特許第6779244号(P6779244)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ソディックの特許一覧

<>
  • 特許6779244-ワイヤ残量検出装置 図000003
  • 特許6779244-ワイヤ残量検出装置 図000004
  • 特許6779244-ワイヤ残量検出装置 図000005
  • 特許6779244-ワイヤ残量検出装置 図000006
  • 特許6779244-ワイヤ残量検出装置 図000007
  • 特許6779244-ワイヤ残量検出装置 図000008
  • 特許6779244-ワイヤ残量検出装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779244
(24)【登録日】2020年10月15日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】ワイヤ残量検出装置
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20201026BHJP
   B23H 7/10 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   B23H7/02 R
   B23H7/10 F
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-15884(P2018-15884)
(22)【出願日】2018年1月31日
(65)【公開番号】特開2019-130629(P2019-130629A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2019年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】坂口昌志
(72)【発明者】
【氏名】松浦紘平
【審査官】 藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】 実用新案登録第2510109(JP,Y2)
【文献】 実開平07−008372(JP,U)
【文献】 特許第6239200(JP,B1)
【文献】 特開2010−179377(JP,A)
【文献】 特開平02−279218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02
B23H 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極を巻回保持するワイヤボビンと、前記ワイヤボビンからワイヤ電極を引き出して被加工物に向けて連続的に送るワイヤ送出手段とを備えたワイヤ放電加工装置において、前記ワイヤボビンに巻回されているワイヤ電極の残量を検出するワイヤ残量検出装置であって、
前記ワイヤボビンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記回転速度検出手段によって検出された前記ワイヤボビンの回転速度と、前記ワイヤ送出手段によるワイヤ電極の送り速度とに基づいて、前記ワイヤボビンにおけるワイヤ電極の巻径を演算する巻径演算部と、
巻回全長が分かっている未使用の前記ワイヤボビンから引き出されたワイヤ電極の長さを前記ワイヤ電極の送り速度に基づいて求め、少なくとも前記未使用のワイヤボビンにおけるワイヤ電極の巻径が最小となるまで所定の時間間隔で前記ワイヤ電極の巻回全長と前記未使用の前記ワイヤボビンから引き出された前記ワイヤ電極の長さとから前記未使用のワイヤボビンにおける前記ワイヤ電極の残量を求めるとともに、前記巻径演算部で演算された前記ワイヤ電極の巻径および前記ワイヤ電極の残量から前記ワイヤ電極の巻径と前記ワイヤ電極の残量との関係を求める測長器と、
前記測長器によって前記未使用のワイヤボビンにおける前記ワイヤ電極の巻径および前記ワイヤ電極の残量を実測した結果に基づいて得られた前記ワイヤ電極の巻径と前記ワイヤ電極の残量との関係を、前記ワイヤボビンにおけるワイヤ電極の巻径に関与する仕様として少なくとも前記未使用のワイヤボビンの胴径と内幅およびワイヤ電極の外径と対応付けて記憶する記憶部と、
放電加工前に、前記放電加工に用いられる前記ワイヤボビンおよび前記ワイヤ電極の前記仕様が入力される入力部と、
放電加工中に、前記入力部に入力された前記仕様と対応付けて前記記憶部に記憶されている前記ワイヤ電極の巻径とワイヤ電極の残量との関係を用い、前記ワイヤ電極の巻径とワイヤ電極の残量との関係を構成するワイヤ巻径に対応するように、前記巻径演算部が演算した巻径を当てはめて前記ワイヤ電極の残量を求めるワイヤ残量検出部と、
を備えてなるワイヤ残量検出装置。
【請求項2】
前記ワイヤ送出手段によるワイヤ電極の送り速度を検出するワイヤ速度検出手段がさらに設けられ、
前記巻径演算部は、前記ワイヤ電極の送り速度として、前記ワイヤ速度検出手段が検出した送り速度を用いるものである、
