(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水溶媒中で、鉄の鉱酸塩と水酸化アルカリとの中和反応を行い水酸化鉄(III)を含むスラリーを調製する第一工程、該スラリーを70℃以下で、1時間以上pH3.0〜5.0で熟成する第二工程、次いで水酸化鉄(III)を含む10質量%スラリーの電気伝導度が14mS/cm以下となるまで水で洗浄処理する第三工程、次いで洗浄処理後の含水状態の水酸化鉄(III)を押出成形し、得られる成形品を150℃以下で乾燥して造粒品を得る第四工程と、を有することを特徴とする吸着剤の製造方法。
【背景技術】
【0002】
原子力施設から排出される放射性ヨウ素は、ヨウ素(I
2)、ヨウ化水素酸(HI)及びヨウ化メチル(CH
3I)の3種類と言われている。
【0003】
これらの放射性ヨウ素の除去方法としては、次の方法が用いられている。
(1)ヨウ素含有気体又は液体を、銀ゼオライトに接触させてヨウ化銀として捕集する方法。
(2)ヨウ化カリウムを添着した添着活性炭を大量に使用して、放射性ヨウ素(ヨウ素131)を非放射性ヨウ素と同位体交換することによって捕集する方法。
(3)ヨウ素含有気体又は液体を、アミノ基を有するイオン交換性繊維に接触させて、除去する方法。
(4)不溶性のシクロデキストリン又はその誘導体を有効成分としてヨウ素を吸着する方法。
(5)水酸化セリウムを吸着剤として用いてヨウ素酸を吸着する方法。
【0004】
また、水酸化鉄(III)を吸着剤として用いる方法も提案されている。
非特許文献1では、ヨウ素酸イオンを含む溶液に硝酸鉄(III)と水酸化ナトリウムを添加して生成される水酸化鉄(III)にヨウ素酸イオンを共沈させて除去することが提案されている。
また、特許文献1では、鉄イオンを含む水溶液を、アルカリで中和して沈殿を生成させ、該沈澱を脱イオン水で洗浄し、乾燥した水酸化鉄(III)を吸着剤とすることが提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明に係る吸着剤は、非晶質の水酸化鉄(III)を含有するものである。本発明の吸着剤として用いる非晶質の水酸化鉄(III)は、粉体であってもよいし、該粉体を粒状化した造粒粒子であってもよく、それらの混合物であってもよい。
ここでいう粉体はレーザー回折散乱式粒度分布法によるメディアン径D50が1〜100μmであることが好ましい。
【0020】
本発明で吸着剤として用いる非晶質の水酸化鉄(III)は、カラムに充填して用いる観点から、造粒品であることが好ましい。造粒品の粒度は好ましくは200〜1000μm、さらに好ましくは300〜600μmである。具体的にはJIS Z8801−1規格による目開きが212μmの篩と1mmの篩とを用いたときに、吸着剤の98質量%以上、特に99質量%以上が目開き1mmの篩を通り、且つ98質量%以上、特に99質量%以上が目開き212μmの篩を通らないことが好ましい。このように、本発明の吸着剤中に212μm未満の粒径のものが少ない場合、吸着剤を吸着塔に充填して通水すると、粉体が吸着塔内で詰まりにくいため好ましい。また、本発明の吸着剤中に1mm超の粒径のものが少ない場合、吸着剤の吸着能力が高く、全体の吸着性能が高くすることができるため、好ましい。特にJIS Z8801−1規格による目開きが300μmの篩と600μmの篩とを用いたときに、吸着剤の98質量%以上、特に99質量%以上が目開き600μmの篩を通り、且つ98質量%以上、特に99質量%以上が目開き300μmの篩を通らないことが好ましい。
【0021】
本発明の吸着剤で用いる非晶質の水酸化鉄(III)は、25〜700℃の昇温過程のDSC昇温特性曲線上に現れる発熱ピークの温度が350〜400℃であるものを用いることに特徴の一つがある。
【0022】
本発明の吸着剤で用いる非晶質の水酸化鉄(III)において、発熱ピークの温度を上記範囲にする理由は、発熱ピークの温度が上記範囲以外では、特にヨウ素酸イオンの吸着性能が低くなり、造粒処理も難しくなるからである。また、本発明の吸着剤で用いる非晶質の水酸化鉄(III)は、特にヨウ素酸イオンの吸着性能をより向上させる観点から、上記発熱ピークは、370〜400℃であることが好ましく、370〜390℃であることが特に好ましい。
【0023】
本発明の吸着剤で用いる非晶質の水酸化鉄(III)は、25〜700℃まで温度上昇したときの重量減少率が18%以上であるものを用いることも特徴の一つである。
