(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記診断モードにおいて、血管内を流れる血流の進行方向に対向する方向に超音波を照射する少なくとも1つの超音波振動子を選定し、選定した該超音波振動子を前記血管に向けて発振して超音波ドップラーを得て、前記血流の速度を計測する請求項1から5のいずれかに記載の超音波診断治療装置。
前記制御部は、前記治療モードにおいて、薬物及び超音波治療促進物質が投与された治療位置に向けて、該治療位置に対応する少なくとも1つの前記超音波振動子を発振させる請求項1から6のいずれかに記載の超音波診断治療装置。
前記制御部は、前記治療モードにおいて、前記超音波振動子から発振されるパルス波に含まれる周波数を高域から低域へと掃引する周波数掃引モードを備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の超音波診断治療装置。
前記焦点における前記超音波の最大の広がり角を変更するように各前記超音波振動子の配列形状を変化させる超音波振動子配列形状変更部を備えていることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の超音波診断治療装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記文献の超音波診断治療装置は、治療用の超音波振動子群と診断用の超音波プローブとをそれぞれ別に設けるものであり、異なる種類の超音波素子を使用する必要があるため装置構成が複雑になりコストが嵩むという問題がある。
また、上記文献の診断用の超音波プローブは、球殻状の本体部分の中心部に配置されているため、超音波を有効に透過させることができる領域が狭い場合には生体内に広い視野角を確保することができず、満足な診断を行うことができないという問題がある。例えば、超音波は骨に対して大きく減衰するので、脳の診断を行う場合には、頭蓋骨のうちで骨の薄い限られた領域を利用して超音波を透過させることになるが、上記文献の超音波プローブのように超音波が透過可能な領域の真上すなわち法線上に位置している場合には、当該領域から脳内に向けて十分な視野角を確保することが難しい。
また、上記文献の治療用の超音波振動子群は、球殻状の本体部分の内面側に配置されることによって生体内の1点で焦点を結ぶことになっているが、上述のように超音波が透過可能な限られた領域から超音波を照射する場合には、患者の体表面における超音波の照射領域が超音波透過可能領域よりも大きくなってしまうことが生じ得る。このような場合、球殻状の本体部分の外周側に配置された超音波振動子から発せられた超音波は、超音波透過可能領域の外側で遮られてしまい(例えば厚い骨によって遮られてしまい)、これらの超音波振動子を有効に利用できないという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、超音波を照射する領域が限られている場合であっても、被検体の外部から超音波を照射して生体内を診断しかつ患部を治療することができる超音波診断治療装
置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の超音波診断治療装
置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる超音波診断治療装置は、出射される超音波の焦点が被検体の外表面の外側近傍でかつ該外表面から所定距離だけ離れた位置となるように配列された複数の超音波振動子と、各前記超音波振動子の送受信を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記被検体の内部の診断領域に向けて少なくとも1つの前記超音波振動子を発振させるとともに、前記診断領域からの反射波を少なくとも1つの前記超音波振動子にて受波して可視化する診断モードと、前記被検体の内部に向けて少なくとも1つの前記超音波振動子を発振させる治療モードとを有している。
【0007】
被検体の外表面の外側近傍でかつ外表面から所定距離だけ離れた位置に焦点が位置するように、複数の超音波振動子が配置される。これにより、各超音波振動子から発せられる超音波が被検体の外表面上や体内の1ヶ所に集中することを避けることができ、被検体に火傷等の熱的な悪影響を及ぼすことがない。
また、焦点を被検体の外表面の外側近傍の所定位置とすることにより、被検体の外表面における超音波照射領域を可及的に小さくすることができ、被検体に超音波を照射できる領域が限られている場合であっても有効に全ての超音波振動子を利用して診断ないし治療を行うことができる。
なお、本発明の「焦点」は、被検体の外表面に近いほど好ましいが、各超音波振動子から出射された超音波が焦点に集中することによって生じる火傷等の悪影響を回避できる程度に被検体の外表面から離された位置とされる。
【0008】
さらに、本発明の超音波診断治療装置では、複数の前記超音波振動子は、凹曲面とされた配置面上に配列されていることを特徴とする。
【0009】
複数の超音波振動子を凹曲面とされた配置面上に配列することにより、被検体の外表面の外側近傍でかつ該外表面から所定距離だけ離れた位置となるように焦点の位置を設定することができる。
凹曲面としては、所望の位置に焦点を位置させる形状であれば特に限定されるものではないが、例えば、部分回転体が挙げられる。部分回転体とは、所定の円弧や線分を中心軸線回りに回転させて形成された形状、換言すると回転体を中心軸線に直交する平面で切り取った部分を意味する。部分回転体の具体例としては、球体の一部分や、回転放物面の一部分が例示できる。
【0010】
さらに、本発明の超音波診断治療装置では、前記所定距離は、3mm以上30mm以下とされている。
【0011】
所定距離を3mm以上30mm以下として超音波の焦点位置を被検体の外表面の近傍に設定することとした。これにより、被検体に対する火傷等の悪影響を防止するとともに、超音波照射領域を可及的に小さくすることができる。
