特許第6779863号(P6779863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6779863改良された次世代の実験室外ポリマーチップ電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779863
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】改良された次世代の実験室外ポリマーチップ電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/04 20060101AFI20201026BHJP
   G01N 27/30 20060101ALI20201026BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20201026BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20201026BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20201026BHJP
   C08L 25/06 20060101ALI20201026BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20201026BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20201026BHJP
   C25B 11/12 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   C25B11/04 Z
   G01N27/30 B
   C08L101/00
   C08K3/04
   C08L33/12
   C08L25/06
   C08L27/06
   C08L67/04
   C25B11/12
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-510794(P2017-510794)
(86)(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公表番号】特表2017-523311(P2017-523311A)
(43)【公表日】2017年8月17日
(86)【国際出願番号】IN2015000202
(87)【国際公開番号】WO2015170344
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2018年4月13日
(31)【優先権主張番号】1254/DEL/2014
(32)【優先日】2014年5月9日
(33)【優先権主張国】IN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596020691
【氏名又は名称】カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】COUNCIL OF SCIENTIFIC & INDUSTRIAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スリバスタバ、ディヴェッシュ・ナラヤン
(72)【発明者】
【氏名】パーウイーン、モッサラート
(72)【発明者】
【氏名】グプタ、ラジブ
(72)【発明者】
【氏名】パーマール、ディリップ・ビムジブハイ
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−123858(JP,A)
【文献】 特開2013−119576(JP,A)
【文献】 特開2009−144000(JP,A)
【文献】 特開2011−228059(JP,A)
【文献】 特開2006−037001(JP,A)
【文献】 特表2007−534949(JP,A)
【文献】 特表2009−523905(JP,A)
【文献】 特開2013−119577(JP,A)
【文献】 特開2013−216786(JP,A)
【文献】 特開昭59−218842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C25D 1/00− 15/04
G01N 27/00− 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
70:30から40:60までの範囲の重量比のグラファイト及びポリマーからなる自立性ポリマーチップ電極であって、使用される前記ポリマーは、非生分解性の電極用ではポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)、ポリスチレン(PS)及びポリ塩化ビニル(PVC)、又は生分解性の電極用ではポリ(乳酸)(PLA)からなる群から選択され、前記グラファイトは前記ポリマーの全体に分散され、
前記電極は0.42mmから0.50mmの範囲の厚さ、及び2.3×10−2S/cmから1.1×10−11S/cmの範囲の導電率を有する、自立性ポリマーチップ電極を調製するためのプロセスであって、
(i) ポリマーの完全溶解まで超音波処理及び加熱によって溶媒中にポリマーを溶解させてポリマー溶液を調製する工程、
(ii) 混合物を得るため、70:30から40:60までの範囲の重量比で、グラファイト及び工程(i)で調製したポリマー溶液を混合する工程、
(iii) 均一な分散懸濁液を得るため、10分〜15分の範囲の期間の間、工程(ii)で得られた混合物を超音波処理する工程、
(iv) 引き剥がしに備えて、テンプレートとして有機溶媒中で不溶であるポリエステルシートでガラスモールドを床張りする工程;
(v) 前記ガラスモールド上にフィルムを得るため、工程(iv)で得られた前記ガラスモールド上に工程(iii)で得られた懸濁液を注入する工程、
(vi)ゆっくりとした蒸発によって、25〜30℃の範囲の室温で24時間、工程(iv)で得られたフィルムを乾燥する工程、
