(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779192
(24)【登録日】2020年10月15日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】楔式ロープ止め装置
(51)【国際特許分類】
B66B 7/08 20060101AFI20201026BHJP
F16G 11/04 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
B66B7/08 D
F16G11/04 C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-214600(P2017-214600)
(22)【出願日】2017年11月7日
(65)【公開番号】特開2019-85228(P2019-85228A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高原 悠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆裕
【審査官】
三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−018631(JP,A)
【文献】
特開平06−330487(JP,A)
【文献】
実開昭52−054773(JP,U)
【文献】
実公昭63−029957(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/08
F16G 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーロープに楔式ソケットを取り付けるために使用する、可動側と固定側からなる楔式ロープ止め装置であって、
前記可動側は、前記ワイヤーロープを固定するロープ固定部と、前記ワイヤーロープの端部に形成されるループ部の大きさを抑制するロープ膨らみ抑制部と、を可動側連結部材で連結したものであり、
前記固定側は、前記楔式ソケットを保持するソケット保持部を備えたものであることを特徴とした楔式ロープ止め装置。
【請求項2】
前記ソケット保持部は、前記楔式ソケットの外周のテーパ部に合致するように、前記ロープ固定部に向かって先端を狭めた略ハ字状に固定された構成であることを特徴とする請求項1記載の楔式ロープ止め装置。
【請求項3】
前記ロープ膨らみ抑制部は、前記ロープ固定部に向かって開口側を広げた構成であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の楔式ロープ止め装置。
【請求項4】
前記ワイヤーロープを固定した前記ロープ固定部を引き上げたとき、
前記ロープ膨らみ抑制部は、前記ループ部を、前記ソケット保持部が保持した前記楔式ソケットの方向に押し上げ、前記楔式ソケットの内部に設けた楔に食い込ませることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の楔式ロープ止め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーロープの端部に楔式ソケットを取り付けるために使用される楔式ロープ止め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特許文献1があり、その請求項1には、「楔及び前記楔に巻かれたロープ末端部が挿入される通し穴と、ロープ末端部の一部が露出する開口部とが設けられたソケットを着脱可能に保持する台座と、外部から受けた力を楔及びロープ末端部に伝達する押圧力伝達部材と、前記押圧力伝達部材の一端に設けられ、外部の力を受けたとき、前記押圧力伝達部材の一端を一側に保持する保持具と、前記台座に設けられ、前記保持具を着脱可能に保持する第一の取付部と、外部の力を受けて前記押圧力伝達部材の他端を巻き取る巻取り手段と、前記台座に設けられ、前記巻取り手段を着脱可能に保持する第二の取付部と、を備えたことを特徴とする楔式ロープ留め装置用治具」が記載されている。
【0003】
また、同文献の「発明の効果」欄では、「この発明は、楔式ロープ留め装置用治具に、外部の力を押圧力伝達部材が受けたとき、押圧力伝達部材を巻き取る巻き取り手段により外部の力を伝達するようにしたので、高速または大容量エレベータ等に使用される大型のソケットにおいても、コンパクトな楔式ロープ留め装置用治具を実現できる。」と述べられている。