請求項1に記載のワイヤ残量検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工装置において、ワイヤボビンに残っているワイヤ電極の量を検出するワイヤ残量検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なワイヤ放電加工装置においては、ワイヤ電極を巻回保持するワイヤボビンから所定の速度でワイヤ電極を繰り出して加工に供されていない新しい未使用のワイヤ電極を加工間隙に供給するようにされており、ワイヤボビンを新しいものと交換する時期を適切に把握することによって、加工の途中でワイヤ電極切れが生じないようにしたり、ワイヤボビンのワイヤ電極を無駄なく使いきるようにするために、ワイヤボビンにおけるワイヤ電極の残量を可能な限り正確に検出することが求められる。
【0003】
例えば特許文献1の第3頁右欄第16行〜同欄第47行等には、ワイヤボビンの回転数とワイヤ走行系の基準ローラの回転数とを計測して送出長さを演算し、ワイヤボビンの回転数と送出長さとからワイヤボビンの巻径を求め、求めた巻径に基づいてワイヤボビンの残量を計算する装置が示されている。
また、特許文献2の第3頁左欄第22行〜同頁右欄第29行等には、ワイヤボビンの軸径・軸幅、張力ローラの回転速度(走行速度)、リール回転速度、およびワイヤ径からワイヤ残量を計測する装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2736544号公報
【特許文献2】実用新案登録第2510109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述したような従来のワイヤ残量検出装置においては、ワイヤ残量検出の精度をより高くすることができる余地がある。また、検出精度をより高くしようとすると、ワイヤ残量検出装置の構成と操作が難しくなる。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ワイヤボビンにおけるワイヤ電極の残量を、比較的簡単に安全でより高精度で検出できるワイヤ残量検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるワイヤ残量検出装置は、
ワイヤ電極を巻回保持するワイヤボビンと、ワイヤボビンからワイヤ電極を引き出して被加工物に向けて連続的に送るワイヤ送出手段とを備えたワイヤ放電加工装置において、ワイヤボビンに巻回されているワイヤ電極の残量を検出するワイヤ残量検出装置であって、
ワイヤボビンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、
回転速度検出手段によって検出されたワイヤボビンの回転速度と、ワイヤ送出手段によるワイヤ電極の送り速度とに基づいて、ワイヤボビンにおけるワイヤ電極の巻径を演算する巻径演算部と、
ワイヤボビンにおけるワイヤ電極の巻径および残量を実測した結果に基づいて得られた該巻径と残量との関係を、ワイヤボビンおよびワイヤ電極の巻径に関与する仕様と対応付けて記憶する記憶部と、
放電加工に用いられるワイヤボビンおよびワイヤ電極の上記仕様が入力される入力部と、
入力部に入力された仕様と対応付けて記憶部に記憶されている上記関係を用い、該関係を構成するワイヤ巻径に、巻径演算部が演算した巻径を当てはめてワイヤ電極の残量を求めるワイヤ残量検出部と、
を備えてなるものである。
【0008】
なお、ワイヤボビンおよびワイヤ電極の巻径に関与する仕様とは、より具体的には、ワイヤボビンの胴径と内幅(左右1対の鍔の間のワイヤ電極が巻回される胴部分の幅)、およびワイヤ電極の外径である。
【0009】
本発明の好ましい態様においては、
ワイヤ送出手段によるワイヤ電極の送り速度を検出するワイヤ速度検出手段がさらに設けられ、
巻径演算部は、ワイヤ電極の送り速度として、ワイヤ速度検出手段が検出した送り速度を用いるものとされる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のワイヤ残量検出装置によれば、実測したワイヤ巻径とワイヤ残量との関係を利用してワイヤ残量を求めているので、ワイヤボビンにおけるワイヤ残量を、比較的簡単で安全により高精度で求めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態によるワイヤ残量検出装置を備えたワイヤ放電加工装置を示す概略構成図
図2】本発明の一実施形態によるワイヤ残量検出装置を示すブロック図
図3】上記ワイヤ放電加工装置の一部を示す一部破断側面図
図4】ワイヤ放電加工装置に用いられ得るワイヤボビンを示す斜視図
図5】ワイヤボビンにおけるワイヤ巻径とワイヤ残量との関係例を示すグラフ
図6】上記ワイヤ放電加工装置におけるワイヤ張力、ワイヤ速度およびワイヤ巻径の時間経過に伴う変化の様子を示すグラフ
図7】上記ワイヤ放電加工装置において近接センサが発するパルス信号の波形を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。図1は、本発明の一実施形態によるワイヤ残量検出装置を備えたワイヤ放電加工装置の概略構成を示す図である。また図2は、本発明の一実施形態によるワイヤ残量検出装置の構成を示す図である。まず図1を参照して、ワイヤ放電加工装置の全体の構成について説明する。
【0013】
