特許第6779535号(P6779535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779535
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】反射型断層撮影装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/203 20060101AFI20201026BHJP
【FI】
   G01N23/203
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-82455(P2019-82455)
(22)【出願日】2019年4月24日
(65)【公開番号】特開2020-180816(P2020-180816A)
(43)【公開日】2020年11月5日
【審査請求日】2020年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】河合 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤史
【審査官】 嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−175553(JP,A)
【文献】 特開平01−235839(JP,A)
【文献】 特表2016−501359(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0252825(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0104002(US,A1)
【文献】 特表2005−533245(JP,A)
【文献】 特開2018−200195(JP,A)
【文献】 特開2018−091669(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/159548(WO,A1)
【文献】 Development of Large-Area Charged Particle Detectors with High Position Resolution and Low Cost,2016 IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference,IEEE,2016年11月 1日,N29-48,doi: 10.1109/NSSMIC.2016.8069806
【文献】 分解能0.1mmの大面積γ線位置測定器の開発,科学研究費助成事業 2017年度実績報告書,日本,2018年12月17日,課題番号16H03969
【文献】 シンチレーションファイバーとPPDを用いた高性能荷電粒子測定器の開発,科学研究費助成事業 研究成果報告書,日本,2016年11月29日,課題番号15K13477
【文献】 Proposal of Gamma Rays Detector with Position Resolution of 0.1 mm,2017 IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference,IEEE,2017年10月21日,doi: 10.1109/NSSMIC.2017.8532618
【文献】 PROGRESS IN SEMICONDUCTOR DRIFT DETECTORS,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research,North-Holland Physics Publishing Division,1986年,A248,pp. 367-378,doi: 10.1016/0168-9002(86)91021-1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
G01T 1/00− 1/40
A61B 6/00− 6/14
G01V 5/00− 5/14
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
IEEE Xplore
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のγ線を測定対象物に照射するγ線発生源と、前記第1のγ線が透過するとともに前記測定対象物において散乱角度θで散乱した散乱γ線に関する情報を測定する第1の測定部と、を備え、前記第1の測定部は、前記γ線発生源と前記測定対象物との間に配置されている反射型断層撮影装置。
【請求項2】
