【文献】
YU Y JOY,BOOSTING BRAIN UPTAKE OF A THERAPEUTIC ANTIBODY BY REDUCING ITS AFFINITY FOR A TRANSCYTOSIS TARGET,SCIENCE TRANSLATIONAL MEDICINE,米国,AMERICAN ASSOCIATION FOR THE ADVANCEMENT OFSCIENCE,2011年 5月25日,VOL:3, NR:81- 84,PAGE(S):136 -143,URL,http://dx.doi.org/10.1126/scitranslmed.3002230
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抗体が、トランスフェリンのTfRに対する結合を阻害せず、前記抗体の1つ以上の性質が、前記抗体の網状赤血球に対する影響を低減するまたは除去する及び/または前記抗体で治療される対象または哺乳動物における急性臨床症状の重症度または存在を低減するために改変されている、請求項1に記載の単離抗体。
前記1つ以上の性質が、抗体Fc領域のエフェクター機能及び前記抗体の補体活性化機能から選択され、前記エフェクター機能または補体活性化機能が、同じアイソタイプの野生型抗体と比較して低減または除去された、請求項5に記載の抗体。
前記抗体のグリコシル化の低減、前記抗体アイソタイプからエフェクター機能が自然に低減または除去されたアイソタイプへの改変及び前記Fc領域の改変から選ばれる方法により前記エフェクター機能が低減されるまたは除去される、請求項6に記載の抗体。
前記抗体のグリコシル化が、野生型グリコシル化を許容しない環境における前記抗体の産生、前記抗体上に既に存在している炭水化物基の除去及び野生型グリコシル化を引き起こさない前記抗体の改変から選ばれる方法により低減される、請求項7に記載の抗体。
前記抗体のFc領域が、297位に突然変異を含むことにより同位置における野生型アスパラギン残基が、同位置におけるグリコシル化に干渉する他のアミノ酸に置き換えられる、請求項8に記載の抗体。
前記Fc領域の全てまたは一部の欠失によって、または前記抗体の操作によって、前記エフェクター機能または補体活性化機能が低減または除去されることにより、エフェクター機能または補体活性化機能に適したFc領域または非Fc領域を含まない、請求項11に記載の抗体。
前記改変が、234位、235位、238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位及び439位から選択される1つ以上のFc受容体への結合を減損するための前記Fc領域の点突然変異、270位、322位、329位及び321位から選ばれるC1qへの結合を減損するための前記Fc領域の点突然変異、部分的または全ての前記Fc領域の除去及び前記CH1ドメインの132位における点突然変異から選択される、請求項11に記載の抗体。
前記改変が、234位、235位、265位、297位及び329位から選ばれる1つ以上のFc受容体への結合を減損するための前記Fc領域の少なくとも1つの点突然変異である、請求項13に記載の抗体。
前記脳抗原が、ベータセクレターゼ1(BACE1)、Abeta、上皮成長因子受容体(EGFR)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、タウ(tau)タンパク質、アポリポタンパク質E(ApoE)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ(leucine rich repeat kinase)2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、デス受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)及びカスパーゼ6からなる群から選択される、請求項32または請求項33に記載の抗体。
前記神経障害が、神経障害疾患、神経変性疾患、がん、眼疾患/障害、発作性疾患、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス性または微生物疾患、虚血、行動障害及びCNS炎症からなる群から選択される、請求項45に記載の抗体。
前記神経障害が、神経障害疾患、神経変性疾患、がん、眼疾患/障害、発作性疾患、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス性または微生物疾患、虚血、行動障害及びCNS炎症からなる群から選択される、請求項48に記載の使用。
対象内でBBBを通して化合物を輸送するためのキットであって、請求項32〜39のいずれか1項に記載の抗体を含み、前記BBBが該抗体に曝露され、それにより前記BBBを通して該抗体にカップリングした前記化合物が該抗体により輸送される、キット。
対象のCNSの化合物に対する曝露を増やすためのキットであって、請求項32〜39のいずれか1項に記載の抗体を含み、前記BBBが該抗体に曝露され、それにより前記BBBを通して該抗体にカップリングした前記化合物が該抗体により輸送される、キット。
対象に投与する化合物のCNS内での保持を増加するためのキットであって、請求項32〜39のいずれか1項に記載の抗体を含み、前記BBBが該抗体に曝露され、それにより化合物のCNS内での保持が増加される、キット。
前記神経障害が、神経障害疾患、神経変性疾患、がん、眼疾患/障害、発作性疾患、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス性または微生物疾患、虚血、行動障害及びCNS炎症からなる群から選択される、請求項54に記載の医薬。
前記抗体が、抗体投与の急性臨床症状が最小限となるように調整された用量及び/または投薬回数で投与される、請求項56〜60のいずれか1項に記載のキット又は医薬。
【発明を実施するための形態】
【0043】
1.定義
「親和性」は、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の、総計の非共有性相互作用の強度を指す。別途指定されない限り、本明細書で使用されるとき、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体及び抗原)間の1:1の相互作用を反映する、本来の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般的には解離定数(KD、XのYからの解離速度(off速度)(kdまたはKoff)のXのYに対する会合速度(on速度)(kaまたはKon)の比である)によって表すことができる。標的に対する1つ以上の抗体の親和性の代替測定は、既知のリガンドの抗体標的への結合を50%阻害するためにどの程度の抗体が必要とされるかの尺度である、最大半量阻害濃度(IC50)である。親和性は、本明細書に記載したものを含む、当該技術分野で知られている一般的な方法によって測定することができる。結合親和性を測定するための具体的な例示説明及び例となる実施形態を、本明細書に記載する。「血液脳関門」または「BBB」は、脳毛細血管内皮原形質膜内の密着結合によって形成され、脳内への分子の輸送を、尿素(60ダルトン)などの非常に小さな分子さえも、制限する強固な障壁を作りだす末梢循環と脳及び脊髄(すなわち、CNS)の間の生理的障壁を指す。脳内の血液脳関門、脊髄内の血液脊髄関門、及び網膜内の血液網膜関門は、CNS内における連続的な毛細血管障壁であり、ここに総称して血液脳関門またはBBBと呼ばれる。BBBはまた、障壁が毛細血管内皮細胞よりむしろ上衣細胞で構成される、血液脳脊髄液関門を(脈絡叢)をも包含する。
【0044】
本明細書において互換的に使用される用語「アミロイドベータ」、「ベータアミロイド」、「Abeta」、「アミロイドβ」、及び「Aβ」は、APPのβセクレターゼ1(「BACE1」)切断の際に生成されるアミロイド前駆体タンパク質(「APP」)の断片、並びにこれらに限定されないが、Aβ
1−40及びAβ
1−42を含むその改変、断片及び任意の機能的等価物を指す。Aβは、単量体形態で存在し、並びに会合してアミロイドプラークの構成員として見出され得るオリゴマー及びフィブリル構造を形成することが知られている。Aβペプチドの構造及び配列は当業者に周知であり、前記ペプチドを生産する方法またはそれらを脳及び他の組織から抽出する方法は、例えば、Glenner and Wong, Biochem Biophys Res. Comm. 129: 885−890 (1984)に記載されている。更に、Aβペプチドは様々な形態で市販されてもいる。
【0045】
「抗Abeta免疫グロブリン」、「抗Abeta抗体」及び「Abetaに結合する抗体」は、本明細書において交換可能に使用され、具体的には、ヒトのAbetaに特異的に結合する抗体を指す。抗Abeta抗体の非限定的な例は、クレネズマブ(crenezumab)である。抗Abeta抗体の他の非限定的な例としては、ソラネズマブ(solanezumab)、バピネオズマブ(bapineuzumab)、ガンテネルマブ(gantenerumab)、アデュカヌマブ(aducanumab)、ポネズマブ(ponezumab)及び次の出版物:国際公開第2000162801号、国際公開第2002046237号、国際公開第2002003911号、国際公開第2003016466号、国際公開第2003016467号、国際公開第2003077858号、国際公開第2004029629号、国際公開第2004032868号、国際公開第2004032868号、国際公開第2004108895号、国際公開第2005028511号、国際公開第2006039470号、国際公開第2006036291号、国際公開第2006066089号、国際公開第2006066171号、国際公開第2006066049号、国際公開第2006095041号、国際公開第2009027105号に開示された任意の抗Abeta抗体が挙げられる。
【0046】
用語「クレネズマブ」及び「MABT5102A」は、本明細書において交換可能に使用され、Abetaの単量体、オリゴマー及びフィブリル形態に結合し、CAS登録番号1095207と関連する特定の抗Abeta抗体を指す。いくつかの実施形態において、そのような抗体は
図18A及び
図18Bに明記される配列を含む。
【0047】
本明細書において「アポリポタンパク質E4陽性」または「ApoE4陽性」と互換的に使用される「アポリポタンパク質E4キャリア」または「ApoE4キャリア」は、少なくとも一つのアポリポタンパク質E4(または「ApoE4」)対立遺伝子を有する個体を指す。ApoE4対立遺伝子がゼロである個体は、本明細書において、「ApoE4陰性」または「ApoE4非キャリア」と呼ばれる。また、Prekumar, et al., 1996, Am. J Pathol. 148:2083−95を参照。
【0048】
用語「脳血管原性浮腫」は、脳の細胞内または細胞外空間における血管内液またはタンパク質の過剰蓄積を指す。脳血管原性浮腫は、これらに限定されないが、例えばFLAIRMRIを含む脳のMRIによって検出可能であり、無症候性(「無症候性血管原性浮腫」)であるかまたは混乱、めまい、嘔吐、及び嗜眠(「症候性血管原性浮腫」)など神経学的症状を伴う場合がある(Sperling et al. Alzheimer’s & Dementia, 7:367, 2011を参照)。
【0049】
用語「脳の巨大出血(macrohemorrhage)」は、直径約1cmを超える領域の頭蓋内出血または脳内における出血を指す。脳の巨大出血は、これらに限定されないが、例えばT2
*強調GREMRIを含む脳のMRIにより検出可能であり、無症候性(「無症候性巨大出血」)であるか、または一過性もしくは恒久的な局所運動または感覚障害、運動失調、失語症、及び構音障害などの症状(「症候性巨大出血」)を伴う場合がある(例えば、Chalela JA, Gomes J. Expert Rev. Neurother. 2004 4:267, 2004 and Sperling et al. Alzheimer’s & Dementia, 7:367, 2011を参照)。
【0050】
用語「脳の微小出血(microhemorrhage)」は、直径約1cm未満の領域の頭蓋内出血または脳内における出血を指す。脳の微小出血は、これらに限定されないが、例えばT2
*強調GREMRIを含む脳のMRIにより検出可能であり、無症候性(「無症候性微小出血」)であるか、または一過性もしくは恒久的な局所運動または感覚障害、運動失調、失語症、及び構音障害などの症状(「症候性微小出血」)を潜在的に伴う場合がある。例えば、Greenberg, et al., 2009, Lancet Neurol. 8:165−74を参照。
【0051】
用語「溝浸出」は、脳の溝(furrow)、または溝(sulci)内の液体の浸出を指す。溝浸出は、例えば、これらに限定されないがFLAIRMRIを含む脳のMRIによって検出可能である。Sperling et al. Alzheimer’s & Dementia, 7:367, 2011を参照。
【0052】
用語「中枢神経系の表在性鉄沈着症」とは、脳のクモ膜下腔への出血(bleeding)または出血(hemorrhage)を指し、これらに限定されないが、例えばT2
*強調GREMRIを含む脳のMRIにより検出可能である。中枢神経系の表在性鉄沈着症を示す症状は、感音難聴、小脳性運動失調、及び錐体路兆候が含まれる。Kumara−N, Am J Neuroradiol. 31:5, 2010を参照。
【0053】
本明細書において使用される用語「アミロイドーシス」は、アミロイドもしくはアミロイド様タンパク質に関連するかまたは引き起こされる疾患及び障害の群を指し、これらに限定されないが、アミロイドプラークによるものを含み、モノマー、フィブリルもしくは高分子状態、または3つの任意の組み合わせのアミロイド様タンパク質の存在もしくは活性により引き起こされる疾患及び障害を含む。そのような疾患は、例えば、アルツハイマー病(AD)、軽度認知機能障害(MCI)などの認知記憶能力の消失によって特徴付けられる疾患または状態、レビー小体型認知症、ダウン症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型)、グアムパーキンソン認知症などの神経疾患を含むが、これらに限定されない疾患などの続発性アミロイドーシス及び加齢性アミロイドーシス;及び進行性核上性麻痺、多発性硬化症などのアミロイド様タンパク質に基づくまたはそれに関連する他の疾患;クロイツフェルトヤコブ病、パーキンソン病、HIV関連認知症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、封入体筋炎(IBM)、成人発症型糖尿病、内分泌腫瘍、及び老人性心アミロイドーシス;ならびにβ−アミロイド沈着による黄斑変性症、ドルーゼン関連性の視神経症、及び白内障を含む様々な眼疾患を含むが、これらに限定されない。
【0054】
緑内障は、視神経障害の特徴的パターンにおける網膜神経節細胞(RGC)の損失を伴う視神経の疾患の群である。RGCは、眼からの脳へ視覚信号を伝達する神経細胞である。カスパーゼ−3及びカスパーゼ−8は、アポトーシスのプロセスにおける2つの主要な酵素であり、RGCのアポトーシスに至るプロセスで活性化される。カスパーゼ3はアミロイド前駆体タンパク質(APP)を切断し、Abetaを含む神経毒性断片を生成する。APPの保護効果がなければ、網膜神経節細胞層におけるAbetaの蓄積はRGCの死及び視覚の不可逆的な喪失をもたらす。
【0055】
緑内障は、常にではないが、しばしば、水の循環またはその排水の閉塞の結果である可能性がある増加した眼圧を伴う。上昇した眼圧は、緑内障を発症する重要な危険因子であるが、緑内障を引き起こす決定要因であろう眼内圧の閾値を定義することはできない。損傷はまた、神経の構造の弱点とされる重要な視神経線維への血液供給不足及び/または神経繊維自体の健康状態における問題によって引き起こされ得る。未治療の緑内障は、失明に進行する可能性がある、視神経の永久的な損傷と結果として起こる視野の喪失をもたらす。
【0056】
本明細書で使用される用語「軽度のアルツハイマー病」または「軽度のAD」(例えば、「軽度のADと診断された患者」)は、MMSEスコアが26から20によって特徴付けられるADの段階を指す。本明細書で使用される用語「軽度から中等度のアルツハイマー病」または「軽度から中等度のAD」は、軽度及び中等度のADの両方を包含し、MMSEスコアが18から26によって特徴付けられる。
【0057】
本明細書で使用される用語「中等度のアルツハイマー病」または「中等度のAD」(例えば、「中等度のADと診断された患者」)は、MMSEスコアが18から19によって特徴付けられるADの段階を指す。
【0058】
「中枢神経系」または「CNS」は、身体機能を制御する神経組織の複合体を意味し、脳と脊髄が含まれる。
【0059】
「血液脳関門受容体」(ここでは「BBB−R」と略す)は、血液脳関門を通して分子を輸送することができる脳内皮細胞に発現される膜貫通受容体である。BBB−Rの例としては、これらに限定されないが、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF−R)、これだけに限定することなく、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)及び低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)を含めた低密度リポタンパク質受容体、グルコーストランスポーター1(Glut1)並びにヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)が挙げられる。本発明の例示的なBBB−Rはトランスフェリン受容体(TfR)である。
【0060】
本明細書で使用される「トランスフェリン受容体」または「TfR」は、別途指定されない限り、霊長類(例えば、ヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物由来の任意の天然TfRを指す。この用語は、「完全長」未処理のTfR、ならびに細胞内の処理から生じるTfRの任意の形態を包含する。この用語は、TfRの天然に存在する変異型、例えば、スプライス変異型または対立遺伝子変異型も包含する。TfRは、脊椎動物において鉄取り込みに関与する、2つのジスルフィド結合サブユニット(それぞれの見かけの分子量が約90,000である)で構成される膜貫通糖タンパク質(分子量が約180,000である)である。いくつかの実施形態において、本明細書におけるTfRは、例えば、Schneider et al. Nature 311: 675 − 678 (1984)に記載されているアミノ酸配列、例えば(配列番号1)を含むヒトTfR(「hTfR」)である。別の実施形態において、本明細書におけるTfRはGenbankの参照AFD18260.1に記載のアミノ酸配列(配列番号2)を含む霊長類TfR(「pTfR」)である。比較のために、マウスのTfR配列は、Genbank参照AAH54522.1(配列番号3)に見出される。
【0061】
「神経障害」とは、本明細書で使用される場合、CNSに影響を及ぼし、及び/または病因がCNSにある疾患または障害を指す。例示的なCNS疾患または障害としては、これらに限定されないが、ニューロパチー、アミロイドーシス、がん、眼の疾患または障害、ウイルスまたは微生物感染症、炎症、虚血、神経変性疾患、発作、行動障害、及びリソソーム蓄積症が挙げられる。本出願の目的に関して、CNSは、通常は血液網膜関門によって体の残りの部分から隔離されている眼を包含するものと理解されよう。神経障害の特定の例としては、これらに限定されないが、神経変性疾患(限定されないが、レビー小体病、ポリオ後症候群、シャイドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統萎縮症、線条体黒質変性を含む)、タウオパチー(限定されないが、アルツハイマー病及び核上性麻痺を含む)、プリオン病(限定されないが、牛海綿状脳症、スクレイピー、クロイツフェルトヤコブ病、クールー病、ゲルストマンシュトロイスラーシャインカー病、慢性消耗性疾患、及び致死性家族性不眠症を含む)、球麻痺、運動ニューロン疾患、及び神経系ヘテロ変性障害(heterodegenerative disorder)(限定されないが、カナバン病、ハンチントン病、神経セロイドリポフスチン症、アレキサンダー病、トゥレット症候群、メンケス症候群、コケイン症候群、ハレルフォルデンスパッツ症候群、ラフォラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュナイハン症候群、及びウンフェルリヒトルントボルク病を含む)、認知症(限定されないが、ピック病、及び脊髄小脳失調症を含む)、がん(例えば、体内の他の箇所の癌に由来する脳転移を含めたCNSの癌)が挙げられる。
【0062】
「神経障害薬」とは、1つ以上の神経障害を治療する薬物または治療剤である。本発明の神経障害薬としては、これらに限定されないが、抗体、ペプチド、タンパク質、1つ以上のCNS標的の天然のリガンド、1つ以上のCNS標的の天然のリガンドの改変型、アプタマー、阻害性核酸(すなわち、低分子阻害RNA(siRNA)及び低分子ヘアピン型RNA(shRNA))、リボザイム、及び小分子、または前述のものの何れかの活性断片が挙げられる。本発明の例示的な神経障害薬は、本明細書に記載されており、それらとしては、これらに限定されないが、例えば、これらに限定されないが、アミロイド前駆体タンパク質若しくはその一部、アミロイドベータ、ベータ−セクレターゼ、ガンマ−セクレターゼ、tau、アルファ−シヌクレイン、パーキン、ハンチンチン、DR6、プレセニリン、ApoE、神経膠腫または他のCNS癌マーカー、及びニューロトロフィンなどのCNS抗原または標的分子それ自体である、またはそれを特異的に認識し、及び/またはそれに作用する(すなわち、それを阻害する、活性化する、または検出する)抗体、アプタマー、タンパク質、ペプチド、阻害性核酸及び小分子、並びに、前述のものの何れかの活性断片が挙げられる。神経障害薬及びそれらを使用して治療することができる障害の非限定的な例が以下の表1において提供される。
表1:神経障害薬及びそれらを利用して治療可能な対応する障害の非限定的な例
【0063】
「造影剤」とは、その存在及び/または位置を直接的にまたは間接的に検出することが可能になるような1つ以上の性質を有する化合物である。そのような造影剤の例としては、検出を可能にする標識部分が組み入れられたタンパク質及び小分子化合物が挙げられる。
【0064】
「CNS抗原」または「脳抗原」とは、脳を含めたCNSにおいて発現される抗原であり、抗体または小分子を用いて標的することができる。そのような抗原の例としては、限定することなく、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、アミロイドベータ(Abeta)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、デス受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6が挙げられる。いくつかの実施形態において、抗原はBACE1である。
【0065】
「BACE1」という用語は、本明細書で使用される場合、別段の指定のない限り、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)などの哺乳動物を含めた任意の脊椎動物を供給源とする任意の天然型ベータ−セクレターゼ1(β−部位アミロイド前駆体タンパク質切断酵素1、膜関連アスパラギン酸プロテアーゼ2、メマプシン2、アスパルチルプロテアーゼ2またはAsp2とも称される)を指す。この用語は、「完全長」未処理のBACE1、ならびに細胞内の処理から生じるBACE1の任意の形態を包含する。この用語は、BACE1の天然に存在する変異型、例えば、スプライス変異型または対立遺伝子変異型も包含する。例示的なBACE1ポリペプチドのアミノ酸配列は、全体が出典明示により本明細書に援用されるVassar et al., Science 286:735−741 (1999)において報告されているヒトBACE1、アイソフォームAの配列である。ヒトBACE1には、アイソフォームB、アイソフォームC及びアイソフォームDを含めたいくつかの他のアイソフォームが存在する。全体が出典明示により本明細書に援用されるUniProtKB/Swiss−Prot Entry P56817を参照されたい。
【0066】
「抗ベータ−セクレターゼ抗体」、「抗BACE1抗体」、「ベータ−セクレターゼに結合する抗体」及び「BACE1に結合する抗体」という用語は、抗体が診断剤及び/または治療剤としてBACE1を標的とすることに有用となるような十分な親和性でBACE1と結合することができる抗体を指す。いくつかの実施形態において、無関係の非BACE1タンパク質への抗BACE1抗体の結合の程度は、例えば、放射免疫測定法(RIA)によって測定した場合に、この抗体のBACE1への結合の約10%未満である。ある特定の実施形態において、BACE1に結合する抗体の解離定数(Kd)は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば10
−8M以下、例えば10
−8Mから10
−13Mまで、例えば、10
−9Mから10
−13Mまで)である。ある特定の実施形態において、抗BACE1抗体は、異なる種及びアイソフォームに由来するBACE1間で保存されているBACE1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態において、抗BACE1抗体YW412.8.31が結合したBACE1上のエピトープに結合する抗体が提供される。他の実施形態において、BACE1の触媒ドメインに位置するBACE1内のエキソサイトに結合する抗体が提供される。いくつかの実施形態において、全体が出典明示により本明細書に援用されるKornacker et al., Biochem. 44:11567−11573 (2005)において同定されているペプチド(すなわち、ペプチド1、2、3、1−11、1−10、1−9、1−8、1−7、1−6、2−12、3−12、4−12、5−12、6−12、7−12、8−12、9−12、10−12、4、5、6、5−10、5−9、スクランブル、Y5A、P6A、Y7A、F8A、I9A、P10A及びL11A)とBACE1との結合について競合する抗体が提供される。例示的なBACE1抗体の配列が
図15A及び
図15Bならびに
図16A及び
図16Bに示されている。本発明の例示的な抗体の1つは、抗体YW412.8.31の可変ドメインを含む(例えば
図15A及び
図15Bの場合と同様に)。
【0067】
本明細書における「天然配列」タンパク質は、タンパク質の天然に生じる変異体を含み、天然に見出されるタンパク質のアミノ酸配列を含むタンパク質を言う。本明細書で使用される用語は、天然源から単離されるかまたは組換えにより生産されるタンパク質を含む。
【0068】
本明細書の用語「抗体」は、最も広範な意味で使用され、様々な抗体構造を包含し、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び抗体断片を、それらが所望の抗原結合活性を示す限り含むが、これらに限定されない。
【0069】
「抗体断片」は、無傷抗体が結合する抗原に結合する、無傷抗体の一部を含む無傷抗体以外の分子を指す。抗体断片の例は、当該分野で周知であり(例えば、Nelson, MAbs (2010) 2(1): 77−83を参照)、これらに限定されないが、Fab、Fab’、Fab’−SH、F(ab’)
2及びFv;ダイアボディ;線状抗体;これらに限定されないが、一本鎖可変断片(scFv)、リンカーを含むかまたは含まない(及び必要に応じてタンデムで)軽鎖及び/または重鎖の抗原結合ドメインの融合物を含む一本鎖抗体分子;及び抗体断片(限定されないが、Fc領域を欠いている複数の可変ドメインから構築される多重特異性抗体を含む)から形成される単一特異性または多重特異性抗原結合分子を含む。
【0070】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、同一であり、及び/または同じエピトープに結合するが、例えば、自然発生突然変異を含有する、または前記モノクローナル抗体の産生中に発生する、可能性のある変異体は例外であり、かかる変異体は一般に少量で存在する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含む、ポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤の各モノクローナル抗体は、前記抗原上の単一の決定基に対する。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体の集団から得られるという抗体の特徴を示すものであり、いずれの特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されるものではない。例えば、本発明に従って使用されるべきモノクローナル抗体は、これらに限定されないが、ハイブリドーマ法(例えば、Kohler et al., Nature, 256:495 (1975)を参照)、組換えDNA法(参照、例えば、米国特許第4,816,567号を参照)、ファージディスプレイ法(例えば、Clackson et al., Nature, 352:624−628 (1991) 及びMarks et al., J. Mol. Biol., 222:581−597 (1991)に記載される技術を使用)及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含み、モノクローナル抗体を作製するためのかかる方法及び他の例示的な方法が本明細書に記載される。本明細書におけるモノクローナル抗体の具体的な例としては、キメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体を、それらの抗原結合断片を含み、包含する。
【0071】
本発明のモノクローナル抗体は、具体的には、重鎖及び/または軽鎖の一部分が特定の種に由来するまたは特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一または相同であるが、その(それらの)鎖の残部は別の種に由来するまたは別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びにそのような抗体の断片(但し、それらが所望の生物学的活性を示すことを条件とする)であり得る(米国特許第4,816,567号;Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855(1984))。
【0072】
本明細書における目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」とは、下記に定義されるように、ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークから得られる軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワークまたは重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含有するフレームワークである。ヒト免疫グロブリンのフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワーク「に由来する」アクセプターヒトフレームワークは、その同一のアミノ酸配列を含んでもよく、またはそれはアミノ酸配列の変化を含み得る。いくつかの実施形態において、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下または2以下である。いくつかの実施形態において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLのヒト免疫グロブリンのフレームワーク配列またはヒトコンセンサスフレームワーク配列に、配列が同一である。
【0073】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」とは、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に存在するアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免役グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列の下位集団から行われる。一般に、配列の下位集団は、Kabat et al., Sequences of Proteinsof ImmunologicalInterest, Fifth Edition, NIH Publication 91−3242, Bethesda MD (1991), vols. 1−3にあるような下位集団である。いくつかの実施形態において、VLについて、下位集団は、上記のKabatらにあるような下位集団カッパIである。いくつかの実施形態において、VHについて、下位集団は、上記のKabatらにあるような下位集団IIIである。
【0074】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト抗体由来の配列を最小限に含んだキメラ抗体である。ヒト化抗体は、概ねヒト抗体(レシピエント抗体)であり、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望される特異性、親和性、及び機能性を有するマウス、ラット、ウサギ、若しくは非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域からの残基で置き換えられている。例えば、ある特定の実施形態において、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むことになり、そのHVR(例えば、CDR)の全てまたは実質的に全てが、非ヒト抗体に対応し、そのフレームワーク領域(FR)の全てまたは実質的に全てが、ヒト抗体のそれらに対応する。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFR残基は、対応する非ヒト残基により置き換えられる。更に、ヒト化抗体はレシピエント抗体またはドナー抗体において見いだされない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能を更に改良するためになされる。ある特定の実施形態において、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むことになり、上述のFR置換を除いて、その超可変領域の全てまたは実質的に全てが、非ヒト抗体に対応し、そのFRの全てまたは実質的に全てが、ヒト抗体のそれらに対応する。ヒト化抗体は、任意で、抗体定常領域の少なくとも一部分、典型的にはヒト抗体のものが含まれるであろう。抗体の「ヒト化型」、例えば、非ヒト抗体は、ヒト化を遂げた抗体を指す。更なる詳細については、Jones et al., Nature 321:522−525 (1986); Riechmann et al., Nature 332:323−329 (1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593−596 (1992)を参照。
【0075】
本明細書において「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された、またはヒト抗体レパートリーを利用する非ヒト源に由来する、抗体のアミノ酸配列構造、または他のヒト抗体コード配列に対応する、アミノ酸配列構造を保有する抗体である。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。そうした抗体は、様々な技術により同定されまたは作製することができ、これらに限定されないが、免疫時に、内在性免疫グロブリン産生の欠失下でヒト抗体を産生することが可能なトランスジェニック動物(例えば、マウス)の生産(例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993); Jakobovits et al., Nature, 362:255−258 (1993); Bruggermann et al., Year in Immuno., 7:33 (1993);及び米国特許第5,591,669号、第5,589,369号及び第5,545,807号を参照));ヒト抗体またはヒト抗体断片を発現するファージディスプレイライブラリーからの選択(例えば、McCafferty et al., Nature 348:552−553 (1990); Johnson et al., Current Opinion in Structural Biology 3:564−571 (1993); Clackson et al., Nature, 352:624−628 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol. 222:581−597 (1991); Griffith et al.,EMBO J. 12:725−734 (1993);米国特許第5,565,332号及び第5,573,905号);インビトロで活性化されたB細胞を介する生成(米国特許第5,567,610号及び第5,229,275号);及びヒト抗体産生ハイブリドーマからの単離を含む。
【0076】
本明細書における「多重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する、抗体である。例示的な多重特異性抗体は、TfR及び脳抗原の両方に結合し得る。多重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片(例えばF(ab’)
2二重特異性抗体)として作製できる。2つ、3つまたはそれ以上(例えば4つ)の機能的な抗原結合部位を有する操作された抗体もまた考慮される(例えば米国特許出願公開第2002/0004587A1号、Miller et al.を参照)。多重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片として調製することができる。
【0077】
本明細書における抗体とは、変化させた抗原結合または生物学的活性を有する「アミノ酸配列変異体」を含む。そのようなアミノ酸の変化としては、例えば、抗原に対する親和性が増強された抗体(例えば、「親和性成熟」抗体)、及び変化させたFc領域を有する抗体、もし存在する場合には、例えば、変化させた(増加したまたは減少した)抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び/または補体依存性細胞傷害(CDC)を持つ抗体(例えば国際公開第00/42072号、Presta, L.及び国際公開第99/51642号、Iduosogie et al.);及び/または血清の半減期が増加または減少した抗体(例えば、国際公開第00/42072, Presta, L.を参照)を包含する。
【0078】
「親和性修飾変異体」は、親和性を変化させる(増加または減少させる)親抗体(親のキメラ、ヒト化またはヒト抗体など)の一つまたはそれ以上の置換された超可変領域またはフレームワーク残基を有する。そのような置換変異体を生成するための便利な方法では、ファージディスプレイを使用する。簡潔には、いくつかの超可変領域部位(例えば6〜7部位)が各部位における全ての可能なアミノ酸置換を生成するために変異される。こうして生成された抗体変異体は、各粒子内にパッケージされたM13の遺伝子III産物への融合体として、繊維状ファージ粒子から一価の様式で提示される。ファージディスプレイされる変異体は、その後、それらの生物学的活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングされる。修飾のための候補となる超可変領域部位を同定するために、アラニンスキャニング変異誘発を、抗原結合に有意に寄与する超可変領域の残基を同定するために行うことができる。代わりに、または追加的に、抗体とその標的との接触点を特定するために抗原抗体複合体の結晶構造を解析することは有益である。そのような接触残基及び隣接残基は、本明細書で述べた技術に従う置換の候補である。そのような変異体が生成されると、変異体のパネルはスクリーニングに供され、変化させた親和性を有する抗体が更なる開発のために選択され得る。
【0079】
「pH感受性抗体変異体」とは、第1のpHにおける標的抗原に対する結合親和性が、異なるpHにおけるその標的抗原に対する結合親和性と異なる抗体変異体である。非限定的な例として、本発明の抗TfR抗体は、TfRに対してpH感受性結合性を有し、したがって、pH7.4では血漿中の細胞表面TfRに望ましい低親和性(本明細書に記載の通り)で結合するが、エンドソーム区画内に内部移行すると、比較的低いpH(pH5.5〜6.0)においてTfRから急速に解離するように選択または操作することができる。そのような解離により、抗体を抗原媒介性クリアランスから保護すること、及びCNSに送達されるかまたはBBBを通って再利用される抗体の量を増加させることができ、いずれの場合も、そのようなpH感受性を有さない抗TfR抗体と比較して抗体の有効濃度が増加する(例えば、Chaparro−Riggers et al. J. Biol. Chem. 287(14): 11090−11097;Igawa et al., Nature Biotechnol. 28(11): 1203−1208を参照されたい)。血清pHにおける親和性とエンドソーム区画pHにおける親和性の所望の組合せは、TfR及びコンジュゲート化合物について当業者が容易に決定することができる。
【0080】
本明細書における抗体は、例えば半減期または安定性を向上させるか、あるいは抗体を改善するために、「異種分子」とコンジュゲートされてもよい。例えば、抗体は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体などの様々な非タンパク質ポリマーの1つに連結することができる。1つ以上のPEG分子に連結される、例えばFab’などの抗体断片は、本発明の典型的な実施形態である。別の例では、異種分子は治療用化合物または可視化剤(すなわち、検出可能な標識)であり、抗体はそのような異種分子をBBBを通して輸送するために使用される。異種分子の例としては、化学化合物、ペプチド、ポリマー、脂質、核酸、及びタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
本発明の抗体は「グリコシル化変異体」であってよく、したがって、Fc領域に結合した炭水化物が存在する場合に、その何れかが変更されており、存在するかしないかが改変されているか、または種類が改変されている。例えば、抗体のFc領域に接着するフコースを欠損する成熟炭水化物構造の抗体は、米国公開特許第2003/0157108号(Presta, L.)に記載される。米国公開特許第2004/0093621号(Kyowa Hakko Kogyo Co.,Ltd.)も参照のこと。抗体のFc領域に付着した糖鎖において二分するN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する抗体が、国際公開第2003/011878号、Jean−Mairet et al.及び米国特許第6,602,684号、Umana et al.で参照されている。抗体のFc領域に付着されているオリゴ糖内に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体が、国際公開第1997/30087号、Patel et al.に報告されている。Fc領域に付着した変化させた炭水化物を持つ抗体に関して、国際公開第1998/58964号(Raju, S.)及び国際公開第1999/22764号(Raju, S.)も参照。改変されたグリコシル化を有する抗体を記載する米国特許出願公開第2005/0123546号(Umana et al.)も参照。Fc領域内のコンセンサスグリコシル化配列(297〜299位のAsn−X−Ser/Thr、Xはプロリンではあり得ない)の変異を、例えば、298位にProを配置させることによって、または299位をSerまたはThr以外の任意のアミノ酸に改変することによってこの配列のAsnを任意の他のアミノ酸に変異させることにより、その位置におけるグリコシル化が抑止されるはずである(例えば、Fares Al−Ejeh et al., Clin. Cancer Res. (2007) 13:5519s−5527s; Imperiali and Shannon, Biochemistry (1991) 30(18): 4374−4380; Katsuri, Biochem J. (1997) 323(Pt 2): 415−419; Shakin−Eshleman et al., J. Biol. Chem. (1996) 271: 6363−6366を参照されたい)。
