(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779468
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】ペンタフルオロスルファニルピリジン
(51)【国際特許分類】
C07D 213/71 20060101AFI20201026BHJP
C07D 213/74 20060101ALI20201026BHJP
C07D 213/73 20060101ALI20201026BHJP
C07D 213/84 20060101ALI20201026BHJP
C07D 213/76 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
C07D213/71CSP
C07D213/74
C07D213/73
C07D213/84 Z
C07D213/76
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-552740(P2017-552740)
(86)(22)【出願日】2016年11月25日
(86)【国際出願番号】JP2016085036
(87)【国際公開番号】WO2017090746
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-229882(P2015-229882)
(32)【優先日】2015年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-137763(P2016-137763)
(32)【優先日】2016年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】松崎 浩平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 記庸
【審査官】
二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】
特表平08−508476(JP,A)
【文献】
特開2013−136519(JP,A)
【文献】
特表2014−513037(JP,A)
【文献】
特開2014−055154(JP,A)
【文献】
米国特許第05739326(US,A)
【文献】
特表2002−532477(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/105506(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/119674(WO,A1)
【文献】
KANISHCHEV, Oleksandr S. et al.,Synthesis and Characterization of 2-Pyridylsulfur Pentafluorides,Angew. Chem. Int. Ed.,2015年 1月 2日,Vol. 54, No. 1,pp. 280-284,ISSN 1521-3773, 特にScheme 1-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 213/71
C07D 213/73
C07D 213/74
C07D 213/76
C07D 213/84
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(d):
【化1】
(式中、
SF
5基はピリジン環の3位または4位のいずれか一方に結合し、かつR
2は他方に結合し、
R
1、R
2、R
3、R
4は独立に、水素原子、ハロゲン原子、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルキル基、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアリール基、ニトロ基、シアノ基、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルカンスルホニル基、6〜30個の炭素を有する置換または非置換のアレーンスルホニル基、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルコキシ基、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアリールオキシ基、1〜18個の炭素原子を有するアシルオキシ基、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルカンスルホニルオキシ基、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアレーンスルホニルオキシ基、2〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルコキシカルボニル基、7〜30個炭素原子を有する置換または非置換のアリールオキシカルボニル基、2〜18個の炭素原子を有する置換カルバモイル基、1〜18個炭素原子を有する置換アミノ基、アミノ基、アジ基、7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアラルキルオキシ基、7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアラルキルスルフィド基、あるいはSF
5基であ
り、ただしR1およびR4の少なくとも1つはフッ素原子である)
で表されるペンタフルオロスルファニルピリジン。
【請求項2】
2−フルオロ−3−ペンタフルオロスルファニルピリジン、2,6−ジフルオロ−3−ペンタフルオロスルファニルピリジン、または6−フルオロ−3−ペンタフルオロスルファニルピリジンである、請求項1に記載のペンタフルオロスルファニルピリジン。
【請求項3】
一般式(c’):
【化2】
(式中、
SF
4Cl基はピリジン環の3位または4位のいずれか一方に結合し、かつR
