【実施例1】
【0018】
<電力系統運用支援システム>
図1は、電力系統運用支援システム7の構成例を示すブロック図である。
電力系統運用支援システム7は、電力系統2、通信線6及びコントロールセンタ5を備える。
【0019】
電力系統2(運用対象の一例)は、例えば、500kV等の超高圧送電系統から6kV等の低圧配電系統までを含み、各種変電所によって変圧された電力を、発電所から需要家へと供給するシステムである。電力系統2は、複数の送配電線で構成され、メッシュ系統や放射状系統等の複数のトポロジーによって構成される。例えば、北米大陸では、高電圧系統の送電線はメッシュ状系統で構成されていることが多い。一方、日本では、高電圧系統の送電線は放射状系統で構成されていることが多い。ただし、メッシュ状系統や放射状系統、その他の構成も含めて、様々な構成の組み合わせによって、電力系統2が構成されるのが一般的である。
【0020】
通信線6は、電力系統2とコントロールセンタ5を接続する。この通信線6は、光ファイバや同軸線等による有線通信だけでなく、電力線搬送(PLC:Power Line Communication)通信を含む。なお、通信線6は、マイクロ波等を用いた無線通信であってもよい。
【0021】
コントロールセンタ5は、外部の電力系統2に対して、通信線6で接続されており、電力系統2の監視を行う。コントロールセンタ5は、電力系統2を制御する制御所としても用いられる。コントロールセンタ5は、電力系統運用支援装置1、電力系統制御装置4を備え、系統運用者3によってそれぞれ運用される。
【0022】
電力系統運用支援装置1は、通信線6を介して、電力系統2から位相計測データ101と系統データ102を取得し、運用支援情報104を系統運用者3へ提示する。ここで、位相計測データ101は、例えば、PMU装置によって取得される情報であってもよい。また、系統データ102は、例えば、SCADA装置によって取得される情報であってもよい。
【0023】
電力系統制御装置4は、通信線6を介して、電力系統2から系統データ102を取得すると共に、系統運用者3からの制御指令105に基づき、制御信号103を電力系統2へ出力する。ここで、制御信号103は、系統運用者3からの制御指令105に依らず、電力系統制御装置4によって自律的に生成される信号であってもよい。また系統運用者3は、複数の系統運用者で構成されてもよい。
【0024】
<電力系統運用支援装置>
次に、電力系統運用支援装置1の構成例について説明する。
【0025】
図2は、電力系統運用支援装置1の構成例を示すブロック図である。
電力系統運用支援装置1は、位相計測データ取得部11、類似事例検索部(区間1)12、制御候補テーブル作成部13、データベース14、画面15、系統データ取得部16、系統状態解析部17、類似性判定部(区間2)18、安定性判定部(区間2)19、及び制御候補テーブル更新部20を備える。電力系統運用支援装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、入力装置、出力装置、通信装置および記憶装置(いずれも図示せず)を備えたコンピュータ装置として構成される。
【0026】
CPUは、装置全体の動作を統括的に制御する中央処理装置として構成される。入力装置は、キーボードまたはマウスから構成され、出力装置は、ディスプレイまたはプリンタから構成される。また通信装置は、無線LAN又は有線LANに接続するためのNIC(Network Interface Card)を備えて構成される。さらに記憶装置は、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)などの記憶媒体から構成される。記憶装置には、CPUによって実行される各種コンピュータプログラムとして、位相計測データ取得部11、類似事例検索部(区間1)12、制御候補テーブル作成部13、系統データ取得部16、系統状態解析部17、類似性判定部(区間2)18、安定性判定部(区間2)19、及び制御候補テーブル更新部20が格納される。出力装置の画面15には、情報が表示される。
【0027】
位相計測データ取得部11は、電力系統2から位相計測データ101を取得することを繰り返し実行する。取得した位相計測データ101は類似事例検索部(区間1)12および類似性判定部(区間2)18へ出力される。
【0028】
類似事例検索部(区間1)12は、取得した位相計測データ101に基づき、系統イベントに対して、データベース14に保存された過去の位相計測データの中から類似した位相計測データを取得する。同時に、類似した位相計測データに紐づいて、データベース14に保存されている制御候補を制御候補テーブル作成部13へ出力する。
【0029】
