(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779249
(24)【登録日】2020年10月15日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】過酸化水素を用いた粘土鉱物中のセシウムの除去方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20201026BHJP
C01B 33/40 20060101ALI20201026BHJP
B09C 1/02 20060101ALI20201026BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20201026BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
G21F9/28 521Z
C01B33/40ZAB
B09C1/02
B09C1/08
G21F9/28 Z
G21F9/12 511A
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-80169(P2018-80169)
(22)【出願日】2018年4月18日
(65)【公開番号】特開2019-158856(P2019-158856A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2018年5月18日
(31)【優先権主張番号】10-2018-0028902
(32)【優先日】2018年3月12日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0036384
(32)【優先日】2018年3月29日
(33)【優先権主張国】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開場所Korean Radioactive Waste Society Conference、学会名Korean Radioactive Waste Society、公開日平成29年(2017年)10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】597060645
【氏名又は名称】コリア アトミック エナジー リサーチ インスティテュート
【氏名又は名称原語表記】KOREA ATOMIC ENERGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】キム イルグク
(72)【発明者】
【氏名】イ クンウ
(72)【発明者】
【氏名】パク チャヌ
(72)【発明者】
【氏名】ユン インホ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ヒマン
(72)【発明者】
【氏名】ソ ボムギョン
【審査官】
大門 清
(56)【参考文献】
【文献】
特開2018−017510(JP,A)
【文献】
特開2013−094723(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/186873(WO,A1)
【文献】
特開2016−001115(JP,A)
【文献】
特表2014−529067(JP,A)
【文献】
特開2012−230096(JP,A)
【文献】
特開2015−051416(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2010−0117715(KR,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0112241(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0314858(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
G21F 9/28
B01J 39/00
B01D 15/00
B09C 1/00
C01B 33/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)セシウムにより汚染された粘土鉱物に過酸化水素を混合して層間拡張を起こすステップ、
(b)前記セシウムとイオン交換可能な陽イオンで前記粘土鉱物からセシウムを脱着するステップ、及び
(c)前記脱着されたセシウムを粘土鉱物から分離するステップを含み、
前記(b)ステップにおいて、前記陽イオンは2価陽イオンを含むことを特徴とする、
粘土鉱物中のセシウムの除去方法。
【請求項2】