なお、所定値としては、さらに好ましくは、5mm以上20mm以下とされる。
【0012】
さらに、本発明の超音波診断治療装置では、前記制御部は、前記診断モードにおいて、前記各超音波振動子を、異なる時刻又は異なる位相で順次発振させる。
【0013】
診断モードでは、各超音波振動子を異なる時刻または異なる位相で順次発振することにした。これにより、各超音波振動子にて受波する反射波を出射時刻や出射位相を用いて分離することができ、容易に可視化することが可能となる。
なお、同じ時刻で各超音波振動子を出射させる場合には、各超音波振動子の発振周波数を異ならせることで、反射波を分離することもできる。
また、同じ時刻かつ同じ発振周波数で全ての超音波振動子を発振させる制御を備えていてもよい。
【0014】
さらに、本発明の超音波診断治療装置では、前記焦点における前記超音波の最大の広がり角は、80°以上160°以下とされている。
【0015】
焦点における超音波の最大の広がり角を80°以上160°以下とした。これにより、被検体の体内に向けて十分な広がり角をもって超音波を照射することができ、被検体の診断領域および治療領域を広く設定することができる。特に、被検体の外表面に対して大きな入射角(入射超音波と外表面における法線とがなす角)となる超音波振動子を用いることとすれば、外表面における照射面積の外側でかつ外表面から浅い深さに患部が位置していても超音波を到達させることができる。
なお、本発明の「広がり角」は、焦点を通る対称軸線(中心軸線)を挟んだ両側の角度を意味する。そして、「最大の広がり角」とは、全ての超音波振動子を用いた場合に可能な広がり角を意味する。最大の広がり角は、さらに好ましくは、100°以上140°以下とされる。
【0016】
さらに、本発明の超音波診断治療装置では、前記制御部は、前記診断モードにおいて、血管内を流れる血流の進行方向に対向する方向に超音波を照射する少なくとも1つの超音波振動子を選定し、選定した該超音波振動子を前記血管に向けて発振して超音波ドップラーを得て、前記血流の速度を計測する。
【0017】
複数の超音波振動子は、被検体の外表面近傍に焦点が位置するように配置(例えば凹曲面とされた配置面上に配置)されているので、被検体の体内の種々の方向に超音波を照射することができる。したがって、血管が種々の方向に向いていても、測定対象となる血管内を流れる血流の進行方向に対向する方向、すなわち血流の向きに略平行となる方向に超音波を照射することができる超音波振動子が存在する。この血流の進行方向に対向する方向に超音波を照射する少なくとも1つの超音波振動子を選定し、超音波ドップラーを得ることとした。血流の進行方向に対向する方向に超音波を照射するので、明確なドップラーシフトを得ることができ、血流の速度を高精度にて測定することができる。
【0018】
さらに、本発明の超音波診断治療装置では、前記制御部は、前記治療モードにおいて、薬物及び超音波治療促進物質が投与された治療位置に向けて、該治療位置に対応する少なくとも1つの前記超音波振動子を発振させる。
【0019】
薬物及び超音波治療促進物質を治療位置に投与して、この治療位置に対応する少なくとも1つの超音波振動子を発振させる。これにより、超音波による非温熱効果を利用した超音波治療促進物質によって、治療位置への薬物の浸透が促進される。このように、超音波の熱エネルギーによる温熱を利用する温熱治療だけでなく、薬物効果を促進する非温熱治療にも適用することができる。
超音波治療促進物質としては、例えば、超音波造影剤として利用されるマイクロバブルが例示でき、このようなマイクロバブルは、内部にガスを含み0.1μm以上100μm以下程度の直径とされた多数のマイクロカプセルを含有する。
【0020】
さらに、本発明の超音波診断治療装置では、前記被検体の表面に接触しつつ弾性変形可能な変形接触部が設けられていることを特徴とする。
【0021】
被検体の表面に接触しつつ弾性変形可能な変形接触部が設けられているので、診断または治療する患部の位置に応じて各超音波振動子の向きを適宜変更することができる。
【0022】
さらに、本発明の超音波診断治療装置では、前記制御部は、前記治療モードにおいて、前記超音波振動子から発振されるパルス波に含まれる周波数を高域から低域へと掃引する周波数掃引モードを備えていることを特徴とする。
【0023】
超音波振動子から発振されるパルス波に含まれる周波数を高域から低域へと掃引する周波数掃引モードにより、治療位置における細胞を多く死滅させることができる。
なお、上記の周波数掃引モードは、公知の超音波治療装置に適用することもできる。すなわち、本発明のように、出射される超音波の焦点が被検体の外表面の外側近傍でかつ該外表面から所定距離だけ離れた位置となるように配列された複数の超音波振動子という構成を有する超音波治療装置に限定されることなく、単に超音波振動子を備えた超音波治療装置に適用することができる。
【0024】
さらに、本発明の超音波診断治療装置では、前記焦点における前記超音波の最大の広がり角を変更するように各前記超音波振動子の配列形状を変化させる超音波振動子配列形状変更部を備えていることを特徴とする。
【0025】
各超音波振動子の配列形状を変化させることにより、焦点における超音波の最大の広がり角を変化させることができる。これにより、診断や治療を行う部位に応じて所望の視野範囲や治療範囲を確保することができる。
【0026】
また、本発明の
参考例としての他の一態様に係る超音波診断治療方法は、出射される超音波の焦点が被検体の外表面の外側近傍でかつ該外表面から所定距離だけ離れた位置となるように配列された複数の超音波振動子とを備えた超音波診断治療装置を用いた超音波診断治療方法であって、前記被検体の内部の診断領域に向けて少なくとも1つの前記超音波振動子を発振させるとともに、前記診断領域からの反射波を少なくとも1つの前記超音波振動子にて受波して可視化する診断モードと、前記被検体の内部に向けて少なくとも1つの前記超音波振動子を発振させる治療モードとを行う。