図1に示されるワイヤ放電加工装置は、自動結線装置1と、ワイヤ電極2を被加工物3の加工部位に連続して供給する供給機構30と、使用済のワイヤ電極2を被加工物3の加工部位から回収する排出機構70とを備える。自動結線装置1は、ワイヤ電極2を被加工物3に形成された下穴4に自動的に挿通させる手段である。なお、未使用のワイヤ電極2は、ワイヤボビン31に巻回保持されている。ワイヤボビン31から引き出されたワイヤ電極2は、供給機構30、自動結線装置1、排出機構70の順に送られる。
【0014】
供給機構30は、未使用のワイヤ電極2を加工部位に連続して供給する。供給機構30は、ワイヤ電極2にいわゆるバックテンションが掛かるように、ワイヤボビン31に、ワイヤ電極2の引き出しに抗する向きの負荷を与えるブレーキモータ40を有するリール32と、ワイヤ電極2の張力の変動を防止するサーボプーリ33と、ワイヤボビン31からワイヤ電極2を引き出して送ると共に張力を与える送出ローラ20と、リミットスイッチ等からなりワイヤ電極2の断線を検出する断線検出器34と、歪ゲージ等からなりワイヤ電極2の張力を検出する張力検出器35とを含む。ワイヤボビン31から引き出されたワイヤ電極2は、サーボプーリ33および送出ローラ20を経て自動結線装置1に達する。
【0015】
ワイヤ送出部を構成する送出ローラ20は、サーボモータ21によって正逆回転する駆動ローラ22と、駆動ローラ22に従動してワイヤ電極2を押さえるピンチローラ23、24とから構成されている。一例としてピンチローラ23のローラ部分はセラミックから、ピンチローラ24のローラ部分はゴムからなる。
【0016】
自動結線装置1は、張力が付与されたワイヤ電極2に加熱電流を供給する一対の通電電極41、42と、一対の通電電極41、42間に設けられてワイヤ電極2を案内するガイドパイプ10と、ガイドパイプ10の供給機構30側に設けられてガイドパイプ10の中に流体を供給する流体供給装置16とを有する。
【0017】
通電電極41は、ワイヤ電極2を送り出したり巻き上げたりする正逆転ローラとして兼用される。すなわち、ローラ状に形成された通電電極41は、接続されたモータ45によって正逆回転し、対向配置されたピンチローラ43との間でワイヤ電極2を挟み込んで、ワイヤ電極2を正逆方向に送る。一方、通電電極42は、対向配置されたピンチローラ44との間でワイヤ電極2を保持する。通電電極41およびピンチローラ43は供給機構30側に、通電電極42およびピンチローラ44は排出機構70側に、ガイドパイプ10を挟んでそれぞれ配置されている。
【0018】
一対の通電電極41、42は、通電電源47に接続され、ワイヤ電極2に加熱電流を供給する。このときワイヤ電極2には、ワイヤ電極2を破断させない程度の、加工中の張力よりも弱い張力が付与されている。加熱電流と張力は、ワイヤ電極2の線径や材質に合わせて設定される。通電電源47から供給される加熱電流は、通電電源47の抵抗値を変えることによって変更することができる。また、一対の通電電極41、42間におけるワイヤ電極2の張力は、サーボモータ21のトルクを変えることによって変更することができる。
【0019】
ガイドパイプ10は、通電電極41と後述する上側ワイヤガイド62との間に配置されている。ガイドパイプ10は、アクチュエータで作動する昇降装置15によって昇降する。ガイドパイプ10は、自動結線を行わないときは、上限位置まで上昇して停止している。ガイドパイプ10は、ワイヤ電極2を下穴4に挿通させるときは、ワイヤ電極2を送り出すのに合わせて少なくとも上側ワイヤガイド62の直上位置まで下降して、ワイヤ電極2を上側ワイヤガイド62に案内する。ガイドパイプ10は、自動結線装置1の本体側に支持された上下動部材(図示せず)に、キャップ14で締め付けて取り付けられている。
【0020】
流体供給装置16は、例えば圧縮空気供給装置であり、図示しないエアコンプレッサのような圧縮空気供給源と、レギュレータとを含む。この構成とされたとき、流体供給装置16から供給される流体は圧縮空気である。流体供給装置16は、自動結線時に圧縮空気供給源の高圧の圧縮空気をレギュレータで所定の圧力に調整し、ガイドパイプ10内に圧縮空気を供給する。こうして流体供給装置16は、排出機構70の方を向く下降気流を発生させて、ワイヤ電極2を走行経路に沿って下方向すなわち排出機構70側に送り出すとともに、ワイヤ電極2に直進性を与える。
【0021】
自動結線装置1はさらに、ワイヤ電極2の荒れた先端を切断して廃棄する先端処理装置50を有する。先端処理装置50は、ワイヤ電極2を切断する切断装置51と、切断装置51より切断されて不要になったワイヤ電極2の切断片を回収する廃棄ボックス52と、ワイヤ電極2の切断片を把持して廃棄ボックス52まで搬送するクランプユニット53と、ワイヤ電極2の先端を検出する先端検出器54とを含む。
【0022】
また、このワイヤ放電加工装置においては、上側ガイドアッセンブリ60と下側ガイドアッセンブリ61とが設けられている。被加工物3の上側つまり供給機構30側に設けられる上側ガイドアッセンブリ60は、上側ワイヤガイド62と、上通電体63と、加工液噴流ノズル64とがハウジングに一体的に組み込まれてなるユニットである。また、被加工物3の下側つまり排出機構70側に設けられる下側ガイドアッセンブリ61は、図示しない下側ワイヤガイドと、下通電体と、加工液噴流ノズルとがハウジングに一体的に組み込まれてなるユニットである。上側ワイヤガイド62と下側ワイヤガイドは、被加工物3に可能な限り近い位置でワイヤ電極2を位置決めして案内する。上通電体63と下通電体は、ワイヤ電極2に放電加工のための電流を供給する。