【0004】
すなわち、同文献には、高速または大容量エレベーター等に使用される径の太いロープの末端部に大型のソケットを取り付けるためのコンパクトな治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−18631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のコンパクトな冶具を用いる場合、楔式ソケットの楔にワイヤーロープを食い込むよう掛ける作業の最終状態においては、ループ部が十分に小さくなっているため同作業の遂行に障害はないが、ワイヤーロープの径が太いためループ部が大きく膨らんでしまう作業の初期状態においては、同作業の遂行に多大な労力を要するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の楔式ロープ止め装置は、ワイヤーロープの端部に楔式ソケットを取り付ける作業の初期状態において、ワイヤーロープのループ部の膨らみを抑制できるような構成とすることで、径の太いワイヤーロープを用いる場合であっても、容易に同作業を遂行できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の楔式ロープ止め装置は、ワイヤーロープに楔式ソケットを取り付けるために使用する、可動側と固定側からなるものであって、前記可動側は、前記ワイヤーロープを固定するロープ固定部と、前記ワイヤーロープの端部に形成されるループ部の大きさを抑制するロープ膨らみ抑制部と、を可動側連結部材で連結したものであり、前記固定側は、前記楔式ソケットを保持するソケット保持部を備えたものとした。
【発明の効果】
【0009】
本発明の楔式ロープ止め装置によれば、ワイヤーロープの端部に楔式ソケットを取り付ける作業の初期状態において、ワイヤーロープのループ部の膨らみを抑制できるような構成とすることで、径の太いワイヤーロープを用いる場合であっても、容易に同作業を遂行できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施例の楔式ロープ止め装置の平面図である。
【
図3】
図1の楔式ロープ止め装置を用いて楔式ソケットにワイヤーロープを取り付ける作業の初期状態を示す平面図である。
【
図4】エレベーター装置の全体構成を概説する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、
図4の斜視図を用いて、エレベーター装置の全体構成を概説する。
【0012】
ここに示すエレベーター装置は、乗かご40が昇降する昇降路41の上部に機械室42を備えている。機械室42には、巻上機43とプーリー44が設置されており、これらにワイヤーロープ12が巻き掛けられている。このワイヤーロープ12の一端には乗かご40が吊り下げられており、他端には釣合おもり45が吊り下げられている。ここで、ワイヤーロープ12の両端には、後述する楔式ソケット7が取り付けられており、この楔式ソケット7を介することで、ワイヤーロープ12が、乗かご40または釣合おもり45と連結されている。
【0013】
そして、巻上機43を適切に回転制御することで、ワイヤーロープ12を所望量だけ巻き上げ、乗かご40を所望の位置に昇降させることができる。なお、昇降路41には、乗かご40の昇降をガイドする一対の乗かご側ガイドレール46と、釣合おもり46の昇降をガイドする一対の釣合おもり側ガイドレール47が設置されており、これらによって乗かご40と釣合おもり45を安定して昇降させることができる。
【0014】
以下、ワイヤーロープ12の端部に楔式ソケット7を取り付ける、本発明の一実施例の楔式ロープ止め装置を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1および
図2は、一実施例の楔式ロープ止め装置100の平面図および側面図である。この楔式ロープ止め装置100は、可動側と固定側に大別され、固定側に対して可動側が相対移動できるようになっている。
【0016】
楔式ロープ止め装置100の可動側は、背面側中央部に配置された長板状の可動側連結部材1と、可動側連結部材1の長手方向一端部に取り付けたロープ固定部2と、可動側連結部材1の長手方向他端部に取り付けたロープ膨らみ抑制部3から構成されている。
【0017】
