(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態では、昇降機の保守を行う作業者が所持している携帯端末装置を用いて、部品の劣化判定を行う。本実施形態では、携帯端末装置に付属しているカメラを用いて、対象部品を撮像し、得られた撮像画像を用いて当該対象部品の良否判定を行い、表示する。本実施形態の携帯端末装置は、得られた撮像画像に基づき、交換予測日の情報も表示する。
【0013】
また本実施形態では、異物の混入や、清掃不十分などの、部品劣化につながる要因の有無を判定する。部品劣化につながる要因がある場合、当該要因を取り除く必要があることを示す情報を表示し、要因が無い場合は不要であることを示す情報を表示する。
【0014】
また実施形態の携帯端末装置は、撮像の際に、好適な撮像距離や角度となるように案内するためのフレームを表示する。作業者は、このフレームに対象部品が合致するように携帯端末装置を移動させ、規定位置や規定向きで撮像する。
【0015】
以下、本実施形態について図面を用いて説明する。
【0016】
図1は、実施形態の携帯端末装置および使用状況の一例を示す図である。携帯端末装置1は、作業者が所持しているスマートフォンやタブレットなどの携帯可能な端末装置(コンピュータ)である。携帯端末装置1は、LEDライト170(LED:Light emitting diode)を点灯して対象部品2を照射し、CCDカメラ160(CCD:Charge coupled device)でその反射光を受光することで、対象部品2を撮像する。尚、明るい環境下で撮像する場合は、LEDライト170の点灯は不要になる。
【0017】
対象部品2は、本実施形態では、円筒状の平板部材とする。対象部品2は、上面S2から底面までを貫いた円筒面がその内側に形成されている立体部材である。この円筒面を円筒内面S1と称する。このような形状の部材としては、昇降機のブレーキ部に備えられるエンドプレートなどがある。尚、対象部品2の形状や部品用途については、これに限定されない。昇降機の部品であれば、どのような形状や部品用途のものであっても構わない。また昇降機は、ビルなどの顧客施設内に設置されるエレベーターとするが、エスカレーター、動く歩道(オートライン)などであってもよい。
【0018】
対象部品2の表面は、地金の上に青銅層が形成され、この青銅層の上に塗装層が形成されている。円筒内面S1の表面には、摩耗部位5および正常部位6が形成されている。摩耗部位5は、塗装が剥げて青銅層が露出したり、青銅層が剥げて地金が露出している部位である。正常部位6は、摩耗していない部位、すなわち塗装層が形成されている部位である。使用開始の当初は、円筒内面S1には正常部位6のみが目視されるが、経時使用により、その表面に摩耗部位5が発生する。摩耗部位5は、昇降機の稼動によって対象部品2が用いられた回数(以下、使用回数と称する)などに応じて、その摩耗範囲も徐々に拡大する。
【0019】
対象部品2の上面S2には、マーク21が付されている。部品検査を行う際、後述するように、作業者は、対象部品2を周回して携帯端末装置1の位置や向きなどのロケーションを変えながら、対象部品2を複数回撮像する。マーク21は、作業者が正確な位置や向きで撮像ですることを可能にするための基準となるものである。マーク21は、例えば留め具のビズ穴や、部品の型番などを記した刻印など、対象部品2に事前に形成された部位であってもよいし、一時的にシールなどを付して、当該シールをマーク21としてもよい。
【0020】
昇降機監視装置3は、昇降機に不具合などが発生すると、アラームを鳴動させることで周囲に警告を通知し、不図示のメンテナンスセンターに警告電文を送信する。また昇降機監視装置3は、昇降機に備えられる各部品を監視し、当該部品の使用回数などをカウントして蓄積する。昇降機監視装置3は、携帯端末装置1から要求電文を受信すると、要求のあった部品の使用回数を返信する。対象部品2の場合、ブレーキを行うごとに対象部品2の使用回数がカウントアップされる。また部品交換が行われ新規部品となった際に、当該部品の使用回数のカウント値は初期化され、ゼロになるものとする。