【0024】
本発明の吸着剤で用いる非晶質の水酸化鉄(III)において、25〜700℃まで温度上昇したときの重量減少率を上記範囲にする理由は、重量減少率が上記範囲以外では、特にヨウ素酸イオンの吸着性能が低くなるからである。
本発明において、特にヨウ素酸イオンの吸着性能を向上させる観点から25〜700℃まで温度上昇したときの重量減少率は、好ましくは18〜35%、一層好ましくは18〜30%である。
【0025】
本発明の吸着剤で用いる非晶質の水酸化鉄(III)は、上記物性を有することに加えて、電気伝導度が14mS/cm以下であるものを用いることも特徴の一つである。
【0026】
本発明者らによれば、非晶質の水酸化鉄(III)を造粒処理する上で電気伝導度を14mS/cm以下のものを用いることで、優れた吸着性能を有した造粒品になることを見出した。本発明において、非晶質の水酸化鉄(III)の電気伝導度は、優れた吸着性能を有した造粒品とする観点から12mS/cm以下であることが好ましく、10mS/cm以下が特に好ましい。
【0027】
本発明において、電気伝導度とは25℃の水に10質量%スラリーとしたときの電気伝導度を示す。
なお、電気伝導度は、該非晶質の水酸化鉄(III)に含有されるハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン等のイオン性不純物に起因する値である。
【0028】
本発明の吸着剤で用いる非晶質の水酸化鉄(III)は、上記物性であることに加えて、BET比表面積が100〜300m
2/g、好ましくは150〜300m
2/g、一層好ましくは200〜300m
2/gであることが、特にヨウ素酸イオンの吸着性能を向上させる観点から好ましい。
【0029】
本発明の吸着剤に係る非晶質の水酸化鉄(III)は、例えば、水溶媒中で、鉄の鉱酸塩と水酸化アルカリとの中和反応を行い水酸化鉄(III)を含むスラリーを調製する第一工程、該スラリーをpH3.0〜5.0で熟成する第二工程、次いで水酸化鉄(III)を含む10質量%スラリーの電気伝導度が14mS/cm以下となるまで水で洗浄処理する第三工程、次いで洗浄処理後の含水状態の水酸化鉄(III)を押出成形し、得られる成形品を150℃以下で乾燥する第四工程と、を有することにより、製造されるものが好ましい。
【0030】
以下、本発明に係る吸着剤の製造方法について説明する。
第一工程は、水溶媒中で、鉄の鉱酸塩と水酸化アルカリとの中和反応を行い水酸化鉄(III)を含むスラリーを調製する工程である。
【0031】
第一工程に係る鉄の鉱酸塩としては、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)等が挙げられる。
鉄の鉱酸塩は、鉄の鉱酸塩を水に溶解した水溶液として用いられる。鉄の鉱酸塩を含む水溶液の濃度は1〜50質量%、好ましくは10〜45質量%である。
【0032】
第一工程に係る水酸化アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水等が挙げられる。
水酸化アルカリは、水酸化アルカリを水に溶解した水溶液として用いられる。水酸化アルカリ水溶液の濃度は1〜50質量%、好ましくは5〜25質量%である。
【0033】
第一工程の中和反応の操作方法は、特に制限されるものではなく、水酸化アルカリ水溶液と鉄の鉱酸塩を含む水溶液を接触させればよい。例えば(1)水酸化アルカリ水溶液に鉄の鉱酸塩を含む水溶液を添加して中和反応を行う方法、(2)鉄の鉱酸塩を含む水溶液に水酸化アルカリ水溶液を添加して中和反応を行う方法、(3)水酸化アルカリ水溶液と鉄の鉱酸塩を含む水溶液を水溶媒中に同時に添加して中和反応を行う方法が挙げられる。
本製造方法において、水酸化アルカリ水溶液と鉄の鉱酸塩を含む水溶液の接触方法は、前記(1)の方法で行うことが、収率よく吸着性能が優れたものが得られると言う観点から好ましい。
【0034】
鉄の鉱酸塩を含む水溶液及び/又は水酸化アルカリ水溶液の添加は、反応温度が高い場合、水酸化鉄(III)の結晶化が進み吸着性能が低下する恐れがあるため、90℃以下、好ましくは70℃以下、一層好ましくは10〜70℃で行うことが好ましい。
【0035】
鉄の鉱酸塩を含む水溶液或いは水酸化アルカリ水溶液の添加速度は、特に制限されるものではないが一定速度となるように、もう一方の溶液に添加することが、安定した品質のものを得る観点から好ましい。
【0036】
