特許第6779705号(P6779705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 理研ビタミン株式会社の特許一覧

特許6779705活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779705
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20201026BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20201026BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20201026BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20201026BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20201026BHJP
   C09D 175/08 20060101ALI20201026BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20201026BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   C08F290/06
   C09K3/16 101Z
   C09K3/16 106D
   C09K3/16 102L
   C09D5/00 Z
   C09D7/40
   C09D4/02
   C09D175/08
   C08F2/50
   C08F2/44 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-161700(P2016-161700)
(22)【出願日】2016年8月22日
(65)【公開番号】特開2018-30903(P2018-30903A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】向井 剛
【審査官】 工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−120120(JP,A)
【文献】 特開2002−256053(JP,A)
【文献】 特開2006−152130(JP,A)
【文献】 特表2001−509532(JP,A)
【文献】 特開昭51−053905(JP,A)
【文献】 特開2001−157582(JP,A)
【文献】 特開2007−009042(JP,A)
【文献】 特開2000−129235(JP,A)
【文献】 特開2009−287016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08F290/00−290/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(D)を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物。
(A):ホウフッ化の金属塩、六フッ化リン酸の金属塩、トリフルオロメタンスルホン酸の金属塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの金属塩、ビス(フルオロスルホニル)イミドの金属塩および過塩素酸の金属塩からなる群から選択される1種または2種以上のアルカリ金属塩
(B):アクリルアミド誘導体および/または3級アミン含有(メタ)アクリル酸エステル
(C):ポリエーテル鎖を含むウレタンアクリレート
(D):光重合開始剤
【請求項2】
さらに下記(E)を含有することを特徴とする請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物。
(E):請求項1に記載の(B)、(C)以外の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
【請求項3】
請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して得られる帯電防止性樹脂硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線によって硬化する帯電防止性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高分子材料やガラスなどの基材に帯電防止性を付与する目的で、基材表面に活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物を塗布などの方法でコーティングし、活性エネルギー線を照射して硬化物(硬化皮膜:コーティング層)を設けて対応している。前記活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物は、1分子中に(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化性化合物などに各種帯電防止剤(例えば、アルカリ金属塩、導電性フィラーなど)を配合したものが知られている。しかし、帯電防止剤として導電性フィラー(例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、チタン酸バリウム、酸化アンチモン、酸化スズ/インジウムなどの無機微粒子)を多量に用いると硬化物の透明性が失われる虞がある。そのため、硬化物に透明性が求められる場合は、帯電防止剤としてアルカリ金属塩を用いられることが多い。
【0003】
帯電防止剤としてアルカリ金属塩を用いる活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物に関する従来技術としては、(A)アルカリ金属塩、(B)特定の構造素示であるアクリルアミド誘導体、(C)分子内に2つ以上の活性エネルギー線重合性基を有する硬化性化合物とを含むコーティング剤組成物(特許文献1)、(A)特定の平均粒子径である無機微粒子、(B)アルカリ金属塩、(C)分子構造中にポリオキシアルキレン骨格を有するオルガノポリシロキサン及び(X)分子構造中に(メタ)アクリロイル基を有する特定のアクリル重合体を必須の成分として含有し、その不揮発成分100質量部中に前記(A)無機微粒子を特定量含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物(特許文献2)、(A)アクリル系共重合体、(B)一分子中に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を3〜40個有するオキシアルキレン変性多官能(メタ)アクリレート系モノマー、及び(C)アルカリ金属塩を含む粘着性材料に、活性エネルギー線を照射してなる光学用粘着剤(特許文献3)などが開示されている。
【0004】
しかし、これらの従来技術では、十分な帯電防止性能が得られない虞があり、さらに特許文献3に開示されるような帯電防止性組成物ではヘイズ値が高く透明性に問題を生じる虞がある。従って、透明性が高く、非常に優れた帯電防止性能を有する活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−152130号公報
