いることが出来る。混合回数は一括でもよいが、数回に分けて混合することもでき、混合ステップごとに原料を追加していくこともできる。例えば、加硫剤以外の原料を混合する工程(練り工程A)と得られた混合物に加硫剤を混合する工程(練り工程B)を行なってもよい。また、練り工程Aと練り工程Bの間に、練り工程Aで得られた混合物の粘度を下げる目的や、各種添加剤の分散性を向上する目的で、加硫剤を混合しない状態で、練り工程Aの条件と同様にして練り工程Cを行なってもよい。混合は、例えばロール等の開放式混練機、バンバリーミキサー等の密閉式混練機等を用いた、公知の方法で行うことが出来る。また、トルエン等の有機溶媒を用いてゴムを溶解し、得られたゴム溶液と改質セルロース繊維を混ぜた後、乾燥工程により有機溶媒成分を除去することで、ゴム組成物を得ることもできる。
【0134】
態様Bのゴム組成物は、上記の方法で調製したゴム組成物を用い、必要に応じて適切な成形加工を行った後、加硫又は架橋して、各種ゴム製品用途に適用することができる。
【0135】
態様Bのゴム組成物は良好な機械強度及び靱性に優れるため、日用雑貨品、家電部品、自動車部品等各種用途、なかでも、自動車用途に好適に用いることができる。
【0136】
また、態様Bのゴム組成物を用いたゴム製品として、例えば、工業用ゴム部品について説明する。工業用ゴム部品としてはベルトやホース等が挙げられ、これらは、必要に応じて各種添加剤を配合した本発明のゴム組成物を、未加硫の段階で各部材の形状に合わせて押し出し加工して成形することで、未加硫のゴム部品を形成した後、加硫機中で加熱加圧して各種工業用ゴム部品を製造することができる。機械的強度の向上からは基本性能向上や部品の小型化・薄肉化、靱性からは耐久性などの向上が実現できる。
【0137】
また、態様Bのゴム組成物を用いたゴム製品として、例えば、タイヤを製造する場合、必要に応じて各種添加剤を配合した本発明のゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどのタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。機械的強度の向上からは各部材の小型化や薄肉化、靱性からは耐久性などの向上が実現できる。
【実施例】
【0138】
以下、製造例、調製例、実施例、比較例及び参考例を示して本発明を具体的に説明する。なお、これらの実施例等は単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「室温」とは25℃を示す。
【0139】
置換基を導入するための化合物の製造例1<ステアリルグリシジルエーテルの製造>
100L反応槽に、ステアリルアルコール(花王社製、カルコール8098)10kg、テトラブチルアンモニウムブロマイド(広栄化学工業社製)0.36kg、エピクロルヒドリン(ダウケミカル社製)7.5kg、ヘキサン10kgを投入し、窒素雰囲気下で混合した。混合液を50℃に保持しながら48質量%水酸化ナトリウム水溶液(南海化学社製)12kgを30分かけて滴下した。滴下終了後、更に50℃で4時間熟成した後、水13kgで8回水洗を繰り返し、塩及びアルカリの除去を行った。その後、槽内温度を90℃に昇温して上層からヘキサンを留去し、減圧下(6.6kPa)、更に水蒸気を吹き込んで低沸点化合物を除去した。脱水後、槽内温度250℃、槽内圧力1.3kPaで減圧蒸留することによって、白色のステアリルグリシジルエーテル8.6kgを得た。
【0140】
改質セルロース繊維の調製例1<フェニルグリシジルエーテルの付加>
針葉樹の漂白クラフトパルプ(「NBKP」と表記する;平均繊維径24μm)をセルロース系原料として用いた。
まず、絶乾したNBKP5.0gに、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン3.0g(和光純薬社製、DMAP、0.8等量/AGU)及びアセトニトリル20.0g(和光純薬社製)を添加し、均一に混合した後、フェニルグリシジルエーテル13.9g(東京化成工業社製、3.0等量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、トルエン(和光純薬社製)、アセトン(和光純薬社製)で十分に洗浄することで不純物を取り除き、更に70℃で一晩真空乾燥を行うことで、芳香族置換基を有する改質セルロース繊維(1)を得た。
【0141】
改質セルロース繊維の調製例2〜5
芳香環含有化合物又はエーテル化剤及び仕込み量を表1に示す通り変更した点以外は、調製例1と同様にして改質セルロース繊維(2)〜(5)を得た。
【0142】
改質セルロース繊維の調製例6<フェニルグリシジルエーテルの付加>
セルロース系原料として、予めアセトニトリルに溶媒置換したミクロフィブリル化セルロース(「MFC」と表記する)5.0g(固形分含有量として)(ダイセルファインケム社製、「セリッシュ FD100−G」、固形分濃度10質量%、平均繊維径100nm以下、セルロース含有量90質量%、水分含有量3質量%)に変更し、追加で溶媒を添加しなかった以外は、改質セルロース繊維の調製例2と同様の手法を用いることで芳香族置換基を有する改質セルロース繊維(6)を得た。
【0143】
改質セルロース繊維の調製例7<芳香族系デュアルグラフト体>
改質セルロース繊維(1)5.0gに、DMAP4.1g(1.1等量/AGU)及びアセトニトリル50.0gを添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として製造例1で得たステアリルグリシジルエーテル11.7g(1.2等量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、トルエン、アセトンで十分に洗浄することで不純物を取り除き、更に70℃で一晩真空乾燥を行うことで、芳香族置換基および脂肪族置換基を有する改質セルロース繊維(7)を得た。