【0082】
用語「超可変領域」または「HVR」は、本明細書で使用される場合、配列中で超可変(「相補性決定領域」または「CDR」)であり、かつ/または構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成し、及び/または抗原接触残基(「抗原接触体」)を含有する、抗体可変ドメインの領域の各々を指す。一般に、抗体は、6つのHVR、すなわちVH内に3つ(H1、H2、H3)、及びVL内に3つ(L1、L2、L3)を含む。本明細書における典型的なHVRは、(a)アミノ酸残基26〜32(L1)、50〜52(L2)、91〜96(L3)、26〜32(H1)、53−55(H2)、及び96〜101(H3)で生じる超可変ループ(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901−917 (1987));(b)アミノ酸残基24〜34(L1)、50〜56(L2)、89〜97(L3)、31〜35b(H1)、50〜65(H2)、及び95〜102(H3)で生じるCDR(Kabat et al., Sequences of Proteinsof ImmunologicalInterest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));(c)アミノ酸残基27c〜36(L1)、46〜55(L2)、89〜96(L3)、30〜35b(H1)、47〜58(H2)、及び93〜101(H3)で生じる抗原接触(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732−745 (1996));及び(d)HVRアミノ酸残基46〜56(L2)、47〜56(L2)、48〜56(L2)、49〜56(L2)、26〜35(H1)、26〜35b(H1)、49〜65(H2)、93〜102(H3)、及び94〜102(H3)を含む、(a)、(b)、及び/または(c)の組合せを含む。
【0083】
いくつかの実施形態において、HVR残基は、
図3A〜
図3Dまたは
図4A〜
図4D、表4または表5において、または本明細書の他の箇所で同定されるものを含む。
【0084】
別途指定されない限り、可変ドメインにおけるHVR残基及び他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書において上記のKabatらに従って付番される。
【0085】
「フレームワーク」または「FR」残基は、本明細書に定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。可変ドメインのFRは、一般に、4つのFRドメインFR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。したがって、HVR及びFR配列は、一般に、VH(またはVL)において次の配列で現れる:FR1−H1(L1)−FR2−H2(L2)−FR3−H3(L3)−FR4。ある特定の実施形態において、例えば、結合を増強するために、1つ以上のFR残基が、抗体の安定性を調節するために、または抗体の1つ以上のHVRの三次元位置を調節するために改変され得る。
【0086】
「完全長抗体」は、抗原結合可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメイン、CH1、CH2及びCH3を含むものである。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列変異体であってもよい。
【0087】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、本明細書で、天然抗体構造と実質的に同様の構造を有する、または本明細書に定義されるFc領域を含有する重鎖を有する、抗体を指すように交換可能に使用される。
【0088】
「裸の抗体」は、異種性部分(例えば、細胞傷害性部分または放射標識)に複合されていない抗体を指す。裸の抗体は、医薬製剤中に存在してもよい。
【0089】
「天然抗体」は、様々な構造を有する、自然発生免役グロブリン分子を指す。例えば、天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、各重鎖は、可変重ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)、続いて3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端まで、各軽鎖は、可変軽ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)、続いて定常軽(CL)ドメインを有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプの何れかに割り当てることができる。
【0090】
抗体の「エフェクター機能」とは、補体経路の活性化以外の免疫系の活性化をもたらす抗体の生物活性を指す。そのような活性は、主に抗体のFc領域(ネイティブな配列のFc領域またはアミノ酸配列変異体のFc領域)において見いだされる。抗体のエフェクター機能の例としては、例えば、Fc受容体結合性及び抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)が挙げられる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体は、本質的にエフェクター機能を持たない。別の実施形態において、本明細書に記載の抗体は、最小限のエフェクター機能を保持する。エフェクター機能を改変または排除する方法は当技術分野で周知であり、それらとしては、これらに限定されないが、エフェクター機能に関与するFc領域の全部または一部を排除すること(すなわち、抗体または抗体断片を、例えば、これらに限定されないが、本明細書に記載されており当技術分野で公知のFab断片、単鎖抗体などのFc領域の全部または一部を欠く形式で使用すること);Fc領域を1つまたは複数のアミノ酸位で改変してエフェクター機能を排除すること(Fc結合に影響する:238位、239位、248位、249位、252位、254位、256位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、311位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、436位、437位、438位、及び439位)、並びに、抗体のグリコシル化を改変すること(これらに限定されないが、抗体を野生型哺乳動物グリコシル化を許容しない環境で作製すること、すでにグリコシル化された抗体から1つ以上の炭水化物基を除去すること、及び抗体を1つ以上のアミノ酸位で改変して抗体がその位置でグリコシル化される能力を排除すること(これらに限定されないが、N297G及びN297A及びD265Aを含む)を含む)が挙げられる。
【0091】
抗体の「補体活性化」機能、または「補体経路の活性化」を可能にするもしくは誘発する抗体の性質とは、互換的に使用され、対象における免疫系の補体経路を伴うまたは刺激する抗体の生物活性を指す。そのような活性としては、例えば、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)が挙げられ、これは、抗体のFc部分と非Fc部分のどちらによっても媒介され得る。補体活性化機能を改変または排除する方法は当技術分野で周知であり、それらとしては、これらに限定されないが、補体活性化に関与するFc領域の全部または一部を排除すること(すなわち、抗体または抗体断片を、例えば、これらに限定されないが、本明細書に記載され当技術分野で公知のFab断片、単鎖抗体などのFc領域の全部若しくは一部を欠く形式で使用すること、またはFc領域を、1つ以上のアミノ酸位、例えば、C1q結合に関与することが公知の270位、322位、329位及び321位などで改変して補体構成成分との相互作用もしくは補体構成成分を活性化する能力を排除するもしくは減らすこと)、及び補体活性化に関与する非Fc領域の一部を改変または排除すること(すなわち、132位でCH1領域を改変することが挙げられる(例えば、Vidarte et al., (2001) J. Biol. Chem. 276(41): 38217−38223)を参照されたい)。
【0092】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、完全長抗体には、異なる「クラス」が割り当てられ得る。5つの主要な抗体クラスIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMが存在し、これらのうちの数個は、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2にさらに分割され得る。異なる種類の抗体に対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、及びミューと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配置は、当該技術分野において周知である。
【0093】
用語「組換え抗体」は、本明細書で使用される場合、抗体をコードする核酸を含む組換え宿主細胞により発現される抗体(例えばキメラ、ヒト化、またはヒト抗体或いはその抗原結合断片など)を指す。
【0094】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」、及び「宿主細胞培養物」という用語は、交換可能に使用され、外因性核酸が導入された細胞を指し、かかる細胞の子孫を含む。宿主細胞には、初代形質転換細胞及び継代の数に関わらずそれに由来する子孫を含む、「形質転換体」及び「形質転換細胞」が含まれる。子孫は、核酸含量において親細胞と完全に同一でない場合があるが、突然変異を含有し得る。元々形質転換された細胞においてスクリーニングまたは選択されたものと同じ機能または生物活性を有する突然変異体子孫が、本明細書に含まれる。組換え抗体を産生するための「宿主細胞」の例は、(1)哺乳動物細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS、骨髄腫細胞(Y0細胞とNS0細胞を含む)、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、HeLa細胞及びベロ細胞;(2)昆虫細胞、例えば、SF9、SF21及びTn5;(3)植物細胞、例えばタバコ属(例えば、ニコチアナタバクム)に属する植物;(4)酵母細胞、例えば、サッカロミセス属(例えば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae))、またはアスペルギルス属(例えば、クロコウジカビ(Aspergillus niger));(5)細菌細胞、例えば大腸菌細胞または枯草菌細胞などを含む。
【0095】
本明細書で使用される「特異的に結合」または「特異的に結合する」とは、抗体の抗原に対する選択的または優先的結合を意味する。結合親和性は、一般に、スキャッチャード分析または表面プラズモン共鳴技術などの標準的アッセイを用いて(例えば、BIACORE(登録商標)を使用して)決定される。
【0096】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」は、競合アッセイにおいて、その抗原への参照抗体の結合を50%以上遮断する抗体、及び逆に、競合アッセイにおいて、その抗原への抗体の結合を50%以上遮断する参照抗体を指す。いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性または多重特異性抗体の一つを形成する抗BACE1抗体は、YW412.8.31が結合するBACE1エピトープに結合する。例となる競合アッセイが本明細書に提供される。
【0097】
本明細書で用いられる「細胞傷害性薬剤」という用語は、細胞の機能を阻害または阻止し及び/または細胞死または破壊を生ずる物質を指す。細胞傷害性薬剤には、放射性同位体(例えば、At
211、I
131、I
125、Y
90、Re
186、Re
188、Sm
153、Bi
212、P
32、Pb
212、及びLuの放射性同位体);化学療法剤もしくは化学療法薬(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン、または他のインターカレート剤);成長阻害剤;核酸分解酵素等の酵素及びそれらの断片;抗生物質;細菌、真菌、植物、または動物起源の小分子毒素または酵素活性毒素(それらの断片及び/または変異体を含む)等の毒素;ならびに本明細書に記載される種々の抗腫瘍または抗がん薬剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
薬剤、例えば、薬学的製剤の「有効量」とは、所望の治療的又予防的結果を達成するために必要な用量及び期間での、有効な量を指す。
【0099】
本明細書における「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部分を含有する、免役グロブリン重鎖のC末端領域を定義するように使用される。この用語は、天然配列Fc領域及び変異形Fc領域を含む。いくつかの実施形態において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端までに及ぶ。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在する場合もあれば、しない場合もある。本明細書で別途指定がない限り、Fc領域または定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteinsof ImmunologicalInterest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。
【0100】
本明細書で使用する用語「FcRn受容体」または「FcRn」は、ヒトまたは霊長類の胎盤または卵黄嚢(ウサギ)を介して胎児へ、または小腸を経て初乳から新生児への母性IgGの移動に関与することが知られているFc受容体を指す(「n」は新生児を示す)。また、FcRnはIgG分子に結合し、血清中にそれらをリサイクルすることによる一定の血清IgGレベルの維持に関与していることが知られている。「FcRn結合領域」または「FcRn受容体結合領域」は、その部分をFcRn受容体と相互作用する抗体のその部分を指す。抗体のFcRn結合領域内の特定の改変は、FcRnに対する抗体またはその断片の親和性を増加させ、また分子のインビボでの半減期を増加させる。以下のアミノ酸位置、251位、256位、285位、290位、308位、314位、385位、389位、428位、434位及び436位の1つ以上のアミノ酸置換は、FcRn受容体との抗体の相互作用を増加させる。以下のアミノ酸位置、238位、265位、272位、286位、303位、305位、307位、311位、312位、317位、340位、356位、360位、362位、376位、378位、380位、382位、413位、424位または434位での置換、例えば(米国特許第7,371,826号)の置換もまたFcRn受容体との抗体の相互作用を増加させる。
【0101】
「免疫複合体」は、標識または細胞傷害性薬剤を含むが、これらに限定されない1個以上の異種性分子(複数可)に複合される抗体である。そのような複合は任意にリンカーを介する。
【0102】
本明細書で使用する「リンカー」は、抗TfR抗体を異種分子に共有結合または非共有結合で連結する構造である。ある実施形態において、リンカーは、ペプチドである。その他の実施形態において、リンカーは化学的リンカーである。
【0103】
「標識」は、本明細書の抗体と結合し、検出またはイメージングのために使用されるマーカーである。このような標識の例には、放射性標識、フルオロフォア、発色団、またはアフィニティータグが挙げられる。いくつかの実施形態において、標識は、例えばtc99mまたはI123、もしくは核磁気共鳴(NMR)画像化(磁気共鳴画像法、mriとしても知られている)のためのスピン標識、例えば再び、ヨウ素−123、ヨウ素−131、インジウム−111、フッ素−19、炭素−13、窒素−15、酸素−17、ガドリニウム、マンガンまたは鉄などの医療画用イメージングに使われる放射標識である。
【0104】
「個体」または「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト、及びサル等の非ヒト霊長類)、ウサギ、及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)が含まれるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、個体または対象は、ヒトである。
【0105】
「単離」抗体は、その自然環境の構成成分から分離されているものである。いくつかの実施形態において、本抗体は、例えば、電気泳動法(例えば、SDS−PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフ法(例えば、イオン交換または逆相HPLC)によって決定するとき、95%超または99%超の純度まで精製される。抗体純度の評価のための方法の概説に関して、例えばFlatman et al., J. Chromatogr. B 848:79−87 (2007)を参照されたい。
【0106】
「単離核酸」は、その天然環境の構成成分から分離された核酸分子を指す。単離核酸には、核酸分子を通常含有する細胞内に含有される核酸分子が含まれるが、その核酸分子は、染色体外に、またはその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に、存在する。
【0107】
「抗TfR抗体をコードする単離核酸」は、抗体重鎖及び軽鎖(またはそれらの断片)をコードする1個以上の核酸分子を指し、それには単一のベクターまたは別個のベクターにおけるかかる核酸分子(複数可)が含まれ、かかる核酸分子(複数可)は、宿主細胞内の1つ以上の場所に存在する。
【0108】
「添付文書」という用語は、かかる治療薬の適応症、使用法、投薬量、投与、併用療法、禁忌症についての情報、及び/またはその使用に関する警告を含有する、治療薬の商用のパッケージに通例含まれる指示書を指すように使用される。
【0109】
参照ポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列をアライメントし、配列同一性最大パーセントを得るのに必要な場合はギャップを導入した後に、いかなる保存的置換も配列同一性の部分として考慮せずに、参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基の割合として定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のためのアライメントは、当該技術分野における技術の範囲内である種々の方式で、例えばBLAST、BLAST−2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等の、公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、達成することができる。当業者は、比較されている配列の完全長にわたる最大のアライメントを得るために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列をアライメントするために適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、本明細書における目的のために、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN−2を使用して生成される。ALIGN−2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテク社(Genentech,Inc.)によって作成され、ソースコードは米国著作権庁,Washington D.C.,20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている。ALIGN−2プログラムはジェネンテク社、South San Francisco,Californiaから公的に利用可能であるか、またはソースコードから編集されてもよい。ALIGN−2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステムで使用する場合は編集すべきである。全ての配列比較パラメータは、ALIGN−2プログラムによって設定され、変更はない。
【0110】
アミノ酸配列比較のためにALIGN−2が用いられる場合、所与のアミノ酸配列Bに対する、それとの、またはそれと対比した、所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(代替的に、所与のアミノ酸配列Bに対する、それとの、またはそれと対比したある特定のアミノ酸配列同一性%を有する、またはそれを含む、所与のアミノ酸配列Aと表現され得る)は、次のように算出される:
100×分数X/Y
(式中、Xは、配列アライメントプログラムALIGN−2によって、そのプログラムのA及びBのアライメントにおいて完全な一致としてスコア化されたアミノ酸残基の数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である)。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bに対するAのアミノ酸配列同一性%は、Aに対するBのアミノ酸配列同一性%と等しくはならないことが理解されよう。特に別途定めのない限り、本明細書で使用される全てのアミノ酸配列同一性%値は、直前の段落に記載されるように、ALIGN−2コンピュータプログラムを使用して得られる。
【0111】
「医薬製剤」という用語は、調製物の中に含有される活性成分の生物活性が有効になるような形態であり、製剤が投与されるであろう対象にとって許容できないほど有毒である追加の構成成分を何ら含有しない、調製物を指す。
【0112】
「薬学的に許容される担体」は、対象にとって無毒である、活性成分以外の医薬製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体には、緩衝液、賦形剤、安定剤、または防腐剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0113】
本明細書で使用されるとき、「治療」(及び「治療する」または「治療すること」等のその文法上の変形形態)は、治療されている個体の自然過程を変えることを目的とした臨床介入を指し、予防のために、または臨床病理過程の間に行うことができる。治療の望ましい効果には、疾患の発生または再発の予防、症状の緩和、疾患の任意の直接的または間接的な病理学的結果の減少、転移の予防、疾患進行速度の低減、病状の回復または一次緩和、及び寛解または予後の改善が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本発明の抗体を使用して、疾患の発達を遅らせるか、または疾患の進行を減速させる。
【0114】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗体を抗原に結合することに関与する、抗体重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれ、VH及びVL)は一般に、同様の構造を有し、各ドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)及び3つの超可変領域(HVR)を含む。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6
th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007)を参照されたい)。)抗原結合特異性を付与するためには、単一のVHまたはVLドメインで十分であり得る。さらに、抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使用して、それぞれ、相補的VLまたはVHドメインのライブラリをスクリーニングして、特定の抗原に結合する抗体を単離してもよい。例えば、Portolano et al., J. Immunol. 150:880−887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624−628 (1991)を参照されたい。
【0115】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、連結している別の核酸を増殖することが可能な核酸分子を指す。この用語には、自己複製核酸構造としてのベクター、ならびに導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターが含まれる。ある特定のベクターは、作動的に連結された核酸の発現を導くことが可能である。かかるベクターは、本明細書で「発現ベクター」と称される。
【0116】
2.組成物及び方法
A.抗TfR抗体及びそれらの複合体の産生
いくつかの態様において、本発明は、所望の分子をBBBを通過して輸送するために使用することができる抗TfR抗体に一部基づいている。ある特定の実施形態において、ヒトTfRに結合する抗体が提供される。ある特定の実施形態において、ヒトTfR及び霊長類TfRの両方に結合する抗体が提供される。本発明の抗体は、例えば、脳及び/またはCNSに影響を与える疾患の診断または治療のために有用である。
【0117】
A. 例となる抗TfR抗体
いくつかの態様において、本発明はTfRに結合する単離抗体を提供する。ある特定の実施形態において、本発明の抗TfR抗体は、ヒトTfR及び霊長類TfRの両方へ特異的に結合する。かかる特定の実施形態において、本発明の抗TfR抗体は、トランスフェリンのTfRへの結合を阻害しない。かかる特定の実施形態において、本発明の抗TfR抗体は、TfRの頂端ドメインに結合する。かかる特定の別の実施形態において、本発明の抗TfR抗体は、TfRの非頂端ドメインに結合する。ある特定の態様において、前記抗TfR抗体は、1つ以上の複合イメージング用または治療用化合物をBBBを通して輸送するために使用してもよい。
【0118】
いくつかの態様において、(a)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号31のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3A及び表3に示すとおり、抗体はクローン7A4である。
【0119】
いくつかの態様において、(a)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号39のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5、または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3A及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン8A2である。
【0120】
いくつかの態様において、(a)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号40のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3A及び表3に示すとおり、抗体はクローン15D2である。
【0121】
いくつかの態様において、(a)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3A及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン10D11である。
【0122】
いくつかの態様において、(a)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号31のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3A及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン7B10である。
【0123】
いくつかの態様において、(a)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号55のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3B及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン15G11である。
【0124】
いくつかの態様において、(a)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号58のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号59のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号56のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号57のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3B及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン16G5である。
【0125】
いくつかの態様において、(a)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号63のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号55のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号60のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号61のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号62のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3B及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン13C3である。
【0126】
いくつかの態様において、(a)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号65のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号55のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号60のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号64のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3B及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン16G4である。
【0127】
いくつかの態様において、(a)配列番号74のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号75のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号76のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号71のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号72のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号73のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3C及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン16F6である。
【0128】
いくつかの態様において、(a)配列番号80のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号81のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号82のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号77のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号78のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号79のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3D及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン7G7である。
【0129】
いくつかの態様において、(a)配列番号80のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号83のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号84のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号77のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号78のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号79のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3D及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン4C2である。
【0130】
いくつかの態様において、(a)配列番号88のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号89のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号90のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号85のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号86のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号87のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3D及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン1B12である。
【0131】
いくつかの態様において、(a)配列番号94のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号95のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号96のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号91のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号92のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号93のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図3D及び表3に示すとおり、前記抗体はクローン13D4である。
【0132】
いくつかの態様において、(a)配列番号32のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号127のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。別の態様において、
図4B及び表4に示すとおり、前記抗体はクローン7A4.v15である。
【0133】
上述のクローンは、HVR内での配列類似性を持つ4つの相補性基に該当する。表3に示すとおり、コンセンサス配列は、前記提供される抗体配列から各HVRへ簡単に導出できる。1つの非限定例として、クラスI抗体コンセンサスHVRは以下のものが挙げられる:
HVR−L1: Arg−Ala−Ser−Glu−Ser−Val−Asp−[SerまたはAsp]−Tyr−Gly−[AsnまたはPro]−Ser−Phe−Met−His(配列番号45);
HVR−L2: Arg−Ala−Ser−Asn−Leu−Glu−Ser(配列番号30);
HVR−L3: Gln−[GlnまたはHis]−Ser−Asn−Glu−[Ala、GlyまたはAsp]−Pro−Pro−Thr(配列番号46);
HVR−H1: Asp−Tyr−[AlaまたはGly]−Met−His(配列番号47);
HVR−H2: [GlyまたはVal]−Ile−Ser−[Thr、PheまたはPro]−Tyr−[PheまたはSer]−Gly−[ArgまたはLys]−Thr−Asn−Tyr−[AsnまたはSer]−Gln−[LysまたはAsn]−Phe−[LysまたはMet]−Gly(配列番号48);
HVR−H3: Gly−Leu−Ser−Gly−Asn−[TyrまたはPhe]−Val−[MetまたはVal]−Asp−[TyrまたはPhe](配列番号49)(表4を参照されたい)。クラスII及びIVのコンセンサス配列を表4にも示す。
【0134】
いくつかの態様において、(a)配列番号47のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号48のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5、または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。
【0135】
いくつかの態様において、(a)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号69のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号70のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号66のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号67のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号68のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5、または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。
【0136】
いくつかの態様において、(a)配列番号100のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(b)配列番号101のアミノ酸配列を含むHVR−H2、(c)配列番号102のアミノ酸配列を含むHVR−H3、(d)配列番号97のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(e)配列番号98のアミノ酸配列を含むHVR−L2、及び(f)配列番号99のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5、または6つのHVRを含む、抗TfR抗体が提供される。いくつかの態様において、前記抗体は、上記に挙げたHVR配列の全ての6つの配列を含む。
【0137】
いくつかの態様において、上述のいずれかの抗体の少なくとも1つ、少なくとも2つまたは3つ全部のVH HVR 配列を含む抗体が提供される。いくつかの実施形態において、前記抗体は、上述のいずれかの抗体のHVR−H3配列を含む。別の実施形態において、前記抗体は、上述のいずれかの抗体のHVR−H3 及びHVR−L3配列を含む。さらなる実施形態において、前記抗体は、上述のいずれかの抗体のHVR−H3、HVR−L3及びHVR−H2配列を含む。別の実施形態において、前記抗体は、上述のいずれかの抗体のHVR−H1、HVR−H2及びHVR−H3配列を含む。別の態様において、上述のいずれかの抗体の少なくとも1つ、少なくとも2つまたは3つ全部のVL HVR 配列を含む抗体が提供される。いくつかの実施形態において、前記抗体は、上述のいずれかの抗体のHVR−L1、HVR−L2及びHVR−L3配列を含む。
【0138】
別の態様において、本発明の抗体は、(a)VHドメインがM108L突然変異を含む、前記抗体のいずれか1つのHVR−H1、HVR−H2、及びHVR−H3配列から選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または全ての3つのVH HVR配列を含むVHドメイン及び(b)前記抗体のいずれか1つのHVR−L1、HVR−L2 及びHVR−L3配列から選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または全ての3つのVL HVR配列を含むVLドメイン、を含む。
【0139】
上の実施形態のいずれにおいても、抗TfR抗体は、ヒト化されている。いくつかの実施形態において、抗TfR抗体は、上の実施形態のいずれかにあるようなHVRを含み、ヒトアクセプターフレームワーク、例えば、ヒト免役グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークをさらに含む。別の実施形態において、抗TfR抗体は、上の実施形態のいずれかにあるようなHVRを含み、1つ以上のFR領域に1つ以上のアミノ酸置換を含むVHまたはVLをさらに含む。本明細書における実施例2では、出願人は前記抗体より選択される特定の抗体にアラニンスキャニングを実施し、選択されたFR位置でのアミノ酸修飾に関わらず類似または改善した結合が得られたことを確定した。本明細書に記載の
図6−1及び
図6−2及び実施例2に示すとおり、抗体の前記クラスI−IIIグループに対して、FRの1つ以上の残基における修飾を有する前記抗体の変異形態は、親和性及び結合特異性を保持した。例えば、抗体15G11では、軽鎖FR2における43及び48位、重鎖FR2における48位及び重鎖FR3における67、69、71及び73位置を、
図6−1及び
図6−2に示すように修飾可能であった。得られた抗体は依然としてヒト/霊長類TfRに対する特異性及び強い結合親和性を保持していた。別の例では、抗体7A4では、軽鎖FR3における58及び68位、重鎖FR1における24位及び重鎖FR3における71位置を、
