特許第6780094号(P6780094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6780094砂型用造形材、及びそれを用いた砂型の造形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6780094
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】砂型用造形材、及びそれを用いた砂型の造形方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/02 20060101AFI20201026BHJP
   B22C 1/18 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   B22C9/02 101Z
   B22C1/18 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-509381(P2019-509381)
(86)(22)【出願日】2018年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2018013746
(87)【国際公開番号】WO2018181943
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2017-71408(P2017-71408)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】松尾 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 宗将
(72)【発明者】
【氏名】新谷 紘司
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 浩司郎
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 綱正
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−151722(JP,A)
【文献】 特開昭62−238041(JP,A)
【文献】 特開昭51−003316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00−9/30,1/00−1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂型を得るための砂型用造形材(10)において、
無機物粒子からなる骨材(12)と、前記骨材(12)を結着させるバインダを内包したマイクロカプセル(14)とを含有し、
前記バインダは、常温で液相である液状バインダ(18)であり、
且つ前記マイクロカプセル(14)は、前記液状バインダ(18)を内包するとともに、融点が前記液状バインダ(18)の硬化開始温度以下である樹脂からなる外殻(16)を有し、
造形用の型(36)内への充填時に乾態であることを特徴とする砂型用造形材(10)。
【請求項2】
請求項1記載の造形材(10)において、前記マイクロカプセル(14)は、粒径が5μm以上であることを特徴とする砂型用造形材(10)。
【請求項3】
請求項1又は2記載の造形材(10)において、前記液状バインダ(18)が無機物からなることを特徴とする砂型用造形材(10)。
【請求項4】
砂型用造形材(10)を造形することで砂型を得る砂型の造形方法において、
ブローヘッド(38)内に収容され、無機物粒子からなる骨材(12)と、常温で液相であり前記骨材(12)を結着させる液状バインダ(18)が、融点が前記液状バインダ(18)の硬化開始温度以下である樹脂からなる外殻(16)に内包されたマイクロカプセル(14)とを含有する砂型用造形材(10)を、0.15〜0.5MPaの圧力のブロー流体によって前記ブローヘッド(38)から押し出し、成形型(36)に形成されたキャビティ(34)に移動させることを特徴とする砂型の造形方法。
【請求項5】
請求項記載の造形方法において、前記砂型用造形材(10)に対して湿分を付与することなく前記ブローヘッド(38)から押し出すことを特徴とする砂型の造形方法。
【請求項6】
請求項又は記載の造形方法において、前記成形型(36)を加熱して前記外殻(16)を融解し、液状バインダ(18)を前記マイクロカプセル(14)から流出させることを特徴とする砂型の造形方法。
【請求項7】