【0027】
被検体の外表面の外側近傍でかつ外表面から所定距離だけ離れた位置に焦点が位置するように、複数の超音波振動子が配置される。これにより、各超音波振動子から発せられる超音波が被検体の外表面上や体内の1ヶ所に集中することを避けることができ、被検体に火傷等の熱的な悪影響を及ぼすことがない。
また、焦点を被検体の外表面の外側近傍の所定位置とすることにより、被検体の外表面における超音波照射領域を可及的に小さくすることができ、被検体に超音波を照射できる領域が限られている場合であっても有効に全ての超音波振動子を利用して診断ないし治療を行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
出射される超音波の焦点が被検体の外表面の外側近傍でかつ該外表面から所定距離だけ離れた位置となるように配列することとしたので、超音波が透過可能な領域が限られている場合であっても、被検体の外部から超音波を照射して生体内を診断しかつ患部を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる超音波診断治療装置を示した斜視図である。
【
図2】
図1の超音波診断治療装置を示した縦断面図である。
【
図4】超音波振動子から発せられる超音波が結ぶ焦点を示した縦断面図である。
【
図5】
図1の超音波診断治療装置の使用状態を示した斜視図である。
【
図6】頭蓋骨のうちで骨が薄い部分を介して超音波を照射した状態を示した図である。
【
図7】周波数掃引モードによって超音波を照射した場合のアポトーシスを示したグラフである。
【
図8】
図7の実験時の生存率を示したグラフである。
【
図9】パルス繰り返し周波数を変化させた場合の生存率を示したグラフである。
【
図10】パルス繰り返し周波数0.5Hz、照射時間180秒のときに、超音波出力を変化させた場合の生存率を示したグラフである。
【
図11】パルス繰り返し周波数50Hz、照射時間180秒のときに、超音波出力を変化させた場合の生存率を示したグラフである。
【
図12】パルス繰り返し周波数0.5Hz、照射時間90秒のときに、超音波出力を変化させた場合の生存率を示したグラフである。
【
図13】パルス繰り返し周波数50Hz、照射時間90秒のときに、超音波出力を変化させた場合の生存率を示したグラフである。
【
図14】周波数掃引モードによって超音波を照射した場合の生存率、アポトーシスを示したグラフである。
【
図15】マイクロバブルを用いた場合とマイクロバブルを用いない場合における生存率を示したグラフである。
【
図16】ソナゾイドMBを用い、中心周波数455kHzとした場合の細胞殺傷率を示したグラフである。
【
図17】ソナゾイドMBを用い、中心周波数1.5MHzとした場合の細胞殺傷率を示したグラフである。
【
図18】ソナゾイドMBを用いずに、中心周波数455kHzとした場合の細胞殺傷率を示したグラフである。
【
図19】ソナゾイドMBを用いずに、中心周波数1.5MHzとした場合の細胞殺傷率を示したグラフである。
【
図20】ソナゾイドMBを用い、中心周波数1.5MHzとしてPRFを10Hzとした場合の細胞殺傷率を示したグラフである。
【
図21】ソナゾイドMBを用い、中心周波数1.5MHzとしてPRFを50Hzとした場合の細胞殺傷率を示したグラフである。
【
図22】ソナゾイドMBを用い、中心周波数1.5MHzとしてPRFを100Hzとした場合の細胞殺傷率を示したグラフである。
【
図23】ソナゾイドMBを用い、共振周波数で入力電圧を15Vとした場合の細胞殺傷率を示したグラフである。
【
図24】ソナゾイドMBを用い、共振周波数で入力電圧を20Vとした場合の細胞殺傷率を示したグラフである。
【
図25】FITC蛍光強度の平均値を示したグラフである。
【
図26】周波数掃引の有無による細胞殺傷率を示したグラフである。
【
図27】実験に用いたパレットを示した平面図である。
【
図28】ウェルの1つを拡大して示した縦断面図である。
【
図30】
図29のA−A線における断面を示した部分縦断面図である。
【
図31】超音波振動子の発振順序の変形例を示した図である。
【
図32】超音波振動子の発振順序の変形例を示した図である。
【
図33】超音波振動子の設置方法の変形例を示した縦断面図である。
【
図34】弾性変形可能なカップリングを用いた変形例を示した縦断面図である。
【
図35】超音波振動子を円筒面状に配列した変形例を示した斜視図である。
【
図36】超音波振動子を楕円曲面状に配列した変形例を示した斜視図である。
【
図37】超音波振動子が配列された内表面の曲率半径を変化させた状態を示し、(a)は曲率半径が比較的大きい状態を示した縦断面図であり、(b)は曲率半径が比較的小さい状態を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、本実施形態にかかる超音波診断治療装置1が示されている。
超音波診断治療装置1は、超音波診断治療プローブ3(以下、単に「プローブ3」という。)と、超音波振動子の送受信の制御等を行う制御部5とを備えている。
【0031】
プローブ3は、複数の超音波振動子が配置された超音波送受信部7と、音響整合層としてのカップリング部9とを備えている。
【0032】
図2に示すように、超音波送受信部7は、球面状の凹曲面とされた内表面7aを有するドーム形状とされている。なお、内表面7aは、球面状に限定されるものではなく、凹曲面を構成していれば種々の曲面でもよく、例えば、プローブ3の中心軸線(具体的には円筒形とされたカップリング部9の中心軸線)Lを回転軸とした回転体の一部分によって定義される曲面とされる。したがって、内表面としては、放物面、円筒面、楕円曲面等の他の曲面も含むものである。
【0033】
