(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[被膜形成用組成物]
本発明の被膜形成用組成物は、金属表面への被膜形成に用いられる。被膜形成用組成物は、シランカップリング剤、金属イオン、およびハロゲン化物イオンを含む、pH2.8〜6.2の溶液である。以下、被膜形成用組成物に含まれる各成分について説明する。
【0013】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤は、被膜の主成分となる材料であり、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0015】
一般式(I)において、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、アルコキシ基またはアルキル基であり、R
1〜R
3のうち少なくとも1つはアルコキシ基または水酸基である。被膜形成性の観点からは、R
1、R
2およびR
3の全てがアルコキシ基であることが好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。なお、アルコキシ基は、加水分解反応によって水酸基となっていてもよい。
【0016】
一般式(I)におけるnは1〜50の整数であり、好ましくは1〜10である。汎用のシランカップリング剤の多くは、n=3である。
【0017】
一般式(I)におけるXは、窒素原子を含
む有機基であ
り、アミノ基を有するものが好ましい。アミノ基は、第一級アミノ基、第二級アミノ基および第三級アミノ基のいずれでもよいが、第一級アミノ基または第二級アミノ基が好ましい。
【0018】
アミノ基は複素環式のアミノ基でもよい。窒素原子を含む複素環における窒素原子は、第二級アミノ基または第三級アミノ基を構成している。窒素原子を含む複素環は芳香環であることが好ましい。含窒素芳香環としては、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ペンタジン、アゼピン、ジアゼピン、トリアゼピン等の単環や、インドール、イソインドール、チエノインドール、インダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、ベンゾトリアゾール等の縮合二環;カルバゾール、アクリジン、β‐カルボリン、アクリドン、ペリミジン、フェナジン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フェナントロリン等の縮合三環;キンドリン、キニンドリン等の縮合四環;アクリンドリン等の縮合五環、等が挙げられる。含窒素芳香環を含むシランカップリング剤は、芳香環外にさらにアミノ基を有していてもよい。
【0019】
Xは、アミノ基とアミノ基以外の窒素含有官能基の両方を含んでいてもよい。Xは、末端に−NH
2を有するものが好ましい。Xは、さらに、カルボニル、カルボキシ基、メルカプト基、エポキシ基、シリル基、シラノール基、アルコキシシリル基等の、窒素原子を含まない官能基を有していてもよい。
【0020】
窒素原子を含むシランカップリング剤の一例として、下記の一般式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0022】
一般式(II)におけるR
1〜R
3およびnは、一般式(I)と同様である。R
4およびR
5は、それぞれ独立に、水素原子または任意の有機基であり、R
4とR
5が結合して環構造を形成してもよい。R
4およびR
5がアルキル基またはアミノアルキル基である場合、アルキル基の炭素数は6以下が好ましく、4以下がより好ましい。
【0023】
R
4およびR
5は、好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アミノアルキル基、またはアミノアルキルアミノアルキル基であり、R
4とR
5が結合して含窒素芳香環を形成していてもよい。中でも、R
4が水素原子であり、R
5がアルキル基、アリール基、アミノ基、アミノアルキル基またはアミノアルキルアミノアルキル基である形態、およびR
4とR
5が結合して含窒素芳香環を形成している形態が好ましい。R
4が水素原子である場合、R
5は、水素原子、アミノアルキル基またはアミノアルキルアミノアルキル基であることが好ましい。シランカップリング剤が末端に第一級アミノ基(−NH
2)を有する場合に、被膜形成性が高められ、樹脂との接着性が向上する傾向がある。
【0024】
一般式(II)において、R
4が水素原子であり、R
5が水素原子、アミノアルキル基またはアミノアルキルアミノアルキル基であるシランカップリング剤の具体例としては、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルジメトキシシメチルラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、[3−(6−アミノヘキシルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
