特許第6779511号(P6779511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779511
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20201026BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20201026BHJP
【FI】
   H01M10/36 Z
   H01M10/36 A
   H01M4/58
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-107001(P2016-107001)
(22)【出願日】2016年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-216041(P2017-216041A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】今西 誠之
(72)【発明者】
【氏名】山本 治
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−216200(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/073978(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0149267(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/13−4/62
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属リチウム、リチウムを主成分とするリチウム合金またはリチウムを主成分とするリチウム化合物からなる負極と、
リチウムイオン導電性を有し、前記負極に接触する有機電解液と、
集電体と、
前記集電体に接触し、亜鉛またはコバルトの塩を含む水溶液と、
リチウムイオン導電性を有し、前記有機電解液および前記水溶液の各々に接触し、前記負極および前記有機電解液を前記水溶液から隔て、前記有機電解液により前記負極から隔てられる固体電解質と、
を備えるリチウム二次電池。
【請求項2】
金属リチウム、リチウムを主成分とするリチウム合金またはリチウムを主成分とするリチウム化合物からなる負極と、
集電体と、
前記集電体に接触し、亜鉛またはコバルトの塩を含む水溶液と、
リチウムイオン導電性を有し、前記負極に対して安定であり、前記負極および前記水溶液の各々に接触し、前記負極を前記水溶液から隔てる固体電解質と、
を備えるリチウム二次電池。
【請求項3】
前記塩が塩化物である
請求項1または2のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及等のために、大きなエネルギー密度を有する二次電池の実現が期待されている。
【0003】
既に実用化されている二次電池の計算エネルギー密度は、最大で約400Wh/kgである。約400Wh/kgより大きいエネルギー密度を有する二次電池を実現するためには、新たな電池系の開発が必要である。
【0004】
新たな電池系の候補には、高い計算エネルギー密度を有するリチウム−空気電池およびリチウム−硫黄電池がある。しかし、リチウム−空気電池およびリチウム−硫黄電池のいずれも、解決すべき多くの課題を有し、実用化は遠いと考えられる。
【0005】
非特許文献1に記載された技術においては、Li/非水電解質/CuClという電池系が採用されている。当該電池系によれば、約1000Wh/kgという高いエネルギー密度が得られる。しかし、当該電池系においては、CuCl固相中のCu2+の拡散が遅く、高い出力密度を期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】土橋晋作(Shinsaku Dobashi)、他5名、「Li/CuCl2電池におけるLiPF6/ジフルオロ酢酸メチル電解質による自己放電の抑制(Suppression of Self-Discharge by a LiPF6/Methyl Difluoroacetate Electrolyte in Li/CuCl2 Batteries)」、ジャーナル・オブ・ザ・エレクトロケミカル・ソサエティ(Journal of The Electrochemical Society)、(米国)、2015年、第162巻、第14号、p.A2747-A2752
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決することを目的とする。本発明が解決しようとする課題は、大きなエネルギー密度を有する二次電池を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
リチウム二次電池は、負極、有機電解液、集電体、水溶液および固体電解質を備える。
【0009】
負極は、金属リチウム、リチウムを主成分とするリチウム合金またはリチウムを主成分とするリチウム化合物からなる。
【0010】
有機電解液および固体電解質の各々は、リチウムイオン導電性を有する。
【0011】
水溶液は、酸化数が変化しうる単原子イオンまたは多原子イオンを含む。
【0012】
有機電解液は、負極に接触する。水溶液は、集電体に接触する。固体電解質は、有機電解液および水溶液の各々に接触し、負極および有機電解液を水溶液から隔て、有機電解液により負極から隔てられる。
【0013】
固体電解質が負極に対して安定である場合は、有機電解液が省略され固体電解質が負極に接触することも許される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大きなエネルギー密度を有する二次電池が得られる。
【0015】
