特許第6779861号(P6779861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779861
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】概日リズム改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/36 20060101AFI20201026BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20201026BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20201026BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20201026BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALN20201026BHJP
【FI】
   A61K31/36
   A61P43/00 111
   A61P25/20
   A61P25/00
   !A61K31/7048
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-508352(P2017-508352)
(86)(22)【出願日】2016年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2016058963
(87)【国際公開番号】WO2016152846
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2018年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-59753(P2015-59753)
(32)【優先日】2015年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】立石 法史
(72)【発明者】
【氏名】柴田 重信
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−285427(JP,A)
【文献】 特開2000−143546(JP,A)
【文献】 山内優紀他,マウスにおけるアマニリグナンの概日リズムへ与える影響,日本フードファクター学会学術集会講演要旨集,2014年,Vol.19th,Page.49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計遺伝子の発現リズムが平坦化することに基づく概日リズム障害を改善するための組成物であって、
1種以上のセサミン類化合物を含み、
セサミン類化合物が、セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサモール、セサミノール若しくはこれらの配糖体、又は2つ以上のこれらの混合物であり、
睡眠改善作用を示す量のメラトニンは含まない、
前記組成物。
【請求項2】
1つ以上の時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅することによって、時計遺伝子の発現リズムが平坦化することに基づく概日リズム障害を改善するための、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
時計遺伝子がPer 2又はCry1遺伝子である、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
加齢に伴う概日リズム障害の予防、緩和、又は治療のための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
加齢に伴う概日リズム障害が、加齢に伴って生じる睡眠障害、行動の昼夜逆転、及び体温リズムの振幅の平坦化からなる群より選択される、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が剤である、請求項1〜のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
1種以上のセサミン類化合物を配合する工程を含むことを特徴とする、時計遺伝子の発現リズムが平坦化することに基づく概日リズム障害を改善するための組成物の製造方法であって、
セサミン類化合物が、セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサモール、セサミノール若しくはこれらの配糖体、又は2つ以上のこれらの混合物であり、
前記組成物が、睡眠改善作用を示す量のメラトニンは含まない、
前記方法。
【請求項8】
時計遺伝子の発現リズムの振幅が平坦化することに基づく概日リズム障害を改善するための組成物の製造における、1種以上のセサミン類化合物の使用であって、
セサミン類化合物が、セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサモール、セサミノール若しくはこれらの配糖体、又は2つ以上のこれらの混合物であり、
前記組成物が、睡眠改善作用を示す量のメラトニンは含まない、
