(54)【発明の名称】バナジウムの回収方法、及びレドックス・フロー電池用電解液の製造方法、並びにバナジウムの回収装置、及びレドックス・フロー電池用電解液の製造装置
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケル、コバルト、マンガン、パラジウム、白金、銅及び亜鉛から選択される1種類以上の2価又は3価金属と、バナジウムと、を少なくとも含有する金属混合物からバナジウムを回収するバナジウムの回収方法であって、
前記金属混合物を酸で浸出させて浸出液を得る酸浸出工程と、
前記浸出液にアンモニア性アルカリ水溶液を加えてpHを10〜12に調整し、前記2価又は3価金属イオンのアンミン錯体と、4価及び/又は5価のバナジウムイオンのアニオン錯体とをアルカリ水溶液中に生成させる錯体生成工程と、
前記アンミン錯体と前記アニオン錯体とが生成した前記アルカリ水溶液にカルボキシル基を有する担体を加えて、前記担体に前記アンミン錯体中の前記2価又は3価金属イオンを選択的に吸着させて前記2価又は3価金属イオンを回収する2価又は3価金属回収工程と、
前記2価又は3価金属イオンの回収後の前記アルカリ水溶液に含まれる前記アニオン錯体からバナジウムを回収するバナジウム回収工程と、
を有することを特徴とするバナジウムの回収方法。
前記バナジウム回収工程が、前記アルカリ水溶液のpHを8〜9.5に調整して前記アニオン錯体を沈殿させてろ過分離し、空気中で加熱焙焼して酸化バナジウムを回収する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のバナジウムの回収方法。
前記バナジウム回収工程が、前記アルカリ水溶液のpHを8〜9.5に調整して前記アニオン錯体を沈殿させてろ過分離し、窒素雰囲気下で前記アニオン錯体のアンモニア成分が揮発するまで加熱し、硫酸を加えて4価及び/又は5価の硫酸バナジウムを回収する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のバナジウムの回収方法。
ニッケル、コバルト、マンガン、パラジウム、白金、銅及び亜鉛から選択される1種類以上の2価又は3価金属と、バナジウムと、を少なくとも含有する金属混合物からバナジウムを回収するバナジウムの回収装置であって、
前記金属混合物を酸で浸出させて浸出液を得る酸浸出手段と、
前記浸出液にアンモニア性アルカリ水溶液を加えてpHを10〜12に調整し、前記2価又は3価金属イオンのアンミン錯体と、4価及び/又は5価のバナジウムイオンのアニオン錯体とをアルカリ水溶液中に生成させる錯体生成手段と、
前記アンミン錯体と前記アニオン錯体とが生成した前記アルカリ水溶液にカルボキシル
基を有する担体を加えて、前記担体に前記アンミン錯体中の前記2価又は3価金属イオンを選択的に吸着させて前記2価又は3価金属イオンを回収する2価又は3価金属回収手段と、
前記ろ過分離後の前記アルカリ水溶液に含まれる前記アニオン錯体からバナジウムを回収するバナジウム回収手段と、
を有することを特徴とするバナジウムの回収装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のバナジウムの回収方法、及びレドックス・フロー電池用電解液の製造方法、並びにバナジウムの回収装置、及びレドックス・フロー電池用電解液の製造装置について図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【0019】
1.バナジウムの回収方法
図1は、本発明の一実施形態に係るバナジウムの回収方法の処理フロー図である。なお、この図では、担体の一種である褐炭を使用した例を記載している。