内表面7aには、複数の超音波振動子10が配置されている。すなわち、内表面7aが複数の超音波振動子10の配置面となっている。超音波振動子10は、圧電素子とされており、典型的にはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が用いられる。各超音波振動子10は、制御部5に接続されており、制御部5によって送波器および受波器として動作する。すなわち、治療モードの場合には送波器として動作し、診断モードの場合には送波器及び受波器として動作する。
なお、超音波振動子10としては、PZTに代えて、cMUT(Capacitive Micro-machined Ultrasonic Transducers)を用いてもよい。cMUTは、は半導体技術を応用した容量性超音波トランスデューサであり、広帯域の超音波周波数を発信・受信することができ、音響特性に優れている。cMUTは、シリコン基板上にリソグラフィ技術を用いて多数の微小センサ(cMUTセル)をパターニングすることにより作製される。
【0034】
各超音波振動子10の背面(
図2において上面)には、パッキング部7bが設けられている。このパッキング部7bによって、超音波振動子10の余分な振動を抑え、効率良く超音波振動を被検体側(カップリング部9側)に伝えるようになっている。
【0035】
図3に示すように、複数の超音波振動子10は、超音波送受信部7を底面視した場合(すなわち超音波送受信部7の凹側から視た場合)に、超音波送受信部7の中心Cを起点として、放射状に並べられている。なお、
図3では、超音波振動子10が中心Cから45°おきに8方向に向けて配列されているが、この配列方向については特に限定されるものではなく、少なくとも4方向(すなわち十文字に)に配列されていればよく、或いは9方向以上に配列させても良い。また、中心Cを中心として同心円状に配列させても良い。
【0036】
図4には、上述のように配列された超音波振動子10によって形成される焦点Fの位置が示されている。なお、同図では、理解の容易のため、
図1及び
図2に示したカップリング部9が省略して示されている。同図に示されているように、焦点Fは、被検体Mの外表面Sの外側近傍でかつ外表面Sから所定距離Aだけ離れた位置に設定されている。この所定距離Aとしては、外表面S上に位置しない程度に外表面Sに近い距離が好ましく、例えば、3mm以上30mm以下、好ましくは5mm以上20mm以下とされる。なお、同図に示された符号Tは、腫瘍等の治療対象(治療位置)である。
また、焦点における超音波の最大の広がり角αは、80°以上160°以下、好ましくは100°以上140°以下とされている。最大の広がり角αは、焦点Fを通る対称軸線(中心軸線L)を挟んだ両側の角度を意味し、全ての超音波振動子を用いた場合に可能な広がり角を意味する。
【0037】
カップリング部9は、
図1及び
図2に示すように、略円筒形状とされており、超音波振動子10と被検体Mとの間の音響インピーダンスを整合させるものである。カップリング部9の内部には、脱気水やシリコンオイル等の音響整合液が充填されている。
図2に示すように、カップリング部9の側部には、脱気水やシリコンオイル等の音響整合液がカップリング部9内に流入する流入口9aと、カップリング部9から流出する流出口9bとが設けられている。これら流入口9a及び流出口9bを介して、外部の供給源(図示せず)から脱気水やシリコンオイル等の音響整合液が循環されるようになっている。なお、カップリング部9としては、超音波振動子10と被検体Mとの間の音響インピーダンスを整合させる材質で形成されていればよく、本実施形態のように脱気水やシリコンオイル等の音響整合液に限定されるものではなく、音響整合層が形成されるのであれば液体ではなくても他のゲルや固体であってもよい。
【0038】
図5に示すように、超音波診断治療装置1は、プローブ3を手で把持することによって持ち運び自在とされており、診断ないし治療する箇所にカップリング部9の底面9cが接触するように設置される。このように、カップリング部9の底面9cが被検体Mの外表面Sに直接的に接触する接触面となる。この底面9cを介して、治療用または診断用の超音波振動子10からの超音波が被検体Mの体内へと導かれ、また被検体Mの体内から反射された反射波が受波器としての超音波振動子10へと導かれる。したがって、
図4に示した所定距離Aは、カップリング部9の底面9cから焦点Fまでの距離となる。
【0039】
制御部5は、
図1に示されているように、超音波送受信部7に対して接続されており、各超音波振動子10の制御を行う。具体的には、制御部5からの指示に基づいて各超音波振動子10が発振され、また、各超音波振動子10にて受信した被検体Mからの反射信号が制御部5へと送られるようになっている。
制御部5は、各超音波振動子10の周波数、出力等が調整できるようになっており、各超音波振動子10が発振する順番のパターンについても調整できるようになっている。各超音波振動子10の周波数や出力については、それぞれの超音波振動子10毎に個別に調整できるようにしてもよい。また、診断モードと治療モードによって超音波振動子10の周波数や出力を変更しても良い。例えば、診断モードの際には出力を小さくし、治療モードの際には出力を大きくするようにしても良い。
また、制御部5では、各超音波振動子10にて受波した反射波に基づいて、所定の演算を行い可視化する処理が行われるようになっている。可視化される画像としては、Aモード画像、Bモード画像、Mモード画像あるいはカラードップラーといった種々の画像を得ることができる。また、画像処理技術としては、Mickael Tanter氏によって提唱されているUltrafast Imagingを用いることができる(例えば、'Ultrafast Imaging in Biomedical Ultrasound', IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics and Frequency Control,
