【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業/普及拡大化基盤技術開発/セルスタックに関わる材料コンセプト創出(高出力・高耐久・高効率燃料電池材料のコンセプト創出)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環を含む炭化水素系電解質と補強材が複合されている高分子電解質膜であって、前記補強材はガラス繊維と有機繊維の混合物を含む不織布であり、
前記ガラス繊維は、平均繊維径が1μm以下のものと、平均繊維径が1μmを超え10μm未満のものとの混合物であり、
平均繊維径が1μmを超え10μm未満のガラス繊維の含有率は、平均繊維径が1μm以下のガラス繊維と平均繊維径が1μmを超え10μm未満のガラス繊維の合計100重量%に対し、10〜70重量%であることを特徴とする高分子電解質膜。
前記炭化水素系電解質は、スルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなる親水部セグメントと、実質的にスルホン酸基を有さない疎水部セグメントとを主鎖とする高分子電解質である請求項1に記載の高分子電解質膜。
前記有機繊維は、ポリエステル、ビニロン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、セルロース、レーヨン及びポリ乳酸から選ばれる少なくとも1種の繊維である請求項1または2に記載の高分子電解質膜。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定の補強材、すなわち、ガラス繊維と有機繊維の混合物からなる不織布を電解質樹脂とともに製膜した複合膜が、電解質樹脂単独の膜に比較して耐膨潤特性に優れ、含水−乾燥の繰り返し試験(乾湿サイクル試験)等の機械的安定性を評価する試験においても、より高い耐久性を発現することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明に用いる高分子電解質、すなわち補強材と複合する高分子電解質は、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる炭化水素系電解質であり、その構造に特に限定はない。ここで、「主鎖が主に芳香環からなる」とは、芳香環を連結する基を除いた部分の分子量のうち、芳香環に由来する部分の割合が、70%以上であることを意味する。このような炭化水素系高分子を例示すると、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリケトン、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリフェニレンエーテル等である。
【0013】
本発明において特に好適に用いられる高分子電解質は、実質的にスルホン酸基を有さない疎水部セグメントと、スルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなる親水部セグメントとを、主鎖として有してなるものである。高分子電解質を親水部セグメントと疎水部セグメントからなる共重合体型とすることにより、高分子電解質の低加湿下でのプロトン伝導性が向上する。
【0014】
本発明における親水部セグメントは、スルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなるものである。すなわち、前記親水部セグメントは、スルホン酸基が導入されているセグメントである。このように、親水部セグメントがスルホン酸基を有するので、高分子電解質のプロトン伝導性が発現し、親水部セグメントの主鎖が主に芳香環からなるので、高分子電解質は耐熱性、化学的耐久性に優れるものになる。
【0015】
本発明におけるスルホン酸基としては、例えば、スルホン酸基、スルホン酸塩の基、スルホン酸エステル基等が挙げられる。すなわち、スルホン酸基は、例えば、ナトリウム、カリウム等の塩になっていてもよいし、ネオペンチルエステル、メチルエステル、プロピルエステル等のエステル基で保護されていてもよい。特に親水部セグメントとなるオリゴマーの合成中や合成後は、塩やエステル等の保護基を有する状態になっているのが好ましいことが多いが、前記高分子電解質が、例えば燃料電池の電解質膜として用いられる場合は、無機酸の水溶液等に浸漬することにより、スルホン酸基に変換して使用されることが多い。よって、本発明においては、スルホン酸基としては、容易にスルホン酸基になる状態の基であれば、塩やエステル等の保護基を有する状態の基も含まれる。
【0016】
スルホン酸基の量は、親水部セグメントを形成する繰り返し単位当たり、1〜6個が好ましく、1〜4個がより好ましい。6個よりスルホン酸基の量が多くなると、親水部セグメントの水溶性が高くなり、合成中の取り扱いが難しくなる傾向がある。1個より少ないと十分なプロトン伝導性が発現しにくくなる傾向がある。
【0017】
本発明における親水部セグメントは、主鎖が主に芳香環からなるものである。
ここで「主鎖が主に芳香環からなる」とは、親水部セグメントにおける主鎖の連結基(エーテル基、チオエーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等)以外の部分の分子量を100%とした場合、その70%以上が芳香環からなるということを意味する。
【0018】
芳香環としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、硫黄や窒素等を含む芳香族複素環等が挙げられる。
【0019】
前記親水部セグメントの具体的な例としては、下記一般式群(1)に記載の構造の少なくとも1つを、繰り返し単位として含むもの等が挙げられる。
【0020】
【化1】
(式中、Ar
1は、下記式群(2)に記載の構造を有する2価の基を表し、前記2価の基は置換基を有していてもよく、複数あるAr
1は互いに同じであっても異なっていてもよい。Ar
2は、スルホン酸基を少なくとも1つ有する2価の芳香族基、nは1〜4の整数、Xは−O−又はS−、Yは直接結合、−SO
2−又はCO−を表す。)
なお、上記一般式群(1)の繰り返し単位が複数回繰り返された場合、複数あるAr
1は互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0022】
また上記Ar
2は、下記式群(3)に記載の構造を有し、かつ、スルホン酸基を少なくとも1つ有する2価の芳香族基であると、すなわち、下記式群(3)に記載の構造を有する2価の芳香族基にスルホン酸基が少なくとも1つ導入された構造であると、合成が容易で好ましい。
【0024】