本発明の金属混合物の選択的なバナジウムの回収方法は、例えば、常圧又は減圧蒸留残油となる焼却ボイラ灰、部分酸化灰、石油コークス灰、オイルサンドの残渣灰、各種化学反応触媒の廃触媒、産業廃棄物、廃液などに含有するバナジウム、ニッケル、鉄、マグネシウムなどの複数金属の混合物に適用可能である。
【0020】
例えば、石油精製からの廃触媒は、石油精製時に硫黄分を取り除くために水素とともに添加される触媒の廃棄物である。触媒は銅、亜鉛、パラジウム、白金などを成分とするが、重油にバナジウムやニッケルなどが含まれるので、廃触媒にはバナジウム、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、パラジウム、白金、鉄、リン、硫黄などが含まれる。一般に、これらの金属は、硫化物として多く含まれる。
【0021】
また、バナジウムスラグは、磁鉄鉱を焼成する際に生じるスラグであり、バナジウム、マンガン、アルミニウム、鉄、チタン、ケイ素、カルシウム、リンなどが含まれる。一般に、これらの金属は、酸化物として多く含まれる。
【0022】
また、金属混合物の他の例としては、前述のような残渣灰などから得られるものを挙げることができる。このような金属混合物には、ニッケルとバナジウムの他に、鉄、マグネシウム、モリブデン、コバルト、マンガン、チタンなどを含むものがある。本実施形態の金属混合物は、一例としてバナジウム、ニッケル、鉄、マグネシウムからなり、この混合物からニッケル及びバナジウムを選択的に回収する方法について以下説明する。
【0023】
(加熱酸化工程)
はじめに、金属混合物を乾燥させて水分を除去し、焙焼して余分な油分、炭素成分を除去して加熱酸化処理を行う(ステップ1)。焙焼は、金属混合物中に含まれる金属が十分に酸化する条件であれば特に制限はないが、例えば、空気中において800〜1000℃、数十分〜数時間の条件で行うことができる。なお、ステップ1の工程において、バナジウムの酸化物は主に5価のV
2O
5が生成するようにしている。
【0024】
(酸浸出工程)
次に、金属混合物に酸を加えて金属を溶解させる。金属混合物に加える酸としては、例えば硫酸、塩酸、硝酸などを挙げることができるが、溶解性の高さから硫酸又は硝酸が好ましい。添加する酸の濃度は、金属混合物中に含まれる金属や不純物の種類等に応じて適宜決定することができるが、例えば酸として硫酸を使用する場合、その濃度は10〜80wt%の範囲内が好ましい。酸浸出は、還元剤存在下で行うことが好ましい。還元剤としては、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸ガス、ヒドラジン、過酸化水素、澱粉などを挙げることができる。
【0025】
酸浸出条件としては、特に制限はないが、100〜250℃、数十分〜数時間の条件とすることができる。酸浸出後は、浸出液をろ過して固形分を除去し、ろ液を得る。ろ過方法としては、特に制限はないが、沈降、沈殿分離などを挙げることができる。
【0026】
この工程において、バナジウムは4価及び/又は5価(4価を主とする)化合物として溶解している(ステップ2)。なお、ステップ2の工程は、少なくともニッケルとバナジウムを含む金属混合物が酸性溶液に溶解していればよく、この金属混合物が溶解している酸性溶液の種類及び濃度は問わない。
【0027】
(錯体生成工程)
次に、得られたろ液(浸出液)にアンモニア性アルカリ水溶液を加えてpHを調整することで、ニッケルとバナジウムのそれぞれの錯体を生成させる(ステップ3)。アンモニア性アルカリ水溶液としては、例えばアンモニア水(水酸化アンモニウム(NH
4OH))を挙げることができる。添加するアンモニア水の濃度としては、後述する錯体が十分に生成すれば特に制限はないが、15〜35質量%の範囲内が好ましく、20〜30質量%の範囲内がより好ましい。また、本工程では、pHを10〜12の範囲内に調整するが、10〜11の範囲内に調整することがより好ましい。pHが10〜12の範囲内に調整することで、後述する錯体を十分に生成させることができる。pHの調整は、アンモニア水の添加によって行うことができる。