ここで系統イベントとは、落雷や強風、豪雨、豪雪、台風、竜巻等の気象的要因や、保守作業の作業ミス等の人為的要因、航空機事故等の外部的要因等、様々な要因によって、電力系統2に異常が生じる可能性があり、異常事例としては、例えば、断線、地絡、短絡等に代表される原因によって需要家に停電が発生することがあり、また停電には至らない場合でも、樹木と送電線の接触など、一時的に電圧や周波数、潮流等に異常が発生することである。コントロールセンタ5では、電力系統2の状態を把握するために、電力系統2の電圧、電流、周波数、有効電力、無効電力等を常時計測している。
【0030】
制御候補テーブル作成部13は、類似事例検索部(区間1)12から出力された情報に基づき、制御候補テーブル202を作成し、画面15へ出力する。また同時に、制御候補テーブル202を系統状態解析部17へ出力する。
【0031】
画面15は、入力された制御候補テーブル202を運用支援情報104に属する情報として表示し、系統運用者3に提示することを可能とする。系統運用者3は、画面15に表示された制御候補テーブル202を参考として、制御指令を実行することが可能となる。本実施例では、制御候補の中の制御Cを実行するものとする。
【0032】
このように、データベース14に保存された過去の位相計測データとの類似性を判定することで、過去の知見に基づき、系統運用者3がより適切な制御指令を実行することが可能となり、電力系統2を運用する上で、より信頼性が高く、また経済的にも効率のよい、電力系統運用を実現することが可能となる。
【0033】
しかし、例えば、電力系統運用支援装置1の使用を開始した当初を例に挙げると、データベース14には、必要十分な量の位相計測データが保存されていないことが想定される。そのような場合には、類似事例検索部(区間1)12からデータベース14に保存された情報を検索しても、適切な検索結果が得られるとは限らない。その結果として、制御候補テーブル作成部13で作成される制御候補テーブル202は、系統運用者3へ提示するべき最適な制御候補となっていない場合も想定される。
【0034】
このような場合を想定し、以下に説明する手段によって、データベース14に更新データ201を入力し、より適切な制御候補テーブル202を作成することを可能とする。
【0035】
系統データ取得部16は、電力系統2から系統データ102を取得することを繰り返し実行する。取得した系統データ102は系統状態解析部17へ出力される。
【0036】
系統状態解析部17は、系統データ102を用いて、ある時点の系統状態や構成を模擬したシミュレーション条件を作成する。このとき状態推定などの手段を用いてもよい。作成したシミュレーション条件に対して、制御候補テーブル作成部13から入力される制御候補テーブル202に含まれる制御候補を実行した場合を想定したシミュレーションを複数回実行する。そしてシミュレーションを実行した結果であるシミュレーションデータ204を安定性判定部(区間2)19へ出力する。また同時に、シミュレーションデータ204の一部(本実施例では制御C結果のみ206)を類似性判定部(区間2)18へ出力する。
【0037】
類似性判定部(区間2)18は、位相計測データ取得部11から入力される実測データ(位相計測データ101のうち電力系統2で計測されたデータ)203と、系統状態解析部17から入力されるシミュレーションデータ204の一部(本実施例では制御C結果のみ206)とを比較して、類似性を判定する。このとき、位相計測データ取得部11から入力される実測データ203は、系統運用者3が制御候補テーブル202に基づき制御指令(本実施例では制御Cを指令したとする)を実行した後に、位相計測データ取得部11で取得された実測データ203であるとする。そして類似性判定部(区間2)18で判定した結果は制御候補テーブル更新部20へ出力される。本実施例では、実測データ203(区間2における実測データ203)と、シミュレーションデータ204に含まれる制御Cの実行結果(区間2におけるシミュレーションデータ204)は、類似していると判定することができるとする。
【0038】
安定性判定部(区間2)19は、系統状態解析部17から入力されるシミュレーションデータ204に含まれる複数の制御候補のシミュレーション結果の安定性を評価する。評価した結果に基づき、制御候補の優先度を判定し、判定結果を制御候補テーブル更新部20へ出力する。本実施例では、シミュレーションデータ204に含まれる制御A、制御B、制御Cのそれぞれのシミュレーション結果より、より短時間で波形の動揺が収束している制御Bが最も安定であると判定される。また制御Bの次に制御Cが安定であると判定される。制御Aは波形が発散するシミュレーション結果となっているため、安定ではないと判定される。その結果、制御B、制御C、制御Aの順番で安定しているため、優先度1が制御B,優先度2が制御C,優先度3が制御Aという結果となる。
