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特許6779917スーパーオーステナイト鋼をろう付けするための高溶融範囲を有するニッケル基合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779917
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】スーパーオーステナイト鋼をろう付けするための高溶融範囲を有するニッケル基合金
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20201026BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20201026BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20201026BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20201026BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20201026BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20201026BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20201026BHJP
【FI】
   B23K35/30 310D
   C22C19/05 B
   B22F1/00 M
   B23K1/00 310B
   B23K1/19 J
   B23K1/00 330L
   !C22C38/00 302Z
   !C22C38/58
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-561027(P2017-561027)
(86)(22)【出願日】2016年2月11日
(65)【公表番号】特表2018-511486(P2018-511486A)
(43)【公表日】2018年4月26日
(86)【国際出願番号】EP2016052906
(87)【国際公開番号】WO2016131702
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2019年2月8日
(31)【優先権主張番号】15155359.1
(32)【優先日】2015年2月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509020295
【氏名又は名称】ホガナス アクチボラグ (パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペルソン、ウルリカ
(72)【発明者】
【氏名】モルス、オーウェ
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/081346(WO,A1)
【文献】 特公昭43−016222(JP,B1)
【文献】 国際公開第2012/035829(WO,A1)
【文献】 特開2008−253999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
B23K 1/00− 1/20
C22C 19/00−19/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル基ろう材であって、
クロム(Cr):25〜35重量%
鉄(Fe):7〜15重量%
シリコン(Si):3〜8重量%
モリブデン(Mo):5〜10重量
純物:最大1重量%であり、炭素が0.05%未満
残部であるニッケル(Ni)
からなり、前記ニッケル基ろう材の固相線温度が1140℃〜1220℃である、ニッケル基ろう材。
【請求項2】
ニッケル基ろう材であって、
Cr:25〜35重量%
Fe:7〜15重量%
Si:3〜8重量%
Mo:6〜10重量%
不純物:最大1重量%であり、炭素が0.05%未満
残部であるニッケル(Ni)
からなり、前記ニッケル基ろう材の固相線温度が1140℃〜1220℃である、ニッケル基ろう材。
【請求項3】
ニッケル基ろう材であって、
Cr:25〜33重量%
Fe:8〜12重量%
Si:3〜8重量%
Mo:7〜10重量
純物:最大1重量%であり、炭素が0.05%未満
残部であるニッケル(Ni)
からなり、前記ニッケル基ろう材の固相線温度が1140℃〜1220℃である、ニッケル基ろう材。
【請求項4】
前記ニッケル基ろう材が、平均粒径10〜150μmである粉末であることを特徴とする、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載されたニッケル基ろう材。
【請求項5】
前記ニッケル基ろう材が、平均粒径20〜100μmである粉末であることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたニッケル基ろう材。