2は他方に結合し、
R
1、R
2、R
3、R
4は独立に、水素原子、ハロゲン原子、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルキル基、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアリール基、ニトロ基、シアノ基、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルカンスルホニル基、6〜30個の炭素を有する置換または非置換のアレーンスルホニル基、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルコキシ基、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアリールオキシ基、1〜18個の炭素原子を有するアシルオキシ基、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルカンスルホニルオキシ基、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアレーンスルホニルオキシ基、2〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルコキシカルボニル基、7〜30個炭素原子を有する置換または非置換のアリールオキシカルボニル基、2〜18個の炭素原子を有する置換カルバモイル基、1〜18個炭素原子を有する置換アミノ基、アミノ基、アジ基、7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアラルキルオキシ基、7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアラルキルスルフィド基、あるいはSF
5基であ
り、ただし、R1およびR4の少なくとも1つはフッ素原子である)
で表されるクロロテトラフルオロスルファニルピリジン。
【請求項4】
2−フルオロ−3−クロロテトラフルオロスルファニルピリジン、2,6−ジフルオロ−3−クロロテトラフルオロスルファニルピリジン、または6−フルオロ−3−クロロテトラフルオロスルファニルピリジンである、請求項3に記載のクロロテトラフルオロスルファニルピリジン。
【請求項5】
請求項1に記載のペンタフルオロスルファニルピリジンの製造方法であって、
一般式(a):
【化3】
(R
1、R
2、R
3、およびR
4は前述のとおり定義される)
で表されるピリジルジスルフィド化合物を塩素、臭素、ヨウ素およびハロゲン化合物からなる群から選択されるハロゲン類、ならびに
一般式(b)で表されるフルオロ塩:
M
+F
− (b)
(Mは、金属原子、アンモニウム基、またはホスホニウム基である)
と反応させて、
一般式(c)
【化4】
(R
1、R
2、R
3、およびR
4は前述のとおり定義され、Xは、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子である)で表されるハロテトラフルオロスルファニルピリジンを形成し、
当該ハロテトラフルオロスルファニルピリジンをフッ化物源と反応させてペンタフルオロスルファニルピリジンを形成する工程を含む、
製造方法。
【請求項6】
ピリジルジスルフィドと反応させるハロゲンが塩素(Cl2)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
一般式(b)で表されるフルオロ塩がアルカリ金属フッ化物である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記フッ化物源がフッ化水素である、請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペンタフルオロスルファニルピリジンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペンタフルオロスルファニル基(以下SF
5基)は、機能性有機分子の設計に用いられる電子求引性かつ脂溶性の置換基である。従って、SF
5基含有化合物は液晶分子や低分子医農薬品分子の開発で重要であり、近年その合成方法の開発が進められている(非特許文献1)。特に医薬や農薬などの生理活性物質に多用されるピリジン環へのSF
5基の導入は重要であるが、中間体であるトリフルオロスルファニルピリジンおよびハロテトラフルオロスルファニルピリジンが不安定であるため、その合成は困難である。ピリジン環へSF
5基を導入する方法として、ジスルフィド化合物を出発原料として塩素ガスによる酸化に続くフッ化銀によるハロゲン交換反応を行いピリジン環の2位にSF
5基を有する化合物を合成する方法が提案されている(非特許文献2)。しかしながら、ピリジン環の3位もしくは4位にSF
5基を導入する実践的な方法は未だ開発されていない。AgF
2を用いたピリジルジスルフィドのフッ素化によりピリジン環の3位にSF
5基を導入できるとの報告があるものの(特許文献1)、いわゆる一行記載にすぎず該当文献にはNMR等の化合物データや実施例は示されていない。この他にもピリジン環の3位にSF
5基が導入された生理活性化合物群の報告はあるものの(特許文献2〜5)、同様に一行記載にすぎず化合物データや実施例は示されていない。
【0003】
ピリジン環の4位にSF
5基を有する化合物、およびピリジン環に3位または4位にクロロテトラフルオロスルファニル基(以下SF
4Cl基)を有する化合物は未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開1994/022817
【特許文献2】米国特許第5739326号明細書
【特許文献3】米国特許第6531501号明細書
【特許文献4】国際公開2011/105506
【特許文献5】国際公開2014/119674
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chem. Rev. 2015, 115, 1130.