(vii)電極を得るため、ポリエステルのテンプレートの除去により後続される前記フィルムの切断する工程
を含む、プロセス。
【請求項2】
70:30から40:60の範囲のグラファイト:ポリマー重量比を有する前記フィルムの厚さは、流延面積48.99cm及び総質量3グラムに対して、0.5mmから0.42mmの範囲である、請求項に記載のプロセス。
【請求項3】
70:30から40:60の範囲のグラファイト:ポリマー重量比を有する前記電極の導電率は、2.3×10−2S/cmから1.1×10−11S/cmの範囲である、請求項に記載のプロセス。
【請求項4】
使用される前記ポリマーは、ポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリ(乳酸)(PLA)からなる群から選択される、請求項に記載のプロセス。
【請求項5】
使用される溶媒は、クロロホルム及びテトラヒドロフランからなる群から選択される、請求項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、実験室外用途のための、低コストの次世代の堅牢なバルク伝導性及び自立性を有するポリマーチップ電極に関する。
【発明の背景及び先行技術】
【0002】
現世代の実験室外の電極は、主にスクリーン印刷及び被覆(PVD及びCVD)電極を含む。これらの電極の主要な欠点は、導電性の構成要素が装置の一体的な部分ではなく、機械的ジャーク、高堆積、高電流又は老化のいずれかによって、容易に損傷/剥離することである。
【0003】
従来の可塑化性ポリマーから作られる電極は、「プラスチックチップ電極」(PCE)と呼ばれたが、生分解性可塑化性ポリマーで作られるそれの別の変形は、「生分解性プラスチックチップ電極」(BPCE)と呼ばれた。種々のレドックス対のサイクリックボルタンメトリー、過酸化水素のアンペロメトリックセンシング、重金属のストリッピングボルタンメトリー、亜鉛の電着及び水性媒体中のアニリン及び3,4−エチレンジオキシチオフェンの電解重合のような様々な電気化学的用途において、そのような電極は従来の貴金属及びグラッシーカーボン電極に匹敵するものであることが見出された。
【0004】
最も古い水銀電極は、その毒性及び生体内蓄積性のために実験室用途でさえ、安全だとはみなされない。カーボンペースト電極は、形態的な制約及び軟弱な性質のため、野外の用途でのそれらの実施はあまり都合よくはないが、実験室用途に適する。さらに、それらは自立性ではなく、カーボンペーストを支持するテンプレートは電極において不適当な種である。しかしながら、スクリーン印刷電極は、その平坦さ及び滑らかさ、自立性、二次元形状のため、現場で櫛型電極及びラボオンチップのようなより高度な用途と同様に、野外のため好適である。被覆及びスクリーン印刷電極の障害は、導電層が複合体の一体的な部分ではなく、機械的ジャーク又は高電流のため、容易に剥離し得ることである。従って、同様の潜在能力を有するが、最小限の欠点を有する表面被覆電極の改良された代替物の要求があった。本発明は、これら問題に対処する。グラファイト−ポリマー複合体を使用する、平坦で、バルク伝導性及び自立性の二次元電極が作製され、電極として使用された。生分解性ポリマーである、ポリ(乳酸)もまた、これらの電極に環境に優しく、よりグリーンな側面を導入するために使用された。BPCEの生分解性の反応速度論が研究され、その作製のため使用されるポリマーそのものの生分解性と比較された。
【0005】
本発明の新規性を理解するため、ここで言及する必要がある幾つかの関連する先行文献がある。主題の電極と同様の製品は公知ではないが。
【0006】
滴下水銀電極(DME)上でのアルカリ及びアルカリ土類金属の電気分解が報告されている、Jaroslav HeyrovskyのPhilosophical Magazine 45(1923)303−315頁の記事を参照する。DMEでは、毛細管の先端での水銀の1滴を電極として使用する。
【0007】
DMEの幾つかの改良がこれら電極のより優れた用途に対して報告されている、1939年6月30日のB.A.HellerのRU55100、及び1944年10月24日のOscar Kanner、Edwin D.ColemanのUS2361295の特許を参照する。
【0008】
ポーラログラフにおけるDMEの用途を説明する、J.HeyrovshyのThe Analyst,72(1947)229−234頁の記事を参照する。
【0009】
ワックス含浸グラファイト電極が報告されている、V.F.Gaylor、A.L.Conrad及びJ.H.LanderlのAnal.Chem.29(1957)224頁の記事を参照する。
【0010】
滴下炭素電極を介したカーボンペースト電極が報告されている、R.N.AdamsのAnal.Chem.30(1958)1576頁の記事を参照する。
【0011】
種々の用途でカーボンペースト電極が使用されている幾つかの特許を参照する;例えば:スーパーキャパシタ(JP57046208B;1973年6月1日)、二重層キャパシタ(JP59090919A;1982年5月25日)、ボルタンメトリー(SU1985−3981899;1985年11月21日)、電気分解(SU1557510A1;1990年4月15日)。
【0012】
酵素修飾カーボンペースト電極がバイオセンサを作製するために使用されている、1993年11月23日のSkotheim,Terje;Okamoto,Yoshiyuki;Gorton,Lo G.;Lee,Hung Sui;Hale,PaulのUS5264092Aの特許を参照する。
【0013】
従来の貴金属電極よりも汎用性の高い固体センサ電極が、不活性基板上に貴金属及び低アルカリガラスの混合物をスクリーン印刷することで作製されている、1975年12月30日のDon N.Gray;George G.GuilbaultのUS3929609Aの特許を参照する。
【0014】
電気化学的フローインジェクション法によって、スクリーン印刷電極上で微量金属試験が行われている、1992年10月29日のJoseph,Wang;Ziad H.TahaのWO9218857A1の特許を参照する。