【0023】
さらに、このワイヤ放電加工装置においては、上側ガイドアッセンブリ60の加工液噴流ノズル64および下側ガイドアッセンブリ61の加工液噴流ノズルのチャンバに、高圧の放電加工液を供給する高圧加工液供給装置65が設けられている。高圧加工液供給装置65からは、必要に応じて選択的に加工液噴流ノズルのチャンバに高圧加工液が供給される。このチャンバに溜められた所定圧力の加工液噴流は、加工液噴流ノズルから被加工物3の加工間隙つまり下穴4に向けて、ワイヤ電極2の走行経路軸線に対して同軸に噴射される。こうしてワイヤ電極2は、加工液噴流で拘束されながら、下穴4に挿通される。
【0024】
排出機構70は、被加工物3の加工に供されて消耗した使用済のワイヤ電極2を、加工部位から回収する。この排出機構70は、被加工物3において垂直に張架されるワイヤ電極2の走行経路に対してオフセットを与えると共に、送り出されるワイヤ電極2の進行方向を転換するアイドリングローラ71と、ワイヤ電極2を流体で搬送する搬送装置72と、ワイヤ電極2を巻き取る巻取ローラ73と、使用済のワイヤ電極2を回収するバケット74とを含む。
【0025】
上記構成を有するワイヤ放電加工装置においては、上述した上通電体63および下通電体から給電されるワイヤ電極2と、図示外の通電体を介して給電される被加工物3との間の加工間隙(下穴4)において加工液中で放電が生じ、それにより被加工物3が加工される。その際、被加工物3を載置している図示外のテーブルがワイヤ電極2に対して相対移動されることにより、被加工物3が所望の形状に加工され得る。
【0026】
なお、張架されているワイヤ電極2を意図的に切断して新たに被加工物3の加工開始孔に挿通する場合や、ワイヤ電極2が不慮の断線をした場合には、自動結線装置1によってワイヤ電極2が自動的に結線される。この自動結線装置1による自動結線は、例えば特開2016−221654号公報等に示される従来公知の手法が適用可能であり、その詳細についての説明は省略する。
【0027】
次に、図2に示す本発明の一実施形態によるワイヤ残量検出装置について説明する。なおこの図2は、電気的な構成についてはブロック図として示している。また図2ではブロック図以外に、図1に示したものと同じサーボモータ21、駆動ローラ22、ピンチローラ23およびワイヤボビン31に加えて、後述する近接センサ38を示している。
【0028】
ここで図3に、ワイヤボビン31周りの構成を示す。図示の通りワイヤボビン31は、ボビン保持板36を貫通する回転軸先端のリール32に装填されて回転自在に保持されており、前述したようにブレーキモータ40が直結されているリール32によってワイヤ電極2を送り出す方向とは反対の方向に所定のトルクで回転駆動される。したがって、ワイヤボビン31に負荷がないときは、ワイヤボビン31は、所定の回転速度で逆回転するが、ワイヤ電極2が送出ローラ20によって加工間隙に向けて送り出されているときは、ワイヤボビン31に所定のブレーキ力が発生し、ワイヤ電極2にバックテンションが付与される。リール32には、リール32と一体的に回転する近接センサ検知板37がリール32の回転軸心と同軸状態に固定されている。近接センサ検知板37は、例えば15個の貫通孔が周方向に均等に設けられた円板である。ボビン保持板36には、近接センサ検知板37の上記貫通孔に向き合う位置に配された近接センサ38が取り付けられている。近接センサ38は例えば誘導形や静電容量形のものであり、近接センサ検知板37に設けられている上記貫通孔が正対位置を通過する度にパルス信号を発するので、ワイヤボビン31が1回転する毎に15個のパルス信号が出力される。ボビン保持板36を挟んで上記貫通孔に対向するように機械式のボビンブレーキ39が取り付けられており、上記貫通孔にストッパを嵌入して、負荷がないときにブレーキモータ40によって逆回転するワイヤボビン31を、必要に応じて一時的に回転不能に固定させておくことができる。
【0029】
図2に戻って説明を続けると、ワイヤ残量検出装置は基本的に、上記近接センサ38と、近接センサ38が出力するパルス信号S1が入力される回転数演算器80と、回転数演算器80が出力する回転速度信号S2が入力される巻径演算器81と、巻径演算器81が出力する巻径信号S3が入力されるワイヤ演算器82と、ワイヤ演算器82が出力するワイヤ残量信号S4が入力される表示装置83と、駆動ローラ22を回転させるサーボモータ21のエンコーダパルスS5が入力される速度検出器84と、入力部85と、記憶部86とから構成されている。速度検出器84は、上記エンコーダパルスS5に基づいてワイヤ電極2の送り速度を検出し、ワイヤ送り速度信号S6を出力する。このワイヤ送り速度信号S6は、上記巻径演算器81および後述する測長器87に入力される。
【0030】
図2の構成においてはさらに、記憶部86に接続された測長器87と、回転数演算器80が出力する回転速度信号S2および巻径演算器81が出力する巻径信号S3が入力される空判別器88と、この空判別器88が出力するボビン空信号S7が入力されるモータ制御装置89とが設けられている。
