特許第6779560号(P6779560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779560
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】低温感応性植物の栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/60 20180101AFI20201026BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   A01G22/60
   A01G7/00 601Z
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-170760(P2018-170760)
(22)【出願日】2018年9月12日
(65)【公開番号】特開2020-39313(P2020-39313A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2019年8月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】518326157
【氏名又は名称】佐久間 佳孝
(73)【特許権者】
【識別番号】303036429
【氏名又は名称】有限会社タイヨー種苗
(74)【代理人】
【識別番号】100085224
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 重隆
(72)【発明者】
【氏名】川名 和好
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 佳孝
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−035071(JP,A)
【文献】 特開2011−255294(JP,A)
【文献】 特開平09−191761(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3208850(JP,U)
【文献】 実開昭59−092642(JP,U)
【文献】 特開2001−095380(JP,A)
【文献】 特開平09−275771(JP,A)
【文献】 特開平11−196673(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/070864(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 22/00−22/67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)0〜15℃の低温貯蔵庫内で、低温感応性植物の種、苗あるいは球根を、20日〜45日間低温処理することにより、発芽促進および/又は育苗する工程、(2)低温処理した低温感応性植物をハウス内の圃場に定植したのち、直径が200ナノメートルよりも小さいナノバブルを含む微小気泡水を散水して栽培する工程、を含むことを特徴とする低温感応性植物の栽培方法。
【請求項2】
工程(1)の低温貯蔵庫内での低温処理時においても、直径が200ナノメートルよりも小さいナノバブルを含む微小気泡水を散水する、請求項1記載の低温感応性植物の栽培方法。
【請求項3】
低温感応性植物の種、苗あるいは球根が、ラナンキュラス、アネモネ、チューリップ、
リシアンサス、およびカンパニュラの群から選ばれた少なくとも1種の種又は球根、あるいはサクランボ、ビワ、およびナシの群から選ばれた少なくとも1種の果樹苗である、請求項1または2記載の低温感応性植物の栽培方法。
【請求項4】
ハウス内に定植後、ハウス内の温度が25℃を上回る場合には、冷房機器でハウス内の温度を下げ、ハウス内の温度が5℃を下回る場合には、暖房機器でハウス内の温度を上げることにより、ハウス内の温度を5〜25℃に保持する、請求項1〜いずれかに記載の低温感応性植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラナンキュラスやアネモネなどの低温感応性植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「低温感応性」とは、低温に遭遇することで花芽が形成される性質である。低温感応の温度は0〜15℃の範囲にあるとされるが、種類によって適温は異なる。種子低温感応型は、種子の吸水直後から低温に感応するもので、対象となる低温感応性植物としては、サクランボ、その他の果樹や、チューリップ、リシアンサス、カンパニュラ類などが含まれる。
ところで、低温感応が完結した後には温暖長日によって花茎が伸長し、抽だいするものが多い。
抽だい抑制のためには、花芽分化を抑制することが必要であり、温室、ハウスなどでは昼間高温のため、夜間の低温の作用を消去する脱春化が行われることが多い。
