(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
宝石または時計部品製造用金合金であって、以下の元素を、以下の重量%濃度で含み、すなわち、金 少なくとも75重量%、銅 16〜21重量%、銀 0〜21重量%、鉄 0.5〜4重量%、バナジウム 0.1〜1重量%、およびイリジウム 0.05重量%未満の含有率、ならびに任意選択で、パラジウム 0.5〜4重量%を含み、他の元素を含まないことを特徴とする金合金。
【背景技術】
【0002】
最新技術
その高い展延性、その優れた熱伝導性および導電性、またはその化学的活性の低さにより、金は、様々な適用分野で、かつこれらの特性が主要な技術的機能に役立つときは常に使用されてきた。特に、この元素特有の光学特性および色特性は、古代から装飾物の製造に活用されてきた。
【0003】
過去数年にわたって、多くの明確な機能特性を持った金合金もまた開発されてきている。今日でも、金合金に着目した多くの研究が、時計製造工業または宝石製造者のますます多様な要求に応え得る特定の新しい化学組成物を特定することを目指している。事実、この産業分野でますます特定化する要求は、革新的な色特性を有する組成物の合成を不可欠なものとしている。入射光と金属との相互作用のメカニズムは、合金元素と合金内のそれらの含有率の両方の関数であることから、一般的な金属合金の色は、その化学組成に完全に依存している。例えば、緑色から黄色もしくはローズ色までの色合いの金合金(着色金合金)は、一般に銀および銅を含むが、白色合金の製造には、金に、パラジウム、プラチナ、ニッケル、またはマンガンなどの元素が添加される。
【0004】
最近の分光光度法の進歩により、一般的な金属の色は、デカルト座標L
*、a
*およびb
*の値が一旦わかると、CIE 1976 L
*a
*b
*三次元空間で定量的、かつ一意的に定義し得る(ISO 7224標準)。パラメータL
*は明度を示し、0(黒)〜100(白)の値をとり、a
*およびb
*はクロミナンス座標である。したがって、この空間では、無彩色のグレースケールは、軸L
*(a
*=b
*=0)上の点で表され、a
*およびb
*が色を示す。正のa
*値は赤を示し、負のa
*値は緑を示し、正のb
*値は黄を示し、負のb
*値は青を示す。さらに、この色評価系は2つの異なる色合いの差ΔE
*(L
*,a
*,b
*)=(ΔL
*2+Δa
*2+Δb
*2)
1/2の推定を可能にする。ΔL
*、ΔaおよびΔb
*は、CIE 1976 L
*a
*b
*色空間における2つの所与の色合いを特定するL
*a
*b
*座標値の算術的な差を示す。一般に、人の目は、ΔE
*(L
*,a
*,b
*)≧1であれば、2つの異なる色合いを識別することができる。
【0005】
金合金は、金属と、腐食または変色現象を加速し得る攻撃的環境と間に起こり得る化学的/物理的相互作用の結果として、望ましくない表面変色を経時的に受け得る。文献(「Tarnish resistance, corrosion and stress corrosion cracking of gold alloys」; Gold Bulletin, 29(2) pp 61-68,1996; 「Chemical stability of Gold dental alloys」; Gold Bulletin, 17(2), pp 46-54, 1984)によれば、腐食現象は、連続的な金属の溶解をもたらし得る緩やかな化学的または電気化学的攻撃と定義される。表現を変えれば、変色現象は、腐食の特定の形態である。この場合、この現象を伴う反応によって、酸化物、硫化物または塩化物からなる薄層が形成され、これが金合金の色および表面光沢を変化させ得る。これらの表面色特性の変化は、腐食現象が始まる前の状態に対して算出される、パラメータΔE
*(L
*,a
*,b
*)を経時的に評価することによって定量化できる。