図6−1及び
図6−2に示すように修飾可能であった。得られた抗体は依然としてヒト/霊長類TfRに対する特異性及び強い結合親和性を保持していた。第3実施例において、抗体16F6では、軽鎖FR2における43及び44位及び重鎖FR3における71及び78位置を、
図6−1及び
図6−2に示すように修飾可能であった。得られた抗体は依然としてヒト/霊長類TfRに対する特異性及び強い結合親和性を保持していた。いくつかの実施形態において、抗体は、M108L突然変異を有するVHドメインを含む。
【0140】
別の態様において、抗TfR抗体は、配列番号7−10、15−18、20、25−28、108、114、120、126、153、及び154のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する、重鎖可変ドメイン(VH)配列を含む。ある特定の実施形態において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するVH配列は、参照配列と比較して、置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含有するが、その配列を含む抗TfR抗体は、TfRに結合する能力を保持する。ある特定の実施形態において、配列番号7−10、15−18、20、25−28、108、114、120、126、153、及び154のいずれかにおいて合計1〜10個のアミノ酸が、置換、挿入及び/または欠失されている。ある特定の実施形態において、置換、挿入、または欠失は、HVRの外側の領域で(すなわち、FRにおいて)生じる。任意に、抗TfR抗体は、配列番号7−10、15−18、20、25−28、108、114、120、126、153及び154のうちの任意の1つのVH配列を、その配列の翻訳後修飾を含めて、含む。ある特定の実施形態において、特定の抗体におけるVHは、上述のHVR及び特定の抗体に対する表3または4に記載のHVRから選択される1つ、2つまたは3つのHVRを含む。本明細書では、
図3及び
図4に特定の抗体におけるVH配列を示す。いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号158または159のVH配列を含む抗TfR抗体を提供する。
【0141】
別の態様において、配列番号4−6、11−14、19、21−24、105、111、117、123、151、及び152のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する、軽鎖可変ドメイン(VL)配列を含む抗TfR抗体が提供される。ある特定の実施形態において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するVL配列は、参照配列と比較して、置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含有するが、その配列を含む抗TfR抗体は、TfRに結合する能力を保持する。ある特定の実施形態において、配列番号4−6、11−14、19、21−24、105、111、117、123、151、及び152のいずれかにおいて合計1〜10個のアミノ酸が、置換、挿入及び/または欠失されている。ある特定の実施形態において、置換、挿入、または欠失は、HVRの外側の領域で(すなわち、FRにおいて)生じる。任意に、抗TfR抗体は、配列番号4−6、11−14、19、21−24、105、111、117、123、151及び152のうちの任意の1つのVL配列を、その配列の翻訳後修飾を含めて、含む。ある特定の実施形態において、特定の抗体におけるVLは、上述のHVR及び特定の抗体に対する表4または5に記載のHVRから選択される1つ、2つまたは3つのHVRを含む。本明細書では、
図3及び
図4に特定の抗体におけるVL配列を示す。いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号162または163のVL配列を含む抗TfR抗体を提供する。
【0142】
別の態様において、抗TfR抗体が提供され、この抗体は、上述の実施形態のいずれかにあるようなVH、及び上述の実施形態のいずれかにあるようなVLを含む。いくつかの実施形態において、前記抗体は、それぞれ配列番号4及び7、5及び8、5及び9、6及び10、4及び7、11及び15、12及び16、13及び17、14及び18、19及び20、21及び25、22及び26、23及び27、24及び28、105及び108、152及び108、151及び108、152及び153、152及び154、105及び153、105及び154、111及び114、117及び120、ならびに123及び126であるVL及びVH配列を、その配列の翻訳後修飾を含めて、含む。いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号158または159のVH配列及び配列番号162または163のVL配列を含む抗TfR抗体を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号158VH配列及び配列番号162のVL配列、または配列番号159のVH配列及び配列番号163のVL配列、を含む抗TfR抗体を提供する。
【0143】
さらなる態様において、本明細書に提供される抗TfR抗体と同じエピトープに結合する、抗体を提供する。例えば、ある特定の実施形態において、それぞれ配列番号4及び7、5及び8、5及び9、6及び10、4及び7、11及び15、12及び16、13及び17、14及び18、19及び20、21及び25、22及び26、23及び27、24及び28、105及び108、152及び108、151及び108、152及び153、152及び154、105及び153、105及び154、111及び114、117及び120、または123及び126であるVL及びVH配列を含む抗TfR抗体と同じエピトープに結合する、抗体を提供する。いくつかの態様において、前記抗体は、TfRに対する結合において、クラスI抗体(すなわち、クローン7A4、8A2、15D2、10D11または7B10もしくはこれら抗体のいずれかの親和性成熟体)のいずれかと競合する。別の態様において、前記抗体は、TfRに対する結合において、クラスII抗体(すなわち、クローン15G11、16G5、13C3または16Gもしくはこれら抗体のいずれかの親和性成熟体)のいずれかと競合する。別の態様において、前記抗体は、TfRに対する結合において、クローン16F6またはこの抗体の親和性成熟体と競合する。別の態様において、前記抗体は、TfRに対する結合において、クラスIV抗体(すなわち、クローン7G7、4C2、1B12または13D4もしくはこれら抗体のいずれかの親和性成熟体)のいずれかと競合する。
【0144】
本発明のさらなる態様において、上の実施形態のいずれかによる抗TfR抗体は、キメラ、ヒト化、またはヒト抗体を含む、モノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、抗TfR抗体は、抗体断片、例えば、Fv、Fab、Fab’、scFv、ダイアボディ、またはF(ab’)
2断片である。別の実施形態において、前記抗体は、完全長の抗体、例えば、本明細書に定義されるIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4抗体もしくは他の抗体クラスまたはアイソタイプである。
【0145】
いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号160の配列を有する重鎖と配列番号61の配列を有する軽鎖を含む抗TfR抗体を提供する。いくつかの実施形態において、前記抗体は、多重特異性抗体である。
【0146】
さらなる態様において、上の実施形態のいずれかによる抗TfR抗体は、下の第1〜7節に記載される特長のうちのいずれをも、単独でまたは組み合わせて、組み込んでもよい。
【0147】
1.抗体親和性
ある特定の実施形態において、本明細書に記載の抗体の解離定数(Kd)は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば10
−8M以下、例えば10
−8Mから10
−13Mまで、例えば、10
−9Mから10
−13Mまで)である。
【0148】
本発明のある特定の態様において、本発明の「低親和性」抗TfR抗体は、例えば、そのようなTfRに対する低親和性抗体が、向上したCNS(例えば、脳)取込み及び/または脳/CNS内への貫通を提示することを示す、実施例5及びAtwal et al., Sci. Transl. Med. 3, 84ra43 (2011) and Yu et al., Sci. Transl. Med. 25 May 2011: Vol. 3, Issue 84, p. 84ra44に記載の結果に基づいて選択される。そのような低親和性抗体を特定するために、抗体親和性を測定する様々なアッセイを使用可能であり、限定されないが、スキャッチャード分析または表面プラズモン共鳴技術(例えば、BIACORE(登録商標)を使用して)が挙げられる。本発明のいくつかの実施形態によると、前記抗体は、約5nM、20nMまたは100nM〜約50μM、30μM、10μM、1μMまたは500nMであるヒト/霊長類TfRに対する親和性を有する。よって、前記親和性は、例えば、スキャッチャード分析またはBIACORE(登録商標)で測定した時に、約5nM〜約50μM、約20nM〜約30μM、約30nM〜約30μM、約50nM〜約1μMまたは約100nM〜約500nMの範囲であればよい。本発明別の実施形態において、例えば、競合結合解析またはBIACORE(登録商標)で測定した時に、前記抗体は、1分未満、2分未満、3分未満、4分未満、5分未満または10分未満〜約20分または30分であるTfRからの解離半減期を有する。
【0149】
よって、本発明は、血液脳関門を通して神経障害治療薬を輸送するために有用な抗体を作製する方法であって、TfRに対する抗体のパネルから抗体を選択することを含み、前記抗体は約5nM、20nMまたは100nM〜約50μM、30μM、10μM、1μMまたは500mMの範囲にあるTfRに対する親和性を有する、前記方法を提供する。よって、前記親和性は、例えば、スキャッチャード分析またはBIACORE(登録商標)で測定した時に、約5nM〜約50μM、約20nM〜約30μM、約30nM〜約30μM、約50nM〜約1μMまたは約100nM〜約500nMの範囲であればよい。当業者によって理解されるように、抗体への非相同性分子/化合物の接合は、例えば、立体障害または1つの結合アームの除去によっても、抗体が抗体本来の標的よりも異なる抗体へ結合する1つ以上のアームに対して多重特異性であるなら、抗体の標的に対する親和性低下がしばしば起こり得る。いくつかの実施形態において、抗BACE1に接合するTfRに特異的な本発明の低親和性抗体は、BIACOREで測定したTfRに対するKdが約30nMであった。別の実施形態において、BACE1に接合するTfRに特異的な本発明の低親和性抗体は、BIACOREで測定したTfRに対するKdが約600nMであった。別の実施形態において、BACE1に接合するTfRに特異的な本発明の低親和性抗体は、BIACOREで測定したTfRに対するKdが約20μMであった。別の実施形態において、BACE1に接合するTfRに特異的な本発明の低親和性抗体は、BIACOREで測定したTfRに対するKdが約30μMであった。
【0150】
いくつかの実施形態において、Kdは、放射標識化抗原結合アッセイ(RIA)により測定される。いくつかの実施形態において、RIAは、目的の抗体のFabバージョン及びその抗原と共に行われる。例えば、抗原に対するFabの溶液結合親和性は、標識化されていない抗原の滴定シリーズの存在下で、(
125I)標識化抗原の最小濃度でFabを平衡化することにより測定され、次いで、抗Fab抗体コート板と結合した抗原を捕捉する(例えば、 Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865−881(1999)を参照)。アッセイのための条件を確立するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を、50mMの炭酸ナトリウム(pH9.6)中5μg/mLの捕捉抗Fab抗体(Cappel Labs)で一晩コーティングし、その後、2%(w/v)ウシ血清アルブミン含有PBSにより、室温(約23℃)で2〜5時間ブロッキングする。非吸着性の板(Nunc#269620)において、100pMまたは26pM[
125I]抗原は、目的のFabの連続希釈液と混合される(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57:4593−4599 (1997)における抗VEGF抗体、Fab−12のアセスメントに一致)。目的のFabを次いで一晩インキュベートするが、インキュベーションは、平衡に到達することを確実にするために、より長い期間(例えば、約65時間)継続してもよい。その後、混合物を、室温での(例えば、1時間にわたる)インキュベーションのために、捕捉プレートに移す。次いで溶液を除去し、プレートを、0.1%ポリソルベート20(TWEEN−20(登録商標))含有PBSで8回洗浄する。プレートが乾燥したとき、150μL/ウェルのシンチラント(scintillant)(MICROSCINT−20(商標);Packard)を添加し、プレートをTOPCOUNT(商標)ガンマ計数器(Packard)により10分間計数する。最大結合の20%以下をもたらす各Fabの濃度を、競合結合アッセイにおいて使用するために選定する。
【0151】
いくつかの態様において、RIAはスキャッチャード(Scatchard)分析である。例えば、目的の抗TfR抗体を、ラクトペルオキシダーゼ法(Bennett and Horuk, Methods in Enzymology 288 pg.134−148(1997))を用いてヨウ素化できる。放射標識化抗TfR抗体は、NAP−5カラム及びその測定された特異的活性を用いたゲルろ過により、遊離
125I−Naから精製される。固定濃度のヨウ素化抗体及び低下する濃度の連続希釈された非標識化抗体を含む50μLの競合反応混合物を、96−ウェルプレートへ置いた。一過性にTfRを発現する細胞を、10%FBS、2mML−グルタミン及び1xペニシリン−ストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Genentech)からなる増殖培地で5%二酸化炭素中37℃で培養する。Sigma Cell Dissociation Solutionを用いて細胞をディッシュから剥離させ、結合バッファー(1%ウシ血清アルブミン添加DMEM、50mM HEPES、pH7.2、及び0.2%アジ化ナトリウム)で洗浄する。洗浄細胞を、結合バッファー0.2mL中約200,000細胞の濃度で、前記50−μLの競合反応物を含む96−ウェルプレートへ添加した。競合反応における非標識化抗体の最終濃度は、1000nMから開始後、1:2倍希釈し、バッファー−のみの試料を追加した、ゼロ−濃度を含む10段階濃度で低下させることで変えた。非標識化抗体の各濃度での細胞との競合反応物は、3連でアッセイする。細胞との競合反応物は、室温で2時間インキュベートする。2−時間のインキュベート後、競合反応物をフィルタープレートへ移し、結合バッファーで4回洗浄して結合しているヨウ素化抗体から分離する。フィルターをガンマカウンターで計数し、結合データをMunson及びRodbard(1980)の適合アルゴリズムを用いて評価することにより抗体の結合親和性を決定する。
【0152】
本発明の組成物を用いた例示的BIACORE(登録商標)解析を以下に記載のとおり実施してもよい。Kdは、BIACORE(登録商標)−2000(BiAcore Inc., Piscataway, NJ)を使用した表面プラスモン共鳴アッセイを使用して、25℃で抗ヒトFcキット(BiAcore Inc., Piscataway, NJ)を用いて測定された。簡潔に述べると、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサチップ(CM5、BIACORE,Inc.)を、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)により、供給業者の指示に従って活性化された。抗ヒトFc抗体を10mMの酢酸ナトリウム(pH4.0)で50μg/mLまで希釈した後、5μL/分の流速で注射して、カップリングされたタンパク質のおよそ10000応答単位(RU)を達成する。抗体の注射後、1Mのエタノールアミンを注射して、未反応の基をブロッキングした。動態測定では、単一特異性または多重特異性抗TfR抗体変異体をHBS−Pへ注入し、220RUを達成した後、2倍連続希釈したMuTfR−His(0.61nM〜157nM)を25°C、流速約30μl/分でHBS−Pへ注入した。会合速度(kon)及び解離速度(koff)を、単純な1対1Langmuir結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluation Software第3.2版)を使用して、会合センサグラム及び解離センサグラムを同時に適合することによって、算出した。平衡解離定数(Kd)は、比率koff/konとして算出した。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865−881 (1999)を参照されたい。
【0153】
別の実施形態によれば、Kdは、BIACORE(登録商標)−2000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)機器を使用した表面プラスモン共鳴アッセイを使用して、25℃で抗ヒトFcキット(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)を用いて測定される。簡潔に述べると、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサチップ(CM5、BIACORE,Inc.)を、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)により、供給業者の指示に従って活性化する。抗ヒトFc抗体を10mMの酢酸ナトリウム(pH4.0)で50μg/mLまで希釈した後、5μL/分の流速で注射して、カップリングされたタンパク質のおよそ10000応答単位(RU)を達成する。抗体の注射後、1Mのエタノールアミンを注射して、未反応の基をブロッキングする。動態測定では、抗TfR抗体変異体をHBS−Pへ注入し、220RUを達成した後、2倍連続希釈したTfR(0.61nM〜157nM)を25°C、流速約30μl/分でHBS−Pへ注入する。会合速度(kon)及び解離速度(koff)を、単純な1対1Langmuir結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluation Software第3.2版)を使用して、会合センサグラム及び解離センサグラムを同時に適合することによって、算出する。平衡解離定数(Kd)は、比率koff/konとして算出する。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865−881 (1999)を参照されたい。
【0154】
所与の化合物のIC50を決定する方法はいくつか当該技術分野において知られており、共通のアプローチとして本明細書に記載されるような競合結合アッセイを実施する。一般に、高値のIC50は、既知のリガンドへの結合を阻害するためにより多い抗体が必要とされることにより、前記リガンドに対する抗体の親和性は比較的低くなることを示す。逆に、低値のIC50は、既知のリガンドへの結合を阻害するためにより少ない抗体が必要とされることにより、前記リガンドに対する抗体の親和性は比較的高くなることを示す。
【0155】
IC50を測定するための例示的競合ELISAアッセイでは、増加する濃度の抗TfRまたは抗TfR/脳抗原(すなわち、抗TfR/BACE1、抗TfR/Abeta等)変異形抗体を使用して、TfRへの結合において、ビオチン化された既知の抗TfR抗体に競合させる。抗TfR競合ELISAを、2.5μg/mlの精製マウスTfR細胞外ドメイン含有PBSでコーティングしたMaxisorpプレート((Neptune, N.J.)上において4℃で一晩実施した。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、PBS中でSuperblock Blocking Buffer(Thermo Scientific, Hudson, NH)を用いてブロッキングした。各個別の抗TfRまたは抗TfR/脳抗原(すなわち、抗TfR/BACE1または抗TfR/Abeta)(1:3連続希釈物)の希釈物を、ビオチン化された既知の抗TfR(最終濃度0.5nM)に組み合わせて、室温で1時間かけてプレートへ添加した。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、プレートにHRP−ストレプトアビジン(Southern Biotech, Birmingham)を添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、プレートに結合したビオチン化された抗TfR抗体を、TMB基質(BioFX Laboratories, Owings Mills)を用いて検出した。
【0156】
2.抗体断片
ある特定の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、抗体断片である。抗体断片には、Fab、Fab’、Fab’−SH、F(ab’)
2、Fv、及びscFv断片、ならびに下に記載される他の断片が含まれるが、これらに限定されない。ある特定の抗体断片の概説については、Hudson et al. Nat. Med. 9:129−134 (2003)を参照されたい。scFv断片の概説については、例えば、Pluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer−Verlag, New York), pp. 269−315 (1994)を、また国際公開第 93/16185号及び米国特許第5,571,894号及び5,587,458号を参照されたい。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、増加したインビボ半減期を有するFab及びF(ab’)
2断片の検討については、米国特許第5,869,046を参照されたい。
【0157】
ダイアボディは、二価性または二重特異性であり得る、2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第404,097号、国際公開第1993/01161号、Hudson et al., Nat. Med. 9:129−134 (2003)及びHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444−6448 (1993)を参照されたい。トリアボディ及びテトラボディもまたHudson et al., Nat. Med. 9:129−134 (2003)に記載されている。
【0158】
単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全てもしくは一部分または軽鎖可変ドメインの全てもしくは一部分を含む、抗体断片である。ある特定の実施形態において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis、Inc.、Waltham、MA、例えば、米国特許第6,248,516B1号を参照されたい)。
【0159】
抗体断片は、本明細書に記載される、インタクトな抗体のタンパク質分解消化、ならびに組み換え宿主細胞(例えば、大腸菌またはファージ)による産生を含むが、これらに限定されない、種々の技法によって作製することができる。
【0160】
3.キメラ及びヒト化抗体
ある特定の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、キメラ抗体である。ある特定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号及びMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851−6855 (1984)に記載される。一例において、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはサル等の非ヒト霊長類に由来する可変領域)及びヒト定常領域を含む。目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、赤毛猿またはカニクイザル等の旧世界ザル)に由来する可変ドメイン抗原結合配列とヒト定常領域配列とを含む、「霊長類化」抗体が含まれる(米国特許第5,693,780)。さらなる実施例において、キメラ抗体は、クラスまたはサブクラスが親抗体のそれから変更された、「クラススイッチされた」抗体である。キメラ抗体には、それらの抗原結合断片が含まれる。
【0161】
ある特定の実施形態において、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的に、非ヒト抗体は、親の非ヒト抗体の特異性及び親和性を保持しながら、ヒトに対する免疫原性を低減するために、ヒト化される。一般に、ヒト化抗体は、HVR、例えば、CDR(またはそれらの部分)が非ヒト抗体に由来し、FR(またはそれらの部分)がヒト抗体配列に由来する、1つ以上の可変ドメインを含む。任意にヒト化抗体はまた、ヒト定常領域の少なくとも一部分も含む。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体におけるいくつかのFR残基は、例えば、抗体特異性または親和性を復元するまたは改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)由来の対応する残基で置換される。
【0162】
ヒト化抗体及びそれらを作製する方法は、例えば、Almagro and Fransson、Front. Biosci. 13:1619−1633(2008)で概説され、また、例えば、Riechmann et al., Nature 332:323−329(1988)、Queen et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 86:10029−10033 (1989)、米国特許第5,821,337号、同第7,527,791号、同第6,982,321号、及び同第7,087,409号、Kashmiri et al., Methods 36:25−34 (2005)(特異性決定領域(SDR)グラフティングについて説明する)、Padlan, Mol. Immunol. 28:489−498(1991)(describing 「resurfacing」)、Dall’Acqua et al., Methods 36:43−60(2005)(describing 「FRシャフリング」)及びOsbourn et al., Methods 36:61−68(2005)及びKlimka et al., Br. J. Cancer、83:252−260(2000)(FRシャフリングへの「誘導選択(guided selection)」アプローチを記載する)にさらに記載される。
【0163】
ヒト化に使用してもよいヒトフレームワーク領域は、これらに限定されないが、「ベストフィット」法を用いて選択されたフレームワーク領域(例えば、Sims et al. J. Immunol.151:2296 (1993)を参照されたい)、特定のサブグループの軽鎖または重鎖可変領域のヒト抗体のコンセンサス配列由来のフレームワーク領域(例えば、Carter et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992)及びPresta et al. J. Immunol., 151:2623 (1993)を参照されたい)、ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域またはヒト生殖細胞系列フレームワーク領域(例えば、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619−1633 (2008)を参照されたい)及びスクリーニングFRライブラリ由来のフレームワーク領域(例えばBaca et al., J. Biol. Chem. 272:10678−10684 (1997)及びRosok et al., J. Biol. Chem. 271:22611−22618 (1996)を参照されたい)を含む。
【0164】
4.ヒト抗体
ある特定の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体は、当該技術分野において既知の種々の技法を使用して生成され得る。ヒト抗体は、一般に、van Dijk and van de Winkel,Curr. Opin. Pharmacol. 5:368−74(2001)及びLonberg,Curr. Opin. Immunol. 20:450−459 (2008)に記載される。
【0165】
ヒト抗体は、免疫原を、抗原投与に応答してインタクトなヒト抗体またはヒト可変領域を含むインタクトな抗体を産生するように修飾されたトランスジェニック動物に投与することによって、調製されてもよい。かかる動物は典型的に、内因性免役グロブリン遺伝子座を置き換える、または染色インビトロに存在するか、もしくは動物の染色体中に無作為に組み込まれる、ヒト免役グロブリン遺伝子座の全てまたは一部分を含有する。かかるトランスジェニックマウスにおいて、内因性免役グロブリン遺伝子座は一般に、不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の概説については、Lonberg, Nat. Biotech. 23:1117−1125(2005)を参照されたい。また、米国特許第6,075,181号及び同第6,150,584号(XENOMOUSE(商標)技術について説明する)、米国特許第5,770,429号(HUMAB(登録商標)技術について説明する)、米国特許第7,041,870号(K−M MOUSE(登録商標)技術について説明する)、ならびに米国特許出願公開第2007/0061900、VELOCIMOUSE(登録商標)技術について説明する)。かかる動物によって生成されるインタクトな抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによって、さらに修飾されてもよい。
【0166】
ヒト抗体はまた、ハイブリドーマベースの方法によって作製することもできる。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのヒト骨髄腫細胞株及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株が記載されている。(例えば、Kozbor J. Immunol., 133: 3001 (1984)、Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51−63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987)及びBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991)を参照されたい。)ヒトB細胞ハイブリドーマ技術によって生成されるヒト抗体もまた、Li et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557−3562 (2006)に記載される。 追加の方法には、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株由来のモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載する)、及びNi,Xiandai Mianyixue,26(4):265−268(2006)(ヒト−ヒトハイブリドーマを記載する)に記載されるものが含まれる。ヒトハイブリドーマ技術(Trioma technology)はまた、Vollmers and Brandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927−937(2005)及びVollmers and Brandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185−91(2005)にも記載される。
【0167】
ヒト抗体はまた、Fvクローン可変ドメイン配列をヒト由来ファージディスプレイライブラリから単離することによって、生成されてもよい。かかる可変ドメイン配列は次いで、所望のヒト定常ドメインと組み合わされてもよい。抗体ライブラリからヒト抗体を選択するための技法が、下に記載される。
【0168】
5.ライブラリ由来抗体
本発明の抗体は、コンビナトリアルライブラリを、所望の活性(単数または複数)を有する抗体についてスクリーニングすることによって、単離されてもよい。例えば、ファージディスプレイライブラリを生成し、かかるライブラリを、所望の結合特性を保有する抗体についてスクリーニングするための、多様な方法が当該技術分野で知られている。かかる方法は、例えば、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1−37 (O’Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001)に概説され、さらに例えば、the McCafferty et al., Nature 348:552−554; Clackson et al., Nature 352: 624−628 (1991)、Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581−597 (1992)、Marks and Bradbury, in Methods in Molecular Biology 248:161−175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003)、Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299−310 (2004)、Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073−1093 (2004)、Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34): 12467−12472 (2004)及びLee et al., J. Immunol. Methods 284(1−2): 119−132(2004)に記載されている。
【0169】
ある特定のファージディスプレイ法において、VH及びVL遺伝子のレパートリーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別個にクローニングされ、ファージライブラリ中で無作為に組み換えられ、それを次いで、Winter et al.,Ann. Rev. Immunol., 12: 433−455(1994)に記載の通り、抗原結合ファージでスクリーニング可能である。ファージは典型的に、1本鎖Fv(scFv)断片としてまたはFab断片としてのいずれかで、抗体断片を提示する。免疫された源からのライブラリは、ハイブリドーマを構築する必要なしに、免疫原に対する高親和性抗体を提供する。代替的に、Griffiths et al., EMBO J, 12:725−734 (1993)によって記載されるように、ナイーブレパートリーをクローニングして(例えば、ヒトから)、いかなる免疫化も伴わずに、広範な非自己抗原及びまた自己抗原に対する抗体の単一の源を提供することができる。最後に、ナイーブライブラリはまた、Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381−388(1992)に記載されるように、幹細胞からの再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、無作為配列を含有するPCRプライマーを使用して高度可変CDR3領域をコードし、かつインビトロで再配列を達成することによって、合成的に作製することができる。ヒト抗体ファージライブラリを記載する特許公開には、例えば、米国特許第5,750,373号、及び米国特許公開第2005/0079574号、2005/0119455号、2005/0266000号、2007/0117126号、2007/0160598号、2007/0237764号、2007/0292936号、及び2009/0002360号が挙げられる。
【0170】
ヒト抗体ライブラリから単離された抗体または抗体断片は、本明細書でヒト抗体またはヒト抗体断片と見なされる。
【0171】
6.多重特異性抗体
ある特定の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に対する結合特異性を有する、モノクローナル抗体である。ある特定の実施形態において、結合特異性のうちの一方は、TfRに対するものであり、他方は、任意の他の抗原に対するものである。ある特定の実施形態において、二重特異性抗体は、TfRの2つの異なるエピトープに結合し得る。二重特異性抗体をまた使用して、細胞傷害性薬剤を、TfRを発現する細胞に限局させてもよい。二重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片として調製することができる。
【0172】
多重特異性抗体を作製するための技法には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の組換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983))、国際公開第93/08829号及びTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991)を参照されたい)及び「ノブ・イン・ホール(knob−in−hole)」操作(例えば、米国特許第5,731,168号を参照されたい)が含まれるが、これらに限定されない。多重特異性抗体は、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するために静電式ステアリング効果を遺伝子操作すること(WO2009/089004A1)、2つ以上の抗体または断片を架橋すること(例えば、米国特許第4,676,980号及びBrennan らScience, 229:81,1985を参照されたい)、二重特異性抗体を作製するためのロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547−1553 (1992)を参照されたい)、二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術を使用すること(例えば、Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444−6448 (1993)を参照されたい)、及び単鎖Fv(sFv)二量体を使用すること(例えば、 Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照されたい)、ならびに例えば、Tutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991)に記載されるように三重特異性抗体を調製することによって、作製することができる。
【0173】
本明細書における抗体または断片にはまた、TfR及び別の異なる抗原に結合する抗原結合部位を含む、「二重作用(Dual Acting)FAb」または「DAF」が含まれる(例えば、US2008/0069820を参照されたい)。
【0174】
本発明のいくつかの実施形態によれば、「カップリング」は、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)を生成することにより達成することができる。多重特異性抗体は、エピトープに対する少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する、モノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、多重特異性抗体は、TfRに結合する第1の抗原結合部位及び脳抗原に結合する第2の抗原結合部位を含み、脳抗原としてβセクレターゼ1(BACE1)またはAbeta及び本明細書に記載の他の脳抗原等が挙げられる。
【0175】
そのような多重特異性/二重特異性抗体に結合される脳抗原として、BACE1が例示され、その抗原に結合する抗体として、
図16A及び
図16Bに記載のYW412.8.31抗体が例示される。
【0176】
別の実施形態において、脳抗原は、Abetaであり、
図11A及び
図11Bにそれぞれ示される重鎖及び軽鎖アミノ酸配列を含むIgG4 MABT5102A抗体を含む例示的Abeta抗体と共に、国際公開第2007068412号、同2008011348号、同20080156622号及び国同2008156621号に記載の例示としてのかかる抗体は、本明細書に参照により明示的に組み込まれる。
【0177】
多重特異性抗体を作製するための技法には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の組換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983))、国際公開第93/08829号及びTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991)を参照されたい)及び「ノブ・イン・ホール(knob−in−hole)」操作(例えば、米国特許第5,731,168号を参照されたい)が含まれるが、これらに限定されない。多重特異性抗体は、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するために静電式ステアリング効果を遺伝子操作すること(WO2009/089004A1)、2つ以上の抗体または断片を架橋すること(例えば、米国特許第4,676,980号及びBrennan らScience, 229:81,1985を参照されたい)、二重特異性抗体を作製するためのロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547−1553 (1992)を参照されたい)、二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術を使用すること(例えば、Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444−6448 (1993)を参照されたい)、及び単鎖Fv(sFv)二量体を使用すること(例えば、Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994))、ならびに例えば、Tutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991)に記載されるように三重特異性抗体を調製することによって、作製することができる。
【0178】
「オクトパス(Octopus)抗体」または「二重可変ドメイン免疫グロブリン」(DVD)を含む、3つ以上の機能的抗原結合部位を有する操作された抗体もまた、本明細書に含まれる(例えば、米国公開第2006/0025576A1号及びWu et al. Nature Biotechnology(2007)).