【0031】
一般にワイヤボビン31としては複数の規格のものが存在し、放電加工に際してはそれらのワイヤボビン31から、加工に適した1つのものが選択して使用される。表1には、そのような複数の規格の各々におけるワイヤボビン31の各部の寸法例を示す。なお、各規格が規定する鍔径D等の寸法は、それぞれ図4に示す部分についての寸法である。
【0032】
【表1】
【0033】
また、ワイヤボビン31に巻回するワイヤ電極2としては、例えば0.05mm、0.1mm、0.2mm等と互いに異なる外径φのワイヤ電極2の中から1種のワイヤ電極2が選択して使用される。ワイヤ電極2がワイヤボビン31に巻回されたとき、巻回されているワイヤ電極2の長さ(ワイヤ残量)と、ワイヤ電極2の巻回外径(ワイヤ巻径)との関係は、ワイヤボビン31の胴径dと、ワイヤボビン31の内幅Wと、ワイヤ電極2の外径φとによって一義的に定まる。本実施形態では、上記胴径dおよび内幅Wが、ワイヤ巻径に関与するワイヤボビン31の仕様であり、上記外径φが、ワイヤ巻径に関与するワイヤ電極2の仕様である。
【0034】
図2に示す記憶部86は、後述するようにして実測された、ワイヤボビン31およびワイヤ電極2の仕様毎のワイヤ巻径Rとワイヤ残量Sとの関係を、該仕様と対応付けて記憶している。図5には、上記ワイヤ巻径Rとワイヤ残量Sとの関係を、それぞれα、βとして2例示す。
【0035】
次に図2を参照して、ワイヤ放電加工中になされるワイヤ残量の検出について説明する。ワイヤ放電加工を開始するのに先行して、入力部85には、使用されるワイヤボビン31およびワイヤ電極2の仕様が入力される。この入力は、ワイヤボビン31の胴径d、内幅Wおよびワイヤ電極2の外径φの数値を入力することによってなされる。あるいは、ワイヤボビン31の胴径dおよび内幅Wは、表1に示したようにワイヤボビン31の規格毎に定まっているから、ワイヤボビン31の仕様の入力は、この規格を入力することによって間接的になされてもよい。入力されたワイヤボビン31およびワイヤ電極2の仕様は、巻径演算器81を経てワイヤ演算器82に入力される。
【0036】
ワイヤ放電加工がなされているとき、ワイヤ送出部を構成する駆動ローラ22によって、ワイヤボビン31からワイヤ電極2が略一定の速度で引き出される。それにより、ワイヤボビン31が回転するので、近接センサ38は前述したパルス信号S1を刻々出力する。回転数演算器80は、このパルス信号S1に基づいて、ワイヤボビン31の所定の検出周期における回転数つまり回転速度を検出する。このように本実施形態では、近接センサ38と回転数演算器80とによって、ワイヤボビン31の回転速度を検出する回転速度検出手段が構成されている。回転数演算器80は、検出したワイヤボビン31の回転速度を示す回転速度信号S2を出力し、この回転速度信号S2は巻径演算器81に入力される。
【0037】
また、ワイヤ放電加工がなされているとき、サーボモータ21のエンコーダパルスS5が速度検出器84に入力される。速度検出器84はこのエンコーダパルスS5に基づいて、ワイヤ電極2の送り速度を検出し、検出した速度を示すワイヤ送り速度信号S6を出力する。このワイヤ送り速度信号S6も、巻径演算器81に入力される。巻径演算器81は、このワイヤ送り速度信号S6が示すワイヤ送り速度、および上記回転速度信号S2が示すワイヤボビン回転速度に基づいて、ワイヤボビン31におけるワイヤ電極2の巻回外径、つまりワイヤ巻径を演算する。この演算は、例えば下記の式によってなされる。なお一例としてワイヤ送り速度は、10m/min≒167mm/s程度とされる。
ワイヤ巻径(mm)=
ワイヤ送り速度(mm/s)/{π・ワイヤボビン回転速度(回/s)}・・・(1)
【0038】
巻径演算器81は、以上のようにして求めたワイヤ巻径を示す巻径信号S3を出力し、この巻径信号S3はワイヤ演算器82に入力される。ワイヤ残量検出部としてのワイヤ演算器82は、巻径信号S3が示すワイヤ巻径と、記憶部86が記憶しているワイヤボビン31およびワイヤ電極2の仕様毎のワイヤ巻径Rとワイヤ残量Sとの関係とに基づいて、ワイヤボビン31におけるワイヤ残量Sを求める。
【0039】
すなわちワイヤ演算器82は、ワイヤ放電加工を開始する前に入力部85に入力されたワイヤボビン31およびワイヤ電極2の仕様に基づいて、この仕様と対応付けて記憶部86に記憶されているワイヤ巻径Rとワイヤ残量Sとの関係を記憶部86から読み出し、この関係を示す信号S8を取り込む。そしてワイヤ演算器82は、巻径信号S3が示すワイヤ巻径を上記関係におけるワイヤ巻径Rに当てはめて、ワイヤ残量Sを求める。ワイヤ演算器82は、求めたワイヤ残量Sを示すワイヤ残量信号S4を出力し、このワイヤ残量信号S4は表示装置83に入力される。例えば液晶表示装置等からなる表示装置83は、ワイヤ残量信号S4が示すワイヤ残量Sを表示画面に表示させる。ワイヤ放電加工を行っている作業者等は、表示装置83の表示を見て、ワイヤボビン31においてワイヤ電極2がどの程度の長さ残っているかを知ることができる。
【0040】