【請求項6】
前記ニッケル基ろう材が、平均粒径30〜70μmである粉末であることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたニッケル基ろう材。
【請求項7】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載されたニッケル基ろう材を含むろう付け材料であって、粉末、ペーストまたは箔の形態のろう付け材料。
【請求項8】
ステンレス鋼でできた少なくとも2つの部品を有する物品をろう付けする方法であって、
a)請求項に記載されたろう付け材料を、ステンレス鋼の部品のうちの少なくとも1つの部品に付加、またはステンレス鋼の部品の組み合わせに付加して、ステンレス鋼の部品を物品に組み立てるステップと、
b)前記物品をろう付け温度に加熱するステップであって、ろう付け温度は、前記ろう材の液相線温度よりも高い温度、かつ少なくとも1200℃超加熱するステップと、
c)完全にろう付けされるまで、ろう付け温度に前記物品を保持するステップと、
d)ろう付けされた前記物品を、ろう付け接合部の固相線温度よりも低い温度まで冷却するステップと、
e)少なくとも1MPaの圧力の不活性冷却ガスを用い、ろう付けされた前記物品を少なくとも1050℃から600℃以下の温度まで、最小冷却速度が毎秒2℃で冷却するステップと、
f)前記物品を回収するステップと
を含む方法。
【請求項9】
前記ステンレス鋼でできた部品のうちの少なくとも1つが、スーパーオーステナイト系ステンレス鋼でできている、請求項に記載された方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば塩化物環境などの高耐食性が必要とされる際のスーパーオーステナイト系ステンレス鋼または同様の材料で作られた部品のろう付けに適したニッケル基ろう材に関するものである。ろう付けされた部品から作られた製品の典型例は、熱交換器である。本発明は、ろう付け方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
ろう付けは、ろう材および加熱により金属部品を接合するプロセスである。ろう材の融点は、基材の融点よりも低いが450℃以上である。この温度以下では、接合プロセスははんだ付けと呼ばれる。ステンレス鋼をろう付けするために最も一般的に使用されるろう材は、銅ろうまたはニッケルろうである。銅ろうは、コスト的有利さを考慮すると好ましいが、ニッケル基ろう材は、高耐食性を要求される用途および高温での用途にも必要とされる。銅は、例えば、地域暖房用および水道用の熱交換器によく用いられる。
【0003】
クロム含有量の大きいニッケル基ろう材は、その高耐食性のために腐食性の媒体に曝される用途に使用される。ニッケル基ろう材は、高温で使用される用途にも使用できる。腐食性の大きい環境に曝される典型的な用途は、積極的に冷却媒体により冷却する熱交換器である。
【0004】
米国溶接協会(ANSI/AWS・A・5・8)規格には数種類の異なるニッケル基ろう材が記載されている。これらのニッケル基ろう材の多くは、熱交換器のろう付けに使用される。Ni−7Cr−3B−4.5Si−3Fe(Ni:7重量%、B:3重量%、Si:4.5重量%、Fe:3重量%、残部Ni)の組成のBNi−2は、高温用途で高強度接合部を形成するために使用される。しかし、ホウ素が基材の材料に拡散すると基材を脆化させる虞があるために、ホウ素の存在は不利である。ホウ素の拡散によりCrBが粒界に形成されるので、局所的に耐食性を低下させる可能性がある。ホウ素を含有する他のニッケル基ろう材も同じ欠点を有する。
【0005】
ホウ素含有による問題を解決するために、他のニッケル基ろう材が開発された。BNi−5(Ni−19Cr−10Si)は、クロム含有量を高めることにより高耐食性を得ている。このろう材のろう付け温度はかなり高く(1150℃〜1200℃)、融点降下剤としてシリコンのみを使用する場合には流動性が制限される。他のホウ素を含まないニッケル基ろう材としてBNi−6(Ni−10P)およびBNi7(Ni−14Cr−10P)がある。リン含有量が10重量%と高いために、これらのろう材のろう付け温度は低くなり、優れた流動特性が得られる。しかし、リン含有量が高く(10重量%)リン含有脆性相を形成する危険があるために、必要な強度を有さないろう付け接合部を形成する可能性がある。
【0006】
米国特許第6696017号および米国特許第6203754号には他のニッケル基ろう材が記載されている。このろう材はNi−29Cr−6P−4Siの組成を有し、かなり低いろう付け温度(1050℃〜1100℃)で高強度および高耐食性を兼ね備えている。このろう材は、高腐食環境で使用されるEGRクーラーの製造用に特別に開発されたものである。
【0007】
他のニッケル基ろう材が、米国特許出願公開第2013/0224069号(A1)に記載されている。この文献は、塩酸に対する耐食性に優れたろう材を説明している。この合金は、6〜18重量%モリブデン、10〜25重量%クロム、0.5〜5重量%ケイ素、4.5〜8重量%リンを含み、残部がニッケルおよび不可避不純物である。記載された様々な合金は、1120℃以下の液相線温度を有する。