【0179】
7.抗体変異体
ある特定の実施形態において、本明細書に提供される抗体のアミノ酸配列変異体が企図される。例えば、抗体の結合親和性及び/または他の生物学的特性を改善することが望ましいことがある。抗体のアミノ酸配列変異体は、適切な改変を、抗体をコードするヌクレオチド配列中に導入することによって、またはペプチド合成によって、調製されてもよい。かかる改変には、例えば、抗体のアミノ酸配列からの残基の欠失、及び/またはそこへ残基の挿入、及び/またはその内の残基の置換が含まれる。欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせを作製して、最終構築物に到達することができるが、但し、その最終構築物が、所望の特性、例えば、抗原結合性を保有することを条件とする。
【0180】
a)置換、挿入、及び欠失変異体
ある特定の実施形態において、1つ以上のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換型突然変異生成に対する目的の部位には、HVR及びFRが含まれる。表2において、「好ましい置換基」の見出しの下に保存的置換基が記載される。より実質的な変化は、表2において、「例示的な置換基」の見出しの下に提供され、またアミノ酸側鎖クラスを参照して以下でさらに説明される。アミノ酸置換基が目的の抗体中に導入され、産物が、所望の活性、例えば、保持/改善された抗原結合、減少した免疫原性、または改善されたADCCもしくはCDCについて、スクリーニングされてもよい。
表2
【0181】
アミノ酸は、次の一般的な側鎖特性に従って分類されてもよい:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile、
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln、
(3)酸性:Asp、Glu、
(4)塩基性:His、Lys、Arg、
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro、
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe.
【0182】
非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴うであろう。
【0183】
置換型変異体の1つの種類は、親抗体(例えば、ヒト化またはヒト抗体)の1個以上の超可変領域残基を置換することを伴う。一般に、さらなる研究のために選択される、結果として生じる変異体は、親抗体と比べて、ある特定の生物学的特性(例えば、増加した親和性、低減された免疫原性)における修飾(例えば、改善)を有することになり、及び/または親抗体の、実質的に保持されたある特定の生物学的特性を有することになる。例となる置換型変異体は、例えば、本明細書に記載されるもの等のファージディスプレイベースの親和性成熟技法を使用して、好都合に生成され得る、親和性成熟抗体である。簡潔に述べると、1個以上のHVR残基が突然変異させられ、変異形抗体がファージ上で提示され、特定の生物活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0184】
変化(例えば、置換)をHVRにおいて行って、例えば、抗体親和性を改善してもよい。かかる改変は、HVR「ホットスポット」、すなわち体細胞成熟プロセスの間、高頻度で突然変異を経験するコドンによりコードされる残基(例えば、Chowdhury.Methods Mol. Biol. 207:179−196,2008を参照されたい)、及び/または抗原に接触する残基において行われて良く、得られた変異体VHまたはVLは結合親和性に関して試験される。二次ライブラリを構築し、そこから再選択することによる親和性成熟は、例えば、Methods in Molecular Biology 178:1−37 (O’Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, (2001))に掲載のHoogenboom et al.に記載されている。親和性成熟のいくつかの実施形態において、多様性が、多様な方法(例えば、エラープローンPCR、鎖シャフリング、またはオリゴヌクレオチド指向性突然変異生成)のうちのいずれかによって、成熟のために選定された可変遺伝子中に導入される。二次ライブラリが次いで作り出される。ライブラリは次いで、所望の親和性を有する任意の抗体変異体を特定するために、スクリーニングされる。多様性を導入するための別の方法は、数個のHVR残基(例えば、1回に4〜6個の残基)が無作為化される、HVR指向性アプローチを伴う。抗原結合に関与するHVR残基は、例えば、アラニンスキャニング突然変異生成またはモデリングを使用して、具体的に特定されてもよい。特にCDR−H3及びCDR−L3が、しばしば標的とされる。
【0185】
ある特定の実施形態において、置換、挿入、または欠失は、かかる変化が、抗原に結合する抗体の能力を実質的に低減しない限り、1つ以上のHVR内で生じてもよい。例えば、結合親和性を実質的に低減しない保存的変化(例えば、本明細書に提供される保存的置換)が、HVRにおいて行われてもよい。かかる変化は、例えば、HVRにおける抗原接触残基の外で生じてもよい。上に提供される変異形VH及びVL配列のある特定の実施形態において、各HVRは、変化させられないか、またはわずか1つ、2つまたは3つのアミノ酸置換を含有するにすぎないかのいずれかである。
【0186】
突然変異生成のための標的とされ得る、抗体の残基または領域の特定のための有用な方法は、Cunningham and Wells(1989) Science, 244:1081−1085によって説明される「アラニンスキャニング変異生成」と呼ばれるものである。この方法において、標的残基(例えば、arg、asp、his、lys、及びglu等の荷電残基)のうちのある残基または基が特定され、中性または負荷電アミノ酸(例えば、アラニンまたはポリアラニン)によって置き換えられて、抗体の抗原との相互作用が影響を受けるかどうかを決定する。さらなる置換が、最初の置換に対する機能的感受性を示すアミノ酸の場所に導入されてもよい。代替的に、または追加的に、抗原−抗体の結晶構造抗体は、抗体と抗原との間の接触点を特定するために複雑になる。かかる接触残基及び隣接する残基は、置換の候補として標的とされるか、または排除されてもよい。変異体をスクリーニングして、それらが所望の特性を含有するかどうかを決定してもよい。
【0187】
アミノ酸配列挿入には、1個の残基から100個以上の残基を含有するポリペプチドの範囲の長さである、アミノ末端及び/またはカルボキシル末端融合、ならびに単一のまたは多数のアミノ酸残基の配列内(intrasequence)挿入が含まれる。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有する抗体が挙げられる。抗体分子の他の挿入型変異体には、抗体の血清半減期を増加させる酵素(例えば、ADEPTのための)またはポリペプチドに対する抗体のN末端もしくはC末端への融合が含まれる。
【0188】
b)グリコシル化変異体
ある特定の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加または減少させるように変化させられる。抗体へのグリコシル化部位の付加または欠失は、1つ以上のグリコシル化部位が作り出されるか、または除去されるように、アミノ酸配列を変化させることによって、好都合に遂行されてもよい。
【0189】
抗体がFc領域を含む場合、そこに結合した炭水化物が変化させられてもよい。哺乳動物細胞によって産生される天然抗体は、典型的に、一般にN−結合によって、Fc領域のCH2ドメインのAsn297に結合される、分岐した二分岐オリゴ糖を含む。例えば、Wright et al. TIBTECH 15:26−32 (1997)を参照されたい。オリゴ糖類には、種々の炭水化物、例えば、マンノース、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、及びシアル酸、ならびに二分岐オリゴ糖類構造の「ステム」においてGlcNAcに結合したフコースが含まれる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体におけるオリゴ糖の修飾は、ある特定の特性が改善された抗体変異体を作製するために行われてもよい。
【0190】
いくつかの実施形態において、Fc領域に(直接的にまたは間接的に)結合されるフコースを欠いた炭水化物構造を有する、抗体変異体が提供される。例えば、かかる抗体におけるフコースの量は、1%〜80%、1%〜65%、5%〜65%、または20%〜40%であってもよい。フコースの量は、例えば、国際公開第2008/077546号に記載されるように、MALDI−TOF質量分析法によって測定するとき、Asn 297に結合した全ての糖鎖構造(例えば、複合体、ハイブリッド、及び高マンノース構造)の合計と比べた、Asn297における糖鎖内のフコースの平均量を算出することによって決定される。Asn297は、Fc領域における約297位(Fc領域残基のEu付番)に位置するアスパラギン残基を指すが、Asn297はまた、抗体における小規模な配列変異に起因して、297位から約±3アミノ酸上流または下流、すなわち、294位〜300位の間にも位置する。かかるフコシル化変異体は、改善されたADCC機能を有し得る。例えば、米国特許公開第2003/0157108号(Presta, L.)、同2004/0093621号(Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd.)を参照されたい。「脱フコシル化」または「フコース欠損」抗体変異体に関連する刊行物の例としては、米国特許公開第2003/0157108号、国際公開第2000/61739号、国際公開第2001/29246号、米国特許公開第2003/0115614号、同2002/0164328号、同2004/0093621号、同2004/0132140号、同2004/0110704号、同2004/0110282号、同2004/0109865号、国際公開第2003/085119号、同2003/084570号、同2005/035586号、同2005/035778号、同2005/053742号、同2002/031140号、Okazaki et al. J. Mol. Biol. 336:1239−1249 (2004)及びYamane−Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004)が挙げられる。脱フコシル化抗体を産生することが可能な細胞株の例としては、タンパク質フコシル化が欠損したLec13CHO細胞(Ripka et al. Arch. Biochem. Biophys. 249:533−545(1986)、米国特許出願第2003/0157108 A1号(Presta, L)、及び国際公開第2004/056312 A1号, Adams et al.(特に実施例11))、及びアルファ−1,6−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞等のノックアウト細胞株(例えば、Yamane−Ohnuki et al., Biotech. Bioeng. 87: 614(2004)、 Kanda, Y. et al., Biotechnol. Bioeng., 94(4):680−688 (2006)及び国際公開第2003/085107号)が含まれる。
【0191】
二分されたオリゴ糖類を有する、例えば、抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴ糖類がGlcNAcによって二分される、抗体変異体がさらに提供される。かかる抗体変異体は、低減されたフコシル化及び/または改善されたADCC機能を有し得る。かかる抗体変異体の例は、例えば国際公開第2003/011878号(Jean−Mairet et al.)、米国特許第6,602,684号(Umana et al.)及び米国特許出願第2005/0123546号(Umana et al.)に記載される。Fc領域に結合したオリゴ糖類において少なくとも1個のガラクトース残基を有する、抗体変異体もまた提供される。かかる抗体変異体は、改善されたCDC機能を有し得る。かかる抗体変異体は、例えば、国際公開第1997/30087号(Patel et al.)、同1998/58964号(Raju, S.)、及び同1999/22764号(Raju, S.)に記載される。
【0192】
c)Fc領域変異体
ある特定の実施形態において、1つ以上のアミノ酸改変が、本明細書に提供される抗体のFc領域に導入され、それによってFc領域変異体を生成してもよい。Fc領域変異体は、1つ以上のアミノ酸位置にアミノ酸改変(例えば、置換)を含む、ヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4 Fc領域)を含んでもよい。
【0193】
ある特定の実施形態において、本発明は、いくつかのエフェクター機能を保有するが、全てのエフェクター機能は保有せず、それにより、インビボでの抗体の半減期が重要であるが、なおもある特定のエフェクター機能(補体及びADCC等)が不必要または有害である場合の適用に対する望ましい候補となる、抗体変異体を企図する。インビトロ及び/またはインビボ細胞傷害性アッセイを実行して、CDC及び/またはADCC活性の低減/枯渇を確認することができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイを実行して、抗体がFcγR結合を欠いている(よって、ADCC活性を欠いている可能性が高い)が、FcRn結合能力を保持していることを確実にすることができる。ADCCを媒介するための主要な細胞であるNK細胞はFc(RIIIのみを発現するが、一方で単球はFc(RI、Fc(RII、及びFc(RIIIを発現する。造血細胞上でのFcR発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457−492 (1991)の464頁、表3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、Hellstrom, I. et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 83:7059−7063(1986)及びHellstrom, I et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 82:1499−1502(1985)を参照されたい)及び同5,821,337号(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166:1351−1361(1987)を参照されたい)に記載される。代替的に、非放射性アッセイ法が用いられてもよい(例えば、フローサイトメトリーのためのACTI(商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology、Inc. Mountain View、CA、及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega、Madison、WI)を参照されたい。かかるアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。代替的に、または追加的に、目的の分子のADCC活性は、in vivoで、例えば、Clynesら、Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 95:652−656(1998)に開示されるものといった動物モデルにおいて、評価してもよい。C1q結合アッセイをまた行って、抗体がC1qに結合不可能であり、よってCDC活性を欠いていることを確認してもよい。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号におけるC1q及びC3c結合ELISAを参照されたい。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行ってもよい(例えば、Gazzano−Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996)、Cragg,M.S.et al.,Blood 101:1045−1052(2003)、及びCragg,M.S.and M.J.Glennie,Blood 103:2738−2743(2004)を参照されたい)。FcRn結合及びインビボ排除/半減期の決定は、当技術分野で既知の方法を使用しても実施され得る(例えば、Petkova, S.B. et al., Int’l. Immunol.18(12):1759−1769 (2006)).
【0194】
エフェクター機能が低減された抗体の非限定的な例としては、1つ以上の238、265、269、270、297、327及び329位のFc領域残基の置換を有する抗体(米国特許第6,737,056)が含まれる。かかるFc突然変異体には、アラニンへの残基265及び297の置換を有するいわゆる「DANA」Fc突然変異体を含む(米国特許第7,332,581号)、アミノ酸265、269、270、297、及び327位のうちの2つ以上において置換を有するFc突然変異体が含まれる。
【0195】
FcRへの改善されたまたは減少した結合を有する、ある特定の抗体変異体が記載される。(例えば、米国特許第6,737,056号、国際公開第2004/056312号及びShields et al., J. Biol. Chem. 9(2): 6591−6604(2001)を参照されたい。)
【0196】
ある特定の実施形態において、抗体変異体は、ADCCを改善する1つ以上のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の298位、333位及び/または334位(残基のEU付番)における置換を有する、Fc領域を含む。
【0197】
いくつかの実施形態では、Fc領域において、変化した(すなわち、改善されたまたは減少した)C1q結合及び/または補体依存性細胞毒性(CDC)となる変化が行われることが、例えば、米国特許第6,194,551号、国際公開第99/51642号、及びIdusogie et al. J. Immunol. 164: 4178−4184(2000)において詳細に説明されている。
【0198】
胎児への母性IgGの移動を引き起こす、増加した半減期及び改善された新生児Fc受容体(FcRn)への結合を有する抗体(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)及びKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))が米国特許出願第2005/0014934A1号(Hinton et al.)に記載されている。これらの抗体は、FcRnに対するFc領域の結合性を向上させる1つ以上の置換を内部に有するFc領域を含む。かかる非限定的なFc変異体には、Fc領域残基238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、または434のうちの1つ以上における置換、例えば、Fc領域残基434の置換(米国特許第7,371,826号)を有するものが含まれる。
【0199】
また、Fc領域変異体の他の例に関して、Duncan & Winter, Nature 322:738−40(1988)、米国特許第5,648,260号、米国特許第5,624,821号及び国際公開第94/29351号も参照されたい。
【0200】
d)システイン操作された抗体変異体
ある特定の実施形態において、抗体の1個以上の残基がシステイン残基で置換されている、システイン操作された抗体、例えば、「チオMab」を作り出すことが望ましい場合がある。特に実施形態において、置換残基は、抗体の利用しやすい部位において生じる。それらの残基をシステインで置換することによって、反応性のチオール基はそれによって、抗体の利用しやすい部位に位置付けられ、それを使用して、抗体を、薬物部分またはリンカー−薬物部分等の他の部分に複合して、本明細書にさらに記載される、免疫複合体を作り出してもよい。ある特定の実施形態において、次の残基のうちの任意の1個以上が、システインで置換されてもよい:軽鎖のV205(Kabat付番)、重鎖のA118(EU付番)、及び重鎖Fc領域のS400(EU付番)。システイン操作された抗体変異体は、例えば米国特許第7,521,541号に記載されるように作製してもよい。
【0201】
e)抗体誘導体
ある特定の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、当該技術分野で既知であり、容易に入手可能な、追加の非タンパク質性部分を含有するようにさらに修飾されてもよい。抗体の誘導体化に好適な部分には、水溶性ポリマーが含まれるが、これらに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ−1,3,6−トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、及びデキストランまたはポリ(n−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレン(propropylene)グリコールホモポリマー、プロリプロピレン(prolypropylene)オキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性に起因して、製造における利点を有し得る。ポリマーは、任意の分子量のものであってもよく、分岐していても非分岐であってもよい。抗体に結合したポリマーの数は、様々であってもよく、1つを超えるポリマーが結合される場合、それらは、同じ分子または異なる分子であり得る。一般に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/または種類は、改善対象の抗体の特定の特性または機能、抗体誘導体が規定の条件下で療法において使用されるかどうか等を含むが、これらに限定されない考慮に基づいて、決定することができる。
【0202】
別の実施形態において、放射線への曝露によって選択的に加熱され得る、抗体及び非タンパク質性部分の複合体が提供される。いくつかの実施形態において、非タンパク質性部分は、カーボンナノチューブである(Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600−11605 (2005))。放射線は、任意の波長のものであってもよく、一般の細胞を害さないが、非タンパク質性部分を、抗体−非タンパク質性部分に近位の細胞が死滅させられる温度まで加熱する波長が含まれるが、これらに限定されない。
【0203】
B.組み換え法及び組成物
抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載される組換え方法及び組成物を用いて生成してもよい。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗TfR抗体をコードする単離核酸が提供される。かかる核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/または重鎖)をコードし得る。さらなる実施形態において、かかる核酸を含む1つ以上のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。さらなる実施形態において、かかる核酸を含む宿主細胞が提供される。1つのかかる実施形態において、宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクター、及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターを含む(例えば、それらで形質転換されている)。いくつかの実施形態において、宿主細胞は、真核性、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。いくつかの実施形態において、抗TfR抗体を作製する方法が提供され、本方法は、上記抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、抗体の発現に好適な条件下で培養することと、任意選択で、抗体を宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収することとを含む。
【0204】
抗TfR抗体の組み換え産生のために、例えば、上述のものなどの、抗体をコードする核酸が単離され、宿主細胞内でのさらなるクローニング及び/または発現のために、1つ以上のベクター中に挿入される。かかる核酸は、慣例の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能である、オリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)、容易に単離され、配列決定され得る。
【0205】
抗体コードベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞には、本明細書に記載される原核細胞または真核細胞が含まれる。例えば、抗体は、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされない場合に、細菌において産生されてもよい。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、5,789,199号、及び5,840,523号(また、E.coilにおける抗体断片の発現を記載する、Charlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 245−254も参照されたい)。発現後、抗体は、可溶性画分において細菌細胞ペーストから単離されてもよく、またさらに精製することができる。
【0206】
原核生物に加えて、糸状菌または酵母等の真核微生物は、抗体コードベクターに好適なクローニングまたは発現宿主であり、それには、グリコシル化経路が「ヒト化」されており、部分的または完全ヒトグリコシル化パターンを有する抗体の産生をもたらす、真菌及び酵母株が含まれる。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409−1414 (2004)及びLi et al., Nat. Biotech. 24:210−215 (2006)を参照されたい。
【0207】
グリコシル化抗体の発現に好適な宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)にも由来する。無脊椎動物細胞の例としては、植物及び昆虫細胞が挙げられる。昆虫細胞と併せて、特にヨトウガ細胞のトランスフェクションのために、使用され得る、多数のバキュロウイルス株が特定されている。
【0208】
植物細胞培養物もまた、宿主として利用することができる。米国特許第5,959,177号、同第6,040,498号、同第6,420,548号、同第7,125,978号、及び同第6,417,429号を参照されたい(遺伝子組換え植物内で抗体を作製するためのPLANTIBODIES(商標)技術を記載する)。
【0209】
脊椎動物細胞もまた、宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で成長するように適合される哺乳動物細胞株が、有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1株(COS−7)、ヒト胚性腎臓株(例えば、Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977)に記載される293または293細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(例えば、Mather, Biol. Reprod. 23:243−251 (1980)に記載されるTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76)、ヒト子宮頚癌細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝癌細胞(Hep G2)、マウス乳腺腫瘍(MMT 060562)、例えば、Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44−68(1982)に記載のTRI細胞、MRC5細胞及びFS4細胞が挙げられる。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、DHFR」CHO細胞を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub et al.,Proc Natl. Acad. Sci. USA77:4216,1980)、ならびにY0、NS0、及びSp2/0などの骨髄腫細胞株が含まれる。抗体作製にとって好適なある特定の哺乳動物宿主細胞株の概説に関して、例えばYazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255−268 (2003)。
【0210】
C.アッセイ
本明細書に提供される抗TfR抗体は、それらの物理/化学特性及び/または生物活性について、当該技術分野で既知の種々のアッセイによって、特定され、スクリーニングされ、または特徴付けられてもよい。
【0211】
1.結合アッセイ及び他のアッセイ
様々な手法で、抗体のTfRへの結合を決定できる。かかるアッセイの一つは、ヒトTfR(及び脳抗原)に結合可能であることを確認するための酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)である。このアッセイによれば、抗原(例えば組換えTfR)でコーティングしたプレートを抗TfR抗体を含む試料とインキュベートし、抗体の目的の抗原に対する結合を測定する。
【0212】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、その抗原結合活性について、例えば、ELISAまたはウェスタンブロット等の既知の方法によって試験される。
【0213】
別の態様において、競合アッセイを使用して、TfRへの結合について本発明の抗体のいずれかと競合する抗体を特定してもよい。ある特定の実施形態において、かかる競合抗体は、本発明の抗体のうちのいずれか1つにより結合される同じエピトープ(例えば、線状またはコンフォメーションエピトープ)、より具体的には本明細書に記載のクラスI、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVにおいて抗体により特異的に結合される前記エピトープのうちいずれか1つ(例えば、実施例1及び表4を参照)に結合する。抗体が結合するエピトープをマッピングするための詳細な例示的方法は、Methods in Molecular Biology vol. 66(Humana Press、Totowa、NJ)に記載のMorris(1996)「Epitope Mapping Protocols」を参照されたい。
【0214】
例示的な競合アッセイにおいて、固定化されたTfRは、TfRに結合する第1の標識抗体(例えば、本明細書に記載される1つ以上の抗体)、及びTfRへの結合について第1の抗体と競合するその能力について試験されている第2の未標識抗体を含む溶液中でインキュベートされる。第2の抗体は、ハイブリドーマ上清中に存在してもよい。対照として、固定化されたTfRが、第1の標識抗体を含むが、第2の未標識抗体を含まない溶液中でインキュベートされる。TfRに第1の抗体が結合することを許容する条件下でのインキュベーション後、過剰な非結合抗体が除去され、固定化されたTfRに関連する標識の量が測定される。固定化されたTfRに関連する標識の量が、対照試料と比較して試験試料中で実質的に低減される場合、それは、第2の抗体がTfRへの結合について第1の抗体と競合していることを示す。Harlow and Lane(1988)Antibodies:A Laboratory Manual ch.14(Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY)を参照されたい。
【0215】
2.活性アッセイ
いくつかの態様において、生物学的活性を有する抗TfR抗体を同定するためのアッセイが提供される。生物学的活性には、例えば、BBBを通して抗体に関連する/複合される化合物を脳及び/またはCNSへ輸送する活性が含まれていてもよい。インビボ及び/またはインビトロにおけるかかる生物学的活性もまた提供される。
【0216】
ある特定の実施形態において、本発明の抗体は、かかる生物学的活性に関して試験される。
【0217】
D.免疫複合体
本発明はまた、本明細書において、化学療法剤もしくは化学療法薬、成長阻害性薬剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物、もしくは動物起源の酵素活性毒素、またはそれらの断片)、または放射性同位体(すなわち、放射性物質複合体)等の、1つ以上の細胞傷害性薬剤に複合される抗TfR抗体を含む、免疫複合体も提供する。
【0218】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗TfR抗体は、神経障害治療薬、化学療法薬及び/または造影剤にカップリングされることにより、前記BBBを通して前記薬物、化学療法薬及び/または前記造影剤をより効率的に輸送する。
