(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記研磨剤は、酸化セリウム、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化チタン、酸化クロムのいずれか又は混合物を主成分とし、平均粒径が10μm以下である請求項1に記載の合成砥石。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野では、半導体素子の基板となるシリコンウェーハの表面の加工はシリコン単結晶インゴッドをスライスしたウェーハをラッピング工程、エッチング工程、ポリッシング工程等の数段の工程を経て鏡面に仕上げるのが一般的である。ラッピング工程においては、平行度、平坦度等の寸法精度、形状精度を得る。次いで、エッチング工程においてはラッピング工程でできた加工変質層を除去する。更にポリッシング工程においては、ケミカルメカニカル研磨(以下、「CMP」と称する。)により、良好な形状精度を維持した上で鏡面レベルの面粗さを持ったウェーハを形成する。また、これと同等のポリシング工程は半導体後工程においてバックグラインドと呼ばれる研削加工のダメージを除去する際にも用いられる。
【0003】
近年、ポリッシング工程の代わりに、乾式のケミカルメカニカル研削(以下、「CMG」と称する。)による表面加工を行う方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。CMG工程では、研磨剤(砥粒)を硬質樹脂等の樹脂結合剤で固定化した合成砥石を用いる。そして、ウェーハ及び合成砥石を回転させながら合成砥石をウェーハに押圧させる(例えば、特許文献2参照)。ウェーハ表面の凸部は、合成砥石との摩擦により微細な加工起点が加熱・酸化されて脆くなって剥がれ落ちる。このようにして、ウェーハの凸部だけが研削され、平坦化される。
【0004】
また、CMG工程において、研削レートを向上させることで、加工能率を向上させる合成砥石が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1〜
図4は、本発明の第1の実施の形態を示す図である。なお、これらの図においてSは研削対象となるシリコンウェーハ(被削物)を示している。
図1に示すように、CMG装置10は、ウェーハSを支持する回転テーブル機構20と、後述する合成砥石100を支持する砥石支持機構30とを備えている。CMG装置10は、ウェーハ処理装置の一部を構成している。CMG装置10には、搬送ロボット等によりウェーハSが搬入・搬出される。
【0013】
回転テーブル機構20は、床面に配置されるテーブルモータ21と、このテーブルモータ21から上方に突出して配置されたテーブル軸22と、このテーブル軸22の上端に取り付けられたテーブル23を備えている。テーブル23は、研削対象であるウェーハSを着脱自在に保持する機構を有している。保持する機構としては、例えば真空吸着機構がある。
【0014】
砥石支持機構30は、床面に配置されると共に内部にモータが収容された架台31と、この架台31に支持され、架台31内のモータによって
図1中矢印方向に揺動する鉛直方向の揺動軸32と、この揺動軸32の上端に設けられ、水平方向に延設されるアーム33と、このアーム33の先端側に設けられた砥石駆動機構40を備えている。
【0015】
砥石駆動機構40は、回転モータ部41を備えている。回転モータ部41は、下方に突出した回転軸42を備えている。回転軸42の先端部には円板状のホイール保持部材43が取り付けられている。ホイール保持部材43には、
図2に示すように、円板状の合成砥石100が着脱自在に取り付けられている。合成砥石100の装着には、合成砥石100に設けられたネジ孔に、ホイール保持部材43側からボルトをネジ込んで装着する。
【0016】
合成砥石100は、
図3に示すように、ウェーハSに対し化学機械研削作用を有する研磨剤101を有し、この研磨剤101内に摩擦促進剤102を分散して結合剤103によって結合し、気孔を形成して形成されている。研磨剤101は、被削材の材質によって適宜選択されるものであり、ウェーハSがシリコン材製の場合には、平均粒径が10μm以下の酸化セリウムを主成分とすることが好ましい。なお、酸化セリウムの他、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化チタン、酸化クロムも適用でき、これらの混合物でも良い。
【0017】