【0006】
18金合金はもともと腐食現象を受けにくく、したがって、宝石または時計部品の製造に適していると伝統的に考えられている。実際には、最近の研究や観察は、金または他の貴元素の含有率が高くても、使用条件が異なると、十分な経時的な化学的安定性を保証するものではないことを示しており、これらの考えが確認されていないようである。
【0007】
例えば、20.5%の含有率の銅および4.5重量%の含有率の銀を含む、標準の18金合金5N ISO 8654は、一般的な周囲雰囲気の作用のみを受けるときでさえも、明らかな化学的不安定さを示す。25℃の温度では、金属と周囲雰囲気の間に生ずる相互作用は、所与の金合金の表面色を変え得る。これらの色の変化は、雰囲気環境の攻撃的作用への暴露時間tの関数であり、18金合金5N ISO 8654の試料表面のL
*a
*b
*座標値を分光光度法により測定することによって定量化できる。定義された時間間隔で測定されるCIE 1976 L
*a
*b
*座標値は、パラメータΔE
*(L
*,a
*,b
*)=[(L
*−L
*0)
2+(a
*−a
*0)
2+(b
*−b
*0)
2]
1/2を経時的に評価することにより、試験試料の表面変色の反応速度解析を可能にする。このパラメータは、試験試料の表面を平滑にし、次いで研磨した直後に測定される試験合金のL
*0、a
*0、b
*0座標に対して計算される。この試料に対する表面処理は、反射率が一定になるまで行われる。試験試料に対するそのような表面処理は必須であり、合金の表面組成および実際の色を変え、それによって実験の測定値をゆがめるおそれのある、あらゆる微量化合物(例えば、酸化物)を除去するために行われる。これらの試験結果は、ΔE
*(L
*,a
*,b
*)対時間の実験曲線を得ることを可能にする。次に、本明細書に示す曲線を解析することができる。時間t=0は研磨直後の状態に対応するので、その場合、ΔE
*(L
*,a
*,b
*、t=0)の値はゼロである。このパラメータの値は、試験の初期は大きく変わる傾向がある。実際、試験開始の約5日後では、材料はΔE
*(L
*,a
*,b
*)≧1の大きな色変化を受ける。この時間間隔を超えると、パラメータΔE
*(L
*,a
*,b
*)の値は、色が経時的に変化する速度を低下させながらも、パラメータΔE
*(L
*,a
*,b
*)が漸近的に2.5未満の値のプラトーにほぼ達するまで増大し続ける。
【0008】
金合金における腐食現象の起こり方は合金組成と密接に関係する。金の典型的な化学的安定性を低下させ得る銀、銅またはその他の元素の割合が増すにつれ、異なる性質の腐食現象が開始される機会が増大する。同様に、製造された製品の表面特性の変化を伴う化学的または電気化学的反応速度にとっても、好都合となろう。
【0009】
変色または腐食現象の起こり方は、金合金の微細構造的特徴にも関係し得る。冶金学的観点から、微細構造の不均質性はいずれも材料内の電位差を生じさせ、それによって化学的安定性を低下させ得る。そのため、微細構造が複数の非混和相か、または種々の構造成分のいずれかによって形成される金属に比べると、均質な固溶体は、腐食に対する化学的安定性が一般に高い。また、粒界は腐食現象を優先的に開始する部位を構成し得る。結晶粒の平均粒径が粒界エネルギーに反比例するため、結晶粒の粒径(ISO 643標準)は金合金の化学的安定性に影響する。完全格子に対して過剰の、多結晶構造自由エネルギーとして定義されるこのエネルギーは、合金の化学的安定性の低下を引き起こすことができ、それによって、合金元素間または分離相間に生じる電気化学的ポテンシャルの差を増大させる。最終的には、固化または冷間塑性変形加工中に、材料の体積収縮によって生じた残留応力の存在は、応力腐食現象を引き起こし、材料内の望ましくない破壊に繋がり得る。
【0010】