前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概日リズム改善用組成物に関する。詳細には、リグナン類化合物を含み、時計遺伝子の周期的な発現量の振幅を増幅させることに基づく、概日リズム改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生物活動や生理現象の多くが生物リズムとよばれる自律的な周期的変動を示すが、その中でもほぼ24時間の周期性を示すリズムを概日リズム(サーカディアンリズム)とよぶ。概日リズムを有する生物活動や生理現象には、睡眠・覚醒、血圧の変動、体温の変動、食行動などがある。
【0003】
体を構成するすべての細胞は、それぞれが概日リズムを発振する機構を有している。この概日リズム発振機構は、時計遺伝子と呼ばれる複数の遺伝子群が24時間周期で発現量を変化させることによる。それぞれの細胞が同調しながら概日リズムを示すことにより、さらに組織レベル、臓器レベル、個体レベルで、生物活動や生理現象の概日リズムが生じる。時計遺伝子発現のリズム性を定義する指標として、周期長(1周期の長さ。およそ24時間)、位相(発現のピーク時間)、振幅(発現量の変動幅)がある。時計遺伝子は昼夜の遺伝子発現量の変化すなわち振幅が大きく、これが24時間周期で繰り返されることで、その個体の昼夜メリハリのある行動様式が達成される。逆に、周期長、位相、振幅のうちの1つ以上が変調することにより、生物活動の概日リズムが乱れることが知られている。概日リズムの乱れによる体調の不調やそれに伴う疾患としては、睡眠障害、自律神経失調、内分泌障害、生活習慣病の助長などがある。
【0004】
また、近年の超高齢化社会においては、高齢者における睡眠の断片化や早朝覚醒などの問題を含め、昼夜の行動のメリハリが消失するといった行動様式の平坦化が問題となっているが、これらの問題にも概日リズムが関与していると考えられている。老齢動物を用いた実験において、睡眠の質の低下や活動期における行動量の低下など、行動レベルでの概日リズムの変調が生じることが観察されている。そして、最近では、加齢と時計遺伝子の変調とが関連していることも示唆されており(非特許文献1〜3)、たとえば、BmalやCLOCK等の時計遺伝子を欠損した動物が早老状態にあることが見出されている。そして、細胞レベルでも、時計発振機構の制御が加齢に伴って破綻することが示されており、特に老化細胞において概日リズムの振幅の平坦化が認められること、そしてこれが個体の老化に関連している可能性が報告されている。
【0005】
このような概日リズムの変調を改善することのできる概日リズム調整用組成物、特に、概日リズムの振幅を増幅することのできる概日リズム調整用組成物が望まれる。このような概日リズム調整用組成物は、睡眠の断片化や早期覚醒などの睡眠障害を改善し、日常的に疲れを感じる人の寝つき、眠りの深さ、寝覚めという体調の改善に役立つ。
【0006】
概日リズムに関連するホルモンであるメラトニンの分泌リズムに着目した概日リズム調整剤としては、たとえばホエーを有効成分とする概日リズム調整剤がある(特許文献1)。また、時計遺伝子発現の概日リズムに着目した概日リズム調整剤としては、植物アルカロイドを有効成分とする概日リズム調整剤であって、時計遺伝子であるBmal 1発現の概日リズムの周期長を調節し得るもの(特許文献2)、乳酸菌発酵物を有効成分とする概日リズム調整剤であって、時計遺伝子であるRev-erbαやPPARαの発現量を増加させ得るもの(特許文献3)、乳酸菌菌体を有効成分とする概日リズム調整剤であって、時計遺伝子であるPer 1、Per 2、およびBmal 1発現の位相を調節し得るもの(特許文献4)、フラボノイド等を有効成分とする概日リズム調整剤であって、Bmal 1遺伝子の発現を抑制することによって概日リズムの位相を調節しうるもの(特許文献5)などがある。しかしながら、これらはいずれも時計遺伝子発現リズムの振幅に着目したものではない。
【0007】
非特許文献4および5には、カフェインに概日リズムの振幅を増幅する作用や周期を延長する作用があることが示されている。しかしながら、カフェインには、過剰摂取時における安全性の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/094849号
【特許文献2】特開2011−37755号公報
【特許文献3】特開2008−179573号公報
【特許文献4】特開2013−181005号公報
【特許文献5】特開2008−266319号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Cell, 2013, 153, 1421-1422
【非特許文献2】Frontiers in Genetics, 2015, 5(455), 1-7
【非特許文献3】Aging and Disease, 2014, 5(6), 406-418
【非特許文献4】Biochem Biophys Res Commun. 2011, 410(3), 654-8
【非特許文献5】Br J Pharmacol. 2014, 171(24), 5858-69