【0144】
改質セルロース繊維の調製例8<非芳香族系デュアルグラフト体>
改質セルロース繊維(1)を改質セルロース繊維(5)に変更する点以外は、調製例7と同様にして改質セルロース繊維(8)を得た。
【0145】
実施例1<微細化処理及びアクリル樹脂との複合化>
改質セルロース繊維(1)0.25gをDMF(和光純薬社製)49.75g中に投入し、ホモジナイザー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)にて3000rpm、30分間攪拌後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、「ナノヴェイタL−ES」)にて100MPaで10パス処理することで、微細化された改質セルロース繊維がDMFに分散した微細改質セルロース分散体(固形分濃度0.5質量%)を調製した。微細化された改質セルロース繊維の平均繊維径は24nmであった。
【0146】
得られた分散体20gと、ウレタンアクリレート樹脂であるUV−3310B(日本合成化学社製)2.0gを混合し、高圧ホモジナイザーを用いて、60MPaで1パス、100MPaで1パスをすることで混合した。光重合開始剤として、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(和光純薬社製)を0.08g加え、自転公転式攪拌機 あわとり練太郎(シンキー社製)を用いて7分間攪拌してワニスを得た。得られたワニスをバーコーターを用いて塗布厚2mmで塗工した。80℃で120分乾燥し、溶媒を除去した。UV照射装置(フュージョンシステムズジャパン製、Light Hammer10)を用い200mJ/cm
2照射して光硬化させて、改質セルロース繊維を5質量部(対アクリル樹脂100質量部)含む、厚さ約0.1mmのシート状の複合材料成形体を製造した。
【0147】
実施例2〜4、比較例1〜2<微細化処理及びアクリル樹脂との複合化>
使用した改質セルロース繊維を改質セルロース繊維(1)に代えて、其々、改質セルロース繊維(2)〜(6)に変更した以外は、実施例1と同等の処理を行うことで、厚さ約0.1mmのシート状の複合材料成形体を製造した。
【0148】
参考例1<アクリル樹脂ブランク>
改質セルロース繊維分散体の代わりにDMF10mLを使用し、塗布厚を0.5mmに変更した以外は、実施例1と同等の処理を行うことで厚さ約0.1mmのシート状のアクリル樹脂成形体を製造した。
【0149】
実施例5<ゴムとの複合化>
改質セルロース繊維(7)0.50gをトルエン49.50g中に投入し、ホモジナイザー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)にて3000rpm、30分間攪拌後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、「ナノヴェイタL−ES」)にて100MPaで10パス処理することで、微細化された改質セルロース繊維がトルエンに分散した改質セルロース分散体(固形分濃度1.0質量%)を得た。微細化された改質セルロース繊維の平均繊維径は15nmであった。該分散体10gと、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)2.0g、ステアリン酸0.04g、酸化亜鉛0.06g、硫黄0.03g、(N−(tert−ブチル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミン(TBBS)0.01g、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)0.01g、1,3−ジフェニルグアニジン(DPG)0.01g、トルエン30gを入れ、室温(25℃)で2時間攪拌した。溶解したことを確認した後、得られた溶液を高圧ホモジナイザーを用いて、60MPaで1パス、100MPaで1パス微細処理させた。得られた分散液を直径9cmのガラス製シャーレに注ぎ、2日間室温・常圧でトルエンを除去した。その後、真空乾燥機(室温)で12時間乾燥させ、150℃で1時間加硫を行うことで、厚さ約0.2mmの加硫ゴムシートを調製した。
【0150】
比較例3<ゴムとの複合化>
使用した改質セルロース繊維を改質セルロース繊維(7)に代えて改質セルロース繊維(8)に変更した以外は、実施例5と同等の処理を行うことで、改質セルロース繊維を5質量部(対SBR100質量部)含む、厚さ約0.2mmの加硫ゴムシートを調製した。
【0151】
参考例2<SBRブランク>
改質セルロース繊維を用いなかった以外は、実施例5と同等の処理を行うことで厚さ約0.2mmの加硫ゴムシートを製造した。
【0152】
得られた改質セルロース繊維について、置換基導入率、平均繊維径(セルロース系原料の平均繊維径も含む)、及び結晶構造の確認(結晶化度)を、試験例1〜3の方法に従って評価した。また、成形体の機械特性については試験例4の方法に従って、それぞれ評価した。微細化された改質セルロース繊維の平均繊維径を、試験例5の方法に従って評価した。結果を表2〜3に示す。
【0153】
試験例1(置換基導入率(置換度))
