(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記原動部と前記増速機構との間に、前記原動部から前記増速機構への回転力の伝達を手動で解除するブレーキ解除機構を備えたことを特徴とする請求項1に記載の遠心力ブレーキ装置。
前記ブレーキシューユニットを前記ブレーキアームの回転中心側に付勢する圧縮ばねを備え、前記ブレーキシューユニットに作用する遠心力が前記圧縮ばねの弾性力を超えていないときには、前記ブレーキシューユニットを前記ブレーキアームの回転中心側に保持し、前記ブレーキシューユニットに作用する遠心力が前記圧縮ばねの弾性力を超えたときには、前記ブレーキシューユニットを前記ブレーキアームの外周側に移動させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の遠心力ブレーキ装置。
前記圧縮ばねの初期圧縮量を調整し、前記ブレーキシューユニットが前記ブレーキアームの外方に移動するに必要な前記ブレーキアームの回転速度を変更する速度領域調整機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載の遠心力ブレーキ装置。
前記速度領域調整機構は、前記主軸と同心に配置され、前記ブレーキアームの片面に着脱可能に取り付けられる初期荷重調整板を有しており、前記初期荷重調整板には、前記圧縮ばねの端部に差し込んで前記圧縮ばねの初期圧縮量を変更する圧縮量調整片が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の遠心力ブレーキ装置。
前記速度領域調整機構は、前記主軸と同心に配置され、前記ブレーキアームの片面に着脱可能に取り付けられる初期荷重調整板を有しており、前記初期荷重調整板には、前記圧縮ばねの一端に当接され、前記圧縮ばねの圧縮・伸長方向に変位する可動板に形成された係合ピンを係合するカム溝が形成されていて、前記カム溝は、前記初期荷重調整板を回転操作したときに、前記可動板を前記圧縮ばねの圧縮・伸長方向に変位する形状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の遠心力ブレーキ装置。
前記ブレーキアームに歯車を回転可能に取り付けると共に、前記初期荷重調整板には、前記歯車と噛み合わされる歯列を形成し、前記歯車を手動で回転操作することにより前記初期荷重調整板を前記主軸の周りに回転させることを特徴とする請求項6に記載の遠心力ブレーキ装置。
前記ブレーキアームと前記歯車との間に弾性部材を配置し、前記初期荷重調整板を前記主軸の周りに回転させる場合には、前記歯車を前記弾性部材の弾性力に抗して押し込み、前記歯車と前記初期荷重調整板に形成された歯列とを噛み合わせることを特徴とする請求項7に記載の遠心力ブレーキ装置。
【背景技術】
【0002】
ハンドカート又はシルバーカートと呼ばれる歩行補助車、乳母車、荷物運搬用の手押し台車、リヤカー及び人力車等の、人が手で押し引きすることにより車体に取り付けられた車輪が回転して車体が移動する車両(本明細書においては当該車両を「手動推進車両」という。)には、従来車輪に遠心力ブレーキ装置を付設したものがある(例えば特許文献1の
図11参照。)。遠心力ブレーキ装置は、車輪の回転に伴って発生する遠心力でブレーキシューをブレーキドラムに押し付け、車輪にブレーキ力を付与する自動ブレーキ装置であり、これを車輪に付設することにより、手動推進車両の使用や取扱いを容易かつ安全なものにすることができる。
【0003】
図25に示すように、特許文献1に記載の速度抑制装置200は、円板状に形成された支持プレート201と、揺動軸202を介して支持プレート201に揺動自在に取り付けられた2つのブレーキシュー203と、ばね204を介してブレーキシュー203の一端を保持するばね位置保持部205と、ブレーキシュー203の一端に作用するばね204の弾性力を調整する位置変更機構206を有している。
【0004】
支持プレート201は、図示しない遊星歯車機構を介して図示しない車輪と連結されており、車輪が回転すると、遊星歯車機構の増速比に応じた回転数で、車輪よりも高速回転される。ブレーキシュー203は、平面形状が弧状に形成されており、その一端に細幅のばね受け部207が形成されると共に、他端側の外面にブレーキパッド208が取り付けられている。揺動軸202は、ブレーキシュー203の長さ方向の中央部よりもばね受け部207の形成側に偏倚した位置に設けられる。位置変更機構206は、ラック・ピニオン機構をもって構成しており、位置変更機構206を調整することにより、ばね位置保持部205の位置ひいてはばね204の圧縮量を調整できるようになっている。
【0005】
即ち、位置変更機構206は、支持プレート201に回転可能に取り付けられた調整ギア210と、支持プレート201の回転軸心と同心に配置され、調整ギア210と噛み合わされたピニオン211と、支持プレート201上に直線移動可能に保持され、ピニオン211と噛み合わされたラック部212を有している。ラック部212とばね位置保持部205の当接面は、同一角度で傾斜する傾斜面になっている。調整ギア210は、手動推進車両のメーカ、ユーザ又はレンタル業者等(本明細書においてはこれらの者を「ユーザ等」という。)が車輪の外部から回転位置を適宜変更できるようになっている。従って、
図25(a)の状態から、ユーザ等が調整ギア210を回転操作してピニオン211を右回転させると、
図25(b)に示すように、上側のラック部212が右方向に、下側のラック部212が左方向に移動し、上下のばね位置保持部205が各ラック部212の傾斜面に沿って支持プレート201の外周方向に移動する。これにより、ばね204の圧縮量が大きくなって、ばね受け部207に作用するばね204の弾性力が増加する。反対に、
図25(b)の状態から、ユーザ等が調整ギア210を回転操作してピニオン211を左回転させると、
図25(a)に示すように、上側のラック部212が左方向に、下側のラック部212が右方向に移動し、上下のばね位置保持部205が各ラック部212の傾斜面に沿って支持プレート201の内周方向に移動する。これにより、ばね204の圧縮量が小さくなってばね受け部207に作用するばね204の弾性力が減少する。
【0006】
なお、支持プレート201の外周には、支持プレート201と同心に、ブレーキパッド208と協働して車輪にブレーキ力を付与するブレーキドラム(図示省略)が配置される。初期設定状態においては、ブレーキドラムの内面とブレーキパッド208の外面との間に所要の間隔が設けられており、車輪にはブレーキ力が付与されない。
【0007】
特許文献1に記載の速度抑制装置200は、このように構成されているので、車輪が回転すると、車輪の回転が遊星歯車機構を介して支持プレート201に伝達され、支持プレート201が車輪の回転数と遊星歯車機構の増速比との積で増速回転される。支持プレート201が回転すると、それに伴ってブレーキシュー203に遠心力が作用する。ブレーキシュー203の回転中心である揺動軸202は、ブレーキシュー203の中央部よりもばね受け部207側に偏倚した位置に設けられているので、ばね受け部207側よりも大重量のブレーキパッド208側により大きな遠心力が作用する。しかしながら、ブレーキシュー203のばね受け部207には、ばね204の弾性力が付与されているので、支持プレート201の回転数が低く、ブレーキパッド208側に作用する遠心力がばね204の弾性力以下である場合には、ブレーキパッド208は外向きに移動し得ず、ブレーキパッド208がブレーキドラムに押し付けられないので、車輪は非制動状態のまま維持される。これに対して、支持プレート201の回転数が高くなり、ブレーキパッド208側に作用する遠心力がばね204の弾性力を超えると、ブレーキパッド208がばね204の弾性力に抗して外向きに移動し、ブレーキドラムの内面に押し付けられるので、車輪にブレーキ力が付与される。
【0008】
このように、特許文献1に記載の速度抑制装置200は、ブレーキシュー203のブレーキパッド208側に作用する遠心力と、ブレーキシュー203のばね受け部207に作用するばね204の弾性力とのバランスによって、車輪にブレーキ力が付与される車輪の回転数が変わるので、位置変更機構206を操作し、ばね204の弾性力を変更することによって、車輪にブレーキ力が付与される車輪の回転数を変更できる。特許文献1に記載の速度抑制装置200は、このように構成されているので、歩行補助車に適用した場合を例にとって説明すると、ばね受け部207に作用するばね204の弾性力を高めることにより、早い速度で歩行できるユーザにとっての使い勝手を良好なものとすることができる。また、これとは反対に、ばね受け部207に作用するばね204の弾性力を低めることにより、遅い速度でしか歩行できないユーザにとっての使い勝手を良好なものとすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の速度抑制装置200は、ブレーキシュー203のブレーキパッド208側に作用する遠心力と、ブレーキシュー203のばね受け部207に付与されるばね204の弾性力との差分の力で、ブレーキドラムにブレーキパッド208を押し付ける構成であるので、位置変更機構206を用いてばね204の弾性力を高めるほどブレーキの利きが悪くなり、車輪にブレーキ力が付与される車輪の回転数と車輪に付与されるブレーキ力とを個別に調整できないという問題がある。また、特許文献1に記載の速度抑制装置200は、長大なばね204を備えることが構造上困難であるので、位置変更機構206を最大限操作しても、車輪に付与するブレーキ力を広範囲に調整することができない。手動推進車両を安全かつ快適に使用するためには、車輪に作用するブレーキ力を手動推進車両のユーザ毎に最適な値に調整すべきであるが、特許文献1に記載の速度抑制装置200は、車輪に付与するブレーキ力を広範囲に調整することができないので、ユーザの広範な要求に応じることが困難である。勿論、ばね204を弾性率が異なるものに交換すれば、車輪に作用するブレーキ力を広範囲に調整可能であるが、ばね204を交換するためには速度抑制装置200を全分解しなくてはならないので、手動推進車両のメンテナンスに多大な労力を要する。
【0011】
また、特許文献1に記載の速度抑制装置200は、ブレーキシュー203のブレーキパッド208側に作用する遠心力が、ブレーキシュー203のばね受け部207に付与されるばね204の弾性力を超えた段階で、自動的に車輪にブレーキ力が付与される構成になっているので、車輪の回転数に関係なく、車輪にブレーキ力を付与しない構成とすることができない。この点からも、特許文献1に記載の速度抑制装置200は、ユーザの広範な要求に応じることが難しい。
【0012】
さらに、特許文献1に記載の速度抑制装置200は、揺動軸202を中心としてブレーキシュー203を揺動する構成になっているので、車輪の回転方向によってブレーキドラムとブレーキシュー203との間に作用するセルフサーボ効果が異なり、車輪に付与されるブレーキ力に差を生じる。このため、特許文献1に記載の速度抑制装置200を手動推進車両に適用するためには、車体の右側に取り付けられる右側用ユニットと車体の左側に取り付けられる左側用ユニットの2種類が必要となり、手動推進車両の製造工程が複雑化する。