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特に高齢者の生活において問題とされる昼夜の行動様式の平坦化といった課題に対して、時計遺伝子の発現量の変動幅を、本来あるべきメリハリのある状態にすることが必要である。時計遺伝子の発現量の振幅幅をメリハリのある状態にすることで、寝つき、眠りの深さ、寝覚めという体調の改善が図られる。本発明は、長期にわたって安全に摂取することのできる概日リズム改善用組成物、特に概日リズムの振幅を増幅することのできる概日リズム調整用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、食経験の豊富な食品であるゴマに含まれるリグナン類化合物に、時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅する作用があることを見出した。
【0012】
即ち、限定されるわけではないが、本発明は好ましくは以下の態様を含む。
[1]
1種以上のリグナン類化合物を含む、概日リズム改善用組成物。
[2]
リグナン類化合物が、セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサモール、セサミノール若しくはこれらの配糖体若しくは代謝物又は2つ以上のこれらの混合物である、[1]に記載の概日リズム改善用組成物。
[3]
1つ以上の時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅する、[1]又は[2]に記載の概日リズム改善用組成物。
[4]
時計遺伝子がPer 2又はCry1遺伝子である、[3]に記載の概日リズム改善用組成物。
[5]
加齢に伴う概日リズム障害の予防、緩和、又は治療のための、[1]〜[4]のいずれかに記載の概日リズム改善用組成物。
[6]
加齢に伴う概日リズム障害が、加齢に伴って生じる睡眠障害、行動の昼夜逆転、及び体温リズムの振幅の平坦化からなる群より選択される、[5]に記載の概日リズム改善用組成物。
[7]
寝つき、眠りの深さ、寝覚めの改善のための、[1]〜[4]のいずれかに記載の概日リズム改善用組成物。
[8]
前記成物が剤である、[1]〜[7]のいずれかに記載の概日リズム改善用組成物。
[9]
1種以上のリグナン類化合物を配合する工程を含むことを特徴とする、概日リズム改善作用を有する組成物の製造方法。
[10]
リグナン類化合物が、セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサモール、セサミノール若しくはこれらの配糖体若しくは代謝物又は2つ以上のこれらの混合物である、[9]に記載の方法。
[11]
概日リズム改善作用を有する組成物の製造における、1種以上のリグナン類化合物の使用。
[12]
リグナン類化合物が、セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサモール、セサミノール若しくはこれらの配糖体若しくは代謝物又は2つ以上のこれらの混合物である、[11]に記載の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明の概日リズム改善用組成物は、1種以上のリグナン類化合物を含むことにより、時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅し、概日リズムを改善することができる。本発明の概日リズム改善用組成物により、時計遺伝子の発現リズムの振幅が平坦化することに基づく概日リズム障害、特に加齢に伴う概日リズム障害を効果的に予防、緩和、又は治療すること、および、寝つき、眠りの深さ、寝覚めの改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、時計遺伝子の発現周期のモデル図を示す。
図2図2は、Per 2::LUCノックインマウス由来胎児繊維芽細胞株にセサミン/エピセサミン=1/1混合物を添加した際の、Per 2遺伝子の発現リズムの振幅に対する影響を示す。
図3図3は、Per 2::LUCノックインマウスにセサミン/エピセサミン=1/1混合物を経口投与した際の、各臓器におけるPer 2遺伝子の発現リズムの振幅に対する影響を示す。
図4図4は、Per 2::LUCノックインマウス由来胎児繊維芽細胞株に、セサミン、エピセサミン、およびセサミノールを添加した際のPer 2遺伝子の発現リズムの振幅に対する影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<リグナン類化合物>
本発明の概日リズム改善用組成物は、1種以上のリグナン類化合物を含む。本発明で使用するリグナン類化合物としては、本発明で使用するリグナン類化合物としては、セサミン、セサミノール、エピセサミン、エピセサミノール、セサモリン、 2-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-6-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)-3,7-ジオキサビシクロ [3,3,0]オクタン、 2,6-ビス-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)-3,7-ジオキサビシクロ[3,3,0]オクタン、2-(3, 4-メチレンジオキシフェニル)-6-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェノキシ)-3,7-ジオキサビシクロ[3, 3, 0]オクタン等、及びこれらの代謝物又は配糖体を挙げることができ、これらを単独で、又は混合して使用することができる。本発明の目的のためには、セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサモール、セサミノール若しくはこれらの配糖体若しくは代謝物又は2つ以上のこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0016】