【0021】
図2は、携帯端末装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。携帯端末装置1は、コントローラ101と、周辺機器であるストレージ140、タッチパネルディスプレイ150、CCDカメラ160、LEDライト170を有する。
【0022】
コントローラ101は、携帯端末装置1内部の各ハードウェアを制御する。コントローラ101は、以下の構成を有する。
【0023】
CPU102(CPU:Central Processing Unit)は、ROM104やストレージ140に記憶されているプログラムを、RAM103に展開し、演算実行する処理装置である。CPU102は、プログラムを演算実行することで、コントローラ101内部の各ハードウェアを統括的に制御する。RAM103は、揮発性メモリであり、CPU102が処理する際のワークメモリである。RAM103は、CPU102がプログラムを演算実行している間、必要なデータを一時的に記憶する。
【0024】
ROM104は、不揮発性メモリであり、CPU102で実行されるファームウェアを記憶している。ストレージI/F105(I/F:Interface)は、ストレージ140と接続し、ストレージ140との間でデータの入出力を制御する。ネットワークI/F106は、外部機器との間で行われる有線/無線通信の制御を担うインターフェイスボードである。本実施形態では、昇降機監視装置3もしくはメンテナンスセンターのサーバと間で無線通信を行うものとするが、有線媒体を介した通信であっても構わない。尚、通信の規格などは、ここでは問わない。
【0025】
パネルI/F107は、表示用の画像をタッチパネルディスプレイ150に出力し、またタッチパネルディスプレイ150から接触位置を示した信号を入力する。CCDカメラI/F108は、CCDカメラ160に撮像指示信号を出力し、CCDカメラ160で撮像された画像を入力するインターフェイスである。LEDライトI/F109は、LEDライト170の点灯や消灯を制御するためのインターフェイスである。
【0026】
ストレージ140は、フラッシュメモリなどの補助記憶装置である。ストレージ140は、CPU102が演算実行するプログラムや、制御データを不揮発的に記憶する。また本実施形態では、以降に説明する各機能を提供する部品劣化判定プログラム、撮像された画像、以降で説明する判定結果などのデータもストレージ140に蓄積される。
【0027】
タッチパネルディスプレイ150は、平面の表示部にタッチパネルの入力部が積層配置された構成であり、作業者に情報を表示したり、タッチパネルの接触を検出し、その位置を特定してCPU102に出力する。CCDカメラ160は、カメラレンズを介して得られた像の明暗を電荷量に変換し、電気信号として画像を出力するデバイスである。LEDライト170は、CPU102から出力される指示信号に基づき、点灯および消灯を行うデバイスである。
【0028】
図3は、携帯端末装置1が有する各機能の一例を示すブロック図である。携帯端末装置1は、点灯部11、表示部12、撮像部13、合成部14、判定部15、交換計画算出部16、誘導画像作成部17、記憶部18を有する。これら各機能は、
図2に示すコントローラ101が、ROM104やストレージ140に事前に導入された部品劣化判定プログラムおよび各種プログラムを実行し、各周辺機器と協働して動作することで実現される。
【0029】
点灯部11は、LEDライト170やLEDライトI/F109を有しており、作業者のタッチパネルディスプレイ150に対する操作に従って点灯し、対象部品2を照らす。表示部12は、タッチパネルディスプレイ150、パネルI/F107を有し、CCDカメラ160が今現在撮像している映像をリアルタイムに表示する。以降、このリアルタイムで得られる画像のことをリアルタイム画像と称する。また表示部12は、携帯端末装置1が規定位置や規定向きとなるように誘導するためのフレーム枠を表示したり、判定結果を表示したりする。