【0039】
制御候補テーブル更新部20は、類似性判定部(区間2)18から入力される判定結果と、安定性判定部(区間2)19から入力される判定結果の両方に基づき、制御候補テーブル更新の可否を判定し、更新データ201を出力する。更新データ201は、データベース14へ入力されて、データベース14に保存されている制御候補を更新するものとする。この場合、例えば、制御候補テーブル202の情報が、制御候補テーブル205の情報で更新される。
【0040】
以上の手段を用いることで、系統イベントが発生した際に系統運用者3へ提示する制御候補を更新することが可能となり、新たな系統イベントが発生した際に、より適切な制御候補テーブル202を系統運用者3へ提示することで、電力系統2を運用する操作の信頼性を向上することが可能となる。またシミュレーションを併用することで、データベース14に保存されるべき位相計測データ101の収集に必要な期間を短縮することが可能となる。
【0041】
<類似性判定部(区間2)>
次に、類似性判定部(区間2)18の構成例について説明する。
【0042】
図3は、類似性判定部(区間2)18の構成例を示す説明図である。
特徴量抽出部181は、位相計測データ取得部11から入力される実測データ203から、系統イベントの特徴量を抽出する。特徴量としては、例えば、Prony解析などを用いた広域動揺のモード周波数や減衰定数であってもよいし、波形の回帰分析結果などを用いてもよい。抽出結果は特徴量比較部183へ出力される。
【0043】
特徴量抽出部182は、特徴量抽出部181と同様であるが、系統状態解析部17から入力されるシミュレーションデータ204から、系統イベントの特徴量を抽出する。抽出結果は特徴量比較部183へ出力される。
【0044】
特徴量比較部183は、類似性しきい値に基づき、特徴量抽出部181の抽出結果と、特徴量抽出部182の抽出結果を比較し、類似性判定結果を制御候補テーブル更新部20へ出力する。
【0045】
<安定性判定部(区間2)>
次に、安定性判定部(区間2)19の構成例について説明する。
【0046】
図4は、安定性判定部(区間2)19の構成例を示す説明図である。
データ分割部191は、系統状態解析部17から入力されるシミュレーションデータ204に含まれるシミュレーション結果を制御候補ごとに分割し、安定性評価部192、安定性評価部193、安定性評価部194へ出力する。
【0047】
安定性評価部192は、ある制御候補に対応したシミュレーション結果の安定性を評価し、安定性評価結果を安定性比較部195へ出力する。ここで安定性とは、例えば、波形の動揺が収束するまでの時間としてもよい。
【0048】
安定性評価部193、安定性評価部194は、安定性評価部192と同様の処理内容とすればよく、それぞれの安定性評価結果を安定性比較部195へ出力する。
【0049】
安定性比較部195は、安定性評価部192、安定性評価部193、安定性評価部194における安定性評価結果に基づき、制御候補の優先度を決定し、安定性判定結果を制御候補テーブル更新部20へ出力する。
【0050】
<制御候補テーブル更新部>
次に、制御候補テーブル更新部20の構成例について説明する。
【0051】
図5は、制御候補テーブル更新部20の構成例を示す説明図である。
非更新データ保存部211は、更新データ選択部212において選択可能なデータを保存することを可能とする。本実施例では、制御候補を更新しないことを示す情報をN/Aとして保存している。
【0052】
更新データ選択部212は、類似性判定部(区間2)18の判定結果に基づき、類似している場合は、安定性判定部(区間2)19から入力される制御候補テーブル205を選択し、類似していない場合は、非更新データ保存部211に保存されている制御候補テーブル207を選択する。そして選択した結果を更新データ201として出力する。
【0053】
<電力系統運用支援装置の処理手順>
図6は、電力系統運用支援装置1の処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートにより、電力系統運用支援装置1による運用支援方法が実現される。
【0054】
以下の処理は、CPUが記憶装置に格納された各種プログラムを実行することによって実現される。処理を開始すると(S101)、始めに、CPUは、位相計測データ取得部11を実行する(S102)。CPUは、S102終了後、同処理を繰り返し実行すると共に、類似事例検索部(区間1)12を実行する(S103)。その後、CPUは、制御候補テーブル作成部13を実行し(S104)、画面15を実行(制御候補テーブル202の情報を表示するための処理)する(S105)。その後は、S103、S104、S105の処理がCPUによって繰り返し実行される。