上記リグナン類化合物は、その形態や製造方法等、何ら制限されるものではない。例えば、ごま油から公知の方法(例えば、ごま油に熱メタノールを加えて抽出し、メタノールを除去後、残渣にアセトンを加えて抽出する方法(特開平4−9331号公報に記載))によって抽出したもの(リグナン類化合物高含有の抽出物または精製物)を用いることもできる。また、合成によりリグナン類化合物を得ることもできる。その方法としては、例えば、セサミン、エピセサミンについては、Berozaらの方法(J. Am. Chem. Soc., 78, 1242(1956) )で合成できる他、ピノレシノールはFreundenbergらの方法(Chem. Ber., 86, 1157(1953))によって、シリンガレシノールはFreundenbergらの方法(Chem. Ber., 88, 16(1955))によって合成することができる。
【0017】
本発明に用いるリグナン類化合物として、ごま油等の食品由来の素材から抽出及び/又は精製したリグナン類化合物の濃縮物を用いる場合には、濃縮の度合いはリグナン類化合物の種類や配合する概日リズム改善用組成物の形態により適宜設定すればよい。たとえば、通常、リグナン類化合物が総量で1重量%以上となるように濃縮されたリグナン類化合物濃縮物を用いることが好ましい。リグナン類化合物濃縮物中のリグナン類化合物の総含量は、20重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることが最も好ましい。
【0018】
<概日リズム改善用組成物>
本発明の概日リズム改善用組成物は、1種以上のリグナン類化合物を含むことにより、1以上の時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅し、概日リズムを改善することができる。
【0019】
時計遺伝子は、概日リズムの調整に働く一群の遺伝子をいい、これらの遺伝子に変異がある場合、行動のリズムに影響を与える遺伝子として定義される(石田、2009年、生化学、第81巻、第2号、第75−83頁)。時計遺伝子には、たとえばPeriod遺伝子、Bmal遺伝子、Clock遺伝子、Cryptochrome遺伝子等がある。本発明の概日リズム改善剤は、好ましくはPeriod遺伝子ファミリーに属する遺伝子及びCryptochrome遺伝子ファミリーに属する遺伝子のうちの1つ以上の発現リズムの振幅を増幅することができ、より好ましくはPeriod 1 (Per 1)遺伝子、Period 2 (Per 2)遺伝子、Period 3 (Per3)遺伝子、Cryptochrome 1 (Cry 1)遺伝子、Cryptochrome 2 (Cry 2)遺伝子のうちの1つ以上の発現リズムの振幅を増幅することができる。
【0020】
時計遺伝子の発現リズムとは、時計遺伝子の発現量の変化を経時的にモニターした際に観察される周期的な発現量の変動をいう。図1に、時計遺伝子の発現周期のモデル図を示す。ここで、時計遺伝子の発現リズムのリズム性の指標として、周期長(1周期の長さ。およそ24時間)、位相(発現のピーク時間で示される発現のピーク位置)、振幅(発現量の変動幅)がある。本発明の概日リズム改善用組成物によって時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅するとは、本発明の概日リズム改善用組成物を用いる前の状態又は本発明の概日リズム改善用組成物を用いない状態と比較して、時計遺伝子の発現量が最も高いときの発現量と、時計遺伝子の発現量が最も低いときの発現量との差を大きくする、すなわち、時計遺伝子の発現量の変動幅を大きくすることをいう。時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅することにより、概日リズムの改善がもたらされる。
【0021】
概日リズムの改善には、各細胞における物質の代謝や分泌が示す概日リズムを正常に近づけること又は戻すこと、各組織における物質の代謝や分泌が示す概日リズムを正常に近づけること又は戻すこと、及び個体が示す行動や生理現象が示す概日リズムを正常に近づけること又は戻すことが含まれるが、これらに限定されない。本発明の概日リズム改善用組成物は、時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅することができるため、時計遺伝子発現の振幅の平坦化に基づく概日リズム障害の予防、緩和、又は治療のために特に好適に用いることができる。時計遺伝子発現の振幅の平坦化に基づく概日リズム障害には、睡眠障害、行動の昼夜逆転、及び体温リズムの振幅の平坦化が含まれる。