低温感応性は長日との組み合わせやジベレリン施与処理によって高まることが多いが、その生理的な機構については明らかではない。
これまで、低温感応性植物の種子を低温処理して発芽させることについては、種々、農業書などで提案されてはいるが、これと発芽後の栽培方法とを組み合わせる農業技術については、ほとんど提案されてはいない。
【0003】
一方、近年、ナノバブル発生装置により得られたナノバブル水を使用し、例えば、ヒラメ、フグ、エビ、貝等の魚介類(動植物)や、蔬菜類を栽培する方法が開発されている(例えば特許文献1)。
ナノバブル水は、直径がナノメートル単位の微細な気泡を含む水である。このように気泡体積が微小であるため、上昇速度が遅く、長い間水中に気泡が滞在し続けることにより、高い溶存酸素量が得られる。その結果、魚介類の酸素欠乏が防止され、かつ魚病の原因となる嫌気性菌が減少して魚介の生産性が高まり、また水中の懸濁物の浮上、養殖槽の底のヘドロの浮上などの効果も得られるうえ、蔬菜類の成長を促進する効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第308850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低温感応性植物の種、苗や球根を低温処理することにより、当該種、苗や球根の春化を促進させて、季節を問わずに、当該低温感応性植物の種、苗や球根を発芽させるとともに、当該植物の成長期に微小気泡水を散水することにより、発芽した当該植物の成長を促進するとともに、必要に応じて、その成長をコントロールすることが可能な、低温感応性植物の栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の請求項1〜5により構成される。
<請求項1>
低温貯蔵庫内で、低温感応性植物の種、苗あるいは球根を、0〜15℃で、20日〜45日間、低温処理し、発芽させ育苗した苗を、ハウス内の圃場に定植したのち、微小気泡水を散水することを特徴とする、低温感応性植物の栽培方法。
<請求項2>
冷蔵庫内での低温処理時においても、微小気泡水を散水する、請求項1記載の低温感応性植物の栽培方法。
<請求項3>
低温感応性植物の種、苗や球根が、ラナンキュラス、アネモネ、チューリップ、リシアンサス、およびカンパニュラの群から選ばれた少なくとも1種の球根、あるいは、サクランボ、ビワ、およびナシの群から選ばれた少なくとも1種の果樹苗である、請求項1または2記載の低温感応性植物の栽培方法。
<請求項4>
前記微小気泡水が、ナノバブル水である、請求項1〜3いずれかに記載の低温感応性植物の栽培方法。
<請求項5>
ハウス内に定植後、ハウス内の温度が高い場合には、冷房機器でハウス内の温度を下げ、ハウス内の温度が高温の場合には、冷房機器で温度を下げることにより、ハウス内の温度を5〜25℃に保持する、請求項1〜4いずれかに記載の低温感応性植物の栽培方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、まず低温感応性植物の種、苗や球根を、低温貯蔵庫内で0〜15℃で、20日〜45日間低温処理することにより、当該種子類の春化を促す。これにより、季節を問わず、低温感応性植物の種子類の発芽が準備される。そして、当該貯蔵庫内で育苗した種、苗や球根を、ハウス内の圃場に定植するとともに、本葉以降の植物の成長期に、微小気泡水を散水することにより、成長を促進させることができるとともに、植物の増収が飛躍的に向上する。
また、ハウス内で栽培を行う際に、ハウス内が、高温のときには冷房機器で温度を下げ、低温時には暖房機器で温め、ハウス内の温度を5〜25℃に保つことにより、花卉などを長く新鮮に保つことができ、市場価値が極めて高いものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、低温感応性植物とは、低温に遭遇することで花芽が形成される性質を有する植物である。低温感応の温度は0〜15℃の範囲にあるとされるが、種類によって適温は異なる。種子低温感応型は、種子の吸水直後から低温に感応するものである。
このような、低温感応性植物としては、ラナンキュラス、アネモネ、チューリップ、チューリップ、リシアンサス、カンパニュラなどの球根が挙げられる。
また、低温感応性果樹としては、サクランボ、ビワ、ナシなどの苗が挙げられる。
【0009】
本発明では、これらの低温感応性植物の種、苗や球根を、冷蔵庫、低温倉庫などの低温貯蔵庫において、0〜15℃、好ましくは5〜15℃の低温下で、20日〜45日の間、低温処理(春化処理)して、発芽を促進させるとともに、その後、育苗する。
この間、後記するような微小気泡水(ナノバブル水)を適宜、散水して苗に対して、水分を補給することが好ましい。育苗中に、ナノバブル水を散水すると、育苗が促進されて、通常よりも苗が大きく、さらに育苗期間も、1割程度、短くすることができる。