【0008】
ASM専門ハンドブックのステンレス鋼によると、結晶粒成長を起こさない最も高い実用温度は1095℃である。したがって、ろう付け温度がこの温度未満であることが、ステンレス鋼部品の結晶粒成長の問題を回避するために好ましい。オウトクンプ社(Outokumpu)の鋼種254SMO(登録商標)または654SMO(登録商標)のようなスーパーオーステナイト系ステンレス鋼は、高温で結晶粒成長を起こしにくい。しかし、このような鋼では、脆いシグマ相が1050℃付近で容易に形成される。腐食環境に曝されるスーパーオーステナイト系ステンレス鋼の部品をニッケル基ろう材でろう付けすることは困難で挑戦的である。その理由は、接合部が凝固する際に脆いシグマ相およびカイ相が形成されることを避けるためにろう付け温度を十分に高くしなければならないのに対して、基材の侵食を防ぐためにはろう付け温度は十分低くなければならないからである。ろう材は、間隙および割れ目を効果的に充填するために十分な流動性がなければならない。
【0009】
このために、ほとんどの既存のろう材は、スーパーオーステナイト系ステンレス鋼のろう付けに不適切である。BNi5は、スーパーオーステナイト系ステンレス鋼のろう付けに適した溶融幅を有する。しかし、BNi5の耐食性は、スーパーオーステナイト系ステンレス鋼の使用が想定される環境で機能するには不十分である。
【0010】
耐食性が最も優れた従来のニッケル基ろう材であるNi−29Cr−6P−4Siは、塩化物環境では、スーパーオーステナイト系ステンレス鋼級には機能しない。Ni−29Cr−6P−4Siは十分に良好な耐食性を有するが、固相線温度が低過ぎて、冷却中の基材にシグマ相の形成が避けられず、スーパーオーステナイト系ステンレス鋼の特性が劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6696017号明細書
【特許文献2】米国特許第6203754号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2013/0224069号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、1140℃を超える固相線温度を有し、腐食性塩化物含有環境に耐えることのできる接合部を形成できるニッケル基ろう材が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、20重量%〜35重量%のクロム、7重量%〜15重量%の鉄、2.5重量%〜9重量%のシリコン、0重量%〜15重量%のモリブデン、不純物および残部のニッケルからなるか、これらの成分を含む。ろう材の固相線温度は1140℃〜1220℃でなければならない。このろう材は、触媒コンバータおよび熱交換器の製造に適している。また、本発明はろう付け方法にも関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】1000℃未満で急冷を行った試料。粒界に析出物が存在する。
図2】1150℃から強制冷却した試料。粒界に析出物がほとんど存在しない。
図3】印加された力の関数としての試料の歪み。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一観点によれば、スーパーオーステナイト系ステンレス鋼に適合した優れた耐食性を有するろう材が提供される。この新しいニッケル基ろう材により好適にろう付けされる製品の例は、産業用途または排気ガス冷却系などの自動車用途に使用されるプレート熱交換器または管熱交換器などの熱交換器である。様々なタイプの触媒コンバータも、スーパーオーステナイト系ステンレス鋼から製造される可能性のある用途である。この新しいろう材は、従来のステンレス鋼のろう付けにも使用できる。
【0016】
本発明の他の観点によれば、新しいろう材の使用を含む、スーパーオーステナイト系ステンレス鋼をろう付けする方法が提供される。さらに他の観点によれば、ろう付けされた製品が提供される。
【0017】
脆いシグマ相の形成を避けるために、少なくとも1050℃から最高600℃までの強制冷却を適用する必要がある。急冷を行う前にろう付け接合部が完全に凝固することを確実にするためには、ろう材の固相線温度は少なくとも1140℃でなければならない。そうでなければ急冷中に接合部に亀裂および空隙が形成される虞がある。
【0018】
粉末、ペースト、テープ、箔または他の形態のろう付け材料が、接合すべき基材表面どうしの間の隙間に置くか挿入される。このように配置した部材を、還元性保護雰囲気または真空の炉に入れ、液相線温度以上の少なくとも1200℃超の温度に加熱し、ろう付けが完了するまでその温度に保つ。それにより、ろう材が溶融し、毛細管現象により溶融したろう材が基材表面を伝って隙間に流入する。固相線温度よりも低い温度まで冷却される間に、ろう付け接合部がしっかりと形成される。固体接合部が形成されると、ろう付けされた部材は、強制的に冷却できる。これは、通常は少なくとも10バール(1MPa)の高圧で不活性ガスを部材に流すことを意味する。