時計遺伝子発現の振幅の平坦化に基づく概日リズム障害には、加齢に伴い生じる概日リズム障害や、寝つき、眠りの深さ、寝覚めの問題が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明の組成物は、一例として、剤の形態で提供することができるが、本形態に限定されるものではない。当該剤をそのまま組成物として、或いは当該剤を含む組成物として提供することもできる。かかる組成物としては、医薬品(医薬組成物)、飲食組成物(飲料、食品など)、化粧品(化粧用組成物)などが挙げられるが、これらに限定されない。食品組成物の限定的でない例として、機能性食品、健康補助食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養補助食品、食事療法用食品、健康食品、サプリメント等が挙げられる。
【0023】
本発明の概日リズム改善用組成物は、治療的用途(医療用途)又は非治療用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。具体的には、医薬品、医薬部外品及び化粧料等や薬事法上はこれらに属さないが、時計遺伝子発現の振幅の平坦化に基づく概日リズム障害の予防、緩和、又は治療効果等を明示的又は暗示的に訴求する組成物としての使用が挙げられる。それらの効能を表示した組成物とすることもでき、例えば、「睡眠障害改善」、「睡眠の質の改善」、「寝付きの改善」、「昼夜逆転の改善」、「体温リズムの振幅の平坦化」、「目覚めの改善」、および「疲労回復」等に関連した表示を付すことができる。具体的な例として、概日リズム改善効果に基づいて「日常的に疲れを感じる方の寝つき、眠りの深さ、寝覚めという体調の改善に役立ちます。」等の表示を付すこともできる。
【0024】
本発明の概日リズム改善用組成物を用いた際の時計遺伝子の発現量は、当業者に知られた任意の方法を用いて解析することができる。たとえば、目的の時計遺伝子配列中の任意の配列をプローブとして用いたノーザンブロッティング解析、リアルタイムRT-PCR解析、DNAマイクロアレイを用いた発現量解析などの方法を好適に用いることができる。遺伝子発現解析に供するための試料としては、細胞が含まれていればいかなるものをも用いることができるが、たとえば毛包細胞を含む毛髪、皮膚等のバイオプシー、血液、唾液等を用いることができる。
【0025】
本発明の概日リズム改善用組成物には、リグナン類化合物の効果を損なわない、すなわち、リグナン類化合物との配合により好ましくない相互作用を生じない限り、必要に応じて、ミネラル;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA等のビタミン類;栄養成分;香料;色素などの他の添加物を混合することができる。
【0026】
本発明の概日リズム改善用組成物の形態に特に制限はなく、液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤;ペースト剤等の半固体状の剤;顆粒剤、散剤、粉末剤、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤を含む)等の形態に製剤化することができる。また、本発明の概日リズム改善用組成物は、カプセル剤の内部組成物としても利用することができる。
【0027】
本発明の概日リズム改善用組成物は、有効成分であるリグナン類化合物の含量は、効果面を考慮して適宜決定することができる。たとえば、リグナン類化合物としてセサミンを選択する場合、本発明の概日リズム改善用組成物は、リグナン類化合物を、総含量として、0.001〜90重量%、0.01〜50重量%、または0.1〜10重量%含むことができる。
【0028】
本発明の概日リズム改善用組成物の投与量や投与形態は、対象の年齢、体重、状態等を考慮して適宜選択することができる。たとえば、リグナン類化合物としてセサミンを選択し、ヒト(成人)を対象として経口投与する場合には、一般に、セサミンを1日あたり1〜200mg、好ましくは3〜100mg、さらに好ましくは5〜50mg程度となるように、1日に1〜2回程度、週に5回以上となる割合で連続投与するとよい。
【0029】
<概日リズム改善作用を有する組成物の製造方法>
本発明は、1種以上のリグナン類化合物を配合する工程を含むことを特徴とする、概日リズム改善作用を有する組成物の製造方法にも関する。
【0030】
本発明の組成物の形態は特に制限はなく、医薬品や医薬部外品などの医薬組成物のほか、薬事法上はこれらに属さないが、昼夜の生活様式・行動様式のメリハリをつけるため、医薬品や医薬部外品と同様に概日リズムの改善・予防・治療効果や、寝つき、眠りの深さ、寝覚めの改善効果を明示的に付して又は暗示的にこれらの効果があることを訴求する組成物も含まれる。当該組成物には食品組成物も含まれ、限定的でない例として、機能性食品、健康補助食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養補助食品、食事療法用食品、健康食品、サプリメント等が挙げられる。組成物の剤形、形状も特に限定されないが、液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤;ペースト剤等の半固体状の剤;顆粒剤、散剤、粉末剤、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤を含む)または、カプセル剤の内部組成物としても利用することができる。