親水部セグメントの具体例としての、一般式群(1)に記載の構造において、ベンゼン環上に置換基を有していてもよい。また、Ar
1において、式群(2)に記載の構造を有する2価の基は、置換基を有していてもよい。さらに、Ar
2において、式群(3)に記載の構造を有する2価の芳香族基は、スルホン酸基以外に、置換基を有していてもよい。これら置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、炭素数1〜6のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等)、フェニル基等が挙げられる。また、前記置換基を1個以上有することができる。
【0025】
親水部セグメントは、スルホン酸基を有するものであるが、その主鎖、側鎖、両者(主鎖及び側鎖)のいずれに、スルホン酸基を有していてもよい。
【0026】
親水部セグメントを構成するモノマーとしては、例えば、上記一般式群(1)の構造を構成しうるモノマー等が挙げられ、具体的には、下式で表されるモノマー等が好ましく挙げられる。また、上記一般式群(1)においてXが−S−である親水部セグメントを作製する場合等には、下式で表されるモノマーにおいて、−OH基の代わりに−SH基としたモノマー等も挙げられる。さらに、後述のように、スルホン酸基を有するモノマーの重合により親水部セグメントを作製する場合等には、下式で表されるモノマーにおいて、そのベンゼン環上にスルホン酸基を有しているモノマー等も挙げられる。
【0028】
親水部セグメントのみのイオン交換容量(以下、イオン交換容量をIECと示すこともある)は、高分子電解質膜としてのIECが高く設定でき、また低加湿下で高いプロトン伝導性を発現することができる点から、4.0meq./g以上であることが好ましい。親水部セグメントのIECは、NMRの分析による計算や、電解質のIEC(従来公知の方法、例えば滴定等により容易に求められる)を、親水部セグメントの重量割合で除すること等により求めることができるが、本発明においては後者の方法により求めるものである。つまり、親水部セグメントのIECは、実施例に記載の高分子電解質膜のIECの測定方法と同様にして求めた高分子電解質のIECを、親水部セグメントの重量割合で除することにより求める。また、meq./gは、ミリ当量/gを意味する。
【0029】
その他親水部セグメントを構成するモノマーとしては、特開2002−293889号公報で示されるもの等(電子吸引性基及び電子供与性基を有するモノマー等)も例示できる。
【0030】
本発明における疎水部セグメントは、実質的にスルホン酸基を有さないものである。これにより、親水部との相分離を明確にして、高分子電解質の低加湿下でのプロトン伝導性を向上させ、また、高分子電解質の強度を向上させる。前記疎水部セグメントは、スルホン酸基が全く導入されていないことが好ましいが、親水部セグメントに対して相対的に疎水性であればよく、繰り返し単位あたりのスルホン酸基の数が親水部セグメントの1/10以下であれば良い。すなわち、「実質的にスルホン酸基を有さない」とは、疎水部セグメントがスルホン酸基を全く有さないか、疎水部セグメントにおける繰り返し単位あたりのスルホン酸基の数が、親水部セグメントにおける繰り返し単位あたりのスルホン酸基の数の1/10以下であることを意味する。
【0031】
前記疎水部セグメントは、耐熱性を有する点から、ポリイミド系、ポリベンズイミダゾール系、ポリエーテル系等で、主鎖が主に芳香環からなる構造が好ましく、また、ポリエーテル系が、合成の容易さの観点からより好ましい。ここで「主鎖が主に芳香環からなる」とは、疎水部セグメントにおける主鎖の連結基(エーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等)以外の部分の分子量を100%とした場合、その70%以上が芳香環からなるということを意味する。このような疎水部セグメントとしては、下記一般式群(4)に記載の構造の少なくとも1つを繰り返し単位として含むことが好ましい。
【0032】
【化5】
(式中、Arは、2価の芳香族基を表す。)
【0033】
なお、上記一般式群(4)の繰り返し単位が複数回繰り返された場合、複数あるArは互いに同じであっても異なっても良い。Arの2価の芳香族基としては、例えば、下式(5)で表される基等が好ましく挙げられる。
【0035】
また、Arの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい。前記置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、炭素数1〜6のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等)、フェニル基、シアノ基等が挙げられる。また、前記置換基を1個以上有することができる。
【0036】
疎水部セグメントを構成するモノマーとしては、例えば、上記一般式(4)の構造を構成しうるモノマー等が挙げられ、具体的には、下式で表されるモノマー等が好ましく挙げられる。
【0038】
親水部セグメント、疎水部セグメントの分子量は、その化学構造や合成のしやすさ等により異なるが、数平均分子量でそれぞれ700〜30,000g/molが好ましく、2000〜10,000g/molがより好ましい。700g/molより小さいと、共重合体型高分子電解質としての特性が現れにくくなる傾向があり、30,000g/molより大きいと、溶解性等の問題で合成が困難になりやすい傾向がある。
【0039】
高分子電解質の分子量は、数平均分子量で10,000〜300,000g/molが好ましく、合成の容易さと溶媒への溶解度のバランスから、30,000〜150,000g/molがより好ましい。上記各セグメント及び高分子電解質の分子量は、実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0040】
また、高分子電解質のイオン交換当量(IEC)は、1.5〜3.5meq./gであると、電解質としての性能を発現し易いために好ましく、1.6〜3.0meq./gであると、低加湿下におけるプロトン伝導性と機械強度のバランスに優れるため、より好ましい。前記高分子電解質のイオン交換容量は、実施例に記載の高分子電解質膜のイオン交換容量の測定方法と同様にして求めることができる。
【0041】
また、機械強度をより向上させたり、水分に対する膨潤を抑制するために、高分子電解質に架橋の導入等の化学的変性を行うことも、本発明の範疇である。
【0042】