【0010】
低温貯蔵庫で低温処理(春化処理)され、育苗された苗は、通常、本葉が出た段階で、ハウス内の圃場に定植される。
本発明の特徴は、このように低温貯蔵庫で発芽、育苗された苗をハウス内の圃場で栽培する際、ナノバブル水を散水するとともに、必要に応じて、ハウス内の栽培温度を適宜管理することにある。
【0011】
ここで、「ナノバブル」とは、直径が1mmの5,000分の1ほどの、目には見えない小さな泡であり、通常、直径が200ナノメートルよりも小さい泡であって、通常の大きさの泡と異なり、数カ月にわたって消えることがない。このような、ナノバブル水は、水の中でマイクロバブルを圧壊(衝撃波によって急激に潰すこと)させることで発生させることができる。ナノバブルは目には見えず、空気や酸素含む水で作ったナノバブルを含む水は無色透明になる。
【0012】
この微小気泡水(ナノバブル水)の発生装置の具体例は、本発明者が先に提案した実用新案登録第308850号公報の「微小気泡水による動植物陸上生育設備」を用いることができる。
すなわち、このようなナノバブル水の製造装置としては、上記の実案にあるように、「動物または植物の生育を行う動植物生育場付近の屋外に付設された微小気泡水槽と、該微小気泡水槽に設けられ、水面下で微小気泡を発生させる微小気泡発生機と、前記微小気泡水槽から前記動植物生育場に前記微小気泡水を供給する給水配管と、該微小気泡水槽の上面開口を開閉自在に塞ぐ遮光性カバー材とを備えたことを特徴とする微小気泡水による動植物陸上生育設備」(同実案の請求項1)があげられ、これを用いて製造されたナノバブル水をもちいて、ハウス内の圃場に適宜散水すればよい。
なお、ハウス内へのナノバブル水の散水量は、栽培される低温感応性植物の種類や生育状況、天候などにより異なり、一律に定められるものではない。
【0013】
また、本発明では、低温感応性植物の種、苗や球根を育苗した苗を、ハウス内に定植後、ハウス内の温度が高い場合には、冷房機器でハウス内の温度を下げ、ハウス内の温度が高温の場合には、冷房機器で温度を下げることにより、ハウス内の温度を5〜25℃、好ましくは20〜25℃に保持することにより、植物の生育を遅らせたり、早めたりすることが可能となる。
例えば、低温感応性植物の定植後、春先から夏にかけてハウス内の温度が上がり、生育が早まるような場合には、冷房機器でハウス内の温度を下げることにより、生育期間を長くずらしたり、花の開花を遅らせたり、果樹苗をゆっくり生育させたりすることができる。
また、秋から冬にかけてハウス内の温度が下がる場合には、暖房機器を用いて、ハウス内の温度を上げることにより、植物の生育速度を速めたり、開花時期を早めたりすることができる。
ハウス内の温度は、通常、年間を通して、5〜25℃程度に調整することが好ましい。
【0014】
本発明によれば、低温処理(春化処理)を人為的に施すことにおり、春化時期を早めたり、遅らせたりすることができ、この際、発芽後、育苗期間に、好ましくはナノバブル水を散水することにより、苗が丈夫になり、かつ育苗期間が1割程度短縮させることができる。
また、ハウス内に苗を定植後、ナノバブル水を散水することにより、生育期間が1〜2割程度短縮されるとともに、低温感応性植物、例えば花卉類が1〜5割程度、増収することが可能である。
【実施例】
【0015】
以下、実施例をあげて、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1(ラナンキュラスの栽培)
平成29年8月3日に、ラナンキュラスの球根を自社農場内の低温貯蔵庫内で8℃、35日間、低温処理したところ、15日目に発芽した。これに、ナノバブル水を散水して、35日間育苗した。
本葉が出たところで、同年9月13日に、自社農場にあるハウス内の圃場に秘密裡に定植し、ナノバブル水を散水しながら、栽培を続けた。9月13日より、夜間の気温を20〜25℃に冷房機器で抑え、同年11月25日頃より、開花が始まり、通常の栽培に比べて、1ケ月程度、前倒しで花を出荷することができた。
また、春の気温が上がり、冷房機器を用いて、ハウス内の温度を7〜10℃程度に下げると、本年5月中旬まで開花させることができた。通常のラナンキュラスの栽培(開花)は、1月中旬から3月下旬までであるので、本発明によれば、通常栽培よりも開花時期が1か月くらいはやく開花させることができ、開花期間を1か月半程度延ばすことができた。
しかも、本発明の栽培方法では、単位面積あたりの出荷量が3割程度、増収であった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明によれば、ラナンキュラス、アネモネなどの低温感応性植物の栽培に有用であり、この技術は、低温感応性植物である、その他の蔬菜類、花卉類の種、花卉類の球根や果樹苗の栽培にも適用可能である。