【0015】
電気化学センサのため単一チップ上に作用、対向及び参照電極を含むスクリーン印刷センサーカートリッジが報告されている、2011年6月16日のRebecca Y.Lai;Weiwei YangのUS20110139636A1の特許を参照する。
【0016】
スクリーン印刷されたバイオチップが報告されている、2012年5月25日のVijaywant、Mathur;Chander Raman Suri;Priyanka SharmaのIN2010CH00236Aの特許を参照する。
【0017】
生分解性の柔軟な導電性基板及びその製造方法が報告されている、2013年12月18日のJ.Yu、Y.Zheng、H.Li、J.LiのCN103448308Aの特許を参照する。
【0018】
ポリ(乳酸)系の導電性繊維の製造が報告されている、2013年2月27日のQ.Liu、B.DengのCN102943315Aの特許を参照する。
【0019】
ポリブチレンスクシナート、ポリブチレンスクシナートアジパート、ポリエチレンスクシナート、ポリ乳酸、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−3−ヒドロキシブチラート、ポリ(3−ヒドロキシブチラート−3−ヒドロキシバレラート)及び/又はポリグリコール酸のような生分解性ポリマーの導電性複合体のコーティングが報告されている、2005年2月3日のT.スズキ、Y.ヒラバヤシ、M.ヤマダ、A.マルヤマ;JP2005032633Aの特許を参照する。そこでは、被覆電極は、リチウム電池のカソード及びアノードとして使用された。
【0020】
ポリ(乳酸)の種々の生物医学の応用が検討されている、R.P.Pawar、S.U.Tekale、S.U.Shisodia、J.T.Totre、A.J.Domb;Recent Patents on Regenerative Medicine(2014),4(1),40−51頁の記事を参照する。
【0021】
心臓ペースメーカでのポリ(乳酸)の適用が報告されている、2006年11月2日のY.フクヒラ、E.キタゾノ、H.カネコ、Y.スミ、Y.ナリタ、H.カガミ、Y.ウエダ、M.ウエダ;WO2006115281A1の特許を参照する。
【0022】
ポリアニリン−ポリ乳酸複合体ナノ繊維が色素増感太陽電池における対向電極として使用されている、S.Peng、P.Zhu、Y.Wu、S.G.Mhaisalkar、S.Ramakrishna、RSC Advances(2012),2(2)、652−657頁の記事を参照する。
【本発明の目的】
【0023】
本発明の主な目的は、金、白金又は他の貴金属電極等の従来の高価な電極、及びスクリーン印刷電極のような被覆電極に対する優れた代替物として簡易な作製工程により提供され得る、低コスト、携帯性及びバルク伝導性の電極を開発することである。
【0024】
本発明の別の目的は、テンプレート又は(カーボンペースト電極でのような)支持体又は(スクリーン印刷電極でのような)加熱硬化工程なしで、作製後にそのまま使用できる、使い捨てで自立性のポリマー複合体電極を開発することである。
【0025】
本発明のさらに別の目的は、電極の作製に対して、簡易な技術(溶液流延法)を採用することである。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、再現性のある物理的な寸法及び導電性を有する電極を作製するための手順を開発することである。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、プラスチックチップ電極を形成するためグラファイトと組合せる種々のポリマーを試すことである。
【0028】
本発明のさらに別の目的は、生分解性ポリマーを使用することで、プラスチックチップ電極に環境に優しく、よりグリーンな側面を組み込むことである。
【0029】
本発明のさらに別の目的は、BPCEの生分解性の反応速度論を研究し、それをポリ(乳酸)そのもののそれと比較することである。
【0030】
本発明の別の目的は、様々な電気化学プロセスで、PCE及びBPCEを試験することである。
【発明の概要】
【0031】
従って、本発明は、70:30から40:60までの範囲の重量比でグラファイト及びポリマーを含み、使用される前記ポリマーは、非生分解性の電極用ではポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)、ポリスチレン(PS)及びポリ塩化ビニル(PVC)、又は生分解性の電極用ではポリ(乳酸)(PLA)からなる群から選択される自立性ポリマーチップ電極を提供する。
【0032】
1つの実施形態において、本発明は、
i.ポリマーの完全溶解まで超音波処理及び加熱によって溶媒中にポリマーを溶解させてポリマー溶液を調製する工程、
ii.混合物を得るため、70:30から40:60までの範囲の重量比で、グラファイト及び工程(i)で調製したポリマー溶液を混合する工程、
iii.均一な分散懸濁液を得るため、10分〜15分の範囲の期間の間、工程(ii)で得られた混合物を超音波処理する工程、
iv.引き剥がしに備えて、テンプレートとして有機溶媒中で不溶である市販のポリエステルシートでガラスモールドを床張りする工程、
v.ガラスモールド上のフィルムを得るため、工程(iv)で得られた前記ガラスモールドの上に工程(iii)で得られた懸濁液を注入する工程、
vi.ゆっくりとした蒸発によって、25〜30℃の範囲の室温で24時間、工程(iv)で得られたフィルムを乾燥する工程、
vii.電極を得るため、ポリエステルのテンプレートの除去により後続される前記フィルムの切断する工程
を含む電極の調製のためのプロセスを提供する。
【0033】
本発明のさらに別の実施形態では、70:30から40:60の範囲の重量比でグラファイト:ポリマーを有するフィルムの厚さは、流延面積48.99cm及び総質量3グラムに対して、0.5mmから0.42mmの範囲である。
【0034】