窒素原子を含むシランカップリング剤は、下記の一般式(III)で表される化合物のように、1分子中に2個のSi原子を有していてもよい。
【0027】
一般式(III)におけるR
1〜R
3、R
5およびnは、一般式(II)と同様である。R
6〜R
8はR
1〜R
3と同様であり、mはnと同様である。一般式(III)で表されるシランカップリング剤の具体例としては、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミンビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アミンが挙げられる。
【0028】
シランカップリング剤として市販品を用いてもよい。後述のように、本発明の組成物は、シランカップリング剤に加えて、ハロゲン化物イオンおよび金属イオンを含むことにより、優れた被膜形成性を有する。そのため、窒素原子を含むシランカップリング剤であれば特に制限なく使用可能であり、特殊な構造のシランカップリング剤を用いることなく、汎用のシランカップリング剤により、樹脂との接着性に優れる被膜を簡便に形成できる。
【0029】
被膜形成用組成物中のシランカップリング剤の濃度は特に限定されないが、金属表面への被膜形成性と溶液の安定性とを両立する観点から、0.05〜15重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましく、0.2〜5重量%がさらに好ましい。シランカップリング剤の濃度が過度に小さいと、被膜形成速度が低下する傾向がある。一方、シランカップリング剤の濃度を上記範囲より高めても、被膜形成速度の顕著な上昇はみられず、シランカップリング剤の縮合等により溶液の安定性が低下する場合がある。被膜形成用組成物中の溶液中のシランカップリング剤に由来するSi原子の濃度は、0.5〜1000mMが好ましく、1〜500mMがより好ましく、3〜300mMまたは5〜200mMであってもよい。
【0030】
<ハロゲン化物イオン>
ハロゲン化物イオンは、金属表面への被膜形成を促進する成分であり、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンから選択される1種以上が好ましい。ハロゲン化物イオンの中でも、被膜形成性、被膜の均一性および樹脂との接着性の観点から、塩化物イオンおよび臭化物イオンが好ましく、臭化物イオンが特に好ましい。被膜形成用組成物中には2種以上のハロゲン化物イオンが含まれていてもよい。
【0031】
ハロゲン化物イオン源としては、塩酸、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸;塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化銅、臭化銅、塩化亜鉛、塩化鉄、臭化錫等が挙げられる。ハロゲン化物イオン源は2種以上を併用してもよい。塩化銅、臭化銅等のハロゲン化銅は、水溶液中で銅イオンとハロゲン化物イオンを生成するため、ハロゲン化物イオン源と銅イオン源の両方の作用を有するものとして使用できる。
【0032】
被膜形成用組成物中のハロゲン化物イオンの濃度は特に限定されず、例えば、0.1〜2000mMであり、0.5〜1500mM、1〜1000mMまたは3〜500mMであってもよい。
【0033】
<金属イオン>
金属イオンは、上記のハロゲン化物イオンとともに、金属表面への被膜形成を促進する成分である。金属イオンとしては、銅イオンが挙げられる。銅イオンは、第一銅イオンおよび第二銅イオンのいずれでもよい。銅イオン源としては、塩化銅、臭化銅等のハロゲン化銅;硫酸銅、硝酸銅等の無機酸塩;ギ酸銅、酢酸銅等の有機酸塩;水酸化銅;酸化銅等が挙げられる。前述のように、ハロゲン化銅は、ハロゲン化物イオン源と銅イオン源の両方の作用を有する。
【0034】
被膜形成に要する時間を短縮する観点から、被膜形成用組成物中の銅イオン濃度は0.1mM以上が好ましく、0.3mM以上がより好ましく、0.5mM以上、0.8mM以上または1mM以上であってもよい。一方、第二銅イオン濃度が高い場合は、被膜形成促進作用よりも、酸化による銅のエッチングの促進作用が大きくなるため、被膜の形成が阻害される。そのため、被膜形成用組成物中の銅イオン濃度は、60mM以下が好ましく、50mM以下がより好ましく、40mM以下、30mM以下または20mM以下であってもよい。
【0035】
被膜の形成を促進するためには、溶液中の銅イオン濃度が上記範囲であることに加えて、シランカップリング剤濃度と銅イオン濃度の比を調整することが重要である。シランカップリング剤由来のSiの量とCuの量とのモル比Si/Cuは30以下が好ましい。Si/Cuが30を超えると、シランカップリング剤に対する銅イオンの量が不足するため、被膜形成作用が不十分となる。Si/Cuは、25以下が好ましく、20以下がより好ましく、17以下または15以下であってもよい。一方、Si/Cuが過度に小さい場合は、被膜形成速度が低下したり、銅イオンによるエッチングの影響が大きくなる傾向がある。そのため、Si/Cuは、0.3以上が好ましく、0.5以上または1以上であってもよい。