【0219】
共有結合型複合化は、直接またはリンカーを介して行うことができる。ある特定の実施形態において、直接的複合化は、タンパク質融合(すなわち、抗TfR抗体及び例えば、単一タンパク質として発現する神経障害治療薬をコード化する二つの遺伝子の遺伝子融合による)の構築である。ある特定の実施形態において、直接的複合化は、抗TfR抗体の二つの部位のうち一部位上の反応基及び、例えば、神経薬上の対応する基またはアクセプター間の共有結合の形成によるものである。ある特定の実施形態において、直接的複合化は、適切な条件下で複合化される他分子に対する共有結合を形成する反応基(非限定的な例としてスルフィドリル基またはカルボキシル基)を含むように複合化される二分子の一つを改変(すなわち、遺伝子改変)することによって行われる。非限定的な例として、所望の反応基(すなわち、システイン残基)を有する分子(すなわち、アミノ酸)を、TfR抗体及び、例えば、神経薬と形成したジスルフィド結合へ導入してもよい。核酸のタンパク質に対する共有結合型複合化の方法は、当該技術分野においても周知である(すなわち、Zatsepin et al., Russ. Chem. Rev. 74: 77−95(2005)に参照される光架橋)。
【0220】
当業者によって理解されるように、非共有結合型複合化は、疎水性結合、イオン結合、静電相互作用等を含む如何なる非共有結合手段によっても可能である。
【0221】
様々なリンカーを用いて複合化することも可能である。例えば、抗TfR抗体及び神経薬は、N−サクシニミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸塩(SPDP)、サクシニミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸塩(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(アジプイミド酸ジメチルHClなど)、活性エステル(スベリン酸ジサクシニミジルなど)、アルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート(トルエン2,6−ジイソシアネートなど)、及びビス活性フッ素化合物(1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンなど)などの種々の二官能性タンパク質結合薬剤を使用して複合化されて良い。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta et al., Science238:1098(1987)に記載されるように調製され得る。炭素−14標識1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、抗体への放射性ヌクレオチドの複合のための、例となるキレート剤である。国際公開第94/11026号を参照されたい。ペプチド結合によって結合した1〜20個のアミノ酸からなるペプチドリンカーを使用することもできる。かかる特定の実施形態において、アミノ酸は、前記20個の天然に存在するアミノ酸から選択される。特定の他のかかる実施形態において、1つ以上のアミノ酸は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン及びリシンから選択される。リンカーは、脳へ送達される際の神経薬の放出を容易にする「切断可能なリンカー」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、感光性リンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィド含有リンカー(Chari et al., Cancer Res. 52:127−131(1992)、米国特許第5,208,020号)を使用してもよい。
【0222】
本明細書の免疫複合体は、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC−SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ−EMCS、スルホ−GMBS、スルホ−KMUS、スルホ−MBS、スルホ−SIAB、スルホ−SMCC、及びスルホ−SMPB、ならびに市販されるSVSB(例えば、Pierce Biotechnology,Inc.,Rockford,IL.,U.S.Aからの)(サクシニミジル−(4−ビニルスルホン)安息香酸塩)が含まれるが、これらに限定されない架橋剤試薬で調製されたかかる複合体を明白に企図するが、これらに限定されない。
【0223】
いくつかの実施形態において、免疫複合体は、抗体が1つ以上の薬物に複合した抗体−薬物複合体(ADC)であり、これらに限定されないが、メイタンシノイド(米国特許第5,208,020号及び5,416,064号ならびに欧州特許第0425235B1号を参照されたい)、モノメチルオーリスタチン薬物部分DE及びDF等のオーリスタチン(MMAE及びMMAF)(米国特許第5,635,483号、5,780,588号及び7,498,298号を参照されたい)、ドラスタチン、カリケアマイシンまたはその誘導体(米国特許第5,712,374号、同5,714,586号、同5,739,116号、同5,767,285号、同5,770,701号、同5,770,710号、同5,773,001号及び同5,877,296号、Hinman et al., Cancer Res. 53:3336−3342 (1993)及びLode et al., Cancer Res. 58:2925−2928 (1998)を参照されたい)、ダウノマイシンまたはドキソルビシンなどのアントラサイクリン(Kratz et al., Current Med. Chem. 13:477−523 (2006)、Jeffrey et al., Bioorganic & Med. Chem. Letters 16:358−362 (2006)、Torgov et al., Bioconj. Chem. 16:717−721 (2005)、Nagy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:829−834 (2000)、Dubowchik et al., Bioorg. & Med. Chem. Letters 12:1529−1532 (2002)、King et al., J. Med. Chem. 45:4336−4343 (2002)及び米国特許第6,630,579号を参照されたい)、メトトレキサート、ビンデシン、例えば、ドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル(tesetaxel)、及びオルタタキセル等のタキサン、トリコテセン及びCC1065、を含む複合体である。
【0224】
別の実施形態において、免疫複合体は、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ−サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンシンタンパク質、アメリカヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP−S)、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、及びトリコテセンが含まれるが、これらに限定されない酵素的活性毒素またはその断片に複合される本明細書に記載の抗体を含む。
【0225】
別の実施形態において、免疫複合体は、放射性原子に複合されて放射性複合体を形成する、本明細書に記載される抗体を含む。種々の放射性同位体が、放射性複合体の作製のために利用可能である。例として、At
211、I
131、I
125、Y
90、Re
186、Re
188、Sm
153、Bi
212、P
32、Pb
212及びLuの放射性同位体が含まれる。放射性複合体が検出のために使用されるとき、それは、シンチグラフィー研究のための放射性原子、例えばtc99m若しくはI123、または核磁気共鳴(NMR)画像法(別名、磁気共鳴画像法、MRI)のためのスピン標識、例えば、再びヨード−123、ヨード−131、インジウム−111、フッ素−19、炭素−13、窒素−15、酸素−17、ガドリニウム、マンガン、若しくは鉄を含んで良い。
【0226】
E.診断及び検出のための方法及び組成物
ある特定の実施形態において、本明細書に提供される抗TfR抗体のいずれも、生体試料中のTfRの存在の検出に有用である。本明細書で使用される「検出すること」という用語は、定量または定性検出を包含する。ある特定の実施形態において、生物学的試料は、細胞または組織、血液等(すなわち、未成熟赤血球)、CSF、及びBBB含有組織を含む。
【0227】
いくつかの実施形態において、診断または検出方法において使用するための抗TfR抗体が提供される。さらなる態様において、生体試料中のTfRの存在を検出する方法が提供される。ある特定の実施形態において、本方法は、抗TfR抗体をTfRに結合するのに許容的な条件下で、生体試料を本明細書に記載される抗TfR抗体と接触させることと、複合体が抗TfR抗体とTfRとの間で形成されているかどうかを検出することと、を含む。かかる方法は、インビトロ方法であっても、インビボ方法であってもよい。いくつかの実施形態において、例えば、TfRが患者の選択のためのバイオマーカーである場合、抗TfR抗体を使用して、抗TfR抗体での治療法に適格な対象を選択する。
【0228】
本発明の抗体を用いて診断され得る例示的障害は、TfRが網状赤血球で発現されることによって本発明のいずれかの抗体を用いて検出可能である事実から、未熟赤血球を認める障害を含む。かかる障害は、貧血及び網状赤血球値の低下または、例えば、網状赤血球の過剰増殖に起因する赤血球数の上昇により血液が濃くなり同時に生理的症状が生じる、先天性赤血球増加症もしくは新生物性真性赤血球増加症に起因する他の障害を含む。
【0229】
ある特定の実施形態において、標識された抗TfR抗体が提供される。標識には、直接検出される標識または部分(蛍光標識、発色団標識、高電子密度標識、化学発光標識、及び放射性標識等)、ならびに例えば、酵素反応または分子相互作用を通じて、間接的に検出される酵素またはリガンド等の部分が含まれるが、これらに限定されない。例示的標識は、これらに限定されないが、放射性同位体
32P、
14C、
125I、
3H及び
131I、希土類キレートまたはフルオレセイン等のフルオロフォア及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、例えばホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ等のルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3−ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ等の糖オキシダーゼ、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ等の複素環式オキシダーゼ、例えばHRP、ラクトペルオキシダーゼまたはミクロペルオキシダーゼ等の染料前駆体を酸化するために過酸化水素を使用する酵素と結合したオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識及び安定なフリーラジカル等を含む。
【0230】
いくつかの実施形態において、前記インタクトな抗体は、エフェクター機能を持たない。別の実施形態において、前記インタクトな抗体は低減されたエフェクター機能を有する。別の実施形態において、前記インタクトな抗体は、低減されたエフェクター機能を有するように操作されている。いくつかの態様において、前記抗体はFabである。別の態様において、前記抗体は、エフェクター機能を低減または削除する1つ以上のFc突然変異を有する。別の態様において、前記抗体は、正常なヒトグリコシル化酵素が存在しない系における抗体産生に起因する改変グリコシル化を有する。別の態様において、Igバックボーンは、限定的エフェクター機能を天然に有するまたは有さないものに改変される。
【0231】
様々な手法で、抗体のTfRへの結合を決定できる。かかるアッセイの一つは、ヒトTfR(及び脳抗原)に結合可能であることを確認するための酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)である。このアッセイによれば、抗原(例えば組換えTfR)でコーティングしたプレートを抗TfR抗体を含む試料とインキュベートし、抗体の目的の抗原に対する結合を測定する。
【0232】
実施例に開示されているようにまたは目的の抗CNS抗原抗体において周知のように、全身投与された抗体及び抗体の他の生物学的活性の取り込みを評価するアッセイを行うことができる。
【0233】
いくつかの態様において、アッセイは、生物学的活性を有する抗BACE1抗体に(共有または非共有)結合された抗TfR抗体を同定するために提供される。生物学的活性は、例えば、BACE1アスパルチルプロテアーゼ活性の阻害を含んでいてもよい。このような生物学的活性を有する抗体は、例えば、合成基質ペプチドを使用した、またはインビボでAPP等のBACE1基質を発現する細胞株における、均一時間分解蛍光HTRFアッセイまたはマイクロ流体キャピラリー電気泳動(MCE)アッセイにより評価されるなどして、インビボ及び/またはインビトロでも提供される。
【0234】
F.医薬製剤
本明細書に記載される抗TfRの医薬製剤抗は、所望の程度の純度を有するかかる抗体を、1つ以上の任意の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980))と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、調製される。薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤は、一般に、用いられる投薬量及び濃度で、受容者に対して非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸等の緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム等;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、もしくはベンジルアルコール;メチルもしくはプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;及びm−クレゾール等);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免役グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリジン等のアミノ酸;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTA等のキレート薬剤;ショ糖、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトール等の糖類;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属複合体(例えば、Zn−タンパク質複合体);ならびに/またはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が含まれるが、これらに限定されない。本明細書における例示的な薬学的に許容される担体には、例えば、介在性(insterstitial)薬物分散剤、例えば可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えばヒト可溶性PH−20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えばrHuPH20(HYLENEX(登録商標)Baxter International,Inc.)が更に含まれる。rHuPH20を含むある特定の例示的なsHASEGP及び使用方法は、米国特許公開第2005/0260186号及び同第2006/0104968号に記載されている。いくつかの態様において、sHASEGPは、1つ以上の追加のグリコサミノグリカナーゼ、例えばコンドロイチナーゼと組み合わされる。
【0235】
例となる凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載される。水性抗体製剤には、米国特許第6,171,586号及び国際公開第2006/044908号に記載されるものが含まれ、後者の製剤はヒスチジン−酢酸塩緩衝液を含む。
【0236】
本明細書における製剤はまた、治療されている特定の適応症に対する必要に応じて、1つを超える活性成分、好ましくは相互に悪影響を及ぼさない相補的活性を有する成分を含有してもよい。例えば、神経障害疾患、神経変性疾患、がん、眼疾患/障害、発作性疾患、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス性または微生物疾患、虚血、行動障害またはCNS炎症を治療するための1つ以上の活性成分をさらに提供することが望ましいであろう。本明細書における例示的な薬は以下に記載される。このような活性成分は、意図する目的に有効な量で組み合わせて適切に存在する。
【0237】
活性成分は、例えば、コアセルベーション技術によって、または界面重合によって調製される、マイクロカプセル、例えば、それぞれ、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)中またはマクロエマルション中の、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセル及びポリ−(メチルメタクリレート(methylmethacylate))マイクロカプセル中に、封入されてもよい。かかる技術は、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示される。1つ以上の活性成分を、本明細書に記載の抗TfR抗体にカップリングされたリポソームにカプセル化してもよい(例えば、米国特許出願公開第20020025313号を参照されたい)。
【0238】
持続放出調製物が調製されてもよい。持続放出調製物の好適な例には、抗体を含有する固体の疎水性ポリマーの半透性マトリクスが含まれ、そのマトリクスは、成形品、例えばフイルムまたはマイクロカプセルの形態にある。持続放出調製マトリクスの非限定的な例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタメートとのコポリマー、非分解性エチレン酢酸ビニル、例えばLUPRON DEPOT(商標)などの分解性の乳酸−グリコール酸コポリマー(乳酸−グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドから構成される注射可能なマイクロスフェア)、ならびにポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。
【0239】
体内投与のために使用されるべき製剤は、一般に滅菌されている。滅菌状態は、例えば、滅菌濾過膜を通じた濾過によって、容易に遂行され得る。
【0240】
G.治療方法及び組成物
本明細書に提供される抗TfR抗体は、治療方法において使用され得る。いくつかの態様において、薬として使用するための抗TfR抗体が提供される。例えば、本発明は、赤血球集団への影響を低減または排除した血液脳関門を通して治療用化合物を輸送する方法であって、治療用化合物に結合された抗TfR抗体(例えば、TfR及び脳抗原両方に結合する多重特異性抗体)をBBBへ曝露することにより前記抗体が、結合した治療用化合物をBBBを通して輸送すること、含む前記方法を提供する。別の例において、本発明は、血液脳関門を通して神経障害治療薬を輸送する方法であって、脳障害薬物へ結合された本発明の抗TfR抗体(例えば、TfR及び脳抗原両方に結合する多重特異性抗体)をBBBへ曝露することにより前記抗体が、結合した神経障害治療薬を赤血球集団への影響を低減または排除したBBBを通して輸送すること、含む前記方法を提供する。いくつかの実施形態において、BBBは、例えば、限定するものではないが、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)など、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、がん、外傷性脳損傷等を含む神経障害を有する哺乳動物(例えば、ヒト)におけるものである。
【0241】
いくつかの実施形態において、神経障害は、ニューロパシー、アミロイドーシス、がん(例えば、CNSまたは脳に関連)、眼疾患または障害、ウイルスまたは微生物感染症、炎症(例えば、CNSまたは脳における)、虚血、神経変性疾患、発作、行動障害、リソソーム蓄積症等から選択される。本発明の抗体は、両端の1つ以上の関連の活性成分/結合された治療化合物をBBBを通して、かかる障害の分子、細胞、または微生物/ウイルスの基礎が見つかるCNS/脳へ輸送する能力に起因するような神経障害の治療に特に好ましい。
【0242】
神経障害疾患は、不適切または無制御な神経シグナリングまたはその欠如によって特徴づけられる神経系の疾患または異常であり、これらに限定されないが、慢性疼痛(侵害性疼痛を含む)、例えばがん関連疼痛、神経因性疼痛(神経の異常、脊髄、または脳によって引き起こされる痛み)、及び心因性の痛み(その全部または大部分が心理的障害に関連した)を含む身体組織への損傷によって引き起こされる疼痛、頭痛、片頭痛、神経障害、及びめまいや吐き気などの神経障害を伴うことが多い症状や症候群が挙げられる。
【0243】
神経障害疾患において、神経薬は、鎮痛剤から選択されてもよく、これらに限定されないが、麻薬/オピオイド鎮痛薬(すなわち、モルヒネ、フェンタニル、ヒドロコドン、メペリジン、メタドン、オキシモルホン、ペンタゾシン、プロポキシフェン、トラマドールで、コデイン及びオキシコドン)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(すなわち、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトロラク、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、オキサプロジン、ピロキシカム、スリンダク、及びトルメチン)、コルチコステロイド(すなわち、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン及びトリアムシノロン)、抗片頭痛剤(すなわち、スマトリプチン(sumatriptan)、アルモトリプタン、フロバトリプタン、スマトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ゾルミトリプタン、ジヒドロエルゴタミン、エレトリプタン及びエルゴタミン)、アセトアミノフェン、サリチル酸塩(すなわち、アスピリン、サリチル酸コリン、サリチル酸マグネシウム、ジフルニサル、及びサルサレート)、抗痙攣薬(すなわち、カルバマゼピン、クロナゼパム、ガバペンチン、ラモトリジン、プレガバリン、チアガビン、及びトピラマート)、麻酔薬(すなわち、イソフルラン、トリクロロエチレン、ハロタン、セボフルラン、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン、プロポキシカイン、プロカイン、ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン、アルチカイン、ブピバカイン、カルチカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、ピペロカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリメカイン、サキシトキシン及びテトロドトキシン)、及びCOX−2阻害剤(すなわち、セレコキシブ、ロフェコキシブ、及びバルデコキシブ)が挙げられる。めまいを伴う神経障害疾患において、神経薬は、抗めまい薬から選択されてもよく、これらに限定されないが、メクリジン、ジフェンヒドラミン、プロメタジン及びジアゼパムが挙げられる。吐き気伴う神経障害疾患において、神経薬は、抗嘔吐薬から選択されてもよく、これらに限定されないが、プロメタジン、クロルプロマジン、プロクロルペラジン、及びトリメトベンザミド、及びメトクロプラミドが挙げられる。
【0244】
アミロイドーシスは、CNSにおける細胞外タンパク性沈着に関連する疾患及び障害の群であり、これらに限定されないが、続発性アミロイドーシス、加齢性アミロイドーシス、アルツハイマー病(AD)、軽度認知障害(MCI)、レビー小体認知症、ダウン症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型);グアム・パーキンソン認知症複合、脳アミロイド血管症、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、多発性硬化症、クロイツフェルトヤコブ病、パーキンソン病、伝達性海綿状脳症、HIV関連認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、封入体筋炎(IBM)、及びベータ−アミロイド沈着に関連する眼疾患(すなわち、黄斑変性、ドルーゼン関連視神経神経障害、及び白内障)を含む。
【0245】
アミロイドーシスにおいて、神経薬は、限定されないが、以下から選択される標的に特異的に結合する抗体または他の結合分子(限定されないが、小分子、ペプチド、アプタマー、または他のタンパク質結合剤を含む)から選択されてもよい:ベータセクレターゼ、タウ(tau)、プレセニリン、アミロイド前駆体タンパク質またはその一部、アミロイドベータペプチドまたはそのオリゴマーまたは原線維、デスレセプター6(DR6)、終末糖化産物(RAGE)の受容体、パーキン、及びハンチンチン;コリンエステラーゼ阻害剤(すなわち、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン及びタクリン);NMDA受容体拮抗薬(すなわち、メマンチン)、モノアミン枯渇薬(すなわち、テトラベナジン);メシル酸エルゴロイド;抗コリン作動性抗パーキンソン病剤(すなわち、プロシクリジン、ジフェンヒドラミン、トリヘキシルフェニジル、ベンズトロピン、ビペリデン及びトリヘキシフェニジル);ドーパミン作動性抗パーキンソン病薬(すなわち、エンタカポン、セレギリン、プラミペキソール、ブロモクリプチン、ロチゴチン、セレギリン、ロピニロール、ラサギリン、アポモルフィン、カルビドパ、レボドパ、ペルゴリド、トルカポン及びアマンタジン);テトラベナジン;抗炎症剤(これらに限定されないが、非ステロイド性抗炎症薬(すなわち、インドメタシン及び上記他の化合物)を含む));ホルモン(すなわち、エストロゲン、プロゲステロン及びロイプロリド);ビタミン(すなわち、葉酸塩及びニコチンアミド);ジメボリン;ホモタウリン(すなわち、3−アミノプロパンスルホン酸;3APS);セロトニン受容体活性モジュレーター(すなわち、キサリプロデン)、インターフェロン、及びグルココルチコイド。
【0246】
CNSのがんは、1つ以上のCNS細胞(すなわち、神経細胞)の異常な増殖を特徴とし、これらに限定されないが、神経膠腫、多形神経膠芽腫、髄膜腫、星状細胞腫、聴神経腫、軟骨腫、乏突起膠髄芽腫、神経節、神経鞘腫、神経線維腫、神経芽細胞腫、及び硬膜外、髄内または硬膜内腫瘍を含む。
【0247】
がんにおいて、神経薬は、化学療法薬から選択されてもよい。化学療法剤の例には、チオテパ及びCYTOXAN(登録商標)シクロスホスファミド(cyclosphosphamide)などのアルキル化薬剤;ブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファンなどのアルキルスルホネート;ベンゾドパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)、及びウレドパ(uredopa)などのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド(trietylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスホルアミド(triethiylenethiophosphoramide)、及びトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン及びメチルアメラミン(methylamelamine);アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン);デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));ベータ−ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成アナログトポテカン(HYCAMTIN(登録商標))、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン(scopolectin)、及び9−アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、及びビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸;テニポシド;クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成アナログ、KW−2189及びCB1−TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンジスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビシン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどの窒素マスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、及びラニムヌスチン(ranimnustine)などのニトロスレア;エンジイン抗生物質(例えば、カリケアミシン、特にカリケアミシンγ1I及びカリケアミシンω1I(例えば、Agnew, Chem Intl. Ed. Engl., 33: 183−186 (1994));ダイネミシンAを含むダイネミシン;エスペラマイシン;同様にネオカルチノスタチン発光団及び関連色素蛋白エネジイン抗生物質発光団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ADRIAMYCIN(登録商標)ドキソルビシン(モルフォリノ−ドキソルビシン、シアノモルフォリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マセロマイシン、マイトマイシンC等のマイトマイシン、マイコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;メトトレキサート及び5−フルオロウラシル(5−FU)等の抗代謝産物;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなどの葉酸類似体;フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン等のプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン等のピリミジン類似体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン等のアンドロゲン類;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン等の抗副腎剤;フロリン酸等の葉酸リプレニッシャー(replenisher);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート;デフォファミン;デメコルシン;ジアジコン;エルフォルニチン;酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;メイタンシン及びアンサマイトシン等のメイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラミン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products,Eugene,OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テニュアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’−トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT−2トキシン、ベラキュリンA、ロリデンA及びアングイデン);ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標));ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara−C」);チオテパ;TAXOL(登録商標)パクリタキセル(Bristol−Myers Squibb Oncology、Princeton、N.J.)等のタキソイド、ABRAXANE(商標)クレモホールを含有しない、アルブミン操作されたパクリタキセルのナノ粒子製剤 (American Pharmaceutical Partners,Schaumberg,Illinois)、及びTAXOTERE(登録商標)ドセタキセル(Rhone−Poulenc Rorer,Antony,France);クロラムブシル(chloranbucil);ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標));6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;シスプラチン及びカルボプラチン等の白金類似体;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標));白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標));オキサリプラチン;ロイコボビン(leucovovin);ビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));ノバントロン(novantrone);エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロネート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸のレチノイド;カペシタビン(XELODA(登録商標));上記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体;ならびにCHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニゾロンの併用療法の略語);及びFOLFOX(5−FU及びロイコボビンと組み合わせたオキサリプラチン(ELOXATINTM)を用いた治療レジメンの略語)等が挙げられる。