前記(a)ステップで、粘土鉱物は、2:1層状構造を有する粘土鉱物を含むことを特徴とする、
請求項1に記載の粘土鉱物中のセシウムの除去方法。
【請求項3】
前記(a)ステップで、粘土鉱物は、ハイドロバイオタイト(hydrobiotite);スメクタイト(smectite)系鉱物;バーミキュライト(vermiculite);雲母(mica)系鉱物;及びイライト(illite)からなる群より選択される一つ以上を含むことを特徴とする、
請求項1に記載の粘土鉱物中のセシウムの除去方法。
【請求項4】
前記スメクタイト(smectite)系鉱物は、モンモリロナイト(montmorillonite)、バイデライト(beidellite)、ノントロナイト(nontronite)、ヘクトライト(hectorite)及びソーコナイト(sauconite)からなる群より選択される一つ以上を含むことを特徴とする、
請求項3に記載の粘土鉱物中のセシウムの除去方法。
【請求項5】
前記雲母(mica)系鉱物は、バイオタイト(biotite、黒雲母)、マスコバイト(muscovite、白雲母)、フロゴパイト(phlogopite、金雲母)及びレピドライト(lepidolite、リチア雲母)からなる群より選択される一つ以上を含むことを特徴とする、
請求項3に記載の粘土鉱物中のセシウムの除去方法。
【請求項6】
前記(a)ステップで、過酸化水素は30〜50%水溶液を添加することを特徴とする、
請求項1に記載の粘土鉱物中のセシウムの除去方法。
【請求項7】
前記2価陽イオンは、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、及びバリウムイオンからなる群より選択される一つ以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の粘土鉱物中のセシウムの除去方法。
【請求項8】
過酸化水素、セシウムとイオン交換可能な陽イオン、及びセシウムにより汚染された粘土鉱物を混合して反応させる反応部、及び
前記反応部からセシウムが除去された粘土鉱物とセシウムが含まれた反応溶液とに分離する固液分離部を含み、
前記反応部は、セシウムにより汚染された粘土鉱物に過酸化水素を添加して反応させる第1反応部と、前記過酸化水素に反応させた粘土鉱物に陽イオンを添加して反応させる第2反応部と、を含み、
前記陽イオンは2価陽イオンを含むことを特徴とする、
セシウム汚染粘土の処理装置。
【請求項9】
前記反応部は、過酸化水素及び陽イオンを反応させる第1反応部;及び
セシウムにより汚染された粘土鉱物に前記過酸化水素と陽イオンの混合物を添加して反応させる第2反応部を含むことを特徴とする、
請求項8に記載のセシウム汚染粘土の処理装置。
【請求項10】
前記反応部と固液分離部との間に反応物に凝集剤を添加して混合させる凝集部をさらに含むことを特徴とする、
請求項8に記載のセシウム汚染粘土の処理装置。
【請求項11】
前記固液分離部で分離された反応溶液からセシウムを処理する後処理部をさらに含むことを特徴とする、
請求項8に記載のセシウム汚染粘土の処理装置。
【請求項12】
前記粘土鉱物は、2:1層状構造を有する粘土鉱物を含むことを特徴とする、
請求項8に記載のセシウム汚染粘土の処理装置。
【請求項13】
前記過酸化水素は、30〜50%水溶液を添加することを特徴とする、
請求項9に記載のセシウム汚染粘土の処理装置。
【請求項14】
前記2価陽イオンは、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、及びバリウムイオンからなる群より選択される一つ以上であることを特徴とする、
請求項8に記載のセシウム汚染粘土の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素を用いた粘土鉱物中のセシウムの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の解体後には、その周辺から土壌及び地下水内に放射性核種による汚染が現われる。これは、非計画的漏出により発生し、土壌中の水分によりイオン化された核種が地表面または土壌の深さ方向に拡散して発生する。放射性核種のうち、特にセシウム(Cs
137)の場合、一般に土壌の深さ10cm程度まで汚染され、土壌中の粘土鉱物に選択的に強く吸着されると知られており、一般の土壌浄化方法では除去が難しい。
【0003】