【0028】
このアルカリ水溶液をろ過分離してろ過沈殿物とろ液とを分ける(ステップ4)。ろ過沈殿物は、水酸化鉄、水酸化マグネシウムなどの水酸化物で、コロイド状の固形成分である(ステップ5)。この工程で、鉄とマグネシウムが金属混合物から分離される。なお、水酸化マグネシウムの一部はアルカリ水溶液中にアンモニア錯体を形成しないで溶解する。
【0029】
一方、得られたろ液はアルカリ水溶液で、2価のニッケルイオンのアンミン錯体と、4価及び/又は5価のバナジウムイオンのアニオン錯体とを含んでいる(ステップ6)。2価のニッケルイオンのアンミン錯体としては、一例として、(NH
4)
2Ni(SO
4)
2などが挙げられ、4価のバナジウムイオンのアニオン錯体としては、一例として、(NH
4)
2V
2(OH)
6(SO
4)
2などが挙げられる。
【0030】
(ニッケル回収工程)
このアルカリ水溶液にカルボキシル基を有する担体を添加して所定時間撹拌し、アンミン錯体中のニッケルイオンと担体中のカルボキシル基とのイオン吸着(イオン交換)反応によりニッケルイオンを吸着させる(ステップ7)。カルボキシル基がニッケルイオンを吸着するメカニズムは、以下の式に示す反応によるものと推測できる。
2COOH + Ni
2+ → COO−Ni−OOC+2H
+
【0031】
カルボキシル基を有する担体としては、アンミン錯体中にニッケルとイオン吸着反応をするものであれば特に限定されない。このような担体として、人工的に合成したイオン交換樹脂や天然のイオン吸着担体などを挙げることができる。
【0032】
なお、担体に吸着したニッケルを回収する際に、担体ごと燃焼させてニッケルの酸化物として回収することが、ニッケルの回収効率やニッケルの再生などの観点から好ましい。この点から、担体としては、炭素、水素、酸素を主成分とするものが好ましい。このような担体であれば、燃焼によって二酸化炭素と水が生成し、これらは炭酸ガスや水蒸気などの気体として除去することができ、固体の酸化ニッケルのみを効率よく回収できるためである。なお、ここでいう炭素、水素、酸素を主成分とするとは、担体の全質量に対する炭素、水素、酸素の合計質量が95%以上のものとして定義することができ、残部は微量元素として窒素、硫黄などを含んでいてもよい。また、担体中に含まれる炭素、水素、酸素の割合は、好ましくは98%以上であり、より好ましくは99%以上である。
【0033】
このような炭素、水素、酸素を主成分とする担体としては、天然の石炭などを挙げることができる。さらに、石炭としては、安価かつ入手が容易であるなどの観点から、炭素含有量の比較的少ない低品位炭が好ましい。低品位炭としては、例えば、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭を挙げることができる。
【0034】
ここで、亜瀝青炭としては、日本産の太平洋炭、アメリカ産のバックスキン炭、オーストラリア産のタニトハルム炭などを挙げることができる。また、褐炭としては、オーストラリア産のロンヤン褐炭、ロシア産のカンスク・アチンスク褐炭、ドイツ産のフォーチュナ褐炭、インドネシア産の褐炭などを挙げることができる。低品位炭のなかでは、安価・入手容易などの理由のほか、カルボキシル基を多く含み金属イオンの吸着能が高い、炭素含有量が多く燃焼しやすいなどの点から、褐炭が特に好ましい。
【0035】
このような褐炭は、灰分が多い場合には1%未満の脱灰処理を行い、粉砕して45〜75μmに粒度調整したものを用いている。これにより、ニッケルの吸着表面積を確保することができる。また、褐炭の燃焼工程でニッケルを回収する際の余分な灰分を少なくすることができる。