vol. 61, no. 1, pp. 102-119 January 2014)。
制御部5には、画像表示装置としてのモニタ(図示せず)が接続されており、上述した各種の画像が表示されるようになっている。
【0040】
制御部5は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等を備えている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等である。
【0041】
次に、上述した超音波診断治療装置1の動作について説明する。
[診断モード]
診断モードの場合、制御部5の指示により、各超音波振動子10は、所定の時間差ないし位相差で順次発振させられる。例えば
図4に示されているように、一方の端部に位置する超音波振動子10aから他方の端部に位置する超音波振動子10bまで順次に発振させられる。このように超音波送受信部7の直径方向に各超音波振動子10を発振させ、これを順次異なる直径方向に繰り返す。すなわち、
図3に示すように、先ず図中における右下の超音波振動子10cから左上の超音波振動子10dまで順次発振させて(図中の符号I参照)、次に図中における真下の超音波振動子10eから真上の超音波振動子10fまで順次発振させ(図中の符号II参照)、その次に図中における左下の超音波振動子10gから右上の超音波振動子10hまで順次発振させ(図中の符号III参照)、最後に図中における左端の超音波振動子10iから右端の超音波振動子10jまで順次発振させる(図中の符号IV照)。
【0042】
以上のように所定の時間差ないし位相差をもって超音波が各超音波振動子10から順次発せられる。
図4には、所定の時間差ないし位相差をもって発せられた超音波の入射波面W1が示されている。各超音波振動子10から発せられた超音波は、それぞれ、焦点Fを通過した後に被検体Mの外表面Sを通過して生体内に進入する。そして、生体内の各所にて反射した反射波が外表面Sから放出されて各超音波振動子10にて受信される。
図4には、生体内にて反射した後の反射波面W2が示されている。超音波振動子10にて受信されて得られる反射像は、焦点Fに関して点対称とされた像となる。この反射像は制御部5にて適宜変換され、上述した所望の診断画像が得られる。
【0043】
[血流検査]
診断モードには、赤血球による超音波の反射波を捉えて血管内の血流速度を得る血流検査も含まれている。
制御部5は、上述した診断モードによって血管の位置及び向きを把握した後に、診断対象とする血管の向きに対向する方向、すなわち血流の向きに対して略平行に近い方向に超音波を出射する1以上の超音波振動子10を選定する。そして、選定した超音波振動子10を発振させることによって赤血球から反射される反射波を超音波振動子10にて捉えて超音波ドップラーを計測し、血流速度を得る。このように、超音波によるドップラーシフトが得られやすい方向に超音波を照射することより、高い精度で血流速度を得ることができる。
【0044】
[治療モード]
治療モードの場合、制御部5の指示により、所定の超音波振動子10が選定され、選定された超音波振動子10から超音波が出射される。これにより、
図6に示すように、治療対象Tに超音波が照射され、治療が行われる。治療を行う超音波振動子10の選定は、上述した診断モードにて治療対象Tの位置を把握した上で、この治療対象Tに対応する位置に配置された超音波振動子10が選定される。あるいは、治療対象Tの位置が予め分かっている場合には、診断モードを省略しても良い。
【0045】
特に、
図6に示されているように、被検体Mの外表面Sに対して大きな入射角(入射超音波と外表面における法線(
図6では中心軸線L)とがなす角β)となる超音波振動子10kを用いることとすれば、外表面Sにおける超音波の照射領域の外側でかつ外表面Sから浅い深さに位置する治療対象Tにも超音波を到達させることができる。
また、診断モードにおいても、入射角βが大きい超音波振動子10を用いることによって、外表面Sにおける超音波の照射領域の外側でかつ外表面Sから浅い深さに位置する治療対象Tを診断することができる。
【0046】
[非温熱治療]
超音波の熱エネルギーによる温熱を利用する温熱治療だけでなく、薬物効果を促進する非温熱治療にも適用することができる。
非温熱治療の場合には、薬物及び超音波治療促進物質を治療対象Tに投与して、この治療対象Tに対応する少なくとも1つの超音波振動子10(
図6では超音波振動子10k)を発振させる。これにより、超音波エネルギーによる非温熱効果を利用した超音波治療促進物質によって、治療対象Tへの薬物の浸透が促進される。
超音波治療促進物質としては、例えば、超音波造影剤として利用されるマイクロバブルが例示でき、このようなマイクロバブルは、内部にガスを含み0.1から100μm程度の直径とされた多数のマイクロカプセルを含有する。
【0047】
[周波数掃引モード]
治療モードの際には、以下のような周波数掃引モードが可能となっている。
周波数掃引モードでは、超音波振動子10から発振されるパルス波に含まれる周波数を高域から低域へと掃引する。これにより、低域から高域に周波数掃引する場合に比べて多くの細胞を死滅させることができる。周波数掃引モードは、例えば、中心周波数510kHzで掃引幅±110kHzとされ、具体的には620kHzから400kHzへと周波数が減少するように掃引する。バルス繰り返し周波数は、例えば、5Hz以上50Hz以下、好ましくは10Hz近傍とされ、超音波出力は、例えば、30mW/cm2以上、好ましくは80mW/cm2以上とれ、照射時間は、例えば、90秒以上、好ましくは180秒以上とされる。
【0048】
次に、周波数掃引モードを用いた実験結果について説明する。
実験方法は以下の通りである。
<細胞培養>
ヒト白血病細胞株U937を使用した。
<超音波照射方法>
振動子直径20mmの超音波振動子の音響放射面上に音響カップリングゲルを介して24ウェル培養プレート(Lumox .A N.)を設置した。