【0031】
たとえば、リグナン類化合物としてセサミンを選択する場合、本発明の方法によって製造される組成物は、リグナン類化合物を、総含量として、0.001〜90重量%、0.01〜50重量%、または0.1〜10重量%含むことができる。
【0032】
これらの組成物は、1以上のリグナン類化合物に許容可能な担体や賦形剤を添加したものとすることができる。担体の例としては、水、生理食塩水、食用油、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。賦形剤の例としては、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、デキストリン、シクロデキストリン、キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、寒天等が挙げられる。また、製剤化において一般的に使用される乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤等を適宜配合することもできる。また、リグナン類化合物の効果を損なわない、すなわち、リグナン類化合物との配合により好ましくない相互作用を生じない限り、必要に応じて、ミネラル;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA等のビタミン類;栄養成分;香料;色素などの他の添加物を混合することができる。
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
<実施例>
実施例1
<培養細胞におけるPer 2遺伝子の発現リズムに対するリグナン類化合物の影響>
細胞株はPer2::LUCノックインマウス由来胎児繊維芽細胞株を用いた。Per2::LUCノックインマウスとは、時計遺伝子Per 2のプロモーター領域下流にレポーターであるルシフェラーゼ遺伝子が導入されているマウスである。したがって、Per 2::LUCノックインマウス由来胎児繊維芽細胞株では、時計遺伝子の周期的な発現に合わせてルシフェラーゼ遺伝子が発現する。Per 2::LUCノックインマウス由来胎児繊維芽細胞をルシフェラーゼの基質であるルシフェリン含有培地にて培養すると、細胞は周期的に化学発光するため、その発光をモニターすることで、時計遺伝子Per 2の発現リズムを評価することが可能になる。
【0035】
まず、Per2::LUCノックインマウス由来胎児繊維芽細胞株約5×105個を35mm培養ディッシュに播種した後、200nMデキサメタゾンで2時間処理することにより、細胞の生体リズムを一旦リセット(同調)した。その後、発光基質ルシフェリンを含む培地へ培地交換し、被験物質であるセサミン/エピセサミン=1/1混合物を1.5から50μM添加して細胞培養を続けながら、ルミノメーター(LumiCycle; Actimetrics)を用いて、リアルタイムでレポーター遺伝子の化学発光を10分毎に1分間測定し、それを5日間継続した。得られた波形から、振幅および周期長を算出し、被験物質セサミン/エピセサミン=1/1混合物の影響を評価した。その結果を図2に示す。
【0036】
被験物質セサミンは特に3から50μMの範囲で、Per 2遺伝子発現の概日リズムに対し、用量依存的に振幅が大きくなることが確認された。
【0037】
実施例2
<in vivoにおけるPer 2遺伝子の発現リズムに対するリグナン類化合物の影響>
動物は実施例1で記載したPer 2::LUCノックインマウスを用いた。本マウスは時計遺伝子下流のレポーター遺伝子ルシフェリンが周期的に発現することから、外部から発光基質ルシフェリンを投与すると化学発光する。このためin vivoで時計遺伝子Per 2の発現を経時的にモニタリングすることが出来る。
【0038】
まず、被験物質セサミン/エピセサミン=1/1混合物を、1日あたり250mg/kg体重の用量で、Per 2::LUCノックインマウスに3日間強制経口投与した。溶媒コントロールとしてオリーブオイルを用いた。最終投与の3時間後、イソフルラン吸入麻酔下、マウス背部皮下にルシフェリン溶液を15mg/kg投与した。その後の化学発光はIn vivo imaging (IVIS) kinetics system (Caliper Life Sciences)で検出した。化学発光の検出は腎臓、肝臓および顎下腺の3臓器に対して行った。また、化学発光の検出は被験物質セサミン/エピセサミン=1/1混合物の投与後、上述の操作を含め、4時間おきに計6回、1日かけて行った。結果を図3に示す。
【0039】
被験物質セサミンをマウスに経口投与することにより、腎臓、肝臓および顎下腺各臓器において時計遺伝子Per 2発現の振幅が増幅することが観察された。
【0040】
実施例3
<培養細胞におけるPer 2遺伝子の発現リズムに対するリグナン類化合物の影響2>
試験方法は上述の実施例1と同様に行った。被験物質として、セサミン、エピセサミン、セサミノールをそれぞれ10μM添加し、その影響を評価した。結果を図4に示す。この結果、セサミン、エピセサミン、セサミノールはいずれもPer2遺伝子発現の振幅を高めることが確認された。
図1
図2
図3
図4