(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779703
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】木造柱の柱脚部固定構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20201026BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
E04B1/58 511L
E04B1/26 E
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-160419(P2016-160419)
(22)【出願日】2016年8月18日
(65)【公開番号】特開2018-28208(P2018-28208A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2019年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】598101619
【氏名又は名称】今井 克彦
(73)【特許権者】
【識別番号】503117841
【氏名又は名称】株式会社森林経済工学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084593
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】今井 克彦
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−034990(JP,A)
【文献】
特開2011−149230(JP,A)
【文献】
特開2008−163652(JP,A)
【文献】
特開平06−173343(JP,A)
【文献】
特開2015−190119(JP,A)
【文献】
実開平02−139205(JP,U)
【文献】
特開2004−308365(JP,A)
【文献】
特開2015−048611(JP,A)
【文献】
特開2001−065202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造柱の下端部がコンクリート基礎上に載置される木造柱の柱脚部固定構造において、 前記基礎に打たれたアンカーボルトにより固定される鋼製ベースプレートの上面には、木造柱の下端部を収容する鋼管が溶接され、
該鋼管に収容された柱脚部には、前記鋼製ベースプレートを下面から貫入するラグスクリューが螺着・緊締され、
該柱脚部と前記鋼管との間に残された隙間には、隙間充填用樹脂が注入されて樹脂層が形成され、
前記アンカーボルトは前記柱脚部の軸芯に対して対称・非対称の如何を問わず配設されたアンボンドPC鋼棒とされていることを特徴とする木造柱の柱脚部固定構造。
【請求項2】
前記アンボンドPC鋼棒に代えて、普通鋼製のアンカーボルトとしたことを特徴とする請求項1に記載された木造柱の柱脚部固定構造。
【請求項3】
前記木造柱は木造角柱であり、前記鋼管は角形鋼管であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された木造柱の柱脚部固定構造。
【請求項4】
前記木造柱は木造丸柱であり、前記鋼管は丸形鋼管であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された木造柱の柱脚部固定構造。
【請求項5】
前記樹脂層内には露出することのない鋼板が埋入されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載された木造柱の柱脚部固定構造。
【請求項6】
前記鋼板は平鋼板であることを特徴とする請求項5に記載された木造柱の柱脚部固定構造。
【請求項7】
前記平鋼板は縞鋼板とし、突起のある凸面が柱の木肌に向けて配置されたことを特徴とする請求項6に記載された木造柱の柱脚部固定構造。
【請求項8】
前記アンカーボルトには前記鋼製ベースプレートの高さ出しと水平出しをする樹脂製ナットが鋼製ベースプレートの下面に螺着され、アンカーボルトの鋼製ベースプレート上アンカーナットを締め上げると、樹脂製ナットにネジ破壊をきたさせるようにしたことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載された木造柱の柱脚部固定構造。
【請求項9】
前記鋼管の裾部には隙間充填用樹脂の注入口が設けられ、当該隙間充填用樹脂の注入・押し上げ・充填されるようになっていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載された木造柱の柱脚部固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木造柱の下端部をコンクリート基礎上に直接もしくは間接的に載置するようにしている木造柱の柱脚部固定構造に関し、詳しくは、柱などの部材強度に対して接合部の強度が上回る接合効率の高い木質構造とし、地震や風荷重を受けたときの水平方向の抵抗力が極めて高く、大きい曲げモーメントに対抗できるようにした柱脚部固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば
図7に示すように、木造柱25の柱脚は、コンクリート基礎21すなわち地中梁から上方に向けて伸びているアンカーボルト22により固定されている木製土台23に、ホールダウン金物24を介するなどして固定される。ホールダウン金物は柱の抜けを防止するように作用するが、柱の回転を阻止できるものでない。すなわち、水平方向の抵抗力が極めて弱い。そこで、柱25と土台23からなる軸組に木製筋交い26を入れたブレース仕様としたり、
図8に示すように、柱と土台の交差部位に構造用合板27をあてがう耐力壁仕様とされるなどして回転の抑制や面剛性が高められるようにしている。
【0003】
そのような措置が施されるにしても柱と土台との一体性は依然として低く、地震や風荷重に抵抗して、大きい曲げモーメントに対抗できるようになるとは言いがたい。近年木造住宅の耐震設計において、耐力壁を耐震要素とする構法より計画自由度の高い構造の需要が高まっている。それは接合部にモーメント抵抗を持たせた木質ラーメン構造であり、その種の研究が数多く行われてきている。代表的なものとしては、引きボルト接合、鋼板挿入ドリフトピン接合、合わせ梁接合などがある。それぞれについての一例ではあるが、順に、特許文献1〜3などにおいて開示された接合形態を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−96262号公報
【特許文献2】特開2016−113805
【特許文献3】特開2013−79542
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した耐力壁仕様や筋交い仕様の木造建築としなければならないのは、端的に言って柱脚の固定ができていないことに起因する。また、上で例示した接合形態でさえ、部材(柱やその軸組)の強度に対して接合部の強度が到底上回り得ない。したがって、木造の設計は接合部で決まるとまで言われる。よって、接合強度つまり接合効率の高い木質構造の柱脚構造を創出することが、強く望まれる。
【0006】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、鋼管と木柱とを強固に一体化して、ベースプレートとアンカーボルトの接合が、鉄骨の柱脚と同等もしくは等価となるほどまでの構造とし、在来の木柱での施工性や固定度不足といった難点を著しく改善することができる木造柱の柱脚部固定構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、木造柱の下端部が地中梁などのコンクリート基礎上に載置される木造柱の柱脚部固定構造に適用される。その特徴とするところは、
図1を参照して、基礎10に打たれたアンカーボルト8により固定される鋼製ベースプレート3の上面には、木造柱1の下端部を収容する鋼管2が溶接され、その鋼管に収容された柱脚部は、鋼製ベースプレート3を下面から貫入するラグスクリュー4が螺着・緊締される。その柱脚部と鋼管2との間に残された隙間5には、隙間充填用樹脂7が注入されて樹脂層が形成される。そして、アンカーボルト8は柱脚部の軸芯や重心に対して対称・非対称の如何を問わず配設されたアンボンドPC鋼棒とされていることである。
【0008】
アンボンドPC鋼棒に代えて、普通鋼製のアンカーボルト(図示せず)としてもよい。
【0009】
図5の(a),(b)に示すように、樹脂7の層内には露出することのない補強用鋼板17が埋入されることもある。その鋼板が木造角柱に適用される場合、平鋼板としておけばよく、その鋼板を縞鋼板とする場合は、突起のある凸面を柱の木肌に向けて配置しておくことが好ましい。
【0010】
図1に示すように、アンカーボルト8には鋼製ベースプレート3の高さ出しと水平出しをする樹脂製ナット12が鋼製ベースプレートの下面側に螺着され、鋼製ベースプレート3上に出たアンカーボルト8のアンカーナット20を締め上げれば、樹脂製ナット12のネジを破壊させることができる。
【0011】
鋼管2の裾部には、隙間充填用樹脂の注入口16(
図5(a)を参照)が設けられ、隙間充填用樹脂を注入・押し上・充填されるようにしておく。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基礎に打たれたアンカーボルトにより固定される鋼製ベースプレートの上面に木造柱の下端部を収容する鋼管が溶接されているから、柱脚が剛強な固定となっている。それゆえ、木造建築の水平方向の抵抗力を高めることができる。すなわち、極端な場合、耐力壁や筋交いなくしても耐震性を高く発揮させることができる。また、アンカーボルトの重心と柱の重心が一致するように設計されるが、PC鋼棒に軸力を導入した圧着部分では、ベースプレート下面は裏込めモルタルやコンクリート基礎から離反しないので、これらの重心を一致させる必要もなくなる。
