(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779483
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】医療用検査装置及び細胞検査方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20201026BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20201026BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20201026BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12M1/00 C
C12Q1/06
G01N33/48 M
G01N33/48 S
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-191616(P2016-191616)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-50547(P2018-50547A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年4月5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度よりの、独立行政法人科学技術振興機構の研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム COI拠点「フロンティア有機システムイノベーション拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康久
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】干場 隆志
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 智和
【審査官】
長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−131561(JP,A)
【文献】
特表2013−500496(JP,A)
【文献】
株式会社三商[online], 2015 GENERAL CATALOGUE, p.7, 公開日:2015年, [検索日:2019年4月8日],<https://digi.co-sansyo.co.jp/iportal/CatalogViewInterfaceStartUpAction.do?method=startUp&mode=PAGE&volumeID=SSH00001&catalogId=996500000&pageGroupId=5&keyword=11-0023&menuStyle=0&designID=SAN02&catalogCategoryId=&designConfirmFlg=&pagePosition=R>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/34
C12M 1/00
C12Q 1/06
G01N 33/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ポリマー層にがん細胞
を捕捉
する医療用検査装置であって、
複数のウェルを有
し、
前記親水性ポリマー層は、前記ウェルの内面の少なくとも一部に形成され、
前記親水性ポリマー層は、下記式(I)で表される単独重合体及びポリ(メタ)アクリロイルモルホリンからなる群より選択される少なくとも1種の親水性ポリマーで形成されており、
前記親水性ポリマーは、重量平均分子量が4000〜150000であることを特徴とする医療用検査装置。
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2はアルキル基を表す。mは1〜5、nは繰り返し数を表す。)
【請求項2】
複数のウェルが分離可能である請求項1記載の医療用検査装置。
【請求項3】
複数のウェルがマトリクス状に配置されている請求項1又は2記載の医療用検査装置。
【請求項4】
複数のウェルは、配置が判別可能なように識別がなれている請求項1〜3のいずれかに記載の医療用検査装置。
【請求項5】
前記親水性ポリマー層は、膜厚が2〜200nmである請求項1〜4のいずれかに記載の医療用検査装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の医療用検査装置の複数のウェルに同一の検査用血液又は体液を導入してがん細胞を捕捉させた後、該複数のウェルの少なくとも1個を該検査用血液又は体液中のがん細胞数の計測に供する細胞検査方法。
【請求項7】
がん細胞の計測に供していないウェルでがん細胞の培養を行い、培養により細胞数を増加させたがん細胞で薬剤の効き目を確認する請求項6記載の細胞検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血球細胞、血液・体液中に存在するがん細胞を捕捉できる医療用検査装置及び細胞検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞が発生するとやがて、血液・体液中に出て来ることが知られており、血液中に出て来たがん細胞は、血中循環腫瘍細胞(CTC)と呼ばれている。そして、この血中循環腫瘍細胞を調べることによるがんの治療効果の確認、予後寿命、投与前の抗がん剤の効果予測、がん細胞の遺伝子解析を用いた治療方法の検討、等が期待されている。
