【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.公開日 2016年7月1日 刊行物等 第48回日本動脈硬化学会総会・学術集会プログラム・抄録集(アプリ) 2.発行日 2016年7月14日 刊行物等 第48回日本動脈硬化学会総会・学術集会プログラム・抄録集(CD−ROM) 3.開催日 2016年7月14日から2016年7月15日 集会名、開催場所 第48回日本動脈硬化学会総会・学術集会 京王プラザホテル(東京都新宿区西新宿2−2−1)
【文献】
Shu-Ping Hui,Detection and characterization of cholesteryl ester hydroperoxides in oxidized LDL and oxidized HDL by use of an Orbitrap mass spectrometer,Anal Bioanal Chem,2012年,Vol.404,Page.101-112
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、簡便な方法により、酸化HDLを選択的に測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、被検体から採取した血液試料と特定の溶液とを混合するという簡便な操作により、当該血液試料に含まれる酸化HDLを精度良く測定することができることを見出し、さらには酸化HDLのみを選択的に測定する方法も見出した。本発明者はかかる知見に基づき、さらなる研究を重ねることにより本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の項に記載の酸化HDLの測定方法及び酸化HDL測定用キットを包含する。
項1.
(1)被検体から採取した血液試料又はその分離物と、遷移金属化合物及び酸性緩衝液を含む溶液とを混合する工程
を含む、酸化HDLの測定方法。
項2.
前記酸性緩衝液が酢酸緩衝液である、上記項1に記載の方法。
項3.
前記酸性緩衝液のpHが2〜6.9である、上記項1又は2に記載の方法。
項4.
前記遷移金属化合物が鉄化合物である、上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5.
前記鉄化合物が2価の鉄化合物である、上記項4に記載の方法。
項6.
さらに、
(2)前記工程(1)により産生されたフリーラジカルを測定する工程
を含む、上記項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7.
遷移金属化合物、及び酸性緩衝液を含む、酸化HDL測定用キット。
項8.
前記酸性緩衝液が酢酸緩衝液である、上記項7に記載のキット。
項9.
前記酸性緩衝液のpHが2〜6.9である、上記項7又は8に記載のキット。
項10.
前記遷移金属化合物が鉄化合物である、上記項7〜9のいずれかに記載のキット。
項11.
前記鉄化合物が2価の鉄化合物である、上記項10に記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便な操作により、血液試料に含まれる酸化HDLを精度良く測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
1.酸化HDLの測定方法
本発明は、酸化HDLの測定方法を包含する。本明細書において、当該方法を「本発明の方法」と記載する場合がある。
【0014】
本発明の方法は、(1)被検体から採取した血液試料又はその分離物と、遷移金属化合物及び酸性緩衝液を含む溶液とを混合する工程を含む。本明細書において、当該工程を「工程(1)」と記載する場合がある。工程(1)では、血液試料又はその分離物中に含まれる酸化HDLにおけるヒドロペルオキシド(R−OOH)と遷移金属イオンとが反応することによってペルオキシラジカル(R−OO
・)、アルコキシラジカル(R−O
・)等のフリーラジカルが産生される。
【0015】
工程(1)において用いる被検体から採取した血液試料としては、例えば、全血、血清、血漿等が挙げられる。また、血液試料として、血液試料からHDLを分離したもの(本明細書において「血液試料の分離物」とも記載する。)を用いることもできる。血液試料からHDLを分離する方法としては特に限定的ではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、デキストラン硫酸とマグネシウムイオンを用いたデキストラン硫酸法などの方法を採用することができる。
【0016】
血液試料を採取する被検体としては、特に限定的ではなく、ヒトのみならず、非ヒト哺乳動物であってもよい。被検体となるヒトとしては特に制限されず、例えば、健常者、動脈硬化患者、糖尿病患者、心血管患者、酸化HDL値や酸化LDL値が高いと疑われるヒトなどが挙げられる。また、非ヒト哺乳動物としては特に限定的ではなく、ペット、家畜、実験動物等として飼育される哺乳動物が好ましい。このような非ヒト哺乳動物としては、例えば、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が挙げられる。