【0055】
一方、CPUは、系統データ取得部16を実行する(S106)。S106終了後、CPUは、同処理を繰り返し実行すると共に、系統状態解析部17を実行する(S107)。S107は、S104の結果を入力とすることが必要である。次に、CPUは、類似性判定部(区間2)18を実行する(S108)と共に、安定性判定部(区間2)19を実行する(S109)。その後、CPUは、制御テーブル更新部20を実行する(S110)。その後は、S107、S108、S109、S110の処理がCPUによって繰り返し実行される。
【0056】
以上説明した一実施の形態に係る電力系統運用支援装置1では、系統イベントが発生したときに画面15から系統運用者3へ制御候補テーブル202を提示すると共に、シミュレーションを用いることで、新たな系統イベントに対しても、より適切な制御候補テーブル202を提示することが可能となる。その結果、系統運用者3は、現在の電力系統2に発生した系統イベントに対して、短時間で、かつ信頼度の高い操作候補を取得することが可能となる。このため、運用者の制御操作をより適切に判定することで正確性が向上し、電力系統運用の信頼性、安定性が向上するという効果を得ることができる。
【実施例2】
【0057】
次に、電力系統運用支援装置1の第二の構成例について説明する。
【0058】
図7は、電力系統運用支援装置1の第二の構成例を示すブロック図である。
電力系統運用支援装置1は、位相計測データ取得部11、類似事例検索部(区間1)12、制御候補テーブル作成部13、データベース14、画面15、系統データ取得部16、系統状態解析部17、類似性判定部(区間2)18、安定性判定部(区間2)19、及び制御候補テーブル更新部20を備えることは、実施例1と同様である。それぞれの機能も実施例1と同様として構わない。
【0059】
更に、電力系統運用支援装置1は、制御候補入力部21を備える。制御候補入力部21は、検証用制御候補22と、学習用制御候補23を入力することが可能である。制御候補入力部21から系統状態解析部17へ、検証用制御候補22と学習用制御候補23のどちらか一方、もしくは両方を出力できる。系統状態解析部17では、入力された検証用制御候補22と学習用制御候補23からシミュレーションを実行する制御候補の一つとして選択することが可能である。
【0060】
検証用制御候補22は、例えば、類似性判定部(区間2)18で類似性を判定するための、標準的な制御候補として用いることが可能である。標準的な制御候補を用いることで、類似性の判定を容易に、もしくは正確に実行することが可能となり、制御候補テーブル202の更新をより適切に実行することが可能になるという効果を得ることができる。
【0061】
学習用制御候補23は、例えば、安定性判定部(区間2)19で安定性を判定するための、標準的な制御候補として用いることが可能である。標準的な制御候補を用いることで、安定性の判定を容易に、もしくは正確に実行することが可能となり、制御候補テーブル202の更新をより適切に実行することが可能になるという効果を得ることができる。
【0062】
[変形例]
なお、上述した実施の形態では、運用対象として電力系統2に対する系統運用業務を支援するものであった。しかし、電力系統2を、例えば化学プラント、制御システム等置き換えることで、これらのプラント、システム等を運用対象とする系統運用業務を支援するために用いることもできる。
【0063】
本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。例えば、電力系統運用支援装置1は、本発明の一実施の形態を示したものであり、本実施の形態によって構成が縛られるものではなく、また得られる効果についても影響を受けるものではない。
【0064】
また、例えば、
図6のフローチャートで示した処理手順は一例を示したに過ぎず、本処理手順によって本発明の実施形態、効果が限定されるものではない。本処理手順とは異なる手順によって、本発明を実施することも可能である。
【0065】
また、上述した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、ここで説明した実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることは可能であり、さらにはある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0066】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。