【0019】
したがって、本発明によるろう付け方法は、以下のステップを含む。
a)本発明のいずれかの具体例のろう付け材料を、ステンレス鋼の部品のうちの少なくとも1つの部品、またはステンレス鋼の部品の組み合わせに付加する。可能であれば、ステンレス鋼部品を製品物品の形態に組み立てたものにろう材を付加する。
b)物品をろう付け温度に加熱する。ろう付け温度は、ろう材の液相線温度よりも高い温度、少なくとも1200℃超である。
c)完全にろう付けされるまで、ろう付け温度に部品を保持する。
d)ろう付けされた部品を、ろう付け接合部の固相線温度よりも低い温度まで冷却する。
e)少なくとも10バール(1MPa)の圧力の不活性冷却ガスを用いた強制冷却により、ろう付けされた部品を少なくとも1050℃から600℃以下の温度まで冷却する。
f)物品を回収する。
【0020】
本発明によるろう付け方法の一具体例では、少なくとも1050℃から最高600℃まで少なくとも2℃/秒の冷却速度での強制冷却が使用される。
【0021】
本発明によるろう付け方法の一具体例では、少なくとも1100℃から最高600℃まで少なくとも2℃/秒の冷却速度での強制冷却が使用されなければならない。
【0022】
本発明によるろう付け方法の一具体例では、少なくとも1120℃から最高600℃まで少なくとも2℃/秒の冷却速度での強制冷却が使用されなければならない。
【0023】
本発明によるろう付け方法の一具体例では、少なくとも1050℃から最高600℃まで少なくとも5℃/秒の冷却速度での強制冷却が使用される。
【0024】
本発明によるろう付け方法の一具体例では、少なくとも1100℃から最高600℃まで少なくとも5℃/秒の冷却速度での強制冷却が使用されなければならない。
【0025】
本発明によるろう付け方法の一具体例では、少なくとも1120℃から最高600℃まで少なくとも5℃/秒の冷却速度での強制冷却が使用されなければならない。
【0026】
本発明によるろう付け方法の一具体例では、少なくとも1050℃から最高600℃まで少なくとも7℃/秒の冷却速度での強制冷却が使用される。
【0027】
本発明によるろう付け方法の一具体例では、少なくとも1100℃から最高600℃まで少なくとも7℃/秒の冷却速度での強制冷却が使用されなければならない。
【0028】
本発明によるろう付け方法の一具体例では、少なくとも1120℃から最高600℃まで少なくとも7℃/秒の冷却速度での強制冷却が使用されなければならない。
【0029】
一具体例によれば、ろう材は粉末形態で提供できる。ろう材粉末は、当該技術分野で公知の方法を用いて形成できる。例えば、特許請求の範囲に規定された組成を有する粉末は、均質な合金を溶融し、それをアトマイジング法によって粉末製造できる。粉末の平均粒径は、10〜150μm、好ましくは20〜100μm、最も好ましくは30〜70μmの範囲にできる。平均粒径は、EN24497に記載された方法を使用することによって、又はSS−ISO 13320−1によるメジアン粒径X50として表すことができる。平均粒径またはメジアン粒径は、粒子集団の50体積%または重量%がこのサイズよりも小さく、50体積%または50体積%がこのサイズよりも大きい、粒子集団における粒径として理解される。
【0030】
典型的なスーパーオーステナイト系ステンレス鋼の鋼種を表1に示す。他の鋼種としては、AL6XNや925hMoがある。スーパーオーステナイト系ステンレス鋼は、ニッケル、クロム、モリブデンおよび窒素を含有し、ASMハンドブック第13A巻、2003年に従って定義された45を超えるPREN値を有するオーステナイト系ステンレス鋼として定義することができる。ここで、
PREN値=%Cr + 3.3×%Mo + 30×%N
である。モリブデン含有量が高く、クロムおよび窒素の含有量も高いことにより、これらの鋼種は優れた耐食性および改善された機械的特性を有している。
【0031】
【表1】
【0032】
全てのステンレス鋼は、その定義により少なくとも11%のクロムを含有するが、30%以上のクロムを含有するステンレス鋼はわずかしかない。11%を超えるクロム含有量は、鋼に耐食性を付与するクロム酸化物保護層の形成に必要である。クロム含有量が高いほど耐食性は向上するが、クロム含有量が増加すると流動特性に悪影響を及ぼすので、クロム含有量が25%を超えるろう材はほとんど使用されない。クロム含有量が35%を超えると金属間相が形成されるために接合強度が低下することがある。したがって、新しいろう材のクロム含有量は、20〜35重量%、好ましくは25〜33重量%である。いくつかの具体例では、より狭い範囲が望ましい場合がある。
【0033】
合金の融点を低下させるために、融点降下剤が添加される。ケイ素、ホウ素およびリンが有効な融点降下剤であることは周知である。
【0034】