本発明の高分子電解質は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、親水部セグメントとなるオリゴマーを作製後、これと疎水部セグメントとなるオリゴマーを共重合体化し、共重合体の親水部となるオリゴマー部分のみをスルホン酸化して、親水部−疎水部共重合体とする方法;親水部セグメントとなるオリゴマーを作製後、スルホン酸基を導入してスルホン酸基含有オリゴマーを作製し、これと疎水部セグメントとなるオリゴマーを共重合体化する方法;スルホン酸基を有するモノマーの重合により親水部セグメントとなるオリゴマーを作製し、これと疎水部セグメントとなるオリゴマーを共重合体化する方法;疎水部セグメントとなるオリゴマーとスルホン酸基を有する多量のモノマーを重合することにより、結果的に親水部セグメントと疎水部セグメントの共重合体とする方法;等が例示できる。
【0043】
以下に、本発明の高分子電解質の製造方法について、一例を挙げて説明する。なお、本発明の高分子電解質の製造方法は、以下に限定されるものではない。
【0044】
まず、前述のモノマーを用いて、親水部セグメントとなるオリゴマー(スルホン酸化可能な部位を含むオリゴマー)と、疎水部セグメントとなるオリゴマーを調製する。これらを得るには、末端に水酸基等の求核性の置換基を有するモノマーと、末端にハロゲン化合物等の脱離基を有するモノマーを縮合する方法や、脱離基を有するモノマー中に触媒を加えて縮合させる方法等が挙げられる。
【0045】
重合反応(縮合反応)は、溶媒を用いない溶融状態でも行うことは可能であるが、適当な溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えばジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。アミド系溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。スルホン系溶媒としては、例えばスルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等が挙げられる。スルホキシド系溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0046】
反応を促進するために、通常は触媒として塩基性化合物が用いられる。塩基性化合物としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が好適に用いられ、例示するならば、LiOH、NaOH、KOH、Li
2CO
3、Na
2CO
3、K
2CO
3、LiHCO
3、NaHCO
3、KHCO
3等である。
【0047】
重合反応工程の反応温度は、重合反応に応じて適宜設定すればよい。具体的には、最適使用範囲の20℃〜250℃に設定すればよく、より好ましくは40℃〜200℃である。20℃よりも低温であれば反応が遅くなる傾向があり、250℃よりも高温であれば主鎖が切れやすくなる傾向がある。重合反応工程の反応時間は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜500時間、より好ましくは0.5〜300時間である。
【0048】
上記のようにして、親水部セグメントとなるオリゴマーと、疎水部セグメントとなるオリゴマーを得た後、これらを化学結合させてブロック共重合体化させることにより、共重合体(親水部セグメントとなるオリゴマーと、疎水部セグメントとなるオリゴマーからなる)を得る。これらオリゴマーを化学結合させて共重合体化させる方法としては、特に制限は無く、重合するオリゴマーの反応性によって適宜定める事ができる。重合法の詳細は、一般的な方法(「高分子の合成と反応(2)」p.249−255、(1991)共立出版株式会社)を適用することができる。具体的には、例えば、末端に水酸基等の求核性の置換基を有するオリゴマーを調製し、別途調製した末端にハロゲン化合物等の脱離基を有するオリゴマーを塩基存在下に縮合させることにより、共重合体化させる。
【0049】
あるいは、末端にハロゲン化合物を有する各オリゴマーどうしを遷移金属存在下に縮合させることにより、共重合体化させることもできる。
【0050】
次いで、上記のようにして得られた共重合体において、親水部となるオリゴマーのみをスルホン酸化する。この場合、ベンゼン環の電子密度が比較的高い部分がスルホン酸化される。すなわち、前記共重合体(親水部セグメントとなるオリゴマーと、疎水部セグメントとなるオリゴマーからなる)と、スルホン酸化剤を反応させることにより、親水部セグメントと疎水部セグメントからなる共重合体(高分子電解質)を合成することができる。
【0051】
スルホン酸化剤としては、例えばクロロスルホン酸、無水硫酸、発煙硫酸、硫酸、アセチル硫酸等が挙げられ、クロロスルホン酸、発煙硫酸が適度な反応性を有しているために好ましい。
【0052】
スルホン酸化反応において、溶媒は用いても用いなくてもよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては、スルホン酸化剤に対して不活性なものであればよく、例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、飽和脂肪族炭化水素が挙げられ、特に炭素数5〜15の直鎖状又は分岐状の炭化水素が好ましく、溶解度の点から、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンがより好ましい。ハロゲン化炭化水素としては、ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等が挙げられ、取り扱いの容易さからジクロロメタンが好ましい。ハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等が挙げられ、取り扱いの容易さからクロロベンゼンが好ましい。
【0053】
スルホン酸化工程の反応温度は、反応に応じて適宜設定すればよく、具体的にはスルホン酸化剤の最適使用範囲である−80℃〜200℃に設定すればよく、より好ましくは−50℃〜150℃であり、さらに好ましくは−20℃から130℃である。−80℃よりも低温であれば反応が遅くなり、目的とするスルホン酸化が100%まで進行しない傾向があり、200℃よりも高温であれば副反応が起こる傾向がある。
【0054】
スルホン酸化工程の反応時間は、親水部セグメントとなるオリゴマーの構造により適宜選択され得るが、通常1分間〜50時間程度の範囲内であればよい。1分間より短いと均一なスルホン酸化が進行しない傾向があり、50時間より長いと副反応が起こる傾向がある。
【0055】
スルホン酸化工程におけるスルホン酸化剤の添加量は、親水部セグメントとなるオリゴマーに含まれるスルホン酸化される部位の全量を1当量とした場合、1当量〜50当量であることが好ましい。1当量より少ないと、スルホン酸化される部位が不均一になる傾向があり、一方、50当量より多いと親水部セグメントとなるオリゴマーの主鎖が切断されやすい傾向がある。