【0017】
被検体から血液試料を採取する方法としては特に限定的ではなく、公知の器具、機器などを用いて常法に従って行うことができる。なお、血液試料として血清又は血漿を用いる場合には、取り扱い易さ、感染防止等の観点から、血清又は血漿分離剤を含む真空採血管などを用いることが好ましい。また、被検体から採取した血液試料は、そのまま、工程(1)に供してもよいし、凍結乾燥等して保存した後、当該凍結乾燥物を後述する適当な溶媒に溶解して用いてもよい。さらに、被検体から採取した血液試料を、そのまま冷凍保存した後、あるいは適当な溶媒に溶解する等して冷凍保存した後、使用時に解凍して用いてもよい。なお、被検体から採取した血液試料を保存する方法、条件等については特に制限されず、常法に従って行うことができる。
【0018】
酸性緩衝液としては、pHが酸性であり、かつ緩衝作用を有するものであれば特に制限されず、公知の緩衝液を用いることができる。例えば、酢酸緩衝液などが挙げられる。
【0019】
酸性緩衝液のpHは、酸性であれば特に限定的ではなく、2〜6.9程度であることが好ましく、3〜6.5程度であることがより好ましく、4.5〜6程度であることがさらに好ましい。なお、下述する工程(2)において、フリーラジカルを測定する方法として、発色法を採用する場合には、酸性緩衝液のpHは3〜6.9程度であることが特に好ましい。
【0020】
酸性緩衝液の濃度としては、特に限定的ではなく、例えば、0.005〜0.5M、好ましくは、0.01〜0.2Mである。
【0021】
遷移金属化合物は、混合液中で電離して金属イオンになり得るものであり、かつヒドロペルオキシド(R−OOH)と反応してフリーラジカルを産生し得るものであれば特に限定的ではなく、例えば、銅(II)化合物、鉄(II)化合物(2価の鉄化合物)、鉄(III)化合物(3価の鉄化合物)などが挙げられる。これらの中でも、鉄(II)化合物、鉄(III)化合物などの鉄化合物が好ましい。鉄化合物としては、例えば、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物、塩化鉄(III)六水和物などが挙げられる。工程(1)において遷移金属化合物を用いることにより、1)ヒドロキシペルオキシドと反応する遷移金属イオンが十分量存在することにより少量の血液サンプルで酸化HDLの測定が可能となる、2)血液に含まれる鉄分の量に影響されることなく酸化HDLの測定が可能となる、などの有利な効果が奏される。
【0022】
なお、2価の鉄化合物は、3価の鉄化合物よりも少量で酸化HDLを測定することができる。換言すると、2価の鉄化合物は、3価の鉄化合物よりも酸化HDLの測定感度が高い。従って、上記した鉄化合物の中でも、2価の鉄化合物が特に好ましい。
【0023】
混合液中における遷移金属化合物の濃度としては、特に限定的ではなく、例えば、0.1〜150μM程度、好ましくは1〜100μMとすることができる。
【0024】
工程(1)における反応温度としては、特に限定的ではなく、例えば、20〜40℃程度とすることができる。
【0025】
上記の通り、工程(1)では、血液試料又はその分離物中に含まれる酸化HDLにおけるヒドロペルオキシド(R−OOH)と遷移金属イオンとが反応することによってペルオキシラジカル(R−OO
・)やアルコキシラジカル(R−O
・)等のフリーラジカルが産生される。工程(1)において産生されたフリーラジカルを測定することにより、酸化HDLを測定することができる。
【0026】
従って、本発明の方法は、さらに、(2)上記工程(1)により産生されたフリーラジカルを測定する工程を含むことが好ましい。なお、本明細書において当該工程を「工程(2)」と記載する場合がある。
【0027】
フリーラジカルを測定する方法としては特に限定的ではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、発色法、化学発光法、電子スピン共鳴法(ESR法)などが挙げられる。
【0028】
発色法は、フリーラジカルと反応して発色する作用を有する物質(発色性物質)を用い、発色した物質の吸光度を分光吸光計などを用いて測定する方法である。
【0029】
発色性物質としては、フリーラジカルやアルコキシラジカルと反応して呈色する作用を有する化合物であれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。例えば、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩などが挙げられる。
【0031】
上記一般式(1)中、各Rは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、メチル、又はエチルを示す。特に、各Rの少なくとも2つがメチル又はエチルであることが好ましく、同一の窒素原子に置換するRが共にメチル又はエチルであることがより好ましい。
【0032】