金合金の腐食を加速させ得る環境はいくつかあり、それらは合金の用途に関係している。宝石や時計製造業では、銀または銅を含む着色合金は変色現象に特に敏感なようである。海水などの塩化物含有溶液および界面活性剤含有溶液はいずれも、この種の金合金の表面色の望ましくない変化を短時間のうちに開始させ得る。同様に、環境大気中に存在する湿気、有機蒸気、酸素化合物、および特に硫化水素H
2Sなどの硫黄化合物もまた、変色現象を開始させ得る。最終的には、塩化ナトリウム、電解質、脂肪酸、尿酸、アンモニアおよび尿素などの塩が主に溶解している、汗などの有機溶液との相互作用から、同じ問題が起こり得る。
【0011】
したがって、緑色から黄色またはローズ色の色合いを特徴とし、一般に宝石または時計部品の製造に使用されている着色金合金は、際立って、化学的安定性に欠け、かつ表面色特性の望ましくない経時変化を受け得る。本発明は、現在商業的に入手可能な着色金合金の化学的安定性の改善を求めるものである。特に、目的は、金の最小含有量が75重量%の合金の、硫黄化合物または塩素化合物が存在する環境下における耐変色性を増大させることにある。
【0012】
技術文献は、特定の物理的または機能的特性を得るため、基本的な金−銀−銅三元系に、ゲルマニウム、インジウム、コバルト、ガリウム、マンガン、亜鉛、スズまたは鉄などの元素を添加した化学組成物をいくつか開示している。以下に示す組成物は、いずれも重量パーセントで表されている。
【0013】
特開2008179890A号(2008年)は、ゲルマニウムを、18金合金の耐腐食性を増大させることができる元素と考えている。特に、ゲルマニウムを0.01%〜10%の範囲の含有率で含む組成物を想定している。
【0014】
特開2002105558A号(2002年)もまた、少なくとも75%の金、含有率が12%〜13%の銅、および残部が銀であることを特徴とする組成物中における3%〜5%の範囲のゲルマニウム濃度を開示している。この例では、ゲルマニウムが18金ローズ合金の化学的安定性を改善するとは考えておらず、所望の色特性を達成することのみを考えている。
【0015】
カナダ国特許第2670604A1号(2011年)は、33.3%〜83%の含有率の金、0.67%〜4.67%の含有率のインジウム、0.9%以下の含有率のスズ、0.42%以下の含有率のマンガン、0.04%以下の含有率のシリコンを含み、残部が銅である組成物を開示している。この例では、ブロンズに似た色を有する金合金を得るためにインジウムが使用されている。
【0016】
一方、米国特許第7413505号(2008年)には、特定の硬度を得るため、銅、銀および亜鉛に加え、コバルトが3%〜4%の含有率で合金に添加された14金ローズゴールド合金が提案されている。同文献は、類似の18金合金を開示しているが、それらの組成は特許請求されていない。
【0017】
硬度および耐腐食性を、歯科で使用されている標準合金より高めるため、特開2009228088号(2009年)は、75%を超える含有率の金、0.5%〜6%の含有率のプラチナ、0.5%〜6%の含有率のパラジウムを含み、残部が銅であることを特徴とする金合金に、ガリウムを0.5%〜6%の範囲で添加することを提案している。
【0018】
あるいは、特開2001335861号(2001年)は、最小含有率が75%の金、10%〜30%の含有率の銅、0.5%〜3%の含有率の銀、0.5%〜3%の含有率の亜鉛、および0.2%〜2%の含有率のインジウムを含む合金に、マンガンを2%〜10%の含有率で添加することを記載している。
【0019】
さらに、英国特許出願公開第227966A号(1985年)は、33%〜90%の含有率の金、0.1%〜2.5%の含有率の鉄、0.01%〜62.5%の含有率の銀、0.01%〜62.5%の含有率の銅、および0.01%〜25%の含有率の亜鉛を含み、かつ100HV〜280HVの範囲の硬度を特徴とする合金を開示している。
【0020】