【0013】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、車輪に付与されるブレーキ力を広範囲に調整可能でユーザの広範な要求に応じることができ、しかも製造やメンテナンスが容易な遠心力ブレーキ装置及びこれを備えた手動推進車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、このような技術的課題を解決するため、遠心力ブレーキ装置に関しては、固定部に保持された主軸と、前記主軸と同心に配置されたブレーキアームと、前記主軸及び前記ブレーキアームと同心に配置されたブレーキドラムと、原動部の回転を増速して従動部である前記ブレーキアームに伝達する増速機構と、前記主軸の軸心を中心とする前記ブレーキアームの径方向に摺動自在に設置され、前記ブレーキアームが回転駆動されたときの遠心力により、前記ブレーキアームの外周方向に移動して、その先端部が前記主軸の軸心を中心とする前記ブレーキドラムの径方向に押し付けられる複数のブレーキシューユニットと、
前記複数のブレーキシューユニットのそれぞれについて、遠心力を受けた際の可動範囲を個別に規制するブレーキ力調節機構とを備え、前記ブレーキ力調節機構は、前記ブレーキシューユニットに形成された突起と、前記突起の先端と対向するカム面を有するカムが周方向に形成され、周方向に回転可能であるようにして前記ブレーキアームの片面に取り付けられたブレーキ力調節板とから構成され、前記ブレーキアームに対する前記ブレーキ力調節板の取付位置を周方向に変更することにより、前記突起と前記カム面との間の隙間の大きさを変更して、前記ブレーキシューユニットの可動範囲を調整することを特徴とする。
【0015】
ブレーキシューユニットをブレーキアームの径方向に摺動自在に設置すると、ブレーキアームの回転に伴う遠心力がブレーキシューユニットに作用したときに、ブレーキシューユニットをブレーキドラムの径方向に押し付けることができるので、主軸の回転方向によらず遠心力ブレーキ装置のセルフサーボ効果を一定にできる。よって、本構成の遠心力ブレーキを手動推進車両に適用したときに、手動推進車両の左右に配置した遠心力ブレーキ装置の効きを揃えることができるので、1種類の遠心力ブレーキ装置を用いて車体の左右に車輪を備えた手動推進車両を製造することが可能となり、手動推進車両の製造を容易かつ低コストなものにすることができる。
【0017】
ブレーキアームの径方向に複数のブレーキシューユニットを摺動自在に設置し、各ブレーキシューユニットの可動範囲を、ブレーキ力調節機構を用いて個別に規制できるようにすると、ブレーキドラムに押し付け可能な位置まで移動できるように可動範囲が調整されたブレーキシューユニットの数を増減することにより、原動部に作用するブレーキ力を調節できるので、ばねの弾性力を調整する場合に比べて、原動部に作用するブレーキ力の調整範囲を格段に広げることができる。即ち、ブレーキドラムに押し付けられるブレーキシューユニットの数を多くするほど、原動部に大きなブレーキ力を付与でき、その数を少なくするほど、原動部に作用するブレーキ力を小さくできるので、ばねの弾性力によってブレーキ力を調節する場合に比べて、原動部に作用するブレーキ力の調節範囲を拡大できて、ユーザの広範な要求に対応することができる。また、ブレーキ力調節機構を操作するだけで原動部に作用するブレーキ力を調節できるので、遠心力ブレーキ装置のメンテナンスを容易なものにできる。
【0019】
本構成によると、ブレーキアームに対するブレーキ力調節板の取付位置を周方向に変更するだけで各ブレーキシューユニットの可動範囲を調整できるので、主軸に作用するブレーキ力の調節を容易に行うことができる。
【0020】
また本発明は、前記構成の遠心力ブレーキ装置において、前記原動部と前記増速機構との間に、前記原動部から前記増速機構への回転力の伝達を手動で解除するブレーキ解除機構を備えたことを特徴とする。
【0021】
本構成によると、原動部と増速機構との間にブレーキ解除機構を備えたので、ブレーキ解除機構を操作することによって、原動部にブレーキ力を作用させる制動状態への切り替えと、原動部にブレーキ力を作用させない制動解除状態への切り替えが可能となり、遠心力ブレーキ装置の多用途性を高めることができる。また、ブレーキ解除機構を手動で操作できるようにしたので、ブレーキ解除機構を操作する際のユーザ等の労力を軽減できる。
【0022】
また本発明は、前記構成の遠心力ブレーキ装置において、前記ブレーキシューユニットを前記ブレーキアームの回転中心側に付勢する圧縮ばねを備え、前記ブレーキシューユニットに作用する遠心力が前記圧縮ばねの弾性力を超えていないときには、前記ブレーキシューユニットを前記ブレーキアームの回転中心側に保持し、前記ブレーキシューユニットに作用する遠心力が前記圧縮ばねの弾性力を超えたときには、前記ブレーキシューユニットを前記ブレーキアームの外周側に移動させることを特徴とする。
【0023】
本構成によると、ブレーキシューユニットをブレーキアームの回転中心側に付勢する圧縮ばねを備えたので、ブレーキシューユニットに作用する遠心力が圧縮ばねの弾性力を超えた段階で、初めて主軸にブレーキ力が付与される。よって、圧縮ばねの弾性力を調整することによりブレーキ力が付与される主軸の回転数を適宜設定できるので、より使い勝手が良好な遠心力ブレーキ装置をユーザ毎に提供できる。
【0024】
また本発明は、前記構成の遠心力ブレーキ装置において、前記圧縮ばねの初期圧縮量を調整し、前記ブレーキシューユニットが前記ブレーキアームの外方に移動するに必要な前記ブレーキアームの回転速度を変更する速度領域調整機構を備えたことを特徴とする。
【0025】
圧縮ばねは、ブレーキシューユニットをブレーキアームの回転中心側に付勢する部材であるので、初期圧縮量を大きくすることによって主軸にブレーキ力が付与される車輪の回転数を高く設定でき、反対に、初期圧縮量を小さくすることによって主軸にブレーキ力が付与される車輪の回転数を低く設定できる。よって、本構成によると、上述したブレーキ力調節機構による効果と相まって、更に使い勝手が良好な遠心力ブレーキ装置とすることができる。
【0026】
また本発明は、前記構成の遠心力ブレーキ装置において、前記速度領域調整機構は、前記主軸と同心に配置され、前記ブレーキアームの片面に着脱可能に取り付けられる初期荷重調整板を有しており、前記初期荷重調整板には、前記圧縮ばねの端部に差し込んで前記圧縮ばねの初期圧縮量を変更する圧縮量調整片が形成されていることを特徴とする。
【0027】
本構成によると、初期荷重調整板に形成された圧縮量調整片を圧縮ばねの端部に差し込むだけで圧縮ばねの初期圧縮量を変更できるので、主軸にブレーキ力が付与される車輪の回転数の調整を容易に行うことができる。なお、初期荷重調整板に厚さが異なる複数の圧縮量調整片を形成すれば、1つの初期荷重調整板を備えるだけで圧縮ばねの初期圧縮量を多段階に変更できる。
【0028】
また本発明は、前記構成の遠心力ブレーキ装置において、前記速度領域調整機構は、前記主軸と同心に配置され、前記ブレーキアームの片面に着脱可能に取り付けられる初期荷重調整板を有しており、前記初期荷重調整板には、前記圧縮ばねの一端に当接され、前記圧縮ばねの圧縮・伸長方向に変位する可動板に形成された係合ピンを係合するカム溝が形成されていて、前記カム溝は、前記初期荷重調整板を回転操作したときに、前記可動板を前記圧縮ばねの圧縮・伸長方向に変位する形状に形成されていることを特徴とする。
【0029】
本構成によると、初期荷重調整板を回転駆動することにより、圧縮ばねの一端に当接された可動板を圧縮ばねの圧縮・伸長方向に変位させることができるので、これによっても主軸にブレーキ力が付与される車輪の回転数の調整を容易に行うことができる。
【0030】
また本発明は、前記構成の遠心力ブレーキ装置において、前記ブレーキアームに歯車を回転可能に取り付けると共に、前記初期荷重調整板には、前記歯車と噛み合わされる歯列を形成し、前記歯車を手動で回転操作することにより前記初期荷重調整板を前記主軸の周りに回転させることを特徴とする。
【0031】
本構成によると、ブレーキアームに取り付けられた歯車と初期荷重調整板に形成された歯列とからなる歯車機構を介して初期荷重調整板を回転操作するので、初期荷重調整板の回転量ひいては圧縮ばねの圧縮量を微細に調整することが可能で、主軸にブレーキ力が付与される車輪の回転数をユーザ等の要望に合わせて多様に調整することができる。
【0032】
また本発明は、前記構成の遠心力ブレーキ装置において、前記ブレーキアームと前記歯車との間に弾性部材を配置し、前記初期荷重調整板を前記主軸の周りに回転させる場合には、前記歯車を前記弾性部材の弾性力に抗して押し込み、前記歯車と前記初期荷重調整板に形成された歯列とを噛み合わせることを特徴とする。
【0033】
本構成によると、初期荷重調整板を回転操作する場合にのみ、歯車と初期荷重調整板に形成された歯列とが噛み合わされて、初期荷重調整板が回転可能になるので、初期荷重調整板がユーザ等の意図しないタイミングで不用意に回転することを防止でき、初期荷重調整板を備えた遠心力ブレーキ装置の信頼性を高めることができる。
【0034】
一方、本発明は、手動推進車両に関し、ユーザが手動で操作する車体と、前記車体の下部に取り付けられた車輪と、前記車輪にブレーキ力を付与する遠心力ブレーキ装置を備えた手動推進車両において、前記遠心力ブレーキ装置は、固定部に保持された主軸と、前記主軸と同心に配置されたブレーキアームと、前記主軸及び前記ブレーキアームと同心に配置されたブレーキドラムと、原動部である前記車輪の回転を増速して従動部である前記ブレーキアームに伝達する増速機構と、前記主軸の軸心を中心とする前記ブレーキアームの径方向に摺動自在に設置され、前記ブレーキアームが回転駆動されたときの遠心力により、前記ブレーキアームの外周方向に移動して、その先端部が前記主軸の軸心を中心とする前記ブレーキドラムの径方向に押し付けられる複数のブレーキシューユニットと
、前記複数のブレーキシューユニットのそれぞれについて、遠心力を受けた際の可動範囲を個別に規制するブレーキ力調節機構とを備え、前記遠心力ブレーキ装置と対向に配置された車輪、又は、前記遠心力ブレーキ装置を構成するブレーキカバーに窓孔を設け、前記車輪又は前記ブレーキカバーの外側から前記窓孔を通して挿入された所要の工具を用いて、前記車輪の外部から前記ブレーキ力調節機構を操作できるように構成されていることを特徴とする。
【0035】
本構成によると、車輪の回転時に複数のブレーキシューユニットがブレーキアームの径方向に摺動してブレーキドラムに押し付けられる遠心力ブレーキを備えたので、主軸の回転方向によらず遠心力ブレーキ装置のセルフサーボ効果を一定にできる。よって、手動推進車両の左右に配置した遠心力ブレーキ装置の効きを揃えることができるので、1種類の遠心力ブレーキ装置を用いて車体の左右に車輪を備えた手動推進車両を製造することが可能となり、手動推進車両の製造を容易かつ低コストなものにすることができる。