通常は、ろう材には少なくとも2つの融点降下剤の組み合わせが、濡れ性および流動性などの十分な特性を得るために使用される。しかし、本発明では、シリコンのみを使用することができることが示されている。これにより、ろう材の製造、および使用時の取り扱いが容易になる。
【0035】
ケイ素の含有量が9重量%を超えると脆性相が形成される危険性が大きすぎて適切ではなく、2.5重量%未満ではろう材の流動性が不十分になる。したがって、ろう材のケイ素含量は2.5〜9重量%である。いくつかの具体例では、より狭い範囲が望ましい場合がある。
【0036】
新しいろう材は、十分な流動性を得るために、7〜15重量%、好ましくは8〜12重量%の鉄を含有し、モリブデン含有量は、0〜15重量%、好ましくは5〜10重量%、好ましくは6〜10重量%、最も好ましくは7〜10重量%である。いくつかの具体例では、より狭い範囲が望ましい場合がある。
【0037】
純物は、通常、2重量%未満、好ましくは1重量%未満であり、その量の成分の存在がろう付け材料の特性に実質的に影響を与えないような少量で存在する成分である。 この場合、炭素は、不純物とみなすことができ、本発明のある具体例では、炭素含有量は0.05重量%未満でなければならない。
ろう材の成分は、予合金化された形態で含有される。
【0038】
本発明の一具体例では、ニッケル基ろう材は、
クロム(Cr):20〜35重量%
鉄(Fe):7〜15重量%
シリコン(Si):2.5〜9重量%
モリブデン(Mo):0〜15重量
純物:最大2重量%
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0039】
本発明の他の具体例では、ニッケル基ろう材は、
Cr:25〜35重量%
Fe:7〜15重量%
Si:3〜8重量%
Mo:5〜10重量
純物:最大1重量%
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0040】
本発明の他の具体例では、ニッケル基ろう材は、
Cr:25〜35重量%
Fe:7〜15重量%
Si:3〜8重量%
Mo:6〜10重量
純物:最大1重量%
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0041】
本発明の他の具体例では、ニッケル基ろう材は、
Cr:25〜33重量%
Fe:8〜12重量%
Si:3〜8重量%
Mo:7〜10重量
純物:最大1重量%
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0042】
本発明の他の具体例では、ニッケル基ろう材は、
Cr:28〜32重量%
Fe:8〜12重量%
Si:3〜8重量%
Mo:6〜9重量
純物:最大0.5重量%
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0043】
本発明のさらに他の具体例では、ニッケル基ろう材は、
Cr:28〜32重量%
Fe:8〜12重量%
Si:6〜8重量%
Mo:6〜9重量
純物:最大0.5重量%
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0044】
本発明の一具体例では、ニッケル基ろう材は、
クロム(Cr):20〜35重量%
鉄(Fe):7〜15重量%
シリコン(Si):2.5〜9重量%
モリブデン(Mo):0〜15重量
純物:最大2重量%であり、炭素が0.05%未満
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0045】
本発明の他の具体例では、ニッケル基ろう材は、
Cr:25〜35重量%
Fe:7〜15重量%
Si:3〜8重量%
Mo:5〜10重量
純物:最大1重量%であり、炭素が0.05%未満
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0046】
本発明の他の具体例では、ニッケル基ろう材は、
Cr:25〜35重量%
Fe:7〜15重量%
Si:3〜8重量%
Mo:6〜10重量
純物:最大1重量%であり、炭素が0.05%未満
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0047】
本発明の他の具体例では、ニッケル基ろう材は、
Cr:25〜33重量%
Fe:8〜12重量%
Si:3〜8重量%
Mo:7〜10重量
純物:最大1重量%であり、炭素が0.05%未満
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0048】
本発明のさらに他の具体例では、ニッケル基ろう材は、
Cr:28〜32重量%
Fe:8〜12重量%
Si:3〜8重量%
Mo:6〜9重量
純物:最大0.5重量%であり、炭素が0.05%未満
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0049】
本発明のさらに他の具体例では、ニッケル基ろう材は、
Cr:28〜32重量%
Fe:8〜12重量%
Si:6〜8重量%
Mo:6〜9重量
純物:最大0.5重量%であり、炭素が0.05%未満
残部であるニッケル(Ni)