またさらに、特開2008308757号(2008年)は、14.5%〜36.5%の含有率の銅および0.5%〜6%の含有率のインジウムを含む金合金に、0.5%〜5%のスズを添加することを考えている。この例では、発明は、ニッケル、マンガンおよびパラジウムなどの元素の使用と、それらを使用することの欠点を回避しながら、ローズゴールド合金を得ることができることを単に請求している。事実、知られているように、ニッケルはアレルギーを引き起こし得、冷間塑性変形の加工性を低下させるマンガンは、その他に、先進の製造技術を必要とし、またパラジウムは表面明度を低下させ得る。
【0021】
前述したように、パラジウムは、白色合金を合成するために、金に通常添加される元素である。ある文献には、この化学元素が、たとえ黒みがかった光沢度の低い表面を作り出そうとも、腐食現象に対する耐性を効果的に増大させ得ることから、着色金合金においても使用されることが報告されている。
【0022】
事実、パラジウムは3重量%未満の含有量でも(“Effect of palladium addition on the tarnishing of dental gold alloys”; J. Mater. Sci.-Mater., 1(3), pp. 140-145, 1990、“Effect of palladium on sulfide tarnishing of noble metal alloys”; J. Biomed. Mater. Res., 19(8), pp. 317-934, 1985)、特に硫黄化合物が含まれている環境で生ずる変色作用を最小に抑える。この例では、パラジウムは主に硫化銀(Ag
2S)からなる表面層の成長を抑制することができる。銀に起こることとは対照的に、表面にパラジウムの富化は起こらないが、硫化物からなる最外層直下の層で、そのような元素の含有量の統計的増加が観察され得る。このパラジウムの局部的な増加によって、製造される製品のコアへの表面領域からのS
2−イオンの拡散が抑制され、その結果、硫化物の層の成長、およびそれを含む金合金の表面色の変化が減少する。
【0023】
例えば、特開昭60258435号(1985年)では、15%〜30%の含有率の銅、および5%〜25%の含有率の銀を含むことを特徴としている18金合金の化学的安定性を改善し得る元素としてパラジウムを考えている。この例では、発明は4%〜7%の範囲のパラジウムの添加を開示している。
【0024】
特開平10245646号(1998年)では、また、75%〜75.3%の含有率の金、および15%〜23%の含有率の銅を含み、残部が銀であるローズゴールド合金(L
*=86÷87,a
*=,8÷10 a
*およびb
*=17÷22)にパラジウムを0.3%〜5%の範囲で添加することを提案している。この発明は、パラジウムを腐食現象に対する耐性を増加させることができる元素として考えておらず、材料の可鍛性および靭性を増大させるためのその使用を開示している。
【0025】
さらに、欧州特許出願公開第1512765A1号(2005年)は、また、種々の請求項の中で、4%未満の量でパラジウムを添加することを開示している。さらに、同じ目的で、0.5%〜4%の量のプラチナを、75%超の含有率の金、および6%〜22%の含有率の銅を含み、かつ最小限の添加の銀、カドミウム、クロム、コバルト、鉄、インジウム、マンガン、ニッケルまたは亜鉛が0.5%未満の量で存在し得る合金に添加することを考えている。これらの組成は、塩素化合物が存在し得る環境下で、表面の色の変化に高い耐性を示すローズゴールド合金の合成のために開発されたものである。
【0026】