【0030】
撮像部13は、CCDカメラ160およびCCDカメラI/F108を有し、カメラレンズを介して得られた像を光電変換し、規定のファイルフォーマットに変換して静止画像を得る。撮像部13は、フォーマット変換後の画像ファイルを、記憶部18に記憶させる。尚、撮像部13は、作業者の操作に従い、もしくは携帯端末装置1と対象部品2との相対位置、方向が規定の位置や方向となったことを自らで検知して、撮像する。
【0031】
撮像部13は、同一の対象部品2に対して複数のロケーションから撮像する。作業者は、携帯端末装置1が対象部品2を周回するように移動させ、携帯端末装置1のロケーションを変えながら、規定位置、規定方向となったときに撮像する。また撮像部13は、複数の撮像画像のそれぞれが、同じ部品を対象にした画像であることを示すように、一意となる識別情報をファイル名に付与して、記憶部18に記憶させる。
【0032】
合成部14は、ロケーションを変えて撮像された複数枚の画像ファイルを合成し、1枚の画像にする。合成部14は、各画像に映し出されたそれぞれの特徴点が、互いに一致するように幾何学変換を施すことで、画像をつなぎ合わせる。合成部14は、円筒内面S1の360°の全体が1つの画像となるように合成処理を行う。尚、合成部14は、ノイズを除去するために平滑化フィルタ処理を施してもよく、画像ごとの輝度成分などの差異を可能な限り排除するため、ノーマライズ処理を施してもよい。これら以外にも、必要に応じた画像処理が行われる。
【0033】
判定部15は、得られた合成画像を解析し、現状の状態における良否判定や、部品の確認/清掃の要否について判定する。判定部15は、得られた合成画像の画素ごとに、色相(Hue)、彩度(Saturation)、輝度(Lightness)を算出することで、注目画素が摩耗部位5に属するか正常部位6に属するかの切り分けを行う。摩耗部位5に属するものと切り分けた場合、判定部15は、さらに青銅層であるか地金であるかの判定も行う。尚、撮像する環境下の光量が均一となっている場合、得られる画像の輝度値は互いに異っており、本実施形態では、塗装層、青銅層、地金の順となる(塗装層の輝度値が最も大きい)。判定部15は、輝度値の差および色相の差を用いて、注目画素が塗装層、青銅層、地金のいずれに属するかを判定する。
【0034】
判定部15は、いずれに属するかの切り分けを行った後、摩耗部位5がどの程度の領域を占めているかを求め、これに基づき、良否判定、確認/清掃の要否について判定する。本実施形態では、この摩耗部位5の範囲や領域サイズを示す指標として摩耗角度を用い、摩耗角度が大きい程、劣化しているものと判定する。摩耗角度の導出方法については後述する。このように、本実施形態では、部品の劣化度の値を示すものとして角度を採用し、この角度を導出して劣化判定を行っている。
【0035】
交換計画算出部16は、前回の計測結果(判定部15が算出した前回の摩耗角度や使用回数)と、今回の計測結果に基づき、交換予定日を算出する。尚、対象部品2の使用回数は、
図1に示す昇降機監視装置3から、ネットワークI/F106を介して無線通信により取得される。ここで取得される使用回数は、当該部品の新設後や交換後からの累積使用回数の値である。
【0036】
誘導画像作成部17は、フレームや誘導用のメッセージなどを含めた誘導画像を作成する。フレームは、作業者が正規の位置、方向で撮像することができるように、事前に記憶部18に記憶された画像であり、昇降機の部品を一方向から目視した場合の、当該部品の外郭の一部または全てを模した画像である。尚、各フレーム画像の目視方向は、劣化検査の際の撮像方向となるため、劣化しやすい部位が好適に映し出される方向であることが好ましい。表示部12は、撮像動作の際に、CCDカメラ160から得られるリアルタイム画像の上に、誘導画像作成部17により作成される誘導画像を重ねて表示する。