日本の福島原子力発電所事故の後、多量の放射性汚染土壌廃棄物が発生し、これを解決するための研究が活発に進められている。粘土鉱物に吸着されたセシウムの除去技術として、主に陽イオン交換による脱着に関する研究が進められているが、選択的に吸着されたセシウムに対しては非常に低い除去率を示すという短所がある。これを解決するため、1,000℃以上の高温でセシウムを気化及び除去する熱処理方法に対する実験室規模の技術開発が実行された。しかし、この技術は、高い除去率にもかかわらず、大容量の土壌処理のためには安定性の維持が難しく、エネルギーの消耗が多く、発生した灰の処理などの問題点がある。その他、高濃度(6M)の酸(硝酸、塩酸)を約90℃程度に加熱する方法も提示されたが、該技術は、高濃度の酸の取り扱いが難しく、且つ酸溶液の再使用が難しいためコストが増加し、大容量の土壌を処理する場合、装置の大型化が必要であり、エネルギーの消耗が多いという問題点がある。
【0004】
粘土鉱物は、全体的に負電荷を帯び、高い陽イオン交換能力(Cation Exchange Capacity)を有しているので、陽イオンが強く吸着できる。しかし、粘土鉱物の種類と状態によって吸着可能な陽イオンの種類と陽イオン交換能力がそれぞれ異なるように現われる。
【0005】
特に、粘土鉱物を構成する基本要素として2個の四面体シート(tetrahedral sheet、SiO
4)と1個の八面体シート(octahedral sheet、Al(OH)
6)が結合する2:1格子型粘土鉱物は、格子間に層間(interlayer)を有するようになるが、層間に存在する陽イオンにより湿潤条件で容易に膨潤されない格子型粘土鉱物の場合、格子間の電荷密度が高いため、セシウムの吸着が外部よりも格子間で優先して起きることができる。また、このような格子間におけるセシウムの吸着は、内圏錯体(inner−sphere complex)の形態で強く結合されて安定に固定されるので、除去が非常に難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】大韓民国公開特許第10−2005−0120312号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、過酸化水素を用いた粘土鉱物中のセシウムの除去方法及びセシウム汚染粘土の処理装置を提供することを目的とする。
【0008】
しかし、本発明で達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及していないまた他の課題は、以下の記載から当業者であれば明確に理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の問題点を解決するためのものであって、(a)セシウムにより汚染された粘土鉱物に過酸化水素を混合して層間拡張を起こすステップ、(b)前記セシウムとイオン交換可能な陽イオンで前記粘土鉱物からセシウムを脱着するステップ、及び(c)前記脱着されたセシウムを粘土鉱物から分離するステップを含む粘土鉱物中のセシウムの除去方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、過酸化水素、セシウムとイオン交換可能な陽イオン、及びセシウムにより汚染された粘土鉱物を混合して反応させる反応部、及び前記反応物からセシウムが除去された粘土鉱物とセシウムが含まれた反応溶液とに分離する固液分離部を含むセシウム汚染粘土の処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、粘土鉱物中のセシウムを除去するために過酸化水素を用いることを特徴とする。過酸化水素は、粘土鉱物の層間拡張を誘導することによって陽イオンが粘土鉱物の層間に進入しやすくすることで、セシウムの脱着効率をより向上させることができる。
【0012】
本発明は、放射性核種により汚染された原子力施設の多様な敷地だけではなく、福島原子力発電所事故のような重大事故の発生時に、放射性核種により幅広く汚染された住居地域内の土壌を修復するのに効率的に用いることができ、放射性汚染土壌を過酸化水素と陽イオンのみを用いて処理するので、廃棄物による2次環境汚染を顕著に減らすことができ、廃棄物の処理費用を節約することができるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例による方法により、セシウムが吸着された粘土鉱物から過酸化水素で層間拡張を誘導した後、陽イオン交換反応を通じてセシウムを除去する方法を簡略に示した模式図である。
【
図2】本発明の一実施例による粘土鉱物に過酸化水素及び2価の陽イオンを処理した前後のX線回折(XRD)分析結果を示した図である。
【
図3】本発明の一実施例によるハイドロバイオタイト(Hydrobiotite)でのセシウムの脱着効率を比較した結果である。
【
図4】本発明の一実施例によるモンモリロナイト(montmorillonite)でのセシウムの脱着効率を比較した結果である。
