【文献】
Takayoshi Oshima et al.,"Vertical Solar-Blind Deep-Ultraviolet Schottky Photodetectors Based on β-Ga2O3 Substrates",Applied Physics Express,2008年,Vol.1,pp.011202-1 - 011202-3
【文献】
X Z Liu et al.,"Characterization of vertical Au/β-Ga2O3 single-crystal Schottky photodiodes with MBE-grown high-resistivity epitaxial layer",Chinese Physics B,2015年12月 8日,Vol.25,pp.017201-1 - 017201-5
【文献】
Andrew M. Armstrong et al.,"Role of self-trapped holes in the photoconductive gain of β-gallium oxide Schottky diodes",Journal of Applied Physics,2016年 3月10日,Vol.119,pp.103102-1 - 103102-6
【文献】
Takayoshi Oshima et al.,"Formation of Semi-Insulating Layers on Semiconducting β-Ga2O3 Single Crystals by Thermal Oxidation",Japanese Journal of Applied Physics,2013年,Vol.52,pp.051101-1 - 051101-5
【文献】
Rikiya Suzuki et al.,"Solar-blind photodiodes composed of a Au Schottky contact and a β-Ga2O3 single crystal with a high resistivity cap layer",Applied Physics Letters,2011年,Vol.98,pp.131114-1 - 131114-3
【文献】
Rikiya Suzuki et al.,"Enhancement of responsivity in solar-blind β-Ga2O3 photodiodes with a Au Schottky contact fabricated on single crystal substrates by annealing",Applied Physics Letters,2009年,Vol.94,pp.222102-1 - 222102-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔第1の実施の形態〕
(アバランシェフォトダイオードの構造)
図1は、第1の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード1の垂直断面図である。
【0025】
アバランシェフォトダイオード1は、縦型の受光素子であり、Ga
2O
3系単結晶層10と、Ga
2O
3系単結晶層10に積層された誘電体層11と、誘電体層11に接続されたアノード電極12と、Ga
2O
3系単結晶層10に接続されたカソード電極13とを有する。
【0026】
アバランシェフォトダイオード1のアノード電極12とカソード電極13の間に逆方向電圧(アノード電極12の電位がカソード電極13の電位よりも高くなる電圧)を印加することにより、Ga
2O
3系単結晶層10と誘電体層11との接合部にアバランシェブレークダウンを生じさせることができる。
【0027】
アバランシェフォトダイオード1に光を照射すると、Ga
2O
3系単結晶層10中の電子が励起され、電子・ホール対が生成される。逆方向電圧によりGa
2O
3系単結晶層10の誘電体層11との界面近傍に形成された空乏層内においては、生成された電子が強い電界により加速されてGa
2O
3系単結晶層10を構成する原子に衝突してイオン化させ、新たな電子・ホール対が生成される(衝突電離)。
【0028】
この衝突電離により生成された電子によりさらに衝突電離が生じ、この繰り返しによって多数の電子・ホール対が生成される。このようにして生成された複数のホールは、空乏層中の強い電界により、誘電体層11を越えてアノード電極12まで移動する。また、複数の電子は、空乏層中の強い電界により、カソード電極13まで移動する。これにより、大きな電流が生じる(アバランシェブレークダウン)。
【0029】