【0248】
また「化学療法薬」の定義としては、癌の成長を促進し得るホルモンの効果を調節、低減、遮断、または阻害するように作用し、多くの場合、体系的または全身治療の形態である抗ホルモン剤を包含する。それら自体がホルモンであってもよい。例には、例えばタモキシフェン(NOLVADEX(登録商標)タモキシフェンを含む)、EVISTA(登録商標)ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、及びFARESTON(登録商標)トレミフェンを含む抗エストロゲン及び選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM);抗プロゲステロン;エストロゲン受容体下方調節薬(ERD);卵巣を抑制するかまたは閉鎖させるように機能する薬剤、例えばLUPRON(登録商標)及びELIGARD(登録商標)ロイプロリド酢酸塩、ゴセレリン酢酸塩、ブセレリン酢酸塩、ならびにトリプテレリンなどの黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニスト;フルタミド、ニルタミド、及びビカルタミドなどの他の抗アンドロゲン;更に例えば、4(5)−イミダゾール、アミノグルテチミド、MEGASE(登録商標)メゲストロール酢酸塩、AROMASIN(登録商標)エキセメスタン、ホルメスタイン、ファドロゾール、RIVISOR(登録商標)ボロゾール、FEMARA(登録商標)レトロゾール、及びARIMIDEX(登録商標)アナストロゾールなどの、副腎内のエストロゲン産生を調節する酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤が含まれる。加えて、化学療法剤のかかる定義には、クロドロネート(例えば、BONEFOS(登録商標)またはOSTAC(登録商標))、DIDROCAL(登録商標)エチドロネート、NE−58095、ZOMETA(登録商標)ゾレドロン酸/ゾレドロネート、FOSAMAX(登録商標)アレンドロネート、AREDIA(登録商標)パミドロネート、SKELID(登録商標)チルドロネート、またはACTONEL(登録商標)リセドロネートなどのビスホスホネート;ならびにトロキサシタビン(1,3−ジオキソランヌクレオシドシトシンアナログ);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、例えばPKC−アルファ、Raf、H−Ras、及び表皮成長因子受容体(EGF-R)などの異常な細胞増殖に関係があるとされるシグナル伝達系路における遺伝子の発現を阻害するもの;THERATOPE(登録商標)ワクチン及び遺伝子治療ワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチンなどのワクチン;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1阻害剤;ABARELIX(登録商標)rmRH;ジトシル酸ラパチニブ(別名GW572016、ErbB−2及びEGFR二重チロシンキナーゼ小分子阻害剤);更に薬学上許容される塩、酸、または上記のうちのいずれかの誘導体が含まれる。
【0249】
癌の治療または予防のための神経薬として選択してもよい化合物の別の群は、抗がん免疫グロブリン(これらに限定されないが、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ベバシズマブ、アレムツズマブ(alemtuxumab)、セツキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、イブリツモマブチウキセタン、パニツムマブ及びリツキシマブを含む)である。場合によっては、毒性標識またはコンジュゲートと組み合わせた抗体を、所望の細胞(すなわち、癌細胞)を標的とし死滅させるために使用してもよく、前記細胞は、これらに限定されないが、
131I放射性標識トシツモマブ、またはトラスツズマブエムタンシンを含む。
【0250】
眼疾患または障害は、本明細書の目的のためにBBBによって分離されるCNS臓器と考えられる、疾患または障害である。眼疾患または障害は、これらに限定されないが、強膜、角膜、虹彩と毛様体の障害(すなわち、強膜炎、角膜炎、角膜潰瘍、角膜剥離、雪盲、アーク目(arc eye)、タイゲソン表層点状角膜症、角膜血管新生、フックスのジストロフィー、円錐角膜、乾性角結膜炎、虹彩炎及びブドウ膜炎)、レンズの障害(すなわち、白内障)、脈絡膜と網膜の障害(すなわち、網膜剥離、網膜分離症、高血圧性網膜症、糖尿病性網膜症、網膜症、未熟児網膜症、加齢加齢黄斑変性症、黄斑変性症(ウェット型またはドライ型)、網膜上膜、網膜色素変性症及び黄斑浮腫)、緑内障、フローター、視神経及び視覚的な経路の障害(すなわち、レーベル遺伝性視神経症及び視神経乳頭ドルーゼン)、眼筋/両眼運動/調節/屈折障害(すなわち、斜視、眼筋麻痺、進行性外眼筋麻痺、内斜視、外斜視、遠視、近視、乱視、不同視、老眼及び眼筋麻痺)、視覚障害及び失明(すなわち、弱視、レバーの先天性黒内障、暗点、色覚異常、色盲、夜盲症、失明、河川盲目症及び小眼球症/コロボーマ)、赤目、アーガイルロバートソン瞳孔、角膜真菌症、眼球乾燥症及び無虹彩を含む。
【0251】
眼疾患または障害において、神経薬は、抗血管新生眼科用剤(すなわち、ベバシズマブ、ラニビズマブ及びペガプタニブ)、眼科緑内障薬(すなわち、カルバコール、エピネフリン、臭化デメカリウム、アプラクロニジン、ブリモニジン、ブリンゾラミド、レボブノロール、チモロール、ベタキソロール、ドルゾラミド、ビマトプロスト、カルテオロール、メチプラノロール、ジピベフリン、トラボプロスト及びラタノプロスト)、炭酸脱水酵素阻害剤(すなわち、メタゾラミド及びアセタゾラミド)、眼科用抗ヒスタミン薬(すなわち、ナファゾリン、フェニレフリン及びテトラヒドロゾリン)、眼潤滑剤、眼科用ステロイド(すなわち、フルオロメトロン、プレドニゾロン、ロテプレドノール、デキサメタゾン、ジフルプレドナート、リメキソロン、フルオシノロン、メドリゾン及びトリアムシノロン)、眼科用麻酔薬(すなわち、リドカイン、プロパラカイン及びテトラカイン)、眼科用抗感染薬(すなわち、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、シプロフロキサシン、モキシフロキサシン、クロラムフェニコール、バシトラシン/ポリミキシンB、スルファセタミド、トブラマイシン、アジスロマイシン、ベシフロキサシン、ノルフロキサシン、スルフィソキサゾール、ゲンタマイシン、イドクスウリジン、エリスロマイシン、ナタマイシン、グラミシジン、ネオマイシン、オフロキサシン、トリフルリジン、ガンシクロビル、ビダラビン)、眼科用抗炎症薬(すなわち、ネパフェナク、ケトロラク、フルルビプロフェン、スプロフェン、シクロスポリン、トリアムシノロン、ジクロフェナク及びブロムフェナク)、及び眼科用抗ヒスタミン剤または充血除去剤(すなわち、ケトチフェン、オロパタジン、エピナスチン、ナファゾリン、クロモリン、テトラヒドロゾリン、ペミロラスト、ベポタスチン、ナファゾリン、フェニレフリン、ネドクロミル、ロドキサミド、フェニレフリン、エメダスチン及びアゼラスチン)から選択してもよい。
【0252】
CNSのウイルスまたは微生物感染は、これらに限定されないが、ウイルス(すなわち、インフルエンザ、HIV、ポリオウイルス、風疹)、細菌(すなわち、ナイセリア属、ストレプトコッカス属、シュードモナス属、プロテウス属、大腸菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌属、髄膜炎菌属、ヘモフィルス属、及び結核菌)及び真菌等の他の微生物(例えば、酵母、クリプトコッカス・ネオフォルマンス)、寄生虫(すなわち、トキソプラズマ原虫)またはアメーバによる感染症であり、結果として、これらに限定されないが、急性または慢性となり得る髄膜炎、脳炎、脊髄炎、血管炎及び膿瘍を含むCNSの病態生理となる。
【0253】
ウイルスまたは微生物疾患において、神経薬は、これらに限定されないが、抗ウイルス化合物(これらに限定されないが、アダマンタン抗ウイルス薬(すなわち、リマンタジン及びアマンタジン)、抗ウイルスインターフェロン(すなわち、ペグインターフェロンアルファ−2b)、ケモカイン受容体アンタゴニスト(すなわち、マラビロック)、インテグラーゼ鎖転移阻害剤(すなわち、ラルテグラビル)、ノイラミニダーゼ阻害剤(すなわち、オセルタミビル及びザナミビル)、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(すなわち、エファビレンツ、エトラビリン、デラビルジン及びネビラピン)、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(テノホビル、アバカビル、ラミブジン、ジドブジン、スタブジン、エンテカビル、エムトリシタビン、アデフォビル、ザルシタビン、テルビブジン及びジダノシン)、プロテアーゼ阻害剤(すなわち、ダルナビル、アタザナビル、ホスアンプレナビル、チプラナビル、リトナビル、ネルフィナビル、アンプレナビル、インジナビル及びサキナビル)、プリンヌクレオシド(すなわち、バラシクロビル、ファムシクロビル、アシクロビル、リバビリン、ガンシクロビル、バルガンシクロビル及びシドフォビル)、及びその他の抗ウイルス薬(すなわち、エンフビルチド、ホスカルネット、パリビズマブ及びホミビルセン))、抗生物質(これらに限定されないが、アミノペニシリン(すなわち、アモキシシリン、アンピシリン、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルコキサシリン(flucoxacillin)、テモシリン、アズロシリン、カルベニシリン、チカルシリン、メズロシリン、ピペラシリン及びバカンピシリン)、セファロスポリン(すなわち、セファゾリン、セファレキシン、セファロチン、セファマンドール、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セファドロキシル、セフラジン、ロラカルベフ、セフォテタン、セフロキシム、セフプロジル、セファクロル及びセフォキシチン)、カルバペネム/ペネム(すなわち、イミペネム、メロペネム、エルタペネム、ファロペネム及びドリペネム)、モノバクタム(すなわち、アズトレオナム、チゲモナム、ノルカルジシン(norcardicin)A及びタブトキシニン−ベータ−ラクタム、他のベータ−ラクタム抗生物質と結合したβ−ラクタマーゼ阻害剤(すなわち、クラブラン酸、タゾバクタム及びスルバクタム)、アミノグリコシド(すなわち、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、及びパロモマイシン)、アンサマイシン(すなわち、ゲルダナマイシン及びハービマイシン)、カルバセフェム(すなわち、ロラカルベフ)、グリコペプチド(すなわち、テイコプラニン及びバンコマイシン)、マクロライド(すなわち、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシン及びスペクチノマイシン)、モノバクタム(すなわち、アズトレオナム)、キノロン(すなわち、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン及びテマフロキサシン)、スルホンアミド(すなわち、マフェニド、スルホンアミドクリソイジン(sulfonamidochrysoidine)、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファメチゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリム、トリメトプリム及びスルファメトキサゾール)、テトラサイクリン(すなわち、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、及びオキシテトラサイクリン)、抗新生物または細胞毒性抗生物質(すなわち、ドキソルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エピルビシン、イダルビシン、プリカマイシン、マイトマイシン、ペントスタチン及びバルルビシン)、及びその他の抗菌性化合物(すなわち、バシトラシン、コリスチン及びポリミキシンB))、抗真菌剤(すなわち、メトロニダゾール、ニタゾキサニド、チニダゾール、クロロキン、ヨードキノール及びパロモマイシン)、及び抗寄生虫剤(これらに限定されないが、しキニーネ、クロロキン、アモジアキン、ピリメタミン、スルファドキシン、プログアニル、メフロキン、アトバコン、プリマキン、アルテミシニン(artemesinin)、ハロファントリン、ドキシサイクリン、クリンダマイシン、メベンダゾール、パモ酸ピランテル、チアベンダゾール、ジエチルカルバマジン、イベルメクチン、リファンピン、アンホテリシンB、メラルソプロール、エフロルニチン(efornithine)及びアルベンダゾールを含む)を含む神経薬から選択してもよい。
【0254】
CNSの炎症は、これらに限定されないが、物理的な損傷(すなわち、事故、手術、脳の外傷、脊髄損傷、脳震盪によるもの)であり得るCNSへの損傷及び1つ以上のCNSの他の疾患または障害(すなわち、膿瘍、がん、ウイルスまたは微生物感染症)によるまたは関連した損傷によって引き起こされる炎症を含む。
【0255】
CNSの炎症において、神経薬は、炎症自体に対処する薬(すなわち、イブプロフェンまたはナプロキセン等の非ステロイド性抗炎症剤)、または炎症の根本的な原因を治療する薬(すなわち、抗ウイルスまたは抗がん剤)を選択してもよい。
【0256】
CNSの虚血は、本明細書で使用される場合、脳での異常な血流や血管の挙動に関連する障害及びその原因の一群を指し、これらに限定されないが、局所脳虚血、全脳虚血、脳卒中(すなわち、くも膜下出血及び脳内出血)、及び動脈瘤である。
【0257】
虚血において、神経薬は、これらに限定されないが、血栓溶解剤(すなわち、ウロキナーゼ、アルテプラーゼ、レテプラーゼ及びテネクテプラーゼ)、血小板凝集阻害剤(すなわち、アスピリン、シロスタゾール、クロピドグレル、プラスグレル及び含むジピリダモール)、スタチン(すなわち、ロバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン及びピタバスタチン)、及び、例えば、血圧薬を含む血流または血管の柔軟性を向上させる化合物を含む神経薬から選択してもよい。
【0258】
神経変性疾患は、CNSにおける神経細胞機能損失または神経細胞死に関連した疾患及び障害の一群であり、これらに限定されないが、副腎白質ジストロフィー、アレキサンダー病、アルパース病、筋萎縮性側索硬化症、毛細血管拡張性運動失調、バッテン病、コケイン症候群、大脳皮質基底核変性症、アミロイドーシスに引き起こされるまたは関連した変性、フリードライヒ失調症、前頭側頭葉変性症、ケネディ病、多系統萎縮症、多発性硬化症、原発性側索硬化症、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、横断性脊髄炎、レフサム病、及び脊髄小脳失調症を含む。
【0259】
神経変性疾患において、神経薬は、成長ホルモンまたは神経栄養因子であり、例として、これらに限定されないが、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経増殖因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、線維芽細胞増殖因子(FGF)−2及び他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮増殖因子(EGF)、形質転換増殖因子(TGF)−アルファ、TGF−ベータ、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体遮断薬(IL−1ra)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、膠細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来増殖因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン(artemin)、パーセフィン、インターロイキン、グリア細胞株由来神経栄養因子(GFR)、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリン、及び幹細胞因子(SCF)が挙げられる。
【0260】
CNSの発作疾患及び障害は、CNSにおける不適切な及び/または異常な電気伝導を伴い、これらに限定されないが、てんかん(すなわち、欠神発作、脱力発作、良性ローランド発作、小児期欠神てんかん、間代発作、複雑部分発作、前頭葉てんかん、熱性発作、乳児けいれん、若年性ミオクローヌスてんかん、若年欠神てんかん、レノックス・ガストー症候群、ランドークレフナー(Landau−Kleffner)症候群、ドラベ(Dravet)症候群、大田原症候群、ウエスト症候群、ミオクローヌス発作、ミトコンドリア病、進行性ミオクローヌスてんかん、心因性発作、反射てんかん、ラスムッセン症候群、単純部分発作、二次全般発作、側頭葉てんかん、強直間代発作、強直発作、精神運動発作、大脳辺縁系てんかん、部分発症発作、一般発症発作、てんかん重積状態、腹部てんかん、無動発作、自律神経発作、巨大両側性ミオクローヌス、月経てんかん、くず折れ発作、情動性発作、焦点発作、笑い発作、ジャクソン発作、ラフォラ疾患、運動発作、多巣性発作、夜間発作、光過敏性発作、偽発作、感覚発作、微発作、シルヴァン発作、離脱発作、及び視覚反射発作)を含む。
【0261】
発作障害において、神経薬は、これらに限定されないが、バルビツレート抗痙攣薬(すなわち、プリミドン、メタルビタール、メフォバルビタール、アロバルビタール、アモバルビタール、アプロバルビタール、アルフェナル(alphenal)、バルビタール、ブラロバルビタール(brallobarbital)及びフェノバルビタール)、ベンゾジアゼピン抗痙攣薬(すなわち、ジアゼパム、クロナゼパム、及びロラゼパム)、カーバメート抗痙攣薬(すなわちフェルバメート)、炭酸脱水酵素阻害剤の抗痙攣薬(すなわち、アセタゾラミド、トピラマート及びゾニサミド)、ジベンズアゼピン抗痙攣薬(すなわち、ルフィナミド、カルバマゼピン、及びオクスカルバゼピン)、脂肪酸誘導体抗痙攣薬(すなわち、ジバルプロックス及びバルプロ酸)、γ−アミノ酪酸類似体(すなわち、プレガバリン、ガバペンチン及びビガバトリン)、ガンマ−アミノ酪酸再取り込み阻害剤(すなわち、チアガビン)、ガンマ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ阻害剤(すなわち、ビガバトリン)、ヒダントイン抗痙攣薬(すなわちフェニトイン、エトトイン、ホスフェニトイン及びメフェニトイン)、その他の抗痙攣薬(すなわち、ラコサミド及び硫酸マグネシウム)、プロゲスチン(すなわち、プロゲステロン)、オキサゾリジンジオン抗痙攣薬(すなわち、パラメタジオン及びトリメタジオン)、ピロリジン抗痙攣薬(すなわち、レベチラセタム)、スクシンイミド抗痙攣薬(すなわち、エトスクシミド及びメトスクシミド)、トリアジン抗痙攣薬(すなわち、ラモトリジン)、及び尿素抗痙攣薬(すなわち、フェナセミドとフェネツリッド)を含む抗痙攣薬または抗てんかん薬から選択してもよい。
【0262】
行動障害は、罹患した対象の一部の異常な挙動を特徴とするCNSの障害であり、これらに限定されないが、睡眠障害(すなわち、不眠症、錯眠、夜驚症、概日リズム睡眠障害、及びナルコレプシー)、気分障害(すなわち、うつ病、自殺うつ病、不安、慢性情動障害、恐怖症、パニック発作、強迫性障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、注意欠陥障害(ADD)、慢性疲労症候群、広場恐怖症、心的外傷後ストレス障害、双極性障害)、摂食障害(すなわち、拒食症や過食症)、精神病、発達行動障害(すなわち、自閉症、レット症候群、アスペルガー症候群)、人格障害及び精神病性障害(すなわち、統合失調症、妄想性障害等)を含む。
【0263】
行動障害において、神経薬は、これらに限定されないが、非定型抗精神病薬(すなわち、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール(apripiprazole)、クエチアピン、パリペリドン、アセナピン、クロザピン、イロペリドン及びジプラシドン)、フェノチアジン抗精神病薬(すなわち、プロクロルペラジン、クロルプロマジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、トリフルオペラジン、チオリダジン及びメソリダジン)、チオキサンテン(すなわち、チオチキセン)、その他の抗精神病薬(すなわち、ピモジド、リチウム、モリンドン、ハロペリドール及びロキサピン)、選択セロトニン再取り込み阻害剤(すなわち、シタロプラム、エスシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン及びセルトラリン)、セロトニンーノルアドレナリン再取り込み阻害薬(すなわち、デュロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、三環系抗うつ薬(すなわち、ドキセピン、クロミプラミン、アモキサピン、ノルトリプチリン、アミトリプチリン、トリミプラミン、イミプラミン、プロトリプチリン及びデシプラミン)、四環抗うつ薬(すなわち、ミルタザピン及びマプロチリン)、フェニルピペラジン抗うつ薬(すなわち、トラゾドン及びネファゾドン)、モノアミン酸化酵素阻害剤(すなわち、イソカルボキサジド、フェネルジン、セレギリン及びトラニルシプロミン)、ベンゾジアゼピン(すなわち、アルプラゾラム、エスタゾラム、フルラゼパム(flurazeptam)、クロナゼパム、ロラゼパム及びジアゼパム)、ノルエピネフリンードーパミン再取り込み阻害剤(すなわち、ブプロピオン)、CNS刺激剤(すなわち、フェンテルミン、ジエチルプロピオン、メタンフェタミン、デキストロアンフェタミン、ンフェタミン、メチルフェニデート、デクスメチルフェニデート、リスデキサンフェタミン、モダフィニル、ペモリン、フェンジメトラジン、ベンズフェタミン、フェンジメトラジン、アルモダフィニル、ジエチルプロピオン、カフェイン、アトモキセチン、ドキサプラム、及びマジンドール)、抗不安剤/鎮静剤/睡眠剤(これらに限定されないが、バルビツレート(すなわち、セコバルビタール、フェノバルビタール及びメフォバルビタール)、ベンゾジアゼピン(上記)、及びその他の抗不安剤/鎮静剤/睡眠剤(すなわち、ジフェンヒドラミン、ナトリウムオキシベート、ザレプロン、ヒドロキシジン、抱水クロラール、ゾルピデム(aolpidem)、ブスピロン、ドキセピン、エスゾピクロン、ラメルテオン、メプロバメート及びエスクロルビノール)を含む)、セクレチン(例えば、Ratliff−Schaub et al. Autism 9: 256−265 (2005)を参照されたい)、オピオイドペプチド(例えば、Cowen et al., J. Neurochem. 89:273−285 (2004)を参照されたい)、及び神経ペプチド(例えば、Hethwa et al. Am. J. Physiol. 289: E301−305 (2005)を参照されたい)を含む行動修正化合物から選択されてもよい。
【0264】
リソソーム蓄積障害は、CNSに関連したいくつかのケースであるかまたはCNS特異的症状を有する代謝障害であり、そのような障害には、これらに限定されないが、テイーサックス病、ゴーシェ病、ファブリー病、ムコ多糖症(タイプI、II、III、IV、V、VI及びVII)、グリコーゲン蓄積症、GM1ーガングリオシドーシス、異染性白質ジストロフィー、ファーバー病、カナバン病の白質ジストロフィー、及び神経セロイドリポフスチン症1型及び2、ニーマン・ピック病、ポンペ病、及びクラッベ病を含む。
【0265】
リソソーム蓄積症において、神経薬は、それ自体または別の方法で疾患で損なわれる酵素の活性を模倣するものから選択してもよい。リソソーム蓄積障害の治療のための例示的な組換え酵素は、これらに限定されないが、例えば米国特許出願公開第2005/0142141号(すなわち、アルファ−L−イズロニダーゼ、イズロン酸−2−スルファターゼ、N−スルファターゼ、アルファ−N−アセチルグルコサミニダーゼ、N−アセチルーガラクトサミン−6−スルファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、アリールスルファターゼB、β−グルクロニダーゼ、酸性α−グルコシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、アルファ−ガラクトシダーゼA、ヘキソサミニダーゼA、酸性スフィンゴミエリナーゼ、ベータ−ガラクトセレブロシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、アリールスルファターゼA、酸性セラミダーゼ、アスパルトアシラーゼ、パルミトイル化蛋白質チオエステラーゼ1、及びトリペプチジルアミノペプチダーゼ1)に記載されるものを含む。
【0266】
別の実施形態では、赤血球の不適切な過剰産生に関連したまたは引き起こされる疾患、または赤血球の過剰産生が疾患の作用である疾患を、本明細書において認識される、少なくとも部分的なエフェクター機能を保持する抗TfR抗体の網状赤血球の枯渇作用によって、予防または治療できる。例えば、先天性または新生物性真性赤血球増加症では、例えば網状赤血球の過剰増殖に起因する赤血球数の上昇により、血液が濃くなり、同時に生理的症状が生じる(d’Onofrio et al., Clin. Lab.Haematol. (1996) Suppl. 1: 29−34)。本発明の抗TfR抗体を、抗体の少なくとも部分的なエフェクター機能を保存して投与することにより、CNSへの正常なトランスフェリン輸送に影響を及ぼすことなく、未成熟の網状赤血球集団を選択的に除去することが可能になる。そのような抗体の投与は、当該技術分野において十分に理解されている通り、急性臨床症状が最小限になり得るように調節することができる(すなわち、非常に低用量でまたは間隔を広く空けて投与することによって)。
【0267】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、症状の発症前に神経障害を検出するために及び/または疾患または障害の重症度または持続時間を評価するために、使用される。いくつかの態様において、前記抗体は、検出及び/またはX線撮影、断層撮影法、または磁気共鳴画像(MRI)による撮像を含む神経疾患のイメージングを可能にする。
【0268】
いくつかの態様において、薬として使用するための本発明の低親和性抗TfR抗体が提供される。さらなる態様において、赤血球(すなわち、網状赤血球)を枯渇せずに神経疾患または障害(例えば、アルツハイマー病)を治療するために使用する低親和性抗TfR抗体が提供される。ある特定の実施形態において、本明細書に記載されるような治療法で使用するための改変された低親和性抗TfR抗体が提供される。ある特定の実施形態において、本発明は、神経疾患または障害を有する個体を治療する方法において使用する、安全性が向上するよう改変された低親和性抗TfR抗体を提供し、前記方法は、個体に、有効量の抗TfR抗体(神経障害治療薬に任意に結合)を投与することを含む。1つのかかる実施形態において、本方法は、個体に、有効量の少なくとも1つの追加の治療剤を投与することをさらに含む。さらなる実施形態において、本発明は、神経疾患または障害(例えば、アルツハイマー病)に罹患するリスクのあるまたは罹患している患者においてアミロイド斑の形成を低減するまたは阻害するために使用する、安全性が向上するよう改変された低親和性抗TfR抗体を提供する。上の実施形態のいずれかによる「個体」は、任意にヒトである。ある特定の態様において、本発明の方法において使用する本発明の抗TfR抗体は、抗体に結合した神経障害治療薬の取込みを向上させる。
【0269】
さらなる態様において、本発明は、薬の製造または調製における、本発明の低親和性抗TfR抗体の使用を提供する。いくつかの実施形態において、前記薬は、神経疾患または障害の治療のためのものである。さらなる実施形態において、前記薬は、神経疾患または障害を治療する方法において使用するためのものであり、前記方法は、神経疾患または障害を有する個体に、有効量の薬を投与することを含む。1つのかかる実施形態において、本方法は、個体に、有効量の少なくとも1つの追加の治療剤を投与することをさらに含む。
【0270】
さらなる態様において、本発明は、アルツハイマー病を治療するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記方法は、アルツハイマー病を有する個体に、有効量の本発明のBACE1及びTfRの両方にまたはAbeta及びTfRの両方に結合する多重特異性抗体を投与することを含む。1つのかかる実施形態において、本方法は、個体に、有効量の少なくとも1つの追加の治療剤を投与することをさらに含む。上の実施形態のいずれかによる「個体」は、ヒトであり得る。
【0271】
本発明の抗TfR抗体は、治療法において、単独で、または他の薬剤と組み合わせてのいずれかで使用することができる。例えば、本発明の抗TfR抗体は、少なくとも1つの追加の治療剤と同時投与されてもよい。ある特定の実施形態において、追加の治療剤は、抗TfR抗体を治療に利用する場合に、同一または異なる神経障害の治療に効果的な治療剤である。例示的な追加的治療剤としては、これらに限定されないが、上述した種々の神経薬、コリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン(rovastigmine)、及びタクリン等)、NMDA受容体アンタゴニスト(メマンチン等)、アミロイドベータペプチド凝集阻害剤、抗酸化剤、γーセクレターゼ調節因子、神経成長因子(NGF)模倣薬またはNGF遺伝子治療薬、PPARγアゴニスト、HMS−CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン)、アンパカイン、カルシウムチャネル遮断薬、GABA受容体アンタゴニスト、グリコーゲンシンターゼキナーゼ阻害剤、静脈内免疫グロブリン、ムスカリン受容体アゴニスト、ニコチン様(nicrotinic)受容体モジュレーター、能動的または受動的アミロイドベータペプチド免疫、ホスホジエステラーゼ阻害剤、セロトニン受容体アンタゴニスト及び抗アミロイドベータペプチド抗体が挙げられる。ある特定の実施形態において、少なくとも1つの追加的治療剤は、神経薬の1つ以上の副作用を軽減する能力により選択される。
【0272】
本明細書に例示されるように、特定の抗TfR抗体は、抗TfR抗体で治療した対象において網状赤血球集団に負の影響を与える副作用を有することがある。よって、特定の実施形態では、網状赤血球集団に対する負の副作用を緩和する能力について選択された少なくとも1つのさらなる治療剤は、本発明の抗TfR抗体と併用される。そのような治療剤の例として、これらに限定されないが、赤血球(すなわち、網状赤血球)集団を増加させる薬剤、赤血球(すなわち、網状赤血球)の成長と発達を支援する薬剤、及び赤血球の集団を抗TfR抗体の作用から保護する薬剤が挙げられる。このような薬剤は、これらに制限されないが、エリスロポエチン(EPO)、鉄補給剤、ビタミンC、葉酸、ビタミンB12、ならびに、例えば、物理的置換による赤血球(すなわち、網状赤血球)を含む。物理的置換は、例えば、同様の血液型の別の個体由来であってもよく、抗TfRの抗体が投与される対象から前もって抽出されていてもよい類似した細胞の輸血である。いくつかの場合において、存在する赤血球(すなわち、網状赤血球)を保護することを意図した薬剤は、好ましくは、抗TFR抗体療法を受けたまたは受けている対象に投与され、赤血球または血液細胞集団(すなわち、網状赤血球または網状赤血球集団)の再成長/発達を支援または開始する目的の薬剤を、好ましくは、抗TF抗体治療中または治療後に投与することにより、前記赤血球が抗TFR抗体治療後に補充可能となることが、当業者に理解されよう。