本発明のさらに別の実施形態では、70:30から40:60の範囲の重量比のグラファイト:ポリマーを有する電極の導電率は、種々のポリマーが使用されるとき2.3×10−2S/cmから1.1×10−11S/cmの範囲である。
【0035】
本発明のさらに別の実施形態では、電極の熱安定性は300℃までである。
【0036】
本発明のさらに別の実施形態では、使用するポリマーは、ポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリ(乳酸)(PLA)からなる群から選択される。
【0037】
本発明のさらに別の実施形態では、使用される溶媒は、クロロホルム及びテトラヒドロフランからなる群から選択される。
【0038】
本発明の別の実施形態では、水性媒体中で電気化学及び電気分析で使用するための電極を提供する。
【0039】
本発明のさらに別の実施形態では、電極は、水性媒体中の異なるレドックス対のサイクリックボルタンメトリー、水性媒体中のアニリン及び3,4−エチレンジオキシチオフェンの電解重合、亜鉛の電着、過酸化水素のアンペロメトリックセンシング及び鉛(II)イオンのアノードストリッピングボルタンメトリーでの作用電極として有用である。
【0040】
本発明のさらに別の実施形態では、電極は、亜鉛、銅、アニリン及び3,4−エチレンジオキシチオフェンの電着のための作用電極として有用である。
【0041】
本発明のさらに別の実施形態では、他の可塑性又は生分解性可塑性ポリマーは、ポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリ(乳酸)(PLA)の代替として使用できる。
【0042】
本発明のさらに別の実施形態では、電極は、水性媒体中の任意の電気化学的プロセスのために使用できる。
【0043】
本発明のさらに別の実施形態では、電極は、水性系中のRu2+/3+、フェロセン/フェロセニウム、及びFe2+/3+のような種々のレドックス対のサイクリックボルタンメトリーでの作用電極として有用である。
【0044】
本発明のさらに別の実施形態では、電極は、広い濃度窓(9μMから400μM)において、0.42μAμM−1の感度での過酸化水素のアンペロメトリックセンシングのために有用である。
【0045】
本発明のさらに別の実施形態では、電極は、検出下限が100ppbのストリッピングボルタンメトリーを介して種々の重金属の検出に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1は、(例11で得た)BPCE電極の質量損失割合(%Δm)対、37℃でのpH=8のトリスHClの0.1M緩衝液中のプロテアーゼ酵素による分解の時間を示す。
図2図2は、プロテアーゼ酵素によって経時的に分解されるBPCEの表面AFMトポグラフを示す:(a)新たに調製したBPCE表面、(b)4日目、(c)8日目、(d)12日目、(e)16日目。
図3A図3Aは、PCE−PMMA−II電極上で記録された、フェロシアニド/フェリシアニドレドックス対のサイクリックボルタモグラムを示す。[挿入図−対応するピーク電流対、アノード走査と同様にカソード走査の走査速度の平方根のプロット]。詳細は、例12に示す。
図3B図3Bは、PCE−PMMA−II電極上で記録された、フェロセン/フェリセニウムレドックス対のサイクリックボルタモグラムを示す。[挿入図−対応するピーク電流対、アノード走査と同様にカソード走査の走査速度の平方根のプロット]。詳細は、例12に示す。
図3C図3Cは、PCE−PMMA−II電極上で記録された、[Ru(bpy)+2/[Ru(bpy)+3レドックス対のサイクリックボルタモグラムを示す。[挿入図−対応するピーク電流対、アノード走査と同様にカソード走査の走査速度の平方根のプロット]。詳細は、例12に示す。
図4A図4Aは、PCE−PMMA−II複合体電極酸上のアニリンの電解重合のサイクリックボルタモグラムを示す。詳細は、例13に示す。
図4B図4Bは、BPCE複合体電極上の3,4−エチレンジオキシチオフェンの電解重合のサイクリックボルタモグラムを示す。詳細は、例13に示す。
図5図5は、1mMのHの100μLの連続添加の間、−0.2Vvs.Ag/AgClで記録されたクロノアンペロメトリー応答を示す。[挿入図:制限電流対、Hの濃度の検量線]。PCE−PMMA−II複合体を、作用電極として使用した。詳細は、例14に示す。
図6図6は、作用電極としてPCE−PMMA−II複合体を使用した、異なる電流密度での亜鉛の電着のクロノポテンシオメトリー曲線を示す。[挿入図:走査速度50mV/sで記録されたZn+2のサイクリックボルタモグラム]例15に説明する。
図7図7は、分析対象物の様々な濃度でのPCE−PMMA−II複合体電極上のPb+2に対する微分パルスアノードストリッピングボルタンメトリーのストリッピングステップを示す。[挿入図−対応する検量線]。詳細は、例16に示す。
【発明の詳細な説明】
【0047】
本発明は、グラファイト及びポリマーの複合体から作製された、費用効果の高く、自立性及びバルク伝導性の使い捨て電極に関する。本発明は、また生分解性ポリマーを使用することによって、これらの電極に環境に優しく、よりグリーンな側面を導入することに関する。本発明は、グラファイトが非常に安価で、入手が容易な電極作製の目的に適した導電性材料であることを認識した。自立性、バルク伝導性の電極を得るため、グラファイトを適切な比率で可塑化性ポリマーと複合化した。溶液流延法を、その簡易さ及び単純さを認識して、電極フィルムを作製するため選択した。電極を、必要な形状に切断した。電極の生分解性を、酵素及び加水分解プロセスで確認し、その反応速度論はゲル浸透クロマトグラフィーにて研究した。サイクリックボルタンメトリー、電気化学重合、アンペロメトリックセンシング及びストリッピングボルタンメトリー等の種々の電気化学的技術において、電極を成功裏に適用した。
【0048】
本発明において、平坦、自立性、二次元及びバルク伝導性のポリマー複合体シートを、簡易な溶液流延法で作製し、電極として使用した。
【0049】
従って、自立性、バルク伝導性及び費用効果がある電極材料が開示される。発明の詳細な説明では、以下の点が与えられる。
【0050】