【0036】
また、褐炭の添加量は、金属担持率を高くしてニッケルを効率よく回収する観点から、後述する実施例に記載するように、ニッケルの2.0mmol以上に対して、褐炭1gとなるように加えることが好ましい。このような割合で褐炭を添加することで、ニッケルの担持率が8%程度の高い吸着性を示し、回収効率を高くすることができる。
【0037】
また、アルカリ水溶液のpHは、10〜12の範囲、より好ましくは10〜11の範囲が好ましい。上記のpHが10〜12の範囲内であると、ニッケルイオンの褐炭への吸着がバナジウムの吸着よりも優先的に生じ、バナジウムとニッケルの混合溶液中から圧倒的にニッケルイオンを選択的に回収することができる。
【0038】
次に、アルカリ水溶液をろ過分離する(ステップ8)。沈殿物となるニッケルイオンを吸着した担体を洗浄・乾燥させる(ステップ9)。ニッケルイオンを吸着した担体からのニッケルの抽出は、担体ごと燃焼させる(ステップ10)。これにより、ニッケルを酸化ニッケル(NiO/NiO
2)として回収することができる。なお、ステップ9の工程において、ニッケルイオンが吸着した担体に硫酸などの酸性溶液を加えて洗浄すると硫酸ニッケルが生成する。この硫酸ニッケルを回収することもできる。また、洗浄された担体は、吸着材として再利用することもできる。
【0039】
(バナジウム回収工程)
一方、得られたろ液(アルカリ水溶液)には、4価を主とするバナジウムイオンのアニオン錯体が溶解している。このアルカリ水溶液に、酸性溶液を加えてpHを8〜9.5に調整する(ステップ11)。なお酸性溶液は、例えば硫酸を用いることができる。これにより、4価を主とするバナジウムイオンのアニオン錯体が析出して沈殿する(ステップ12)。
【0040】
アルカリ水溶液をろ過分離して得られたコロイド状沈殿物は、4価を主とするバナジウムイオンのアニオン錯体であり、空気中で、乾燥させて水分除去し、例えば500℃以上での加熱で順次アンモニアイオンと硫酸イオンを解離させ、更なる焙焼酸化処理を行うことにより、バナジウムを酸化バナジウム(V
2O
5)として回収することができる(ステップ13)。なお、アニオン錯体を分離させた後の水溶液に石灰を添加してアンモニアガスを回収し、水酸化アンモニウムを生成して前述のステップ3のpH調整に再利用することができる。一方、硫酸イオンは、硫酸カルシウムとして沈殿させて回収することができる。
【0041】
なお、上記の担体で吸着できるニッケル以外の金属としては、1価〜3価の金属イオンであってアンモニア性アルカリ水溶液の添加によってアンミン錯体を形成する金属を挙げることができる。このような金属としては、例えば、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルビジウム(
Rb)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)等を挙げることができる。また、このような金属を含む化合物としては、上記金属の酸化物や硫化物などを挙げることができる。
【0042】
図2は、各種金属イオンの褐炭への吸着量を示すグラフであり、(a)は褐炭への吸着量を示すグラフであり、(b)は金属の原子量と褐炭への吸着量との関係をプロットしたグラフである。
図2(a)において、バナジウム(4価及び/又は5価)以外はいずれも1価〜3価の金属イオンであるが、いずれもバナジウムよりも褐炭への吸着量が多いことがわかる。このことから、褐炭を吸着剤として使用することで、これらの金属イオンとバナジウムとを選択的に分離できることがわかる。
【0043】
また、