いくつかの文献(国際公開第2009092920号、独国特許第3211703号、欧州特許第2251444号、欧州特許出願公開第102004050594号、独国特許出願公開第10027605A1号、欧州特許第0381994号、米国特許第4820487号)には、バナジウム、および鉄、クロム、ジルコニア、ハフニウム、チタンまたはタンタルなどの他の元素をホワイトゴールド合金に添加することが開示されている。しかしながら、上記文献では、そのような添加を、請求項に記載の組成物の機械的特徴の改善、または特定の色特性の達成のためにのみ考えている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明で開示する各種組成物は、黒鉛るつぼを備えた誘導炉を使用して溶融され、それらは断面が矩形の黒鉛製鋳型の中で溶融される。溶融中の浴の均質性は、電磁誘導撹拌により確保される。純元素(Au99.999%、Cu99.999%、Pd99.95%、Fe99.99%、Ag99.99%、V≧99.5%)が溶融され、制御された雰囲気下で鋳込まれる。特に、溶融操作は、溶融チャンバーの雰囲気の条件設定を少なくとも3回行った後でのみ実施される。この条件設定には、真空度を1×10
−2mbar未満にまで到達させ、その後雰囲気を部分的に500mbarまでアルゴンで満たすことが含まれる。溶融中、アルゴン圧力は、500mbar〜800mbarの範囲の圧力レベルに維持される。純元素が完全に溶融したなら、金属浴の化学組成を均質化するために、液体は約1250℃の温度にまで過熱される。過熱中に、1×10
−2mbar未満の真空度に再び到達する。これは、純元素が溶融している間に生成するスラグの一部を除去するのに有用である。この時点で溶融チャンバーは、アルゴンで部分的に800mbarに再加圧され、その後、溶融材料は黒鉛の鋳型に注がれる。固化が始まると、得られた溶融物は鋳型から取り出され、固体状態への相変化を避けるために水中で急冷され、その後、フラットベッド積層法により冷間塑性変形される。
【0033】
冷間塑性加工プロセスの間、上記溶融手順で合成された各種組成物は、70%まで変形され、その後、680℃を超える温度で熱アニールに供され、続いて固体状態への相変化を避けるために水中で急冷される。全プロセス中、本明細書に示した組成物は全て、硬化された状態およびアニールされた状態で硬度試験に供される。温度300℃で熱処理硬化が行われた後、さらなる硬度測定がなされる。硬度試験は、ISO 6507−1標準に規定されているように、印加荷重9.8N(HV1)を15秒間維持して行われる。
【0034】
試料は、金属組織学的分析用に、上記加工手順により加工された材料、すなわち、溶融、積層、熱処理アニール、およびそれに続く急冷後の材料から採取される。これらの試料は、合成された組成物の微細構造特性を評価するために、平滑化され、研磨され、分析される。同様に、上記加工手順により加工された材料から、その追加の試料が採取され、それらは色測定および加速腐蝕試験に供される。
【0035】
色測定および加速腐蝕試験に供される試料の表面は、紙やすりにより注意深く平滑化され、その後、粒径1μm以下のダイヤモンドペーストにより、一定の反射率が得られるまで研磨される。そのような試料の表面処理は必須であり、合金の表面組成および実際の色を変えることができ、それによって実験の測定値をゆがめる、あらゆる微量化合物を除去するために行われる。
【0036】
色測定は、試料の調製直後に、そして各種の腐蝕試験中に、コニカミノルタ製分光光度計CM-3610dを使用して行われた。これらの測定は、光源としてD65−6504Kを使用し、di/de受光角を8°、測定領域を8mm(MAV)とする反射条件下で行われる。
【0037】
本明細書で提案する種々の組成物の、表面の耐変色性は、ISO 4538標準で規定されている試験手順にしたがって評価される。この標準は、揮発性硫化物を含有する雰囲気下における、金属表面の耐腐蝕性および耐酸化性を評価する装置および手順を規定している。この目的のために、試料は、酢酸ナトリウム三水和物CH
3COONa・3H
2Oの飽和溶液を使用して維持される、相対湿度75%の雰囲気下、チオアセトアミド蒸気CH