【0036】
<溶媒>
上記の各成分を溶媒に溶解することにより、被膜形成用組成物が調製される。溶媒は、上記各成分を溶解可能であれば特に限定されず、水、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素等を用いることができる。水としては、イオン性物質や不純物を除去した水が好ましく、例えばイオン交換水、純水、超純水等が好ましく用いられる。
【0037】
<他の成分>
本発明の被膜形成用組成物には、上記以外の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、錯化剤、界面活性剤、安定化剤、窒素原子を含まないシランカップリング剤、pH調整剤等が挙げられる。窒素原子を含まないシランカップリング剤と銅イオンおよびハロゲン化物イオンとを含む溶液で金属表面を処理した場合は、表面にスマットが形成され、シランカップリング剤による被膜が形成され難い。一方、窒素原子を含むシランカップリング剤と窒素原子を含まないシランカップリング剤とを併用した場合は、窒素原子を含むシランカップリング剤のみを用いる場合と同様に、金属表面に短時間で被膜が形成される。
【0038】
錯化剤としては、キレート剤として作用するものが好ましい。例えば、銅のキレート剤としては、アミノ酸、多塩基酸、ヒドロキシ酸が挙げられる。キレート剤を含むことにより溶液中で金属イオンの安定性が向上し、沈殿が抑制されるため、被膜形成促進効果の向上が期待できる。
【0039】
pH調整剤としては、各種の酸およびアルカリを特に制限なく用いることができる。被膜形成用組成物のpHは、2.8〜6.2が好ましく、3.0〜6.0がより好ましい。pHが2.8以上であれば、金属表面のエッチングが抑制され、被膜形成性を向上できるとともに、金属の溶解量が少ないため溶液の安定性が向上する。また、pHが6.2以下であれば、溶液中での銅イオンの安定性が高いため、銅イオンによる被膜形成促進効果が高められる傾向がある。弱酸性のpH領域ではシランカップリング剤の縮合が抑制されることも被膜形成性向上に寄与している可能性が考えられる。
【0040】
金属の酸化によるエッチングを防止するために、被膜形成用組成物は、銅イオン等の金属イオン濃度が上記範囲内であるとともに、被膜形成対象の金属に対する酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。金属の酸化剤としては、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過マンガン酸、過硫酸、過炭酸、過酸化水素、有機過酸化物およびこれらの塩が挙げられる。被膜形成用組成物中のこれらの酸化剤の含有量は、0.5重量%以下が好ましく、0.1重量%以下がより好ましく、0.05重量%以下がさらに好ましい。被膜形成用組成物が金属の酸化剤を実質的に含まないことにより、金属の溶出を低減し、溶液の安定性を向上できる。
【0041】
[金属部材表面への被膜の形成]
金属部材の表面に上記の被膜形成用組成物を接触させ、必要に応じて溶媒を乾燥除去することにより、
図1に示すように、金属部材11の表面に被膜12が形成される。被膜12は、樹脂との接着性向上用被膜であり、金属部材の表面に被膜が設けられることにより、金属部材と樹脂との接着性が向上する。
【0042】
金属部材としては、半導体ウェハー、電子基板およびリードフレーム等の電子部品、装飾品、ならびに建材等に使用される銅箔(電解銅箔、圧延銅箔)の表面や、銅めっき膜(無電解銅めっき膜、電解銅めっき膜)の表面、あるいは線状、棒状、管状、板状等の種々の用途の銅材が例示できる。特に、本発明の被膜形成用組成物は、銅または銅合金の表面への被膜形成性に優れている。そのため、金属部材としては、銅箔、銅めっき膜、および銅材等が好ましい。金属部材の表面は平滑でもよく、粗化されていてもよい。粗化された金属部材の表面に被膜を形成することにより、金属部材と樹脂との密着性をさらに向上できる。
【0043】
上記の通り、本発明の被膜形成用組成物を用いることにより、金属のエッチングを抑制しながらシランカップリング剤の被膜を形成できる。そのため、プリント配線板の銅配線等の細線への適用も可能である。
【0044】
金属部材表面への被膜の形成は、例えば以下のような条件で行われる。
まず、酸等により、金属部材の表面を洗浄する。次に、上記の被膜形成用組成物に金属表面を浸漬し、2秒〜5分間程度浸漬処理をする。この際の溶液の温度は、10〜50℃程度が好ましく、より好ましくは15〜35℃程度である。浸漬処理では、必要に応じて搖動を行ってもよい。その後、乾燥または洗浄等により、金属表面に付着した溶液を除去することにより、金属部材11の表面に被膜12を有する表面処理金属部材10が得られる。