第一工程終了後の水酸化鉄(III)を含むスラリーは、第二工程に付し熟成を行う。
【0037】
第二工程は、第一工程で得られる水酸化鉄(III)を含むスラリーのpH調整を行って熟成する工程である。
【0038】
本吸着剤の製造方法において、この第二工程を行うことにより、特にヨウ素酸イオンの吸着性能が優れ、また、後述する第三工程の洗浄処理との相乗効果で造粒処理が可能な非晶質の水酸化鉄(III)を製造することが出来る。
【0039】
第二工程では、第一工程で得られた水酸化鉄(III)を含むスラリーのpHを3.0〜5.0に調整して熟成することが重要である。この理由は、第二工程において、水酸化鉄(III)を含むスラリーのpHが上記範囲以外では、特にヨウ素酸イオンの吸着性能が劣り、また、造粒処理も難しくなるからである。本発明において、第二工程は、特にヨウ素酸イオンの吸着性能に優れ、また、造粒処理が可能な非晶質の水酸化鉄(III)を得る観点から水酸化鉄(III)を含むスラリーのpHは4.0〜5.0に調整することが好ましい。
【0040】
なお、第二工程では、必要により、酸或いはアルカリを用いて第一工程後に得られる水酸化鉄(III)を含むスラリーのpH調整を行うことができる。
【0041】
第二工程に係る熟成温度は、水酸化鉄(III)の結晶化を防止する観点から90℃以下、好ましくは70℃以下、一層好ましくは10〜70℃とすることが好ましい。第二工程に係る熟成時間は、1時間以上、好ましくは1〜12時間である。
【0042】
第二工程の熟成処理した水酸化鉄(III)を含むスラリーは、第三工程に付し洗浄処理を行う。
【0043】
第三工程は、第二工程で熟成処理した水酸化鉄(III)を洗浄処理して該水酸化鉄(III)を含む10質量%スラリーの電気伝導度が14mS/cm以下、好ましくは12mS/cm以下となるまで水で十分に洗浄処理する工程である。
【0044】
本吸着剤の製造方法において、前述した第二工程に加えてこの第三工程でハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン等のイオン性不純物を水酸化鉄(III)から除去することで水酸化鉄(III)の優れた吸着性能を維持しつつ造粒処理も可能な非晶質の水酸化鉄(III)を得ることができる。
【0045】
第三工程で水酸化鉄(III)を洗浄方法としては、特に制限はないがリパルプ等の手段により行うことが特に好ましい。
【0046】
第三工程後に得られる洗浄処理した水酸化鉄(III)は、含水状態で第四工程に付して造粒処理する。
【0047】
第四工程は、第三工程後の洗浄処理を施した含水状態の水酸化鉄(III)を押出成形して成形品を得、該成形品を乾燥して非晶質の水酸化鉄(III)を含む吸着剤を得る工程である。
【0048】
含水状態の水酸化鉄(III)は、造粒処理を行うに当たって、予め水酸化鉄(III)に含有されている含水量を40〜60質量%、好ましくは45〜55質量%となるように調整したものを用いることが未成形品の発生を抑制し、収率よく成形品を得る観点から好ましい。
【0049】
含水状態の水酸化鉄(III)の含水量の調整は、例えば吸引濾過、遠心分離、フィルタープレス、自然乾燥、送風乾燥、凍結乾燥、熱風乾燥等により行うことが出来る。
【0050】
第四工程では、まず含水状態の水酸化鉄(III)を複数の開孔が形成された開孔部材から押出成形して成形品を得る。
【0051】
開孔部材に形成された孔の形状としては、円形、三角形、多角形、環形等を挙げることができる。開孔の真円換算径は0.1mm以上10mm以下が好ましく、0.3mm以上5mm以下がより好ましい。ここでいう真円換算径は、孔一つの面積を円面積とした場合の該面積から算出される円の直径である。
【0052】
本製造方法において、押出成形後に得られる成形品は、150℃以下で乾燥処理することが重要である。
【0053】
本発明者らによれば、成形品を乾燥する温度が、ヨウ素酸イオン等の吸着性能にも影響することを見出した。
本製造方法において、成形品の乾燥温度を上記範囲にする理由は、成形品の乾燥温度が150℃を超えると吸着に寄与する表面水酸基の減少が顕著になり、十分な吸着性能を示さなくなるからである。また、本製造方法において、成形品の乾燥温度は、特にヨウ素酸イオンの吸着性能を向上させる観点から好ましくは80〜150℃、一層好ましくは80〜120℃である。
【0054】