このように、アバランシェフォトダイオード1においては、アバランシェブレークダウンを利用することにより、照射する光の強さに対して大きな電流を生じさせることができる。このため、アバランシェフォトダイオード1は優れた受光感度を有する。
【0030】
Ga
2O
3系単結晶層10は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn型のGa
2O
3系単結晶からなる。Ga
2O
3系単結晶層10の実効ドナー濃度(ドナー濃度Ndからアクセプタ濃度Naを引いたもの)は、アバランシェフォトダイオード1の動作電圧の大きさによって適宜設定される。例えば、アバランシェフォトダイオード1の動作電圧が50〜250Vである場合には、Ga
2O
3系単結晶層10の実効ドナー濃度はおよそ5×10
17以上かつ3×10
18cm
−3以下であることが好ましい。Ga
2O
3系単結晶層10の厚さは、例えば、50〜600μmである。
【0031】
ここで、Ga
2O
3系単結晶とは、Ga
2O
3単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたGa
2O
3単結晶をいう。例えば、Al及びInが添加されたGa
2O
3単結晶である(Ga
xAl
yIn
(1−x−y))
2O
3(0<x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)単結晶であってもよい。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。なお、上記のGa
2O
3単結晶は、β型の結晶構造を有する。
【0032】
β−Ga
2O
3のバンドギャップはおよそ4.5eVである。このため、Ga
2O
3系単結晶層10がGa
2O
3単結晶からなる場合、およそ280nmよりも短い波長の光を吸収する。この場合、アバランシェフォトダイオード1はおよそ280nmよりも短い波長の光に応答する。
【0033】
アバランシェフォトダイオード1の特性はGa
2O
3系単結晶層10の主面の面方位にほとんど依存しないため、Ga
2O
3系単結晶層10の主面の面方位は特に限定されないが、例えば、結晶成長速度等の観点から、(001)、(010)、(110)、(210)、(310)、(610)、(910)、(101)、(102)、(201)、(401)、(−101)、(−201)、(−102)又は(−401)であることが好ましい。
【0034】
図2は、Ga
2O
3センサーの光応答特性と各種光源の発光スペクトルを比較した図である。図中のAはGa
2O
3センサーの光応答特性を示す曲線であり、B、C、D、E、F、Gはそれぞれ低圧水銀ランプ、ガス炎、太陽光、白色LED、白熱電球、蛍光灯の発光スペクトルである。
【0035】
図2に示されるように、Ga
2O
3センサーは低圧水銀ランプ及びガス炎の光に応答するが、太陽光、白色LED、白熱電球、蛍光灯には応答しない。このため、例えば、太陽光が降り注ぐ環境下において炎のみを検出する超高感度ソーラーブラインドセンサーとして、アバランシェフォトダイオード1を用いることができる。
【0036】
なお、Ga
2O
3系単結晶層10を構成するGa
2O
3単結晶に、吸収端を長波長側にシフトさせるIn等の不純物を添加する場合には、その添加量を、太陽光を吸収しない程度に抑えればよい。
【0037】
図3(a)、(b)は、それぞれ誘電体層11とGa
2O
3系単結晶層10の価電子帯のバンドオフセット(価電子帯の上端のエネルギー差)が小さい場合と大きい場合のキャリアの挙動を模式的に示す図である。
【0038】
図3(a)に示される例では、誘電体層11とGa
2O
3系単結晶層10の価電子帯のバンドオフセットが小さいため、光の照射及びその後の衝突電離によりGa
2O
3系単結晶層10の空乏層内に生成されたホールが、空乏層中の強い電界により誘電体層11を越えてアノード電極12まで移動する。このため、Ga
2O
3系単結晶層10に吸収される波長の光を照射すると、アバランシェフォトダイオード1が応答する。
【0039】
一方、
図3(b)に示される例では、誘電体層11とGa
2O
3系単結晶層10の価電子帯のバンドオフセットが大きいため、Ga
2O
3系単結晶層10の空乏層内に生成されたホールが誘電体層11を越えることができず、誘電体層11とGa
2O
3系単結晶層10の界面に蓄積される。このため、Ga
2O
3系単結晶層10に吸収される波長の光を照射しても、アバランシェフォトダイオード1の動作が不安定になるおそれがある。
【0040】
図3(a)に例示されるように、光の照射に対してアバランシェフォトダイオード1を十分に応答させるためには、誘電体層11とGa
2O
3系単結晶層10との価電子帯のバンドオフセットが1eV以下であることが好ましい。
【0041】
図4は、Ga
2O