【0045】
前述のように、従来の被膜形成用組成物では、金属部材の浸漬処理後、金属部材の表面に溶液が付着した状態で乾燥し、溶液を濃縮・乾固させて被膜を形成する必要がある。これに対して、本発明の被膜形成用組成物は、溶液への浸漬中(空気に接触していない状態)においても金属表面に被膜が形成される。そのため、溶液への浸漬後、金属表面に溶液が付着した状態で風乾等を実施せずに、金属表面に付着した溶液を洗浄除去する場合でも、樹脂との接着性に優れる被膜を金属表面にむらなく形成できる。金属表面に溶液が付着した状態で空気中での乾燥を実施する場合でも、短時間の乾燥処理で、樹脂との接着性に優れる被膜を金属表面に形成できる。そのため、金属表面への被膜形成に要する時間を短縮できるとともに、被膜形成の工程を簡略化できる。
【0046】
窒素原子を含むシランカップリング剤に加えてハロゲン化物イオンおよび金属イオンを含むことにより被膜形成性が向上する理由は定かではないが、1つの推定要因として、銅イオンとハロゲン化物イオンとが金属表面に作用する際に、窒素原子を含むシランカップリング剤が取り込まれ、金属表面に吸着することが、金属表面への被膜形成に寄与していることが考えられる。本実施形態では、溶液中に銅イオンおよびハロゲン化物イオンを含むため、含窒素芳香族以外の窒素原子であっても、銅イオンおよびハロゲン化物イオンとともに金属表面に作用して、被膜が形成されると考えられる。
【0047】
金属表面に溶液が付着した被膜形成用組成物の洗浄には、水または水溶液を用いればよい。特に、薄酸またはアルカリ水溶液により洗浄を行った場合に、被膜のムラが低減し、樹脂との接着性が向上する傾向がある。薄酸としては例えば0.1〜6重量%程度の硫酸または塩酸が好ましく、アルカリとしては、0.1〜5重量%程度のNaOH水溶液またはKOH水溶液が好ましい。
【0048】
本発明の被膜形成用組成物を用いることにより、浸漬やスプレー等により金属部材の表面に被膜形成用組成物を接触させた後、金属部材の表面に付着した溶液を除去するまでの時間(浸漬の場合は溶液から金属部材を取り出してから洗浄を行うまでの時間;スプレーの場合はスプレー終了後に洗浄を行うまでの時間)が2分以内でも、樹脂との接着性に優れる被膜を金属表面に形成できる。生産効率向上の観点から、金属部材の表面に被膜形成用組成物を接触させた後、金属部材の表面に付着した溶液の除去(洗浄)を実施するまでの時間は、1.5分以内または1分以内であってもよい。
【0049】
上記の様に、本発明の被膜形成用組成物は、溶液中での被膜形成性に優れ、かつ金属表面への吸着性が高いため、浸漬処理のみでも金属表面に被膜を形成可能であり、浸漬後に乾燥を行わずに金属表面を洗浄して溶液を除去しても、金属表面への被膜形成状態が維持される。また、金属と他の材料との複合部材に対して被膜形成用組成物を適用した場合、金属表面に選択的に被膜を形成できる。
【0050】
なお、
図1では、板状の金属部材11の片面にのみ被膜12が形成されているが、金属部材の両面に被膜が形成されてもよい。被膜は樹脂との接合面の全体に形成されることが好ましい。金属部材表面への被膜の形成方法は、浸漬法に限定されず、スプレー法やバーコート法等の適宜の塗布方法を選択できる。
【0051】
[金属‐樹脂複合体]
表面処理金属部材10の被膜12形成面上に、樹脂部材20を接合することにより、
図2に示す金属‐樹脂複合体50が得られる。なお、
図2では、板状の金属部材11の片面にのみ被膜12を介して樹脂部材(樹脂層)20が積層されているが、金属部材の両面に樹脂部材が接合されてもよい。
【0052】
被膜上に樹脂部材を形成する前に、被膜表面の濡れ性向上や、保管環境に応じた処理を実施してもよい。また、被膜上に樹脂部材を形成する前に、加熱等の処理を実施してもよい。上記の組成物により形成された被膜は、加熱による劣化が少ないため、樹脂部材の形成前や、樹脂部材形成時に加熱を行う場合でも、金属と樹脂間の高い接着性を発揮できる。
【0053】
表面処理金属部材10と樹脂部材20との接合方法としては、積層プレス、ラミネート、塗布、射出成形、トランスファーモールド成形等の方法を採用できる。樹脂層を形成後に、加熱や活性光線の照射により樹脂の硬化を行ってもよい。
【0054】
上記樹脂部材を構成する樹脂は、特に限定されず、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリプロピレン、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、シアネートエステル等の熱硬化性樹脂、あるいは紫外線硬化性エポキシ樹脂、紫外線硬化性アクリル樹脂等の紫外線硬化性樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は官能基によって変性されていてもよく、ガラス繊維、アラミド繊維、その他の繊維等で強化されていてもよい。
【0055】