【0003】
しかしながら、血中循環腫瘍細胞は非常に数が少なく(数個〜数百個/血液1mL)、がん細胞を捕捉することが難しいという問題がある。
【0004】
例えば、血中循環腫瘍細胞の捕捉技術として、Cell Searchシステムと呼ばれるものが知られているが、これは、抗原抗体反応(EpCAM抗体で捕捉)を用いる技術であるため、EpCAMを発現しているがん細胞しか捕捉できず、補足可能ながん細胞の種類に制限がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−523981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、がん細胞数の計測、がん細胞の培養及び該細胞への薬の効き目の確認が可能な医療用検査装置及び細胞検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、がん細胞の捕捉のために用いられる医療用検査装置であって、複数のウェルを有することを特徴とする医療用検査装置に関する。
【0008】
前記複数のウェルは、分離可能であることが好ましい。
前記複数のウェルは、マトリクス状に配置されていることが好ましい。
前記複数のウェルは、配置が判別可能なように識別がなされていることが好ましい。
【0009】
ウェルの内面の少なくとも一部に親水性ポリマー層が形成されていることが好ましい。
前記親水性ポリマー層は、下記式(I)で表されるポリマー及びポリ(メタ)アクリロイルモルホリンからなる群より選択される少なくとも1種の親水性ポリマーで形成されていることが好ましい。
【化1】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基、R
2はアルキル基を表す。mは1〜5、nは繰り返し数を表す。)
【0010】
前記親水性ポリマー層は、下記式(I−1)で表される化合物及び(メタ)アクリロイルモルホリンからなる群より選択される少なくとも1種の親水性モノマーと、他のモノマーとの共重合体で形成されていることが好ましい。
【化2】
(式中、R
1、R
2、mは前記と同様。)
【0011】
本発明はまた、前述の医療用検査装置の複数のウェルに同一の検査用血液又は体液を導入してがん細胞を捕捉させた後、該複数のウェルの少なくとも1個を該検査用血液又は体液中のがん細胞数の計測に供する細胞検査方法に関する。
【0012】
前記細胞検査方法は、がん細胞の計測に供していないウェルでがん細胞の培養を行い、増加させたがん細胞で薬剤の効き目を確認することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、がん細胞の捕捉のために用いられる医療用検査装置であって、複数のウェルを有することを特徴とする医療用検査装置であるので、複数のウェルを、捕捉したがん細胞数を計測するウェルと、そのがん細胞を培養するためのウェルとに分離できる。従って、がん細胞数の計測用ウェルに対して細胞にダメージを与える試薬を用いても、別に分離したがん細胞の培養用ウェルには試薬の影響が及ばないので、捕捉したがん細胞の個数の計測、そのがん細胞の培養が可能となる。よって、例えば、血液・体液中からがん細胞を充分に捕捉して細胞数を計測できると共に、がん細胞にダメージを与えることなく、捕捉したがん細胞の培養が可能となる。更に培養されたがん細胞を用い、抗がん剤等の投与前に体外において、薬の効き目の確認、薬の選定を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】複数のウェルを有するマルチウェルプレート(医療用検査装置)の模式図の一例である。
【
図2】3個のウェル11a、11b、11cの分離利用の模式図の一例である。
【
図3】親水性ポリマー層が形成された複数のウェルを有するマルチウェルプレート(医療用検査装置)の模式図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、がん細胞の捕捉のために用いられる医療用検査装置であって、複数のウェルを有することを特徴とする医療用検査装置である。
【0016】
複数のウェルを有しているため、がん細胞数計測用ウェルと、がん細胞培養用ウェルとに分離使用できる。従って、例えば、計測用ウェルでがん細胞の存在の有無を確認した上で、存在が確認された場合に培養用ウェルでがん細胞を培養し、その細胞で薬の効き目を確認するという手法を採用できる。
【0017】
更に、例えば、ウェルの内面に親水性ポリマー層を形成した場合、親水性ポリマー層を形成しないケース等に比べ、EpCAMを発現していないがん細胞も含めた多くのがん細胞の捕捉性が大きく向上すると共に、血小板等の捕捉性が低下するため、がん細胞の選択的な捕捉効果が顕著に得られる。そのため、血液・体液中からがん細胞を充分に捕捉できると共に、他のタンパク質や細胞の粘着・接着が抑制され、がん細胞を選択的に捕捉できる。従って、がん細胞の有無の確認、がん細胞の培養、薬の効き目の確認に好適に適用可能である。
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態の一例を、図を用いて説明する。
図1の医療用検査装置1(マルチウェルプレート1)は、がん細胞を捕捉する目的で使用される装置で、いわゆるマトリクス状にウェル11(ウェル11a、11b、11c等)が配置されたマルチウェルプレート1である。マルチウェルプレート1は、円形に開口された複数のウェル11を有している。ウェル11は、血液、体液等を注入する凹部であり、注入した血液や体液のがん細胞の有無の確認、がん細胞数の計測、がん細胞の培養、薬の効き目の確認・選定を実施できる。