摩擦促進剤102は、ウェーハSよりも低いモース硬度で、かつ、高い摩擦係数を有する繊維物質を主成分とする。繊維物質は、ウィスカ(結晶表面から外側に向けて髭状に成長した結晶)、ファイバのいずれか又は混合物を適用できる。ウィスカとしては、機械的強度の大きな酸化物系ウィスカ及び炭化物系ウィスカが好ましい。ファイバとしては、セルロースファイバ及びカーボンファイバが好ましい。結合剤103は、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の有機化合物系樹脂又は低融点ガラス質結合剤を主成分としている。
【0018】
なお、合成砥石100の組成は例えば、研磨剤101が40〜55体積%、摩擦促進剤102が1〜5体積%、結合剤103が9〜30体積%である。また、合成砥石100の気孔率は10〜50体積%である。気孔には、摩擦促進剤102が充填される。
【0019】
このように構成された合成砥石100は、CMG装置10に取り付けられて、次のようにしてウェーハSを研削する。すなわち、合成砥石100をホイール保持部材43に取り付ける。次に、搬送ロボットによりウェーハSをテーブル23に取り付ける。
【0020】
次に、テーブルモータ21を駆動して、テーブル23を
図1中矢印方向に回転させる。また、回転モータ部41を駆動して、ホイール保持部材43及び合成砥石100を
図1中矢印方向に回転させる。合成砥石100の周速を例えば、600m/minで回転させると共に、加工圧力300g/cm
2でウェーハS側に押圧する。さらに、揺動軸32を
図1中矢印方向に揺動させる。これらが連動することで、合成砥石100とウェーハSとが摺動する。
【0021】
この時の合成砥石100とウェーハSとの関係を
図4に示す。加工が開始されると、合成砥石100とウェーハSが摺動し、結合剤103に外力が作用する。この外力が連続して作用することで結合剤103が緩み、研磨剤101及び軟質の摩擦促進剤102がウェーハS上に脱落する。遊離した研磨剤101は、繊維状の摩擦促進剤102に絡まり、合成砥石100とウェーハSとの隙間において摺動される。研磨剤101は化学研磨作用を有しており、ウェーハS表面に長く滞留することで化学研磨作用の機会頻度の向上につながる。
【0022】
一方、摩擦促進剤102は、ウェーハS表面及び研磨剤101と擦れあうことで微視的な凝着と剥離を繰り返す。この動作がブレーキ作用となることで摩擦熱が発生する。摩擦熱は、研磨剤101及び結合剤103とウェーハSとの間でも生じているため、その摩擦熱に加わることとなる。
図4中Hは、合成砥石100とウェーハSとの隙間で生じた摩擦熱がウェーハS表面からウェーハS内部に拡がる様子を示している。
【0023】
CMG工程による加工量Lは、Prestonの公式から導かれる。すなわち、L=k・P・V・t(k:Preston係数、P:砥石面圧力、V:砥石相対速度、t:加工時間)により表される。研磨効率(V/t)を促進させる比例定数kの要因の一つとして熱影響がある。
【0024】
熱化学反応式は一般にアレニウスの式によりk(速度定数)=Aexp(−E/RT)と示され(A:反応係数、E:活性化エネルギ、R:気体定数、T:絶対温度)、絶対温度Tに対し正の相関となる。したがって、発熱量を大きくすることで加工雰囲気において熱が発生すると化学作用の駆動エネルギとなり、化学反応は促進され、加工量は増加する。
【0025】
一方、摩擦係数μと発生熱量Qは一般的な公式ΔQ=μ・ΔW・v/J(ΔW:加えた仕事量、v:すべり速度、J:仕事量を熱量に変換する換算定数)で示されることから、摩擦係数の増大で絶対温度TはQの積分値として示される。よって摩擦係数、特に、動摩擦係数が大きいほど温度上昇も大きくなる。
【0026】
このようにして摩擦促進剤102を用いてウェーハS表面の温度上昇による化学反応を促進し、研削効率が上昇させることで、CMG装置10及び合成砥石100によるウェーハSの表面研削の加工時間を短縮させることができる。
【0027】
本実施の形態に係る合成砥石100によれば、摩擦促進剤102による温度上昇効果及び研磨剤101の滞留効果を組み合わせることで、研削効率が上昇し、加工時間を短縮させることができる。
【0028】
図5〜
図6は、本発明の第2の実施の形態を示す図である。これらの図において、
図1〜
図4と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本発明の第2の実施の形態に係る合成砥石100Aは、上述した合成砥石100と同様に、CMG装置10に取り付けられる。