一般式(1)で表される化合物としては、N,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン(DMPD)、N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン(DPD)が好ましい。
【0033】
一般式(1)で表される化合物の塩としては、例えば、硫酸塩、シュウ酸塩、二酢酸塩などが挙げられる。
【0034】
反応工程において用いる一般式(1)で表される化合物又はその塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、一般式(1)で表される化合物は、必要に応じて、溶媒に溶解して使用することもできる。溶媒としては、特に限定的ではなく、例えば、純水、緩衝液、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。溶液とする場合の濃度としては特に限定的ではなく、例えば、0.1〜50mM程度、好ましくは、1〜20mM程度とすることができる。
【0036】
発色した物質の吸光度を測定する方法としては、特に限定的ではなく、常法により行うことができる。例えば、フリーラジカルと発色性物質とが反応することによって赤紫色を呈するラジカル陽イオンが生成されることから、公知の機器を用いて吸光度を測定することによってラジカル陽イオンを測定することができる。吸光度を測定する際の波長としては、例えば、460〜570nm、好ましくは、500〜560nmとすることができる。
【0037】
また、吸光度の測定を行う際、定量的に測定するために、測定開始時間と測定終了時間との間の吸光度の時間経過を測定することが好ましい。例えば、フリーラジカルと発色性物質との反応開始時点から2分経過時点を始点とし、反応開始時点から5分経過時点を終点として、吸光度の上昇速度を測定することが好ましい。
【0038】
化学発光法は、フリーラジカルと反応して発光する作用を有する物質(発光性物質)を用い、励起した物質が基底状態に戻る際に放出する光を発光光度計などを用いて測定する方法である。
【0039】
発光性物質としては、フリーラジカルと反応して発光する作用を有する化合物であれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。例えば、ルミノール、Dansyl−TEMPO、ルシゲニンル、2−methyl−6−p‐methoxyphenylethynylimidazopyrazinone(MPEC)、Hydroxyphenyl Fluorescein(HPF)、Aminophenyl Fluorescein(APF)、ウミホタル・ルシフェリン誘導体(MCLA)などが挙げられる。
【0040】
発光した物質の光を測定する方法としては特に限定的ではなく、用いる発光性物質の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0041】
電子スピン共鳴法(ESR法)は、不対電子が磁場中に置かれた際に生じる準位間の遷移を観測する分光分析である。電子スピン共鳴法としては特に限定的ではなく、公知の方法及び機器を用いて行うことができ、フリーラジカルを直接測定する直接法、スピントラップ剤とフリーラジカルとを反応させて行う間接法のいずれであってもよい。間接法を採用する場合、スピントラッピング剤としては特に制限されず、公知のスピントラップ剤を用いることができる。スピントラップ剤としては、例えば、5,5−ジメチルー1−ピロリンーN―オキシド(DMPO)、2,5,5−トリエチル−1−ピロリン−N−オキシド(M
3PO)、3,3,5,5−テトラメチル−1−ピロリン−N−オキシド(TMPO)、N−tert−α−フェニルニトロン(PBN)などのニトロン系スピントラップ剤;2−メチル−2−ニトロソプロパン(MNP)、ニトロソベンゼン(ND)などのニトロソ系スピントラップ剤などが挙げられる。
【0042】
2.酸化HDL測定用キット
本発明は、さらに、酸化HDLの測定用キットをも包含する。本明細書において、当該キットを「本発明のキット」と記載する場合がある。
【0043】
本発明のキットは、上記した遷移金属化合物及び酸性緩衝液を含む。なお、本発明のキットに含まれる遷移金属化合物、及び酸性緩衝液は、上記した本発明の方法におけるものと同一である。
【0044】
さらに、本発明のキットは、フリーラジカルを測定するための試薬を含むことができる。例えば、フリーラジカルを測定するために上記した発色法を採用する場合には、上記した発色性物質を含むことができる。
【0045】
また、本発明のキットは、上記したものの他、必要に応じて、その他の試薬、器具等が含まれていてもよい。例えば、血清又は血漿分離剤、採血用器具などが挙げられる。
【0046】
さらに、本発明のキットは、上記したものの他、必要に応じて、フリーラジカルを測定するための機器を備えていてもよい。例えば、フリーラジカルを測定するために上記した発色法を採用する場合には、分光吸光計などを備えていてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0048】
試験例1
本試験例1では、以下の手順に従って、酸化HDLの測定を行った。
(1)血液試料の調製