【0273】
特定の他のかかる実施形態において、前記少なくとも1つのさらなる治療剤は、抗TfR抗体投与時の補体経路の活性化を阻害または防ぐ能力について選択される。そのような治療剤の例として、これらに限定されないが、抗TfR抗体が補体経路に結合するまたは補体経路を活性化する能力を妨げる薬剤及び補体経路内の1つ以上の相互作用を阻害する薬剤が挙げられ、これらは本明細書に参照により明示的に組み込まれるMollnes and Kirschfink (2006) Molec. Immunol.43:107−121に通常記載される。
【0274】
上述の及び本明細書に記載のかかる併用療法は、組み合わせた投与(2つ以上の治療剤が同じまたは別個の製剤中に含まれる)、及び別個の投与を包含し、別個の投与の場合、本発明の抗体の投与は、追加の治療剤及び/またはアジュバントの投与の前、それと同時、及び/またはその後に生じ得る。いくつかの実施形態において、抗TfR抗体の投与及び追加の治療剤の投与は、互いに約1か月以内、または約1週間、2週間、若しくは3週間以内、または約1日、2日、3日、4日、5日、若しくは6日以内に発生する。本発明の抗体は、治療法において、単独で、または他の介入的治療法と組み合わせてのいずれかで使用することができる。放射線療法、行動療法または当該技術分野で既知の療法及び神経障害の治療または予防に適した療法が挙げられるが、限定されるものではない。
【0275】
本発明の抗TfR抗体(及び任意の追加の治療剤)は、非経口、肺内、及び鼻腔内、ならびに局所両方のために所望される場合、病変内投与を含む、任意の好適な手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与が含まれる。投薬は、任意の好適な経路による、例えば、投与が短時間であるか慢性的であるかに部分的に応じて、静脈内または皮下注射等の、注射によるものであり得る。単回または種々の時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、及びパルス注入を含むが、これらに限定されない、種々の投薬スケジュールが本明細書で企図される。
【0276】
本発明の抗体は、良好な医療行為と一致した様式で、製剤化され、投薬され、投与されるであろう。この文脈における考慮の要因には、治療されている特定の障害、治療されている特定の哺乳動物、個々の患者の臨床的病態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与のスケジュール管理、及び医療従事者に既知の他の要因が含まれる。抗体は、必要ではないが、任意に、問題の障害を予防または治療あるいは1つ以上の抗体投与の副作用を予防、緩和または改善するために現在使用される1つ以上の薬剤と共に製剤化される。かかる他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗体の量、障害または治療の種類、及び上に考察された他の要因に依存する。これらは、一般に、本明細書に記載されるのと同じ投薬量で、本明細書に記載される投与経路により、または本明細書に記載される投薬量の約1〜99%、または適切であると経験的/臨床的に決定される任意の投薬量で、任意の経路によって、使用される。
【0277】
疾患の予防または治療のために、本発明の抗体の適切な投薬量(単独でまたは1つ以上の他の追加の治療剤と組み合わせて使用されるとき)は、治療対象の疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体が予防目的または治療目的で投与されるかどうか、以前の治療法、患者の病歴及び抗体への反応、ならびに主治医の裁量に依存するであろう。前記抗体は、患者に、1回で、または一連の治療にわたって、好適に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば、1回以上の別個の投与によってであれ、連続注入によってであれ、約1μg/kg〜15mg/kg(例えば、0.1mg/kg〜10mg/kg)の抗体が、患者への投与のための初回の候補投薬量であり得る。1つの典型的な1日投薬量は、上述の要因に応じて、約1μg/kg〜100mg/kg以上の範囲であり得る。病態に応じて数日間またはより長い日数にわたる反復投与について、治療は、一般に、疾患症状の所望の抑制が生じるまで持続されるであろう。抗体の1つの例示的な投薬量は、約0.05mg/kg〜約40mg/kgの範囲内となる。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、5.0mg/kg、7.5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、または40mg/kg(またはこれらの任意の組み合わせ)の1回以上の用量が患者に投与され得る。かかる用量は、断続的に、例えば、毎週または3週間毎に(例えば、患者が抗体の約2〜約20回、または例えば、約6回用量を受容するように)投与されてもよい。初回よりも高い負荷用量、続いて1回以上のより低い用量が投与されてもよい。しかしながら、他の投薬レジメンが有用な場合がある。抗TfR抗体の投与により網状赤血球集団への影響を低減する一つの方法では、網状赤血球と相互作用する抗体が全体的に低い循環量で血流中に存在するように、投与の量やタイミングを変更することが理解されよう。1つの非限定的な例では、低用量の抗TfR抗体、高用量の場合と比べて多い回数で投与してもよい。使用される投薬量は、CNSに送達されるために必要な抗体の量(それ自体が抗体のCNS抗原特異性部分の親和性に関連する)、TfRに対する抗体の親和性、及び赤血球(すなわち、網状赤血球)を保護する、成長及び発達を刺激する、または補体経路を阻害する化合物を、同時にまたは連続的に前記抗体と投与するかどうか、についてバランスをとるようにしてもよい。この治療法の進行は、本明細書に記載されるように及び当該技術分野で知られるように、従来技術及びアッセイによって容易に監視される。
【0278】
上記製剤または治療方法のうちのいずれも、抗TfR抗体に代えてまたは加えて本発明の免疫複合体を使用して行われ得ることが理解される。
【0279】
H.製品
本発明の別の態様において、上述の障害の治療、予防、及び/または診断に有用な物質を含有する製品が提供される。製品は、容器、及び容器上のまたは容器と関連したラベルまたは添付文書を含む。適した容器には、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、静脈点滴バッグ、が含まれる。前記容器は、ガラスやプラスチック等の様々な材料から作製してもよい。容器は、組成物を、それ自体で、または状態を治療する、予防する、及び/もしくは診断するのに有効な別の組成物と組み合わせて保有し、また滅菌アクセスポートを有し得る(例えば容器は、静脈注射用溶液バッグまたは皮下注射針によって貫通可能な栓を有するバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも1つの活性な薬剤は、本発明の抗体である。ラベルまたは添付文書は、組成物が選定した病態を治療するために使用されることを表示する。さらに、製品は、(a)組成物がその中に含有された第1の容器(この組成物は本発明の抗体を含む)、及び(b)組成物がその中に含有された第2の容器(この組成物はさらなる細胞傷害性薬剤または治療剤を含む)を含んでもよい。本発明のこの実施形態の製品は、組成物が特定の病態を治療するために使用され得ることを表示する、添付文書をさらに含んでもよい。代替または追加として、製品は、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンガー溶液、及びデキストロース溶液といった、薬学的に許容される緩衝液を含む第2(または第3)の容器を更に含んでもよい。それは、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含む、商業的及びユーザの立場から望ましい他の材料をさらに含んでもよい。
【0280】
上記製品は、抗TfR抗体に代えてまたは加えて本発明の免疫複合体を含んでいてもよいことが理解される。
【実施例】
【0281】
実施例1:ヒト/カニクイザル交差反応性抗TfR抗体の生成、特性化及びヒト化
最初に、ナイーブ抗体ファージパニング工程を実施し、TfRの結合に関してTfとさらに競合しないヒトTfR及びカニクイザル(cyno)由来TfR双方との抗体交差反応性(Leeら JMB(2004) 1073−1093)の特定を試みた。かかる交差反応性で非Tf競合クローンは、本ファージパニング工程では特定されなかった。しかしながら、二つの抗体は、続いて生成されたハイブリドーマクローンの特性化に有用であることが特定された。
【0282】
種交差反応性抗体は、ヒトまたはカニクイザルTfR(Tf競合抗体)に結合するためにTfに競合することが特定された。ヒトTfRに特異的な他のクローンのエピトープを、マウス/ヒトキメラTfR受容体を用いて、huTfRの頂端側ドメインにマッピングした(
図1)。頂端側ドメインのマウスTfR配列がhuTfRに置換された際に、この頂端側ドメイン結合クローンのhuTfRに対する結合が失われた。
【0283】
次に、交差反応性抗ヒト/カニクイザルTfR抗体を生成するために免疫に基づいたアプローチを実施した。N末端Hisタグを含有するヒトTfR細胞外ドメイン(「ecd」)及びヒト血色素症タンパク質(「HFE」)を記載の通り発現させ精製した(Bennet et al、Nature(2000) 403、46−53)。また、類似のカニクイザルTfR ecd構築物を作製した。カニクイザルTfRを同様の方法で発現させ精製した。カニクイザルTfR及びhuTfR ecdをそれぞれ2μg含有する6用量(週2回)を5匹のBalb/Cマウスの足蹠に免疫することにより、ヒト及びカニクイザル交差反応性TfR抗体を生成した。全マウスの血清は、FACS陽性であり、全マウスを融合した。スクリーニングした1632個のハイブリドーマのうち、111個は、ヒト及びカニクイザルTfR両方に対する結合についてELISA陽性であった。
【0284】
得られたELISA陽性ハイブリドーマを、ヒトまたはカニクイザルTfRを一過性に発現する293細胞に対する結合について、1μM ヒトホロ−Tf存在下でFACSでスクリーニングした。簡潔には、FACS解析の48〜72時間前にLipofectamine 2000 Plus (Invitrogen)を用いて全長ヒトまたはカニクイザルTfRでトランスフェクトした293細胞を用いて、FACS解析を行った。未トランスフェクト(対照)及びトランスフェクトした293細胞を、FACSバッファー(1%BSA含有PBS)で2回洗浄し、50μlのハイブリドーマ上清(10μg/mlへ正規化)を1μMヒトホロ−Tfの存在下で293細胞へ添加し、氷上で30分間インキュベートした。細胞をFACSバッファーで2回洗浄し、50μlPE−ヤギ−抗マウスFcγ(Jackson ImmunoResearch)を細胞へ添加し、氷上で30分間インキュベートした。細胞をFACSバッファーで洗浄し、100μlのFACSバッファーで再懸濁し、解析へ供した。
【0285】
14クローンが、ヒト及びカニクイザルTfR両方への結合について陽性であった(
図2A及び2B)。これらのクローンをさらにサブクローニングし、ヒト及びカニクイザルTfRへの結合についてELISAで評価し、上記特定された頂端側結合ファージクローンを用いてhuTfR上にエピトープマッピングした。簡潔には、頂端側ドメインファージ競合ELISAを、2μg/mlの精製ヒトまたはカニクイザルTfRを含有したPBSでコーティングしたマキシソーププレートを用いて、4℃で一晩実施した。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、カゼイン付加Superblock(Thermo Scientific, Hudson, NH)を用いてブロッキングした。30μlアリコートのハイブリドーマ上清(10μg/mlへ正規化)を、各ウェルへ45分間添加した。その後、30μlの頂端側ドメイン結合ファージをOD 0.05で15分間添加した。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、1:1000希釈HRPマウス抗M13(GE healthcare)をプレートへ添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、結合したファージをTMB基質(BioFX Laboratories、Owings Mills)を用いて検出した。14クローンのうち9クローンは、ファージ上に提示された頂端結合抗体の結合を遮断することが見出された(
図2Cを参照されたい)。
【0286】
抗体親和性を、表面プラスモン共鳴(「SPR」)(Biacore(商標)、GE Healthcare)を利用して測定した。抗His抗体(Qiagen)を、6000〜8000RUでBIACORE(商標) CM5センサーチップ(Biacore、Inc.、Piscataway、NJ)の4つの異なるフローセルに結合した。製造業者から提供されたプロトコルを使用して、免疫をアミノ酸を介してランダムカップリングで達成した。10X HBS−P(Biacore、Inc.、Piscataway、NJ)を水で希釈し、希釈物及びランニングバッファーとして供した。精製ヒトまたはカニクイザルTfRを捕捉した後、シングルサイクルカイネティクス(single cycle kinetics)方法によりIgGまたはFabを30ml/分の流速で注入し3倍希釈系列とした。k
onまたはk
offが検出限界を超えた時に、親和性定数を、単純な1:1 ラングミュア(Langmuir)結合モデルまたは定常状態モデルを用いて決定した。平衡解離定数(K
D)は、会合速度定数(k
on)及び解離速度定数(k
off)の比として計算した。結果を
図2Cに示す。
【0287】
各ハイブリドーマをクローニングした。RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて、全RNAをハイブリドーマから単離した。cDNAをSMART 5’ RACE cDNA Amplification Kit(Clontech)を用いて製造業者の指示に基づいて生成した。各抗体の可変領域を、前記キットに含まれるUPM(5’ oligo)及び定常領域にアニールする3’ oligoを用いて増幅した。その後、PCR産物全体をpCR4Blunt−TOPOベクター(Invitrogen)へクローニングし配列決定した。配列解析後、ハイブリドーマをさらに4群へ分けることができた(
図3A〜
図3D)。頂端側結合抗体と競合したクローンは、3つの関連する配列クラスに対応した(
図3A〜
図3C)。4つの非頂端側クローン(
図3D)は、2つの関連するクローン及び2つの他のユニークな配列からなっていた。各クローンの軽鎖及び重鎖CDRを表3に示す。
表3:交差反応性抗カニクイザル/ヒトTfR抗体の軽鎖及び重鎖CDR
【0288】
各クラスの代表的クローン(15G11、7A4、16F6 及び7G7)は、ヒト化及びさらなる特徴化のために、本明細書に例示される。ヒト化は、以下に概説され
図4A〜
図4Eに示されるように、HVRグラフトを使用すると共に選定されたバーニア位置(vernier position)を含めることにより達成される。HVRをIGKV1−NL1
*01及びIGHV1−3
*01 ヒト可変ドメインへグラフトすることで、15G11をヒト化した。異なるマウスバーニア位置の組み合わせは、
図4Eに概説されるように前記ヒト化変異体に含まれていた。ヒト化15G11変異体15G11.v5は、
図4Aに概説されるように、選択されたバーニア位置をVL(43位及び48位)及びVH(48位、67位、69位、71位及び73位)に含む。また、VHのN末端が、QからEへ変更された。7A4のヒト化において、7A4重鎖及び8A2軽鎖HVR(7A4及び8A2はクローンに関連、
図3A)を用いてHVRグラフトを作製した。HVRを、IGKV4−1
*01及びIGHV1−2
*02ヒト可変ドメインへグラフト化した。異なるマウスバーニア位置の組み合わせは、
図4Eに概説されるように前記ヒト化変異体に含まれていた。ヒト化7A4変異体7A4.v15は、
図4Bに概説されるように、選択されたバーニア位置をVL(68位)及びVH(24位及び71位)に含み、CDR−L3変化G94Aを含む。
図4Cに概説されるように、HVRをカッパ4及びサブグループIヒトコンセンサス可変ドメインへVH(93位)における選択されたバーニア位置とともにグラフトすることにより、7G7をヒト化した。このヒト化変異体を、7G7.v1と称する。HVRをIGKV1−9
*01及びIGHV4−59
*01 ヒト可変ドメインへグラフトすることで、16F6をヒト化した。異なるマウスバーニア位置の組み合わせは、
図4Eに概説されるように前記ヒト化変異体に含まれていた。
図4Dに概説されるように、ヒト化16F6変異体16F6.v4は、VL(I48L及びF71Y)における2つの変化ならびにVL(43位及び44位)及びVH(71位及び78位)における選択されたバーニア位置を含む。
表4:ヒト化抗体/Fabの軽鎖及び重鎖CDR
【0289】
ヒト化変異体のヒト及びカニクイザルTfRに対する親和性を、IgGについてSPRで決定した(
図4E)。また、選択したクローンを、FabについてSPRで解析して、一価の親和性を評価した(表7)。両方の場合において、SPR実験は上述の通りに実施した。
表5:選択したFabフォーマット化変異体のBiacore結合データ
【0290】
抗体の結合エピトープを下記の通り再度確認した。Tf−TfRブロッキングELISAを、2μg/mlの精製ヒトTfRを含有したPBSでコーティングしたマキシソーププレートを用いて、4℃で一晩実施した。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、PBS中でブロッキングバッファー(Superblock Blocking Buffer、Thermo Scientific、Hudson、NH)を用いてブロッキングした。50μlの12.5μMヒトホロ−Tf(R&D Systems、Minneapolis、MN)をプレートへ40分間添加した。hu7A4.v15、hu15G11.v5、Tf競合抗体、及びhu7G7.v1(10ug/mlで開始、1:3連続希釈液)の50μl滴定液をプレートへ添加し、20分間インキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、1:1000希釈HRP−ヤギ−抗ヒトFcγ(Jackson ImmunoResearch)を添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、TMB基質(BioFX Laboratories、Owings Mills)を用いて検出した。
【0291】
HFE−TfR結合ELISAを、1μg/mlのHFE含有PBSでコーティングしたマキシソーププレートを用いて、4℃で一晩実施した。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、PBS中でブロッキングバッファー(Superblock Blocking Buffer、Thermo Scientific、Hudson、NH)を用いてブロッキングした。ヒトTfRの滴定液(100ug/mlで開始、1:3連続希釈液)をプレートへ添加し、1時間インキュベートした。次いで、1μg/mlのhu15G11.v5、hu7A4.v15またはhu7G7.v1をプレートへ1時間添加した。プレートを、PBS/0.05% Tween 20で洗浄し、1:1000希釈HRP−ヤギ−抗ヒトFcγ(Jackson ImmunoResearch)を添加して、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、TMB基質(BioFX Laboratories、Owings Mills)を用いて検出した。HFE−TfRブロッキングELISAを、1μg/mlHFE含有PBSでコーティングしたマキシソーププレートを用いて、4℃で一晩実施した。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、PBS中でブロッキングバッファー(Superblock Blocking Buffer、Thermo Scientific、Hudson、NH)を用いてブロッキングした。NUNC(商標)プレートで、hu7A4.v15、hu15G11.v5、Tf競合抗体、ヒトホロ−Tf 及び対照IgG(全抗体を400μg、ホロトランスフェリンを8000μg/ml、1:3連続希釈液)の滴定液を、2μg/mlのビオチン化されたヒトTfRに組み合わせて、室温で1時間インキュベートした。次いで混合物を、HFEコーティングプレートへ室温で1時間添加した。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、プレートに1:1000希釈HRP−ストレプトアビジン(SouthernBiotech、Birmingham)を添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、プレートに結合したビオチン化されたヒトTfRを、TMB基質(BioFX Laboratories、Owings Mills)を用いて検出した。
【0292】
これらヒト化変異体のTfRへの結合は、6.3μMホロ−Tfの存在に影響されることはなかったが、TfRのTf結合部位に結合するTf競合抗体の結合は阻害された(
図5)。さらに、ヒト化7A4.v15、15G11.v5及び7G7.v1は、HFE捕捉huTfRに結合可能であったことから、これらが固定化HFEに対するhuTfRの結合に影響しなかったことが示された(
図6A)。関連実験においては、7A4.v15及び15G11.v5は、ビオチン化されたTfRの固定化HFEに対する結合を遮断しなかった。対照的に、この相互作用は、Tf競合抗体及びホロTfによって遮断された(
図6B)。HFE及びTfは、TfR上で類似したエピトープを共有することが知られている(Bennet et al、Nature(2000) 403、46−53)。
【0293】
固定化15G11v.5及び抗TfR
C12を、ビオチン化されたヒトTfR ECDまたはヒトTfR頂端側ドメインを提示する1価のM13ファージに対する結合について評価した。抗TfR
C12は、ヒトTfR ECDに対してパニングされた合成抗体ファージライブラリ由来であり、トランスフェリン結合に競合する前記ヒトTfRの一部位に結合する。抗体をPBS中1μg/mlで、マキシソーププレートにコーティングした。結合したビオチン化されたヒトTfR ECDまたはTfR−頂端側ドメインファージを、HRP−ストレプトアビジン(GE health care、RPN 4401V)またはHRP−抗M13(GE health care、27−9421−01)でそれぞれ検出した。
図25に、15G11v.5がヒトTfR頂端側ドメインに結合することを示す。15G11v.5結合部位は、前記頂端側ドメインにマッピングされ、TfRリガンド結合部位から離れた部位である。
【0294】
実施例2:親和性操作ヒト/カニクイザル交差反応性抗TfR抗体
上述のヒト化変異体に加えて、さらに親和性操作変異体を作製した。15G11.v5及び7A4.v15の親和性操作を本明細書に例示する。親和性変異体は、標準の手技を用いたCDR−L3またはCDR−H3における個別のアラニン置換により生成された。これらの変異体は、IgGについてELISA及びSPRでスクリーニングし、ヒト及びカニクイザルTfRへの結合に重要な位置を特定した。Fabとして選択された変異体の一価の親和性も決定した。Ala scan変異体IgGまたはFabを293細胞で発現させ、ヒトまたはカニクイザルTfRに対する結合を、1.8μg/mlのヤギ抗ヒトFcγ(Jackson ImmunoResearch)含有PBSでコーティングしたマキシソーププレートで、ELISAにより4℃で一晩定量した。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、PBS中でブロッキングバッファー(Superblock Blocking Buffer、Thermo Scientific、Hudson、NH)を用いてブロッキングした。発現されたIgGを含有する上清を、1:5連続希釈し、プレートに1時間添加した。精製hu15G11.v5またはhu7A4.v15を標準として使用した(1ug/mlで開始し1:5希釈)。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、プレートに1:1000希釈HRP−ヤギ−抗κ(Southern Biotech)を添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、TMB基質(BioFX Laboratories、Owings Mills)を用いて検出した。結合を、上述のようにSPRでも評価した。
図7A(15G11.v5変異体)及び
図7B(7A4.v15変異体)に結果を示す。
【0295】
さらに、CDR−L1、CDR−L2、CDR−H1及びCDR−H2位置における個別のアラニン置換を有する15G11.v5の変異体を生成し、発現させ、ヒト及びカニクイザルTfRへの結合について第1のスクリーニングをELISAにより行った(表6)。Hu/Cy結合ELISAを、2μg/mlの精製ヒトまたはカニクイザルTfRを含有したPBSでコーティングしたマキシソーププレートを用いて、4℃で一晩実施した。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、PBS中でブロッキングバッファー(Superblock Blocking Buffer、Thermo Scientific、Hudson、NH)を用いてブロッキングした。発現したAla scan変異体IgGを含有する細胞培養上清を1:5連続希釈し、ウェルに1時間添加した。プレートを、PBS/0.05% Tween 20で洗浄し、1:1000希釈HRP−ヤギ−抗ヒトFcγ(Jackson ImmunoResearch)をプレートに添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、TMB基質(BioFX Laboratories、Owings Mills)を用いて検出した。
表6:hu15G11.v5 IgG Ala変異体のELISA解析
【0296】
次いで、選択された変異体を精製し、ヒトまたはカニクイザルTfRに対する一価の親和性について、SPRでアッセイした(表7)。
表7:選択された15G11.v5 Fabアラニン変異体の一価SPR解析
【0297】
実施例3:二重特異性抗ヒトTfR抗体構築及びインビトロ解析
BACE1に特異的に結合する第2のアームを持つ二重特異性抗体として、一定の上述の抗体変異体を再フォーマットした。抗ヒトTfR抗体Hu15G11.v5、Hu15G11.LC92A、Hu15G11.HC52A及びHu15G11.HC53Aを用いて、「ノブ・イン・ホール(knob−in−hole)」二重特異性抗体構築技術(Carter, P. (2001) J. Immunol. Methods 248, 7−15; Ridgway, J. B., Presta, L. G., and Carter, P. (1996) Protein Eng. 9, 617−621; Merchant, A. M., Zhu, Z., Yuan, J. Q., Goddard, A., Adams, C. W., Presta, L. G., and Carter, P. (1998) Nat. Biotechnol. 16, 677−681; Atwell, S., Ridgway, J. B., Wells, J. A., and Carter, P. (1997) J. Mol. Biol. 270, 26−35)により二重特異性TfR結合アームを操作した。抗TfR(hole)及び抗BACE1(knob)におけるFcのノブ・ホール突然変異に加えて、全ての半抗体は、Fc領域に突然変異を有し、それによりエフェクター機能(N297G)が無効となり、またHu15G11.v5 及びHu15G11.LC92Aは追加のFc突然変異を有し、それによりエフェクター機能(D265A)が無効となった。knob及びhole半抗体は、別々にE.coliから精製され、抗TfRと1:1.1の比で組み合わされることで、抗TfRホモ二量体の生成を阻害した。抗体に対し100xの比率の還元グルタチオン及び200mMアルギニンを含むバッファー(pH8.0)で、少なくとも3日間室温で還元アニーリングを実施して、二重特異性抗体を構築した。構築後、二重特異性抗体を疎水性相互作用クロマトグラフィーで生成した。構築を、液体クロマトグラフィー質量分析及びSDS−PAGEで確認した。精製抗体は、サイズ排除マルチアングルレーザー光分光法により、均一で単分散であることが分かった。
【0298】
得られた二重特異性抗体を、15G11.v5(抗TfR
1)、15G11.W92A(15G11.LC92Aまたは抗TfR
2)、Hu15G11.N52A(抗TfR
52A)及びHu15G11.T53A(抗TfR
53A)と称した。ヒト及びカニクイザルTfRにおける一価の親和性及び動態を、115G11.v5及び115G11.W92Aについて上述のようにSPRで決定した(表9を参照されたい)。抗TfR
A及び抗TfR
DはマウスTfRへの結合に働くため、抗TfR
1及び抗TfR
2は、類似の一価の結合親和性を有している(Atwal et al., Sci. Transl. Med. 3, 84ra43 (2011); Yu et al., Sci. Transl. Med. 25 May 2011: Vol. 3, Issue 84, p. 84ra44を参照されたい)。
表8:15G11.v5(TfR
1)及び15G11.W92A(LC92A、TfR
2)の一価SPR解析
【0299】
さらに、抗TfR
1、抗TfR
2、Hu15G11.N52A及びHu15G11.T53A二重特異性抗体の結合親和性を、先に述べたようにヒト及びカニクイザルTfRに対してSPRで測定した。下記の表9に示す通り、抗TfR
52A及び抗TfR
53Aは、TfR1
h15G11.v5及びTfR2
LC92A間に、ヒト及びカニクイザルTfRに対する結合親和性を有する。
表9
【0300】
実施例4:ヒト赤白血病細胞株及び初代骨髄単核球細胞に対するエフェクター含有及び非含有単一特異的及び二重特異性抗体の影響
これまでのマウスでの研究により、エフェクター機能及び/または補体結合能を有する抗体結合マウスTfRは、選択的にTfR発現網状赤血球を枯渇させることがわかった。マウスの研究で観察された枯渇が、マウス系に特有であるかどうかについて、ヒトTfRに結合する抗TfRを用いてさらに実験を行った。
【0301】
エフェクター細胞として、健常ヒトドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)を使用してADCCアッセイを実施した。ヒト赤白血病細胞株(HEL、ATCC)及び初代ヒト骨髄単核細胞(AllCells、Inc.)を標的細胞として使用した。FcγRIIIAの158位の残基におけるアロタイプの差異が生じる可能性のあるドナー間の変動を最小限にするために、実験の第1セットでは、血液ドナーを、ヘテロ接合RcγRIIIA遺伝型(F/V158)を有する者に限定した(
図8A及び
図8B)。実験の第2セットでは(
図9A及び
図9B)、HEL細胞のみを標的細胞として使用し、F/V158遺伝型またはFcγRIIIA V/V158遺伝型を有する健常ヒトドナー由来のPBMCを合わせて使用した。NK細胞介在性ADCC活性の増加ならびにIgG4抗体結合能との関連が知られていることから、V/V158遺伝型もまた本アッセイに含めた(Bowles and Weiner, 2005; Bruhns et al. 2008)。細胞を計数し、生存能をVi−CELL(登録商標)(Beckman Coulter; Fullerton, CA)により製造業者の指示に従って決定した。
【0302】
Uni−Sep(商標)血液分離チューブ(Accurate Chemical & Scientific Corp.; Westbury, NY)を用いて密度勾配遠心分離により、PBMCを単離した。標的細胞を含む50μLのアッセイ培地(1% BSA及び100単位/mLペニシリン及びストレプトマイシン含有RPMI−1640)を96ウェル丸底プレートに、4x10
4/ウェルで播種した。試験及び対照抗体(50μL/ウェル)の連続希釈液を、標的細胞を含むプレートへ添加し、37℃で5%CO
2中30分間インキュベートすることで、オプソニン化した。抗体の最終濃度は、0.0051〜10,000ng/mLの範囲で、5倍連続希釈液に対し合計10データポイントとした。インキュベーション後、1.0x10
6PBMCエフェクター細胞を含む100μLのアッセイ培地を、エフェクター細胞:標的細胞の比が25:1となるように添加し、プレートをさらに4時間インキュベートした。インキュベーション終了時に、プレートを遠心分離し、上清をラクターゼデヒドロゲナーゼ(LDH)活性についてCytotoxicity Detection Kit(商標)(Roche Applied Scinece; Indianapolis, IN)を用いて試験した。LDH反応混合物を上清へ添加し、室温で15分間プレートを定速で振とうしながらインキュベートした。反応を1M H