請求項のいずれか1項に記載の造形方法において、前記ブローヘッド(38)内に残留した余剰の前記砂型用造形材(10)を、次回の造形まで前記ブローヘッド(38)内に保管することを特徴とする砂型の造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造に用いられる主型又は砂中子(砂型)を得るための砂型用造形材、及びそれを用いた砂型の造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造品に中空部を形成するための砂中子は、無機物粒子からなる骨材とバインダを含有する砂型用造形材(以下、単に「造形材」と表記することもある)から得られる。具体的には、成形型のキャビティに充填して造形材を成形するとともに、該造形材に適切な硬化処理を行う。これによりバインダが硬化するので、該バインダを介して骨材が結着される。すなわち、造形材が硬化して砂中子となる。
【0003】
また、鋳造品のキャビティを形成する主型も、砂中子と同様に、成形型のキャビティに充填された造形材を硬化することで得られる。以下、主型や砂中子等、造形材(砂)から得られた型を一括して「砂型」という。
【0004】
砂型を造形する手法として、主にフェノール樹脂等の有機バインダを用い、アミンガスを用いて硬化させるコールドボックス法が知られている。コールドボックス法は加熱を行うことなく短時間で硬化させることができるという利点を有するものの、アミンガスを外部に漏洩させずに処理するための装置が必要となり、設備が大型化してコストが増大するという問題がある。
【0005】
一方、バインダとして粘土や水ガラス、シリカゾル等の無機バインダを用いる場合、骨材と混合・混練して湿潤状態の造形材を得た直後に成形型に充填している。しかしながら、この場合、湿潤状態の造形材を十分に流動させるために高圧での充填が不可欠であり、このため、成形型をはじめとする造形装置を耐圧仕様とする必要がある。その結果として、造形装置が大型のものとなる。
【0006】
また、造形材が乾燥すると硬化が進行するため、充填時の詰まりや充填率の低下を招いてしまう。これを回避するため、湿分を付与して流動性を保つような工夫もあるが、そもそも湿潤状態では十分な流動性を得ることは容易ではない。従って、充填率を向上することが容易ではない。
【0007】
さらに、湿潤状態としても時間の経過とともにバインダが乾燥して硬化するので、造形材の状態での長期保存が困難である。そして、この性質のため、ブローヘッド内に滞留した造形材は廃棄せざるを得ない。すなわち、この従来技術には、生産効率や材料歩留まりが低く、しかも、造形装置に対して頻繁なメンテナンスが必要となるというという不都合がある。
【0008】
そこで、高温で再溶融可能な有機バインダで表面を被覆した骨材(例えば、レジンで骨材の表面を被覆したレジンコーテッドサンド)を造形材として採用することもある。この場合、造形材を乾態とすることができるので、キャビティに対する充填率を、無機バインダを用いたときに比して大きくすることができる。しかしながら、その一方で、再溶融させた有機バインダ、特にレジンを硬化させるために再加熱した際に、不快臭が発生してしまうという問題がある。
【0009】
また、特開2006−346747号公報、特開2007−144511号公報には、熱可塑性樹脂からなる外殻に、気化して膨張する膨張剤を内包したマイクロカプセルを用いることが提案されている。この場合、マイクロカプセルは、無機繊維、有機繊維及び熱硬化性樹脂とともに骨材に添加される。そして、これらを分散媒に分散したスラリーをキャビティに充填し、上記と同様に熱を付与するようにしている。
【発明の概要】
【0010】
特開2006−346747号公報及び特開2007−144511号公報に記載されるようにスラリーを用いる場合、キャビティの末端隅部まで充填させるためには、上記したように高圧を付与する必要がある。しかも、キャビティの形状が複雑であるほど、充填率の低下が大きい。このため、中空部の形状に対応しない形状の砂中子や、剛性が不十分な砂中子となる懸念を払拭できない。
【0011】
本発明の一般的な目的は、キャビティへの充填率が大きな砂型用造形材を提供することにある。
【0012】
本発明の主たる目的は、長期保存が可能であるとともに造形装置のメンテナンス頻度の低減を図り得る砂型用造形材を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、砂型用造形材を用いた砂型の造形方法を提供することにある。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、砂型を得るための砂型用造形材において、
無機物粒子からなる骨材と、前記骨材を結着させるバインダを内包したマイクロカプセルとを含有し、
前記バインダは、常温で液相である液状バインダであり、
且つ前記マイクロカプセルは、前記液状バインダを内包するとともに樹脂からなる外殻を有し、