を含む。
【0050】
このろう材は1140℃〜1220℃の固相線温度を有し、溶融幅(すなわち、液相線温度と固相線温度との差)は狭く、すなわち100℃未満でなければならない。固相線温度および液相線温度は、示差走査熱量計(DSC)によって測定することができる。このろう材は、ろう付けすべき隙間に流入して浸透する優れた能力を有する。溶融したろう合金は、溶融時に基材を侵食しない。これは、新しいニッケル基ろう材のつり合いのとれた組成により、基材への拡散の駆動力が制限されるためである。浸食は、溶融したろう材により基材が溶解することにより引き起こされる状態として定義され、基材の厚さを減少させる。元素の拡散速度は温度とともに増大するため、ろう付け温度が高くなるにしたがって常に浸食が増加する
【0051】
本発明によるろう材は、ガスアトマイジングまたは水アトマイジングによって製造するできる粉末の形態であってもよい。適用技術に応じて、異なる粒度分布が必要である。ろう付けすべき部品に付加される場合、ろう付け材料として示されるろう付け用金属は、粉末の形態であっても、またはペースト、テープ、または箔の形態であってもよい。
【0052】
このろう材は、真空炉ろう付け、または露点が−30℃よりも低い還元性雰囲気に適している。クロムの蒸発を回避または低減するために、真空炉は、10−3Torr(0.133Pa)未満の真空度に達した後は、不活性または還元ガスで数Torr(数百Pa)の圧力に戻すとよい。
【0053】
このろう材は、少なくとも1140℃の固相線温度を有し、1200℃以上でろう付けされると、観察される結晶粒成長なしに良好な耐食性を有する亀裂のない接合部を形成する。ろう材は、毛細管現象により作用するので、ろう付けされる基材との濡れ性が重要であり、本発明によるろう材はこの要求を良好に満足する。
【実施例】
【0054】
参考材として、ろう材Ni−29Cr−6P−4Si(Ni613)を用いた。Ni613は、スウェーデンのホガナスエービー社によって製造されたニッケル基ろう材であり、市販の最も耐食性に優れたろう材である。
【0055】
表2は、本発明による試料、比較試料および参考試料の化学組成を示す。各成分は重量パーセントで示されている。「残部」という表現は、溶融物中の残りの材料がニッケルおよび不純物からなることを意味する。不純物は、その存在がろう付け材料の特性に実質的に影響を及ぼさないような少量で存在する。
【0056】
実施例1
溶融範囲および流動性
ろう付け材料について満足すべき第1の基準は、固相線温度が1140℃〜1220℃であることである。さらに、溶融幅が狭いこと、すなわち100℃未満でなければならない。表2に示すように、ろう材が溶融しろう付けされる温度は、リン、マンガンおよびシリコンの影響を受ける。化学分析は、既知の分析方法により実施し、固相線温度および液相線温度は、示差走査熱量計(DSC)分析によって測定し、STA449F3Jupiter装置により分析した。加熱速度は10K/分に設定され、パージガスはアルゴンであった。
【0057】
流動性は、平らなステンレス鋼板上に0.5gのろう材を置くことによって試験した。この試料を、高真空下で液相線温度よりも高い温度でろう付けした。ろう付け後、溶融合金を確認して溶融合金によって覆われた面積を測定した。面積が大きいほうが好ましく、良好な流動性のために必要とされる濡れが優れていることを示す。また、合金は2つ以上の相に分離してはならない。それは、受け入れられないとみなされた。流動性試験の結果を、良(許容)、可(許容)および不可(不合格)で示した。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例2
ろう付け試験、金属間相
参照材として、ろう粉末Ni−29Cr−6P−4Siを用いて、1150℃で真空中でSMO654鋼板をろう付けした。ろう付けされた接合部は、強制冷却することなく1000℃まで冷却された。この温度よりも低温になると、10barの窒素圧力で500℃まで強制冷却した。この試料を、本発明によるろう付試料、すなわちSMO654鋼板を1250℃でろう付けし、1150℃から500℃まで10barの窒素圧力で強制冷却を行って試料番号7と比較した。ろう付けされた試料を金属組織学的に検査され、粒界の金属間相を同定した。
【0060】
1000℃から強制冷却を行った試料では、図1の金属板を通して粒界に析出物が見られた。本発明のろう材を用いて1150℃から強制冷却を行った図2の第2の試料では、金属間相の量が大幅に減少し、結晶粒界は表面のみしか観察されなかった。
【0061】
実施例3
無垢のSMO654鋼鈑を炉に入れ、1180℃に加熱し、徐冷した。すなわち、強制冷却を行わなかった。対照的に、無垢のSMO654鋼鈑を1250℃で炉に入れ、10バール(1MPa)の圧力で1150℃から500℃まで強制冷却した。次いで、これらの鋼鈑の引張試験を行った。強制冷却を行わなかった試料は、図3の応力歪み曲線で示されているように、1150℃超の温度から強制冷却された試験片よりも、金属間化合物の形成により、延性はるかに小さい。
図1
図2
図3