本発明の被膜形成用組成物を用いて金属表面に形成された被膜は、金属と樹脂との接着性に優れるため、他の層を介することなく、金属部材表面に設けられた被膜12上に直接樹脂部材20を接合できる。すなわち、本発明の被膜形成用組成物を用いることにより、他の処理を行わずとも、金属部材表面に被膜を形成し、その上に直接樹脂部材を接合するのみで、高い接着性を有する金属‐樹脂複合体が得られる。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例を比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[試験用銅箔の準備]
電解銅箔(三井金属鉱業社製 3EC-III、厚み35μm)を100mm×100mmに裁断し、常温の6.25重量%硫酸水溶液に20秒間浸漬揺動して除錆処理を行った後、水洗・乾燥したものを試験用銅箔(テストピース)として使用した。
【0058】
[溶液の調製]
表1および表2に示す成分を所定の配合量(濃度)となるようにイオン交換水に溶解した後、表1および表2に示すpHとなるように、1.0N塩酸または1.0N水酸化ナトリウム水溶液を加えて、溶液を調製した。
【0059】
表1および表2におけるシランカップリング剤A〜Mは下記の通りである。
シランカップリング剤A:3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン
シランカップリング剤B:3−アミノプロピルトリメトキシシラン
シランカップリング剤C:3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメチルメトキシシラン
シランカップリング剤D:3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン
シランカップリング剤E:3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン
シランカップリング剤F:トリメトキシ[3−(フェニルアミノ)プロピル]シラン
シランカップリング剤G:3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン
シランカップリング剤H:[3−(6−アミノヘキシルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン
シランカップリング剤I:3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン
シランカップリング剤J:3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン
シランカップリング剤K:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
シランカップリング剤L:下記式で表されるベンゾトリアゾール系シランカップリング剤(N−(3−トリメトキシシリルプロピル)ベンゾトリアゾール―1−カルボキサミド)
【化4】
シランカップリング剤M:下記式で表されるトリアゾール系シランカップリング剤(N−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−5−アミノ−3−[3−(トリエトキシシリル)プロピルチオ]−1H−1,2,4−トリアゾール−1−カルボキサミド)
【化5】
【0060】
シランカップリング剤A〜Kは市販品を用いた。シランカップリング剤Lは、特開2016−79130号公報の実施例1に基づいて合成した。シランカップリング剤Mは、特開2018−16865号公報の参考例4−1に基づいて合成した。
【0061】
[評価]
表1および表2の溶液(25℃)中に、テストピースを60秒間摺動浸漬した後、テストピースを溶液から取り出し、直後に水洗を行い、その後室温で乾燥を行った。テストピースの赤外線吸収スペクトルにおける1110cm
−1付近のSi−Oのピーク面積、および外観の目視から、被膜形成性を評価した。
【0062】
<Si−Oピーク面積>
赤外線吸収スペクトルは、FT−IR分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック製「NICOLET380」を用い、反射吸収法(RAS法)により、検出器:DLaTGS/KBr、アクセサリー:RAS、分解能:8cm
−1、積算回数:16回、入射角:75°の条件で測定した。波数を横軸、吸光度を縦軸とするIRスペクトルにおいて、波数1180cm
−1の測定点と波数1070cm
−1の測定点とを結ぶ直線をベースラインとして、このベースラインとスペクトルの曲線とで囲まれた領域の面積を、Si−Oのピーク面積とした。なお、比較例1〜10では、1110cm
−1付近にピークが確認されなかったため、ピーク面積を0とした。
【0063】
<外観>
目視により、下記の基準で評価した。
A:銅箔の光沢を保持していたもの