3CSNH
2に暴露される。
【0038】
さらに、塩素化合物の存在を特徴とする環境下における、表面の耐変色性を評価するために、中性のpHおよび調節温度35℃で、NaClの飽和溶液に試料を浸漬することにより、さらなる試験が行われる。
【0039】
加速腐蝕試験により分析された、組成物に生じる色の変化は、試験環境の攻撃的作用に暴露された時間tの関数である。そのような変化は、決められた時間間隔で試験用合金の試料表面から、座標値L
*,a
*,b
*の分光光度測定値を得ることにより、実験的に評価することができる。こうして得られたCIE 1976 L
*a
*b
*座標値は、パラメータΔE
*(L
*,a
*,b
*)=[(L
*−L
*0)
2+(a
*−a
*0)
2+(b
*−b
*0)
2]
1/2を経時的に評価することにより、試験材料が表面変色する反応速度の定量化を可能にする。このパラメータは、紙やすりによる平滑化、その後、粒径1μm以下のダイヤモンドペーストによる研磨の直後に測定した、試験材料の座標L
*0、a
*0、b
*0に対して評価されなければならない。この操作は、一定の反射率に達するまで行われる。そのような試料の表面処理は必須であり、合金の表面組成および実際の色を変えることができ、それによって実験の測定値をゆがめるおそれのある、あらゆる微量化合物を除去するために行われる。これらの試験結果は、ΔE
*(L
*,a
*,b
*)対時間の実験曲線を得ることを可能にするものであり、この実験曲線は、分析した組成物の色変化の反応速度の解析に、したがって、考慮した試験環境における化学的安定性の定量的解析に不可欠のものである。
【0040】
本明細書で考慮する合金の組成および主な物理特性を表1に示す。これに対して、表2は、分析した組成物をチオアセトアミド蒸気に150時間暴露した後に、およびまた分析した組成物を塩化ナトリウム含有溶液に175時間浸漬した後に測定したΔE(L
*,a
*,b
*)値を示す。
【0041】
鉄およびバナジウムをそれぞれ1%および0.1重量%を超えて添加することは、揮発性硫化物を含有する雰囲気下における表面の色変化を減少させることができる。この方法では、分析した組成物の化学的安定性を改善するためにパラジウムを添加する必要はなく、この元素が合金中に存在するために生じる、表面明度の減少を避けることができる。同様に、高価なプラチナの添加も必要としない。
【0042】
時間t=0は、試料5N ISO8654、L11、L01の研磨直後の条件に対応するので、その場合、与えられた3種の異なる組成物のΔE
*(L
*,a
*,b
*,t=0)値はゼロである。チオアセトアミド蒸気に150時間暴露した後、鉄を1.8重量%の含有率で、バナジウムを0.4重量%の含有率で含む合金(L01)では、色変化ΔE(L
*,a
*,b
*)は2.9である。同じ条件で、合金5N ISO 8654は5.6の変化を受けるが、一方で、欧州特許出願公開第1512765A1号の合金(L11)のそのようなパラメータは4.1の値を有する。
【0043】
さらに、本発明の本実施形態の範囲に入る組成を有する合金では、試験中に生じる変色の反応速度は、対照とする2種の組成物のそれとは異なっている。合金5N ISO 8654を見れば、試験の最初の24時間以内に急速な色変化が生じている。その後、色変化の反応速度は低下するが、パラメータΔE(L
*,a
*,b
*)は、解析された試験の150時間を通して増加を続ける。合金L11もまた類似の挙動を示すが、チオアセトアミド蒸気に暴露して約120時間後、この組成物のパラメータΔE(L
*,a
*,b
*)の値はほぼ一定値のプラトーに達する。これに対して、組成物L01の色変化は、僅かに80時間の試験後には安定する。
【0044】
繰り返すが、合金組成中の鉄の存在は、金へのバナジウムの混和性を増大させる。鉄とバナジウムの濃度比を4より大きく維持することは、固溶体を得ること、および第2の相が混合物から分離するのを防止することを可能にする。