【0037】
本構成によると、ブレーキ力調節機構を車輪又はブレーキカバーの外部から操作できるので、車輪及び遠心力ブレーキ装置を分解することなく車輪に作用するブレーキ力の調整を行うことができ、手動推進車両のメンテナンス性を高めることができる。
【0038】
また本発明は、前記構成の手動推進車両において、前記車輪と前記増速機構との間に、前記車輪から前記増速機構への回転力の伝達を手動で解除するブレーキ解除機構を備えたことを特徴とする。
【0039】
本構成によると、車輪と増速機構との間にブレーキ解除機構を備えたので、手動推進車両を、車輪に遠心力ブレーキ装置のブレーキ力が作用する状態、或いは、車輪に遠心力ブレーキ装置のブレーキ力が作用しない状態で使用することが可能となり、手動推進車両の多用途性を高めることができる。また、ブレーキ解除機構を手動で操作できるようにしたので、ブレーキ解除機構を操作する際のユーザ等の労力を軽減できる。
【0040】
また本発明は、前記構成の手動推進車両において、前記車輪の外面部に取り付けられるホイールカバーに、前記ブレーキ解除機構を外部に臨ませるための透孔を開設したことを特徴とする。
【0041】
本構成によると、ホイールカバーに開設された透孔を通して、ブレーキ解除機構を外部に臨ませることができるので、ホイールカバーを取り外すことなくブレーキ解除機構の操作を行うことができ、ブレーキ解除機構を操作する際のユーザ等の労力を軽減できる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によると、原動部である車輪に作用するブレーキ力の調節範囲を大きくできるので、最適なブレーキ力を有する手動推進車両をユーザ毎に提供できる。また、遠心力ブレーキに手動で操作可能なブレーキ力調節機構を備えるので、遠心力ブレーキ装置ひいてはこれを備えた手動推進車両のメンテナンスを容易化できる。さらに、手動推進車両に対する遠心力ブレーキ装置の取付位置に関わりなく、遠心力ブレーキ装置のセルフサーボ効果を一定にできるので、手動推進車両の製造に複数種類の遠心力ブレーキ装置を用いる必要がなく、手動推進車両の製造を容易かつ低コストなものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】第1実施形態に係る手動推進車両の一例を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る遠心力ブレーキ装置のケーシング部材からアーム部材までの構成を示す分解斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る遠心力ブレーキ装置のアーム部材から車輪までの構成を示す分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係る内歯歯車の内面側から見た斜視図である。
【
図5】第1実施形態に係る第1遊星キャリアのブレーキカバー側から見た斜視図である。
【
図6】第1実施形態に係る第2遊星キャリアのブレーキカバー側から見た斜視図である。
【
図7】第1実施形態に係るブレーキアームのブレーキドラム側から見た斜視図である。
【
図8】第1実施形態に係るブレーキアームのブレーキカバー側から見た斜視図である。
【
図9】第1実施形態に係るブレーキシューユニットの分解斜視図である。
【
図10】第1実施形態に係る初期荷重調整板のブレーキカバー側から見た正面図である。
【
図11】第1実施形態に係る初期荷重調整板のブレーキカバー側から見た斜視図である。
【
図12】第1実施形態に係るブレーキシューユニットの第1初期荷重調整状態を示す要部断面図である。
【
図13】第1実施形態に係るブレーキシューユニットの第2初期荷重調整状態を示す要部断面図である。
【
図14】第1実施形態に係るブレーキシューユニットの第3初期荷重調整状態を示す要部断面図である。
【
図15】第1実施形態に係るブレーキ力調節板の表面側から見た斜視図である。
【
図16】第1実施形態に係るブレーキ力調節板の裏面側から見た斜視図である。
【
図17】第1実施形態に係るブレーキシューユニットの第1ブレーキ力調節状態を示す断面図である。
【
図18】第1実施形態に係るブレーキシューユニットの第2ブレーキ力調節状態を示す断面図である。
【
図19】第1実施形態に係るブレーキシューユニットの第3ブレーキ力調節状態を示す断面図である。
【
図20】第1実施形態に係るブレーキシューユニットの第4ブレーキ力調節状態を示す断面図である。
【
図21】ブレーキアームに対するブレーキ力調節板の第1設定状態を示す、ブレーキドラムを除去した第1実施形態に係る遠心力ブレーキの正面図である。
【
図22】ブレーキアームに対するブレーキ力調節板の第2設定状態を示す、ブレーキドラムを除去した第1実施形態に係る遠心力ブレーキの正面図である。
【
図23】ブレーキアームに対するブレーキ力調節板の第3設定状態を示す、ブレーキドラムを除去した第1実施形態に係る遠心力ブレーキの正面図である。
【
図24】ブレーキアームに対するブレーキ力調節板の第4設定状態を示す、ブレーキドラムを除去した第1実施形態に係る遠心力ブレーキの正面図である。
【
図25】従来例に係る速度抑制装置の構成を示す正面図である。
【
図26】第2実施形態に係るブレーキ解除機構の分解斜視図である。
【
図27】第2実施形態に係る遠心力ブレーキ装置の分解斜視図である。
【
図28】第2実施形態に係る切替レバーの内面側から見た斜視図である。
【
図29】第2実施形態に係る車輪の断面を示す斜視図である。
【
図30】第2実施形態に係る切替レバーの切替状態を示す斜視図である。
【
図31】切替レバーが制動側に切り替えられた第2実施形態に係る遠心力ブレーキ装置の要部断面図である。
【
図32】切替レバーが制動解除側に切り替えられた第2実施形態に係る遠心力ブレーキ装置の要部断面図である。
【
図33】第2実施形態に係る初期荷重調整板と、ブレーキシューユニットが取り付けられたブレーキアームと、歯車群と、内歯車の組立状態を示す平面図である。
【
図34】第2実施形態に係るブレーキシューユニットの第1の状態を示す一部省略した平面図である。
【
図35】第2実施形態に係るブレーキシューユニットの第2の状態を示す一部省略した平面図である。
【
図36】第2実施形態に係る初期荷重調整板と、ブレーキシューユニットが取り付けられたブレーキアームとの組立状態を示す一部省略した平面図である。
【
図37】第2実施形態に係る初期荷重調整板の操作前後の状態を示す要部断面図である。
【
図38】第2実施形態に係る初期荷重調整板の回転操作時の状態を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
〈第1実施形態〉
まず、本発明に係る手動推進車両の第1実施形態を、
図1に示す歩行補助車1を例にとって説明する。歩行補助車1は、ハンドカート又はシルバーカートとも呼ばれる。第1実施形態に係る歩行補助車1は、ブレーキドラムに作用するブレーキ力を段階的に調節するブレーキ力調節機構と、主軸にブレーキ力が付与され始める車輪の回転数を初期設定する速度領域調整機構とを遠心力ブレーキ装置に備えたことを特徴とする。
【0045】
なお、本発明の手動推進車両は、歩行補助車に限定されるものではなく、乳母車、荷物運搬用の手押し台車、リヤカー及び人力車等の、人が手で押し引きすることで車体に取り付けられた車輪が回転して車体が移動する全ての車両を対象とする。また、歩行補助車についても、
図1に示すものに限定されるわけではなく、買い物かごを兼用した座席シートを備えたものや、本体フレームの各脚部に2つずつ車輪を備えたものも対象とする。
【0046】
第1実施形態に係る歩行補助車1は、
図1に示すように、U字形に形成された上部フレーム2及び下部フレーム3と、これらをつなぐ4本の脚部4と、各脚部4の下端部に回転自在に取り付けられた車輪5と、各車輪5に付設された遠心力ブレーキ装置6をから主に構成されている。なお、第1実施形態に係る歩行補助車1は、ユーザが肘を上部フレーム2の上面について立ち、体重を支えながら歩行するためのものである。従って、上部フレーム2の上面には、柔軟性の保護パッド7が取り付けられている。
【0047】
次に、第1実施形態に係る遠心力ブレーキ装置6の実施形態を、
図2〜
図24を参照しながら説明する。
【0048】
第1実施形態に係る遠心力ブレーキ装置6は、
図2に示すように、ブレーキカバー11と、ブレーキアーム12と、主軸13と、主軸13に固着された第1遊星キャリア14と、第1遊星キャリア14に回転自在に保持された第1遊星歯車15と、主軸13に回転可能に装着され、第1遊星歯車15により増速回転される第2遊星キャリア16と、第2遊星キャリア16に回転自在に保持された第2遊星歯車17と、主軸13と同心に配置して、ブレーキカバー11に固着された内歯歯車18を備えている。また、第1実施形態に係る遠心力ブレーキ装置6は、
図3に示すように、ブレーキアーム12の外面に、ブレーキアーム12の径方向に摺動可能であるように取り付けられたブレーキシューユニット21A、21B、21Cと、主軸13と同心に配置され、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの初期荷重を調整する初期荷重調整板22と、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの外周に配置されるブレーキドラム23と、主軸13と同心に配置され、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cとブレーキドラム23との間に発生するブレーキ力を調節するブレーキ力調節板24と、主軸13の先端部に固着される車輪5と、車輪5の外面中央部に被着されたホイールカバー26を備えている。主軸13は、その両端が、固定部であるブレーキカバー11とブレーキドラム23とに回転自在に保持される。
【0049】
ブレーキカバー11は、第1遊星キャリア14、第1遊星歯車15、第2遊星キャリア16及び第2遊星歯車17を収納可能な大きさを有する有底円筒形の本体部31と、本体部31の底部外面に形成された車両連結部32とから主に構成されている。本体部31を構成する底部31aの中心には、主軸13を回転可能に保持するための主軸保持孔33が開設される。また、本体部31を構成する円筒部31bの内面には、後に説明するナット47を保持するための複数(
図2の例では3組)のリブ34と、ブレーキカバー11に対して内歯歯車18をねじ止めするための複数(
図2の例では3個)のねじ孔35が、夫々等分に形成される。さらに、各リブ34の前方側の端部には、後に説明するナット47を配置するための凹部34aが形成される。なお、
図2の例においては、2枚のリブ34が1組になっているが、これはナット47を安定に保持するためのものであり、ナット47を安定に保持可能であれば、1枚であっても3枚以上の複数枚であっても良い。