【特許文献2】特開2013−108009号公報
【特許文献3】特開2010−229342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、透明性を有し、帯電防止性に優れた硬化物を得ることが可能な、活性エネルギー線によって硬化する活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物に、特定のウレタンアクリレートを配合することにより上記課題を解決することを見出した。本発明者は、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の構成からなっている。
[1]下記(A)〜(D)を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物。
(A):アルカリ金属塩
(B):アクリルアミド誘導体および/または3級アミン含有(メタ)アクリル酸エステル
(C):ポリエーテル鎖を含むウレタンアクリレート
(D):光重合開始剤
[2]さらに下記(E)を含有することを特徴とする上記[1]に記載の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物。
(E):請求項1に記載の(B)、(C)以外の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
[3]上記[1]または[2]に記載の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して得られる帯電防止性樹脂硬化物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物は、活性エネルギー線によって硬化し、得られた硬化物は透明性を有し、さらに帯電防止性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物は、下記(A)〜(D)を含有し、さらに下記(E)を含有することも可能である。
(A):アルカリ金属塩
(B):アクリルアミド誘導体および/または3級アミン含有(メタ)アクリル酸エステル
(C):ポリエーテル鎖を含むウレタンアクリレート
(D):光重合開始剤
(E):上記(B)、(C)以外の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
【0010】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物は、通常液状あるいはペースト状であり、活性エネルギー線によって硬化するものである。
【0011】
本発明で用いられる(A):アルカリ金属塩(以下、「A成分」ともいう。)は、後述するB成分に溶解するアルカリ金属塩であれば特に制限はなく、例えば、ホウフッ化の金属塩、六フッ化リン酸の金属塩、トリフルオロメタンスルホン酸の金属塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの金属塩、ビス(フルオロスルホニル)イミドの金属塩、過塩素酸の金属塩などが挙げられる。アルカリ金属塩のカチオンとしてはナトリウム、リチウムなどが挙げられる。
これらアルカリ金属塩は、少なくとも1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
本発明で用いられる(B):アクリルアミド誘導体および/または3級アミン含有(メタ)アクリル酸エステル(以下、「B成分」ともいう。)は、溶液状であり上記A成分を溶解し、活性エネルギー線によって光重合して硬化する物質である。
【0013】
アクリルアミド誘導体(以下、「B1成分」ともいう。)としては、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンなどが挙げられる。これらのアクリルアミド誘導体の中でも、活性エネルギー線による光重合性を考慮した場合、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドが特に好ましい。
これらのアクリルアミド誘導体は、少なくとも1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
3級アミン含有(メタ)アクリル酸エステル(以下、「B2成分」ともいう。)としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの3級アミン含有(メタ)アクリル酸エステルの中でも、活性エネルギー線による光重合性を考慮した場合、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
これらの3級アミン含有(メタ)アクリル酸エステルは、少なくとも1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明で用いられる(C):ポリエーテル鎖を含むウレタンアクリレート(以下、「C成分」ともいう。)は、活性エネルギー線によって光重合して硬化し、帯電防止性を向上する手助けをする物質である。帯電防止性が向上する原理は定かではないが、C成分が光重合することにより分子内にエーテル結合の導電回路様が形成され、これがA成分のイオン伝導性を高めるものと考えられえる。
ポリエーテル鎖を含むウレタンアクリレートとしては、例えば、1分子中に繰り返し単位4〜45のポリアルキレングリコール基を含むウレタンアクリレートが挙げられ、好ましくは1分子中に繰り返し単位4〜23のポリアルキレングリコール基を含むウレタンアクリレートである。
これらポリエーテル鎖を含むウレタンアクリレートは、少なくとも1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
C成分は、市販品を用いることも可能であり、例えば、紫光UV−3700B(商品名;日本合成化学工業社製)、紫光UV−3300B(商品名;日本合成化学工業社製)、UXF−4002(商品名;日本化薬社製)、UA−160TM(商品名;新中村化学工業社製)、ニューフロンティアR−1220(商品名;第一工業製薬社製)、ニューフロンティアR−1204(商品名;第一工業製薬社製)などを例示することができる。
【0017】
本発明で用いられる(D)光重合開始剤(以下、「D成分」ともいう。)は、紫外線などの活性エネルギー線でラジカルを発生する重合性の開始剤であり、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
これら光重合開始剤は、少なくとも1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明で用いられる(E)上記B成分、C成分以外の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(以下、「E成分」ともいう。)は、本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物を硬化した硬化物の物性をコントロールあるいは補足する物質である。E成分は、硬化物に要望される性質、形状、用途などによって適宜選択され、その構造は特に限定されるものではない。