超音波の照射直前に1×106cells/mLに調製したヒト白血病細胞株U937の細胞懸濁液を、各ウェルに2mLずつ満たした。中心周波数510kHzで掃引幅±110kHz、掃引間隔0.2ms、パルス繰り返し周波数10Hz、デューティー比50%、正弦波の条件で発振器(SonoPore KTAC-4000, Nepagene)で20mW/cm2から80mW/cm2の範囲で駆動し(具体的には同発振器で30Vから60Vの範囲で駆動し)、U937に対して超音波強度80mW/cm2の超音波を90秒間照射した。周波数掃引によって駆動周波数が400kHzから620kHzへ増加する場合(以下「Sweep1」という。)と、620kHzから400 kHzへ減少する場合(以下「Sweep2」という。)の2つの異なる超音波照射条件が、細胞殺傷率(前後の生存率の比較)とアポトーシスへ与える影響について検討した。なお、Sweep2が本発明の周波数掃引モードに相当する。
<細胞生存率の測定>
超音波曝露直後のU937の生死判定に、トリパンブルー色素排除法を使用した(n=4)。ここで、nは実験回数を意味する。細胞懸濁液と同量のトリパンブルー染色液を混合して染色後、自動細胞計数装置TC20(Bio Rad)によって生細胞数を計測した。超音波の照射を受けていないコントロールの生細胞数に対する超音波曝露後の生細胞数の割合から細胞生存率を算出した。
<アポトーシス(プログラムされた細胞死)の検出>
超音波照射を受けたU937のアポトーシス評価を行った。超音波曝露から6時間後、細胞をAnnexinV-AlexaとPIで二重標識し、イメージベースサイトメーター(Tali, Life technologies)を使用して初期アポトーシスと後期アポトーシスを検出した。
【0049】
図7及び
図8には上記条件での実験結果が示されている。
図7に示されているように、Sweep1とSweep2とでは超音波照射強度が同じとされているにも関わらず、Sweep1よりもSweep2(本発明)の方が多くのアポトーシスが認められた。
また、がん細胞の生存率は、
図8に示されているように、Sweep1よりもSweep2(本発明)の方が顕著に減少していることが分かる。
【0050】
さらに、実験条件を変更して生存率を測定した結果について説明する。
図9には、超音波出力80mW/cm2で、180秒照射の条件で、バルス繰り返し周波数を0.5Hz、10Hz、50Hzに変化させた場合の生存率が示されている。同図から分かるように、パルス繰り返し周波数が10Hz及び50Hzの場合には、Sweep1よりもSweep2(本発明)の方が生存率が減少している。一方、パルス繰り返し周波数が0.5Hzの場合には、Sweep1よりもSweep2(本発明)の方が生存率が増加している。したがって、Sweep2を採用する場合には、パルス繰り返し周波数は0.5Hzよりも大きい5Hz以上が好ましく、50Hzよりも10Hzの方が生存率が低いため10Hz付近がさらに好ましい。
【0051】
図10及び
図11には、照射時間を180秒とした場合に、超音波出力を35Vと60Vに変化させたときの生存率が示されている。
図10はパルス繰り返し周波数が0.5Hzのときの生存率を示し、
図11はパルス繰り返し周波数が50Hzのときの生存率を示している。これらの図から分かるように、超音波出力が35Vよりも60Vの方が生存率が減少し、超音波出力が35VのときはSweep1とSweep2(本発明)の間に有意な差は認められない。
また、
図12及び
図13は、それぞれ、
図10及び
図11に対応し、照射時間を90秒に変化させたときの生存率を示している。
図12及び
図13からも、
図10及び
図11と同様に、超音波出力が20mW/cm2よりも80mW/cm2の方が生存率が減少し、超音波出力が35VのときはSweep1とSweep 2(本発明)の間に有意な差は認められない。一方、
図13から分かるように、照射時間が90秒であっても、超音波出力が80mW/cm2でパルス繰り返し周波数が50Hzであれば、Sweep 2(本発明)とすることによって、生存率を減少させることができる。
以上から、超音波出力は、30mW/cm2以上、好ましくは80mW/cm2以上が好ましい。
【0052】
図14には、以下の条件での実験結果が示されている。
中心周波数510kHzで掃引幅±110kHz、掃引間隔0.2ms、掃引幅22%、パルス繰り返し周波数10Hz、デューティー比50%、照射時間180秒、超音波出力80mW/cm2の条件で癌細胞に超音波を照射した。そして、5%のCO2を含む37℃の加湿空気の環境とされたインキュベーション条件で6時間静置した。このインキュベーション時間の後、癌細胞は、アポトーシス及び細胞周期を測定するTALI Image-Based Cytometerによって分析された。
図14に示すように、Sweep1よりもSweep2(本発明)の方が多くの初期アポトーシス及び後期アポトーシスが認められるとともに、生存率が減少した。
【0053】
図15には、超音波治療促進物質としてマイクロバブルを用いた場合の生存率が示されている。同図において左側がアルブミンのマイクロバブルを用いた結果であり、右側がマイクロバブル無しの結果である。同図から分かるように、マイクロバブルを用いることによって、生存率がさらに低下することが分かる。
【0054】
図16及び
図17には、ソナゾイドMB(マイクロバブル)を用いた場合の実験結果が示されている。
超音波振動子の入力インピーダンスの周波数特性が略フラットとなる位置で周波数掃引を行った。実験条件は下表の通りである。実験条件(1)が
図16に対応し、実験条件(2)が
図17に対応する。
【0056】
図16に示されているように、中心周波数455kHzでは、SW1(Sweep1のこと。以下同じ)と本発明に対応するSW2(Sweep2のこと。以下同じ。)の細胞殺傷効果はほぼ同等であったが、
図17に示されているように、中心周波数1.5MHzではSW1よりもSW2の方が細胞殺傷効果が良かった。