【0050】
車両連結部32は、歩行補助車1を構成する脚部4の下端部を挿入可能な筒状に形成されており、
図1に示すように、歩行補助車1の脚部4を差し込んだ後、車両連結部32に螺合された止めねじ36を締め付けることにより、脚部4に固定される。
【0051】
内歯歯車18は、
図2及び
図4に示すように、ブレーキカバー11の開口側を覆うに足る大きさを有する円形の蓋板部41と、蓋板部41の片面に設けられたリング状の突出部42とから構成されている。蓋板部41の中央部には、後に説明するブレーキアーム12を貫通するための貫通孔43が開設され、その外周部には、ブレーキカバー11に内歯歯車18をねじ止めするためのねじ貫通孔44が周方向に等分に開設されている。さらに、蓋板部41の裏面側(ブレーキカバー11側)には、ブレーキカバー11に形成された凹部34a内に挿入可能な突起41aが突設され、当該突起41aの中心部には、ナット47を収納するための六角穴41bが形成されている。勿論、六角穴41bの中心部には、蓋板部41の表面に貫通する図示しないねじ貫通孔が設けられる。突出部42の外径は、ブレーキカバー11を構成する本体部31の内部に突出部42を内挿可能な大きさに設定されており、その外面には、成形時の変形を防止するためのリブ45が形成されている。また、位置決め部42の内面には、
図4に示すように、第1遊星歯車15及び第2遊星歯車17が噛み合わされる内歯歯車18の歯列18aが形成される。なお、歯列18aの形状については、図示を省略する。
【0052】
内歯歯車18は、突出部42をブレーキカバー11の本体部31の内面に沿って挿入し、蓋板部41の裏面側に形成された突起41aを、ブレーキカバー11に形成された凹部34a内に挿入した後、蓋板部41に開設されたねじ貫通孔44を貫通したボルト46をブレーキカバー11の本体部31に開設されたねじ孔35に螺合することにより、ブレーキカバー11と一体化される。これにより、ブレーキカバー11と内歯歯車18の間に、主軸13、第1遊星キャリア14、第1遊星歯車15、第2遊星キャリア16及び第2遊星歯車17を収納可能な空間が形成される。
【0053】
図2に示すように、主軸13の先端には、車輪5を固定するための雄ねじ51が形成され、それに続く部分には、車輪5を回転不能に保持するための切欠部52が形成されている。また、主軸13の末端側には、第1遊星キャリア14を回転不能に連結するための連結ピン53が径方向に突出される。さらに、切欠部52と連結ピン53との間の所定の部分には、Cリング54を係合するための凹溝55が形成されている。
【0054】
第1遊星キャリア14は、
図2及び
図5に示すように、円板状に形成されており、その中心部には、主軸13を貫通するための中心孔61が開設されている。中心孔61の裏面側(ブレーキカバー11側)には、
図5に示すように、連結ピン53を係合するための係合溝62が形成される。また、第1遊星キャリア14の表面側には、中心孔61を介して径方向の対称の位置に、2つの歯車取付軸63が垂直方向に突設される。第1遊星キャリア14は、中心孔61に主軸13を貫通し、主軸13に取り付けられた連結ピン53を係合溝62内に挿入することによって、主軸13と一体化される。
【0055】
第1遊星歯車15は、周面に歯列15aが形成された外歯車であり、その中心部には、第1遊星キャリア14に形成された歯車取付軸63を挿入するための挿入孔64が開設されている。第1遊星歯車15は、挿入孔64内に歯車取付軸63を挿入することにより、第1遊星キャリア14に回転自在に取り付けられる。なお、歯列15aの形状については、図示を省略する。
【0056】
第2遊星キャリア16は、
図2及び
図6に示すように、円板状に形成されており、その中心部には、主軸13を貫通するための中心孔65が開設されている。第2遊星キャリア16の裏面側(ブレーキカバー11側)には、
図6に示すように、中心軸65と同心にして、第1遊星歯車15が噛み合わされる中間歯車66が形成されている。また、第2遊星キャリア16の表面側には、中心孔65を介して径方向の対称の位置に、2つの歯車取付軸67が垂直方向に突設される。第2遊星キャリア16は、中心孔65に主軸13を貫通することにより主軸13に回転可能に取り付けられる。なお、中間歯車66の歯列の形状については、図示を省略する。
【0057】
第2遊星歯車17は、周面に歯列17aが形成された外歯車であり、その中心部には、第2遊星キャリア16に形成された歯車取付軸67を挿入するための挿入孔68が開設されている。第2遊星歯車17は、挿入孔68内に歯車取付軸67を挿入することにより、第2遊星キャリア16に回転自在に取り付けられる。なお、歯列17aの形状については、図示を省略する。
【0058】
ブレーキアーム12は、
図2、
図7及び
図8に示すように、中心部に主軸13の貫通孔70を有する円板形の本体部71と、本体部71の裏面側(ブレーキカバー11側)において貫通軸70と同心に形成された円筒形の出力歯車72と、本体部71の表面側において貫通軸70と同心に形成された周壁73とを有している。なお、出力歯車72の歯列の形状については、図示を省略する。
【0059】
周壁73の所要の位置には、後に説明する初期荷重調整板22を取り付けるためのねじ孔74a、74bを有する2つのボス75a、75bが形成される。また、本体部71の表面側の所要の位置には、後に説明するブレーキ力調節板24を取り付けるためのねじ孔76を有するボス77が形成される。さらに、本体部71の表面側には、周壁73を貫通して本体部71の径方向に延びる複数個(
図7の例では3個)のブレーキシューユニット設定部78が等分に形成されている。ブレーキシューユニット設定部78は、上辺78a、下辺78b、左側辺78c及び右側辺78dをもって、本体部71の径方向に長い長方形に形成されており、上辺78a及び下辺78bには、後に説明するブレーキシューユニット21A、21B、21Cを取り付けるための切欠部79a、79bがそれぞれ形成される。ブレーキシューユニット設定部78の内周は、
図8に示すように、本体部71の裏面側に貫通している。また、周壁73の内面の一部には、
図7に示すように、後に説明するブレーキ力調節板24の回転方向位置を目視で理解できるようにするための指標突起80が形成されている。
【0060】
ブレーキアーム12は、主軸13に、第1遊星歯車15が回転自在に保持された第1遊星キャリア14、第2遊星歯車17が回転自在に保持された第2遊星キャリア16、内歯歯車18及びブレーキアーム12をこの順に取り付けた後、ブレーキアーム12の表面側に露出した凹溝55にCリング54を係合することにより、主軸13に回転自在に取り付けられる。
【0061】
上述のようにして、主軸13に、第1遊星歯車15が回転自在に保持された第1遊星キャリア14、第2遊星歯車17が回転自在に保持された第2遊星キャリア16、内歯歯車18及びブレーキアーム12をこの順に取り付けると、第1遊星歯車15が第2遊星キャリア16に形成された中間歯車66及び内歯歯車18に噛み合わされ、第1の遊星歯車機構が構成される。従って、主軸13の回転に伴い、第2遊星キャリア16が、第1の遊星歯車機構の増速比で増速回転される。また、この状態においては、第2遊星歯車17がブレーキアーム12に形成された出力歯車72と内歯歯車18とに噛み合わされ、第2の遊星歯車機構が構成される。従って、第2遊星キャリア16の回転に伴い、ブレーキアーム12が第2の遊星歯車機構の増速比で増速回転される。この結果、第1の遊星歯車機構の増速比をn1、第2の遊星歯車機構の増速比をn2、主軸13の回転数をNとしたとき、ブレーキアーム12は、n1×n2×Nで増速回転される。
【0062】
ブレーキシューユニット21A、21B、21Cは、
図9に示すように、ブレーキシューユニット設定部78内に摺動自在に収納可能な立方体形状に形成された摺動部81と、摺動部81の上面より垂直に起立された軸部82と、軸部82に外装された圧縮ばね83と、軸部82の先端部にスプリングピン84により取り付けられるウェイト部85と、圧縮ばね83とウェイト部85との間に介設された可動板86と、ウェイト部85の上面に着脱可能に取り付けられたライニング部材87とから構成されている。スプリングピン84は、軸部82の先端寄りに開設された透孔88と、ウェイト部85の中心部に開設された透孔89とに一連に差し込むことにより、軸部82にウェイト部85を固着する。ライニング部材87は、ライニング87aと、脚部87bを有するライニング保持部87cとから構成されており、脚部87bをウェイト部85の上面に形成された取付孔85aに圧入することにより、ウェイト部85に着脱可能に取り付けられる。このように本例のライニング部材87は、ウェイト部85に対して着脱可能に構成されているので、摩耗や汚れによって劣化した場合には、ライニング部材87のみの交換が可能で、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの全体を交換する必要がないので、遠心力ブレーキ装置のメンテナンスを安価に行うことができる。
【0063】
摺動部81の下面には、三角柱形状の突起101が、1つの頂辺を下向きにした状態で形成される。また、摺動部81の前面下方には、後に説明するブレーキ力調節板24に当接してブレーキシューユニット21A、21B、21Cの移動範囲を規制する係合突起102が形成される。さらに、摺動部81の側面の前面側には、ブレーキアーム12に形成されたブレーキシューユニット設定部78の左側辺78c及び右側辺78dに当接される当接突起103が形成されると共に、摺動部81の背面の側面側には、係合爪を有する係合突起104が形成される。
【0064】
ブレーキシューユニット21A、21B、21Cは、
図7及び
図8に示すように、ブレーキアーム12に形成されたブレーキシューユニット設定部78に取り付けられる。ブレーキシューユニット設定部78に対するブレーキシューユニット21A、21B、21Cの取り付けは、以下の方法で行われる。まず、係合突起104の形成側から摺動部81をブレーキシューユニット設定部78内に収納し、摺動部81の下面をブレーキシューユニット設定部78の下辺78bの内面に当接する。これにより、三角柱形状の突起101の先端部が、下辺78bに形成された切欠部79bを通して、下辺78bの下方に突出される。また、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cを構成する可動板86の外面をブレーキシューユニット設定部78の上辺78aの内面に当接した状態で、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの軸部82を、ブレーキシューユニット設定部78の上辺78aに形成された切欠部79a内に押し込む。これにより、摺動部81に形成された当接突起103が、ブレーキシューユニット設定部78の左側辺78c及び右側辺78dの前面に当接されると共に、摺動部81に形成された係合突起104が、ブレーキシューユニット設定部78の背面側にスナップ係合されて、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cがブレーキシューユニット設定部78に摺動可能に取り付けられる。この状態においては、圧縮ばね83の弾性力により、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cがブレーキアームの最も内周側に位置付けられている。