(i) ポリマーの完全な溶解まで、超音波処理及び加熱によって、適切な溶媒中にポリマーを溶解してポリマー溶液を調製;
(ii) 混合物を得るため、グラファイト−ポリマー重量比及び流延する面積に応じて、ガラス棒の助けを借りてポリマーの混合物中のグラファイトを混合;
(iii) 均一な分散懸濁液を得るため、10分間混合物を超音波処理;
(iv) 引き剥がしに備えて、テンプレートとして有機溶媒中で不溶である市販のポリエステルシートでガラスモールドに床張り;
(v) ガラスモールド上のフィルムを得るため、ガラス棒で撹拌後の懸濁液をガラスモールド上に注入;
(vi) ゆっくりとした蒸発によって、室温で24時間フィルムを乾燥;
(vii) カッターの助けを借りて、必要に応じて適切な大きさにフィルムを切断;及び
(viii) 電極を得るため、フィルムからポリエステルテンプレートの除去。
【0051】
本発明に関する新規の進歩性は以下の通りである。
【0052】
1.裸の従来の電極は電気化学の拡大する寸法を制限しており、従って誂えられ低コストの電極は電気化学の持続的成長のため非常に需要があることの認識。
【0053】
2.その低コストさ、広い不活性電位窓、比較的不活性な電気化学的及び電極触媒的な活性のため、グラファイトが電極材料として非常に良い選択肢であり、グラファイトが電極を作製するための導電性材料として利用され得ることの認識。
【0054】
3.ポリ(メチルメタクリラート)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の種々のポリマーの可塑化特性は、バルク伝導性及び自立性電極を生み出す、グラファイトとの二次元複合体を作製するため使用され得ることの認識[以下、プラスチックチップ電極(PCE)という]。
【0055】
4.可塑化特性に伴うポリ(乳酸)の生分解性は、PCEにおいて環境に優しく、よりグリーンな側面を導入するため利用され得ることの認識[以下、生分解性プラスチックチップ電極(BPCE)という]。
【0056】
5.さらに、有機溶媒中のポリマー溶液内のグラファイト分散によって、複合体電極の作製に対して適用され得る溶液流延法の簡易さの認識。
【0057】
6.さらに、一定の流延面積に対する材料(グラファイト及びポリマー)の固定の総量では、同様の物理的特性(厚さ及び導電性)のフィルムを製造でき、その方法が所定の寸法の複合体電極の作製のため適用されることの実証。
【0058】
7.さらに、複合体フィルムを断片に切断すること及びポリエステルシートの除去の容易さに遭遇することの実証。
【0059】
8.さらに、ポリマー(PLA)そのもののそれに匹敵するBPCEの分解速度は、生分解性電極の調製のため選択され得ることの認識。
【0060】
9.さらに、サイクリックボルタンメトリー、過酸化水素のアンペロメトリックセンシング、鉛(II)イオンの検出のためのストリッピングボルタンメトリー、アニリン及び3,4−エチレンジオキシチオフェンの電解重合、及び亜鉛の電着が想定される幾つかの電気化学的方法で、PCE及びBPCEが効果的に機能し得ることの認識。
【0061】
10.さらに、そのような複合体電極でのバルク改質と同様に表面改質は、実用に基づく用途に応じて容易にされ得ることの認識。
【0062】

以下の例は、例示のために与えられ、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0063】
材料及び方法
PCE−PMMA−I、PCE−PMMA−II、PCE−PMMA−III及びPCE−PMMA−IVとしてそれぞれ示される、グラファイト:ポリマーの異なる重量比、すなわち70:30、60:40、40:60、及び20:80のプラスチックチップ電極(PCE)を調製するための代表的なポリマーとして、ポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)を採用した。異なるグラファイト:PMMA重量比のフィルムの厚さ及び導電率を、表1に示す。ポリスチレン、ポリ塩化ビニル及びポリ(乳酸)のような様々な他のポリマーを、グラファイト:ポリマー重量比60:40を維持して、それぞれPCE−PS、PCE−PVC及びBPCEとして示される電極の作製のために使用した。厚さ、導電率、物質の合計質量、流延面積及び種々のポリマーを使用する電極の作製のため使用した溶媒を表2に示す。
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
電流−電圧(I−V)測定は、様々なバイアス電圧を印加し、対応する電流を測定することによって、キースレー2635A電源測定ユニット(SMU)を使用して行った。この目的のため、フィルムを1cm×1cmサイズに切断し、2つのプラチナ箔間に挟み、ばね仕掛けの真鍮ホルダー内に載置した。ホルダーを、ワニ口クリップを介して電源測定ユニット(SMU)に接続した。
【0066】
PCE−PMMA−I、PCE−PMMA−II、PCE−PS、PCE−PVC及びBPCEに対して±100mVの範囲のバイアス電圧を印加した一方、PCE−PMMA−IIIに対して±1.0V、そしてPCE−PMMA−IVに対して±10.0Vを印加した。データを収集し、I−V曲線を得るためにプロットした。フィルムの電気伝導度を、曲線の傾きから計算した。導電率を、式σ=G×l/Aを使用して算出し、それぞれlが厚さ、Aが面積及びGがフィルムの電気伝導度である。溶液のpH測定を、使用前に毎回室温で較正して、サーモサイエンティフィック(ORION VERSASTAR)pHメーターで行った。全ての電気化学実験は、室温(24±2℃)にてプリンストンアプライドリサーチポテンショスタット(PARSTAT 2273)で実施した。複合体フィルム(幅0.8cm及び長さ3cm)を作用電極として使用し、一方白金箔及びAg/AgCl(飽和KCl)をそれぞれ補助及び参照電極として使用した、三電極アセンブリを電気化学測定中に使用した。作用電極上の作用長さを、未使用領域上にテフロン(登録商標)テープを貼ることで0.5cmに維持した。作用電極での電気接触はワニ口クリップを介して行われ、目的のため適切に修正された。PCE及びBPCEは、0.8×2cmサイズのサンプル上で、導電性のAu−Pd合金の薄いコーティング後に走査型電子顕微鏡(SEM)(LEO 1430 VP)によって、そしていずれの前処理なしで原子間力顕微鏡(AFM)(NT−MDT Ntegra Aura)によって、表面形態を特徴づけられた。電極の引張試験は、万能試験機(ズウィックロエル、タイプX フォースP、S/N 756324)を用いて、0.2mm/分で0.01Nの予荷重を適用して行った。引張試験用の試験片の寸法は、8×0.45×35mm(w×t×l)であった。電極の熱安定性は、サンプル30mgを採取して、熱重量分析(TGA)(NETZSCH、TG 209 F1、天秤)によって試験した。測定は、窒素雰囲気下で10℃/分の加熱速度で25℃から600℃まで実施した。