【0056】
スルホン酸化工程における親水部セグメントとなるオリゴマーの濃度は、スルホン酸化剤と接触させた場合に均一に反応が進行すれば特に限定されないが、親水部セグメントとなるオリゴマーが低分子量化等の副反応を起こさないことと、溶媒量抑制によるコスト優位性の観点から、スルホン酸化反応に用いた化合物全体の重量に対して1〜30重量%であることが好ましい。
【0057】
別の方法として、疎水部セグメントとなるオリゴマーと親水部セグメントとなるオリゴマー又はスルホン酸基を有する親水モノマーの末端を、いずれもハロゲンとしておき、特開2012−229418に記載されている方法に従い、遷移金属化合物を用いて重縮合する方法を用いることもできる。このような遷移金属化合物としては、ニッケル系化合物、パラジウム系化合物、銅化合物が好ましく用いられ、好ましくは、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキストリフェニルホスフィンニッケル等の0価ニッケル錯体が用いられる。また、ジクロロビストリフェニルホスフィンニッケル等の2価のニッケル錯体を、亜鉛等の還元剤の存在下に使用してもよい。
【0058】
本発明における補強材は、ガラス繊維と有機繊維の混合物を含む不織布である。ガラス繊維と有機繊維を適度な割合で混合したものを不規則に織り込み、シート状に加工することにより、補強材としての不織布が得られる。このような補強材を電解質と複合することにより、含水時の寸法変化を抑え、機械強度、乾湿サイクル耐性に優れた高分子電解質膜を得ることができる。
【0059】
ガラス繊維は剛直で弾性率が高く、これを用いた電解質複合膜は強度に優れるが、反面、脆いという問題がある。ガラス繊維に柔軟性のある有機繊維を混合することにより不織布にも柔軟性が付与され、これを補強材として用いた電解質膜も柔軟性を有するものとなり、膨潤−収縮の繰り返しストレスを受ける条件においても、歪に追従することができ、高い耐久性を示す。
【0060】
本発明の補強材を構成するガラス繊維としては、特に限定はないが、耐酸性ガラス、いわゆるCガラスやアルカリガラスといわれる耐酸性を持ったガラスからなることがより好ましい。複合対象の高分子電解質がスルホン酸基を有することから、このような態様であれば高温の酸性条件下でも十分な強度を保つことができる。
【0061】
ここで、Cガラスやアルカリガラスと言われるガラスは、一般にNa
2OやK
2O等のアルカリ含有量が0.8〜20質量%である組成を有するガラスであり、耐酸性に優れる。
【0062】
ガラス繊維の平均繊維径は0.1μm〜20μmの範囲であることが好ましい。このような範囲であれば、不織布の製造コストと均一性とのバランスが良好となる。
【0063】
本発明においては、特にガラス繊維の平均繊維径は、1μm以下がより好ましく、0.1μm〜1μmがさらに好ましい。平均繊維径がこのような値であると、不織布に加工した際に、ガラス繊維が高密度で織り込まれることになり、高分子電解質膜の強度の向上に好適である。
【0064】
平均繊維径が異なる複数種のガラス繊維を混合してもよい。平均繊維径が1μm以下のものに、平均繊維径が1μmを超え10μm未満のものを混合したものを用いると、ガラス不織布の剛性が向上し、高い乾湿サイクル耐性を発現するため、より好ましい。
【0065】
平均繊維径が1μmを超え10μm未満のガラス繊維の含有率は、平均繊維径が1μm以下のガラス繊維と平均繊維径が1μmを超え10μm未満のガラス繊維の合計100重量%に対し、10〜70重量%であることが好ましい。このような範囲であれば高分子電解質膜の剛性および引張強度のバランスが良好となりかつ高分子電解質が均一に保持される。
【0066】
繊維の繊維径は、通常ある程度ばらつきがあるが、本発明でいう繊維径としては、平均値を用いる。ガラス繊維の繊維径は、光学顕微鏡による観察により測定することができる。より具体的には、不織布中の任意の約10本の繊維径を上記のようにして測定し、その平均値をガラス不織布の繊維径とする。
【0067】
不織布を構成するガラス繊維の平均繊維長は、0.5mm〜20mmの範囲が好ましく、2mm〜15mmの範囲にあることが好ましい。平均繊維長が0.5mm未満であると、不織布の機械的強度が低下するため、電解質膜の補強効果が減少する。一方、平均繊維長が20mmを超えると、不織布成形時におけるガラス繊維の分散性が低下し、厚さの均一性や、目付量の均一性が低下する。その結果、電解質膜の補強に適した不織布が得られなくなる。
【0068】
本発明で用いられる補強材には、有機繊維が混合される。有機繊維の具体例としては、特に限定されず、種々のものを用いることができる。例示するならば、ポリ塩化ビニル繊維、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体繊維、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどのポリエチレン繊維、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンなどのポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体等のアクリル系繊維、ビニロン繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル繊維、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,12−ナイロン等のポリアミド繊維、セルロース繊維、レーヨン繊維、ポリ乳酸繊維、ポリイミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、アラミド繊維等が挙げられる。
【0069】
これらのうち、柔軟性に優れ、耐熱性、耐酸性等の耐久性が高く、安価であるという理由で、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、セルロース繊維、レーヨン繊維、ポリ乳酸繊維、が好ましく、ポリエステル繊維、特にポリエチレンテレフタレートが、より好ましい。これら有機繊維は1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
有機繊維の平均繊維径は、0.1〜20μmの範囲にあることが好ましく、1〜10μmがより好ましい。平均繊維径が0.1μmより細い場合は、有機繊維の強度が弱くなりすぎ、補強の効果が低下する。20μmより太い場合は、厚さが均一な不織布を形成することが困難になる。