【0037】
記憶部18は、RAM103やストレージ140を含み、今回の計測日、判定部15での判定結果や計測結果(摩耗角度や使用回数)、交換計画算出部16が算出した交換予定日を、撮像された複数の画像とともに対応付けて記憶する。記憶部18は、フレームの画像(後述のフレーム枠151やガイド線153)や誘導用のメッセージを事前に記憶する。
【0038】
図4(A)および
図4(B)は、対象部品2を撮像する際の携帯端末装置1の位置や向きを左側に図示し、当該位置や向きでの表示部12の表示例を右側に図示している。
図4(A)および
図4(B)は、同一の対象部品2を撮像しているが、ロケーションがそれぞれ異なっている。ここでは、1枚目の画像を得るために位置や向きを調整している状態を4(A)に示し、1枚目を撮像後、ロケーションを変え、2枚目の画像を得るために調整している状態を
図4(B)に示すものとする。
【0039】
表示部12は、フレーム枠151を画面内の固定位置、固定サイズで表示する。また表示部12は、破線で示すガイド線153を表示する。ガイド線153は、当該線上に対象部品2のマーク21が位置するように誘導するためのものであり、ロケーションごとに異なるものとなっている(
図4(A)、
図4(B)参照)。
【0040】
表示部12は、フレーム枠151の枠線から、表示部12に表示される楕円B(円筒内面S1と上面S2との境界)の外郭までを結んだ矢印線152を、複数本表示する。誘導画像作成部17は、CCDカメラ160からリアルタイム画像が得られるその都度、楕円Bの形状を抽出する。この楕円領域の抽出は、Michele Fornaciari/Andrea Prati "Very fast ellipse detection for embedded vision applications" などに開示されている既存手法が用いられてもよい。誘導画像作成部17は、リアルタイム画像内に映し出される部品の特徴点を抽出し、この特徴点とフレーム枠151上の特徴点とを結んで、1つまたは複数の矢印線152を作成し、表示部12に表示させる。このように矢印線152を表示することで、作業者は、どの部位を合致させるのかを容易に判断することができ、また、いずれの位置に携帯端末装置1を移動させ、いずれの方向に向けるのかを容易に判断することができる。
【0041】
表示部12は、規定の撮像位置や向きとなるように誘導するための、作業者へ向けたメッセージ154、155を表示する。メッセージ154は固定メッセージであるが、メッセージ155は、対象部品2に対する携帯端末装置1の相対位置や相対向きに応じて切り替わるメッセージである。誘導画像作成部17は、映し出される楕円Bのサイズや位置に応じて、メッセージ155を切り替えて作成し、表示部12はこれを表示する。例えば、楕円Bのサイズがフレーム枠151よりも小さい場合、誘導画像作成部17は、携帯端末装置1を対象部品2に近づけるように促すメッセージを作成し、大きい場合は遠ざけるように促すメッセージを作成する。楕円Bの重心がフレーム枠151の重心よりも右側に位置する場合、誘導画像作成部17は、携帯端末装置1を右向きに構えるように促すメッセージを作成し、左側に位置する場合、左向きに構えるように促すメッセージを作成する。また楕円Bの重心がフレーム枠151の重心よりも上側に位置する場合、誘導画像作成部17は、携帯端末装置1を上向きに構えるように促すメッセージを作成し、下側に位置する場合、下向きに構えるように促すメッセージを作成する。
【0042】
作業者は、誘導画像作成部17が作成するメッセージや表示画像に従い、携帯端末装置1の位置や向きを調整する。より具体的には、作業者は、楕円Bがフレーム枠151に合致するように、且つマーク21がガイド線153上に位置するように、携帯端末装置1を移動させ、向きを調整する。
【0043】
規定の撮像位置、規定の向きとなった場合、作業者は、所定の撮像操作を行って対象部品2を撮像する。もしくは、撮像部13が規定の撮像位置や向きとなったことを検知し、撮像部13が自ら撮像動作を行ってもよい。撮像後、