【0045】
時間t=0は、試料L01、L02、L03、L04の研磨直後の条件に対応するので、その場合、与えられた4種の異なる組成物のΔE
*(L
*,a
*,b
*,t=0)値はゼロである。<パラジウムが鉄で置換された組成物では、揮発性硫化物の存在を特徴とする環境下で、耐変色性に低下が見られる。チオアセトアミド蒸気に150時間暴露した後では、1.8重量%のパラジウムと0.4重量%のバナジウムを含む合金(L03)は、4.1のΔE(L
*,a
*,b
*)の変化を受け、したがって、組成物L11と同等の表面の色変化を示す。しかしながら、この場合には、組成物L03のパラメータΔE(L
*,a
*,b
*)が、試験の最初の150時間以内に安定することを観察することができない。
【0046】
さらに、考慮している組成物の化学的安定性を増大させるには、バナジウムの添加は必須である。揮発性硫化物を含む雰囲気下では、単に1.8重量%の鉄を添加するだけでは(L02)、対照用合金5N ISO 8654が示すそれと全く等価な色変化をもたらす。
【0047】
鉄をパラジウムで置換すれば、バナジウムが存在することによって生じる効果は明瞭でなくなる。チオアセトアミド蒸気に150時間暴露した後では、パラジウム含有率が1.8重量%であることを特徴とする組成物(L04)のみが、ΔE(L
*,a
*,b
*)3.8の色変化を受ける。バナジウムも存在する組成物では、このパラメータの値は4.1である。この場合、バナジウムの存在は、金−銀−銅−パラジウム四元系の化学的安定性に影響を及ぼさない。さらに、組成物L03およびL04は、化学的安定性が同一であることのみならず、全試験領域を通じて同一の反応速度で色が発達することを特徴とする。
【0048】
鉄に代わって合金中にパラジウムが存在する場合、バナジウムの効果は、銀の含有率が増加し、銅の含有率が減少した後でのみ明瞭に現れる。これは、5%〜16重量%の含有率で銀を、0.2%〜5重量%の含有率でパラジウムを、そして0.2%〜1.5重量%の含有率でバナジウムを含む合金の場合である。時間t=0は、試料3N ISO8654、L05の研磨直後の条件に対応するので、その場合、与えられた2種の異なる組成物のΔE
*(L
*,a
*,b
*,t=0)値はゼロである。例えば、チオアセトアミド蒸気に150時間暴露した後では、銀と銅を12.5重量%の含有率で含み、パラジウムとバナジウムがそれぞれ1.8%および0.4重量%で添加された合金(L05)は、ΔE(L
*,a
*,b
*)が3.6の色変化を示す。同じ条件で、標準合金3N ISO 8654は4.8の変化を受ける。本発明のこの実施形態では、パラジウムの添加はバナジウムの金への混和性を増大させる。
【0049】
試料を塩化ナトリウム溶液に浸漬することにより行われる試験は、欧州特許出願公開第1512765A1号で開示されている合金L11の化学的安定性を確認する。塩化物含有溶液に175時間浸漬後、そのような組成物はΔE(L
*,a
*,b
*)が1.9の色変化を受けるが、組成物5N ISO 8654のそのようなパラメータは3.6の値である。同じ条件で、組成物L01は2.7の変化を受ける。したがって、単に鉄またはバナジウムを添加するだけでは、塩化物が溶解した溶液中における金合金の強度を最適化することができない。
【0050】
この目的のために、本発明のさらなる実施形態では、パラジウムを0.5%〜2重量%の範囲、鉄を0.5%〜2重量%の範囲、そしてバナジウムを0.1〜1.5重量%の範囲で加える。
【0051】
塩化物含有溶液に175時間浸漬した後、0.9重量%の鉄、0.9重量%のパラジウムおよび0.4重量%のバナジウムにより特徴づけられる合金(L06)はΔE(L
*,a
*,b