3と各種誘電体のバンドダイアグラムを示す。バンドダイアグラム内の数値はバンドギャップの大きさ[eV]、バンドダイアグラムの上側の数値はGa
2O
3との伝導帯のバンドオフセット(伝導帯の下端のエネルギー差)[eV]、バンドダイアグラムの下側の数値はGa
2O
3との価電子帯のバンドオフセット[eV]をそれぞれ示す。
【0042】
図4のバンドダイアグラムによれば、Ga
2O
3との価電子帯のバンドオフセットが1eV以下である誘電体は、SiN
x、HfO
2、ZrO
2、及びAl
2O
3である。このため、誘電体層11とGa
2O
3系単結晶層10との価電子帯のバンドオフセットを1eV以下とするために、誘電体層11の材料としてSiN
x、HfO
2、ZrO
2、又はAl
2O
3を用いることが好ましい。
【0043】
また、アバランシェフォトダイオード1においては、アノード電極12と誘電体層11の伝導帯のバンドオフセットよりも短い波長の光に対して受光感度を有する。つまり、例えば、Ga
2O
3系単結晶層10が波長280nm以下の光に対してのみ感度を有していたとしても、アノード電極12と誘電体層11の伝導帯のバンドオフセットがGa
2O
3系単結晶層10のバンドギャップよりも小さい場合、280nm以上の光も受光してしまい、暗電流(本来受光すべき光が照射されているときに流れる電流)が流れる。
【0044】
受光素子の感度特性は、本来受光すべき波長の光が照射されているときとされていないときの電流の差で決まるため、暗電流の増加は、受光素子の感度の低下につながる。このため、アノード電極12と誘電体層11の伝導帯のバンドオフセットは、大きいほど好ましい。
【0045】
図4のバンドダイアグラムによれば、SiN
x、HfO
2、ZrO
2、及びAl
2O
3のうち、Ga
2O
3との伝導帯のバンドオフセットが最も大きい誘電体はAl
2O
3であり、このことから、アノード電極12との伝導帯のバンドオフセットが最も大きくなる誘電体もAl
2O
3であると考えられる。このため、暗電流の発生を抑えるためには、誘電体層11の材料としてAl
2O
3を用いることが特に好ましい。
【0046】
また、誘電体層11は、絶縁破壊を起こし難い材料からなることが好ましい。絶縁破壊を起こしにくい材料とは、誘電率が大きいために内部の電界強度が抑えられる材料や、絶縁破壊電界強度が高い材料である。SiN
x、HfO
2、ZrO
2、及びAl
2O
3のうちでは、HfO
2、ZrO
2、及びAl
2O
3が絶縁破壊を起こし難く、誘電体層11の材料として好ましい。誘電体層11の厚さは、リーク電流の原因となるピンホール等の発生を抑制するため、およそ20nm以上であることが好ましい。また、Ga
2O
3系単結晶層10中に広がる空乏層幅は最大で1μm程度となるため、電圧分配の点から、誘電体層11の厚さはおよそ200nm以下に設定される。
【0047】
アノード電極12は、誘電体層11のGa
2O
3系単結晶層10と反対側の面上に形成される。アノード電極12の材料は特に限定されず、例えば、Pt、Au、Ti、Ni、Al、Ag、ITO等が用いられる。これらの材料の中でも、電子親和力の大きいPtがアノード電極12の材料として特に好ましい。アノード電極12が電子親和力の大きい材料からなる場合、アノード電極12と誘電体層11の伝導体のオフセットが大きくなる。このため、暗電流が低く抑えられ、アバランシェフォトダイオード1の受光感度が高くなる。
【0048】
アバランシェフォトダイオード1に照射された光はアノード電極12を通過してGa
2O
3系単結晶層10に吸収されるため、アノード電極12の厚さは薄い方がよく、例えば、およそ1〜10nmであることが好ましい。また、アノード電極12の形状は、典型的には円形又は四角形である。
【0049】
また、アバランシェフォトダイオード1は、
図1に示されるように、フィールドプレート構造を有していてもよい。この場合、誘電体層11の上面の縁に沿って、SiO
2、Al
2O
3等からなる誘電体膜16が設けられ、その誘電体膜16の上にアノード電極12の縁が乗り上げている。
【0050】
このようなフィールドプレート構造を設けることにより、アノード電極12の端部への電界集中を抑制することができる。また、誘電体膜16は、第2の誘電体層11の上面を流れる表面リーク電流を抑制するパッシベーション膜としても機能する。
【0051】
また、
図1に示される例では、アノード電極12にパッド電極14が接続されている。パッド電極14は、誘電体膜16上に形成されたSiO
2等からなる絶縁体15上に形成される。パッド電極14は、例えば、厚さ5nmのTi膜上に厚さ500nmのAu膜が積層された構造を有する。
【0052】
カソード電極13は、Ga
2O