B成分、C成分以外の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、B成分およびC成分以外のウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレートなどが挙げられ、具体的には、例えば、2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0019】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物中のA成分の配合量は、帯電防止性を発揮する量であれば特に制限はないが、例えば、B成分およびC成分、あるいはB成分、C成分およびE成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.5〜6質量部であり、より好ましくは1〜4質量部である。A成分の配合量が上記範囲内であると、活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物の硬化物は透明性を有し、優れた帯電防止性を発揮するため好ましい。
【0020】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物中のB成分の配合量に特に制限はないが、B成分およびC成分、あるいはB成分、C成分およびE成分の合計100質量部中、好ましくは10〜70質量部、より好ましくは15〜50質量部である。B成分の配合量が上記範囲内であるとA成分を十分に溶解することができ、さらに帯電防止性に良好な影響を与えるため好ましい。
【0021】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物中のC成分の配合量に特に制限はないが、B成分およびC成分、あるいはB成分、C成分およびE成分の合計100質量部中、好ましくは30〜90質量部、より好ましくは50〜85質量部である。C成分の配合量が上記範囲内であると帯電防止性に優れた効果が得られるため好ましい。
【0022】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物中のD成分の配合量に特に制限はないが、B成分およびC成分、あるいはB成分、C成分およびE成分の合計100質量部に対して、好ましくは2.0〜6.0質量部、より好ましくは3.0〜5.0質量部である。D成分の配合量が上記範囲内であると、活性エネルギー線により十分な光重合性が得られるため好ましい。
【0023】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物にはE成分を配合してもよく、E成分の配合量としては、該樹脂組成物の硬化物の性質、形状、用途などによって適宜調整することができる。E成分の配合量としては、B成分、C成分およびE成分の合計100質量部中、60質量部以下であることが好ましい。
【0024】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で他の物質を配合することができる。他の物質としては、例えば、有機溶剤が挙げられる。
上記有機溶剤の具体例としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、トルエンおよびキシレンなどが挙げられる。これらの有機溶剤はA成分、B成分、C成分およびD成分、あるいはA成分、B成分、C成分、D成分およびE成分を希釈するものである。これら有機溶剤を配合した場合は、後述する活性エネルギー線により本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物を硬化する前に、乾燥などの方法によって有機溶剤を除去する必要がある。
【0025】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物は、A成分、B成分、C成分およびD成分あるいはA成分、B成分、C成分、D成分およびE成分を均一に混合することにより得られる。前記混合としては公知の混合方法、公知の混合装置によって混合することができる。
【0026】
前記均一に混合する手順に特に制限はないが、例えば、A成分をB成分に溶解し、その後にC成分およびD成分、所望によりさらにE成分を加えて撹拌し、均一になるまで混合すればよい。
混合する際の温度に特に制限はないが、各成分に影響しない範囲の温度に加温することが好ましく、例えば、80℃以下、好ましくは常温(25℃)〜60℃を例示することができる。
【0027】
本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物を活性エネルギー線の照射によって硬化してなる帯電防止性樹脂硬化物も本発明の形態の1つである。
【0028】
上記活性エネルギー線としては、本発明の活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物が硬化する光線であれば特に制限はなく、例えば、紫外線、電子線、X線などが挙げられ、重合性、取扱い易さなどを考慮した場合、好ましくは紫外線である。紫外線の光源としては、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプなどが使用される。
【0029】
活性エネルギー線の照射量は、活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物に含まれる各成分の種類および配合量、あるいは照射する機器によって異なるため、適宜調整する必要がある。例えば、高圧水銀型ランプやメタルハライド型ランプを用いて紫外線を照射して硬化する場合、積算光量300〜3000mJ/cmを例示することができる。
【0030】
本発明の帯電防止性樹脂硬化物は、高分子材料やガラスなどの基材表面に塗布して活性エネルギー線を照射することで、非常に優れた帯電防止効果を有する硬化物(硬化皮膜:コーティング層)を得ることができる。
前記硬化物は様々な物性であってもよく、例えば、プラスチックフィルムやシートの表面保護として用いられるハードコートやソフトコート、反射防止や屈折率調整、防汚機能に用いられる各種コーティング剤、両面テープやダイシングテープ、保護フィルムに用いられる粘着剤などの活性エネルギー線硬化性樹脂に適用できる。
【0031】
上記高分子素材としては、熱可塑性プラスチックや熱硬化性プラスチックおよびその他の樹脂材料などが挙げられる。これら高分子素材の形態に特に制限はないが、例えば、シート、フィルムおよび成形物などの形態が挙げられる。
【0032】
上記塗布する方法に特に制限はなく、例えば、グラビアロールコートなどのロールコート、スリットダイなどによるダイコート、スプレーコートおよびディッピングなどが挙げられる。
【0033】
樹脂シートに活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射して帯電防止性硬化物をコーティング層としたシートの製造方法を以下に例示する。