造形用の型内への充填時に乾態である砂型用造形材が提供される。なお、本発明に係る「砂型用造形材(造形材)」は、鋳造に用いられるあらゆる種類の砂型の製造に使用される砂を指称する。
【0015】
このように、本発明では、液状バインダを外殻で遮蔽する(外殻の中空内部に液状バインダを封入する)ようにしている。このため、骨材とバインダを混練して造形材を得る際に、液状バインダが大気や骨材に直接接触することを回避した状態で骨材とバインダを混合した造形材が得られる。
【0016】
すなわち、この砂型用造形材では、無機バインダを用いた場合であっても乾燥硬化しないため、湿分を付与する必要もない。換言すれば、砂型用造形材を乾燥状態としてキャビティに供給することが可能である。乾燥状態の粒体は、湿潤状態の粒体に比して流動性に優れる。このため、この砂型用造形材では、キャビティへの充填率が大きくなる。
【0017】
しかも、上記したように常温で硬化することが防止されるので、骨材とマイクロカプセルを混合した状態、すなわち、砂型用造形材の状態で長期間にわたって保存することが可能となる。同様の理由から、造形装置のゲート等に残留した砂型用造形材を除去する必要も特にない。このため、造形装置に対するメンテナンス頻度の低減を図ることができる。
【0018】
マイクロカプセルの粒径が過度に小さいと、静電気によりマイクロカプセルが相互に凝集する傾向がある。この場合、マイクロカプセルと骨材を均一に混合することが容易でなくなる。従って、マイクロカプセルの粒径は5μm以上であることが好ましい。これにより、外殻を形成する樹脂の種類に関わらず、マイクロカプセルが凝集することを回避することができる。従って、骨材間に均一にマイクロカプセルを分散することができるので、確実に造形することが可能である。
【0019】
さらに、マイクロカプセルの外殻は、その融点が、液状バインダの硬化開始温度以下である樹脂からなることが好ましい。これにより、外殻が融解する前に液状バインダが外殻内で硬化し、骨材が結着できなくなるのを確実に回避することができるからである。
【0020】
本発明の別の一実施形態によれば、砂型用造形材を造形することで砂型を得る砂型の造形方法において、
ブローヘッド内に収容され、無機物粒子からなる骨材と、常温で液相であり前記骨材を結着させる液状バインダが樹脂からなる外殻に内包されたマイクロカプセルとを含有する砂型用造形材を、0.15〜0.5MPaの圧力のブロー流体によって前記ブローヘッドから押し出し、成形型に形成されたキャビティに移動させる砂型の造形方法が提供される。
【0021】
上記したように、本発明における砂型用造形材は乾態であり流動性に富む。従って、ブロー流体の圧力を0.15〜0.5MPaと低圧に設定しても、キャビティに容易に流入する。このため、ブロー流体を供給するためのラインやブローヘッド等を耐圧性のものとする必要は特にない。この分、設備投資の低廉化を図ることができる。
【0022】
本発明によれば、液状バインダを外殻内に封入したマイクロカプセルを用いるようにしているので、液状バインダが大気や骨材に直接接触することを回避した状態で砂型用造形材が得られる。このために砂型用造形材が乾燥硬化しないので、湿分を付与することなく砂型用造形材を乾燥状態としてキャビティに供給することが可能である。従って、キャビティへの充填率を大きくすることができる。これにより、所望の形状の砂型(主型や砂中子等)が得られる。
【0023】
しかも、常温で乾燥硬化しないので、砂型用造形材の状態で長期間にわたって保存することや、造形装置のゲート等に砂型用造形材を残留したままとすることが可能である。このため、造形装置に対するメンテナンス頻度の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態に係る砂型用造形材に含まれる構成粒子を示した模式図である。
図2図1に示されるマイクロカプセルの概略断面図である。
図3】骨材の平均粒径がマイクロカプセルの平均粒径に比して小さい場合の模式図である。
図4】骨材の平均粒径がマイクロカプセルの平均粒径に比して大きい場合の模式図である。
図5】砂型用造形材の充填率を求めるための試験用造形装置の要部概略縦断面図である。
図6】ブロー流体である圧縮エアの圧力を0.15MPaとしたときの充填率を示すグラフである。
図7】圧縮エアの圧力を0.3MPaとしたときの充填率を示すグラフである。
図8】圧縮エアの圧力を0.5MPaとしたときの充填率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る砂型の造形方法につき、それに用いる砂型用造形材との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