【0071】
有機繊維の長さは0.5mm〜20mmの範囲であることが好ましく、2mm〜15mmの範囲にあることが好ましい。平均繊維長が0.5mm未満であると、不織布の機械的強度が低下するため、電解質膜の補強効果が減少する。一方、平均繊維長が20mmを超えると、不織布成形時における有機繊維の分散性が低下し、厚さの均一性や、目付量の均一性が低下する。その結果、電解質膜の補強に適した不織布が得られなくなる。
【0072】
本発明の補強材におけるガラス繊維と有機繊維との混合比率は、重量比で、95/5〜5/95の範囲にあることが好ましく、90/10〜10/90がより好ましい。有機繊維の割合が5重量%を下回ると、有機繊維による柔軟化の効果が十分得られず、95重量%を超えると、不織布の強度が不足し、本発明の効果を発現しにくい。
【0073】
補強材が更にバインダーを含むことが好ましい。バインダーは、ガラス繊維及び有機繊維どうしを拘束する機能を有する。
【0074】
バインダーとしては種々の液状バインダーが知られており、例えば、アクリル樹脂ディスパージョン、アクリル樹脂エマルション、フッ素樹脂ディスパージョン、フッ素樹脂エマルション、ポリウレタンディスパージョン、ポリウレタンエマルション、シリコーン樹脂ディスパージョン、シリコーン樹脂エマルション、ポリイミドワニス、ポリビニルアルコール水溶液、コロイダルシリカディスパージョン、アルキルシリケート、ケイ素又はチタンのアルコキシド、チタニアゾル等がある。
【0075】
また、バインダーとしては、一般にシランカップリング剤と呼ばれるシリコン系化合物、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂を用いることも可能であり、エポキシ樹脂が好ましい。
【0076】
シリコン系化合物の例としては、まず、一般的にシランカップリング剤と称されるものが挙げられる。具体例としては、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイドシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、γ−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアナートシラン等が挙げられる。また、上記アミノシランとエポキシシランの反応物、アミノシランとイソシアナートシランの反応物も用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0077】
バインダーとして一般的に用いられる上述の液状バインダーで処理した後に、さらにシランカップリング剤処理を施してもよい。液状バインダーとシランカップリング剤は、それぞれ独立した機構で補強の効果を発揮するため、それらは併用することができ、その効果は相乗される。
【0078】
シランカップリング剤以外のシリコン系化合物としては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ドデシルトリメトキシシラン等のアルキルシリケート、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のポリシロキサン等のポリシロキサンが挙げられる。
【0079】
エポキシ系化合物としては、特に限定はなく、公知のものを使用することができる。例示するならば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAプロプレンオキシド付加物のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、等が挙げられる。
【0080】
また、エポキシ樹脂の硬化剤についても公知のものを使用することができ、例示するならば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ベンジルジメチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、メンタンジアミン、キシレンジアミン等のアミン系化合物、エチルメチルイミダゾール、各種ポリアミド樹脂、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ドデシルコハク酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水ジクロロコハク酸等の酸無水物が挙げられる。
【0081】
上記のバインダーは、無機バインダーを含んでいてもよい。無機バインダーとしては、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾルのような合成無機系ゾル(微粒子として水に分散しており、乾燥固化後にゲルとなり硬化するもの)、カオリン、クレー、セピオライト、アタパルジャイト、ベントナイトのような天然系鉱物紛体(水に分散後、乾燥時に固化するもの)、マイカ、スメクタイトのような鉱物系鱗片状物、シリカフレーク、シリカ−チタニアフレーク、アルミナフレークのような合成鱗片状物(水に分散しており、乾燥時に固結して自己膜を形成するもの)、シリカ微粒子等の無機バインダーが用いられ、不純物の少ない合成物の無機バインダーが好ましく、平均粒径0.01〜2μm、好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.2〜0.6μmのものが用いられる。
【0082】
バインダーの添加量は、バインダーの固形分の付着量が繊維の質量の0.5〜10%(より好ましくは2〜9%)の範囲となることが好ましい。
【0083】
バインダーを用いることによって、繊維が強固に拘束され、不織布の寸法安定性と強度が向上するとともに、これにより補強された高分子電解質膜の耐膨潤性が改良され、高い乾湿サイクル耐性を示すようになる。
【0084】
本発明における補強材は、以下の2つ方法で製造できる。
第一の方法では、まず、ガラス繊維と有機繊維、及び、繊維どうしの結び付きを強めるバインダーの成分とを含む混合液を調製する(工程(i))。工程(i)の混合液は、分散剤、界面活性剤、pH調整剤、凝集剤等を含んでいてもよい。次にその混合液から、繊維とバインダーを含む不織布を形成する(工程(ii))。不織布は、たとえば、一般的な湿式抄造の方法で形成できる。不織布を形成した後、必要に応じて熱処理等を行ってもよい。工程(ii)によって、繊維どうしがバインダーで拘束された不織布が得られる。
【0085】