例えば、膜厚125μmのポリエチレンテレフタレート系シートに、アプリケーターを用いて活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物を膜厚10μmになるよう塗布し、塗布したコーティング層に紫外線ランプ(メタルハライド型、照度1400mW/cm)で積算光量1000mJ/cm照射してコーティング層を硬化することにより得られる。
【0034】
かくして得られた帯電防止性硬化物をコーティング層としたシートは、コーティング層が透明であり、帯電防止性に優れた効果を有する。
【0035】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0036】
≪活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物の作製≫
(1)原材料
[A成分:アルカリ金属塩]
A−1(ホウフッ化ナトリウム;森田化学工業社製)
A−2(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム;森田化学工業社製)
[B成分:アクリルアミド誘導体および/または3級アミン含有(メタ)アクリル酸エステル]
B1−1(N,N−ジメチルアクリルアミド;KJケミカルズ社製)
B2−1(N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート;KJケミカルズ社製)
[C成分:ポリエーテル鎖を含むウレタンアクリレート]
C−1(商品名:紫光UV−3700B;日本合成化学工業社製)
C−2(商品名:ニューフロンティアR−1220;第一工業製薬社製)
[D成分:光重合開始剤]
D−1(商品名:イルガキュア184;BASF社製、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)
[E成分:B成分、C成分以外の(メタ)アクリロイル基を有する化合物]
E−1(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート;日本化薬社製)
[F成分:C成分とは異なるウレタンアクリレート]
F−1(商品名:紫光UV−3200B;日本合成化学工業社製、ポリエステル型ウレタンアクリレート)
【0037】
(2)配合
上記原材料を用いて作製した活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物の配合組成を表1に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
(3)活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物の作製方法
表1に記載の等倍量の原材料を用いて、活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物(実施例品1〜7、比較例品1〜3)を下記方法で作製した。
[実施例品1〜7、比較例品3]
A成分およびB成分を遮光容器に量りとり、攪拌機を用いて撹拌してA成分を溶解した後、他の成分を加えて60℃・30分間さらに撹拌混合して活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物(実施例品1〜7、比較例品3)を得た。
得られた実施例品1〜7、比較例品3は、A成分が溶解して透明な状態であった。
【0040】
[比較例品1]
各成分を遮光容器に量りとり、撹拌機を用いて60℃・30分間撹拌混合し、活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物(比較例品1)を得た。
得られた比較例品1は、透明な状態であった。
【0041】
[比較例品2]
各成分を遮光容器に量りとり、撹拌機を用いて60℃・30分間撹拌混合し、活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物(比較例品2)を得た。しかし、得られた比較例品2は、A成分が溶解せず、均一に混合することができなかった。
比較例品2は、活性エネルギーを照射して硬化物を得たとしても、A成分が均一な混合状態でないために帯電防止性が得られず、活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物としては不適なものであった。
【0042】
≪帯電防止性コーティング層を有する樹脂シートの作製≫
(1)原材料
樹脂シート(ポリエチレンテレフタレート系樹脂シート;東レ社製、膜厚125μm)
活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物(上記実施例品1〜7、比較例品1、3)
(2)帯電防止性コーティング層を有する樹脂シートの作製方法
樹脂シートに、アプリケーターを用いて上記実施例品1〜7および比較例品1、3を膜厚10μmになるよう塗布し、紫外線ランプ(FusionUV社製無電極ランプ、Hバルブ、照度1400mW/cm)を用いて積算光量1000mJ/cmとなるように紫外線を照射して光重合を行い帯電防止性コーティング層を有する樹脂シート(試作品1〜9)を得た。
【0043】
≪帯電防止性コーティング層を有する樹脂シートの透明性、帯電防止性の評価≫
(1)透明性の評価
得られた帯電防止性コーティング層を有する樹脂シート(試作品1〜9)の透明性について、ヘイズメーター(型式:NDH2000;日本電色工業社製)を用いてヘイズ(%)、全光線透過率(%)を測定した。また、帯電防止性コーティング層を有さない樹脂シート(参考品)の透明性についても同様に測定した。
ヘイズ(%)が1%以下、全光線透過率(%)が88%以上であると透明性を有すると判断できる。結果を表2に示す。
【0044】
(2)帯電防止性の評価
得られた帯電防止性コーティング層を有する樹脂シート(試作品1〜9)を20℃、湿度65%RHで24時間エージングし、同条件で極超絶縁計(型式:SM−8000Series;HIOKI社製)を用いて表面固有抵抗を測定した。また、帯電防止性コーティング層を有さない樹脂シート(参考品)の透帯電防止性についても同様に測定した。
表面抵抗率が10の12乗台以下であると帯電防止性が発現し、10の11乗台であると帯電防止性に優れ、10の9乗台以下であると帯電防止性に非常に優れているといえる。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
結果より、活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物として実施例品1〜7を用いた帯電防止性コーティング層を有する樹脂シート(試作品1〜7)は、透明性を有し、表面抵抗率が10の8〜10乗という数値であり帯電防止性に非常に優れていた。
一方、活性エネルギー線硬化型帯電防止性樹脂組成物として比較例品1、3を用いた帯電防止性コーティング層を有する樹脂シート(試作品8、9)は、透明性を有しているものの、表面抵抗率が10の12〜14乗という数値であり帯電防止性に優れていなかった。