【
図5】本発明の一実施例によるイライト(illite)でのセシウムの脱着効率を比較した結果である。
【
図6】本発明の一具現例によるセシウム汚染粘土の処理装置を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、粘土鉱物中のセシウムを効果的に除去するための方法を研究した結果、過酸化水素の分解時に発生する酸素気体の爆発を粘土鉱物の層間拡張に適用した場合、セシウムの除去効率が向上することを確認し、本発明を完成した。
【0016】
本発明は、(a)セシウムにより汚染された粘土鉱物に過酸化水素を混合して層間拡張を起こすステップ、(b)前記セシウムとイオン交換可能な陽イオンで前記粘土鉱物からセシウムを脱着するステップ、及び(c)前記脱着されたセシウムを粘土鉱物から分離するステップを含む粘土鉱物中のセシウムの除去方法を提供する。
【0017】
図1は、本発明の一具現例による粘土鉱物中のセシウムの除去方法を簡単に示した図である。
【0018】
図1に示したように、本発明の一具現例による粘土鉱物中のセシウムの除去方法は、セシウムにより汚染された粘土鉱物に過酸化水素を混合して粘土鉱物の層間拡張を誘導し、陽イオン交換反応を通じて粘土鉱物からセシウムを分離することで行われる。
【0019】
まず、本発明の一具現例による粘土鉱物中のセシウムの除去方法は、セシウムにより汚染された粘土鉱物に過酸化水素を混合して層間拡張を起こすステップ((a)ステップ)を含む。
【0020】
本明細書における「粘土鉱物」とは、粘土を構成する鉱物を意味するものであって、粘土には、石英や長石などの1次鉱物が含まれるが、通常、これらの含量は少なく、粘土の大部分は2次鉱物で構成されている。「2次鉱物」とは、岩石や母材を構成する1次鉱物が変質されるか、または風化作用の結果溶解された成分が再結合して生成された鉱物を意味する。このような粘土鉱物は、微細であるため表面積が大きく、反応性が豊かであり、その含量と種類は、土壌の理化学性を大きく左右する。
【0021】
前記粘土鉱物は、負電荷を形成するため高い陽イオン交換能力を有しており、陽イオンが強く吸着され得る。粘土鉱物は、基本的に四面体シート(SiO
4)と八面体シート(Al(OH)
6)が酸素と水酸基を共有しながら形成される。四面体シート内で主陽イオンSiO
4+がAl
3+またはFe
3+と同型置換されて負電荷を形成するようになり、四面体シートと八面体シートが酸素または水酸基を共有しながら一つの[SiAlO
4]
−層(layer)を形成するようになる。
【0022】
具体的に、四面体シートと八面体シートは、酸素と水酸基を共有してそれぞれ一つずつ結合する1:1層状構造と、一つの八面体シートと二つの四面体シートとが結合する2:1層状構造と、に区分される。1:1層状構造を有する粘土鉱物の代表的な例としては、カオリナイト(kaolinite)があり、2:1層状構造を有する粘土鉱物の代表的な例としては、スメクタイト(smectite)、バーミキュライト(vermiculite)、雲母(mica)、イライト(illite)がある。
【0023】
セシウムの吸着能力と選択性の差は、同一の構造と化学組成を有した粘土鉱物であっても、セシウムが吸着できる位置が異なるため発生する。1:1格子型粘土鉱物の場合、周辺に水分が多くても容易に膨潤されないので、格子内部にセシウムイオンが浸透しにくく、主に粘土鉱物の外部にセシウムが水和してイオン交換形態に吸着される。2:1格子型粘土鉱物の場合、格子間に層間を有するようになり、層間に存在する陽イオンの種類または風化の程度によって粘土鉱物の種類が分けられる。膨脹性の大きいスメクタイトまたはバーミキュライトのような粘土鉱物は、層内部にセシウムが容易に吸着される一方、層間に存在する陽イオンにより湿潤条件で膨脹性の低い粘土鉱物は、ほつれたエッジサイト(frayed edge site)を通じて層内部に吸着され得ると判断される。この場合には、層間だけでなく外部にも吸着できるが、層間の電荷密度が高いためセシウムの吸着が層間で優先して起きられる。また、このような格子間におけるセシウムの吸着は、内圏錯体(inner−sphere complex)の形態で強く結合して安定に固定されるので、除去が非常に難しい。このとき、層間とは、層と層との間(interlayer)だけでなく、ほつれたエッジサイトを全て含む概念である。
【0024】
すなわち、本発明のセシウム除去方法は、粘土鉱物の層間に吸着されたセシウムを除去するために行われ、前記粘土鉱物は、2:1層状構造を有することが好ましいが、これに限定されない。
【0025】