【0057】
図18及び
図19には、
図16及び
図17のようにソナゾイドMBを用いずに、超音波単独で行った実験結果が示されている。実験条件は下表の通りである。実験条件(3)が
図18に対応し、実験条件(4)が
図19に対応する。
【0059】
図18に示されている通り、中心周波数455kHzではSW1よりもSW2(本発明)の方が細胞殺傷効果が良かった。
【0060】
図20から
図22には、ソナゾイドMBを用い、PRF(パルス繰り返し周波数)を変化させた場合の実験結果が示されている。実験結果は下表の通りである。
【0062】
図20から
図22に示されている通り、SW1に比べてSW2(本発明)の方が細胞殺傷効果が最も良かったのは、PRF10から100Hzのなかで50Hzであった。
【0063】
図23及び
図24には、ソナゾイドMBを使用し、超音波振動子の入力インピーダンスの周波数特性のピークを中心とした周波数掃引を行った場合の実験結果が示されている。実験結果は下表の通りである。
【0065】
図23及び
図24に示されている通り、SW1よりもSW2(本発明)の方が細胞殺傷効果が良かった。なお、
図23及び
図24では、入力電圧が15V,20Vといったように
図16から
図22のときの60Vよりも小さくなっている。これは、超音波振動子の入力インピーダンスが良い(小さい)からである。
【0066】
以上の
図16から
図24に示した実験結果から、以下の知見を得た。
細胞殺傷効果は、SW1よりもSW2(本発明)の方が良い。
中心周波数1.5MHz、入力電圧60Vの時のSW2の細胞殺傷効果が良い(
図17参照)。
中心周波数1.0111MHz、入力電圧15V及び20Vの時のSW2の細胞殺傷効果が良い(
図23及び
図24参照)。
【0067】
また、抗がん剤モデルとなるデキストランの細胞内の取り込み効果をフローサイトメトリーで確認した。実験条件は下表の通りである
【0069】
上表の通り、ソナゾイドMBを用いてSW2(本発明)を行った場合、FITC蛍光強度から、デキストランが細胞内に取り込まれた可能性が示唆された。
【0070】
そして、
図25に示されているように、下表の実験条件にて、FITC蛍光強度の平均値を得たところ、ソナゾイドMBを用いてSW2(本発明)を行った場合が最も高いことが分かった。このことからも、SW2を用いることによってデキストランが細胞内に取り込まれた可能性が示唆された。
【0072】
図26には、超音波振動子の入力インピーダンスの周波数特性のピーク(すなわち共振周波数である1.011MHz)を用い、周波数掃引の有無を変化させた場合の実験結果が示されている。実験結果は下表の通りである。SW0は、周波数掃引なしの場合を意味する。
【0074】
図26に示されているように、周波数掃引なし(SW0)と、周波数掃引あり(SW1,SW2)とを比較すると、細胞殺傷効果はほぼ同等であった。しかし、複数の超音波振動子間のデータのばらつきを示す標準偏差(
図26中のエラーバーに相当)は、周波数掃引なし(SW0)よりも周波数掃引あり(SW1,SW2)の方が小さく、さらにSW1よりもSW2(本発明)の方が小さくなった。このことから、超音波振動子を共振周波数で駆動する場合、周波数掃引を用いることで複数の超音波振動子間のデータのばらつきを抑えることができる。
【0075】
図27には、上述した実験を行った際に用いたパレット20が示されている。パレット20には、複数のウェル22が形成されており、これらウェル22は、例えば6行4列となるように配列されている。
ウェル22は、
図28に1つのウェル22が拡大して示されているように、円筒形の容器とされている。ウェル22は、円筒状の側壁部22aを有し、この側壁部22aの底部にフィルム22bが液密的に固定されている。フィルム22bは、超音波が透過しやすい樹脂製の薄膜体とされている。ウェル22内に、ソナゾイドMBやデキストリンが添加された水溶液が満たされる。
【0076】
ウェル22の底部を構成するフィルム22bには、実験時に、超音波振動子24が接触するように配置される。超音波振動子24は、振動素子24aと、振動素子24aを取り囲むように設けられ、内部に水(液体)が充填された収容体24bと、振動素子24aに電力を供給する電線24cとを備えている。超音波振動子24は、フィルム22b面に対して傾斜した方向(フィルム22b面に対して角度αだけ傾斜した方向)から超音波が照射されるように設けられている。これにより、照射した超音波がフィルム22b面で反射した超音波と干渉して定在波が形成されることを避けることができ、フィルム22bに対するエネルギー透過性が向上する。
【0077】
図29には、超音波振動子24を収容する実験治具26が示されている。実験治具26は、板状体とされており、表面には、4つの超音波振動子24が設置できるように、溝26aが4箇所設けられている。
各溝26aは、
図30に示されているように、超音波振動子24の収容体24b(
図28参照)を収納する円形溝26a1と、円形溝26a1に連通して直線状に延在するリード溝26a2とを備えている。リード溝26a2には、電線24c(
図28参照)が収納される。この実験治具26の表面上にパレット20(
図27参照)を設置することにより、
図28に示したようにウェル22の底面のフィルム22bに対して斜めに超音波振動子24を配置できるようになっている。
【0078】
以上の通り、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
被検体Mの外表面Sの外側近傍でかつ外表面から所定距離Aだけ離れた位置に焦点Fが位置するように、複数の超音波振動子10が球体の内表面7aとされた配置面上に配置される。これにより、各超音波振動子10から発せられる超音波が被検体Mの外表面上や体内の1ヶ所に集中することを避けることができ、被検体に火傷等の熱的な悪影響を及ぼすことがない。