これらの及びこれら以外の本発明の目的、特徴、局面及び利点は、添付図面とともに考慮されたときに下記の発明の詳細な説明によってより明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態のリチウム二次電池を示す断面図である。
図2】第2実施形態のリチウム二次電池を示す断面図である。
図3】実験用のセルを示す分解斜視図である。
図4】溶質がZnClである場合に放電時の電流密度を段階的に変化させたときの電圧の変化を示すグラフである。
図5】溶質がZnClである場合の充放電時の電圧の変化を示すグラフである。
図6】溶質がCoClである場合の充放電時の電圧の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1 第1実施形態
図1は、第1実施形態のリチウム二次電池を示す模式図である。図1は、断面図である。
【0018】
図1に示されるリチウム二次電池100は、負極112、有機電解液層114、固体電解質層116、水溶液層118および集電体120を備える。
【0019】
有機電解液層114は、負極112に接触する。水溶液層118は、集電体120に接触する。固体電解質層116は、有機電解液層114および水溶液層118の各々に接触し、負極112および有機電解液層114を水溶液層118から隔てる。負極112、有機電解液層114、固体電解質層116、水溶液層118および集電体120は容器に収容され、液体の沸騰、液漏れ等に対する対策が行われる。
【0020】
負極112は、金属リチウムからなる。金属リチウムがリチウムを主成分とするリチウム合金またはリチウムを主成分とするリチウム化合物に置き換えられてもよい。リチウムと合金を形成する元素には、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀等がある。リチウム化合物には、一般式Li3−xNであらわされる化合物等がある。Mは、Co,Cu,Fe等である。
【0021】
有機電解液層114は、有機電解液からなる。有機電解液層114を構成する有機電解液は、100体積部のLiFSI−2G4溶液と50体積部の1,3−ジオキソランとの混合物である。LiFSI−2G4溶液は、1モル部のLiN(FSO(LiFSI)を2モル部のテトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)に溶解させたものである。有機電解液層114を構成する有機電解液は、リチウムイオン導電性を有し、負極112に対して安定であり、負極112の表面におけるデンドライトの成長を抑制する。LiFSIが他の種類のリチウム塩に置き換えられてもよい。例えば、LiFSIがLiPF,LiClO,LiBF,LiN(CFSO,LiN(CSO等に置き換えられてもよい。テトラエチレングリコールジメチルエーテルおよび1,3−ジオキソランが他の種類の有機溶媒に置き換えられてもよい。例えば、テトラエチレングリコールジメチルエーテルおよび1,3−ジオキソランが、G4以外のグライム類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル等に置き換えられてもよい。
【0022】
固体電解質層116は、固体電解質からなる。固体電解質層116を構成する固体電解質は、ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)型のLi1.4Al0.4Ge0.2Ti1.4(PO(LAGTP)である。固体電解質層116を構成する固体電解質は、リチウムイオン導電性を有し、水に対して安定である。しかし、固体電解質層116を構成する固体電解質は、負極112に対して安定でない。このため、固体電解質層116は、有機電解液層114により負極112から隔てられる。LAGTPが他の種類の固体電解質に置き換えられてもよい。例えば、LAGTPが一般式Li1+x+yAlTi2−x3−ySi12(LATP)であらわされる固体電解質に置き換えられてもよい。
【0023】
水溶液層118は、水溶液からなる。水溶液層118を構成する水溶液の溶質は、水に可溶であり、作動電位が高く、作動電位が水の電位窓に収まり、酸化数が変化しうる単原子イオンまたは多原子イオンを含む。溶質が金属塩である場合は、金属イオンと対をなすアニオンが軽いことが望まれ、金属イオンの価数が大きく変化することが望まれる。このため、水溶液層118を構成する水溶液の溶質は、例えばZnCl,CoClまたはNiClである。ZnCl,CoClおよびNiClの各々は、LiClとの共存下においても水に難溶な塩を生成しない。ZnClは、25℃において432g/100mlという大きな水への溶解度を有する。金属イオンと対をなすアニオンがやや重くなるが、塩化物であるZnClが他の種類の亜鉛の塩に置き換えられてもよい。例えば、ZnClがZnBr,ZnI,Zn(NO,ZnSO等に置き換えられてもよい。同様に、塩化物であるCoClが他の種類のコバルトの塩に置き換えられてもよい。例えば、CoClがCoBr,CoI,Co(NO,CoSO等に置き換えられてもよい。また、塩化物であるNiClが他の種類のニッケルの塩に置き換えられてもよい。例えば、NiClがNiBr,NiI,Ni(NO,NiSO等に置き換えられてもよい。
【0024】
集電体120は、電子伝導体からなる。電子伝導体は、金属、合金、炭素材料等からなる。溶質がZnClである場合は、集電体120がZnからなる電子伝導体であってもよいし、集電体120がZnからなる電子伝導体およびZn以外からなる電子伝導体の複合体であってもよいし、集電体120がZn以外からなる電子伝導体であってもよい。溶質がCoClである場合は、集電体120がCoからなる電子伝導体であってもよいし、集電体120がCoからなる電子伝導体およびCo以外からなる電子伝導体の複合体であってもよいし、集電体120がCo以外からなる電子伝導体であってもよい。溶質がNiClである場合は、集電体120がNiからなる電子伝導体であってもよいし、集電体120がNiからなる電子伝導体およびNi以外からなる電子伝導体の複合体であってもよいし、集電体120がNi以外からなる電子伝導体であってもよい。