図4(B)に示すように、作業者は携帯端末装置1を別のロケーションに移動させて、上記の誘導表示に従い、位置、方向を調整し、当該別ロケーションから撮像を行う。これを繰り返し、対象部品2を周回するように複数のロケーションから撮像を行う。
【0044】
尚、上記の例では、携帯端末装置1を周回させて複数撮像するものとしたが、携帯端末装置1を特定のロケーションで固定とし、対象部品2を回転させて撮像しても同様の画像を得ることができる。また上記の例では、誘導表示に従い携帯端末装置1を移動させて規定位置、方向となるように調整しているが、携帯端末装置1を固定にし、誘導表示に従い対象部品2を移動、回転させて、規定位置、方向となるように調整してもよい。上記の例では、フレーム枠151は、対象部品2の外郭の一部である楕円Bのみを模ったフレームとしているが、対象部品2の外郭の全てを模ったフレームであってもよい。
【0045】
図5(A)、
図5(B)は、計測結果、判定結果などの表示例を示す図である。撮像部13が対象部品2を撮像した後、当該撮像画像は、色相成分と輝度成分に分解されて正常部位6と摩耗部位5とに切り分けられる。そして表示部12は、
図5(A)に示すように、計測日、摩耗角度、判定結果、そして昇降機監視装置3から得た使用回数、および確認/清掃の要否を表示する。
図5(B)は、
図5(A)とは別日に検査した際の表示例である。
【0046】
ここで、
図5(A)と
図5(B)とを用いて、交換計画算出部16による交換予定日の算出方法について説明する。
図5(A)に示す計測日9Aのときの摩耗角度が10A(50°)、使用回数が11A(60万回)であったとする。そして、
図5(B)に示す計測日9Bに計測した結果、摩耗角度が10B(100°)、使用回数が11B(110万回)になっていたとする。
図5(A)の状態から5(B)の状態まで、(計測日9B−計測日9A)の日数が経過し、その間に(使用回数11B−使用回数11A)の回数分動作しており、それによって、(摩耗角度10B−摩耗角度10A)だけ摩耗が進行している。交換計画算出部16は、経過日数(計測日9B−計測日9A)と、その間の使用回数(使用回数11B−使用回数11A)と摩耗角度(摩耗角度10B−摩耗角度10A)を用いて、
図5(B)の摩耗角度10Bからさらに摩耗が進行して、事前に定義される摩耗限界値(本例では120°)を迎えるまでの日数を算出する。交換計画算出部16は、算出した摩耗限界を迎えるまでの日数を、計測日9Bに足すことで、交換予定日を求める。尚、
図5(A)に示すように、初回の検査である場合は、前回の計測結果が無いため交換予定日は表示されない。
【0047】
図6は、摩耗角度の算出方法を説明するための図である。本実施形態では、対象部品2の円筒内面S1を所定の幅や角度ごとに分割する。この1つの分割区間を検知帯と称する。判定部15は、着目している検知帯を正常部位6とするか摩耗部位5とするか、また地金が露出しているかを、検知帯ごとに判定する。本実施形態では、摩耗していると判定される輝度成分や色相成分が少しでも検知帯内に存在している場合、判定部15は、当該検知帯を摩耗部位5として扱う。これ以外にも、判定部15は、例えば摩耗していると判定される色相成分と輝度成分と、正常であると判定される色相成分と輝度成分との割合に応じて、摩耗部位5とするか正常部位6とするかを判定してもよい。
【0048】
また本実施形態では、従来の画像処理技術を用いて、円内の中心点Oが摩耗角度θを算出する際の視点位置となるように幾何学変換を行う。判定部15は、摩耗部位5と判定された検知帯の数に基づき、摩耗角度θを算出する。例えば1つの検知帯幅が2°に相当する場合において、摩耗部位5として判定される検知体が25区画ある場合、摩耗角度θは50°となる。
【0049】
次に、判定部15の判定方法について説明する。
図7(A)および