測定対象物の方向に第1のγ線を出射し、前記測定対象物の反対側に第2のγ線を出射するγ線発生源と、前記γ線発生源から出射した前記第1のγ線が透過するとともに前記測定対象物において散乱角度θで散乱した散乱γ線に関する情報を測定する第1の測定部と、前記γ線発生源から出射した前記第2のγ線に関する情報を測定する第2の測定部と、前記第1の測定部が測定した物理量と前記第2の測定部が測定した物理量とに基づき前記測定対象物の物質密度分布を算出する物質密度分布算出部とを備え、前記第1の測定部は、前記γ線発生源と前記測定対象物との間に配置されている反射型断層撮影装置。
【請求項3】
前記γ線発生源を取り囲むように配置され、前記γ線発生源から前記第1のγ線及び前記第2のγ線と同時に出射する第3のγ線の発生時刻を測定することで前記第1のγ線の発生時刻を特定できる第3の測定部を有する請求項1又は2に記載の反射型断層撮影装置。
【請求項4】
前記第1の測定部、前記第2の測定部又は前記第3の測定部が、少なくともγ線が入射して発光するシンチレーターと、前記シンチレーターの側面に設けた測定素子とで構成された請求項3に記載の反射型断層撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断層撮影装置(computerized tomography;CT)に関し、より詳細には、土中・雪中などへの埋設物の探索装置、コンテナ・金属容器内の透視検査装置、乳がん診断など診断装置等に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、公知ではないが、例えば、下記特許文献1に断層撮影装置が記載されている。従来の断層撮影装置の概略図を図5に示しておく。放射線源402から180°逆向きの2方向に出射(放射)されたγ線の一つが測定対象物405の反対側にあるシンチレーター401に入射して発光する。その発光した光が、受光素子(図示せず。)で検知される。他方、放射線源402から出射されたもう一方のγ線404は、測定対象物405を通過してシンチレーター406に入射し、シンチレーター406内で発光する。その発光した光が、受光素子(図示せず。)で検知される。
【0003】
これらの受光素子が検知した情報からγ線403のシンチレーター401への入射位置、γ線404のシンチレーター406への入射位置を特定すると、これらの入射位置から、γ線を出射した放射線源402の位置が特定できる。これらの情報を解析して、γ線の測定対象物405の透過率分布を導き出し、測定対象物405の二次元的な密度分布を測定(推定)することができる。そして、放射線源402、シンチレーター401、シンチレーター406は、測定対象物405の周りを回転しながら、複数回の測定を行い、各位置における測定対象物内の二次元的な密度分布を測定する。そして、複数回測定した測定対象物内の二次元的な密度分布の情報を解析することにより、測定対象物内の三次元的な密度分布、形状に関する情報を取得できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2017−203860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の断層撮影装置では、γ線発生装置−測定対象物−γ線測定器の順に設置して透過率を測定している。そして、測定量は3次元空間内の物質量ではなくγ線の進行方向に積分した面密度である。すなわち、3次元物質密度を得るには測定対象物を挟んでγ線発生装置とγ線測定器を回転させて様々な方向から面物質密度を測定し、複雑なコンピューター計算が必要となる。また、測定対象物を挟むようにγ線発生装置及びγ線測定器を配置する必要があるため、土中・雪中への埋設物、コンテナ・金属容器内の物質、床面壁面に密着した物質などの透視は不可能であるという問題点を有していた。
【0006】
また、標準的な乳がん診断法であるマンモグラフィーは、脱衣して乳房をプラスチック板で挟み、X線発生装置−乳房(測定対象物)−X線測定器の順に設置して検査を行うので、痛みを伴うため検査が困難であるという問題点を有していた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、γ線発生装置−γ線測定器−測定対象物の順に設置して、測定対象物の3次元物質密度分布が測定可能な反射型断層撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、コンプトン散乱が入射光子と物質中の電子との弾性散乱であり、反応確率は電子密度(=物質の質量密度)に比例し、入射光子の位置と方向とエネルギー及び散乱光子の位置とエネルギーが全て判明すれば散乱位置が一意的に決定できる点を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一観点に係る反射型断層撮影装置は、第1のγ線を測定対象物に照射するγ線発生源と、第1のγ線が透過するとともに測定対象物において散乱角度θで散乱した散乱γ線に関する情報を測定する第1の測定部と、を備え、第1の測定部は、γ線発生源と測定対象物との間に配置されているものである。