【0013】
また、抜出し防止に設置したラグスクリューは、強い締付け力を有するため樹脂が硬化していない時点でも木柱と鋼管の相対位置を維持しておくことができる。このことは、注入後、すぐに柱をハンドリングできるため、生産性が極めて高くなることを意味する。
【0014】
アンカーボルトをコンクリートとの付着を切るコーティング処理によりアンボンド化していることにより、ナットを締め付けた時のボルトの伸び代が大きく、十分な締付け力を長期にわたって維持させることができる。木柱底部のラグスクリューは組立を容易にするだけでなく、充填した樹脂と角形鋼管内面との接着力が経年変化によって低下した場合でも、柱の引き抜き応力に対して抵抗すべく寄与する。
【0015】
この樹脂による充填は鋼管と木材間のクリアランスを埋めることになり、樹脂の注入によりガタを抑制することができ、小さな変形時点から安定して剛性を得ることができる。アンカーボルトにはアンボンド処理したPC鋼棒を用いて初期軸力を導入しておくから、この導入軸力は柱に作用するあらゆる水平力に対してベースプレートの下面が裏込めモルタルと離反することがないようにしておくことができる。この離反がないかぎり柱と下部モルタルおよびコンクリート基礎との一体性が保たれ、柱脚の固定が圧着接合的に実現される。
【0016】
PC鋼棒に代えて普通鋼製のアンカーボルトとした場合は、PC鋼棒並みの能力は期待できないが、柱と下部モルタルおよびコンクリート基礎との一体性をさほど高く要求されない場合に適用すれば、工事経費の節減が図られることもあり、都合がよい。
【0017】
鋼管との隙間に鋼板を配置もしくは挿入した後、樹脂を注入して木柱と鋼板を一体化させるようにしておくなら、この部分の剪断に対して著しい補強に効果が発揮される。
その鋼板を木造角柱に適用する場合、平鋼板としておけば充分であるが、その鋼板を縞鋼板とする場合には突起のある凸面を柱の木肌に向けて配置しておけば、突起は柱との間にほぼ均等な樹脂充填空隙を残すため、ほぼ均一な接着がなされる利点が生じる。
【0018】
アンカーボルトに樹脂製ナットをベースプレートの下面側に螺着させておけば、ベースプレートの高さ出しや水平出しが容易となる。加えて、ベースプレート上のアンカーナットを締め上げれば樹脂製ナットのネジを破壊させることができ、スムーズな張力導入が可能となる。
【0019】
鋼管の裾部に隙間充填用樹脂の注入口を設けておけば、樹脂の注入・押し上・充填が確実になされ、エアの噛みこみなどが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)は本発明に係る木造柱の柱脚部固定構造の正面図、(b)はそのI−I線矢視図。
【
図2】(a)は圧着部分において、アンカーボルトを4本とし、ベースプレート下面と裏込めモルタル、コンクリート基礎が離反しないゆえに、各部材の重心や軸芯を一致させない配置とした柱脚部固定構造の正面図、(b)はそのII−II線矢視図。
【
図3】(a)は圧着部分において、アンカーボルトを2本とし、ベースプレート下面と裏込めモルタル、コンクリートが離反しないゆえに、各部材の重心や軸芯を一致させない配置とした柱脚部固定構造の正面図、(b)はその III−III 線矢視図。
【
図4】(a)は柱脚の最も簡素な例、すなわち木造柱が断面均一材とされた概要を表した柱脚部固定構造の正面図、(b)はそのIV−IV線矢視図。
【
図5】(a)は樹脂注入用の隙間に補強用鋼板が挿入された柱脚部固定構造の一例の正面図、(b)はそのV−V線矢視図。
【
図6】補強用鋼板が導入された柱脚部におけるアンカーボルトの地中梁中アンカーフレームとの配置の兼ね合い構図の一例。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る木造柱の柱脚部固定構造を、図面を参照して詳細に説明する。
図1(a),(b)は、その柱脚形態を示す。木造角柱1の下端部1aを柱脚部の角形鋼管2の一辺より若干小さくし、鋼管2内に柱辺Loの2倍程度の深さLaに挿入する。そして、ベースプレート3の下面からラグスクリュー4によって固定する。なお、角形鋼管2はベースプレート3に溶接されている。鋼管2と木柱下端部1aの隙間5には、最下部側面部(鋼管裾部)の樹脂充填用注入口(後述する
図5中の符号16を参照)にパイプ6(
図4(b)を参照)を入れ、下端から押し上げるように樹脂7を注入口から充填する。エア溜まりなどの発生が確実に抑えられる。
【0022】