B:銅箔の表面が粗化されて光沢を失っていたもの
C:銅箔の表面にスマットが析出して光沢を失っていたもの
【0064】
<樹脂接着性>
上記の被膜形成処理を行ったテストピースを、大気下で130℃60分間加熱して熱劣化させた後、テストピース上に、ビルドアップフィルム(味の素ファインテック製「ABF」を真空ラミネートし、推奨条件で加熱してフィルムを熱硬化させた。テストピースのフィルム積層面と反対側から、銅箔に、幅10mm×長さ60mmの切り込みを入れ、銅箔の先端をつかみ具で把持して、JIS C6481に準拠して50mm/分の剥離速度で60mmの長さにわたって90°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。
【0065】
実施例および比較例の溶液の組成および評価結果を、表1および表2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
アミノ基を含むシランカップリング剤、銅イオンおよびハロゲン化物イオンを含む溶液で銅箔の処理を行った実施例1〜12では、溶液への浸漬処理後に、銅箔の金属光沢を保っており、かつ赤外線吸収スペクトルでSi−O由来のピークが確認されたことから、シランカップリング剤による被膜が形成されたことが分かる。実施例1〜12では、銅箔とビルドアップフィルムとの剥離強度が0.3N/mm以上であり、優れた接着性を示した。Si−Oピーク面積と剥離強度(接着力)には相関がみられ、Si−Oピーク面積が大きいほど接着力が高くなる傾向があることから、シランカップリング剤による被膜の形成が接着力向上に寄与していると考えられる。
【0069】
銅イオンを含まない比較例3およびハロゲン化物イオンを含まない比較例8では、被膜が形成されていなかった。実施例5のシランカップリング剤Eを、窒素原子を含まないシランカップリング剤Kに変更した比較例1では、被膜が形成されていなかった。窒素原子を含まないシランカップリング剤Jを用いた比較例2も同様であった。また、比較例2では、銅箔表面にスマットが析出しており、接着強度の著しい低下がみられた。
【0070】
一方、
アミノ基を含むシランカップリング剤Eと、窒素原子を含まないシランカップリング剤Jを併用した実施例6では、スマットは生成しておらず、実施例5と同等の優れた接着強度を示した。これらの結果から、
アミノ基を含むシランカップリング剤が、溶液中の銅イオンおよびハロゲン化物イオンと相互作用することにより、シランカップリング剤による被膜の形成が促進されたと考えられる。
【0071】
銅イオン濃度が高い比較例5および比較例9では、被膜が形成されておらず、銅のエッチングにより表面が粗化されていた。これらの比較例では、銅イオン濃度が高いために、シランカップリング剤による被膜の形成よりも、銅イオンによる銅の酸化(エッチング)作用が大きいために、被膜が形成されなかったと考えられる。
【0072】
Si/Cu比が大きく、シランカップリング剤に対する銅の量が少ない比較例4および比較例10では、被膜が形成されていなかった。なお、比較例10と銅イオン濃度が同一の実施例9では被膜が形成され樹脂との接着性が良好であった。これらの結果から、Si/Cu比が重要であり、比較例4および比較例10では、シランカップリング剤が過剰であったために、溶液中の銅イオンがシランカップリング剤により安定化され、銅イオンと銅箔表面との相互作用が小さい等の理由により、被膜形成促進効果が十分に発揮されず、浸漬のみでは被膜が形成されなかったと考えられる。
【0073】
実施例5と同一の配合でpHが低い比較例6では、被膜が形成されておらず、銅のエッチングにより表面が粗化されていた。低pH領域では、銅イオンによるエッチング作用が高いために、シランカップリング剤による被膜の形成よりも、銅イオンによるエッチング作用が大きいと考えられる。
【0074】
実施例5と同一の配合でpHが高い比較例7では、被膜が形成されていなかった。中性付近のpHでは、溶液中での銅イオンの安定性が低く、銅イオンによる被膜形成促進効果が不十分であったことが、被膜が形成されなかった要因の1つであると考えられる。
【0075】
以上の結果から、窒素原子を含むシランカップリング剤、銅イオンおよびハロゲン化物イオンを含み、Si/Cu比およびpHが所定範囲の溶液を用いて金属表面を処理することにより、短時間の浸漬のみでシランカップリング剤の被膜が形成され、金属と樹脂との接着性に優れる複合体を形成可能であることが分かる。シランカップリング剤は、窒素原子を含んでいればよく、実施例1〜9のように、汎用のシランカップリング剤を用いても、金属表面に、樹脂との接着性向上に寄与する被膜を容易に形成可能である。
【解決手段】被膜形成用組成物は、窒素原子を含むシランカップリング剤、金属イオン、およびハロゲン化物イオンを含む溶液である。金属イオンは銅イオンが好ましく、溶液中の銅イオン濃度は0.1〜60mMが好ましい。溶液中のCuの量に対するSiの量は、モル比で30以下が好ましい。溶液のpHは2.8〜6.2が好ましい。