【0010】
また、本発明の他の観点に係る反射型断層撮影装置は、測定対象物の方向に第1のγ線を出射し、測定対象物の反対側に第2のγ線を出射するγ線発生源と、γ線発生源から出射した第1のγ線が透過するとともに測定対象物において散乱角度θで散乱した散乱γ線に関する情報を測定する第1の測定部と、γ線発生源から出射した第2のγ線に関する情報を測定する第2の測定部と、第1の測定部が測定した物理量と第2の測定部が測定した物理量とに基づき測定対象物の物質密度分布を算出する物質密度分布算出部とを備え、第1の測定部は、γ線発生源と測定対象物との間に配置されているものである。
【0011】
さらに、γ線発生源を取り囲むように配置され、γ線発生源から第1のγ線及び第2のγ線と同時に出射する第3のγ線の発生時刻を測定することで第1のγ線の発生時刻を特定できる第3の測定部を有するものである。
【0012】
さらに、第1の測定部、第2の測定部又は第3の測定部が、少なくともγ線が入射して発光するシンチレーターと、シンチレーターの側面に設けた測定素子とで構成されたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、γ線発生装置−γ線測定器−測定対象物の順に配置して、測定対象物の3次元物質密度分布が測定可能な反射型断層撮影装置を提供できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るγ線測定部を示す図である。
図2】実施形態に係る反射型断層撮影装置の概略断面を示す図である。
図3】実施例に係る反射型断層撮影装置を用いた土砂災害埋没者の探査法の概念図である。
図4】実施例に係る22Na密封線源近傍の拡大図である。
図5】従来の断層撮影装置の概略断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0016】
本発明は、γ線を用いた反射型断層撮影装置である。γ線発生源として、22Na密封線源を用いたが、他の線源、例えば68Ge/68Ga密封線源でもよい。
【0017】
図1は、発明者らが提案するγ線測定部の一例である。11はγ線が入射すると発光するLa-GPSシンチレーター(GaxLa1-x-yCey)2Si2O7であり、大きさは34mm×34mm×3.4mmである。シンチレーターは、放射線が入射すると発光する性質を持つ物質を意味し、この機能を有するものであれば本実施形態で例示した材料に限られない。ここで例示した一辺の長さは直径2インチの円筒状結晶から切り出せる最大正方形の大きさであり、厚さは有効面積3mm×3mmの微小受光素子(測定素子)MPPC(浜松ホトニクス社の商品名称Multi Pixel Photon Counter)の外形に合わせている。
【0018】
シンチレーター11の4側面にはそれぞれ8〜10個のMPPC14が接着されており、発光量と発光時刻を測定する。MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)は、SiPM (Silicon Photomultiplier)と呼ばれるデバイスの1種で、ガイガーモードAPDをマルチピクセル化した新しいタイプのフォトンカウンティング(光子計測)デバイス(受光素子)である。これまでの予備実験で、511keVのγ線では約5,000個の光電子を観測した。これはエネルギー分解能約2%に相当する。また時間分解能は約100psecに相当する。
【0019】
シンチレーター11の上下面には直径0.2mmの波長変換ファイバー(光ファイバー)12を2層340本接着する。本図では波長変換ファイバー13にシンチレーション光が入射しているが、波長変換ファイバー13のコア部分に入射したシンチレーション光は吸収され、約50%の確率で少し長波長の光として等方的に再発光される。ファイバー内での全反射条件を満たした約10%の光がファイバー端まで伝播し、端に接着されたMPPC14で観測される。実験では511keVのγ線に対して両端で観測された光電子は90個であった。これはコンプトン散乱で50keVしかエネルギー消費がなかったシンチレーター11でも99%の確率で発光位置が測定できる。そして、γ線入射位置の測定精度は波長変換ファイバー12の直径で決まるため、位置分解能0.2mmまで得られる。
【0020】