これらのうち、ロープ固定部2は、可動側連結部材1に結合された固定側ロープ固定部4Aと、複数本のボルト5によって固定側ロープ固定部4Aへ取り付けられた取り外し側ロープ固定部4Bで構成されている。また、ロープ膨らみ抑制部3は、ロープ固定部2側に向かって開口側を広げた一対の側面3A,3Bを有しており、これらによって、ロープ膨らみ抑制部3の内側配置されるワイヤーロープ12の膨らみを抑制するように構成されている。
【0018】
一方、楔式ロープ止め装置100の固定側は、図示を省略した固定側部材と、これに固定された一対のソケット保持部6A,6Bから構成されている。この一対のソケット保持部6A,6Bは、ロープ固定部2側に向かって先端側を狭めた略ハ字状に固定されている。
【0019】
上述の構成としたので、可動側連結部材1、ロープ固定部2、ロープ膨らみ抑制部3を含む楔式ロープ止め装置100の可動側は、図示の上側に一体として移動させることができるが、一対のソケット保持部6A,6Bを含む固定側は、可動側連結部材1等とは分離しているため、可動側と連動することはない。
【0020】
次に、
図3を用いて、楔式ロープ止め装置100の使用方法を説明する。
図3は、楔式ロープ止め装置100に組み込んだ楔式ソケット7にワイヤーロープ12を取り付ける作業の初期状態を示す平面図である。
【0021】
ここに示すように、楔式ロープ止め装置100に組み込まれた楔式ソケット7は、その外周部に、一対のソケット保持部6A,6Bに合致するテーパ面を有している。また、その中央内部にロープ固定部2側に向かって先端側を狭めた破線で示す楔8と、その一端部に形成されたロープ導出入孔部9と、その中間部にロープ導出入孔部9と連通して楔8の両側に形成されたロープ導出入孔部10A,10Bと、その他端部側に形成された孔11を有している。
【0022】
図3に至るまでの作業を順次紹介すると、先ず、
図1における楔式ロープ止め装置100のソケット保持部6A,6Bに、楔式ソケット7を
図3のように設置する。その前後に、ボルト5と取り外し側ロープ固定部4Bを、固定側ロープ固定部4Aから取り外しておく。
【0023】
その後、ワイヤーロープ12の一方の端部をロープ導出入孔部9から楔式ソケット7内に挿入し、一方のロープ導出入孔部10Aから導出した後、ロープ膨らみ抑制部3の内面に沿ってワイヤーロープ12を丸め込むように伸ばし、他方のロープ導出入孔部10Bから楔式ソケット7へ内に戻し、ロープ導出入孔部9から導出する。
【0024】
そして、ロープ導出入孔部9から導出されたワイヤーロープ12の端部を他方側と束ねるように固定側ロープ固定部4Aの窪みに配置してから、先に取り外しておいた取り外し側ロープ固定部4Bを被せた後、ボルト5を締結して取り外し側ロープ部材4Bと固定側ロープ固定部4Aの間にワイヤーロープ12を挟み込んで固定する。
【0025】
この時点では、ワイヤーロープ12は、ロープ膨らみ抑制部3に内接するループ部を形成して可撓変形し、楔8からは離れているため、楔8に食い込むように巻き込んだ状態となっていない。一般に、ワイヤーロープ12を固定した時に形成されるループ部は、ワイヤーロープ12の径が太くなるほど大きく膨らむ傾向がある。しかし、
図1から
図3に示した本実施例の構成によれば、ロープ膨らみ抑制部3がない従来の構成に比べて、作業の初期状態においても、ワイヤーロープ12のループ部の膨らみをロープ膨らみ抑制部3によって十分小さく制限することができる。
【0026】
次いで、楔式ロープ止め装置100を作動させて、ワイヤーロープ12を楔8に食い込ませて巻き込ませた状態とする。このために、楔式ロープ止め装置100の可動側(可動側連結部材1、ロープ固定部2、ロープ膨らみ抑制部3)を、図示の上方へと移動させる。すると、楔式ソケット7は、楔式ロープ止め装置100の固定側(ソケット保持部6A,6B)に食い込み、やがて位置規制されるため、その後は、楔式ロープ止め装置100の可動側とワイヤーロープ12のみが図示の上方へと引き上げられる。従って、ワイヤーロープ12はロープ膨らみ抑制部3の内面側から離れながら、楔8にしっかりと食い込ませるように巻き込まれて固定される。
【0027】
ここで、ロープ膨らみ抑制部3を用いない従来技術の場合、初期状態におけるワイヤーロープ12のループ部の膨らみが大きくなってしまい、ワイヤーロープ12を引き上げる際のロープ導出入孔部10A,10Bでの抵抗が増大するため、ワイヤーロープ12を引き上げたときに、ワイヤーロープ12を楔8にしっかりと食い込ませて円滑に巻き込ませることが難しい。