第二の方法では、まず、上述の繊維を用いて、たとえば一般的な湿式抄造の方法で、不織布を形成する(工程(I))。次にバインダーの成分を含む液体を不織布に塗布した後、乾燥させることによって、繊維どうしの結びつきを強める(工程(II))。乾燥時に熱処理を行ってもよい。バインダーの塗布は、バインダーに不織布を浸漬又は不織布にバインダーを含浸させることによって行ってもよい。工程(II)では、繊維間に膜が形成されることを抑制するため、バインダーを塗布した後、余分なバインダーを除去することが好ましい。
【0086】
第一の方法は、製造工程が簡単であるという利点がある。一方、第二の方法は、繊維の交点にバインダーを集中させることが可能であり、少ないバインダーの量で高い効果が得られるという利点がある。
【0087】
補強材における平均厚みの上限が50μm以下であることが好ましく、30μm以下がより好ましい。本発明の高分子電解質膜は、300μm以下が好ましいことから、これと複合するガラス不織布も、機械強度向上の効果を持つ範囲内で薄いことが好ましい。また、補強材における平均厚みの下限は、強度向上の点から、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
【0088】
補強材の平均厚みは、補強材全体に均等な圧力(20kPa)を加え、ダイヤルゲージを用いて測定することができる。より具体的には、不織布の任意の約10箇所の厚さを上記のようにして測定し、その平均値を補強材の厚さとする。
【0089】
補強材の平均厚みが上述の範囲である場合、その目付量(単位面積当たりの質量)は、2〜50g/m
2であることが好ましく、2〜25g/m
2の範囲であることがより好ましい。目付量が2g/m
2以上であれば、繊維どうしの絡み合いが多くなり、引張強度が向上する。一方、目付量が50g/m
2以下であれば、電解質膜の補強材としては好適な目付量であり、プレス等によって目付量を小さくする必要がない。
【0090】
補強材は、機械強度の向上と複合化によるプロトン伝導性低下を最小限に抑えるという点から、空隙率80%以上が好ましく、85〜95%がより好ましい。
【0091】
補強材の空隙率は、補強材の体積と重量から比重を算出し、これを繊維の真比重で除することにより算出することができる。
【0092】
本発明の高分子電解質膜は、上記高分子電解質と補強材が複合されてなるものである。すなわち、本発明の高分子電解質膜は、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる炭化水素系高分子電解質に 補強材が包埋された形で複合されてなるものである。
【0093】
複合の方法は、従来公知の方法を適用しうる。簡易的な方法としては、ガラス等の基板上に補強材を固定し、その後、高分子電解質をキャストして溶媒を除去する方法;ガラス等の基板上にまず高分子電解質の溶液をキャストし、その後、その上に補強材を載せ、さらに高分子電解質の溶液をキャストして、溶媒を除去する方法;高分子電解質の溶液に補強材をディップすることにより、補強材の空隙中に高分子電解質を含浸させ、溶液から、溶液を含んだ補強材を取り出し、例えば垂直状態で広げた状態で溶媒を除去する方法等が例示される。そして、いずれかの方法を用いた場合、補強材を構成する繊維間に高分子電解質が存在し、高分子電解質と補強材が複合された高分子電解質膜となる。
【0094】
なお、高分子電解質溶液とする場合に用いられる溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。溶媒の除去は、好ましくは10〜200℃、より好ましくは40〜150℃の温度で乾燥させることにより行う。乾燥時間は、枚葉で乾燥する場合は、乾燥温度を比較的高めに設定し、20秒〜10分間が好ましい。その他、高分子電解質とガラス不織布を加熱圧着する方法;溶媒を含んだ半凝固状態の高分子電解質2枚でガラス不織布を挟み込み、プレス、乾燥による方法等も適用しうる。前記のようにして、高分子電解質と補強材が複合されてなる、本発明の高分子電解質膜を得ることができる。
【0095】
本発明の高分子電解質膜における高分子電解質としては、本発明の上記高分子電解質を単独で用いてもよいし、その他の高分子電解質等を混合して用いてもよい。
また、本発明の高分子電解質膜は、上記高分子電解質と補強材以外の添加物を含んでいてもよい。
【0096】
プロトン伝導性の点から、本発明の高分子電解質膜においては、本発明の高分子電解質が、前記高分子電解質膜全体の70重量%以上を占める主成分であることが好ましい。また、電解質膜を得た後に、分子配向等を制御するために二軸延伸等の処理を施したり、結晶化度や残存応力を制御するための熱処理を施しても構わない。さらに、製膜時に適当な化学的処理を施してもよい。化学的処理とは、例えば、電解質膜の強度を上げるための架橋、伝導度を上げるためのプロトン性化合物の添加・耐久性向上やイオン架橋のための微量の多価金属イオンの添加等が挙げられる。いずれにしても、本発明における高分子電解質を用いて、従来公知の技術と組み合わせて製造される高分子電解質膜は、本発明の範疇である。
【0097】
また、本発明の高分子電解質膜において、通常用いられる各種添加剤、樹脂劣化防止のための酸化防止剤、フィルムとしての成形加工における取扱を向上させるための帯電防止剤や滑剤等は、電解質膜としての加工や性能に影響を及ぼさない範囲で適宜用いることができる。
【0098】
本発明の高分子電解質膜の厚さとしては、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、燃料電池として用いる際の高分子電解質膜の抵抗を低減することを考慮した場合、高分子電解質膜の厚さは薄いほどよい。一方、高分子電解質膜のガス遮断性、ハンドリング性、電極との接合時の耐破れ性等を考慮すると、高分子電解質膜の厚さは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子電解質膜の厚さは、5μm以上300μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましく、また、燃料電池として出力を重視する場合等は10μ以上50μm以下が特に好ましい。高分子電解質膜の厚さが5μm以上300μm以下であれば、製造が容易であり、膜抵抗と機械物性のバランスが取れており、燃料電池材料として加工する際のハンドリング性にも優れる。前記高分子電解質膜の厚さは、実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0099】
本発明の高分子電解質膜のイオン交換当量(IEC)の調整は、例えば、高分子電解質膜として、高分子電解質以外の材料を含ませることで適宜調整しうる。
【0100】