【非特許文献2】Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 280.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SF
5含有ピリジンの合成は、中間体が不安定であるため非常に困難であり、これまで実際に合成できたことが報告されている例はピリジン環の2位にSF
5基を有する化合物のみである。一方で、SF
5基やその前駆体であるSF
4Cl基がピリジン環の2位以外の部位に結合した化合物を合成できれば、次世代医農薬分子の設計に大きな利益をもたらす。かかる事情を鑑み、本発明はピリジン環の3位と4位にSF
5基もしくはSF
4Cl基を有するピリジンとその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは特定の置換基を有するピリジルジスルフィドを出発原料にすることで、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。すなわち、記課題は以下の本発明により解決される。
(1)後述する一般式(d)で表されるSF
5基がピリジン環の3位または4位に置換されたペンタフルオロスルファニルピリジン。
(2)式中、前記R
1およびR
4の少なくとも1つがフッ素原子である、(1)に記載のペンタフルオロスルファニルピリジン。
(3)2−フルオロ−3−ペンタフルオロスルファニルピリジン、2,6−ジフルオロ−3−ペンタフルオロスルファニルピリジン、または6−フルオロ−3−ペンタフルオロスルファニルピリジンである、(1)に記載のペンタフルオロスルファニルピリジン。
(4)後述する一般式(c’)で表されるSF
4Cl基がピリジン環の3位または4位に置換されたクロロテトラフルオロスルファニルピリジン。
(5)前記R
1およびR
4の少なくとも1つがフッ素原子である、(4)に記載のクロロテトラスルファニルピリジン。
(6)2−フルオロ−3−クロロテトラフルオロスルファニルピリジン、2,6−ジフルオロ−3−クロロテトラフルオロスルファニルピリジン、または6−フルオロ−3−クロロテトラフルオロスルファニルピリジンである、(4)に記載のクロロテトラフルオロスルファニルピリジン。
(7)前記(1)に記載のペンタフルオロスルファニルピリジンの製造方法であって、後述する一般式(a)で表されるピリジルジスルフィドを塩素、臭素、ヨウ素およびハロゲン化合物からなる群から選択されるハロゲン類、ならびに後述する一般式(b)で表されるフルオロ塩と反応させて、後述する一般式(c)で表されるハロテトラフルオロスルファニルピリジンを形成し、得られるハロテトラフルオロスルファニルピリジンをフッ化物源と反応させてペンタフルオロスルファニルピリジン得る工程を含む、製造方法。
(8)ピリジルジスルフィド化合物と反応させるハロゲンが塩素(Cl
2)である、(7)に記載の製造方法。
(9)一般式(b)で表されるフルオロ塩がアルカリ金属フッ化物である、(7)に記載の製造方法。
(10)前記フッ化物源がフッ化水素である、(7)〜(9)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、SF
5基がピリジン環の3位または4位に置換されたペンタフルオロスルファニルピリジンの製造、および当該化合物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X〜Y」は両端の値すなわちXとYを含む。
【0010】
1.ペンタフルオロスルファニルピリジン
本発明のペンタフルオロスルファニルピリジンは一般式(d)で表される。
【0011】
【化1】
式中、SF
5基はピリジン環の3位または4位に結合している。R
2は3位および4位のうち、SF
5基の結合していないいずれか一方の位置に結合している。
【0012】
R
1、R
2、R
3、R
4はピリジン環上の置換基であり、独立に、水素原子、ハロゲン原子、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルキル基、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアリール基、ニトロ基、シアノ基、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルカンスルホニル基、6〜30個の炭素を有する置換または非置換のアレーンスルホニル基、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルコキシ基、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアリールオキシ基、1〜18個の炭素原子を有するアシルオキシ基、1〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルカンスルホニルオキシ基、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアレーンスルホニルオキシ基、2〜18個の炭素原子を有する置換または非置換のアルコキシカルボニル基、7〜30個炭素原子を有する置換または非置換のアリールオキシカルボニル基、2〜18個の炭素原子を有する置換カルバモイル基、1〜18個の炭素原子を有する置換アミノ基、アミノ基、アジ基、7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアラルキルオキシ基、7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアラルキルスルフィド基、あるいはSF