図2(b)において、1価〜3価の金属イオンは、原子量が小さくなるほど、褐炭への吸着量が多くなることがわかる。このことから、特にコバルト、ニッケル、亜鉛、銅といった原子量の比較的小さい金属イオンほど褐炭への吸着量が多く、バナジウムとの選択分離性が良好であることがわかる。
【0044】
図2に示した金属以外についても、アンミン錯体を形成させて担体に吸着させることで、バナジウムと分離することができる。例えば、マンガン(Mn)は、2価の金属イオンであるが、マンガンは原子量が55と比較的小さいため、
図2(b)より褐炭への吸着は良好であることが推測される。
【0045】
また、金属によっては、褐炭を用いた方法以外の方法で分離除去できる。例えばジルコニウム(Zr)場合、硫酸に可溶であるが、錯体を形成しないので、アンモニアを添加することで、pH8〜9で水酸化物を形成して沈殿する。これを分離することで、ジルコニウムを除去することができる。具体的には、酸化ジルコニウム(ZrO
2)を過剰熱濃硫酸に溶解させると、水溶性の硫酸ジルコニウム(Zr(SO
4)
2)を生成する。次に、硫酸ジルコニウムとアンモニア水とを反応させると、以下の反応によりコロイド状の白色沈殿を生成する。これにより、ジルコニウムとバナジウムとが混合していても、ジルコニウムを分離することができる。
Zr(SO
4)
2+4NH
4OH→Zr(OH)
4+2(NH
4)
2SO
4
【0046】
[変形例1]
図3は変形例1のバナジウムの回収方法の処理フロー図である。なお、
図3は、
図1のステップ12の工程後から示しており、それ以前のステップは
図1と同一の工程であり、詳細な説明を省略する。
図3において、ステップ12の工程後、沈殿物には、4価を主とするバナジウムイオンのアニオン錯体が主成分となっている。
【0047】
この沈殿物を窒素(N
2)雰囲気下で加熱する(ステップ20)。400℃までの加熱で順次、アニオン錯体中のアンモニアイオン(NH
4)と一部の硫酸イオン(SO
4)が揮発されて、バナジウムイオンと硫酸イオンが混合した状態となる。
次にこの混合物に硫酸(H
2SO
4)を添加する(ステップ21)。硫酸が加わることによって、硫酸バナジウム(VOSO
4)が生成し回収することができる。
なお、アニオン錯体を分離させた後の水溶液に石灰を添加してアンモニアガスを回収し、水酸化アンモニウムを生成して前述のステップ3のpH調整に再利用することができる。一方、硫酸イオンは、硫酸カルシウムとして沈殿させて回収することができる。
【0048】
[変形例2]
図4は変形例2のバナジウムの回収方法の処理フロー図である。
前述のような残渣灰などから得られる金属混合物を所定の大きさに粉砕し、炭酸ソーダ(Na
2CO
3)を加えて所定温度でソーダ焙焼を行う(ステップ100)。
【0049】
ソーダ焙焼後、冷却して純水を加え撹拌する(ステップ110)。バナジン酸ナトリウム(NaVO
3)が溶解し、不溶性の硫黄化ニッケル(NiS)、酸化ニッケル(NiO)、その他の酸化金属が沈殿する。
水溶液をろ過分離し(ステップ120)、沈殿物となるバナジウム以外の金属混合物に酸性溶液、例えば熱硫酸を加えて溶解させて、不溶の不純物をろ過分離する(ステップ130)。
【0050】
得られたろ液に水酸化アンモニウム(NH
4OH)を加えてpHを10〜12、より好ましくはpH10〜11に調整する(ステップ140)。
このアルカリ水溶液をろ過分離する(ステップ150)。ろ過沈殿物は、水酸化鉄、水酸化マグネシウムなどの水酸化物である(ステップ160)。
【0051】
一方、得られたろ液に含有されている金属は、2価のニッケルイオンのアンミン錯体のみとなる(ステップ170)。
このアルカリ水溶液に担体を添加して所定時間撹拌し、アンミン錯体中のニッケルイオンと担体中のカルボキシル基とのイオン吸着反応によりニッケルイオンを吸着させる(ステップ180)。