以上説明した通り、本実施形態のワイヤ残量検出装置によれば、実測したワイヤ巻径Rとワイヤ残量Sとの関係を利用してワイヤ残量を求めているので、ワイヤボビン31におけるワイヤ残量を高精度で求めることが可能になる。
【0041】
なお、図2に示す表示装置83においてワイヤ残量は、単純にワイヤボビン31に残っているワイヤ電極2の長さで示してもよいし、あるいはこの残っているワイヤ電極2の長さと、速度検出器84が検出するワイヤ送り速度とから、以後継続可能と考えられるワイヤ放電加工時間を求め、その加工時間をワイヤ残量として表示装置83に示してもよい。さらに、このような加工時間と、ワイヤボビン31に残っているワイヤ電極2の長さと共に表示装置83に示してもよい。
【0042】
ここで、図5に示したようなワイヤ巻径Rとワイヤ残量Sとの関係を、それらの実測値に基づいて求める点について説明する。ある仕様のワイヤボビン31について上記関係を求める際には、ワイヤ電極2の巻回全長が正確に分かっているワイヤボビン31が用意される。そしてワイヤ放電加工は行わないものの、そのワイヤボビン31からワイヤ放電加工時と同様に、駆動ローラ22によってワイヤ電極2が引き出される。このとき速度検出器84は、前述したのと同様にして、サーボモータ21のエンコーダパルスS5に基づいて、ワイヤ電極2の送り速度を示すワイヤ送り速度信号S6を出力する。
【0043】
このワイヤ送り速度信号S6は測長器87に入力され、測長器87は、例えば、ワイヤ送り速度信号S6を積分して求めることにより、あるいは、ワイヤ送り速度信号S6を累積記録して送出ローラ20の回転数から直接求めることによって、ワイヤボビン31から引き出されたワイヤ電極2の長さを求める。そして測長器87は、ワイヤ電極2の巻回全長から、この引き出されたワイヤ電極2の長さを引くことにより、ワイヤボビン31に残っているワイヤ残量Sを求める。また測長器87には、ワイヤ放電加工時と同様に、巻径演算器81が出力する巻径信号S3が入力される。測長器87は、上記ワイヤ残量Sを示す信号と巻径信号S3とを適当な時間間隔でサンプリングして、ワイヤ巻径Rとワイヤ残量Sとの関係を求め、この関係を示す信号S9を記憶部86に入力する。この関係は、該関係を求める上で用いられたワイヤボビン31およびワイヤ電極2の仕様と対応付けて記憶部86に記憶される。
【0044】
なお図5のワイヤ巻径Rとワイヤ残量Sとの関係αおよびβは、ワイヤボビン31およびワイヤ電極2の仕様が互いに異なる2つの場合について求められたものである。ワイヤボビン31およびワイヤ電極2の仕様が一定である場合は、このような関係は基本的に1つだけ求められるものである。
【0045】
しかし、上記仕様が一定の場合でも、ワイヤ巻径Rおよびワイヤ残量Sの実測を複数回行えば実測誤差等に起因して、ワイヤ巻径Rとワイヤ残量Sとの関係が複数通り求められることも有り得る。そのような場合は、複数通りの上記関係から、それらの平均的な関係を求め、それを記憶部86において記憶させればよい。あるいは、複数通りの上記関係から1つだけ選択して、その選択した関係を記憶部86に記憶させてもよい。ただし、直接ワイヤ電極2の残りの長さを検出しない限りは、計算上の誤差が生じることを避けることができず、何れにしても安全を考慮してワイヤ残量を見積もらないとならないので、実際上は上記のような実測誤差は特に問題となる大きさではない。つまり、ワイヤボビンの製品の品質にもよるが、計算上のワイヤ残量の値を補償するためのデータを複数のワイヤボビン31を使って登録する要求は小さい。むしろ、多数のワイヤボビン31の実測値を累積しても計算上のワイヤ残量の不確定さを小さくすることができる訳ではなく、データを採取する作業の負担を大きくし、ワイヤ電極2をより多く消費するだけであるので、1巻のワイヤボビン31のデータのみを登録するようにする方が望ましい。
【0046】
上述のように、選択した1つの関係を記憶部86に記憶させる場合は、以下の点に注意することが望ましい。以下、図5の関係αおよびβを例に挙げて説明する。ワイヤボビン31が使用に供される前、このワイヤボビン31におけるワイヤ残量はSで、ワイヤ巻径はRであるとする。またワイヤ巻径の最小値がRまで減少したときのワイヤボビン31におけるワイヤ残量は、関係αが選択された場合はSで、関係βが選択された場合はSであるとする。そしてワイヤ残量がかなり少ない設定量になったところで、ワイヤ放電加工作業を一時中断して、ワイヤ電極2を巻回保持しているワイヤボビン31を別の新しい物と交換する要望があるものとする。
【0047】
ワイヤボビン31およびワイヤ電極2の仕様が一定であるのに、αおよびβの2つの関係が求められたということは、実際の関係はαおよびβの中間的な関係である可能性が高い。事実そうであったならば、ワイヤ巻径が最小値R近辺の値であるときのワイヤ残量は、関係αが選択された場合は実際のワイヤ残量よりも少なめに求められ、関係βが選択された場合は実際のワイヤ残量よりも多めに求められることになる。したがって、ワイヤボビン31におけるワイヤ電極2の残量が0(ゼロ)になるまでワイヤボビン31の交換をせずに、ワイヤ放電加工作業を続けてしまう事態を避けるという安全性を重視するならば、ワイヤ巻径に対してワイヤ残量がより少なく見積もられる関係、つまり上記例では関係αを選択するのが望ましいと言える。
【0048】