アンカーボルト8には、アンボンド処理(コンクリートとの付着をフリーにした処理)したPC鋼棒(JISG3109、特公昭41−13363号公報および特許第2556388号公報等を参照)を用い、初期軸力を導入する。導入軸力は柱に作用するあらゆる水平力に対してベースプレート3の下面が裏込めモルタル9と離反しない程度の大きさとされる。これは、離反しないかぎり柱と下部モルタルおよびコンクリート基礎とが一体であるため、柱脚の圧着接合による固定が実現する。なお、10は地中梁などのコンクリート基礎である。
【0023】
テンプレート11はアンカーボルト8であるPC鋼棒の位置決めを正確にするための型板であり、テンプレートの下のポリエチレンナット12は、裏込めモルタル9を打つ前にベースプレート3の高さおよび水平を出すためのものである。PC鋼棒8のナット本締めのときにはネジ山が抜けて(PC鋼棒のネジ山よりはるかに弱い)、PC鋼棒に初期張力がアンカーナット20によって容易に導入される。また、PC鋼棒の材料強度は、通常アンカーボルトに使われる普通鋼に比べて3〜4倍程度と大きいので、同じ耐力に対して普通鋼アンカーボルトに比べて著しく小さい断面のもので済ますことができる。これは同じ張力を導入するから、PC鋼棒8の伸びが3〜4倍大きいことを意味する。加えて、PC鋼棒のネジは細目ネジとされているから、導入張力の制御が容易であることとコンクリートの乾燥収縮による張力損失が極めて小さいからである。
【0024】
通常アンカーボルトの重心と柱の重心が一致するように配置されるが、PC鋼棒8に軸力を導入した圧着部分では、ベースプレート3の下面と裏込めモルタル9、コンクリート基礎10が離反しないので、これらの重心や軸芯を一致させる必要がない(
図2(a),(b)や
図3(a),(b)を参照)。また、PC鋼棒8は
図3(a),(b)に示すように、2本でもよい(アンカーボルトは
図1(b)のように標準的には4本である)。PC鋼棒8とベースプレート3とは必ずしも重心を一致させる必要はないが、設計や配置作業の簡便性、構造パーフォーマンスのうえからも、一致させておくに越したことはない。なお、
図2(b)に示すようにベースプレート3を配置するため基礎を広くした袴基礎13が施されたり、
図3(b)のように、ベースプレートの乗載の安定を図る袴基礎14が設けられたりする。ただ、重心がむやみに離れすぎないように配慮せねばならないことは言うまでもない。
【0025】
木柱1の底部のラグスクリュー4は、組立を容易にするため(柱とベースプレートとの一体化)と、充填した樹脂7と角形鋼管2の内面の接着力が経年変化によって低下した場合でも、柱1の引き抜き応力に対して抵抗させるために導入される。
【0026】
ところで、柱脚の最も簡素な例の概要を、
図4(a),(b)に示す。なお、このときの樹脂7の充填状況は省略する。木柱1に予め建方調整に用いる木ダボの穴15(
図5の(b)を参照)を設けておき、ベースプレート3と溶接された鋼管2に木柱1を通す。その際に、外装材の貼付等に不都合が生じないように鋼管2と木柱1の面を揃える処理を施す。その後、木ダボを挿入し位置決めを行った後にラグスクリュー4を通し、鋼管2と木材間のクリアランス5を充填するために、ポンプにより樹脂を注入口16から圧入する。これによりガタを抑制することができ、小さな変形時から安定して剛性を得ることが可能となる。
【0027】
なお、具体的な一例を挙げれば、木柱1の断面は鋼管2の内部および鋼管直上5mmほどの範囲が□−110×110(柱断面の縦110mm、横110mmの意)、その他は□−125×125とし、角形鋼管2はJIS規定のSHS125×125×3.2
t (または4.5
t )である。充填樹脂は常温硬化型エポキシ樹脂としておけばよい。ところが、
図4を見ても分かるが、柱材の外形寸法を一定にしておくことが好ましい。段差がなければその加工工程は省かれるうえに、応力集中等により破損しやすくなる脆弱部の存在を排除しておくことができる。
【0028】
ところで、木柱1の断面の一辺より若干大きい辺長を持つ短い角形鋼管2(鉄骨柱のようにベースプレート3に予め溶接)に木柱1を挿入し、隙間5に樹脂7を注入するが、この部分には、必要に応じて
図5(a),(b)のように平らな補強用鋼板17(例えば縞鋼板も含む)が四面それぞれに挿入される。ベースプレート3の下面からラグスクリュー4を打設する。柱1に引張り力が作用したとき、木柱1が抜け出すことを防止しておくことはすでに述べた。
【0029】
柱に地震などによる水平力が作用する水平力の作用点は、柱の反曲点と言われるもので柱の曲げモーメントが0となる点である。この水平力が作用すると木柱1に作用する曲げモーメントは鋼管頂部で最大となり、下端で0となる。鋼管2の中では、モーメント勾配(変化)が鋼管より上方の柱におけるそれよりは著しく大きくなる。この勾配が力学でいう剪断力と定義されるものであり、断面を横切る力である。木材の場合、圧縮、引張りや曲げ耐力に比べ剪断耐力や剪断剛性が著しく小さくなるため、この部分の有効な補強が望ましくなる。特に、建築納まり上、鋼管部分を低くしたい場合では、この傾向が顕著になる。補強なしでは、十分な固定度を有する柱脚の設計は難しいことがあり得る。そこで、鋼管2との隙間5に平らな鋼板、例えば1.2mm厚以上の縞鋼板を挿入し、または木柱に予め釘19や木ネジなど(