【0025】
溶質がMClである場合は、リチウム二次電池100の構造によれば、Li/有機電解液/固体電解質/MCl水溶液/Mという電池図式で表現される電池系が実現される。MはZn,CoまたはNiである。実現される電池系においては、負極における放電時の電極反応がLi(s)→Li(aq)+eとなり、正極における放電時の電極反応がM2+(aq)+2e→M(s)となる。
【0026】
MがZnである場合は、Li/Liの標準電極電位とZn/Zn2+の標準電極電位との差から計算されるセル電圧が2.28Vとなり、計算重量エネルギー密度が815Wh/kgとなり、計算体積エネルギー密度が1681Wh/Lとなる。MがCoである場合は、Li/Liの標準電極電位とCo/Co2+の標準電極電位との差から計算されるセル電圧が2.77Vとなり、計算重量エネルギー密度が1032Wh/kgとなり、計算体積エネルギー密度が2295Wh/Lとなる。MがNiである場合は、Li/Liの標準電極電位とNi/Ni2+の標準電極電位との差から計算されるセル電圧が2.79Vとなり、計算重量エネルギー密度が1041Wh/kgとなり、計算体積エネルギー密度が3019Wh/Lとなる。これらの計算重量エネルギー密度および計算体積エネルギー密度は、それぞれリチウムイオン電池の計算重量エネルギー密度および計算体積エネルギー密度の2倍以上である。
【0027】
リチウム二次電池100においては、正極を大型化し正極の容量を増やすことが容易である。その理由としては、MClという水に溶解する正極が採用されるため、バインダーおよび導電材が不要になり、M2+およびLiの反応場への拡散が速くなることが挙げられる。これに対して、リチウムイオン電池においては、正極を大型化し正極の容量を増やすことが容易でない。
【0028】
2 第2実施形態
図2は、第2実施形態のリチウム二次電池を示す模式図である。図2は、断面図である。
【0029】
図2に示されるリチウム二次電池200は、負極212、固体電解質層216、水溶液層218および集電体220を備える。
【0030】
水溶液層218は、集電体220に接触する。固体電解質層216は、負極212および水溶液層218の各々に接触し、負極212を水溶液層218から隔てる。負極212、固体電解質層216、水溶液層218および集電体220は容器に収容され、液体の沸騰、液漏れ等に対する対策が行われる。
【0031】
第2実施形態のリチウム二次電池200に備えられる負極212、水溶液層218および集電体220は、それぞれ実施の形態1のリチウム二次電池100に備えられる負極112、水溶液層118および集電体120と同様のものである。
【0032】
固体電解質層216は、固体電解質からなる。固体電解質層216を構成する固体電解質は、ガーネット構造を有するLiLaZr12(LLZ)からなる。固体電解質層216を構成する固体電解質は、リチウムイオン導電性を有し、水に対して安定であり、負極212に対して安定であり、負極212により還元されない。LLZが負極212に対して安定である他の種類の固体電解質に置き換えられてもよい。
【0033】
第1実施形態のリチウム二次電池100と第2実施形態のリチウム二次電池200との相違は、リチウム二次電池100においては固体電解質層116を構成する固体電解質が負極112に対して安定でなく固体電解質層116が有機電解液層114により負極112から隔てられたが、リチウム二次電池200においては固体電解質層216を構成する固体電解質が負極212に対して安定であり固体電解質層216が負極212から隔てられない点にある。
【実施例】
【0034】
図3は、実験用のセルを示す模式図である。図3は、分解斜視図である。
【0035】
図3に示される実験用のセル300は、リチウムシート312、リング314、LAGTPフィルム316、リング318および締め付け機構320を備える。リチウムシート312、リング314、LAGTPフィルム316およびリング318は重ねあわされ、リチウムシート312、リング314、LAGTPフィルム316およびリング318を重ね合わせたものは締め付け機構320により締め付けられる。リング314の内部には有機電解液が注入される。溶質がMClである場合はリング318の内部にはZnCl,CoClまたはNiClの水溶液が注入される。これにより、実施の形態1のリチウム二次電池100が構成される。
【0036】
図4,5および6は、実験用のセルを用いて得られた測定の結果を示す。図4は、溶質がZnClである場合に電流密度を段階的に変化させたときの電圧の変化を示すグラフである。図5は、溶質がZnClである場合の充放電時の電圧の変化を示すグラフである。図6は、溶質がCoClである場合の充放電時の電圧の変化を示すグラフである。
【0037】
図4からは、溶質がZnClである場合は、電流密度が大きくなるにつれてセルの電圧が低下するが、電流密度が概ね2.0mA/cmまでは安定的に放電が可能であることを把握できる。
【0038】
図5からは、溶質がZnClである場合は充放電を正常に行うことができることを把握できる。
【0039】
図6からは、溶質がCoClである場合も充放電を正常に行うことができることを把握できる。
【0040】
本発明は詳細に示され記述されたが、上記の記述は全ての局面において例示であって限定的ではない。したがって、本発明の範囲からはずれることなく無数の修正及び変形が案出されうると解される。
【符号の説明】
【0041】
100,200 リチウム二次電池
112,212 負極
114 有機電解液層
116,216 固体電解質層
118,218 水溶液層
120,220 集電体
図1
図2
図3
図4
図5
図6