【0065】
初期荷重調整板22は、
図3、
図10及び
図11に示すように、リング状の板材をもって形成された本体部110と、当該本体部110の外周辺からブレーキカバー11側に向けて垂直に起立された複数組(
図10の例では3組)の圧縮量調整部111とからなる。各組の圧縮量調整部111は、厚さが異なる複数枚(
図10の例では2枚)の圧縮量調整片112、113を有しており、本体部110の周方向に等分に形成される。圧縮量調整片112、113の先端部には、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cへの装着を容易にするための面取り112a、113aが施されている。また、圧縮量調整片112、113の先端中央部には、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの軸部82を内挿可能なU字形の凹陥部112b、113bが形成されている。
【0066】
本体部110の周方向には、ブレーキアーム12に形成されたねじ孔74aに合致される複数個(
図10及び
図11の例では3個)のねじ貫通孔114a、114b、114cと、ブレーキアーム12に形成されたねじ孔74bに合致される複数個(
図10及び
図11の例では3個)のねじ貫通孔115a、115b、115cが開設されている。ねじ貫通孔114aとねじ貫通孔115a、ねじ貫通孔114bとねじ貫通孔115b、及び、ねじ貫通孔114cとねじ貫通孔115cとは、ねじ孔74a、74bの設定間隔と等しい間隔で開設される。また、ねじ貫通孔114aとねじ貫通孔114b、ねじ貫通孔114bとねじ貫通孔114c、ねじ貫通孔115aとねじ貫通孔115b、ねじ貫通孔115bとねじ貫通孔115cは、圧縮量調整片112、113の設定間隔θと等しい間隔で開設される。また、本体部110の内辺には、後に説明するブレーキ力調節板24に形成されるブレーキ力表示突起129とブレーキアーム12に形成された突起80との位置関係を外部から目視できるようにするための円弧状の切欠部116が形成される。
【0067】
初期荷重調整板22は、
図12〜
図14に示すように、圧縮量調整片112、113をブレーキシューユニット設定部78の上辺78aとブレーキシューユニット21A、21B、21Cの可動板86との間に挟み込むか、或いは挟み込まないことにより、圧縮ばね83の初期圧縮量つまりは初期弾性力を調整する。
図12は、圧縮量調整片112、113を上辺78aと可動板86との間に挟み込まない状態を示す図であり、この場合、圧縮ばね83の初期圧縮量は最小となり、初期弾性力も最小となる。
図13は、薄肉の圧縮量調整片112を上辺78aと可動板86との間に挟み込んだ状態を示す図であり、この場合、圧縮ばね83の初期圧縮量は中位となり、初期弾性力も中位となる。
図14は、厚肉の圧縮量調整片113を上辺78aと可動板86との間に挟み込んだ状態を示す図であり、この場合、圧縮ばね83の初期圧縮量は最大となり、初期弾性力も最大となる。圧縮量調整片112、113を上辺78aと可動板86との間に挟み込んだとき、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの軸部82は、圧縮量調整片112、113の先端に形成された凹陥部112b、113b内に挿入される。可動板86の先端部には面取り86aが施され、圧縮量調整片112、113の先端部には面取り112a、113aが施されているので、上辺78aと可動板86との間への圧縮量調整片112、113の挟み込みを容易に行うことができる。
【0068】
初期荷重調整板22は、ブレーキシューユニット設定部78の上辺78a及びブレーキシューユニット21A、21B、21Cの可動板86に対する圧縮量調整片112、113の周方向の位置を調整しながら、所要のねじ貫通孔114a〜114c、115a〜115cを貫通したねじ116(
図3参照)をねじ孔74a、74bに螺合することにより、ブレーキアーム12に取り付けられる。そして、上辺78aと可動板86との間に差し込まれる圧縮量調整片を変更する場合、或いは、上辺78aと可動板86との間に圧縮量調整片112、113が挟み込まれている状態から挟み込まれていない状態に、又は、挟み込まれていない状態から挟み込まれている状態に変更する場合には、まず主軸13から車輪5及びブレーキドラム23を取り外し、初期荷重調整板22を露出させる。次いで、ねじ116を緩めて初期荷重調整板22をブレーキアーム12から取り外し、初期荷重調整板22を回転してブレーキアーム12に対する圧縮量調整片112、113の回転方向位置を変更する。しかる後に、変更後の状態を維持したままねじ116を用いて、再度初期荷重調整板22をブレーキアーム12に取り付ける。従って、第1実施形態に係る遠心力ブレーキ装置の速度領域調整機構は、初期荷重調整板22と、ブレーキアーム12に形成されたブレーキシューユニット設定部78の上辺78aと、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの可動板86と、ブレーキシューユニット設定部78の上辺78aとブレーキシューユニット21A、21B、21Cの可動板86とをもって構成される。
【0069】
ブレーキ力調節板24は、
図3、
図15及び
図16に示すように、中心部に主軸13の貫通孔120を有する円板形の本体部121と、本体部121の裏面側(ブレーキカバー11側)において貫通孔120と同心に形成された円筒形の突出部122を有している。本体部121の径方向の略中央部には、ブレーキ力調節板24をブレーキアーム12に締結するためのねじ123a(
図3参照)を貫通するためのねじ貫通溝123が、貫通孔120と同心の円弧状に開設されている。ブレーキ力調節板24は、ねじ貫通溝123内に貫通されたねじ123aをブレーキアーム12に形成されたねじ孔76に螺合することにより、ブレーキアーム12に取り付けられる。また、ブレーキアーム12に対するブレーキ力調節板24の回転方向位置を変更する場合には、ねじ123aを緩めてブレーキ力調節板24を回転可能とし、ブレーキ力調節板24を所要の位置まで周方向に回転した後に再度ねじ123aを締め付ける。
【0070】
本体部121の裏面側には、
図16に示すように、3つの段付き円弧状のカム124、125、126が周方向に形成される。各カム124、125、126の径方向の形成位置は、
図12〜
図14に示すように、ブレーキシューユニット設定部78に収納されたブレーキシューユニット21A、21B、21Cの前面側に突設された係合突起102の外端側に各カム124、125、126の内面が配置されるように設定される。各カム124、125、126は、貫通孔120の軸心からの径寸法が小さな小径部124a、125a、126aと、貫通孔120の軸心からの径寸法が大きな大径部124b、125b、126bを有する。また、ブレーキ力調節板24に形成された突出部122の周面には、カム124、125、126の形成位置に対応して、ブレーキ力調節板24の回転操作にクリック感触を付与するためのクリック感触付与部127が形成される。
図12〜
図14に示すように、クリック感触付与部127には、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの下端部に形成された突起101が弾接される。従って、ブレーキアーム12に対してブレーキ力調節板24を回転操作すると、突起101の先端部がクリック感触付与部127に形成された溝を乗り越えるごとにユーザ等にクリック感触を与えることができるので、ユーザ等にブレーキアーム12に対するブレーキ力調節板24の回転操作量を感得させることができる。
【0071】
図12に示すように、大径部124b、125b、126bをブレーキシューユニット21A、21B、21Cに形成された係合突起102の外側に配置すると、大径部124b、125b、126bの内面と係合突起102の外端との間隔D1が大きくなるので、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの可動範囲を大きくできる。これに対して、
図13に示すように、小径部124a、125a、126aをブレーキシューユニット21A、21B、21Cに形成された係合突起102の外側に配置すると、小径部124a、125a、126aの内面と係合突起102の外端との間隔D2が小さくなるので、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの可動範囲を小さくできる。間隔D1は、ライニング87aがブレーキドラム23の内面に当接する範囲までブレーキシューユニット21A、21B、21Cを移動可能な大きさに設定される。また、間隔D2は、ライニング87aがブレーキドラム23の内面に当接しない範囲にブレーキシューユニット21A、21B、21Cの移動を制限可能な大きさに設定される。従って、カム124、125、126によって、ライニング87aがブレーキドラム23の内面に当接する範囲まで移動可能にされたブレーキシューユニット21A、21B、21Cの数を種々変更することにより、車輪5に作用するブレーキ力を調整できる。第1実施形態に係るブレーキ力調節板24は、所定の角度ピッチで周方向に回転することにより、ライニング87aがブレーキドラム23の内面に当接する範囲まで移動可能にされたブレーキシューユニット21A、21B、21Cの数を増減できるように、小径部124a、125a、126a及び大径部124b、125b、126bの形成位置が設定されている。
【0072】
即ち、
図17に示すように、ブレーキアーム12に対してブレーキ力調節板24をある角度位置に設定した場合には、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの各係合突起102の外側に各カム124、125、126の大径部124b、125b、126bが配置される。従って、この場合には、3個のブレーキシューユニット21A、21B、21Cのライニング87aが全てブレーキドラム23の内面に当接可能となり、車輪5に最も大きなブレーキ力を付与できる。
【0073】
この状態から、ブレーキアーム12に対してブレーキ力調節板24を所定の角度で左方向に回転すると、
図18に示すように、ブレーキシューユニット21A、21Cの係合突起102の外側にはカム124、126の大径部124b、126bが配置され、ブレーキシューユニット21Bの係合突起102の外側にはカム125の小径部125aが配置される。従って、この場合には、2個のブレーキシューユニット21A、21Cのライニング87aのみがブレーキドラム23の内面に当接可能となり、車輪5に付与されるブレーキ力は