本発明にかかる膜/電極接合体(以下、「MEA」と表記する)は、本発明の高分子電解質膜に電極触媒を塗布することにより得られる。本発明で使用される電極触媒とは、文字通り、当業者にとって従来公知の電極触媒であればよく、導電性触媒担体と前記導電性触媒担体に担持された触媒活性物質を含むものであればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。具体的には、燃料電池の電極反応に対して活性な触媒が使用される。アノード側では、燃料(水素やメタノールなど)の酸化能を有する触媒が使用される。
【0101】
導電性触媒担体としては、具体的には、カーボンブラック、ケッチェンブラック、活性炭、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブなどの高表面積のカーボン担体が挙げられ、触媒担持能や電子伝導性、電気化学的安定性などから、これらの材料が好ましい。
【0102】
触媒活性物質としては、具体的には、白金、コバルト、ルテニウム等が例示でき、これらを単独で、あるいはこれらの少なくとも一種を含んだ合金、さらには任意の混合物として使用しても構わない。特に燃料の酸化能、酸化剤の還元能、耐久性を考慮すると、白金又は白金を含む合金であることが好ましい。これらは必要に応じて、安定化や長寿命化のために、鉄、錫、希土類元素等を用い、3成分以上で構成してもよい。
【0103】
電極触媒層は、高分子電解質、電極触媒及び溶媒を含む触媒インクを支持体上に塗布し、溶媒を除去することによって調製することができる。
【0104】
溶媒としては、高分子電解質を溶解でき、燃料電池用触媒を被毒しないものであれば何ら制限なく使用可能である。
【0105】
前記触媒インクは、必要に応じて非電解質バインダー、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤などの添加剤を含んでいても構わない。また、これらの添加剤は、当業者にとって従来公知のものが使用可能であり、その他の具体的な構成については特に限定されない。前記組成及び方法で調製された触媒インクは、粘度や基材の種類に応じて、下記に示すような塗布方法が利用できる。前記触媒インクの基材への塗布方法としては、当業者にとって従来公知の塗布方法であればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷などを利用する方法が列挙できるが、これらに限定されるものではない。
【0106】
基材として高分子フィルムを使用した場合には、燃料電池用触媒層転写シートが、基材として導電性多孔質シートを使用した場合には、燃料電池用ガス拡散電極が、それぞれ製造できる。MEAを作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン酸化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン酸化ポリエーテルスルホン、スルホン酸化ポリスルホン、スルホン酸化ポリイミド、スルホン酸化ポリフェニレンサルファイドなど)で行われる公知の方法が適用可能である。かかるMEAは、例えば、燃料電池、特に、固体高分子形燃料電池に用いることができる。
【実施例】
【0107】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
(分子量の測定)
GPC法により分子量を測定した。条件は以下の通り。
GPC測定装置:HLC−8220(東ソー株式会社製)
カラム:SuperAW4000及びSuperAW2500(昭和電工株式会社製)の2本を直列に接続
カラム温度:40℃
移動相溶媒:NMP(N−メチルピロリドン、LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量:0.3mL/min
標準物質:TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
以下、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量をMnと表記し、標準ポリスチレンで換算した重量平均分子量をMwと表記する。
【0109】
(イオン交換容量の測定)
測定サンプルとして、酸処理後の膜を10〜20mg切り出し、80℃で減圧乾燥し、乾燥重量(W
dry)を測定した。この膜を、飽和NaCl水溶液(30mL)に室温で24時間浸漬させることで、イオン基をH
+型からNa
+型へ変換した。その後得られた溶液に含まれるHClを、電位差自動滴定装置AT−510(京都電子工業株式会社製)を用いて0.01M NaOH水溶液により定量し、以下の式を用いてイオン交換容量IEC値を算出した。同一の膜について2サンプル作成し、2回の測定の平均値を滴定による算出IEC値とした。
【0110】
【数1】
【0111】
(膨潤率の測定)
約2cm×3cmにカットした高分子電解質膜のサンプルを準備し、これを純水に室温で6時間浸漬した。浸漬直後のサンプル、及びそれを100℃で2時間真空乾燥を行って絶乾状態としたサンプルの平面方向、垂直方向の寸法変化、及び重量を測定し、変化率を計算した。平面方向については、4辺の寸法変化を測定し、その平均値を結果とした。垂直方向(膜厚方向)については、面内の3点の寸法変化を測定し、その平均値を結果とした。
【0112】
(プロトン伝導度の測定)
電解質膜のプロトン伝導度測定は、日本ベル株式会社製電解質評価装置(MSB−AD−V−FC)を用いて行った。チャンバー内温度は80℃一定で、相対湿度(RH)20%、40%、60%、80%、及び、90%の条件下で行った。測定は、RH=20%→40%→60%→80%→90%→80%→60%→40%→20%を1サイクルとして、2サイクル目の湿度降下時の値を測定結果として用いた。サンプルのサイズは1.0cm×3.0cm、Auプローブ間の距離は1.0cmとし、Solartron 1255B/1287(株式会社東陽テクニカ製)を用いて、交流4端子法(300mV、1−100000Hz)により測定を行った。インピーダンスZはボードプロットにより位相角が0°に近い値でかつ1000Hzに近い値を用いた。導電率σ(S/cm)は次式により計算した。
σ=(L/Z)×1/A
ここでLはAuプローブ間の距離(1.0cm)、Aはサンプルの断面積(1cm×膜厚Xcm)である。
【0113】
(乾湿サイクル特性の評価)
試験用サンプルの作製、及び試験条件は、燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が推奨するプロトコルに従った。白金−カーボン触媒(田中貴金属製TEC10E50E)、Nafionバインダー(Dupont製 D−521,IEC=0.95−1.03meq./g)、純水、及びエタノールをボールミルで30分混合し、触媒インクを得た。バインダー/カーボンの重量比率は0.7に調整した。実施例及び比較例で作製する電解質膜の両面に上記で得た触媒インクをスプレーコートした。得られた膜−電極接合体(MEA)を60℃で6時間乾燥した後、140℃、10kgf/cm