また、乾燥時間は、重量が一定となるまで乾燥を行えばよい。多くの場合は、乾燥時間は8時間以上、好ましくは8〜24時間である。
【0055】
乾燥して得られる造粒品は、そのままでも吸着剤として用いることができるし、軽くほぐして用いてもよい。また乾燥後の造粒品は粉砕して用いてもよい。
【0056】
上記のようにして得られる水酸化鉄(III)は、更に分級してから吸着剤として用いることが、特にヨウ素酸イオンの吸着効率を高める等の観点から好ましい。分級は、例えばJISZ8801−1に規定する公称目開きが1000μm以下、特に600μm以下の第1の篩を用いることが好ましい。また前記の公称目開きが212μm以上、特に300μm以上の第2の篩を用いて行うことも好ましい。更に、これら第1及び第2の篩を用いて行うことが好ましい。
【0057】
本発明に係る非晶質の水酸化鉄(III)を含有する吸着剤は、ヨウ素酸イオンの他、例えば、Cr、Mn、Mo、As、Sb、Se等の重金属を含むオキソ酸イオン、リン酸イオン、フッ素イオン等の吸着剤としても用いることが出来る。
【0058】
更に、本発明に係る非晶質の水酸化鉄(III)を含有する吸着剤は、難溶性銀化合物と併用して用いることで、ヨウ素酸イオンとヨウ化物イオンを同時に吸着する吸着剤として用いることが出来る。
【0059】
前記難溶性銀化合物は、20℃における水100gへの溶解度が10mg以下、好ましくは5mg以下であるものが、本発明の吸着剤が通液等の水処理に供される際に、銀化合物が溶解、流出してしまうことを防止することができるという観点から好ましい。前記難溶性銀化合物の好ましいものとしては、例えば、銀ゼオライト、リン酸銀、塩化銀、炭酸銀等が挙げられる。
【0060】
本発明の吸着剤中、難溶性銀化合物の含有量は、銀として1質量%以上であることが、ヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオン、特にヨウ化物イオンの吸着性能を高める観点から好ましい。また、難溶性銀化合物の含有量は、銀として5質量%以下であることが、ヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオンをバランスよく吸着する観点から好ましい。
【0061】
なお、非晶質の水酸化鉄(III)と難溶性銀化合物を含む吸着剤は、例えば水酸化鉄(III)と難溶性銀化合物を乾式又は湿式で混合処理する方法や、非晶質の水酸化鉄(III)を製造する工程中に難溶性銀化合物を添加し第四工程で押出成形する方法等を用いて調製することが出来る。
【0062】
第四工程で押出成形する場合は、難溶性銀化合物の添加により押出成形が困難になる場合があるが、必要により滑材等を添加することが出来る。
用いることができる滑材としては、例えば、タルク、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリルステアレート、硬化油、流動パラフィン、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックス等が挙げられる。
滑材の添加量は非晶質の水酸化鉄(III)に対し1〜20質量%、好ましくは2〜10質量%とすることで、十分な吸着性能を維持したまま押出成形することが出来る。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により説明するが本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
<評価装置>
・X線回折装置:リガク社製粉末X線回折装置UltimaIVにより測定した。線源としてCu−Kαを用いた。測定条件は管電圧40kV、管電流40mA、走査速度2°/minとした。
・熱分析(TG−DSC分析):メトラー・トレド社製熱重量測定装置 TGA/DSC1を用い、10mgの試料を、25℃から700℃まで昇温速度10℃/minで大気中で温度上昇したときのDSC昇温特性曲線上に現れる発熱ピークの温度を測定した。
また、25℃における試料の重量と700℃における試料の重量を測定し、下記計算式より重量減少率を算出した。
重量減少率(%)=(A−B)/A×100
(A:25℃における試料重量、B:700℃における試料重量)
・ヨウ素酸の吸着試験におけるヨウ素酸イオン濃度及びヨウ化物イオン濃度:イオンクロマトグラフ測定装置(DIONEX社製ICS−1600)により測定した。
・BET比表面積:Mountech社製Macsorb1201により測定した。