図17の場合の約2/3になる。
【0074】
この状態から、さらにブレーキアーム12に対してブレーキ力調節板24を所定の角度で左方向に回転すると、
図19に示すように、ブレーキシューユニット21A、21Bの係合突起102の外側にはカム124、125の小径部124a、125aが配置され、ブレーキシューユニット21Cの係合突起102の外側にはカム126の大径部126bが配置される。従って、この場合には、1個のブレーキシューユニット21Cのライニング87aのみがブレーキドラム23の内面に当接可能となり、車輪5に付与されるブレーキ力は
図17の場合の約1/3になる。
【0075】
この状態から、さらにブレーキアーム12に対してブレーキ力調節板24を所定の角度で左方向に回転すると、
図20に示すように、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの各係合突起102の外側に各カム124、125、126の小径部124a、125a、126aが配置される。従って、この場合には、3個のブレーキシューユニット21A、21B、21Cのライニング87aが全てブレーキドラム23の内面に当接できなくなり、車輪5の回転速度によらず、車輪5にブレーキ力が付与されない状態となる。
【0076】
ブレーキ力調節板24の本体部121の表面側の最外周部には、
図15に示すように、複数個(
図15の例では4個)のブレーキ力表示突起131、132、133、134が一定ピッチで形成され、その内側の所要の位置には、車輪5に付与されるブレーキ力の強さを示す「H」、「L」、「0」の文字が表記されている。文字「H」はブレーキ力が高いことを示し、文字「L」はブレーキ力が低いことを示し、文字「0」は車輪5にブレーキ力が付与されないことを示している。ブレーキ力表示突起131〜134は、ブレーキ力調節板24をブレーキアーム12に取り付けたとき、
図21〜
図24に示すように、ブレーキアーム12に形成された指標突起80と対向する位置に配置される。
【0077】
また、ブレーキ力調節板24の本体部121の表面側の最外周部には、
図15に示すように、六角穴141を有するボス142が形成される。六角穴141は、ブレーキ力調節板24の回転操作に使用されるものであるが、これについては車輪5及びブレーキドラム23の説明欄において、より詳細に説明する。
【0078】
図21は、「H」側のブレーキ力表示突起131をブレーキアーム12に形成された指標突起80と対向する位置に位置付けた状態を示している。このとき、各ブレーキシューユニット21A、21B、21Cと各カム124、125、126との係合状態は
図17に示すようになり、車輪が所定の回転数以上の回転数で回転されたとき、車輪5に最も強いブレーキ力が付与される。このときユーザ等は、「H」側のブレーキ力表示突起131が指標突起80と対向する位置に位置付けられていることを外部から目視できるので、ブレーキ力の設定状態が最強状態であることを確認できる。
【0079】
図22は、ボス142の形成部のブレーキ力表示突起132をブレーキアーム12に形成された指標突起80と対向する位置に位置付けた状態を示している。このとき、各ブレーキシューユニット21A、21B、21Cと各カム124、125、126との係合状態は
図18に示すようになり、車輪が所定の回転数以上の回転数で回転されたとき、車輪5に最強時の2/3のブレーキ力が付与される。このときユーザ等は、ボス142の形成部のブレーキ力表示突起132が指標突起80と対向する位置に位置付けられていることを外部から目視できるので、ブレーキ力の設定状態が最強時の2/3であることを確認できる。
【0080】
図23は、「L」側のブレーキ力表示突起133をブレーキアーム12に形成された指標突起80と対向する位置に位置付けた状態を示している。このとき、各ブレーキシューユニット21A、21B、21Cと各カム124、125、126との係合状態は
図19に示すようになり、車輪が所定の回転数以上の回転数で回転されたとき、車輪5に最強時の1/3のブレーキ力が付与される。このときユーザ等は、「L」側のブレーキ力表示突起133が指標突起80と対向する位置に位置付けられていることを外部から目視できるので、ブレーキ力の設定状態が最強時の1/3であることを確認できる。
【0081】
図24は、「0」側のブレーキ力表示突起134をブレーキアーム12に形成された指標突起80と対向する位置に位置付けた状態を示している。このとき、各ブレーキシューユニット21A、21B、21Cと各カム124、125、126との係合状態は
図20に示すようになり、車輪が所定の回転数以上の回転数で回転されても、車輪5にはブレーキ力が付与されない。このときユーザ等は、「0」側のブレーキ力表示突起134が指標突起80と対向する位置に位置付けられていることを外部から目視できるので、車輪5にブレーキ力が付与されない設定状態になっていることを確認できる。よって、車輪5に付与されるブレーキ力の調節を容易かつ確実に行うことができる。従って、第1実施形態に係る遠心力ブレーキ装置のブレーキ力調節機構は、ブレーキ力調節板24に形成されたカム124、125、126と、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの前面側に突設された係合突起102と、ブレーキ力調節板24をブレーキアーム12に締結するねじ123aとをもって構成される。
【0082】
ブレーキドラム23は、
図3に示すように、主軸13の貫通孔を有する前面板151と、前面板151の外周よりブレーキカバー11側に起立された周壁152をもって有底円筒形に形成されている。前面板151の中心部には、主軸13を貫通可能な中心孔153が開設され、その周辺部分には、中心孔153の軸心を中心とする同一半径上に、2つの扇状の窓孔154が対称に開設されている。また、内歯歯車18に形成された六角穴41bに相当する周壁152の端部には3個のボス155が形成されており、当該ボス155にはねじ貫通孔156が開設されている。ブレーキドラム23は、ねじ貫通孔156及び内歯歯車18に開設された図示しないねじ貫通孔に貫通されたねじ157を、六角穴41b内に配置されたナット47に螺合することにより、内歯歯車18に取り付けられる(
図3参照)。
【0083】
車輪5は、
図3に示すように、中心孔161を有するハブ部材162と、ハブ部材162の外周に装着されたタイヤ163から構成される。中心孔161の一部には、主軸13に形成された切欠部52が当接される平面部(図示省略)が設けられており、車輪5は、切欠部52に平面部を合致させて中心孔161内に主軸13を貫通することにより、主軸13に装着される。そして、車輪5を主軸13に装着した後、中心孔161からハブ部材162の外方に突出する雄ねじ51にナット164を螺合することにより、車輪5を主軸13に固定できる。
【0084】
また、ハブ部材162には、ブレーキドラム23に開設された窓孔154と対応する位置に窓孔165が開設される。窓孔154、165は、ブレーキ力調節板24の目視と回転操作を行うためのものであり、ブレーキ力調節板24を回転操作する場合には、窓孔154、165に六角レンチ等の所要の工具を差し込んで、これをブレーキ力調節板24に形成された六角穴141に係合し、工具に力を加えてブレーキ力調節板24を所要の方向に回転する。さらに、ハブ部材162の外面には、後に説明するホイールカバー26を着脱自在に取り付けるための係合部166が形成される。
【0085】
ホイールカバー26は、車輪5の美観を高めるためのものであり、円板状に形成されていて、その外周部には、係合部166に係合される係止爪167が突設されている。ホイールカバー26は、係止爪167を車輪5のハブ部材162に形成された係合部166にスナップ結合することにより、車輪5に対して着脱自在に取り付けられる。
【0086】
以下、上述のように構成された第1実施形態に係る歩行補助車1及び遠心力ブレーキ装置6の動作と効果について説明する。
【0087】
ユーザが歩行補助車1につかまって歩行すると、路面との間に作用する摩擦力により、原動部である車輪5が回転する。車輪5が回転すると、第1遊星キャリア14、第1遊星歯車15、第2遊星キャリア16、第2遊星歯車17、内歯歯車18及びブレーキアーム12をもって構成される遊星歯車機構の増速比でブレーキアーム12が増速回転される。ブレーキアーム12が回転すると、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cをブレーキアーム12の内周側から外周側に移動させようとする遠心力が作用する。ブレーキシューユニット21A、21B、21Cには、これに備えられたライニング部材87を常時ブレーキアーム12の内周側に付勢する圧縮ばね83が備えられているので、ブレーキアーム12の回転数が低く、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cに圧縮ばね83の弾性力に打ち勝つ遠心力が作用しない場合には、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cがブレーキアーム12の内周位置に保持され、車輪5にはブレーキ力が付与されない。これに対して、ブレーキアーム12の回転数が高く、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cに圧縮ばね83の弾性力に打ち勝つ遠心力が作用した場合には、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cがブレーキアーム12に形成されたブレーキシューユニット設定部78に沿ってブレーキアーム12の外方に移動し、その先端部に設けられたライニング87aがブレーキドラム23の内面に押し付けられる。これにより、車輪5にブレーキ力が付与される。よって、第1実施形態に係る歩行補助車1及び遠心力ブレーキ6は、圧縮ばね83の弾性力を調整することによりブレーキ力が付与される主軸13の回転数を適宜設定できるので、ユーザごとに使い勝手が良好な歩行補助車1及び遠心力ブレーキ装置6を提供できる。
【0088】
また、第1実施形態に係る歩行補助車1及び遠心力ブレーキ6は、ブレーキアーム12にブレーキ力調節板24を付設し、ブレーキ力調節板24に形成されたカム124、125、126によって各ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの可動範囲を個々に規制できるようにしたので、ブレーキドラム23に押し付け可能な位置まで移動できるように可動範囲が調整されたブレーキシューユニット21A、21B、21Cの数を増減することにより、主軸13に作用するブレーキ力を調節できる。よって、従来技術のようにばねの弾性力を調整することによってブレーキ力を調節する場合に比べて、主軸13に作用するブレーキ力の調整範囲を格段に広げることができ、ユーザの広範な要求に対応することができる。また、ブレーキ調節板24を回転操作するだけで主軸に作用するブレーキ力を調節できるので、従来技術のようにばねを交換する場合に比べて、遠心力ブレーキ装置6のメンテナンスを容易なものにすることができる。