3PO
4で終了し、吸光度を490nm(650nmで測定したバックグラウンドを各ウェルでは差し引いた)でSpectraMax Plusマイクロプレートリーダーを使って測定した。標的細胞のみのウェルの吸光度をバックグラウンド用対照(低対照)とし、Triton−X100で溶解した標的細胞を含むウェルの吸光度を利用可能な最大シグナルとした(高対照)。標的細胞及びエフェクター細胞を含有するウェルで、抗体を添加せずに、抗体依存性細胞傷害性(AICC)を測定した。特異的ADCCの度合いは以下のように計算した。
試料希釈液のADCC値を抗体濃度に対してプロットし、用量反応曲線を、SoftMax Proを使用して4パラメータモデルにフィットさせた。
【0303】
第1セットの実験では、様々な抗ヒトTfRコンストラクトのADCC活性を、標的細胞であるヒト赤白血病細胞株(HEL細胞)または初代ヒト骨髄単核細胞を使用して評価した。二価性IgG1エフェクター機能競合抗ヒトTfR1抗体15G11、及びエフェクター機能を無効化するD265A及びN297G突然変異を有するヒトIgG1フォーマット(実施例3を参照のこと)における抗BACE1アームを持つ前記抗体の二重特異性形態、を様々な濃度で陰性対照として抗gD WT IgG1及び陽性対照としてマウス抗ヒトHLA(クラスI)を用いてADCCアッセイについて試験した。結果を、
図8A及び8Bに示す。標的細胞としてのHEL細胞(
図8A)または標的としての骨髄単核細胞(
図8B)により、単一特異性エフェクター陽性抗ヒトTfR抗体15G11は、有意なADCC活性を誘発した。この活性は、HEL細胞上の陽性対照抗ヒトHLA抗体の活性と同様ではあったが、骨髄単核細胞の陽性陽性に比べて大幅に低かった。骨髄単核細胞実験においてある程度低い値が認められたことは、実験で用いた骨髄及び赤血球系統のPBMC細胞の異種混合物の一部だけが、高いレベルでTfRを発現し、一方HEL細胞は一貫して、クローン細胞集団全体で高いTfRを発現するという事実によるものと考えられる。対照的に、二重特異性非エフェクター含有抗ヒトTfR/BACE1抗体は、HELまたは骨髄単核細胞のどちらにおいても、陰性対照と同様にADCC活性を全く示さなかった。
【0304】
第2セットの実験では、本アッセイシステムにおいて抗体アイソタイプを切り替える影響を評価した。ADCCアッセイの手順は、全ての標的細胞がHEL細胞で、エフェクター細胞は、ヘテロ接合のFcγRIIIa−V/F158遺伝子型またはホモ接合のFcγRIIIa−V/V158遺伝子型を有する健常ヒトドナー由来のPBMCであったことを除いて、上記と同様である。試験した抗ヒトTfRは全て、野生型ヒトIgG1、N297G突然変異を有するヒトIgG1、及びヒトIgG4の3つの異なるIgバックボーンにおいて、抗gDに対し二重特異性であった。ヒトIgG4バックボーンを有する抗Abeta抗体も試験を実施し、マウス抗ヒトHLA(クラスI)を陽性対照として用いた。結果を、
図9A及び9Bに示す。エフェクター細胞活性化及びV/V158遺伝子型間の既知の会合(Bowles and Weiner 2005)から予測されるように、ADCC活性は、F/V158ドナー(〜25%で標的細胞に影響)と比較して、より大幅にV/V158ドナーPBMC(〜45%で標的細胞に影響)に誘発された(
図9A及び
図9Bを比較されたい)。野生型IgG1を有する抗TfR/gDは、HEL細胞における強固なADCCを誘導し、一方で非エフェクター含有を有するIgG1抗TfR/gDは、HEL細胞においてADCC活性を示さず、前記第1セットの実験結果が再現された。特に、100ng/mLまたはそれ以上の濃度では、IgG4アイソタイプの抗TfR/gDは、軽度のADCC活性を示した。この活性は、前記抗Abeta IgG4の結果には認められず、ADCC活性にはTfR結合が必要であったことを示唆している。この知見は、既報による、IgG4が最小かつ測定可能なエフェクター機能を有すること(Adolffson et al., J. Neurosci. 32(28):9677−9689 (2012); van der Zee et al.Clin Exp. Immunol. 64: 415−422 (1986)); Tao et al., J. Exp. Med. 173:1025−1028 (1991))と相関する。
【0305】
実施例5:二重特異性抗ヒトTfR/BACE1二重特異性抗体のインビボにおける評価
A.薬物動態、薬力学及び安全性試験
二重特異性抗ヒトTfR抗体の薬物濃度、薬力学作用及び安全性インビボで評価するために、先の試験で使用した抗BACE1アーム(抗TfR
1/BACE1)と対にした抗TfR抗体クローン15G11、先の試験で使用した同一抗BACE1アーム(抗TfR
2/BACE1)と対にしたクローン15G11.LC92A、またはHu15G11.N52A(抗TfR
52A/BACE1)及びHu15G11.T
53A(抗TfR
53A/BACE1)を用いてカニクイザル(Macaca fascicularis)に二重特異性抗体を投与した。これらの二重特異性抗体は、既に記載の通り、エフェクター機能を無効化するN297GまたはD265A及びN297G突然変異を有するヒトIgG1フォーマット内に存在した。対照として、ヒトIgG1上の抗gD分子を使用した。これら抗TfR抗体の交差反応性は、非霊長類及びヒトに限られるため、本試験は、非ヒト霊長類で実施した。また、研究により、前記脳脊髄液(CSF)及び血漿区画間における薬物輸送メカニズムが、ヒト及び霊長類と同じであってもよいことが分かっている(Poplack et al, 1977)。前記抗体を、大槽カテーテルが内在する意識のあるカニクイザルに対して、用量30mg/kgでの伏在静脈への単静脈内(IV)ボーラス注入により投与した。投与後最大60日の様々な時点における、血漿、血清、及び(CSF)をサンプリングした。サンプル解析には、血液検査(全血)、臨床検査(血清)、抗体濃度(血清及びCSF)、及び抗体に対する薬力学的反応(血漿及びCSF)が含まれた。サンプリングスキームの詳細については
図10を参照されたい。
【0306】
前記濃度で抗体を投与したカニクイザルの血清及びCSFを、ヒツジ抗ヒトIgGサル吸収抗体コートを使用してELISAで測定し、続いて1:100希釈で開始する血清サンプルを添加し、検出のために吸収される西洋ワサビペルオキシダーゼサルと複合したヤギ抗ヒトIgG抗体を添加して終えた。アッセイでは、標準曲線の範囲が0.78〜50ng/mLであり、検出限界が0.08μg/mLであった。検出限界以下の結果は、報告値未満(LTR)として報告した。
【0307】
図11A及び
図11Bは、抗TfR1/BACE1及び抗TfR2/BACE1の薬物動態の結果を示す。抗gDの薬物動態プロファイルは、平均クリアランスが3.98mL/日/kgであり、カニクイザルおける典型的なヒトIgG1抗体として予想どおりであった。抗TfR/BACE1抗体の両方が抗gDよりも速くクリアされたのは、抹消標的介在性クリアランスによるものと思われた。抗TfR1/BACE1は、クリアランスが最も速く、最も高いTfRに対する結合親和性を有することに一致していたが、抗TfR2/BACE1は、と比較して抗TfR1/BACE1向上した薬物動態プロファイルを示し(すなわち、血清における曝露の延長)、TfRに対する親和性が低減されたことによるものであると考えられた。抗TfR1/BACE1及び抗TfR2/BACE1に対するクリアランスは、それぞれ18.9mL/日/kg及び8.14mL/日/kgであった。全ての抗体は、血清濃度の約1000分の1でCSFにおいて検出された。しかしながら、変動性、及び分子全体のCSF抗体濃度における全非検出差異は高かった。
【0308】
図19は、抗TfR
1/BACE1、抗TfR
52A/BACE1、及び抗TfR
53A/BACE1の薬物動態の結果を示す。抗TfR/BACE1抗体の全てが抗gDよりも速くクリアされたのは、抹消標的介在性クリアランスによるものと思われた。抗TfR
1/BACE1は、クリアランスが最も速く、最も高いTfRに対する結合親和性を有することに一致していたが、抗TfR
52A/BACE1及び抗TfR
53A/BACE1は、抗TfR
1/BACE1と比較して向上した薬物動態プロファイルを示し(すなわち、血清における曝露の延長)、抗TfR
52A/BACE1及び抗TfR
53A/BACE1のTfRに対する親和性が低減されたことによるものであると考えられた。
【0309】
抗TfR/BACE1投薬に対する薬力学的作用を見てみると、カニクイザル血漿及びCSFにおけるAbeta
1−40、sAPPα、及びsAPPβレベルを測定した。Abeta
1−40を、抗Abeta
1−40特異的ポリクローナル抗体コートを用いてELISAで測定し、続いてサンプルを添加し、検出のために西洋ワサビペルオキシダーゼと複合したマウス抗ヒトAbeta
1−40モノクローナル抗体を添加して終えた。このアッセイは、検出限界が血漿では60pg/mL、CSFでは140pg/mLであった。本濃度以下の結果は、報告値未満(LTR)として報告した。sAPPα及びsAPPβのCSF濃度を、sAPPα/sAPPβマルチスポットアッセイ(Mesoscale Discovery(Gaithersburg、MD))を用いて決定した。CSFを氷上解凍し、1% BSA含有TBS−T(10mM Trisバッファー、pH8.0、150mM NaCl、0.1% Tween−20)で1:10に希釈した。本アッセイを、製造業者のプロトコルに従って実施した。アッセイでは、定量値の下限が、sAPPαでは0.05ng/ml及びsAPPβでは0.03ng/mLであった。
【0310】
図12A〜
図12Eに、前記抗体の薬力学的挙動についてまとめた。抹消において、血漿Abeta
1−40レベルは、抗gD投与後も維持されたが、抗TfR/BACE1投与は、一過性に低下した。血漿Abeta
1−40レベルが低減した変異体は両方とも、投与後1日目に50%最大阻害濃度を達成した。抗TfR
1/BACE1を投与された動物において、血漿Abeta
1−40レベルは徐々に回復し、投与後14日間前後でベースラインのAbeta
1−40レベルに戻った。Abeta
1−40レベルは、抗TfR
2/BACE1を投与した動物において投与後21〜30日間で、ベースラインレベルへ戻った。両方の抗TfR/BACE1抗体は、CSF Abeta
1−40レベルを低減させたが、抗gD投与動物に変化は見られなかった。抗TfR
1/BACE1投与により、CSF Abeta
1−40レベル(ベースライン50%最大阻害濃度の平均)が、抗TfR
2/BACE1(ベースラインの20%最大阻害濃度の平均)の場合と比較してより有意に低下した。sAPPβ産生は、抗TfR/BACE1投与動物では阻害されたが、抗gD投与動物では阻害されなかった。Aβ40における結果と同様に、抗TfR
1/BACE1は、抗TfR
2/BACE1と比較して、sAPPβ産生に対するより強い阻害作用を有していた。sAPPα産生は、抗TfR
1/BACE1及び抗TfR
2/BACE1の両方によって、BACE1阻害の間刺激され、この反応は、sAPPβ及びAbeta
1−40に認められた阻害レベルと逆相関していた。SAPPα及びsAPPβは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の一次加工産物であり、これらの濃度は相関が高かった。sAPPβ/sAPPαの比で、基礎APP発現における潜在的な変化またはCSF採取及び本試験全過程における取り扱いにおける潜在的な前解析的差異に対して、前記結果を正規化する。抗TfR
1/BACE1に対するCSF sAPPβ/sAPPαの比は、抗TfR
2/BACE1と比較して、より安定したPD効果を実証した。よって、これらの結果は、抗TfR/BACE1抗体による標的(すなわちBACE1)への関与を支持する。
【0311】
抗TfR
52A/BACE1及び抗TfR
53A/BACE1に対するPD反応もまた、抗体曝露期間と相関し、TfRアームの親和性低減は、Aβ
40がより低下したことを示す(データ図示せず)。これらのデータもまた、これら二重特異性抗体による標的への関与を支持する。
【0312】
全体として、これらの結果は、抗TfR
1/BACE1及び抗TfR
2/BACE1間におけるヒトTfRに対する親和性を有する二重特異性抗TfR/BACE1抗体が、望ましい薬物動態/薬力学的バランスを持っていることを示唆する。
【0313】
安全性シグナルは本試験において認められなかった。いずれかの二重特異性抗体を投与後最大60日まで30mg/kgで投与されたサルの血液検査または臨床検査パラメータに、明らかな作用は認められなかった。重要なのは、網状赤血球レベルは、抗TfR
1/BACE1または抗TfR
2/BACE1のどちらの治療の場合も影響されなかった点である(
図13)。これは、これらの抗体のエフェクター機能が損傷されており、循環血中のTfRレベルが高い初期網状赤血球の全体のレベルは、正常霊長類では非常に低いことから予測された(実施例4を参照されたい)。
【0314】
実施例6:二重特異性抗ヒトTfR/BACE1二重特異性抗体のインビボにおける評価
CSFにおける抗体の薬力学及び脳における薬物動態の関係性を調べるため、カニクイザル(Macaca fascicularis)に、二重特異性抗体抗TfR
1/BACE1または抗TfR
2/BACE1を先の実施例と同様に投与した。これらの二重特異性抗体は、エフェクター機能を無効化するD265A及びN297G突然変異を有するヒトIgG1フォーマット内に存在した。コントロールとして、ヒトIgG1上の抗gD分子を使用した。比較のために、前記二重特異性抗体に使用された同じクローンである二価抗BACE1抗体を投与した。前記抗体を、大槽カテーテルが内在する意識のあるカニクイザルに対して、用量30mg/kgでの伏在静脈への単静脈内(IV)ボーラス注入により投与した。ベースラインのCSFサンプルは、投薬24時間及び48時間前に採取され、その他のCSFサンプルは投与後24時間で採取された(
図14に概略を記す)。投与後24時間におけるCSF採取後に、動物を生理食塩水でかん流し、抗体濃度の解析のために脳を採取した。異なる脳領域を、1%NP−40(Cal−Biochem)を添加したComplete Mini EDTAフリープロテアーゼインヒビターカクテル錠(Roche Diagnostics)を含有するPBSで均一化した。14,000rpmで20分間遠心する前に、均一化した脳サンプルを4°Cで1時間回転させた。脳抗体測定のために、先の実施例に記載の方法で、ELISAにより上清を単離した。血液を採取して、実施例5に記載の観察と同様に、抹消曝露及び薬力学的反応を確認した。
【0315】
CSFにおける抗TfR
1/BACE1及び抗TfR
2/BACE1の薬力学的作用の評価は、先の実施例における観察と同様であった。
図15は、CSF sAPPβ/sAPPαの比が、抗TfR
1/BACE1の投薬後に大きく低下することを実証する。本試験では、投薬後24時間で明らかな抗TfR
2/BACE1の低下は認められなかった。抗BACE1についても作用は認められなかった。抗体の脳濃度の分析により、コントロールIgG及び抗BACE1抗体のどちらも、脳における取込みは限定的であり、本アッセイにおける検出値の若干上程度であった(平均約670pM)ことが分かった。抗TfR
2/BACE1は、脳での取込みがコントロールIgG(平均約2nM)と比較して約3倍向上した。そして抗TfR
1/BACE1は、コントロールIgG(平均約10nM)と比べて約15倍超も高い一番の脳での取込みを示した。最も良い脳での取込み及び最も安定した薬力学的作用を示す抗TfR
1/BACE1及び脳での取込みが少なく作用も低い抗TfR
2/BACE1を用いた本試験では、異なる抗体の脳抗体濃度は、CSFで見られた薬力学的反応と相関した。
【0316】
これらの結果は、発明者らのこれまでの知見を展開し、TfR−結合二重特異性抗体が非ヒト霊長類の脳での取込みを改善することを実証する。霊長類ではマウスと同様に、脳での取込み及びTfR介在性クリアランスがベストバランスとなる、TfRに対する最適な親和性がある可能性が高い。本実施例では、親和性が高い抗TfR
1/BACE1は、良好な脳での取込みを示し、抹消標的介在性クリアランスに影響される。親和性が低減したTfR
2/BACE1は、クリアランスの性質が向上するが、TfRへの結合は低いため効率的にTfRに輸送され得ない(米国特許出願第2012/0171120号に記載の最も親和性が低い抗TfR抗体TfR
Eが、ある程度の親和性の閾値を超え、親和性が低すぎて前記抗体及びTfR間で十分な相互差異が得られないことにより、TfRが転移プロセスを開始すると抗体がTfRと会合した状態を維持する場合と同様に)。この実験の結果から、TfR
1及びTfR
2間のTfRに対する親和性を有する抗ヒト/カニクイザルTfR/BACE1二重特異性抗体において、本システムで抗TfR
1/BACE1または抗TfR
2/BACE1のいずれかの取込み及びクリアランスの性質が改善されることが予測される。
【0317】
実施例7:二重特異性トランスフェリンレセプター抗体との関連におけるさらなるエフェクター非含有突然変異の作製
N297G及びD265Aに加えて、エフェクター機能を無効にするFc領域における他の突然変異、をTfR発現網状赤血球の枯渇を低減するまたは防ぐ能力について試験した。具体的には、本明細書に参照により組み込まれる米国特許出願公開第2012/0251531号に記載のFc突然変異L234A、L235A及びP329G(「LALAPG」)を、抗TfR
D/BACE1抗体(本明細書に参照により全体が組み込まれる国際公開第2013/177062号に記載)へ組み込んだ。
【0318】
マウスへの単抗体投与に続いて薬力学的解析及び網状赤血球計数を下記の通り実施した。6〜8週齢の野生型メスC57B/6マウスを全ての試験で使用した。動物のケアについては、施設のガイドラインに従った。マウスに、LALAPG突然変異を有する抗gD抗体(マウスIgG2a)またはLALAPG突然変異を有する抗TfR
D/BACE1抗体(ラット/マウスキメラ)のいずれかを単回用量50mg/kgで、マウスに静脈内投与した。合計注入量は、250μLを超えず、各抗体は必要時D−PBS(Invitrogen)で希釈した。24時間後、全血をEDTAマイクロティナチューブ(BD Diagnostics)によるかん流前に採取し、30分間室温で静置し、5000xgで10分間遠沈した。血漿の最上層を、抗体測定のために新しいチューブへ移した。
【0319】
マウス血漿の全抗体濃度を、抗マウスIgG2a(アロタイプa)/抗マウスIgG2a(アロタイプa)ELISAにより測定した。NUNC 384ウェルマキシソープ免疫プレート(Neptune、NJ)をマウス抗マウスIgG2aアロタイプA、アロタイプA特異的抗体(BD/Pharmigen San Jose、CA)でコートし、4℃で一晩置いた。プレートを、0.5%BSA含有PBSで、25℃で1時間ブロックした。各抗体(抗gD及び抗TfR/BACEl二重特異性変異体)を標準物質として、各抗体濃度を定量した。プレートを、マイクロプレートウォッシャー(Bio−Tek Instruments, Inc.、Winooski、VT)を使用して0.05% Tween−20含有PBSで洗浄し、0.5% BSA、0.35M NaCl、0.25% CHAPS、5mM EDTA、0.2% BgG、0.05% Tween−20、及び15 ppm Proclin(登録商標)(Sigma−Aldrich)含有PBSで希釈した標準物質及びサンプルを25℃で2時間添加した。結合した抗体を、ビオチン複合マウス抗マウスIgG2aアロタイプA、アロタイプA特異的抗体(BD/Pharmigen San Jose、CA)で検出した。結合したビオチン複合抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼ複合ストレプトアビジン(GE Helathcare Life Sciences、Pittsburgh、PA)で検出した。サンプルを、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)(KPL、Inc.、Gaithersburg、MD)で展開し、Multiskan Ascent Reader(Thermo Scientific、Hudson、NH)を使用して450nmで吸光度を計測した。4パラメータ非線形曲線回帰プログラムを用いて標準曲線から濃度を決定した。アッセイは、血漿における定量下限(LLOQ)が、78.13ng/mlであった。両側独立t検定を用いて、実験群間の差を統計解析した。
【0320】
Fc LALAPG 突然変異を含む抗TfR
D/BACE1抗体の投与時、マウスは完全エフェクター機能を有する抗体を用いて先に観察された臨床症状を、全く示さなかった。Couch et al., Sci. Trans. Med. 5:183ra57 (2013)を参照されたい。
図20は、薬物動態解析を示す。
【0321】
追加的に、Sysmex XT2000iV(Sysmex、Kobe、Japan)を使用し製造業者の指示に従って、未熟網状赤血球及び全網状赤血球数を決定した。投与から24時間後、
図21に示すように試験したいずれの抗体も、未熟網状赤血球分画または全網状赤血球数に変化は認められなかった。これらの結果は、LALAPG突然変異が、抗体エフェクター機能を無効にするだけでなく、エフェクター非含有抗体フレームワーク(Couch et al. 2013)を用いても認められる補体結合及び補体介在性網状赤血球クリアランスを低減すること示唆している。ヒトIgG1上LALA突然変異の組み込みが、補体結合を限定できるとした別の報告(Hessell et al. Nature 449:101−104 (2007))と一致する。
【0322】
実施例8:FcRn
HIGH二重特異性変異体の作製
二重特異性抗体の半減期を増加し、それにより脳における抗体の濃度を潜在的に増加させるために、二重特異性変異体は、IgG定常ドメイン及び特異的に新生児型Fc受容体(FcRn)結合ドメイン(FcRn
HIGH突然変異)に突然変異が含まれるように作製された。前記FcRn結合ドメインは、抗体の母体胎児間の移行に関与することが示唆されている。Story et al., J. Exp. Med., 180:2377 2381, 1994を参照されたい。FcRn結合ドメインにおけるアミノ酸置換は、FcRnに対する定常ドメインの親和性を高め、それにより抗体の半減期を増加させる。
【0323】
FcRn結合ドメイン突然変異M252Y、S254T及びT256E(YTE)は、FcRn結合を増加させることにより、抗体の半減期を増加することが記載されている。米国特許出願公開第2003/0190311号及びDall’Acqua et al., J. Biol. Chem. 281:23514−23524 (2006)を参照されたい。さらに、FcRn結合ドメイン突然変異N434A及びY436I(AI)は、FcRn結合を増加することも記載されている。Yeung et al., J. Immunol. 182: 7663−7671 (2009)を参照されたい。YTE(M252Y/S254T/T256E)及びAI(N434/Y436I)突然変異を、WTヒトIgG1またはエフェクター非含有LALAPGまたはN297G突然変異のいずれかを含む抗TfR
52A/BACE1及び抗TfR
2/BACE1二重特異性抗体の両方に組み込んだ。また、対照として、抗gD hIgG1抗体がFcRn
HIGH突然変異持つようにした。変異をKunkel法による変異導入により構築し、抗体を一過性にCHO細胞に発現させ、タンパク質を、タンパク質Aクロマトグラフィー、続いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に供して精製した。
【0324】
FcRn
HIGH変異体抗体のFcRnに対する結合は、BIAcoreを用いて測定した。ヒト及びカニクイザルFcRnタンパク質をCHOに発現させ、IgG親和性クロマトグラフィーを用いて精製した。データはBIAcore T200 Instrumentにより獲得した。AシリーズSセンサーチップCM5(GE Healthcare、Cat. BR100530)を、製造業者の指示書に従って、EDC及びNHS試薬で活性化、抗Fab抗体(ヒトFab捕捉キット、GE Health care Bio−science. AB SE−75184、upsala、Sweden)を結合して、約10,000応答単位(RU)を達成し、未反応基を1メタノラミンでブロッキングした。親和性測定では、抗体をまず流速10μl/分で注入し、FC1(参照)を除く3つの異なるフローセル(FC)上で約1000RUを捕捉し、その後ヒトFcRn(またはカニクイザルFcRn)の2倍希釈液を含有するpH6のバッファー(0.1Mリン酸ナトリウム)を低濃度(1nM)〜高濃度(25μM)で、注入の間再生することのない同一サイクルにおいて交互に注入した(流速30μl/分)。センソグラム(Sensogram)を記録し、BIAcore T200 Evaluation Software(version 2.0)を使って評価する前に参照及びバッファー分を差引いた。親和性を、1:1結合モデルで、安定した状態における結合レベルを解析することにより決定した。抗TfR
52A/BACE1のLALAPG、N297G、LALAPG.YTE、及びLALAPG.AI変異体に対する結合親和性を以下の表11に示す。データは、FcRn
HIGH変異体が、エンドソーマル(pH6)での親和性を、ヒト及びカニクイザルFcRnの両方で高めることを示す。
表11
【0325】
選択されたFcRnHIGH変異体を、カニクイザルで試験し、FcRn親和性の増強が薬物動態の性質を向上させ及び/または抗TfR/BACE1抗体の脳への曝露を増加させるかどうかを決定する。
【0326】
エフェクター非含有及びFcRn
HIGH突然変異の安全性を評価するために、特定の二重特異性抗体を、ヒトトランスフェリン受容体を発現するヒトトランスフェリン受容体ノックインマウスに投与した。huTfRノックインマウスは、以下の通り作製した。ヒトTFRC cDNAを ES細胞のC57BL/6 Tfrc座に標的化するコンストラクトを、リコンビニアリング(recombineering)(Warming et al. Molecular and Cellular Biology vol. 26 (18) pp. 6913−22 2006; Liu et al Genome Research (2003) vol. 13 (3) pp. 476−84)及び標準分子クローニング技術の組み合わせにより作製した。
【0327】
簡潔には、マウスTfrc遺伝子の短い相同鎖(short homologies)が隣接するカセット(ヒトTFRC cDNA、SV40 pA、及びfrt−PGK−em7−Neo−BGHpA−frt)を用いてリコンビニアリングにより、Tfrc C57BL/6J BAC(RP23 BACライブラリ)を改変した。前記ヒトTFRC cDNAカセットを、内因性ATGに挿入し、Tfrcエクソン2の残部及びイントロン2の起始部を削除した。BACにおける標的化領域を、ES細胞標的化のための相同性アームとしての隣接ゲノムTfrc配列と共に、pBlight−TK(Warming et al. Molecular and Cellular Biology vol. 26 (18) pp. 6913−22 2006)に回収した。具体的には、前記2950 bpの5’相同性アームは、chr.16:32,610,333−32,613,282に相当し、前記2599 bpの3’相同性アームは、chr.16:32,613,320−32,615,918に相当する(アッセンブリNCBI37/mm9)。最終ベクターをDNA配列決定で確認した。
【0328】
Tfrc/TFRC KIベクターをNotIで線状化し、C57BL/6N C2 ES細胞を標準の方法(G418陽性及びガンシクロビル陰性選択)を用いて標的化した。陽性クローンをPCR及びTaqman解析を用いて特定し、前記改変座における配列決定で確認した。正確に標的化したES細胞を、FlpeプラスミドでトランスフェクトしてNeoを除去し、ES細胞を胚盤胞に標準の手技で注入した。生殖細胞系伝達を、C57BL/6Nメスのキメラとなる交配後に得た。
【0329】
具体的には、下記表に記載の抗体を、単回用量50mg/kgでhuTfRノックインマウスに投与し、24時間後に血液及び網状赤血球を採取する。huIg1、N297G
表12
【0330】
完全エフェクター機能を有する抗TfR抗体を使用して先に認められたように(Couch et al. 2013)、抗TfR
52A/BACE1 LALAPG、LALAPG/YTEまたはLALAPG/AI抗体(表12のグループ3〜5)の投与後、ヒトTfRノックインマウスは、臨床症状または網状赤血球欠乏を示さなかった(
図22)。これらの結果はヒトIgG1フレームワークに対するLALAPG突然変異の組み込みが、エフェクター機能も無効にすることを示し、YTEまたはAI FcRn
HIGH突然変異のいずれかの添加によって、LALAPG突然変異の望ましい性質は干渉されず、その結果抗体がエフェクター非含有となることをさらに示唆している。
【0331】
また、ADCCアッセイを実施し、ヒト由来細胞株におけるLALAPG、LALAPG/YTE、及びLALAPG/AI突然変異の組み合わせのエフェクター非含有状態を確認した。既に実施したように、ヒト赤白血病細胞株(HEL、ATCC)を標的細胞として、F/V158遺伝子型またはFcγRIIIA V/V158遺伝子型のどちらかを有する健常ヒトドナー由来のPBMCと共に使用した。NK細胞介在性ADCC活性の増加ならびにIgG4抗体への結合能を有する会合が知られていることから(Bowles and Weiner, 2005; Bruhns et al. 2008)V/V158遺伝型も、本アッセイに含まれる。細胞を計数し、生存能をVi−CELL(登録商標)(Beckman Coulter、Fullerton、CA)により製造業者の指示に従って決定した。
【0332】
Uni−Sep(商標)血液分離チューブ(Accurate Chemical & Scientific Corp.、Westbury、NY)を用いて密度勾配遠心分離により、PBMCを単離した。標的細胞を含む50μLのアッセイ培地(1% BSA及び100単位/mLペニシリン及びストレプトマイシン含有RPMI−1640)を96ウェル丸底プレートに、4x10
4/ウェルで播種した。試験及び対照抗体(50μL/ウェル)の連続希釈液を、標的細胞を含むプレートへ添加し、37℃で5%CO
2中30分間インキュベートすることで、オプソニン化した。抗体の最終濃度は、0.0051〜10,000ng/mLの範囲であり、5倍連続希釈により合計10データポイントとなる。インキュベーション後、1.0x10
6PBMCエフェクター細胞を含む100μLのアッセイ培地を、エフェクター細胞:標的細胞の比が25:1となるように添加し、プレートをさらに4時間インキュベートした。インキュベーション終了時に、プレートを遠心分離し、上清をラクターゼデヒドロゲナーゼ(LDH)活性についてCytotoxicity Detection Kit(商標)を用いて試験した(Roche Applied Science、Indianapolis、IN)。LDH反応混合物を上清へ添加し、室温で15分間プレートを定速で振とうしながらインキュベートした。反応を1M H
3PO
4で終了し、吸光度を490nm(650nmで測定したバックグラウンドを各ウェルでは差し引いた)でSpectraMax Plusマイクロプレートリーダーを使って測定した。標的細胞のみのウェルの吸光度をバックグラウンド用対照(低対照)とし、Triton−X100で溶解した標的細胞を含むウェルの吸光度を利用可能な最大シグナルとした(高対照)。標的細胞及びエフェクター細胞を含有するウェルで、抗体を添加せずに、抗体依存性細胞傷害性(AICC)を測定した。特異的ADCCの度合いは以下のように計算した。
試料希釈液のADCC値を抗体濃度に対してプロットし、用量反応曲線を、SoftMax Proを使用して4パラメータモデルにフィットさせた。
【0333】
図23にADCCアッセイの結果を示す。予想どおり、エフェクター陽性抗ヒトTfR抗体(抗TfR
1/gD IgG1 WT)は、HEL細胞におけるADCC活性を有意に誘発した。対照的に、LALAPG、LALAPG/YTE、またはLALAPG/AI突然変異を含む抗TfR
52A/BACE1抗体変異体は、ネガティブコントロールの抗TfR
52A/gD N297G抗体と同様に、HEL細胞においてADCC活性を全く提示しなかった。
【0334】
実施例9:抗TfR二重特異性抗体配列の改変
108位のメチオニンがロイシンへ変化(M108L)する重鎖可変領域FR4における突然変異を抗TfR抗体の安定性を増進するために組み入れてもよい。M108L突然変異を含む抗TfR Fabの結合親和性は、表13に記載の上記未改変Fabと同程度である。
表13:抗TfR Fabの結合親和性
【0335】
M108L突然変異(配列番号160)を有する抗TfR
2.hIgG1.LALAPG.YTE重鎖を含む抗TfRアームを含む二重特異性抗体は、M108L重鎖突然変異を有さない同一抗TfRアームを含む二重特異性抗体と比較して、安定性があり、TfRに対する結合親和性も保持していることが期待される。
【0336】
上述の発明は、明確な理解のための例示説明及び例としてある程度詳細に記載されたが、これらの説明及び例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書で引用される全ての特許及び科学文献の開示は、参照によりそれらの全体が明示的に組み込まれる。