図2は、本発明の反射型断層撮影装置の概略断面図である。γ線発生源2から180°逆向きの2方向に出射(放射)されたγ線の一つが測定対象物5の反対側にある第2の測定部を構成するシンチレーター1に入射して発光する。この発光した光が、シンチレーター1の表面と裏面に、ほぼ直交する2方向に配置された複数の波長変換ファイバー(図示せず。)の数本に入射し、波長変換ファイバー内で再発光する。再発光した光が波長変換ファイバーの端に取り付けた受光素子(図示せず。)で検知される。他方、γ線発生源2から出射されたもう一方のγ線4は、第1の測定部を構成するシンチレーター6を透過し、測定対象物5内を散乱角度θで散乱して、散乱γ線7がシンチレーター6に入射し、シンチレーター内で発光する。この発光した光が、シンチレーター6の表面と裏面に、ほぼ直交する2方向に配置された複数の波長変換ファイバー(図示せず。)の数本に入射し、波長変換ファイバーで再発光する。再発光した光を、波長変換ファイバーの端部に取り付けた受光素子(図示せず。)で検知する。そして、第1の測定部が測定した物理量と第2の測定部が測定した物理量とに基づき測定対象物5の物質密度分布を算出する物質密度分布算出部(図示せず。)を有する構成である。
【0021】
3次元物質分布を求めるには物質中の放射線散乱現象の測定によって散乱地点分布=物質分布を直接求めることが考えられる。光子の散乱であるコンプトン散乱では入射光子と散乱光子のエネルギーが判明すれば散乱角度は一意的に決まる。コンプトンカメラは散乱地点の位置と消費エネルギーおよび散乱光子の方向とエネルギーの測定によって入射光子の方向を求めている。逆に、入射光子の位置・方向・エネルギーと散乱光子の位置・エネルギーを測定すれば散乱地点の位置が判明する。陽電子対消滅で発生したγ線3・4は常にエネルギーが511keVであり、陽電子消滅位置と一方のγ線3を測定すれば、測定対象物5に入射する他方のγ線4の入射位置・進行方向が一意的に決まる。また、散乱γ線7の位置とエネルギーを測定すれば、測定対象物内でコンプトン散乱が起きた位置が一意的に決まる。
【0022】
図2において、測定対象物5に入射する光子の位置・方向・エネルギーと測定対象物5から出ていく光子の位置・エネルギーを測定できれば、散乱角度θが一意的に定まり、散乱の起きた位置Aが事象ごとに定まる。散乱の起きた位置Aの情報から、測定対象物内の物質密度分布が直接決まる。この場合、2次元透視画像から3次元物質分布を求める従来技術と異なり、3次元物質分布を直接求めるので、物質分布計算に必要な事象数が大幅に少なくなる。本実施形態では、入射光子のエネルギーは自明(511keV)で、陽電子消滅位置と逆側のγ線3の測定から入射光の位置と方向が決定する。
【0023】
なお、本実施形態におけるγ線の測定部は、γ線の入射位置を測定することができる限りにおいて限定されるわけではない。シンチレーター及び波長変換ファイバー以外の構成、例えば、シンチレーターの発光部を直接検知する構成でもよい。
【0024】
以上のような構成の本実施形態においては、第1のγ線を測定対象物に照射するγ線発生源と、第1のγ線が透過するとともに測定対象物において散乱角度θで散乱した散乱γ線に関する情報を測定する第1の測定部と、第1の測定部により測定した前記情報に基づき測定対象物の物質密度分布を算出する物質密度分布算出部とを備える構成で、γ線発生装置−γ線測定器−測定対象物の順に設置して、測定対象物の物質密度分布が測定可能となる。そのため、例えば、土中・雪中の人の探索、地雷の探索など埋設物の透視が可能となった。また同様に、コンテナ・金属容器内の物質、床面壁面に密着した物質などの透視も可能となった。さらに、本発明は医療分野においても有効であり、例えば、乳がんの検査において、被験者は着衣のまま乳房をお椀型のγ線測定器で覆うだけで検査を実施できる。また、3次元物質分布を直接求める構成により、2次元透視画像から3次元物質分布を求める複雑な回転構成やコンピューター計算が不要となるため、装置の構成を大幅に簡略化できる効果がある。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0026】
本発明ではγ線発生源として半減期2.6年の22Naを用いる。直径1mm程度の金属球に密封した線源が市販されている。22Naは最大運動エネルギー0.546MeVの陽電子と1.275MeVのγ線を放出する。陽電子は金属球内の電子と対消滅し、2本の511keVのγ線が180度逆方向に発生する。
【0027】
図3は本発明を用いた土砂災害埋没者の探査法の概念図であり、図422Na密封線源近傍の拡大図である。丸印2が22Na密封線源であり、1、6、9がγ線測定用の無機シンチレーターである。3、4、8の線はγ線を、7の線は散乱γ線を、星印はシンチレーター内でγ線が反応した位置を示している。