【0089】
さらに、第1実施形態に係る歩行補助車1及び遠心力ブレーキ6に備えられたブレーキ調節板24は、ブレーキアーム12から取り外す必要がなく、ねじを緩めた状態でブレーキ調節板24を回転操作するだけで各ブレーキシューユニット21A、21B、21Cの可動範囲を個々に規制できるので、ブレーキ力の調節を容易に行うことができる。また、これに加えて、ブレーキドラム23に窓孔154を開設すると共に車輪5に窓孔165を開設し、車輪5の外側からブレーキ調節板24を回転操作できるようにしたので、歩行補助車1のメンテナンス性をより高いものにできる。
【0090】
加えて、第1実施形態に係る歩行補助車1及び遠心力ブレーキ6は、ブレーキアーム12に初期荷重調整板22を付設し、圧縮ばね83の初期圧縮量を種々調整できるようにしたので、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cがブレーキアーム12の外方に移動するに必要なブレーキアーム12の回転速度を変更することができる。よって、上述したブレーキ力調節板24による効果と相まって、更に使い勝手が良好な歩行補助車1及び遠心力ブレーキ装置6とすることができる。この場合において、第1実施形態に係る歩行補助車1及び遠心力ブレーキ6は、初期荷重調整板22に厚さが異なる複数の圧縮量調整片112、113を備え、これらの圧縮量調整片112、113を選択的に圧縮ばね83の端部に差し込んで、圧縮ばね83の初期圧縮量を変更するようにしたので、本構成によると、初期荷重調整板に形成された圧縮量調整片を圧縮ばねの端部に差し込むだけで圧縮ばねの初期圧縮量を変更できるので、主軸13にブレーキ力が付与される車輪5の回転数の調整を容易に行うことができる。
【0091】
〈第2実施形態〉
次に、本発明に係る手動推進車両の第2実施形態を、
図1に示す歩行補助車1を例にとって説明する。第2実施形態に係る歩行補助車1は、第1実施形態に係る歩行補助車1に備えられたブレーキ力調節機構に代えてブレーキ解除機構を設けたこと、及び、第1実施形態に係る歩行補助車1に備えられた速度領域調整機構とは、圧縮ばね83の圧縮方式が異なる速度領域調整機構を採用したことを特徴とする。
【0092】
まず、第2実施形態に係るブレーキ解除機構について説明する。
図26に示すように、本例のブレーキ解除機構300は、遠心力ブレーキ装置6に備えられた第1遊星キャリア14と、車輪5のハブ部材162と、ハブ部材162に取り付けられた切替レバー301と、切替レバー301に弾性力を付与する弾性部材302と、弾性部材302の一端を保持するホイールカバー26とから構成される。
【0093】
即ち、本例の遠心力ブレーキ装置6は、
図26及び
図27に示すように、第1実施形態に係る遠心力ブレーキ装置6とは異なり、第1遊星キャリア14を内歯歯車18の外部から臨めるようにして、主軸13に取り付けられた第1及び第2の遊星キャリア14、16と、第1遊星キャリア14に回転自在に保持された第1遊星歯車15と、第2遊星キャリア16に回転自在に保持された第2遊星歯車17とからなる歯車群が、内歯歯車18内に収納されている。また、内歯歯車18とブレーキカバー11とで構成される空間内には、歯車群側から、ブレーキアーム12と初期荷重調整板22とブレーキドラム23とがこの順に配列されて収納されている。これにより、第1遊星キャリア14の駆動及び駆動停止を切替レバー301により切り替えることが可能となる。切替レバー301の構成及び機能については後に説明する。
【0094】
主軸13は、その一端が、固定部であるブレーキカバー11に回転不能に保持される。即ち、
図27に示すように、主軸13の一端には平面状の面取り13aが施されており、これに対応する平面状の面取りが施されたブレーキカバー11の主軸保持孔(図示省略)に回転不能に保持される。なお、ブレーキカバー11から突出した主軸13には、Cリング309が装着され、ブレーキカバー11からの主軸13の脱落が防止される。また、主軸13の他端部には、
図31及び
図32に示すように、2段階の段部が形成されており、中間の段部にはベアリング305を介して原動部である車輪5が回転可能に取り付けられる。また、最先端の段部には雄ねじ304が形成されていて、当該雄ねじ304にナット164を螺合することにより、主軸13からの車輪5の脱落が防止できるようになっている。
【0095】
ブレーキアーム12は、主軸13に回転可能に取り付けられ、主軸13に装着されたCリング306によって脱落が防止される。初期荷重調整板22は、ねじ307によってブレーキシューユニットの片面に回転可能に取り付けられる。ブレーキドラム23は、ねじ308によってブレーキカバー11に固定される。内歯歯車18は、ねじ46によりブレーキカバー11に固定される。
【0096】
図26に示すように、第1遊星キャリア14には、主軸13の貫通孔を中心とする円周上に、複数個(
図26の例では6個)のストッパ挿入孔14aが開設されている。また、
図27に示すように、本例の遠心力ブレーキ装置6においては、第1遊星歯車15及び第2遊星歯車17が3個ずつ備えられている。これにより、第1実施形態に係る遠心力ブレーキ装置6よりも、第1及び第2の遊星歯車機構の動作性が高められる。その他の部分については、第1実施形態に係る遠心力ブレーキ装置6と同様に構成されており、第1遊星歯車15は、第2遊星キャリア16に形成された中間歯車66(
図6参照)及び内歯歯車18に噛み合わされ、第2遊星歯車17は、ブレーキアーム12に形成された出力歯車72(
図8参照)と内歯歯車18とに噛み合わされる。従って、第2実施例に係る遠心力ブレーキ装置6は、第1遊星キャリア14が回転駆動されると、この第1遊星キャリア14の回転が増速されて第2遊星キャリア16に伝達されると共に、この第2遊星キャリア16の回転が増速されてブレーキアーム12に伝達される。そして、ブレーキアーム12の回転に伴う遠心力がブレーキシューユニット21A、21B、21Cに伝達され、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cがブレーキアーム12の外周方向に移動する。これにより、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cに備えられたライニング部材87がブレーキドラム23に押し付けられ、車輪5にブレーキ力が作用する。
【0097】
切替レバー301は、
図26及び
図28に示すように、円板状の本体部311と、本体部311の外面より外向きに突出形成された筒状部312と、筒状部312の前面に形成された操作つまみ313と、本体部311の内面より内向きに突出形成された複数本(
図28の例では3本)のストッパピン314を有している。
図28に示すように、ストッパピン314は、筒状部312よりも外周の同一円周上に等間隔に形成されており、その下端部には、切替レバー301の可動範囲を規制するための係合段部315が形成されている。また、ストッパピン314の先端部には、第1遊星キャリア14に開設されたストッパ挿入孔14a内への挿入及びストッパ挿入孔14aからの離脱を容易にするため、面取り314aが施されている。本体部311には、ストッパピン314及び係合段部315を形成したと同一の円周上に、ストッパピン314の数に対応する数の長孔316が形成される。
【0098】
弾性部材302としては、切替レバー301とホイールカバー26との間に形成される空間内に収納しやすいことから、
図26に示す円錐ばねが好適に用いられる。しかしながら、第2実施形態に係る歩行補助車1に適用可能な弾性部材302が円錐ばねに限定されるものではなく、切替レバー301に適度の弾性力を付与可能なものであれば、公知に属する任意の弾性部材を用いることができる。
【0099】
ホイールカバー26は、第1実施形態に係るものとは異なり、中央部に切替レバー301の筒状部312を挿入するための透孔26aが開設されている。一方、ホイールカバー26の外周部には、第1実施形態に係るものと同様に、係合爪167が突設されている。従って、ホイールカバー26は、係合爪167をハブ部材162に形成された係合部166に係合することにより、ハブ部材162の外面に着脱可能に取り付けることができる。また、ホイールカバー26をハブ部材162の外面に取り付けたままの状態で、切替レバー301の回転操作を行うことができる。
【0100】
車輪5は、
図26及び
図29に示すように、中心孔161を有するハブ部材162と、ハブ部材162の外周に装着されたタイヤ163とから構成される。車輪5は、ハブ部材162の中心孔161内に主軸13を貫通した後、主軸13の先端部に形成された雄ねじ304にナット164を螺合することにより、主軸13に対して回転可能な状態で取り付けられる。
【0101】
ハブ部材162には、
図26に示すように、切替レバー301に形成されたストッパピン314、係合段部315及び長孔316と対応する位置に、ストッパピン314の数に応じた数(
図26の例では3個)のカム320が形成されている。
【0102】
カム320は、
図29に示すように、切替レバー301に形成された係合段部315を陥入するための凹陥部321と、切替レバー301に形成された係合段部315を乗り上げるための突出部322とから構成される。突出部322は、切替レバー301に形成された係合段部315を凹陥部321内に陥入したときに、切替レバー301の本体部311に形成された長孔316内に挿入されるように形成される。なお、凹陥部321と突出部322の間には、切替レバー301の回転操作を容易なものにするための傾斜面323が形成される。また、突出部322の凹陥部321側には、突出部322上に乗り上げた係合段部315を安定に保持するための保持段部324が形成される。
【0103】
歩行補助車1に遠心力ブレーキ装置6のブレーキ力を作用させる場合には、ユーザ等が切替レバー301を手前に引いて、切替レバー301に形成された係合段部315とハブ部材162に形成された保持段部324の係合を解除した後、
図30(a)に示すように、切替レバー301を制動側に回転操作する。上記したように切替レバー301には、弾性部材302の弾性力が付与されているので、ユーザ等が切替レバー301を制動側に回転操作すると、弾性部材302の弾性力により切替レバー301がハブ部材162側に押し込まれて、切替レバー301に形成された係合段部315がハブ部材162に形成された凹陥部321内に自動的に陥入される。これにより、切替レバー301が制動側において安定に保持されると共に、ユーザ等は、係合段部315が凹陥部321内に陥入したときのクリック感触で、ブレーキ装置6が制動側に切り替えられたことを感覚的に知得することができる。よって、ユーザ等は、ブレーキ装置6の制動解除側から制動側へ切替操作を確実に行うことができる。
【0104】
係合段部315が凹陥部321内に陥入されると、