【0067】
生分解性プラスチックチップ電極の酵素分解を、0.1Mトリス−塩酸緩衝液(pH 8)中のプロテアーゼ酵素を使用して研究した。BPCEを緩衝液中に37℃で保持し、残留する質量を2日おきに採取した。この目的のため、サンプルを溶液から取り除き、ミリQ水で慎重に洗浄し、真空デシケーター内で乾燥した。乾燥したサンプルの重量は、天秤(可読性0.001mg)で測定され、そして質量損失割合(%Δm)は次式で計算された:%Δm=[(m−m)/m]×100。ここで、mは初期質量であり、(時間tでの)mはBPCEの最終質量である。%Δmを時間に対してプロットし、図1に示す。生分解性によるBPCEの表面構造上の孔を、0.5×0.5cmサイズのサンプル上でAFMから評価した。(図2)。
【0068】
BPCE及びPLAフィルムの加水分解を、58℃で恒温のミリQ水中で測定した。約50mgで同じ厚さのPLA及びBPCEフィルムの幾つかの断片を、水25グラムを有する別々のビーカー内に載置する(水:フィルムの重量比500:1)。48時間ごとに、各ビーカー中の液体のpHを測定し、その後水をシリンジで水を注射器で吸引して除去した。PLAフィルム及びBPCEの各々の1つを除いて、他のすべてのビーカーを、新鮮なミリQ水で充填し、さらに加水分解するため恒温(58℃)で保持した。予備のチップを、2.5時間58℃で乾燥し、さらなる分析のため気密のプラスチック袋に保管した。分解されたフィルムの一定の部分を切断し、58℃でテトラヒドロフラン(THF)内で溶解した。グラファイトを、遠心分離プロセスによって溶液から除去して、上澄みを分析のために取り除いた。ウォーターズ2414RI検出器と連結されたウォーターズ2695分離モジュールを使用するHPLCによって、分子量分布測定を実施した。
【0069】
PLA及びBPCEフィルムの加水分解の反応速度論(速度定数及び半減期)を、ポリマーの分子量の減少を測定することによって、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を利用して研究した。以下の式は、分解が一次反応速度論に従うことを考慮して、速度定数及び半減期を計算するため使用した。
【式1】
【0070】
及び
【式2】
【0071】
ここで、‘k’は、加水分解プロセスの速度定数である。‘M’は、加水分解プロセスの間の時間‘t’での数平均分子量であり、‘M’は72g/molの繰り返し単位の分子量であり、t1/2は半減期である。
【0072】
例1
10%(w/v)の(クロロホルム中にPMMAを溶解することにより調製された)ポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)溶液9mlをビーカーに採取し、2.1グラムのグラファイトをそれに添加した。グラファイト:ポリマー重量比は70:30(PCE−PMMA−I)であった。混合物を撹拌し、10分間超音波処理した。懸濁液を、面積48.99cmの改質ガラスモールド上に広げた。系を、乾燥のため室温(25℃)で24時間保持した。フィルムの厚さ及び導電率は、それぞれ0.5mm及び2.2×10−2S/cmであった。
【0073】
例2
10%(w/v)の(クロロホルム中にPMMAを溶解することにより調製した)PMMA溶液3mlをビーカーに採取し、0.7グラムのグラファイトをそれに添加した。グラファイト:ポリマー重量比は、70:30(PCE−PMMA−I)であった。混合物を撹拌し、10分間超音波処理した。懸濁液を、面積15.89cmの改質ガラスモールド上に広げた。系を、乾燥のため室温(27℃)で24時間に保持した。フィルムの厚さ及び導電率は、実験誤差の範囲内において、実験−1で形成されたフィルムと同じ、それぞれ0.5mm及び2.3×10−2S/cmであった。
【0074】
例3
10%(w/v)の(クロロホルム中にPMMAを溶解することにより調製した)PMMA溶液12mlをビーカーに採取し、グラファイト1.8グラムをそれに添加した。グラファイト:ポリマー重量比は、60:40(PCE−PMMA−II)であった。混合物を撹拌し、10分間超音波処理した。懸濁液を、面積48.99cmの改質ガラスモールド上に広げた。系を、乾燥のために室温で24時間保持した。フィルムの厚さ及び導電率は、それぞれ0.42mm及び1.6×10−2S/cmであった。
【0075】
例4
10%(w/v)の(クロロホルム中にPMMAを溶解することにより調製した)PMMA溶液4mlをビーカーに採取し、グラファイト0.6グラムをそれに添加した。グラファイト:ポリマー重量比は、60:40(PCE−PMMA−II)であった。混合物を撹拌し、10分間超音波処理した。懸濁液を、面積15.89cmの改質ガラスモールド上に広げた。系を、乾燥のため室温で24時間保持した。フィルムの厚さ及び導電率は、実験誤差の範囲内において、実験−3に形成されたフィルムと同じ、それぞれ0.42mm及び1.6×10−2S/cmであった。
【0076】
例5
10%(w/v)の(クロロホルム中にPMMAを溶解することにより調製した)PMMA溶液18mlをビーカーに採取し、グラファイト1.2グラムをそれに添加した。グラファイト:ポリマー重量比は、40:60(PCE−PMMA−III)であった。混合物を撹拌し、10分間超音波処理した。懸濁液を、面積48.99cmの改質ガラスモールド上に広げた。系を、乾燥のために室温で24時間保持した。フィルムの厚さ及び導電率は、それぞれ0.45mm及び1.0×10−5S/cmであった。