次に、アルカリ水溶液をろ過分離して、沈殿物となるニッケルイオンを吸着した担体を、洗浄・乾燥させる(ステップ190)。ニッケルイオンを吸着した担体からのニッケルの抽出は、担体ごと燃焼させる。これにより、ニッケルを酸化ニッケル(NiO/NiO
2)として回収することができる(ステップ200)。なお、ステップ190の工程において、ニッケルイオンを吸着した担体に硫酸などの酸性溶液を加えて洗浄すると硫酸ニッケルが生成する。この硫酸ニッケルを回収することもできる。また、洗浄された担体は吸着剤として再利用することもできる。
【0052】
前述のバナジン酸ナトリウムの水溶液に過剰の硫酸を加えて(ステップ300)、酸化バナジウム(V
2O
5)を析出させて脱水・乾燥させる(ステップ310)。なお硫酸ナトリウムを含む硫酸水溶液は石灰等により中和処理する。
【0053】
このような本発明のバナジウムの回収方法によれば、常圧又は減圧蒸留残油などに含有する複数の有価金属の中から常温でアルカリ水溶液のpH調整と担体の添加という簡易な作業でバナジウムを分離して効率的に回収することができる。
また、2価のニッケルイオンのアンミン錯体と4価を主とするバナジウムイオンのアニオン錯体が生成したアルカリ水溶液のpHが10〜12、より好ましくはpHが10〜11の範囲において、2価の金属イオンであるニッケルイオンを選択的に担体に吸着させて回収することができる。
【0054】
2.レドックス・フロー電池用電解液の製造方法
本発明のレドックス・フロー電池用電解液の製造方法は、上述したバナジウムの回収方法に加えて、当該方法で回収したバナジウムをレドックス・フロー電池用の電解液の原料とする。レドックス・フロー電池用電解液としては、正極側は酸化硫酸バナジウム(IV)を、負極側は硫酸バナジウム(II)を使用することができる。レドックス・フロー電池用電解液中に含まれるバナジウムの濃度は、特に制限はないが、正極側、負極側いずれも、例えば0.1mol/l〜10mol/lの範囲内、好ましくは1〜3mol/lの範囲内とすることができる。
【0055】
正極側の電解液の原料である硫酸バナジウム(IV)の製造方法としては、例えば
図3のステップ21で得られたVOSO
4をそのまま使用することができる。また、負極側の電解液の原料である硫酸バナジウム(II)の製造方法としては、例えば、
図1のステップ13で得られたV
2O
5からメタバナジン酸アンモニウムを生成し、窒素ガス雰囲気下にて高温で分解して酸化物(V
2O
3)とする。次に、得られた酸化物に対して、高圧反応法や大気圧法で硫酸バナジウム(II)を得る方法である。高圧反応法は、例えば、250℃、40気圧の条件下で5〜40%濃硫酸をV
2O
3に添加して溶解析出させて硫酸バナジウム(II)を得る方法である。一方、大気圧法は、例えば、250℃、大気圧の条件下で80%濃硫酸をV
2O
3に添加して溶解析出させ、その後に50%未満の希硫酸に溶解させることで硫酸バナジウム(II)を得る方法である。
【0056】
3.バナジウムの回収装置
また、本発明のバナジウムの回収装置は、上述する回収方法を実施するための装置として構成することができる。本発明のバナジウムの回収装置は、一例として、酸浸出槽、錯体生成槽、ニッケル回収槽、バナジウム回収槽を備える回収システム(プラントなど)として構成することができる。
【0057】
酸浸出槽は、バナジウムを少なくとも含有する金属混合物を酸で浸出させて浸出液を得るための手段であり、本発明の酸浸出手段に相当する。酸浸出槽では、上述したステップ2で説明した方法で酸浸出を行う。
【0058】