【0029】
合成砥石100Aは、合成砥石100に対し、増粘剤104が加えられている。増粘剤104の主成分は、例えばグリセリンである。なお、グリセリンの他、グリコールでも良く、これらの混合物でも良い。また、増粘剤104の添加方法としては、直接混合しても良いし、
図5に示すように、グリセリン等を低融点ワックスで溶解させたものを含浸させるようにしても良い。
【0030】
このように構成された合成砥石100Aは、CMG装置10に取り付けられて、上述した合成砥石100と同様にウェーハSを研削する。
【0031】
この時の合成砥石100AとウェーハSとの関係を
図6に示す。加工が開始されると、合成砥石100AとウェーハSが摺動し、結合剤103に外力が作用する。この外力が連続して作用することで結合剤103が緩み、研磨剤101及び軟質の摩擦促進剤102がウェーハS上に脱落する。遊離した研磨剤101は、繊維状の摩擦促進剤102に絡まり、合成砥石100AとウェーハSとの隙間において摺動される。研磨剤101は化学研磨作用を有しており、ウェーハS表面に長く滞留することで化学研磨作用の機会頻度の向上につながる。
【0032】
さらに、合成砥石100AとウェーハSとの間の摺動及び摩擦促進剤102の摺動により、摩擦熱が発生する。これにより、合成砥石100A内部に低融点ワックスと共に含浸した増粘剤104の成分、すなわちグリセリンが溶出を初める。低融点ワックスは分子量が少ないために合成砥石100AとウェーハS間の潤滑作用は限定的である。その低融点ワックスと同じくして溶出した増粘剤104は合成砥石100AとウェーハS間で高粘度な液体Mとなる。
【0033】
その結果、合成砥石100AとウェーハSとの極く狭い隙間の中で高い剪断応力をもつ液体となり、結果的に摩擦熱を生じる。生じた摩擦熱は液体M内に留まり易く、温度上昇による化学反応を促進し、研削効率が上昇する。したがって、CMG装置10及び合成砥石100AによるウェーハSの表面研削の加工時間を短縮させることができる。
図6中Hは、合成砥石100AとウェーハSとの隙間で生じた摩擦熱がウェーハS表面からウェーハS内部に拡がる様子を示している。なお、高粘度の液体N内によって研磨剤101がトラップされるため、研磨剤101の排出作用が抑制され、研磨剤101の滞留時間が長くなることで化学研磨作用の機会頻度が向上するという効果もある。
【0034】
本実施の形態に係る合成砥石100Aによれば、摩擦促進剤102及び増粘剤104による温度上昇効果及び研磨剤101の滞留効果を組み合わせることで、研削効率が上昇し、加工時間を短縮させることができる。
【0035】
図7〜
図8は、本発明の第3の実施の形態を示す図である。これらの図において、
図1〜
図6と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本発明の第2の実施の形態に係る合成砥石200は、上述した合成砥石100と同様に、CMG装置10に取り付けられる。
【0036】
合成砥石200は、ウェーハSに対し化学機械研削作用を有する研磨剤201と、この研磨剤201を分散して結合する結合剤202とによって形成されている。また、結合剤202には、増粘作用を有する増粘剤203が低融点ワックスに溶解され、
図7に示すようにして含浸されている。
【0037】
研磨剤201は、被削材の材質によって適宜選択されるものであり、ウェーハSがシリコン材製の場合には、平均粒径が10μm以下の酸化セリウムを主成分とすることが好ましい。なお、酸化セリウムの他、酸化ケイ素、酸化鉄も適用でき、これらの混合物でも良い。
【0038】
結合剤202は、フェノール樹脂等の有機物又は低融点ガラス質結合剤を主成分としている。増粘剤203の主成分は、例えばグリセリンである。なお、グリセリンの他、グリコールでも良く、これらの混合物でも良い。また、増粘剤203の添加方法としては、直接混合しても良いし、
図7に示すように、グリセリン等を低融点ワックスで溶解させたものを含浸させるようにしても良い。
【0039】
このように構成された合成砥石200は、CMG装置10に取り付けられて、次のようにしてウェーハSを研削する。すなわち、合成砥石200をホイール保持部材43に取り付ける。次に、搬送ロボットによりウェーハSをテーブル23に取り付ける。
【0040】
次に、テーブルモータ21を駆動して、テーブル23を
図1中矢印方向に回転させる。また、回転モータ部41を駆動して、ホイール保持部材43及び合成砥石100を