3系単結晶層10の誘電体層11と反対側の面上に形成される。カソード電極13は、例えば、厚さ100nmのTi膜上に厚さ100nmのAu膜が積層された構造を有する。カソード電極13の形状は、典型的には、Ga
2O
3系単結晶層10の底面の形状と同じ四角形である。
【0053】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、Ga
2O
3系単結晶層の上面近傍にガードリングが含まれる点において、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点においては、説明を省略又は簡略化する。
【0054】
(アバランシェフォトダイオードの構造)
図5は、第2の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード2の垂直断面図である。
【0055】
アバランシェフォトダイオード2は、アバランシェフォトダイオード1と同様に、Ga
2O
3系単結晶層10と、Ga
2O
3系単結晶層10に積層された誘電体層11と、誘電体層11に接続されたアノード電極12と、Ga
2O
3系単結晶層10に接続されたカソード電極13とを有する。
【0056】
そして、アバランシェフォトダイオード2のGa
2O
3系単結晶層10の誘電体層11との界面近傍には、ガードリング20が形成されている。このガードリング20を用いることにより、アノード電極12の端部における電界集中を緩和することができる。
【0057】
ガードリング20は、Ga
2O
3系単結晶層10の上面のリング状の領域に、酸素アニールやMg、Fe、Zn等のアクセプタイオンのイオン注入を選択的に施すことにより形成される。なお、ガードリング20の形状や数は、アノード電極12の端部における電界集中を緩和できる範囲内であれば、特に限定されない。
【0058】
〔第3の実施の形態〕
第3の実施の形態は、Ga
2O
3系単結晶層と誘電体層の積層体がメサ形状を有する点において、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点においては、説明を省略又は簡略化する。
【0059】
(アバランシェフォトダイオードの構造)
図6(a)〜(c)は、第3の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード3の垂直断面図である。
【0060】
アバランシェフォトダイオード3は、Ga
2O
3系単結晶層30と、Ga
2O
3系単結晶層30に積層された誘電体層31と、誘電体層31に接続されたアノード電極32と、Ga
2O
3系単結晶層30に接続されたカソード電極33とを有する。
【0061】
そして、アバランシェフォトダイオード3のGa
2O
3系単結晶層30と誘電体層31の積層体は、凸部がアノード電極32側を向いたメサ形状を有する。アノード電極32は、メサ形状に加工された誘電体層31の上面に形成されており、アノード電極32の端部の位置がメサ形状の上面の端部の位置とほぼ一致している。このような構造により、アノード電極32の端部における電界集中を緩和することができる。
【0062】
図6(a)に示される例では、Ga
2O
3系単結晶層30と誘電体層31の積層体は側面が垂直なメサ形状を有する。
図6(b)に示される例では、Ga
2O
3系単結晶層30と誘電体層31の積層体は側面がテーパー状に傾斜したメサ形状を有する。また、
図6(c)に示される例では、Ga
2O
3系単結晶層30と誘電体層31の積層体は側面が逆テーパー状に傾斜したメサ形状を有する。これら3種のメサ形状による電界集中緩和効果のうち、
図6(c)に示されるメサ形状によるものが最も大きい。
【0063】
なお、アバランシェフォトダイオード3のGa
2O
3系単結晶層30、誘電体層31、アノード電極32、カソード電極33、パッド電極34は、第1の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード1のGa
2O
3系単結晶層10、誘電体層11、アノード電極12、カソード電極13、パッド電極14と、それぞれ同様の材料からなる。
【0064】
また、Ga
2O
3系単結晶層30と誘電体層31の積層体のメサ形状部分の側面は、SiO
2等からなる絶縁体35に覆われている。
【0065】
〔第4の実施の形態〕
第4の実施の形態は、Ga
2O
3系単結晶層と誘電体層の間にアンドープのGa
2O
3系単結晶層が形成されている点において、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点においては、説明を省略又は簡略化する。
【0066】
(アバランシェフォトダイオードの構造)
図7は、第4の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード4の垂直断面図である。