5基である。ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子である。7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基(Ph−CH
2−O−)や置換ベンジルオキシ基が挙げられる。7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアラルキルスルフィド基としては、ベンジルスルフィド基(Ph−CH
2−S−)や置換ベンジルスルフィド基が挙げられる。1〜18個の炭素原子を有する置換アミノ基としては、ベンジルアミノ基や置換ベンジルアミノ基が挙げられる。
【0013】
化合物(d)の前駆体であるハロテトラフルオロスルファニル化合物の入手容易性から、R
1およびR
2は立体障害が少ない水素原子またはフッ素原子であることが好ましい。
【0014】
化合物(d)の前駆体であるハロテトラフルオロスルファニル化合物の安定性の観点から、R
1およびR
4の少なくとも1つはハロゲン原子であることが好ましい。
【0015】
また、R
1およびR
4の少なくとも1つは1〜18個の炭素原子を有する置換アミノ基、アミノ基、アジ基、7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアラルキルオキシ基、あるいは7〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアラルキルスルフィド基であることが好ましい。
【0016】
2.クロロテトラフルオロスルファニルピリジン
本発明のクロロテトラフルオロスルファニルピリジンは一般式(c’)で表される。
【0017】
【化2】
式中、SF
4Cl基は、化合物(d)におけるSF
5基を与える基である。R
1、R
2、R
3、およびR
4は化合物(d)と同様に定義される。
【0018】
3.ペンタフルオロスルファニルピリジンの製造方法
ペンタフルオロスルファニルピリジンは、以下のスキームで製造されることが好ましい。
【0020】
(1)ハロテトラフルオロスルファニルピリジン(c)の合成
式(a)で表されるピリジルジスルフィドピリジンを塩素、臭素、ヨウ素、およびハロゲン間化合物の群から選択されるハロゲン類、ならびに式(b)で表されるフルオロ塩と反応させて式(c)で表されるハロテトラフルオロスルファニルピリジン化合物を製造する。
【0021】
具体的には、まず、ピリジルジスルフィド化合物(化合物(a))を、ハロゲン類存在下で、フルオロ塩と反応させてハロテトラフルオロスルファニルピリジン(化合物(c))を得る。ハロゲン類の使用量はピリジルジスルフィド化合物に対して過剰であればよいが、12〜16当量が好ましい。フルオロ塩の使用量はピリジルジスルフィドに対して過剰であればよいが、14〜18当量が好ましい。溶媒は限定されないが、フルオロ塩の溶解性およびハロゲン類との反応を避けるためアセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒が好ましい。反応温度は適宜調整してよいが、−20〜50℃が好ましい。反応時間は限定されないが、数時間から数日間、好ましくは2〜3日であってよい。また、反応容器は副反応の抑制のためポリテトラフルオロエチレン等のフルオロポリマー製の容器が好ましい。さらに、反応中間体の不安定性から、脱酸素雰囲気下かつ乾燥条件下で反応を行うことが好ましい。
【0022】
化合物(d)におけるR
1、R
2、R
3、およびR
4は、出発物質である化合物(a)のR
1、R
2、R
3、およびR
4と異なっていてもよい。従って、本発明の幾つかの態様はR
1、R
2、R
3、およびR
4を異なるR
1、R
2、R
3、およびR
4に変換することを含む。この変換は、化合物(a)を化合物(c)に転化する反応または化合物(c)を化合物(d)に変換する反応において実施できる。
【0023】
本発明で使用できる代表的なハロゲン類としては、塩素(Cl
2)、臭素(Br
2)、ヨウ素(I
2)、ならびにClF、BrF、ClBr、ClI、Cl
3I、BrIのようなハロゲン間化合物が挙げられる。コスト面から塩素(Cl
2)が好ましい。
【0024】