得られた改質セルロース繊維中に含有される、疎水エーテル基の含有量%(質量%)は、Analytical Chemistry, Vol.51, No.13, 2172(1979)、「第十五改正日本薬局方(ヒドロキシプロピルセルロースの分析方法の項)」等に記載の、セルロースエーテルのアルコキシ基の平均付加モル数を分析する手法として知られるZeisel法に準じて算出した。以下に手順を示す。
【0154】
(i)200mLメスフラスコにn−オクタデカン0.1gを加え、ヘキサンにて標線までメスアップを行い、内標溶液を調製した。
(ii)精製、乾燥を行った改質セルロース繊維100mg、アジピン酸100mgを10mLバイアル瓶に精秤し、ヨウ化水素酸2mLを加えて密栓した。
(iii)上記バイアル瓶中の混合物を、スターラーチップにより攪拌しながら、160℃のブロックヒーターにて1時間加熱した。
(iv)加熱後、バイアルに内標溶液3mL、ジエチルエーテル3mLを順次注入し、室温で1分間攪拌した。
(v)バイアル瓶中の2相に分離した混合物の上層(ジエチルエーテル層)をガスクロマトグラフィー(SHIMADZU社製、「GC2010Plus」)にて分析し、エーテル化剤を定量した。分析条件は以下のとおりであった。
カラム:アジレント・テクノロジー社製DB−5(12m、0.2mm×0.33μm)
カラム温度:100℃→10℃/min→280℃(10min Hold)
インジェクター温度:300℃、検出器温度:300℃、打ち込み量:1μL
使用したエーテル化剤、即ち、芳香環含有酸化アルキレン化合物等の検出量から改質セルロース繊維中のエーテル基の含有量(質量%)を算出した。
【0155】
得られたエーテル基含有量から、下記数式(1)を用いてモル置換度(MS)(無水グルコースユニット1モルに対する置換基モル量)を算出した。
(数式1)
MS=(W1/Mw)/((100−W1)/162.14)
W1:改質セルロース繊維中のエーテル基の含有量(質量%)
Mw:導入したエーテル化剤の分子量(g/mol)
【0156】
試験例2(改質セルロース繊維及びセルロース系原料の平均繊維径)
改質セルロース繊維及びセルロース系原料の繊維径は、以下の手法により求めた。
絶乾したサンプル約0.3gを精秤し、1.0Lのイオン交換水中で家庭用ミキサーを用いて1分間攪拌し、繊維を水中に解した。その後、更にイオン交換水4.0Lを加え、均一になるよう攪拌した。得られた水分散液から、約50gを測定液として回収し、精秤した。得られた測定液を、メッツォオートメーション社製の「Kajaani Fiber Lab」にて分析することで、平均繊維径を得た。
【0157】
試験例3(結晶構造の確認)
改質セルロース繊維の結晶構造は、リガク社製の「RigakuRINT 2500VC X−RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定することにより確認した。
測定条件は、X線源:Cu/Kα−radiation、管電圧:40kv、管電流:120mA、測定範囲:回折角2θ=5〜45°、X線のスキャンスピード:10°/minとした。測定用サンプルは面積320mm
2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。また、セルロースI型結晶構造の結晶化度は得られたX線回折強度を用いて以下の式(A)に基づいて算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6−I18.5)/I22.6]×100 (A)
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5はアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【0158】
試験例4(引張弾性率)
25℃の恒温室において、引張圧縮試験機(SHIMADZU社製、「Autograph AGS−X」)を用いて、JIS K7113に準拠して、成形体の引張弾性率を引張試験によって測定した。成形体の任意の3箇所を2号ダンベルで打ち抜いたサンプルを3つ準備した。各サンプルを支点間距離40mmでセットし、クロスヘッド速度20mm/minで測定した。破断伸度の0.5−1.5%伸度での3つのサンプルの平均弾性率を「初期弾性率」、(破断伸度89.5−90.5%での3つのサンプルの平均弾性率)/(破断伸度の0.5−1.5%伸度での3つのサンプルの平均弾性率)を「弾性維持率」と定義した。初期弾性率がより高い方が低歪み時の機械的強度に優れていることを、弾性維持率が高い方が低歪み時の機械強度を高歪み領域までよく維持している、すなわち靱性に優れることを示す。
【0159】
試験例5(微細改質セルロース繊維の平均繊維径)
各実施例及び比較例で得られた分散体に溶媒を更に加えて0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さを測定した。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を5本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径(分散体中の繊維径)を算出した。
【0160】
【表1】
【0161】
【表2】
【0162】
【表3】
【0163】
表2〜3より、本発明の製造方法によって得られた改質セルロース繊維を樹脂と複合化することにより、樹脂の種類を問わず幅広い適用範囲において高い機械強度と靱性を発現可能なことがわかる。特に、比較例2は、背景技術の欄に記載の特許文献1の技術に相当し、セルロース繊維を微細化した後にエーテル化を行い、改質セルロース繊維を得たものである。比較例2と同じエーテル化剤を用いた実施例1と比較すると、実施例の方が、機械強度や靱性において顕著に優れることが分かる。