・pH:堀場製作所社製pHメータD−71により測定した。
・電気伝導度:堀場製作所社製電気伝導率計ES−51により測定した。
【0064】
{実施例1〜4及び比較例1〜6}
<第一工程>
20wt%水酸化ナトリウム水溶液250mlに、塩化鉄(III)を39wt%含む水溶液150mlを40分かけて室温(25℃)で添加した(pH 8.8)。
<第二工程>
次いで、塩酸でpHが表1になるように調整した。25℃で1時間攪拌を継続し熟成を行った。
<第三工程>
次いで、熟成後のスラリーを表1の電気伝導度となるまでリパルプして水で洗浄した。なお、表1の電気伝導度は、該水酸化鉄(III)を10質量%スラリーとしたときの25℃での電気伝導度である。
<第四工程>
次いで、水酸化鉄(III)スラリーをフィルタープレスで脱水し、更に圧搾することにより、表1に示す含水量の含水状態の水酸化鉄(III)を調製した。
なお、含水量は含水状態の水酸化鉄(III)2.0gを110℃で乾燥し、乾燥減量を含水量として算出して求めた。
次いで、含水量を調整した含水状態の水酸化鉄(III)を真円換算径0.6mmのスクリーンを先端部に備えたダルトン社製湿式押出造粒機マルチグランMG‐55に投入して押出成形した。次いでスクリーンから押し出された成形品を、下記表1に記した温度で12時間、常圧で乾燥処理を行った。
また、成形処理中の押出成形器の様子を目視で観察し、造粒操作性を評価した。その結果を表1に併記した。なお、表1中の記号は下記のことを示す。
◎;連続的に押出される。スクリーンの大部分から押出されている。
○;連続的に押出される。スクリーンの一部のみから押出されている。
△;少量押出された。
×;ほとんど押出されない。
次いで、得られた造粒品をメノウ乳鉢にて軽く粉砕し、得られた粉砕物を目開き600μmの篩にかけた。このとき篩上は再度粉砕し、粉砕物を全て目開き600μmの篩に通した。篩下を回収して目開き300μmの篩にかけた。この篩上を回収しサンプルとした。
実施例1〜4、比較例1〜3及び比較例6で得られたサンプルをX線回折分析したところ、明らかな回折ピークは観察されず、非晶質の水酸化鉄(III)であることを確認した。
実施例1及び実施例2で得られたサンプルのX線回折図を
図1〜2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
<物性評価>
実施例、比較例1〜3及び比較例6で得られたサンプルについて、発熱ピーク温度、重量減少率、電気伝導度、BET比表面積を測定した。また、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2で得られたサンプルのDSC昇温特性曲線を
図3、
図4、
図5及び
図6にそれぞれ示す。
なお、電気伝導度は、第三工程において該水酸化鉄(III)を10重量%スラリーとした時の25℃における電気伝導度を電気伝導度計により測定した。
【0067】
【表2】
注)表中の「−」は未測定であることを示す。
【0068】
<吸着試験1>
試験1;
試薬としてヨウ素酸ナトリウム(NaIO
3)をイオン交換水に溶解してヨウ素酸のヨウ素換算濃度が200ppmである試験液を調製した。
この試験液100mlと実施例、比較例1〜3及び比較例6で得られたサンプル0.10gとを100mlガラス製ビーカーに入れて蓋をした。蓋をした後、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。攪拌後、試験液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、得られたろ液中のヨウ素酸量としてヨウ素濃度を測定した。吸着前後における濃度の差を、吸着試験前の濃度で除することにより、ヨウ素酸イオンの吸着率を求めた。その結果を表3に示す。また、市販の水酸化セリウム吸着剤についても同様な試験を行い、その結果を比較例7として表3に併記した。
【0069】
試験2;
以下に示す試験海水原液を調製し、更に以下に示す配合でヨウ素酸200ppmを含有する試験用海水1を調製した。
<試験海水原液>
NaCl: 2.649%
MgCl
2: 0.326%
MgSO
4: 0.207%
CaSO
4: 0.136%
KCl: 0.071%
<試験用海水1>
試験用海水原液: 50.00g
イオン交換水 : 949.69g
NaIO
3 : 0.31g