具体的に、前記粘土鉱物は、ハイドロバイオタイト(hydrobiotite);スメクタイト(smectite)系鉱物;バーミキュライト(vermiculite);雲母(mica)系鉱物;及びイライト(illite)からなる群より選択されてもよく、より具体的に、前記スメクタイト(smectite)系鉱物は、モンモリロナイト(montmorillonite)、バイデライト(beidellite)、ノントロナイト(nontronite)、ヘクトライト(hectorite)及びソーコナイト(sauconite)からなる群より選択されてもよく、前記雲母(mica)系鉱物は、バイオタイト(biotite、黒雲母)、マスコバイト(muscovite、白雲母)、フロゴパイト(phlogopite、金雲母)及びレピドライト(lepidolite、リチア雲母)からなる群より選択されてもよいが、これらに限定されない。
【0026】
本発明において、過酸化水素は、粘土鉱物と混合された後に酸素気体と水分子とに分解され、この際に生成された酸素気体が粘土層内に蓄積されて爆発が起きながら粘土層間の膨脹を誘導することができる。また、次のステップ((b)ステップ)で添加される陽イオンが過酸化水素から分解された水分子と結合することで、層間膨脹を一さらに促進させることができる。
【0027】
本発明の一実施例において、前記過酸化水素は、30〜50%水溶液を添加することができるが、これに限定されない。
【0028】
次いで、本発明の一具現例による粘土鉱物中のセシウムの除去方法は、前記セシウムとイオン交換可能な陽イオンで前記粘土鉱物からセシウムを脱着するステップ((b)ステップ)、及び前記脱着されたセシウムを粘土鉱物から分離するステップ((c)ステップ)を含む。
【0029】
このとき、前記セシウムとイオン交換可能な陽イオンでセシウムを脱着するステップ((b)ステップ)は、セシウムにより汚染された粘土鉱物に過酸化水素を混合するステップ((a)ステップ)を行った後に順に行ってもよく、セシウムにより汚染された粘土鉱物に過酸化水素を混合するステップ((a)ステップ)と同時に行ってもよく、過酸化水素と陽イオンの混合物を先に作製した後にセシウムにより汚染された粘土鉱物と混合してもよい。
【0030】
本発明において、前記陽イオンは2価陽イオンであってもよく、具体的に、前記2価陽イオンは、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及びバリウムイオンからなる群より選択されてもよく、好ましくは、マグネシウムイオンであってもよいが、陽イオン交換反応を通じて粘土鉱物からセシウムを脱着することができるものであれば、これらに限定されない。
【0031】
本発明において、前記陽イオン濃度は、セシウムイオンの汚染濃度によって決められ、好ましくは、0.1〜1.0Mの範囲内であってもよいが、これに限定されない。
【0032】
前記セシウムの分離は、粘土鉱物から陽イオンにより脱着されたセシウムを除去するために行われ、遠心分離など公知の方法を用いて行うことができる。
【0033】
また、本発明は、過酸化水素、セシウムとイオン交換可能な陽イオン及びセシウムにより汚染された粘土鉱物を混合して反応させる反応部1、2、及び前記反応物からセシウムが除去された粘土鉱物とセシウムが含まれた反応溶液とに分離する固液分離部4を含むセシウム汚染粘土の処理装置を提供する。
【0034】
図6は、本発明の一具現例によるセシウム汚染粘土の処理装置の模式図を示す。
【0035】
本発明のセシウム汚染粘土の処理装置は、過酸化水素及びセシウムとイオン交換可能な陽イオンを通じて粘土鉱物からセシウムを脱着するステップが行われる反応部1、2を含む。
【0036】
本発明の一具現例において、前記反応部は、過酸化水素及びセシウムとイオン交換可能な陽イオンを反応させる第1反応部1、及びセシウムにより汚染された粘土鉱物に前記過酸化水素と陽イオンの混合物を添加して反応させる第2反応部2を含むことができる。
【0037】
このとき、第1反応部1で、過酸化水素溶液とイオン交換可能な陽イオンを混合して先に反応させた後、前記混合物を第2反応部2に送ってセシウムにより汚染された粘土鉱物と混合することで、層間拡張及びセシウムの脱着反応が同時に起きることができる。
【0038】
本発明のまた他の一具現例において、前記反応部は、セシウムにより汚染された粘土鉱物に過酸化水素を添加して反応させる第1反応部、及び前記過酸化水素に反応させた粘土鉱物に陽イオンを添加して反応させる第2反応部を含むことができる。
【0039】
このとき、第1反応部で、セシウムにより汚染された粘土鉱物に過酸化水素を反応させて粘土鉱物の層間拡張を起こした後、第2反応部で陽イオン交換反応を行うことでセシウムの脱着反応を起こすことができる。