【0019】
図1では、一例として、4行6列の24個のウェル11を有する24ウェルプレートを示しているが、マルチウェルプレート1は、ウェル11を少なくとも2つ以上有していれば良く、ウェル11の個数は任意である。24ウェルプレートの他には、ウェル11が、6個、96個、384個等の汎用マルチウェルプレートでも良い。
【0020】
マルチウェルプレート1の構成材料としては、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のアクリル樹脂(ポリアクリル樹脂)、シクロオレフィン樹脂(ポリシクロオレフィン)、カーボネート樹脂(ポリカーボネート)、スチレン樹脂(ポリスチレン)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0021】
ウェル11は非貫通孔であり、マルチウェルプレート1の表面に開口されている。ウェル11には、開口から、血液や体液が注入される。また、がん細胞の存在を確認した場合、がん細胞を培養するための培養液も注入される。
【0022】
ウェル11の開口の直径R、深さDは、特に限定されず、通常のマルチウェルプレート1のR、Dを採用できる。
図1では、マルチウェルプレート1の表面及び裏面に対して、ウェル11の内側面が略垂直であるが、ウェル11は、内側面が傾斜し、開口から底面にかけて窄まる形状でも良い。また、内側面が傾斜し、開口から底面にかけて拡がる形状でも良い。
【0023】
図1では、ウェル11は円形に開口しているが、ウェル11の開口形状は任意であり、四角形等、任意の形状に開口したものでもよい。
【0024】
マルチウェルプレート1は、複数のウェル11が分離可能なものを好適に使用できる。
図2は、分離可能な3個のウェル11a、11b、11cの分離利用を示す模式図の一例である。
【0025】
先ず、ウェル11a、11b、11cに同一患者の血液を注入し、がん細胞を接着させ、各ウェル11a、11b、11cを切り離す。次いで、ウェル11a、11bの2個のウェル(がん細胞数計測用ウェル)を用いて、がん細胞の有無、細胞数を確認、計測する。先ず、ウェル11aのがん細胞11axの個数を計測し、がん細胞数が少量の場合は、ウェル11bのがん細胞11bxの個数を再度測定する。所定以上のがん細胞数が観測された場合、ウェル11c(がん細胞培養用ウェル)を用いてがん細胞11cxを培養し、培養して増加させたがん細胞11cxを用いて、抗がん剤等の効き目の確認、抗がん剤の選定等を実施できる。なお、ウェルの分離手段としては、公知の切断可能な形態を採用できる。
【0026】
複数のウェル11は、配置が判別可能なように識別がなされているものを好適に使用できる。この場合、ウェルを分離した後でも、複数のどのウェルに同一の血液や体液が注入されているかを容易に確認できる。識別手段としては、任意の識別子の付与等が挙げられる。識別子の形状としては特に限定されず、文字、数字、多角形などの図形、矢印、線(バー)、ドット、QRコード(登録商標)などのバーコード、等が列挙される。
【0027】
マルチウェルプレート1(医療用検査装置1)において、ウェル11の内側面は、少なくとも一部に親水性ポリマー層が形成されていることが好ましい。
図3は、ウェルの底面及び側面の一部に親水性ポリマー層21が形成されている例を示している。
【0028】
ウェル11内に、血液や体液を導入すると、これらに含まれるがん細胞が親水性ポリマー層21に吸着されると共に、血小板、赤血球等の吸着が抑制される。そのため、血液や体液の導入後に所定時間保持し、次いで、洗浄することで、がん細胞を親水性ポリマー層21に吸着できる。そして、吸着されたがん細胞の数を測定することで、血液や体液中のがん細胞数が判り、がん治療効果の確認等が期待される。
【0029】
親水性ポリマー層21(親水性ポリマーにより形成される層)の膜厚は、好ましくは2〜200nm、より好ましくは20〜180nmである。上記範囲内に調整することで、良好なタンパク質や細胞に対する低吸着性、がん細胞に対する選択的吸着性・接着性が得られる。
【0030】
親水性ポリマーは、親水性を有するものを適宜選択できる。例えば、1種又は2種以上の親水性モノマーの単独重合体及び共重合体、1種又は2種以上の親水性モノマーと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。前記単独重合体、共重合体としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロイルモルホリン、ポリメタクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド等が挙げられる。
【0031】
親水性モノマーは、親水性基を有する各種モノマーを使用できる。親水性基は、例えば、アミド基、硫酸基、スルホン酸基、カルボン酸基、水酸基、アミノ基、アミド基、オキシエチレン基等、公知の親水性基が挙げられる。
【0032】
親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリルアミド、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体((メタ)アクリロイルモルホリン等)、などが挙げられる。
【0033】
他のモノマーは、親水性ポリマーの作用効果を阻害しない範囲内で適宜選択すれば良い。例えば、スチレン等の芳香族モノマー、酢酸ビニル、温度応答性を付与できるN−イソプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0034】