【0077】
例6
10%(w/v)の(PMMAをクロロホルムに溶解することにより調製した)PMMA溶液6mlをビーカーに採取し、グラファイト0.4グラムをそれに添加した。グラファイト:ポリマー重量比は、40:60(PCE−PMMA−III)であった。混合物を撹拌し、10分間超音波処理した。懸濁液を、面積15.89cmの改質ガラスモールド上に広げた。系を、乾燥のために室温で24時間保持した。フィルムの厚さ及び導電率は、実験誤差の範囲内において実験−5で形成されたフィルムと同じである、それぞれ0.46mm及び1.0×10−5S/cmであった。
【0078】
例7
10%(w/v)の(PMMAをクロロホルムに溶解することにより調製した)PMMA溶液24mlをビーカーに採取し、グラファイト0.6グラムをそれに添加した。グラファイト:ポリマー重量比は、20:80(PCE−PMMA−IV)であった。混合物を撹拌し、10分間超音波処理した。懸濁液を、面積48.99cmの改質ガラスモールド上に広げた。系を、乾燥のために室温で24時間保持した。フィルムの厚さ及び導電率は、それぞれ0.44mm及び1.1×10−11S/cmであった。
【0079】
例8
10%(w/v)の(PMMAをクロロホルムに溶解することにより調製した)PMMA溶液8mlをビーカーに採取し、グラファイト0.2グラムをそれに添加した。グラファイト:ポリマー重量比は、20:80(PCE−PMMA−IV)であった。混合物を撹拌し、10分間超音波処理した。懸濁液を、面積15.89cmの改質ガラスモールド上に広げた。系を、乾燥のために室温で24時間保持した。フィルムの厚さ及び導電率は、実験誤差の範囲内において、実験−7で形成されたフィルムと同じである、それぞれ0.43mm及び1.0×10−11S/cmであった。
【0080】
例9
10%(w/v)の(クロロホルム中にポリスチレンを溶解することにより調製した)ポリスチレン溶液12mlをビーカーに採取し、グラファイト1.8グラムをそれに添加した。グラファイト:ポリマー重量比は、60:40(PCE−PSと表記)であった。混合物を撹拌し、10分間超音波処理した。懸濁液を、面積48.99cmの改質ガラスモールド上に広げた。系を、乾燥のために室温で24時間保持した。フィルムの厚さ及び導電率は、それぞれ実験誤差の範囲内において実験−3及び4に形成されたフィルムと同じ、0.41mm及び3.1×10−2S/cmであった。
【0081】
例10
1.52グラムのポリ塩化ビニルは、連続攪拌される温度が高い20mlのテトラヒドロフラン中に溶解した。2.28グラムのグラファイトをそれに添加し、ガラス棒の助けを借りて混合した。グラファイト:ポリマー重量比は、60:40(PCE−PVCと表記)であった。混合物は、約60℃の温度を維持して10分間超音波処理した。懸濁液を、面積62.18cmの改質ガラスモールド上に広げた。フィルムの厚さ及び導電率は、それぞれ0.43mm及び1.2×10−3S/cmであった。
【0082】
例11
10%(w/v)の(クロロホルム中にPLAを溶解することで調製された)ポリ(乳酸)20mlをビーカーに採取し、3グラムのグラファイトをそれに添加した。グラファイト:ポリマー重量比は、60:40(BPCEと表記)であった。混合物を撹拌し、10分間超音波処理した。懸濁液を、面積100cmの改質ガラスモールド上に広げた。系を、乾燥のために室温で24時間保持した。フィルムの厚さ及び導電率は、それぞれ0.38mm及び2.0×10−3S/cmであった。
【0083】
例12
pH4.5の0.1M酢酸緩衝液中のフェロシアニドカリウム(10mM)、フェロセンカルボン酸(3mM)、及び0.1M硝酸カリウム溶液中のトリス(2,2’−ビピリジル)−ジクロロルテニウム(II)六水和物(1mM)をそれぞれ用いて、フェロシアニド/フェリシアニド(図3A)、フェロセン/フェロセニウム(図3B)及び[Ru(bpy)+2/[Ru(bpy)+3対(図3C)の、異なる走査速度でのサイクリックボルタモグラムを測定のため、PCE−PMMA−IIを作用電極として使用した。100mV/sの走査速度での全てのレドックス対に対する正規の電位(E)、アノード及びカソードのピーク電流(Ipa及びIpc)及びピーク間の間隔(ΔE)のデータを、それぞれ表3に示す。
【表3】
【0084】
この例は、電極が、3つの全てのレドックス対に対して、グラファイト複合体電極の特性である超ネルンスト挙動(1電子移動に対して59mV/sより大きなΔE1、及びIpa>Ipc)を示すことを実証する。
【0085】
例13
PCE−PMMA−II及びBPCEを作用電極として使用して、電解重合を介してポリアニリンを形成するためのアニリンのアノード酸化が試みられた。この目的のため、アニリンのスルファートモノマーを、0.5MHSO中に0.1Mアニリンを溶解した後4〜5分間超音波処理して調製した。新たに調製したアニリンモノマーを、10mLビーカーに採取して、50mV/sの走査速度で、−0.2Vから0.8Vの範囲で9サイクルの間、電位をサイクルして重合を行った。両方の電極上のアニリンの電解重合に対するサイクリックボルタモグラムを図4Aに示す。3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の電解重合は、また作用電極としてBPCEを使用して試みられた。EDOTの0.01Mのモノマー溶液を、支持電解質として0.1MのKCl中で調製した。ポテンショダイナミック重合のため、50mV/sの走査速度で、−0.2Vから1.2Vの範囲で、合計9サイクルした(図4B)。
【0086】
例は、PCE及びBPCEを、電解重合のために効果的に使用できることを実証する。
【0087】
例14