真空採血管を用いて被検体の静脈から血液を採取し、4℃、3500rpm(1100g)の条件で15分間遠心分離を行い、上清(血漿)を血液試料として得た後、−80℃で保存した。
【0049】
(2)酸化HDLの測定
0.1M酢酸緩衝液(pH4.8)と100μM硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物との混合液(Fe
2+添加群)、0.1M酢酸緩衝液(pH4.8)と100μM塩化鉄(III)との混合液(Fe
3+添加群)、及び0.1M酢酸緩衝液(pH4.8)(Fe未添加群)の3群に分け、各群の混合液をマイクロプレートの各wellにそれぞれ加え、37℃に保温した。次いで、各群の混合液を添加した各wellにN,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩溶液(溶媒:DMSO)を加えた後、上記(1)で得られた血漿を加えた(血漿添加群)。また、対照として、Fe
2+添加群及びFe
3+添加群の混合液を添加した各wellにN,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩溶液(DMSO)のみを加えた(血漿未添加群)。37℃に設定したマイクロプレートリーダー(バイオラッド社製)を用い、波長505nmの吸光度を測定した。なお、吸光度の測定は、Kineticsに設定し、10秒毎に計30回(合計5分間)測定し、測定開始2分後から5分後の各値から吸光度(単位:mOD/min)を算出することにより行った。結果を
図1に示す。
【0050】
Fe
2+添加群、Fe
3+添加群、及びFe未添加群の各群の比較から、鉄化合物を添加した場合の方が吸光度の値が大きいことが確認された。さらに、Fe
2+添加群は、Fe
3+添加群よりも吸光度の値が大きいことが確認されたことから、2価の鉄化合物は、3価の鉄化合物よりも高感度で酸化HDLを測定できることが分かった。
【0051】
試験例2
本試験例2では、試験例1の試験結果が酸化HDLを測定していることを実証するために各種試験を行った。
【0052】
<試験例2−1>
血漿0.3mlを限外濾過膜付き遠心カラム(ミリポア社製、商品名:アミコンウルトラ−0.5 100kDa)に入れ、20℃、14000gの条件で10分間遠心し、濾液及び膜上に残った液(濃縮液)をそれぞれ回収した。その後、血液試料を濾液及び濃縮液に代えた以外は試験例1のFe
2+添加群と同様にして吸光度の測定を行った。なお、当該試験は3回行った。結果は、遠心を行わなかった試料(血漿)の吸光度の測定結果を100%とした場合、濾液は0.4%、濃縮液は99.3%であった(いずれも3回の平均値を示す。)。
【0053】
当該結果から、試験例1において測定された吸光度の値は血漿に含まれるリポタンパク質等の高分子に由来するものであることが強く示唆された。
【0054】
<試験例2−2>
試験例2−1において、血漿に含まれるリポタンパク質等の高分子が関与していることが分かったことから、本試験例2−2では、低密度リポタンパク質(LDL)及び超低密度リポタンパク質(VLDL)に着眼して試験を行った。
【0055】
実験には、LDL/VLDL精製キット(セルバイオラボ社製、商品名:STA−606)を用い、当該キットに添付のマニュアルに従ってLDL/VLDLの精製を行った。具体的には、血漿にキットに付属のデキストラン溶液及び沈殿溶液Aを加え、氷上で5分間反応させた後、6000gの条件で10分間遠心分離を行った。遠心分離後、上清を回収し、−80℃で保存し、ペレットについては、マニュアルに従ってLDL/VLDLの精製を行った。その後、血液試料を上清及び精製したLDL/VLDLに代えた以外は試験例1のFe
2+添加群と同様にして吸光度の測定を行った。結果は、精製を行わなかった試料(血漿)の吸光度の測定結果を100%とした場合、上清は105%、精製したLDL/VLDLは3%未満であった。
【0056】
当該結果から、試験例1において測定された吸光度の値は血漿に含まれるリポタンパク質のうち、LDL及びVLDLに由来するものではないことが示唆された。
【0057】
<試験例2−3>
試験例2−2において、血漿に含まれるLDL及びVLDLが関与していないことが分かったことから、本試験例2−3では、高密度リポタンパク質(HDL)に着眼して試験を行った。
【0058】
血漿をポアサイズ0.45μmの濾過膜(ミリポア社製、商品名:マイレクス−HV)で濾過し、得られた濾液(濾液A)にデキストラン硫酸ナトリウム(分子量:36000〜50000)溶液(pH7.3)(0.5M 塩化マグネシウムを含む)を加え、撹拌し室温で静置した。次いで、1500gの条件で30分間遠心分離を行い、上清を回収し、上記と同様の濾過膜を用いて濾過し、濾液(濾液B)を回収した。その後、血液試料を濾液A、上清及び濾液Bに代えた以外は試験例1のFe
2+添加群と同様にして吸光度の測定を行った。結果は、濾過を行わなかった試料(血漿)の吸光度の測定結果を100%とした場合、濾液Aは99%、上清は104%、濾液Bは115%であった。
【0059】