【0028】
これに対し、本実施例では、楔式ロープ止め装置100に楔式ソケット7とワイヤーロープ12を組み込んだ初期状態の時点で、ワイヤーロープ12のループ部の膨らみがロープ膨らみ抑制部3によって所定の大きさ以下に抑制されているため、ワイヤーロープ12を引き上げたときに、ロープ導出入孔部10A,10Bでの抵抗が小さく、ワイヤーロープ12を楔8にしっかりと食い込むように円滑に巻き込ませることができる。
【0029】
また、その後の可動側連結部材1の引き上げ時にも、ロープ膨らみ抑制部3は置き去りにされるのではなく、可動側連結部材1と連動して同時に引き上げるため、ロープ膨らみ抑制部3によって抑制されていたループ部の膨らみが、引き上げ時のごく初期に開放されてしまうこともない。このとき、ロープ膨らみ抑制部3は、ワイヤーロープ12を下方から楔式ソケット7の内部へ押し込む役割も果たすことから、ワイヤーロープ12の引き揚げ作業をより容易なものとすることができる。
【0030】
この説明から分かるように、本実施例では、楔式ロープ止め装置100に楔式ソケット7およびワイヤーロープ12を組み込まれた初期状態において、ワイヤーロープ12のループ部の膨らみはロープ膨らみ抑制部3によって適切に制限されており、その後も、ワイヤーロープ12の引き上げ時にもロープ膨らみ抑制部3は可動側連結部材1と共に一体的に同方向に移動して行くため、その移動初期においてもワイヤーロープ12における膨らみの制限は持続され、且つ、ワイヤーロープ12を引張る作業と、ワイヤーロープ12を楔式ソケット7に押し込む作業を同時に実施できるようにすることで、ワイヤーロープ12の引き上げに伴って円滑に変形するよう補助しながら、楔8にしっかりと食い込ませて巻き込ませることができる。
【0031】
その後、楔式ソケット7およびワイヤーロープ12は、楔式ロープ止め装置100から分離され、例えば、
図4に例示したように、エレベーター装置の主索として使用される。また、上述の方法で楔式ソケット7を取り付けたワイヤーロープ12は、橋梁やロープウェイ等に用いても良い。なお、楔式ソケット7に形成されている孔11は、実装時にシンブルロッドとの連結用などとして使用することができる。
【0032】
以上で説明したように本実施例では、楔式ソケット7に形成された楔8にワイヤーロープ12を掛けた状態で、楔式ソケット7を位置固定してワイヤーロープ12を楔8に巻き込むように駆動する楔式ロープ止め装置100において、ワイヤーロープ12を楔8に巻き込むように駆動される可動側連結部材1を設け、前記可動側連結部材1に、ワイヤーロープ12を釈放可能に固定するロープ固定部2と、ワイヤーロープ12における楔8への巻き込み側の膨らみを抑制するロープ膨らみ抑制部3を連結した。
【0033】
このような構成によれば、楔式ロープ止め装置100に楔式ソケット7およびワイヤーロープ12を組み込まれた初期状態において、ワイヤーロープ12の膨らみはロープ膨らみ抑制部3によって楔に食い込むよう掛けられるときに変形しやすく抑制されており、その後も、ワイヤーロープ12の引き上げ時にもロープ膨らみ抑制部3は可動側連結部材1と共に一体的に同方向に移動して行くため、その移動初期においてもワイヤーロープ12における膨らみの制限は持続され、且つ、ワイヤーロープ12を引張る作業と、ワイヤーロープ12を楔式ソケット7に押し込む作業を同時に実施できるようにすることで、ワイヤーロープ12の引き上げに伴って円滑に変形するよう補助しながら、楔8にしっかりと食い込ませて巻き込ませることができる。
【0034】
尚、本発明は、上述した実施例に限定するものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、楔式ロープ止め装置100の具体的の構造や各部の形状などは図示のものに限定しない。
【符号の説明】
【0035】
100 楔式ロープ止め装置、
1 可動側連結部材、
2 ロープ固定部、
3 ロープ膨らみ抑制部、
3A、3B 側面、
4A 固定側ロープ固定部、
4B 取り外し側ロープ固定部、
5 ボルト、
6A、6B ソケット保持部、
7 楔式ソケット、
8 楔、
9 ロープ導出入孔部、
10A ロープ導出入孔部、
10B ロープ導出入孔部、
11 孔、
12 ワイヤーロープ、
40 乗かご、
41 昇降路、
42 機械室、
43 巻上機、
44 プーリー、
45 釣合おもり、
46 乗かご側ガイドレール、
47 釣合おもり側ガイドレール