【0028】
図422Na密封線源2を取り囲む第3の測定部を構成する4個の四角錐型(図では三角形)シンチレーター9は1.275MeVのγ線8の発生した時刻を測定する。γ線3・4・8の発生する時刻は同時であるため、γ線8の発生した時刻を測定することによって、γ線3・4の発生時刻を測定できる。また、図3図4では省略したが各密封線源2の間は厚さ2cm以上の鉛が存在し、このγ線8を吸収する。
【0029】
そして、一方の511keVのγ線3は上方へ進行し、厚さ3〜4mmの板状シンチレーター1(6〜8層)から成る測定器で位置と時刻が測定される。この測定によって密封線源2から下方へ放出されたγ線4の進行方向を知ることができる。なお、511keVのγ線3は、透過率85%程度で板状シンチレーター1を通過する。そのため、511keVのγ線3の位置と時刻を測定するためには、板状シンチレーター1を複数層設けて、見かけ上の透過率を低下させる必要がある。位置及び時刻の測定精度、並びに、板状シンチレーター1の層数増加によるコストアップを考慮すると、経済合理性の観点から6〜8層が最適である。
【0030】
次に、下へ向かう511keVのγ線4は厚さ3〜4mmの大面積板状シンチレーター6(1層)を透過し(透過率85%程度)土内でその場所の電子密度に比例した確率でコンプトン散乱を行う。散乱角度θと散乱γ線7のエネルギーEとの関係は、E=511/(2−cosθ)なので、θ=90度ではE=255.5keV、θ=180度ではE=170.3keVである。なお、θが90度以上の後方散乱は20%程度の確率で発生する。そして、散乱γ線7はエネルギーEが低下した状態で地上に戻るため、80%以上の確率で大面積板状シンチレーター6によって観測され、散乱γ線7の位置とエネルギー及び時刻を測定する。すなわち、大面積板状シンチレーター6においては、511keVのγ線4は透過するため、散乱γ線7を精度よく測定することができる。そして、土内での散乱位置は(1)時間差、(2)散乱γ線7のエネルギーから求められた散乱角度θ、の2種類の独立した測定によって求めることができる。なお、土内で複数回コンプトン散乱した事象ではこの2種類の散乱位置が一致しないので容易に排除できる。以上のような構成により土内でのコンプトン散乱位置の分布から密度が求められる。
【0031】
したがって、従来、土砂災害などで生き埋めになった遭難者の効果的な探索法は存在しないので、本発明は画期的な人命救助法、人命救助装置となるであろう。また土壌中の任意の空間の密度を測定することができるので地雷探査などへも応用可能である。
【0032】
また、厚さ1cmの鉄に対する透過率は、511keVのγ線では50%程度と非常に高い値を示している。比較として70keVのX線は、透過率0.01%程度と非常に低い。したがって、鉄等の金属容器内の透視はX線では困難だがγ線では容易である。よって、本発明は、コンテナ・金属容器内の透視検査装置して応用可能である。
【0033】
また、従来の断層撮影装置は、γ線発生装置−測定対象物−γ線測定器の順で部材を配置する必要がある。しかしながら、本発明は、散乱γ線を測定するため、γ線発生装置−γ線測定器−測定対象物の順で部材を配置することができる。そのため、γ線測定器を測定対象物の下流に配置する必要がないため、本発明は床面や壁面に密着した部位の透視が可能となる。また、金属パイプ内に流体を流すと摩擦によってパイプ肉厚が減少する。従来はパイプを取りはずすかパイプに穴を開けてファイバースコープを挿入するなどでしか厚みを測定できなかったが、本発明の反射型断層撮影装置は、パイプ外側からパイプ運転中でもパイプ厚を測定できる。
【0034】
さらに、脱衣して乳房をプラスチック板で挟む、従来の乳がん診断法に対して、本発明による乳がん診断法は、被験者は着衣のままで乳房をお椀型のγ線測定器で覆うだけで検査が実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、γ線発生装置−γ線測定器−測定対象物の順に配置して、測定対象物の3次元物質密度分布が測定可能な反射型断層撮影装置として、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1、6 シンチレーター
2 γ線発生源
3、4、8 γ線
5 測定対象物
7 散乱γ線
9 四角錐型シンチレーター
11 シンチレーター
12 波長変換ファイバー(光ファイバー)
13 シンチレーション光が入射している波長変換ファイバー
14 MPPC
401、406 シンチレーター
402 放射線源
403、404 γ線
405 測定対象物
図1
図2
図3
図4
図5