*)が2.1の色変化を受ける。時間t=0は、試料L01、L03、L06の研磨直後の条件に対応するので、その場合、与えられた3種の異なる組成物のΔE
*(L
*,a
*,b
*,t=0)値はゼロである。試験の最初の48時間以内で、、合金L11の色変化は急速であり、また約150時間の浸漬の後で、パラメータΔE(L
*,a
*,b
*)の値は、ほぼ一定値のプラトーに達する。これに対して、組成物L06は最初の24時間以内に急速な色変化を受け、組成物L11で生じたことと同様に組成物L06の、パラメータΔE(L
*,a
*,b
*)もまた試験の約150時間後には安定する。
【0052】
本発明のこのさらなる実施形態は、塩化物が溶解した溶液中における耐変色性を増大させる。しかしながら、同時に、揮発性硫化物を含有する環境下の化学的安定性も維持される。時間t=0は、試料L01、L03、L06の研磨直後の条件に対応するので、その場合、与えられた3種の異なる組成物のΔE
*(L
*,a
*,b
*,t=0)値はゼロである。チオアセトアミド蒸気に150時間暴露した後では、組成物L06は、ΔE(L
*,a
*,b
*)が3.3の色変化を受ける。この色変化は組成物L01およびL03と比べると、中間の値のプラトーに達する。
【0053】
さらに、バナジウム濃度に対する鉄およびパラジウム濃度の和の比が4より大きい組成物は、均質であり、第2の相を含まない固溶体である。
【0054】
パラジウムを鉄で置換することにより、表面明度を増大させることができる。表1に示すように、組成物L01はパラメータL
*が86.66であることを特徴とするが、組成物L04のそのようなパラメータは85.21以下である。組成物L06の場合のように、パラジウムを部分的に鉄で置換することにより得られるL
*値は、上記のものと比べると中間の値である。
【0055】
鉄とバナジウムは、金合金の彩度を低下させることができる化学元素である。これらの元素の濃度が高くなるほど、座標a
*およびb
*の値は低くなり、色は無色に近づくであろう。
【0056】
この問題を克服するため、本発明のさらなる実施形態では、銀が存在しなくてもよく、銅を16%〜23重量%の含有率で、鉄を0.5%〜4重量%の含有率で、そしてバナジウムを0.1%〜1重量%の含有率で含む組成物を開示する。例えば、鉄が2.5重量%の濃度で、バナジウムが0.6重量%の含有率で存在する組成物L07では、組成物L01について報告した値に類似の、6.45のa
*値を得ることができる。しかしながら、銀が含まれないことはパラメータb
*(黄色)の低下の原因となる。実際、組成物L07は、b
*値が12,90であることを特徴とするが、このパラメータは組成物L01では15.49の値をとる。鉄とバナジウムの濃度比が4を超える組成物を含む、本発明のこの特定の実施形態ではまた、均質で、第2の相を含まない固溶体が得られる。
【0057】
さらに、鉄の存在は表面明度を増大させる。2.5重量%のパラジウムを含む合金(L09)は、L
*値が83.77であることを特徴とする。鉄が2.5重量%の含有率で存在する、組成物L07はL
*値が86.09であることを特徴とする。鉄の含有率が3.1重量%に増加すると、バナジウムが不在であっても(L08)、パラメータL
*は86.33の値をとる。
【0058】
本発明の最後の実施形態は、0.05重量%未満の含有率でイリジウムを含み得る。これらの添加は、考慮している組成物の結晶構造を調整することを可能にする。鉄を1.8重量%の含有率で、バナジウムを0.4重量%の含有率で、イリジウムを0.01重量%の含有率で含み、70%まで冷間塑性変形され、680℃でアニールされた合金の微細構造において、この組成物は、ISO 643標準による粒径が7であることを特徴とする。類似の粒径は、作製された製品が良好な研磨特性を示すことを可能にする。イリジウムの添加を増やせば、粒径指数をさらに増大させることができ、合金の化学的安定性に対しては不利な影響を与える。