なかでも、親水性ポリマーとしては、下記式(I)で表されるポリマー及びポリ(メタ)アクリロイルモルホリンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【化3】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基、R
2はアルキル基を表す。mは1〜5、nは繰り返し数を表す。)
【0035】
R
2のアルキル基の炭素数は、1〜10が好ましく、1〜5がより好ましい。なかでも、R
2は、メチル基又はエチル基が特に好ましい。mは、1〜3が好ましい。n(繰り返し単位数)は、15〜1000が好ましく、30〜500がより好ましい。
【0036】
また、親水性ポリマーとして、下記式(I−1)で表される化合物及び(メタ)アクリロイルモルホリンからなる群より選択される少なくとも1種の親水性モノマーと、他のモノマーとの共重合体も好適に使用できる。
【化4】
(式中、R
1、R
2、mは前記と同様。)
【0037】
親水性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、がん細胞に対する選択的吸着性・接着性の観点から、好ましくは4000〜150000、より好ましくは5000〜100000、更に好ましくは8000〜50000である。なお、本明細書において、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0038】
本発明の医療用検査装置は、例えば、
図1〜3の複数のウェル11を備えたマルチウェルプレート1、更に必要に応じて他の部材(部品)を付加することにより、製造できる。
【0039】
具体的には、親水性ポリマー層21が形成されたマルチウェルプレート1の場合、(1)親水性ポリマーを各種溶剤に溶解・分散した親水性ポリマー溶液・分散液を、ウェル11の内部に注入し、所定時間保持する方法、(2)該親水性ポリマー溶液・分散液をウェル11の内面に塗工(噴霧)する方法、等、公知の手法により、ウェル11の内面の全部又は一部に親水性ポリマー溶液・分散液をコーティングすることで、親水性ポリマーにより形成されるポリマー層が形成されたマルチウェルプレート1を製造できる。そして、得られたマルチウェルプレート1に、必要に応じて他の部品を追加することで、医療用検査装置を製造できる。
【0040】
溶剤、注入方法、塗工(噴霧)方法などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。
(1)、(2)の保持時間は、ウェル11の大きさ、導入する液種、等により適宜設定すれば良いが、5分〜10時間が好ましく、10分〜5時間がより好ましく、15分〜2時間が更に好ましい。保持後、適宜、余分な親水性ポリマー溶液・分散液を排出し、乾燥してもよい。
【0041】
本発明の細胞検査方法は、前述の医療用検査装置の複数のウェルに同一の検査用血液又は体液を導入してがん細胞を捕捉させた後、該複数のウェルの少なくとも1個を該検査用血液又は体液中のがん細胞数の計測に供する方法である。従って、複数のウェルをがん細胞数計測用、がん細胞培養用として分離利用でき、がん細胞の計測に供していないウェルでがん細胞の培養を行い、増加させたがん細胞で薬剤の効き目を確認することも可能である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて、2−メトキシエチルアクリレートを80℃で6時間熱重合し、ポリ2−メトキシエチルアクリレートを作製した(分子量Mn:約15000、Mw:約50000)。そして、得られたポリ2−メトキシエチルアクリレートの2.5W/V%メタノール溶液を作製した。
3個のウェルを有するポリスチレン製検査装置に、作製したポリ2−メトキシエチルアクリレート溶液(2.5W/V%)を注入し、30分室温放置した後、液をピペットで吸出し、乾燥することで、
図3の親水性ポリマー層が形成されたマルチウェルプレートを有する検査装置を作製した(ポリ2−メトキシエチルアクリレート層:88nm)。
【0044】
〔がん細胞数の計測・がん細胞の培養〕
線維肉腫(HT−1080)を剥離液を用いて懸濁させ、一部をPBS溶液(リン酸緩衝生理食塩水)に混濁させて、細胞数を血球計測管でカウントした後、この値を用いて、血液に線維肉腫(HT−1080)の入った剥離液を混濁させた。このとき、播種密度(濃度)が2850cells/cm
2に計算上なるように血液を混濁させた。
この血液を用いて、検査装置の各ウェルに1mlずつ注入し、37℃で1時間接着させた。その後、PBS溶液で未接着の細胞を洗浄した。ウェルを切り離し、2個のウェルを用いて、免疫染色を行い、蛍光顕微鏡でがん細胞数をカウントした。ウェル1では1560cells/cm
2のHT1080細胞がカウントされた。ウェル2では1380cells/cm
2のHT1080細胞がカウントされた。
このため、切り離したウェル3に培地を入れて、37℃で2日培養した。細胞のかなりの増殖が見られ、コロニーの形成が確認できた。
【0045】
従って、本検査装置を用いることで、血液・体液中からがん細胞を選択的に捕捉し細胞数を計測できること、がん細胞にダメージを与えることなく捕捉したがん細胞を培養できること、培養細胞を用いて抗がん剤等の投与前に体外での薬の効き目の確認や薬の選定をすること、が可能になることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0046】
1 医療用検査装置(マルチウェルプレート)
11、11a、11b、11c ウェル
11ax、11bx、11cx がん細胞
21 親水性ポリマー層