錯体生成槽は、酸浸出槽で得られた浸出液にアンモニア性アルカリ水溶液を加えてpHを10〜12に調整し、2価のニッケルイオンのアンミン錯体と4価及び/又は5価のバナジウムイオンのアニオン錯体とをアルカリ水溶液中に生成させるための手段であり、本発明の錯体生成手段に相当する。錯体生成槽では、上述したステップ3〜7で説明した方法で錯体を生成させる。
【0059】
ニッケル回収槽は、アンミン錯体とアニオン錯体とが生成したアルカリ水溶液にカルボキシル基を有する担体を加えて、担体にアンミン錯体中のニッケルイオンを選択的に吸着させてニッケルイオンを回収する手段であり、本発明のニッケル回収手段に相当する。ニッケル回収槽では、上述したステップ7〜10で説明した方法でニッケルを回収する。
【0060】
バナジウム回収槽は、ろ過分離後の前記アルカリ水溶液に含まれる前記アニオン錯体からバナジウムを回収する手段であり、本発明のバナジウム回収手段に相当する。バナジウム回収槽では、上述したステップ11〜13で説明した方法でバナジウムを回収する。
【0061】
4.レドックス・フロー電池用電解液の製造装置
本発明のレドックス・フロー電池用電解液の製造装置は、上述したバナジウムの回収装置で得られたバナジウムをレドックス・フロー電池用電解液の原料とする。すなわち、本発明の製造装置は、バナジウム回収装置で回収したバナジウムから、上記「2.レドックス・フロー電池用電解液の製造方法」に記載した方法で電解液を製造する手段を有する。
【0062】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。
【0063】
1.実験例1(褐炭のニッケル吸着性評価)
<実施例1>
(1)褐炭の調製
豪州産Loy−Yang褐炭(LY褐炭)を用意し、45〜75μmに篩分けした。得られた褐炭を工業分析及び元素分析した。その結果を表1に示す。
【0065】
(2)サンプル(模擬廃触媒)の調製
酸化ニッケル(NiO)、酸化バナジウム(V
2O
5)、酸化鉄(Fe
2O
3)(いずれも和光純薬工業製)をそれぞれ33.3wt%ずつとなるように乳鉢に入れ、水を添加しつつ混練した。混練物を団子状にした後、乾燥、粉砕して45〜75μmとなるように整粒して模擬触媒を調整した。混合物量を変えて、褐炭1gあたりのニッケル金属量が0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0mmolのサンプル6種類を用意した。
【0066】
(3)浸出・アルカリ処理
得られた模擬廃触媒1.4gに3M硫酸50mlを添加し、300rpm、80℃、4時間でスタラーして浸出した。その後、28%アンモニア水120mlを添加し、pHを10.5に調整した。沈殿物を濾過して水酸化鉄(Fe(OH)
3)を除去して担持液を得た。
【0067】
(4)褐炭による担持
LY褐炭5gと担持液150mlとを混合し、1時間撹拌した。褐炭を吸引ろ過・洗浄し、窒素ガス雰囲気下で107℃、12時間熱真空乾燥した。得られた金属担持褐炭をマッフル炉にて空気存在下で815℃、1時間燃焼させて灰化した。
【0068】
(5)分析及び結果
上記で得られた燃焼灰をエネルギー分散型蛍光X線(島津製作所製:EDX−700/800)で定量分析した。その結果を
図5に示す。
【0069】
図5は褐炭1gあたりのイオン吸着対象液に含まれる金属量[mmol/g]と金属担持率[%]の関係を示すグラフである。同グラフは、褐炭1gあたりのアンモニア性アルカリ水溶液中に含まれる各ニッケル金属量0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0mmolに対する金属担持率[%]をプロットしたものである。この図では、X軸にニッケル金属量(mmol/g)、Y軸に吸着ニッケル金属量の対褐炭比率(wt%)をプロットしてグラフ化している。その結果、ニッケルのアンモニア性アルカリ水溶液の0.5〜2.0mmol/gの範囲で金属担持率は増加し、2.0mmol/g以上で金属担持率が約8.8%で収束している。このため、ニッケルの2.0mmol/g以上に対して、褐炭1gを加えると良いことがわかる。