図7(B)は、横軸を使用回数とし、縦軸を摩耗角度(単位は度)としたグラフであり、使用回数と摩耗角度との相関を示した図である。
図7(A)、
図7(B)において、基準線は、通常状態で使用した際の使用回数と摩耗角度との相関を直線で結んだものであり、当該部品の過去の使用経験などに基づき定められる。また、基準線を挟んで下の領域を正常区間、上の領域を異常区間とする。
【0050】
判定部15は、例えば
図7(A)の計測結果P1に示すように、計測した摩耗角度が摩耗限界線(図中の破線ラインであり、本例では120°)以上である場合、一律に不良と判定する。また判定部15は、地金と識別される色相成分、輝度成分が少しでも検出された場合も、劣化が相当進んでいるものとみなし、一律に不良と判定する。
【0051】
判定部15は、
図7(A)の計測結果P2のように、たとえ計測結果が摩耗限界線を超えない場合でも、異常区間に位置している場合には、異物の混入や、清掃不十分等の異常な状態で使用されていることが考えられるため、確認/清掃を要すると判定する。
【0052】
また、
図7(B)に示す計測結果P4のように、たとえ正常区間内に計測結果が位置していても、前回の計測結果P3と今回の計測結果P4とによる傾きが、基準線の傾きよりも大きい場合、異物の混入や、清掃不十分等の異常な状態で使用されている可能性がある。よって判定部15は、前回の計測結果と今回の計測結果とのよる傾きが、基準線の傾きよりも大きい場合、確認/清掃を要すると判定する。
【0053】
図8は、携帯端末装置1の動作例を示すフローチャートである。携帯端末装置1の表示部12は、まずは検査する部品を選定するための画面を表示して、作業者にいずれの部品を対象に検査するかを選択させる(S001)。当該選定画面は、検査対象とする部品の名称、品番などを一覧表示した画面である。作業者は、一覧の中からいずれかの部品を選択し、検査対象の部品を選定する。本実施形態では、上記の部品2(昇降機のブレーキ用の円筒状平板部材)を検査対象として説明するが、昇降機の部品であれば、どのような部品でも検査対象とすることができる。またここでは、部品を特定するための識別コードや、この識別コードと当該部品に関するデータとの対応付けなどは、事前に設定されているものとする。
【0054】
対象部品が選定されると、点灯部11は、対象部品2を照らすためLEDライト170を点灯させる(S002)。尚、ステップS002はオプション処理であり、環境下の光量が十分な場合は、点灯は不要である。
【0055】
誘導画像作成部17は、CCDカメラ160から得られるリアルタイム画像内に、対象部品2があるかを認識する(S003)。誘導画像作成部17は、エッジ抽出処理など施して、リアルタイム画像内に映し出されている各部位の特徴点を抽出する。誘導画像作成部17は、事前に登録されている対象部品2の特徴点と類似配置した特徴点が、リアルタイム画像内にあるかを判定する。これにより誘導画像作成部17は、対象部品2がリアルタイム画像内に映り込んでいるか否かを判定する。尚、楕円である場合は、上記の"Very fast ellipse detection for embedded vision applications" などに開示されている既存手法を用いてもよい。対象部品2が映り込んだと認識されるまで、ステップS003は繰り返し行われる(S003:Noのループ)。
【0056】
対象部品2が映り込んだと認識されると(S003:Yes)、誘導画像作成部17は、
図4に示すフレーム枠151、矢印線152、ガイド線153、メッセージ154、155を作成し、表示部12に表示させる(S004)。表示部12は、CCDカメラ160から得られるリアルタイム画像に、誘導画像作成部17が作成した誘導用の画像を重ね合わせて表示する。
【0057】