図31に示すように、切替レバー301に形成されたストッパピン314が内向きに移動して、第1遊星キャリア14に開設されたストッパ挿入孔14a内に挿入される。これにより、第1遊星キャリア14が車輪5と一体となって回転される状態となり、上述したように第1遊星キャリア14の回転が遊星歯車機構により増速されてブレーキアーム12に伝達される。これにより、車輪5にブレーキ力を作用させることができる。
【0105】
これに対して、歩行補助車1に遠心力ブレーキ装置6のブレーキ力を作用させない場合には、ユーザ等が切替レバー301を手前に引いて、切替レバー301に形成された係合段部315とハブ部材162に形成された凹陥部321の係合を解除した後、
図30(b)に示すように、切替レバー301を制動解除側に回転操作する。ユーザ等が切替レバー301を制動解除側に回転操作すると、切替レバー301に形成された係合段部315が、ハブ部材162に形成された傾斜面323を通って突出部322に乗り上げる。このとき、切替レバー301は、弾性部材302の弾性力に抗して外向きに移動し、
図32に示すように、切替レバー301に形成されたストッパピン314が第1遊星キャリア14に開設されたストッパ挿入孔14aから外れて、第1遊星キャリア14の外方に移動する。これにより、第1遊星キャリア14と車輪5との係合が解除され、車輪5が回転しても遠心力ブレーキ装置6が機能しない状態となる。よって、車輪5へのブレーキ力の作用を解除することができる。
【0106】
係合段部315が突出部322に乗り上げる際、ハブ部材162に形成された凹陥部321と突出部322の間には傾斜面323が形成されているので、ユーザ等は、制動側から制動解除側への切替レバー301の切替操作を容易に行うことができる。また、ユーザ等は、係合段部315が保持段部324を乗り越えて突出部322に至るときのクリック感触で、ブレーキ装置6が制動解除側に切り替えられたことを感覚的に知得することができる。よって、ユーザ等は、ブレーキ装置6の制動側から制動解除側へ切替操作を確実に行うことができる。
【0107】
なお、
図31及び
図32に示した符号330は、車両連結部32を主軸13に連結するためのボルトを示している。
【0108】
このように、第2実施形態に係る遠心力ブレーキ装置は、ブレーキ解除機構を備えたので、車輪5にブレーキ力を作用させる制動状態への切り替えと、車輪5にブレーキ力を作用させない制動解除状態への切り替えが可能となり、遠心力ブレーキ装置の多用途性を高めることができる。また、ブレーキ解除機構を手動で操作できるようにしたので、ブレーキ解除機構を操作する際のユーザ等の労力を軽減できる。さらに、切替レバー301を制動側又は制動解除側に切り替えるためには、切替レバー301を手前に引く操作が必要であるので、ユーザ等が意図しない切替レバー301の制動側又は制動解除側への切り替えを防止でき、遠心力ブレーキ装置ひいてはこれを備えた手動推進車両の信頼性を高めることができる。
【0109】
次に、第2実施形態に係る速度領域調整機構について説明する。
図27及び
図33に示すように、本例の速度領域調整機構400は、ブレーキアーム12に取り付けられたブレーキシューユニット21A、21B、21Cと、ねじ307によりブレーキアーム12の片面に回転可能に取り付けられた初期荷重調整板22と、ブレーキアーム12に回転可能に取り付けられた歯車401とから構成される。歯車401としては、平歯車を用いることができる。
【0110】
第2実施形態に係るブレーキシューユニット21A、21B、21Cも、基本的な構成に関しては第1実施形態に係るブレーキシューユニット21A、21B、21Cと同じであり、
図34及び
図35に示すように、ブレーキアーム12に形成されたブレーキシューユニット設定部78内に摺動自在に収納される摺動部81と、摺動部81の上面より垂直に起立された軸部82と、軸部82に外装された圧縮ばね83と、軸部82の先端部に取り付けられるウェイト部85と、圧縮ばね83とウェイト部85との間に介設された可動板86と、ウェイト部85の上面に着脱可能に取り付けられたライニング部材87とから構成されている。第1実施形態に係るブレーキシューユニット21A、21B、21Cと異なる点は、
図34及び
図35に示すように、可動板86の前面中央部に円柱状の係合ピン86aを突設したことにある。係合ピン86aは、初期荷重調整板22に係合され、初期荷重調整板22の回転に伴って、圧縮ばね83の圧縮量を調整する方向に移動される。係合ピン86aと初期荷重調整板22の係合関係及び係合ピン86aの作用については、初期荷重調整板22の説明欄においてより詳細に説明する。
【0111】
第2実施形態に係る初期荷重調整板22は、
図33及び
図36に示すように、円板状に形成されており、その中心部には主軸13を貫通可能な中心孔411が開設されている。この初期荷重調整板22は、中心孔411内に主軸13を貫通することにより、主軸13に対して回転可能に取り付けられる。また、この初期荷重調整板22には、中心孔411の軸心を中心とする円周上に複数個(
図33の例では3個)の円弧状の長孔412が等間隔に開設されている。さらに、この初期荷重調整板22には、各長孔412の間に、中心孔411の軸心からの半径が長さ方向に沿って変化する3個のカム溝413が、同じ向きで開設されている。両端における各カム溝413の半径差は、可動板86の可動範囲と等しくなるように調整される。加えて、この初期荷重調整板22には、中心孔411と長穴412との間に略扇形の透孔414が開設され、当該透孔414の内周側の辺には、歯車401と噛み合わされる歯列415が形成されている。
【0112】
第2実施形態に係る初期荷重調整板22は、上述したように、ねじ307を用いてブレーキアーム12に取り付けられるが、ねじ307のねじ頭とブレーキアーム12との間には、
図27、
図37及び
図38に示すように、平座金416及び波座金417が介在されており、ブレーキアーム12に対する初期荷重調整板22の締付強度を調整できるようになっている。ブレーキアーム12に対する初期荷重調整板22の締付強度は、歩行補助車1の使用に伴う振動がブレーキアーム12及び初期荷重調整板22に作用しても、初期荷重調整板22が回転せず、ユーザ等が工具を用いて歯車401を強制的に回転操作したときには、ブレーキアーム12に対して初期荷重調整板22を回転操作できる強さに調整される。
【0113】
歯車401は、
図27、
図33、
図37及び
図38に示すように、ブレーキアーム12の裏面側から貫通されたねじ421を用いて、ブレーキアーム12の表面側に回転自在に取り付けられる。また、ブレーキアーム12の表面と歯車401との間には、コイルばね等の弾性部材422が介設されており、歯車401を初期荷重調整板22に形成された歯列415との噛み合い位置から外れる方向に付勢している。さらに、歯車401の外面中心部には六角穴423が形成されており、この六角穴423に六角レンチ等の工具を差し込んで回転することにより、歯車401を回転駆動できるようになっている。歯車401は、ブレーキカバー11に開設された窓孔11aを通して遠心力ブレーキ装置6の外部から見える位置に配置される。
【0114】
初期荷重調整板22を回転操作する以前においては、
図37に示すように、歯車401が初期荷重調整板22に形成された歯列415と噛み合わされておらず、歯車401は歯列415の外側に配置されている。初期荷重調整板22を回転操作する際には、まず窓孔11aを通して遠心力ブレーキ装置6内に挿し込まれた工具の先端を、歯車401の外面中心部に形成された六角穴423に挿し込んで、歯車401をブレーキアーム22側に押し込む。これにより、歯車401が弾性部材422の弾性力に抗してブレーキアーム22側に押し込まれ、
図38に示すように、歯車401と初期荷重調整板22に形成された歯列415とが噛み合わされる。この状態を保ったまま工具で歯車401を回転すると、歯車401の回転方向とは逆方向に初期荷重調整板22が回転駆動される。
【0115】
このように、歯車401と初期荷重調整板22に形成された歯列415とを常時噛み合わせておくのではなく、初期荷重調整板を回転操作する際にのみ、噛み合わせる構成にすると、初期荷重調整板22がユーザ等の意図しないタイミングで不用意に回転することを防止できるので、初期荷重調整板を備えた遠心力ブレーキ装置の信頼性を高めることができる。また、歯車401を回転操作することによって初期荷重調整板22を回転操作するので、初期荷重調整板22の回転量ひいては圧縮ばね83の圧縮量を微細に調整することが可能となり、主軸13にブレーキ力が付与される車輪の回転数をユーザ等の要望に合わせて多様に調整することができる。
【0116】
初期荷重調整板22が回転すると、可動板86に突設された係合ピン86aが、初期荷重調整板22に形成されたカム溝413に案内されて、圧縮ばね83の圧縮方向又は伸長方向に移動する。従って、初期荷重調整板22の回転量を調整することにより、圧縮ばね83の圧縮量を調整することができる。
図34は、圧縮ばね83の圧縮量が最も小さくなったときの可動板86の位置を示しており、
図35は、圧縮ばね83の圧縮量が最も大きくなったときの可動板86の位置を示している。初期荷重調整板22の回転に伴う圧縮ばね83の圧縮量変化度合は、カム溝413の形状を変更することにより適宜調整できる。
【0117】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜設計変更することができる。
【0118】
例えば、前記第1実施形態においては、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cに初期荷重調整板22を備えたが、これを省略することもできる。初期荷重調整板22を省略しても、ブレーキ力調節板24を回転操作することにより、車輪5に作用するブレーキ力を広範囲に調整することができる。
【0119】
また、前記第1実施形態においては、ブレーキシューユニット21A、21B、21Cに圧縮ばね83を備えたが、これを省略することもできる。勿論、圧縮ばね83を省略する場合には、初期荷重調整板22も省略される。圧縮ばね83及び初期荷重調整板22を省略しても、ブレーキ力調節板24を回転操作することにより、車輪5に作用するブレーキ力を広範囲に調整することができる。
【0120】
さらに、前記第1及び第2実施形態においては、歩行補助車1の脚部4に車輪5を固定する構成としたが、脚部4と車輪5との間に公知に属する所要の回転機構を設け、車輪5を脚部4の軸心周りに回転できるようにすることもできる。この場合、歩行補助車1に備えられる全ての車輪5について回転できるようにすることもできるし、前輪のみ回転できるようにすることもできる。これにより、歩行補助車1の方向転換を容易にできるので、歩行補助車1の使い勝手を良好なものにできる。
【0121】
加えて、前記第2実施形態においては、主軸13をブレーキカバー11に回転不能に保持すると共に、主軸13に対して車輪5を回転自在に取り付けたが、これとは逆に、主軸13をブレーキカバー11に回転可能に保持すると共に、主軸13と車輪5とを一体に連結することもできる。この場合には、主軸13とブレーキカバー11との間にベアリングが備えられる。