【0070】
2.実験例2(ニッケル、バナジウム混合液からニッケルの回収)
(1)実施例2(ニッケル・バナジウム混合系)
褐炭1gあたりのニッケル金属量が3mmolのサンプルAを実験例1と同様に調整した。試薬とし硝酸ニッケル(II)六水和物(和光純薬工業製)を使用し、実験例1と同様にイオン交換水を添加して溶解させた。また、褐炭1gあたりのバナジウム金属量が3mmolのサンプルBを用意した。詳細には、試薬として塩化バナジウム(III)六水和物(三津和化学製)を使用し、実験例1と同様にイオン交換水を添加して溶解させた。
【0071】
次に、サンプルAとサンプルBを1:1(重量比)で混合し、過剰H
2O
2の存在下で300mlのイオン交換水に常温で溶解させた(実施例2)。次に、「1.実験例1」の(4)「褐炭による担持」及び(5)「分析及び結果」と同様の手順で褐炭に金属を吸着させ、ニッケルとバナジウムの担持率をそれぞれ測定した。その結果、ニッケルの担持率は5.1%、バナジウムの担持率は0.0056%であった。得られたニッケルの担持率とバナジウムの担持率から、ニッケルとバナジウムの吸着率をそれぞれ計算した。その結果を表2に示す。数値の単位は原子量(mol%)である。
ニッケル吸着率=[ニッケル担持率/(ニッケル担持率+バナジウム担持率)]×100
バナジウム吸着率=[バナジウム担持率/(ニッケル担持率+バナジウム担持率)]×100
【0072】
(2)比較例1(ニッケル、バナジウム単一金属系)
サンプルA(ニッケル)のみについて300mlのイオン交換水に常温で溶解させた。また、サンプルB(バナジウム)のみについて、過剰H
2O
2の存在下で300mlのイオン交換水に常温で溶解させた。次に、サンプルA、サンプルBの溶解液に対して、それぞれ「1.実験例1」の「(4)褐炭による担持」及び「(5)分析及び結果」と同様の手順で褐炭に金属を吸着させて担持率を測定した。その結果、サンプルA(ニッケル)の担持率は5.1%、サンプルB(バナジウム)の担持率は0.3%であった。次に、得られたサンプルA、サンプルBの担持率の結果から、両サンプルを単純に混合したと仮定したときのニッケルとバナジウムの吸着率の比較値を下記の式により算出した。その結果を表2に示す。数値の単位は原子量(mol%)である。
ニッケル吸着率(比較値)=[サンプルAのニッケル担持率/(サンプルAのニッケル担持率+バサンプルBのナジウム担持率)]×100
バナジウム吸着率(比較値)=[サンプルBのバナジウム担持率/(サンプルAのニッケル担持率+サンプルBのバナジウム担持率)]×100
【0074】
この結果から、ニッケルのみ、バナジウムのみの単一金属系でそれぞれの金属を褐炭に吸着させたときのニッケル吸着率(比較例1)よりも、ニッケルとバナジウムの混合系でのニッケル吸着率(実施例2)のほうが、値が高いことがわかる。すなわち、単一金属系でのニッケル吸着率の比較値よりも、混合金属系で求めたニッケル吸着率のほうが高い。これは、ニッケルとバナジウムを混合することで、ニッケルのほうがバナジウムよりも選択的に褐炭に吸着したことを示している。これにより、ニッケルとバナジウムを共存させた場合、それぞれが単独の場合と比較して、よりニッケルを優先的に吸着させて、選択的に回収することが可能であることがわかった。
【0075】
また、上述したように、実験例1の硫酸ニッケル(II)におけるニッケルの担持率は8.8%、硝酸ニッケル(II)におけるニッケルの担持率は5.1%であった。この結果から、2価の金属の硫酸塩と硝酸塩の担体への吸着率は、ともに5%以上と高いことがわかった。