作業者は、この誘導用の画像に従い、携帯端末装置1の位置や向きを規定のものに合わせる。撮像部13は、リアルタイム画像内の対象部品2の外郭(本例では楕円B)がフレーム枠151と一致し、マーク21がガイド線153の上に位置するかを判定することで、携帯端末装置1が規定位置、規定向きとなっているかを判定する(S005)。規定位置や規定向きとなるまで、ステップS003、S004の処理が繰り返し行われる(S005:Noのループ)。規定位置や規定向きになると(S005:Yes)、撮像部13は撮像を行い、このタイミングでの静止画像を得る(S006)。この撮像は、作業者の操作によって行われてもよいし、撮像部13が自ら行ってもよい。撮像部13は、得られた撮像画像を記憶部18に保存する(S007)。
【0058】
ステップS007まで完了すると、作業者は、次のロケーションに携帯端末装置1を移動させる。例えば
図4(A)に示すロケーションでの撮像が完了したら、次に
図4(B)に示すロケーションに携帯端末装置1を移動させる。全てのロケーションでの撮像が完了するまで、ステップS003〜ステップS007の処理が繰り返し行われる(S008:Noのループ)。
【0059】
全てのロケーションでの撮像が完了すると(S008:Yes)、合成部14は、今回得られた画像を記憶部18から取得し、既存の幾何学変換の処理を行うことで、これらの画像を合成し、1枚の合成画像にする(S009)。判定部15および交換計画算出部16は、合成画像に基づき劣化判定処理を行う(S010)。この劣化判定処理の詳細動作については後述する。
【0060】
判定部15および交換計画算出部16は、算出した計測結果や判定結果、交換予定日を記憶部18に保存する(S011)。この保存されたデータや上記ステップS007で保存された撮像画像は、履歴データとして、また顧客に提示するための資料データして蓄積させる。
【0061】
表示部12は、判定部15および交換計画算出部16によって算出された計測結果、判定結果、交換予定日を表示する(S012)。この表示は、例えば上記の
図5のとおりである。
【0062】
次に、ステップS010の劣化判定処理の詳細について説明する。
図9は、劣化判定処理の詳細動作例を示すフローチャートである。
【0063】
判定部15は、まずは初期化処理を行う(S101)。ステップS101では、例えば良否判定の結果を示す良否判定フラグ、確認/清掃の要否を示す確認フラグを初期化する。尚、良否判定フラグの初期値は良判定を示す値とし、確認フラグの初期値は確認/清掃不要を示す値とする。
【0064】
判定部15は、合成画像から摩耗部位5の角度を算出し(S102)、当該摩耗角度が摩耗限界の角度(本例では120°)よりも大きいかを判定する(S103)。摩耗限界の角度よりも大きい場合(S103:Yes)、不良判定を示す値を良否判定フラグに設定する(S120)。尚、地金が露出していると判定した場合も、不良判定を示す値を良否判定フラグに設定する。
【0065】
判定部15は、ネットワークI/F106を動作させて、昇降機監視装置3から現在のブレーキ使用回数を取得する(S104)。判定部15は、現在の摩耗角度および取得した使用回数に基づき、計測結果が
図7に示す異常区間に位置するかを判定する(S105)。異常区間に位置する場合(S105:Yes)、判定部15は、確認/清掃を要することを示す値を確認フラグに設定する(S121)。
【0066】
交換計画算出部16は、前回計測した摩耗角度および前回の使用回数を、記憶部18から取得し(S106)、今回の計測結果と前回の計測結果を用いて、計測結果の変化の割合(劣化の進行度合い)を算出する(S107)。この変化の割合は、
図7(B)の例では破線矢印の傾きとして図示されている。算出した変化の割合が、基準の割合(例えば
図7(B)の基準線の傾き)よりも大きい場合(S108:Yes)、交換計画算出部16は、確認/清掃を要することを示す値を確認フラグに設定する(S122)。
【0067】
交換計画算出部16は、交換予定日を算出する(S109)。この算出には、上記
図5を用いて説明したとおり、前回の使用回数、前回の摩耗角度、前回の計測日、今回の使用回数、今回の摩耗角度、今回の計測日、摩耗限界の値(本例では120°)を用いて交換予定日を算出する。