この試験液100mlと実施例、比較例1〜3及び比較例6で得られたサンプル0.10gを100mlガラス製ビーカーに入れて蓋をした。蓋をした後、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。攪拌後、試験液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、得られたろ液中のヨウ素酸量としてヨウ素濃度を測定した。吸着前後における濃度の差を、吸着試験前の濃度で除することにより、ヨウ素酸イオンの吸着率を求めた。その結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
注)表中の「−」は未測定であることを示す。
【0071】
試験3;
ガラス製のカラム(内径120mm、長さ450mm)に実施例2で得られたサンプル 5mlを入れ、イオン交換水で液が透明になるまで通水洗浄した。次に試験2で用いた試験海水原液405gにイオン交換水7695gとNaIO
3 0.46gを加えてヨウ素酸50ppmを含有する試験用海水2(8100g)を用意した。この試験用海水をマスターフレックス(cole-parmer社製)を使用して、16.7ml/minでカラムに通液し、カラム通過後の試験海水をサンプリングし、ヨウ素酸濃度を測定した。上記で得られた測定結果から、縦軸に試験用海水の初期ヨウ素酸濃度をCoとし、カラム通液後のヨウ素酸の濃度をCとしたとき、C/Coで表される数値を示し、横軸に吸着剤サンプル5mlに対する試験用海水2の総通液容量(B.V.)を示したものを
図7に示す。
【0072】
{実施例5〜8}
実施例2の第一工程終了後、非晶質の水酸化鉄(III)に対して、表3に示す添加量で難溶性銀化合物を添加し、湿式で十分に混合して非晶質の水酸化鉄(III)と難溶性銀化合物を含有する吸着剤サンプルを調製した。なお、表4中の銀含有量は、難溶性銀化合物を銀換算した添加量を示す。
【0073】
【表4】
注)塩化銀(AgCl)は硝酸銀と塩化ナトリウムの反応により調製した。なお、塩化銀を含有する吸着剤サンプルを調製は、下記のように調製した。
硝酸銀59.3gを178mLのイオン交換水に溶解させた。塩化ナトリウム20.4gを61mLのイオン交換水に溶解して硝酸銀溶液に添加し反応させた。反応により得られた塩化銀スラリーを第一工程終了後の非晶質の水酸化鉄(III)に添加した。
リン酸銀(Ag
3PO
4)は硝酸銀とリン酸水素2ナトリウムの反応により調製した。なお、リン酸銀を含有する吸着剤サンプルを調製は、下記のように調製した。
リン酸水素2ナトリウム12水塩35.8gを300mLのイオン交換水に溶解した。硝酸銀51.0gを150mLのイオン交換水に溶解して、リン酸水素2ナトリウム水溶
液に添加し反応させた。反応により得られたリン酸銀スラリーを第一工程終了後の非晶質の水酸化鉄(III)に添加した。
【0074】
<吸着試験2>試験4;
塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ヨウ化カリウム及びヨウ素酸をイオン交換水に溶解することにより、下記の組成の試験用海水3を調製した。
試験用海水3
NaCl 0.132%
Ca
2+ 20ppm
Mg
2+ 63ppm
I
− 200ppm
IO
3− 200ppm
この試験用海水3 100mlと、実施例2及び実施例5〜8の何れかで得られたサンプル0.10gとを100mlガラス製ビーカーに入れて蓋をした。蓋をした後、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。攪拌後、試験液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、得られたろ液におけるヨウ化物イオン(I
-)及びヨウ素酸イオン(IO
3-)の濃度を測定した。吸着前後における濃度の差を、吸着試験前の濃度で除すことにより、ヨウ化物イオン(I
-)及びヨウ素酸イオン(IO
3-)の吸着率を求めた。これらの結果を表5に示す。
【0075】
【表5】
【0076】
表5から明らかな通り、実施例5ないし8で製造された、非晶質の水酸化鉄(III)と難溶性銀化合物とを含有する吸着剤は、ヨウ化物イオンの吸着率が難溶性銀化合物を添加しないものと比べて向上することが分かる。また、吸着剤に含有させる難溶性銀化合物の添加量を調整することにより、ヨウ素酸イオンとヨウ化物イオンの吸着除去量のバランスを調整することが出来ることが分かる。