【0040】
本発明のセシウム汚染粘土の処理装置は、前記反応部で脱着されたセシウムときれいな粘土鉱物とを分離するための固液分離部4を含む。固液分離部4では、セシウムが脱着された粘土鉱物を含む固体部と、脱着されたセシウムを含む液体部と、を分離することで、放射性セシウムにより汚染していない粘土を得ることを目的とする。具体的に、前記固液分離は、フィルタープレスを用いてもよいが、固体状の粘土と液体状の反応溶液とを分離することができる方法であれば、これに限定されない。
【0041】
本発明の一具現例において、前記反応部1、2と固液分離部4との間に凝集部3をさらに含んでもよい。前記凝集部3は、凝集剤を用いて粘土粒子を凝集させることで固液分離部の分離効率を高めるための部分である。
【0042】
本発明における前記凝集剤は、粘土鉱物を含む土壌を凝集させることを目的として用いられるものであって、当業者にとって公知のものであれば、制限されることなく使用可能である。
【0043】
本発明の一具現例において、前記固液分離部4の後段に反応溶液でセシウムを処理する後処理部5をさらに含んでもよい。前記後処理部5は、固液分離部4で分離された反応溶液に含まれたセシウムを処理するためのものであって、吸着剤を用いて処理することができるが、これに限定されない。
【0044】
本発明のセシウム汚染粘土の処理装置において、前記粘土鉱物の種類、過酸化水素の濃度及び陽イオンの種類は上述した通りである。
【0045】
したがって、本発明は、粘土鉱物中のセシウムを除去するために過酸化水素を用いることを特徴とするところ、過酸化水素は、粘土鉱物の層間拡張に効果的な役割をし、セシウムイオンと陽イオンの交換反応を通じて粘土鉱物からセシウムを容易に除去することができる。
【0046】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないものと解釈されることは、当業界における通常の知識を有した者にとって自明である。
【0047】
実施例1.ハイドロバイオタイトで過酸化水素を用いたセシウムの除去
セシウムにより汚染されたハイドロバイオタイト(Hydrobiotite)と過酸化水素(H
2O
2)35%水溶液とを、1:100の固液比で常温で混合して粘土鉱物の層間を分離した後、塩化マグネシウム(MgCl
2)0.1Mを添加し、常温で一緒に撹拌して約24時間反応させた。
【0048】
過酸化水素は、分解されながら水と酸素を生成するが、このときに発生する酸素気体が粘土層内に蓄積されて爆発が起きると、粘土層間の膨脹を誘導することができる。過酸化水素により層間が拡張された粘土鉱物に2価陽イオンを添加することで、陽イオン交換反応を通じてセシウムを分離することができる。
図1は、本発明の方法によってセシウムが吸着された粘土鉱物から過酸化水素で層間拡張を誘導した後に、陽イオン交換反応を通じてセシウムを除去する方法を簡略に示した模式図である。
【0049】
前記陽イオン交換反応が終わった後、遠心分離器で5,000rpm以上で10分程度遠心分離して、粘土鉱物からセシウムが脱着されて出た溶液を分離した。
【0050】
次いで、セシウムが含まれた溶液は、金属フェロシアナイド系の吸着剤を用いて溶液からセシウムを除去することができる。
【0051】
実験例1.層間拡張及びイオン交換によるセシウムの脱着特性の評価
上記実施例1で、セシウムにより汚染された粘土の層間拡張及び2価陽イオンによるセシウムの脱着特性を、X−線回折(X−ray diffraction)分析を通じて確認した。実験に使用された粘土は、膨脹性と非膨脹性が混在されたハイドロバイオタイト(Hydrobiotite)であって、過酸化水素及び2価陽イオンの処理前には、2θ=7.4゜(d=1.2nm)で最も強いピーク(peak)を示し、膨脹性粘土鉱物であるバーミキュライト(vermiculite)の特性ピークである2θ=6.2゜(d=1.4nm)と、非膨脹性粘土鉱物であるバイオタイト(biotite)の特性ピークである2θ=8.7゜(d=1.0nm)とで弱く現われた。
【0052】
この粘土試料に、上記実施例1のように過酸化水素と塩化マグネシウム(MgCl
2、Mg
2+)0.1Mを入れて反応させた結果、層間拡張が起きて非膨脹性のバイオタイトのピークは消え、ハイドロバイオタイトのピークも大部分膨脹性であるバーミキュライトのピークに移動したことを確認することができる。これによって、前記粘土鉱物が過酸化水素の分解時に生成された酸素気体と水分子を含有して水和されたマグネシウムイオンにより層間拡張が形成されたことが分かった(
図2)。
【0053】
実験例2.セシウムの脱着効果の比較