【0068】
以降、
図8のステップS011に進み、記憶部18は、判定結果として良否判定フラグの値、確認フラグの値を記憶し、計測結果として、現在の摩耗角度、使用回数を記憶し、交換予定日を記憶する。これら各データは、1つのレコードとして対応付けて記憶される。また表示部12は、
図5に示すように、良否判定フラグに基づき良否結果を表示し、確認フラグに基づき、確認/清掃の要否結果を表示する。また表示部12は、現在の摩耗角度、使用回数、および交換予定日を表示する(S012)。
【0069】
尚、不良判定であった場合、作業者もしくは担当者は、部品交換の計画を立て、顧客へ部品交換の提案をし、顧客の承諾を得た後に、部品を手配し、部品交換を実施する工程を実施する。不良判定であった場合、上記の各工程は早急に行われる。また、確認/清掃を要するとの判定結果であった場合、作業者は、異物の混入の確認や清掃を十分に実施する。また、判定結果が良好である場合でも、作業者もしくは担当者は、表示された交換予定日に基づき部品交換の計画を立て、顧客へ部品交換を提案し、顧客の承諾が得られた後に、部品手配を行う。この場合、交換予定日に間に合うように部品交換を実施することができるため、余裕を持って部品交換を実施することができる。
【0070】
本実施形態では、前回の計測結果を取得して、傾きや交換予定日などを算出しているが、前回分に限らず、過去の計測結果を取得して、これを用いてもよい。
【0071】
本実施形態では、部品劣化につながる要因の一例として、異物の混入や、清掃不十分を取り上げた。これらはあくまでも例示であり、部品劣化の要因としては、経時使用により部品が変形して頻繁に接触する部位が発生した、使用回数が大幅に増加または減少した、高温環境や低温環境、直射日光に曝される環境などに設置されている、など、様々なものがある。これらの事項も確認の対象となる。
【0072】
本実施形態では、対象部品2を円筒形状の部材としているが、円形状であることから、特徴点となり得る部位が存在しない。よって、単にフレームに部品の外郭を合わせるのみの誘導では、部品周回の規定位置で正確に撮像できているのかの判断ができない。また360°の全てを過不足なく画像に収めたかを判断することができない。本実施形態では、これらを解消するため、フレーム枠151を部品枠に合致させるとともに、マーク21を特徴点として、これをガイド線153に合わせる実装とした。この実装により、正確な位置や向きで撮像することが可能となる。尚、フレーム枠を合致させるのみで正確な位置や方向で撮像可能な部品形状である場合、マーク21やガイド線153を不要としてもよい。
【0073】
また本実施形態では、複数枚の画像を一旦1枚の画像となるように合成して、当該合成画像に基づき劣化判定処理を行っているが、1回の撮像(1枚の画像)のみで劣化判定が可能な部品である場合、画像の合成処理は当然不要となる。また、判定部15は、合成された画像ではなく、複数の画像のままで判定処理を行ってもよい。また、拡大/縮小、回転、平行移動などの各画像処理を行い、各画像処理で精度よく摩耗角度が得られる場合は、マーク21やガイド線153を不要とし、フレーム枠151や矢印線152のみを表示する実装でもよい。
【0074】
記憶部18に記憶されるデータの一部もしくは全ては、外部のサーバに記憶されていてもよい。
【0075】
本実施形態により、誰が実施しても同様の判定結果を得ることができるため、部品不良の見落としによる作業不良を防止することができる。さらに前回と今回の計測結果を比較することで、部品の交換予定日を確認することが可能となる。これにより、余裕を持った部品交換計画を立てることが可能となる。
【0076】
以上に詳説したように、本実施形態によって、昇降機の部品の劣化判定において、作業者ごとに異なる判定となることを抑制することができる。
【0077】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。