図1中矢印方向に回転させる。合成砥石200の周速を例えば、600m/minで回転させると共に、加工圧力300g/cm
2でウェーハS側に押圧する。さらに、揺動軸32を
図1中矢印方向に揺動させる。これらが連動することで、合成砥石200とウェーハSとが摺動する。
【0041】
この時の合成砥石200とウェーハSとの関係を
図8に示す。加工が開始されると、合成砥石200とウェーハSが摺動し、結合剤202に外力が作用する。この外力が連続して作用することで結合剤202が緩み、研磨剤201がウェーハS上に脱落する。研磨剤201は化学研磨作用を有しており、ウェーハS表面の研削が開始される。
【0042】
一方、合成砥石200とウェーハSとの間の摺動により、摩擦熱が発生する。これにより、合成砥石200内部に低融点ワックスと共に含浸した増粘剤203の成分、すなわちグリセリンが溶出を初める。低融点ワックスは分子量が少ないために合成砥石200とウェーハS間の潤滑作用は限定的である。その低融点ワックスと同じくして溶出した増粘剤203は合成砥石200とウェーハS間で高粘度な液体Nとなる。
【0043】
その結果、合成砥石200とウェーハSとの極く薄い隙間の中で高い剪断応力をもつ液体となり、結果的に摩擦熱を生じる。生じた摩擦熱は液体N内に留まり易く、温度上昇による化学反応を促進し、研削効率が上昇する。したがって、CMG装置10及び合成砥石200によるウェーハSの表面研削の加工時間を短縮させることができる。
図8中Hは、合成砥石200とウェーハSとの隙間で生じた摩擦熱がウェーハS表面からウェーハS内部に拡がる様子を示している。なお、高粘度の液体N内によって研磨剤201がトラップされるため、研磨剤201の排出作用が抑制され、研磨剤201の滞留時間が長くなることで化学研磨作用の機会頻度が向上するという効果もある。
【0044】
このようにして増粘剤203を用いてウェーハS表面の温度上昇を促進すると共に、研磨剤201を作用面に止めることができる。したがって、研削効率を上昇させることで、CMG装置10及び合成砥石200によるウェーハSの表面研削の加工時間を短縮させることができる。
【0045】
本実施の形態に係る合成砥石200によれば、増粘剤203による温度上昇効果及び研磨剤201の滞留効果を組み合わせることで、研削効率が上昇し、加工時間を短縮させることができる。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載された事項を付記する。
[1]被削材を化学機械研削する合成砥石において、
前記被削材に対し化学機械研削作用を有する研磨剤と、
摩
擦促進剤と、
前記研磨剤と前記摩擦促進剤を結合する結合剤とを備えている合成砥石。
[2]前記研磨剤は、酸化セリウム、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化チタン、酸化クロムのいずれか又は混合物を主成分とし、平均粒径が10μm以下である[1]に記載の合成砥石。
[3]前記摩擦促進剤は、前記被削材よりも低いモース硬度で、かつ、高い摩擦係数を有する繊維物質を主成分とする[1]に記載の合成砥石。
[4]前記摩擦促進剤は、ウィスカ、ファイバのいずれか又は混合物を主成分とする[3]に記載の合成砥石。
[5]前記結合剤は、有機化合物系樹脂又は低融点ガラス質結合剤を主成分とする[1]に記載の合成砥石。
[6]前記結合剤には、増粘作用を有する増粘剤が含浸されている、又は、前記増粘剤が低融点ワックスで溶解されて含浸されている[1]に記載の合成砥石。
[7]前記増粘剤は、グリセリン又はグリコールの少なくとも一方を主成分とする[6]に記載の合成砥石。
[8]被削材を化学機械研削する合成砥石において、
前記被削材に対し化学機械研削作用を有する研磨剤と、
前記研磨剤を結合する結合剤を具備し、
前記結合剤には、増粘作用を有する増粘剤が含浸されている、又は、前記増粘剤が低融点ワックスで溶解されて含浸されている合成砥石。
[9]前記増粘剤は、グリセリン又はグリコールの少なくとも一方を主成分とする[8]に記載の合成砥石。
【解決手段】ウェーハSを化学機械研削する合成砥石100において、平均粒径が10μm以下の酸化セリウムを主成分とし、ウェーハSに対し化学機械研削作用を有する研磨剤101と、ウェーハSよりも低いモース硬度で、かつ、高い摩擦係数を有する繊維物質を主成分とし、発熱作用を有する摩擦促進剤102と、フェノール樹脂を主成分とし、研磨剤101と摩擦促進剤102を分散して結合する結合剤103とを備えている。