式(b)で表されるフルオロ塩は容易に入手でき、例としては、金属フッ化物、アンモニウムフッ化物、およびホスホニウムフッ化物が挙げられる。好適な金属フッ化物の例は、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム(噴霧乾燥フッ化カリウムを含む)、フッ化ルビジウム、およびフッ化セシウムのようなアルカリ金属フッ化物である。好適なアンモニウムフッ化物の例は、テトラメチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、ベンジルトリメチルアンモニウムフルオリド、ベンジルトリエチルアンモニウムフルオリドなどである。好適なホスホニウムフッ化物の例は、テトラメチルホスホニウムフルオリド、テトラエチルホスホニウムフルオリド、テトラプロピルホスホニウムフルオリド、テトラブチルホスホニウムフルオリド、テトラフェニルホスホニウムフルオリド、テトラトリルホスホニウムフルオリドなどである。入手し易さおよび高収率を与える能力の観点からフッ化カリウムおよびフッ化セシウムのようなアルカリ金属フッ化物が好ましく、コストを考慮するとフッ化カリウムが最も好ましい。
【0025】
式(b)で表されるフルオロ塩として、金属フッ化物とアンモニウムフッ化物またはホスホニウムフッ化物との混合物、アンモニウムフッ化物とホスホニウムフッ化物との混合物、ならびに金属フッ化物とアンモニウムフッ化物とホスホニウムフッ化物との混合物を用いることもできる。
【0026】
(2)ペンタフルオロスルファニルピリジン(d)の合成
式(c)で表されるハロテトラフルオロスルファニルピリジンをフッ化物源と反応させて式(d)で表されるペンタフルオロスルファニルを得る。
【0027】
具体的にはハロテトラフルオロスルファニルピリジン(化合物(c))を、フッ化物源と反応させてハロゲン交換反応によりペンタフルオロスルファニルピリジン(化合物(d))を得る。フッ化物源の使用量はピリジルジスルフィドに対して過剰であればよいが、12〜16当量が好ましい。フッ化物源の使用量はハロテトラフルオロスルファニルピリジンに対して過剰であればよいが、1〜3当量が好ましい。高い反応効率および低いコストの観点から無溶媒反応が好ましいが、反応性を調節するために含ハロゲン炭素化合物、エーテル、ニトリル(アセトニトリル等)、ニトロ化合物を溶媒として用いることもできる。反応温度は適宜調整してよいが、−100〜150℃が好ましい。反応時間は限定されないが、数時間から数日間、好ましくは2〜3日であってよい。また、反応容器は副反応の抑制のためポリテトラフルオロエチレン等のフルオロポリマー製の容器が好ましい。さらに、反応中間体の不安定性から、脱酸素雰囲気下かつ乾燥条件下で反応を行うことが好ましい。
【0028】
用いるフッ化物源は、式(c)で表されるハロテトラフルオロスルファニルピリジンをフッ素化する活性を示す無水化合物である。フッ化物源は、周期律表の典型元素のフッ化物、周期律表の遷移元素のフッ化物、ならびに典型元素または遷移元素のこれらのフッ化物の混合物または化合物から選択することができる。フッ化物源は、フッ化水素、あるいは本発明の反応を制限しない1種類もしくは複数の有機分子との混合物、塩、またはコンプレックスであってよい。また、フッ化物源としては、フッ化物源とSbCl
5、AlCl
3、PCl
5、BCl
3などのようなフッ化物源活性化化合物との混合物または化合物も挙げられる。特にハロゲン交換の反応性の高さから、遷移金属フッ化物である11族元素(Cu、Ag、Au)及び12族元素(Zn、Cd、Hg)のフッ化物が好ましい。
【0029】
本方法は以下のような段階的反応に区分される。1)ハロゲンとフルオロ塩によるピリジン環の3位または4位に結合した硫黄原子の酸化、ならびにハロゲン交換によるハロテトラフルオロスルファニル化合物の生成。2)ハロゲン交換によるペンタフルオロスルファニルピリジン化合物の生成。
【0031】
前記1)の段階において、中間体である式(a’)で表されるSF
3基を含む化合物を経由する。当該化合物は4価の硫黄化合物であり、
19F−NMRによってその存在を確認できる。SF
3基またはSF
4Cl基をもつピリジン化合物は系中の水やアニオン種による求核攻撃を受けて分解し易い。そのためR
1またはR
4をハロゲン原子とすると、ピリジルジスルフィドの化学的安定性が増加して本反応をより効率的に進めることができる。
【0032】
R
1またはR
4がハロゲン原子であるペンタフルオロスルファニルピリジン(d)は、求核試薬と反応させることで、R
1またはR
4をさらに他の基に置換できる。本反応のスキームおよびこのように合成されたペンタフルオロスルファニルピリジン(d)の一例を以下に示す。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
以下の反応を行い、ペンタフルオロスルファニルピリジン化合物を合成した。
【0035】
【化6】
【0036】
30mLポリテトラフルオロエチレン製容器に、窒素雰囲気下にてフッ化カリウム(噴霧乾燥品、2.32g、40mmol、和光純薬工業株式会社製)とアセトニトリル(15mL)を充填した。撹拌した混合物を氷を入れた水浴にて冷却し、ポリテトラフルオロエチレン製チューブ(内径1mm)を用いて出口圧力0.005MPaにて、混合物に対して塩素(Cl