粘土鉱物からセシウムを除去するにおいて、過酸化水素の濃度または陽イオンの種類によるセシウムの脱着効果を確認するため、上記実施例と同一の方法でセシウム除去実験を行い、下記のように条件を異ならせてセシウムの脱着効果を比較した。
【0054】
比較例1−1:過酸化水素(H
2O
2)35%水溶液のみ混合
比較例1−2:過酸化水素(H
2O
2)50%水溶液のみ混合
比較例1−3:過酸化水素(H
2O
2)35%水溶液を混合した後、マグネシウムイオンの代わりに1価陽イオンであるアンモニウムイオン(NH
4Cl)0.1Mを添加
【0055】
その結果、
図3に示したように、陽イオンを入れずに過酸化水素のみ反応させた場合には、過酸化水素の濃度が35%から50%に増加してもセシウムの脱着効果には大きな変化がなかった。また、過酸化水素と共に1価陽イオンであるアンモニウムイオンを入れて反応させたときに比べて、2価陽イオンであるマグネシウムイオンと反応させたときに、セシウムの脱着率が約30%程度増加することを確認した。これは、2価陽イオンであるマグネシウムイオンがより大きい電子価を有するのでセシウムとのイオン交換能がより大きく、水和されたイオンのサイズがより大きいため、粘土鉱物の層間距離をより拡張させ、セシウムの脱着に一層有利に作用したと判断される。
【0056】
実施例2.モンモリロナイトにおけるセシウムの脱着効果の比較
多様な粘土鉱物で過酸化水素を用いたセシウムの脱着効果を確認するために、膨脹性粘土の一種であるモンモリロナイト(montmorillonite)を対象として実験した。上記実施例1と同一の方法でセシウム除去実験を行い、ハイドロバイオタイトの代わりにセシウムにより汚染されたモンモリロナイトを用いた。
【0057】
また、モンモリロナイトからセシウムを脱着するとき、反応条件によるセシウムの脱着効果を比較するため、下記のように条件を異ならせて実験した。
【0058】
比較例2−1:過酸化水素(H
2O
2)35%水溶液のみ混合
比較例2−2:過酸化水素(H
2O
2)50%水溶液のみ混合
比較例2−3:過酸化水素(H
2O
2)35%水溶液を混合した後、マグネシウムイオンの代わりに1価陽イオンであるアンモニウムイオン(NH
4Cl)0.1Mを添加
【0059】
その結果、
図4に示したように、陽イオンを入れずに過酸化水素のみを反応させた場合、過酸化水素の濃度が35%から50%に増加したときにセシウムの脱着効果が少し上昇したが、意味のあるレベルの変化はなかった。また、過酸化水素と共に1価陽イオンであるアンモニウムイオンを入れて反応させた場合、却って50%過酸化水素のみを入れたときより脱着効果が減少した一方、マグネシウムイオンと反応させたときの脱着効率は、約2倍程度に顕著に上昇することが分かった。
【0060】
実施例3.イライトにおけるセシウムの脱着効果の比較
多様な粘土鉱物で過酸化水素を用いたセシウムの脱着効果を確認するために、非膨脹性粘土の一種であるイライト(illite)を対象として実験した。上記実施例1と同一の方法でセシウム除去実験を行い、ハイドロバイオタイトの代わりにセシウムにより汚染されたイライトを用いた。
【0061】
また、イライトからセシウムを脱着するとき、反応条件によるセシウムの脱着効果を比較するために、下記のように条件を異ならせて実験した。
【0062】
比較例3−1:過酸化水素(H
2O
2)35%水溶液のみ混合
比較例3−2:過酸化水素(H
2O
2)50%水溶液のみ混合
比較例3−3:過酸化水素(H
2O
2)35%水溶液を混合した後、マグネシウムイオンの代わりに1価陽イオンであるアンモニウムイオン(NH
4Cl)0.1Mを添加
【0063】
その結果、
図5に示したように、過酸化水素のみを反応させた場合、過酸化水素の濃度が35%から50%に増加してもセシウムの脱着効果は意味のあるレベルに増加せず、過酸化水素と共に1価陽イオンであるアンモニウムイオンを入れて反応させた場合、50%過酸化水素のみを入れた場合と類似したレベルであったが、マグネシウムイオンと反応させた場合の脱着効率は、20以上顕著に上昇することが分かった。
【0064】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであって、本発明が属する技術分野における通常の知識を有した者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく他の具体的な形態に容易に変形が可能であることを理解すべきである。したがって、以上で記述した実験例はすべての面で例示的なものであり、限定的でないものと理解すべきである。
【符号の説明】
【0065】
1:第1反応部
2:第2反応部
3:凝集部
4:固液分離部
5:後処理部