【0067】
アバランシェフォトダイオード4は、Ga
2O
3系単結晶層10と、Ga
2O
3系単結晶層10にアンドープGa
2O
3系単結晶層40を介して積層された誘電体層11と、誘電体層11に接続されたアノード電極12と、Ga
2O
3系単結晶層10に接続されたカソード電極13とを有する。
【0068】
アンドープGa
2O
3系単結晶層40は、意図的にドーパントが添加されていないGa
2O
3系単結晶層であり、アンドープGa
2O
3系単結晶層40がGa
2O
3系単結晶層10と誘電体層11の間に形成されることにより、誘電体層11とアンドープGa
2O
3系単結晶層40の比誘電率及び厚さに応じて、印加電圧が分配される。
【0069】
例えば、誘電体層11がHfO
2からなるとして、その比誘電率を22と仮定し、アンドープGa
2O
3系単結晶層40の比誘電率を10と仮定した場合、誘電体層11の厚さを20nm、アンドープGa
2O
3系単結晶層40の厚さを50nmとして、アノード電極12とカソード電極13の間に38.5Vの電圧を印加すると、誘電体層11には5.9V、アンドープGa
2O
3系単結晶層40には32.6Vの電圧が印加される。
【0070】
また、誘電体層11の厚さを20nm、アンドープGa
2O
3系単結晶層40の厚さを300nmとして、アノード電極12とカソード電極13の間に201Vの電圧を印加すると、誘電体層11には5.9V、アンドープGa
2O
3系単結晶層40には195.1Vの電圧が印加される。
【0071】
また、誘電体層11の厚さを200nm、アンドープGa
2O
3系単結晶層40の厚さを50nmとして、アノード電極12とカソード電極13の間に91.5Vの電圧を印加すると、誘電体層11には59V、アンドープGa
2O
3系単結晶層40には32.5Vの電圧が印加される。
【0072】
また、誘電体層11の厚さを20nm、アンドープGa
2O
3系単結晶層40の厚さを1000nmとして、アノード電極12とカソード電極13の間に656Vの電圧を印加すると、誘電体層11には5.9V、アンドープGa
2O
3系単結晶層40には650.1Vの電圧が印加される。
【0073】
そして、上記の3つの例のいずれの場合においても、誘電体層11中の電界強度はおよそ3MV/cm、アンドープGa
2O
3系単結晶層40中の電界強度はおよそ6.5MV/cmになる。
【0074】
なお、アバランシェフォトダイオード4に、第2の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード2のガードリング構造や、第3の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード3のメサ構造を適用してもよい。この場合、アノード電極12の端部における電界集中を緩和することができる。
【0075】
〔第5の実施の形態〕
第5の実施の形態は、誘電体層が異なる材料からなる2枚の誘電体膜の積層体から構成される点において、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点においては、説明を省略又は簡略化する。
【0076】
(アバランシェフォトダイオードの構造)
図8は、第5の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード5の垂直断面図である。
【0077】
アバランシェフォトダイオード5は、第1の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード1の誘電体層11の代わりに、第1の誘電体膜51aと第2の誘電体膜51bの積層体からなる誘電体層51を有する。第1の誘電体膜51aはGa
2O
3系単結晶層10上に形成され、第2の誘電体膜51bは第1の誘電体膜51a上に形成される。
【0078】
第2の誘電体膜51bは、第1の誘電体膜51aよりも誘電率が高い。また、第1の誘電体膜51aは、第2の誘電体膜51bよりもアノード電極12との伝導帯のバンドオフセットが大きい。例えば、第1の誘電体膜51a、第2の誘電体膜51bは、それぞれSiO
2、HfO
2からなる。
【0079】
誘電体膜の誘電率が大きいほど、その誘電体膜中の電界が弱まる。このため、アノード電極12と接する第2の誘電体膜51bとして誘電率の高い膜を用いることにより、アノード電極12と誘電体層51との界面を流れるリーク電流を効果的に抑制することができる。
【0080】
一方で、アノード電極12と接する第2の誘電体膜51bとアノード電極12の伝導帯のバンドオフセットが小さいと、暗電流が大きくなるという問題がある。そこで、第2の誘電体膜51bの下層に第2の誘電体膜51bよりもアノード電極12との伝導帯のバンドオフセットが大きい第1の誘電体膜51aを挿入して伝導帯にバリアを形成することにより、暗電流を低減することができる。