また、焦点Fを被検体Mの外表面から外側近傍の所定位置とすることにより、被検体Mの外表面Sにおける超音波照射領域を可及的に小さくすることができ、被検体に超音波を照射できる面積が限られている場合であっても有効に全ての超音波振動子10を利用して診断ないし治療を行うことができる。
【0079】
焦点Fにおける超音波の広がり角αを80°以上160°以下としたことにより、被検体Mの体内に向けて十分な広がり角αをもって超音波を照射することができ、被検体Mの診断領域および治療領域を広く設定することができる。特に、被検体Mの外表面Sに対して大きな入射角βとなる超音波振動子10kを用いることとすれば(
図6参照)、外表面Sにおける照射領域の外側でかつ外表面から浅い深さに位置する治療対象Tにも超音波を到達させることができる。
【0080】
なお、上述した実施形態は、以下のような変更を行うことも可能である。
超音波振動子10の発振の順序は、
図3を用いて示したような超音波送受信部7の直径方向に限定されるものではなく、
図31のように中心Cから半径方向に順次発振することとしても良いし、
図32のように円周方向に順次発振することとしても良い。
また、治療モード時にはもちろんのこと、診断モード時においても反射波が分離できる限りにおいて(例えば各超音波振動子10の発振周波数を異ならせることにより)、全ての超音波振動子10あるいは一部分の超音波振動子10を同時に発振させても良い。
また、
図33に示すように、各超音波振動子10の設置角度を内表面7aの傾斜角度よりも大きく傾斜させることとしてもよい。より具体的には、中心軸線Lから離れている超音波振動子10ほど中心軸線L側に向くように設置する。これにより、内表面7aの曲率半径を小さくすることで、超音波振動子10を支持する超音波送受信部7の厚さBを小さくすることができ、装置のコンパクト化を図ることができる。
【0081】
また、
図34に示されているように、カップリング部9の下部に、弾性変形可能なゴム等の弾性材料で形成された変形接触部9dを設けても良い。変形接触部9dは、上方のカップリング部9の本体部9eと同等の外径を有している。変形接触部9dは、外力が加わらない状態では、円周方向に同一の軸方向高さ(例えば約3cm)とされた側面を有する有底円筒状のカップ形状とされている。変形接触部9d内には、脱気水やシリコンオイル等の音響整合液が充填されている。この場合、変形接触部9d内を上方のカップリング部9の本体部9eと連通させ、共通の音響整合液を用いるようにしてもよい。
図34に示したように、プローブ3を被検体Mに対して傾斜させると、この傾斜に応じて変形接触部9dの底部9cが被検体Mに接触しながら変形し、骨の真下に存在する治療対象Tに対しても超音波が到達して良好に診断及び治療を行うことができる。
【0082】
図35及び
図36には、超音波振動子10の配列の変形例が示されている。上述した実施形態では、球面状とされた内表面7a(例えば
図2参照)に超音波振動子10を配列することとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、
図35に示すように、円筒面状に複数の超音波振動子10を配列することとしてもよい。また、
図36に示すように、楕円曲面状に複数の超音波振動子10を配列することとしてもよい。なお、
図35及び
図36に示す符号Fは焦点である。
【0083】
また、内表面7aに複数の超音波振動子10を保持する超音波送受信部7を変形させて超音波振動子10の配列形状を変更する超音波素子配列形状変更部を備えるようにしてもよい。具体的には、
図37(a)に示されているように超音波振動子10が配列された内表面の曲率半径を大きくした状態から、
図37(b)に示されているように超音波振動子10が配列された内表面の曲率半径を小さくした状態に変形できるようにする。超音波振動子10が配列された内表面の円弧長は大きく変化しないので、
図37(a)から
図37(b)のように曲率半径が小さくなるように変形させると、広がり角をα1からα2まで大きくすることができる。また、焦点位置はF1からF2まで外表面Sに対して近くなるので、
図37(a)から
図37(b)のように超音波振動子10を外表面Sに近づけることで、大きな広がり角をもって超音波を送受信させることができる。
【0084】
超音波振動子10が配列された内表面の曲率半径を変化させる超音波素子配列形状変更部の機構としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
常温にて弾性変形可能な樹脂やゴムのような弾性材料で超音波送受信部7を構成し、この弾性変形可能な超音波送受信部7の内表面7aに複数の超音波振動子10を配列する(
図2参照)。超音波送受信部7には雨傘のように骨組みが取り付けられている。すなわち、骨組みは、略半球形状の超音波送受信部7の頂点から外表面に沿って放射状に延在する複数の伸縮部材から構成されている。各伸縮部材は、例えば複数の圧電素子を長手方向に積層して所定の曲率半径で曲げられた棒状の部材とされ、通電することによって各圧電素子が伸びることで伸縮部材が伸びるとともに曲率半径が変化するようになっている。伸縮部材が伸びることで伸縮部材の曲率半径が増大するように圧電素子を積層しておくことで、通電せずに曲率半径が小さい状態(
図37(b)参照)から、通電して曲率半径が大きい状態(
図37(a)参照)まで変形させることができる。圧電素子への通電状態は、制御部5(
図1参照)によって制御されるようになっている。なお、超音波振動子10が配列された内表面の曲率半径を変化させる機構としては、上述した圧電素子を用いた骨組み構造に限定されるものではなく、例えば油圧や水圧を用いたアクチュエータでもよく、あるいは他の機構を用いても良い。
このように、診断や治療を行う部位に応じて制御部5からの指令によって超音波振動子10が配列された内表面の曲率半径を任意に変化させて広がり角α1,α2を調整することにより、所望の視野範囲や治療範囲を確保することができる。