さらに、ゲル濾過HPLCにより、濾液A及び濾液Bに含まれるリポタンパク質を分析した。ゲル濾過HPLCによるクロマトグラムを
図2に、各リポタンパク質の定量結果を下記表1に示す。なお、下記表1中、「CM」はカイロミクロン、「VLDL」は超低密度リポタンパク質、「LDL」は低密度リポタンパク質、「HDL」は高密度リポタンパク質をそれぞれ示し、各用語に付した括弧内の数値は、各リポタンパク質の粒子径を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
図2の結果から、濾液A及び濾液Bでは共に、26.0min付近にHDL−Cに由来するピークが観察された。また、濾液Aでは、23.2min付近にLDL−Cに由来するピークが観察されたのに対して、濾液Bでは、LDL−Cに由来するピークは観察されなかった。
図2、表1及び吸光度測定試験の結果から、試験例1において測定された吸光度の値は血漿に含まれるリポタンパク質のうち、HDLに由来するものであることが強く示唆された。
【0062】
試験例3
本試験例3では、血漿と血漿から分離したHDLとを試料として用い、両者の測定値が相関しているか否かを検討した。具体的には、3名の健常人の血漿(血漿群)、及び試験例2−3の濾液B(HDL分離群)を試料とした以外は試験例1のFe
2+添加群と同様にして吸光度の測定を行った。その後、3名の各群による結果の相関関係を解析した。
【0063】
解析結果から、HDL分離群と血漿群とは、高い正の相関関係(R=0.966)があることが分かった。従って、血漿などの血液試料だけでなく、血液試料から分離したHDLを試料として使用できることが分かった。
【0064】
試験例4
本試験例4では、従来のELISA法を利用した酸化HDLの測定方法と本発明の方法とで得られる測定値が相関しているか否かを検討した。具体的には、3名の健常人の血漿を用い、試験例2−3と同様にして吸光度の測定を行った(本発明の方法群)。また、ELISA法として、酸化HDL測定キット(セルバイオラボ社製、商品名:STA−869)を用い、当該キットに添付のマニュアルに従って酸化HDLの測定を行った(ELISA法群)。その後、3名の本発明の方法群及びELISA法群による結果の相関関係を解析した。結果を
図4に示す。
【0065】
当該結果から、本発明の方法群における試験結果と、ELISA法群における試験結果とは、高い正の相関関係(R=0.987)があることが分かった。
【0066】
試験例5
本試験例5では、血液試料として、全血及び血漿を用いて酸化HDLの測定を行った。ヘパリン管に採血し、そのうち一部を全血測定用として4℃で保存した。残りを4℃、1000gの条件で10分間遠心分離をし、血漿を得た。その後、血液試料を全血(10μl及び20μl)及び血漿(10μl)に代え、さらに、全血を用いた試料については溶血を防止するためグルコースを加えたこと以外は試験例1のFe
2+添加群と同様にして吸光度の測定を行った。結果を
図5示す。
【0067】
当該結果から、血液試料として、血漿だけでなく、全血も使用できることが分かった。
【0068】
試験例6
本試験例6では、試験例1の結果(
図1)において、Fe
2+添加群とFe
3+添加群とを比較した場合にFe
2+添加群の方が吸光度の値が大きいことが確認されたことから、2価の鉄化合物の濃度による測定結果への影響を検討した。
【0069】
(1)血液試料の調製
試験例1と同様にして、真空採血管を用いて被検体の静脈から血液を採取し、4℃、3500rpm(1100g)の条件で15分間遠心分離を行い、上清(血漿)を血液試料として得た後、−80℃で保存した。なお、Nitroso−PASP法により、被検体1及び被検体2から得られた血液試料中に含まれる血清鉄(トランスフェリンと3価の鉄との複合体)を測定したところ、76.8μg/dLであった。
【0070】
(2)酸化HDLの測定
0.1M酢酸緩衝液(pH4.8)と、1μM、10μM、又は100μMの硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物との混合液を調製した。
【0071】
上記で調製した各混合液をマイクロプレートの各wellにそれぞれ加え、37℃に保温した。次いで、各群の混合液を添加した各wellにN,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩溶液(溶媒:DMSO)を加えた後、上記(1)で得られた血液試料を加えた。また、対照として、各群の混合液を各wellに添加せず、N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩溶液(溶媒:DMSO)及び血液試料を加えた。そして、37℃に設定したマイクロプレートリーダー(バイオラッド社製)を用い、波長505nmの吸光度を測定した。なお、吸光度の測定は、Kineticsに設定し、10秒毎に計30回(合計5分間)測定し、測定開始2分後から5分後の各値から吸光度(単位:mOD/min)を算出することにより行った。測定結果を
図5に示す。
【0072】
図5の結果から、2価の鉄化合物の濃度が上昇するに従って、吸光度の値が大きくなることが確認された。