【0081】
第1の誘電体膜51aの厚さは、例えば、20nm以上かつ500nm以下であり、第2の誘電体膜51bの厚さは、例えば、20nm以上かつ200nm以下である。
【0082】
(実施の形態の効果)
上記第1〜5の実施の形態によれば、Ga
2O
3単結晶を用いた、短波長の光に応答するアバランシェフォトダイオードを提供することができる。これにより、例えば、太陽光が降り注ぐ環境下において炎のみを検出する、超高感度ソーラーブラインドセンサーを実現することができる。
【実施例】
【0083】
上記第1〜4の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード1〜4の誘電体層11における、比誘電率と内部の電界強度との関係をシミュレーションにより求めた。
【0084】
図9は、本実施例に係るシミュレーションに用いられた試料6の垂直断面図である。試料6は、Ga
2O
3系単結晶層60と、Ga
2O
3系単結晶層60に積層された誘電体層61と、誘電体層61のGa
2O
3系単結晶層60と反対側の面上に形成されたアノード電極62と、Ga
2O
3系単結晶層60の誘電体層61と反対側の面上に形成されたカソード電極63とを有する。
【0085】
このシミュレーションでは、Ga
2O
3系単結晶層60を実効ドナー濃度が1×10
18cm
−3であるGa
2O
3膜とした。また、誘電体層61をSiO
2、SiN
x、HfO
2、又はAl
2O
3からなる厚さ50nmの誘電体膜とした。
【0086】
図10(a)、(b)及び
図11(a)、(b)は、Ga
2O
3系単結晶層60に加わる最大電界強度が6.5MV/cmとなるように試料6に対して逆方向電圧を印加したときの、誘電体層61及びGa
2O
3系単結晶層60中の電界強度分布を示す。
【0087】
ここで、
図10(a)は誘電体層61がSiO
2(比誘電率4)からなる場合の電界強度分布、
図10(b)は誘電体層61がSiN
x(比誘電率7)からなる場合の電界強度分布、
図11(a)は誘電体層61がAl
2O
3(比誘電率9.5)からなる場合の電界強度分布、
図11(b)は誘電体層61がHfO
2(比誘電率20)からなる場合の電界強度分布を示す。
【0088】
図10(a)、(b)及び
図11(a)、(b)の横軸は、誘電体層61の上面の位置を基準とした深さ方向の位置を示す。すなわち、横軸の位置が0〜50nmの領域は、厚さ50nmの誘電体層61中の領域であり、横軸の位置が50nmより大きい領域は、Ga
2O
3系単結晶層60中の領域である。
【0089】
図10(a)によれば、SiO
2からなる誘電体層61中の最大電界強度が16MV/cmと非常に大きく、SiO
2の絶縁破壊電界強度を超えている可能性が高い。また、これほどの電界強度になると、量子力学的トンネル電流が非常に大きくなるため、暗電流が極めて大きくなる。また、
図10(b)によれば、SiN
xからなる誘電体層61中の最大電界強度は9.3MV/cmであり、SiN
xの絶縁破壊電界強度を超えている可能性がある。
【0090】
これらの結果から、上記第1〜4の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード1〜4の誘電体層11又は誘電体層31の材料として、SiO
2及びSiN
xを用いる場合、絶縁破壊が生じないように印加電圧の大きさ等の制限が求められる場合がある。
【0091】
一方、
図11(a)、(b)によれば、Al
2O
3からなる誘電体層61中の電界強度はおよそ7MV/cm、HfO
2からなる誘電体層61中の電界強度はおよそ3.3MV/cmであり、絶縁破壊電界強度及びトンネル電流の点では問題ないと考えられる。
【0092】
このため、上記第1〜4の実施の形態に係るアバランシェフォトダイオード1〜4の誘電体層11又は誘電体層31の材料として、Al
2O
3及びHfO
2は適しているといえる。また、ZrO
2はHfO
2とほぼ同じ材料物性を有するため、HfO
2と同様に、誘電体層11又は誘電体層31の材料として適しているといえる。
【0093】
以上、本発明の実施の形態、実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態、実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0094】
また、上記に記載した実施の形態、実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態、実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。