2;約2.5g〜2.8g、約35〜40mmol)を10分間バブリングした。続いて発明者によって合成されたピリジルジスルフィド(a1)(641mg、2.5mmol)を窒素気流下にて加え、容器を密閉し、室温にて36時間撹拌した。反応終了後、窒素雰囲気下にてグラスフィルターを用いて不溶物を除去した。濾液をポリテトラフルオロエチレン製容器中、真空下で蒸発させ、得られた残渣(2−フルオロ−3−クロロテトラフルオロスルファニルピリジン(c1))を未精製のまま次の反応に用いた。
【0037】
前工程で得られた30mLポリテトラフルオロエチレン製容器中の2−フルオロ−3−クロロテトラフルオロスルファニルピリジン(c1)に対し、フッ化銀(I)(634mg、5.0mmol)を加え、混合物を窒素雰囲気下100℃にて24時間撹拌した。室温に冷却後、混合物に水(5mL)ジクロロメタン(5mL)を加え1時間撹拌し、生成物をジクロロメタンにて抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した。続いて減圧下で溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジクロロメタン=5/1→2/1、Rf値0.56)で精製して生成物(d1)(151mg、27%)を無色油状物として得た。
【0038】
さらに、以下の化合物を用いて同様の合成を行った。以下に質量分析およびNMRによる分析結果とまとめて示す。本発明において、質量分析は型名LCMS−2020、島津製作所製を用いて行い、
1H−NMRおよび
19F−NMRは、Mercury 300、 Varian 社製を用いて測定した。
【0039】
【表1】
【0040】
【化7】
【0041】
[実施例2]
以下の反応を行い、ペンタフルオロスルファニルピリジン化合物を合成した。
【0042】
【化8】
【0043】
60mLポリテトラフルオロエチレン製容器に、窒素雰囲気下にてフッ化カリウム(噴霧乾燥品、6.03g、104mmol、和光純薬工業株式会社製)とアセトニトリル(39mL)を充填した。撹拌した混合物を氷を入れた水浴にて冷却し、ポリテトラフルオロエチレン製チューブ(内径1mm)を用いて出口圧力0.005MPaにて、混合物に対して塩素(Cl
2;約6.5g〜7.4g、約91〜104mmol)を10分間バブリングした。続いて発明者によって合成されたピリジルジスルフィド(a4)(1.90g、6.5mmol)を窒素気流下にて加え、容器を密閉し、室温にて48時間攪拌した。反応終了後、窒素雰囲気下にてグラスフィルターを用いて不溶物を除去した。濾液をポリテトラフルオロエチレン製容器中、真空下で蒸発させ、得られた残渣(2,6−ジフルオロ−4−クロロテトラフルオロスルファニルピリジン(c4)、3.01g、90%収率)を未精製のまま次の反応に用いた。
【0044】
前工程で得られた30mLポリテトラフルオロエチレン製容器中の2,6−ジフルオロ−4−クロロテトラフルオロスルファニルピリジン(c4)(2.58g、10mmol)に対し、フッ化銀(I)(2.54g、20mmol)を加え、混合物を窒素雰囲気下120℃にて48時間撹拌した。室温に冷却後、混合物に水(10mL)ジクロロメタン(10mL)を加え1時間撹拌し、生成物をジクロロメタンにて抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した。続いて減圧下で溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジクロロメタン=20/1、Rf値0.34)で精製して生成物(d4)(844mg、35%収率)を無色油状物として得た。
【0045】
さらに、同様の合成を行い、生成物(d5)を得た。以下に質量分析およびNMRによる分析結果をまとめて示す。
【0046】
【表2】
【0047】
【化9】
【0048】
[実施例3]
前記のとおりに合成したペンタフルオロスルファニルピリジン(d1)に対して求核置換反応を行った。表3に求核試薬、反応条件、および生成物等を示す。
【0049】
【表3】
【0050】
[実施例4]
前記のとおりに合成したペンタフルオロスルファニルピリジン(d3)に対して求核置換反応を行った。表4に求核試薬、反応条件、および生成物等を示す。
【0051】
【表4】
【0052】
[実施例5]
前記のとおりに合成したペンタフルオロスルファニルピリジン(d2)に対して求核置換反応を行った。表5に求核試薬、反応条件、および生成物等を示す。
【0053】
【表5】
【0054】
[実施例6]
前記のとおりに合成したペンタフルオロスルファニルピリジン(d4)に対して求核置換反応を行った。表6に求核試薬、反応条件、および生成物等を示す。
【0055】
【表6】
【0056】
本発明により、3位または4位にペンタフルオロスルファニル基を有するピリジン化合物が得られることが明らかである。本発明では、ペンタフルオロスルファニルフェニル基と同時にハロゲン原子を有するピリジン化合物の合成ができるが、ハロゲン原子を用いてカップリング反応などの修飾化を行うことで、医薬品などの生理物質の合成に有用である。