図5の(a)を参照)で固定した後、樹脂7を注入して木柱1と上記した補強用鋼板17と鋼管2を一体化しておく。ちなみに、縞鋼板を使用する場合は、突起のある凸面を柱の木肌に向けて配置し、ネジ止めなどしておく。突起は柱との間にほぼ均等な樹脂充填空隙を残し、樹脂の接着効果が助長される。
【0030】
図6は、アンカーボルト8が基礎内のアンカーフレーム18の間に配置された様子を示す。以上の説明から分かるように鋼管2と木柱1が強固に一体化されればベースプレート3とアンカーボルト8の接合は、鉄骨の柱脚と同等となる。従来の木柱での施工性や固定度不足といった問題が著しく改善される。また、抜出し防止に設置したラグスクリュー4は、強い締付け力を有するため樹脂7が硬化しない時点でも木柱1と鋼管2の相対位置を維持しておくことができる。このことは、注入後、すぐに柱1をハンドリング(次の工程に移っての処理・操作)できることになるため、生産性が極めて高くなる。通常、樹脂を使うと硬化し強度が発現するまで24時間程度が必要なため、その間は治具などで固定しておく必要があったが、それが必要でなくなる。
【0031】
さらに述べれば、コンクリート基礎10との付着をきたさなくするコーティング処理によりアンカーボルト8をアンボンド化(特殊アスファルト系ポリマーを被覆後にポリプロピレン、ポリエチレンシースをコーティング)しており、これによりアンカーナット20(
図1(a)を参照)を締め付けたときにボルトの伸び代が所望量となり、十分な締付け力を長期にわたって維持することができる。具体的な締付け力の目安は、地震や暴風による水平力作用時に引張り側アンカーボルト8の位置のベースプレート3が下部のモルタルと離反しない程度とされる。こうすることによって、鋼管部の補強と相まって木柱脚と基礎コンクリートの完全一体化が図られる。
【0032】
アンカーボルト8としては、実用的には高強度のPC鋼棒が最適である。強度が高いため棒径を小さくでき、結果として伸び代を大きくできる。長期の張力消失防止や張力導入の精度と施工性が著しく向上する。ベースプレート3の下の樹脂製ナット12は、施工時のレベル調整が目的である。先に触れたように、裏込めモルタル9の硬化後にアンカーナット20を本締めすると樹脂製ナット12のネジが破壊され、スムーズな張力導入が可能となる。ちなみに、PC鋼棒に代えて普通鋼のアンカーボルトでも対応させることができる場合には、PC鋼棒に限られることはない。
【0033】
上記の補強鋼板17を使用する場合の柱脚組立て手順は、以下のごとくである。まず、木柱1の下部に補強鋼板4枚を釘または木ネジで固定する。ただ、木柱表面と補強鋼板の間は樹脂が充填できる程度に隙間を空けておく。次に、木柱1を鋼管2に挿入し、位置決め用木ダボを打込む。その後に、ラグスクリュー4を打設し、木柱1を立てて樹脂7を注入する。
【0034】
以上詳細に述べたことから分かるように、本発明は、木造角柱の下端部がコンクリート基礎(地中梁)上に直接もしくは間接的に載置される木造柱の柱脚部固定構造に適用されることが理解される。その構成は以下の通りである。基礎10に打たれたアンカーボルト8により固定される鋼製ベースプレート3の上面には、木造角柱1の下端部1aを収容する角形鋼管2が溶接される。その角形鋼管2に収容された柱脚部には、ベースプレート3を下面から貫入するラグスクリュー4が螺着・緊締される。その柱脚部と角形鋼管2との間に残された隙間5には、隙間充填用樹脂7が注入されて樹脂層が形成される。そして、アンカーボルト8は柱脚の軸芯や重心に対して対称・非対称の如何を問わず配設されたアンボンドPC鋼棒とされている。なお、樹脂7の層内には露出することのない補強用鋼板17が埋入されることもある。
【0035】
以上、木造柱としては木造角柱を対象にして説明してきたが、木造丸柱もしくは他の幾何学的断面を持った柱であってもよい。その場合、木柱の径より若干大きい径を持つ短い丸形鋼管などが使用される。また、樹脂層内に配設される鋼板は、半円弧状やその他柱の断面形状に馴染む形をなす折り板や曲げ板としておけばよい。いずれにしても、地中梁上面にベースプレートを直接または間接に載置することになるので、木造建築で使用されてきた地中梁上の木製土台は、大部分の場合必要とされなくなる。なお、
図4に示したが、柱の断面は一律に同じ形状・同じ寸法としておくことは、
図1、
図2、
図3、
図5、
図6においても可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1…木造角柱、1a…角柱の下端部、2…角形鋼管、3…ベースプレート、4…ラグスクリュー、5…隙間(クリアランス)、7…充填樹脂(樹脂)、8…アンカーボルト(PC鋼棒)、10…コンクリート基礎(地中梁)、12…ポリエチレンナット(樹脂製ナット)、16…注入口、17…補強用鋼板、20…アンカーナット。