PCE−PMMA−IIは、過酸化水素の非酵素的なアンペロメトリックセンシングのための作用電極として使用した。この目的のため、1mMHの原液を、0.1Mリン酸緩衝液(pH5.2)中で調製した。定電位−0.2Vを印加して、撹拌条件下で100μLの原液を連続添加して応答を記録した。原液の添加は、1分間隔で定常状態(定電流)を達成した後に開始した。Hの検知のためのクロノアンペロメトリーのグラフを図5に示す。
【0088】
この例は、過酸化水素の非酵素的なアンペロメトック検出は、PCEを使用して行えることを示す。応答は、広い濃度窓(9μMから400μM)内で瞬間的な線形(R=0.998)であることが見出された。感度は、0.42μA/μMであることが見出され、検出下限は9μMであった。
【0089】
例15
亜鉛(167.5g/L)、マンガン(5.5g/L)、及び鉄(7g/L)を有する溶液を使用して、PCE−PMMA−II電極上で、亜鉛の定電流電解採取を試験した。異なる3つの電流密度、すなわち0.25、1.25、及び2.25mA/cmでは、一定期間の時間(300秒)での亜鉛の析出(図6)を試験した。
【0090】
この例は、これらの電極を、電解採取の目的のため効果的に使用できることを実証する。
【0091】
例16
鉛の検出のためのアノードストリッピングボルタンメトリー(ASV)は、PCE−PMMA−II上でそれを作用電極として使用して試験された。硝酸鉛の原液(1mM)を、この目的のためpH4.5の酢酸緩衝液(0.1M)中で調製した。0.5μMから40μMまでの範囲の鉛の幾つかの溶液を、同じ緩衝液での原液の連続希釈により調製した。連続攪拌して5分間−1.2Vを印加して、電着を行った。5秒の平衡後に、−0.8Vから0Vの電位範囲、50m秒間のパルス幅25mV、ステップ高さ2mV及びステップ時間100m秒を保持することで微分パルスボルタンメトリーを適用して、ボルタモグラム(図7)を記録した。ブランク試験(何れの分析物なし)を、バックグラウンド電流を確認するため同様の条件下で実行した。新規の作用電極を、それぞれの測定に使用した。ピーク電流をバックグラウンド電流で正規化し、回帰係数(R)0.994で、1μMから40μMの濃度範囲で線形であることが見出された検量線(図5の挿入図)を描くため使用した。
【0092】
発明の効果
本発明の効果は、
i. 広い電位窓、電極触媒活性及び比較的不活性な電気化学で、高い導電性及び安価である電極材料としてグラファイトの使用。
【0093】
ii. スクリーン印刷及び被覆電極の場合のような、導電層の表面剥離の解消。
【0094】
iii. 可塑化性ポリマーとグラファイトとの二次元複合体から作製される電極のバルク伝導性。
【0095】
iv. テンプレートを有しない電極の自立性構造。
【0096】
v. 簡易な溶液流延法での電極の調製の容易さ。
【0097】
vi. 表面改質と同様のバルク改質の大きな可能性。グラファイト−ポリマー懸濁液中に改質剤を混合することで、電極の調製の間にバルク改質できる。一方、表面改質は、乾燥した電極表面上で、測定中に現場で又は電極上に改質剤を流延してのいずれでもなされ得る。
【0098】
vii. 寸法の剛性。電極は、同様の物理特性(厚さ及び導電率)を有する流延面積で、材料(グラファイト+ポリマー)の総量の一定の比率で作製した。
【0099】
viii. サイズの柔軟性。電極はフィルムとして作製されるため、必要に応じてどんなサイズにも切断できる。
【0100】
ix. 電極での生分解性ポリマーの利用による、環境に優しく、よりグリーンな側面の包含。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 70:30から40:60までの範囲の重量比でグラファイト及びポリマーを含み、使用される前記ポリマーは、非生分解性の電極用ではポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)、ポリスチレン(PS)及びポリ塩化ビニル(PVC)、又は生分解性の電極用ではポリ(乳酸)(PLA)からなる群から選択される自立性ポリマーチップ電極。
[2] (i) ポリマーの完全溶解まで超音波処理及び加熱によって溶媒中にポリマーを溶解させてポリマー溶液を調製する工程、
(ii) 混合物を得るため、70:30から40:60までの範囲の重量比で、グラファイト及び工程(i)で調製したポリマー溶液を混合する工程、
(iii) 均一な分散懸濁液を得るため、10分〜15分の範囲の期間の間、工程(ii)で得られた混合物を超音波処理する工程、
(iv) 引き剥がしに備えて、テンプレートとして有機溶媒中で不溶であるポリエステルシートでガラスモールドを床張りする工程;
(v) 前記ガラスモールド上にフィルムを得るため、工程(iv)で得られた前記ガラスモールド上に工程(iii)で得られた懸濁液を注入する工程、
(vi)ゆっくりとした蒸発によって、25〜30℃の範囲の室温で24時間、工程(iv)で得られたフィルムを乾燥する工程、
(vii)電極を得るため、ポリエステルのテンプレートの除去により後続される前記フィルムの切断する工程
を含む[1]に記載の電極の調製のためのプロセス。
[3] 70:30から40:60の範囲のグラファイト:ポリマー重量比を有する前記フィルムの厚さは、流延面積48.99cm及び総質量3グラムに対して、0.5mmから0.42mmの範囲である、[2]に記載のプロセス。
[4] 70:30から40:60の範囲のグラファイト:ポリマー重量比を有する前記電極の導電率は、種々のポリマーが使用されるとき2.3×10−2S/cmから1.1×10−11S/cmの範囲である、[2]に記載のプロセス。
[5] 前記電極の熱安定性は300℃までである、[2]に記載のプロセス。
[6] 使用される前記ポリマーは、ポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリ(乳酸)(PLA)からなる群から選択される、[2]に記載のプロセス。
[7] 使用される溶媒は、クロロホルム及びテトラヒドロフランからなる群から選択される、[2]に記載のプロセス。
[8] 水性媒体中で電気化学及び電気分析で使用するための[1]に記載の電極。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7