2の条件で3分間、ホットプレスした。電極が形成された面積は25cm2(5×5cm)、白金担持量は、アノード、カソードともに0.2mg/cm
2とした。MEAをガスケット(PTFE製、厚さ200μm)及びガス拡散層(SGLカーボン社製SGL25BC、厚さ235μm)で挟み、日本自動車研究所(JARI)の標準セル(アノード、カソードともにサーペンタイン型のガス流路を有する)に組み込み、12本のネジを使用して3Nの締め付け力で固定した。特性評価では、アノード、カソードともに、窒素ガスを800mL/minで流し、ガスは80℃で乾燥状態(0%RH)と湿潤状態(150%RH)を2分間ずつ保持しながら交換し、乾湿サイクル試験を行った。所定時間後、アノードに水素を200mL/minで、カソードに窒素を200mL/minで流し(ガスは80℃、常圧)、電圧を0.2〜0.5Vの範囲で掃引して電流密度を測定した。0.4〜0.5V近傍の直線部を0Vまで外挿したときの切片をクロスオーバー電流密度とし、初期値の10倍に達した時点を電解質膜の乾湿サイクル耐性とした。
【0114】
(使用した不織布)
表1に示す特性を有する不織布を調製し、使用した。
【0115】
【表1】
【0116】
(製造例1)
温度計及び攪拌子を備え付けた500mLの3つ口フラスコに、4,4−ジクロロベンゾフェノン(75g,300mmol)、30%発煙硫酸(400g,1.5mol)を加えた。130℃に加熱し、6時間攪拌を続けた。室温まで冷却した後、反応液を氷水に少しずつ加えた。NaOH水溶液を加えて中和した後、析出した白色固体を濾過により回収した。減圧下、105℃で乾燥することにより、下式に示すスルホン酸基含有モノマーを112g得た。
【0117】
【化8】
【0118】
(製造例2)
還流管とDeanStark管を取り付けた500mLの4つ口フラスコに、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(31.6g,110mmol)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン(21.4g,100mmol)、炭酸カリウム(20.7g,150mmol)、ジメチルアセトアミド(200mL)、及びトルエン(50mL)を加えた。混合物を170℃に加熱し、生成した水を除去しながら35時間、攪拌を続けた。4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(0.5g)を追加し、さらに5時間攪拌した。混合物を、濾紙を用いて濾過し、過剰の炭酸カリウムを除去した後、濾液を500mLのメタノールに注いで、生成物を再沈殿させた。生成物を減圧下、70℃で4時間乾燥させた後、500mLの純水で、60℃で2回洗浄、さらに500mLのメタノールで60℃で1回洗浄し、減圧下、70℃で一晩乾燥させ、下式の疎水部オリゴマーを41.5g得た。GPCによる分子量はMn=6,600、Mw=18,800であった。
【0119】
【化9】
【0120】
(製造例3)
メカニカルスターラー、還流管、DeanStark管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに、製造例1で得られたスルホン酸基含有化合物(24g, 52.7mmol)、製造例2で得られた疎水部オリゴマー(16g)、2,2’−ビピリジル(11.56g)、ジメチルスルホキシド(480mL)、及びトルエン(120mL)を窒素雰囲気化に加え、170℃に3時間加熱して、共沸脱水した。170℃でトルエンを留去した後、80℃まで冷却し、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(20g)を添加し、そのままの温度で2時間攪拌した。反応液を700mLのメタノールに注いで再沈殿させた後、固形分を6N塩酸(600mL)で2回洗浄し、さらに純水で、洗浄液のpHが7になるまで繰り返し洗浄した。固形分を減圧下、105℃で一晩乾燥し、下式の高分子電解質(33.2g)を得た。前記高分子電解質を、粉砕機を用いて微粉とした後、塩化メチレン及びメタノールで洗浄し、ジメチルスルホキシドに溶解して、固形分濃度が約12%の高分子電解質溶液を得た。得られた高分子電解質は、比較例2に示すように、単独で製膜し、その分子量をGPCで測定したところ、Mn=134,000、Mw=413,000であった。また、イオン交換容量は、2.58meq./gであった。
【0121】
【化10】
【0122】
(実施例1)
ガラス板上に、厚み188μmのPETフィルムを貼り付け、製造例3で調製した高分子電解質溶液をバーコーターにて塗布した。塗布膜の上に、表1のガラス繊維/PET繊維(60wt%/40wt%)からなる不織布A(10cm×10cm)を、泡が混入しないように静かに置いた後、再度、製造例3の高分子電解質溶液をバーコーターにて塗布した。得られた複合膜を、ガラス基板上のPETフィルムに塗布したまま、ホットプレートを用いて120℃で12時間乾燥した。膜をガラス板から取り外し、6N塩酸、続いて蒸留水で洗浄し、表面の水をふき取り、60℃で30分乾燥することにより、補強膜を得た。補強膜のイオン交換当量、膨潤率、乾湿サイクル耐性を、上述の方法により測定した。結果を表2にまとめた。また、プロトン伝導度を上述の方法により測定し、測定結果を
図1に示した。なお、
図1においてタテ軸の”Proton conductivity”(プロトン伝導度)の例えば「1.E-02」は「1×10
-2」のことである。
【0123】
(比較例1)
製造例3の高分子電解質溶液を用い、不織布Bを用いる以外は、実施例1と同様にして補強膜を得た。イオン交換当量、膨潤率、及び乾湿サイクル耐性を、上述の方法により測定した。結果を表2に示した。
【0124】
(比較例2)
製造例3の高分子電解質溶液を用い、補強材を使用せずに、電解質膜を作製した。イオン交換当量、膨潤率、乾湿サイクル耐性、プロトン伝導度を、上述の方法により測定した。結果を表2及び
図1に示した。
【0125】
実施例1は、ガラス繊維と有機繊維を混合した補強材を用いている。比較例1は、ガラス繊維のみから作製した補強材を用いている。比較例2では、補強材を用いていない。実施例の高分子電解質膜は、比較例に比べ、膨潤率が低く抑制され、高い乾湿サイクル耐性を有することがわかる。また、実施例の高分子電解質は、非電解質の不織布と複合化されている分、プロトン伝導率が若干低下するものの、依然として高い値を示すことがわかる。
【0126】
【表2】