なお本実施形態では、図2の巻径演算器81がワイヤ巻径を演算する上でのワイヤ送り速度として、速度検出器84が実測した速度を用いているが、このワイヤ送り速度が例えば入力部85やワイヤ放電加工装置の制御部等から加工条件(パラメータ)の一つとして入力されるような場合は、その入力された値をそのままワイヤ送り速度として用いるようにしてもよい。
【0049】
本実施形態においては、図2に示す空判別器88を用いて、ワイヤ放電加工時にワイヤボビン31が空状態、つまりワイヤ電極2が全く残っていない状態になったことが検出される。以下、この空状態検出について説明する。
【0050】
図6は、図2の巻径演算器81が出力する巻径信号S3が示すワイヤ巻径と、同じく図2の速度検出器84が出力するワイヤ送り速度信号S6が示すワイヤ送り速度(ワイヤ速度)と、図1の張力検出器35が検出するワイヤ電極2の張力(ワイヤ張力)の、時間経過に伴う変化の様子を示すグラフである。空判別器88には、上記巻径信号S3と、回転数演算器80が出力する回転速度信号S2が入力される。
【0051】
ワイヤ放電加工装置においては、被加工物3の加工間隙においてワイヤ電極2を緊張状態に配置する必要があるので、一般に、図1に示すテンションローラを兼用する送出ローラ20と巻取ローラ73とからなる、ワイヤ電極2を挟持する手段が設けられる。その一方、ワイヤボビン31が装着されるリール32には、前述した通りのブレーキモータ40が組み合わされているので、ワイヤボビン31と送出ローラ20との間のワイヤ電極2に所定のバックテンションが付与されている。リール32から巻取ローラ20までの間を走行中のワイヤ電極2は、僅かに振動しているので、例えば図6の時間0からT1までの範囲に示す通り、張力検出器35によって検出される張力には微小な振動成分が含まれているが、加工間隙におけるワイヤ電極2には、概ね一定の張力が発生している。
【0052】
ここで、図6に示す時間T1においてワイヤボビン31が空状態、つまりワイヤ電極2が全く巻回されていない状態になったとすると、それに次いでワイヤ巻径には、同図中に「Q」を付した円で示すように急激に低下する変化が生じる。以下、この点について詳しく説明する。時間T1において、ワイヤボビン1に巻回保持されていたワイヤ電極2の終端がワイヤボビン31から離れると、ワイヤボビン31には上記ブレーキモータ40によって、ワイヤ電極2が引き出される際の回転方向(正方向)とは逆方向の力が作用していることから、ワイヤボビン31は瞬間的に回転停止してから、上記逆方向に回転するようになる。
【0053】
図7には、このときの近接センサ38からのパルス信号S1の波形を示す。図示されるようにパルス信号S1は、上記のようにワイヤボビン31が瞬間的に回転停止している期間は立ち上がらなくなり、この期間が過ぎると、上記ブレーキモータ40によるワイヤボビン31の逆方向への回転に伴って再度立ち上がるようになる。本例では、このワイヤボビン31の逆方向回転は、加速期間を経て、ワイヤ電極2の引き出し時の正方向回転の回転速度よりも高速になるので、パルス信号S1のパルス幅および周期は最終的に、上記回転停止より前の期間におけるものよりも短くなっている。
【0054】
ワイヤボビン31の回転が一瞬停止して所定の演算期間中のパルス信号S1の数が極端に少なくなると、検出されるワイヤボビンの回転速度が急に著しく遅くなるから、送出ローラ20の送り速度とワイヤボビン31の回転速度とで算出される計算上の巻径は、一度増大する。実施の形態においては、実用上1秒ないし数秒程度の所定の演算周期で巻径を算出するようにしているため、図6に示されるグラフの時刻T1において、僅かに巻径の上昇が見られるが、仮に演算周期を極限まで短縮させていくと、ワイヤボビン31の回転が瞬間的に停止したときの演算期間中のワイヤボビン31の回転速度が極限まで0に近付いていくので、図6のグラフ上の巻径の増大の現象がよりはっきりと表れる。その直後に、ブレーキ力によってワイヤボビン31が逆回転を始めて回転数を上げていくと、検出されるワイヤボビン31の回転速度が上昇して、今度は、巻径が急激に小さく算出される。所定の演算周期が1秒ないし数秒であるので、図7のパルス信号Sの発生度合と照らし合わせると、図6に示される時刻T1から暫らく後のQ点において巻径を示す線に段差が生じる。したがって、図6に示すワイヤ巻径の急激な低下は、ワイヤボビン31が瞬間的に回転停止した直後に高速に逆回転したことによるものである。そして、この急激な低下に続くやや低い値での推移は、ワイヤボビン31の上記逆回転が定速に移行したことによるものである。
【0055】
空判別器88は、入力された巻径信号S3から、ワイヤ巻径の急激な低下を検出すると、ワイヤボビン31が空状態になったと判別する。具体的には、例えば、常時1秒ないし数秒の演算周期毎に新しく算出した巻径を前に算出した巻径と比較することによって、時刻T1における巻径が増大する現象とその後のQ点における巻径の低下を検出することができる。より具体的には、前に算出した巻径よりも後に算出した巻径が大きいときに、時刻T1において、ワイヤボビン31にワイヤ電極2が無くなってワイヤボビン31の回転が一瞬停止したとことを判別することができ、その次の演算期間後には、すでにワイヤボビンが正常な回転速度を超える高速で逆回転し始めているので、パルス信号S1の急激な増加から巻径の急激な低下を検知することができる。このワイヤ巻径の急激な低下の現象だけでワイヤボビン31が空状態になったことを判別しようとする場合は、例えば、前に算出した巻径と後に算出した巻径との差が所定の閾値を超えるほど大きく変化した場合に「急激な低下」であると見なすようにすることができる。上記の閾値は、例えば、前後の演算期間の短期間にワイヤ電極の直径を超えて巻径が減少するはずがないことを考えると、上記巻径の差としてワイヤ電極の直径の1.5倍から2倍程度とした値に設定する。空判別器88はこの判別がなされると、ワイヤボビン31が空状態であることを示すボビン空信号S7をモータ制御装置89に入力する。モータ制御装置89はボビン空信号S7を受けると、サーボモータ21に駆動停止を指示する制御信号S10を送り、このサーボモータ21の回転つまりは駆動ローラ22の回転を停止させる。
【0056】
図6に示すワイヤ張力およびワイヤ速度(実質送り速度)は、以上述べたようにワイヤボビン31が空状態になってからもそのまま駆動ローラ22の回転を継続させた場合の変化を示している。こうした場合に、ワイヤボビン31から離れたワイヤ電極2の終端が駆動ローラ22とピンチローラ23との間に到達する時間をT2とし、ワイヤ電極2の終端が駆動ローラ22とピンチローラ24(図1参照)との間に到達する時間をT3とする。同図に示される通りワイヤ張力は、ワイヤ電極2の終端が駆動ローラ22とピンチローラ23との間を通過すると大きく低下し、さらに該終端が駆動ローラ22とピンチローラ24との間を通過するとさらに大きく低下する。他方ワイヤ速度は、ワイヤ電極2の終端が駆動ローラ22とピンチローラ23との間を通過するとこれらのローラによる挟持が無くなったことにより大きく増大(実際には所定のワイヤ張力まで上げようとして駆動ローラ22の回転数が増加)し、さらに該終端が駆動ローラ22とピンチローラ24との間を通過すると、送り力を失って大きく低下して実質0になる(実際にはワイヤ張力がワイヤ断線を検出する閾値を下回ったため、駆動ローラ22が制御を停止したもの)。
【0057】
ワイヤ電極2の終端がワイヤボビン31から離れた後、駆動ローラ22とピンチローラ23との間に到達するには、一般的なワイヤ放電加工において設定される送り速度でワイヤ電極2を供給しているときで、少なくとも5秒程度の時間を要する。一方、空判別器88がワイヤボビン31の空状態を判別してから、モータ制御装置89が出力した制御信号S10によってサーボモータ21の回転が停止するまでに要する時間は、5秒程度よりも明らかに短い。したがって、上述の通りにしてサーボモータ21の回転を停止させれば、ワイヤ電極2の終端よりも前の部分を駆動ローラ22とピンチローラ23とで挟持して、該終端が被加工物の加工間隙に入ってしまうことを防止できる。そこで、ワイヤ電極2の終端によって被加工物の加工面が傷付けられることを防止可能となる。また、ワイヤボビン31は空状態になってから新しいものと替えられることになるから、そのワイヤボビン31にワイヤ電極2が残存して、ワイヤ電極2が無駄になることも防止できる。
【0058】
以上説明した実施形態における空判別器88は、巻径演算器81が演算したワイヤ電極2の巻径の急激な変化から、ワイヤボビン31の回転速度の急激な変化を検知するようにしている。しかしそれに限らず空判別器88は、回転数演算器80が出力する回転速度信号S2を直接利用して、ワイヤボビン31の回転速度の急激な変化を検知するように構成されてもよい。
【0059】
そのようにする場合、回転速度信号S2がワイヤボビン31の回転速度を回転方向も区別して示すものであるならば、回転速度の絶対値を、例えば前述したような閾値と比較することにより、回転速度の急激な変化を検知するようにすればよい。また、回転速度信号S2がワイヤボビン31の回転速度を回転方向も区別して示すものである場合は、回転方向が反転したことを、回転速度の急激な変化として検知してもよい。
【0060】
また、回転数演算器80が出力する回転速度信号S2を直接利用して、ワイヤボビン31の回転速度の急激な変化を検知する場合においても、回転速度信号S2がワイヤボビン31の回転速度を大きさだけ(つまり回転方向は無視して)示すことがあり得る。その場合も、ワイヤ電極2の巻径の急激な変化を利用する場合と同様に、正値を取る回転速度に対して同じく正値の閾値を設定し、該閾値を回転速度が超えることを検知して、ワイヤボビン31の回転速度の急激な変化を検知することができる。
【0061】
本発明は、図面に示される実施形態の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形または応用が可能である。
【符号の説明】
【0062】
2 ワイヤ電極
20 送出ローラ
22 駆動ローラ
23、24 ピンチローラ
31 ワイヤボビン
38 近接センサ
40 ブレーキモータ
80 回転数演算器
81 巻径演算器
82 ワイヤ演算器(ワイヤ残量検出部)
83 表示装置
84 速度検出器(ワイヤ速度検出手段)
85 入力部
86 記憶部
87 測長器
88 空判別器
89 モータ制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7