先ず、本実施の形態に係る砂型用造形材(造形材)につき、構成粒子を模式的に示した図1を参照して説明する。この造形材10は、骨材12とマイクロカプセル14を含む。
【0027】
骨材12は、無機物粒子からなる。無機物は、主型又は砂中子を得るための造形材10の骨材12として公知のものであればよい。その好適な例としては、ZrO2、SiO2、Al23等の金属酸化物が挙げられる。勿論、これらの混合物であってもよい。SiO2は、天然ケイ砂であってもよい。
【0028】
マイクロカプセル14は、概略断面である図2に示すように外殻16を有する。本実施の形態において、この外殻16は、樹脂からなる。外殻16の中空内部には、所定量の液状バインダ18が封入されている。換言すれば、外殻16は液状バインダ18を内包している。
【0029】
液状バインダ18は、常温で液相であり、熱が付与されることで硬化することに伴って結着力を示すようになる。すなわち、硬化によってバインダとして機能する。この種の液状バインダ18としては、上記の従来技術と同様に、粘土や水ガラス、シリカゾル等の無機バインダや、レジン等の有機バインダを適宜選定することができる。
【0030】
略球体をなす外殻16は、液状バインダ18を遮蔽している。換言すれば、液状バインダ18は、外殻16によって大気や骨材12と離隔されている。このため、液状バインダ18が外殻16の中空内部で硬化することが抑制される。
【0031】
外殻16をなす樹脂が、融点が過度に高いものであると、外殻16が溶融する前に中空内部で液状バインダ18、特に硬化温度の低い無機バインダであるときには、硬化が始まることが想定される。これを回避するべく、外殻16は、その融点が液状バインダ18の硬化開始温度以下である樹脂で構成することが好ましい。
【0032】
骨材12、マイクロカプセル14の各平均粒径は、互いの差が小さいことが好ましい。この場合、マイクロカプセル14が骨材12に対して略均等に分散するからである。マイクロカプセル14の平均粒径が骨材12に対して過度に大きいと、図3に示すように、骨材12の粒子同士の間にマイクロカプセル14が介在することが容易でなくなる。
【0033】
また、マイクロカプセル14の粒径は5μm以上が望ましい。粒径が5μm未満であると、図4に示すように、マイクロカプセル14が骨材12よりも小径となる。この場合、マイクロカプセル14が静電気により凝集して偏在するようになるので、マイクロカプセル14を骨材12中に分散させることが容易でなくなる。
【0034】
次に、上記のように構成される造形材10の作用効果につき、本実施の形態に係る砂型の造形方法との関係で説明する。
【0035】
図5は、造形方法を実施するための試験用造形装置30の要部概略縦断面図である。この試験用造形装置30につき概略説明する。
【0036】
試験用造形装置30は、ダイベース32と、キャビティ34が形成された金型36(成形型)と、ブローヘッド38とを有する。金型36はダイベース32から取り外し可能であり、且つブローヘッド38は金型36から取り外し可能である。ダイベース32から取り外され且つブローヘッド38が取り外された状態の金型36から、砂型を取り出すことが可能となる。
【0037】
この場合、キャビティ34はサーペンタイン(蛇行状)形状をなし、ブローヘッド38側に臨む上方が上流側、ダイベース32に臨む下方が下流側となる一方通行路として形成されている。要するに、ゲート40側の流入口が最上流、先端で閉塞した袋小路部42が最下流である。
【0038】
なお、このような形状のキャビティ34を造形材10が流動することは、著しく困難である。すなわち、キャビティ34は、鋳造品に中空部を形成する砂型を得るための造形装置のキャビティに比して、造形材10が充填され難い形状をなしている。
【0039】
ブローヘッド38の底壁部38aには、キャビティ34に流通するゲート40が形成される。造形材10は、このゲート40を通過してキャビティ34に流入する。また、ブローヘッド38の天井壁部38bにはブロー口44が形成されるとともに、該ブロー口44にブローノズル46が接続される。ブローノズル46は、管継手48及び供給ホース50を介して、図示しない圧縮エア(ブロー流体)供給源に接続される。
【0040】
次に、本実施の形態に係る造形方法につき、上記のように構成される試験用造形装置30を用いて実施する場合を例示して説明する。なお、以下では、液状バインダとして無機バインダである水ガラスを用いた場合を例示する。
【0041】
先ず、ブローヘッド38内に、骨材12とマイクロカプセル14を含有する前記造形材10を収容する。なお、ブローヘッド38内の造形材10に湿分を付与する必要はない。上記したように水ガラス(液状バインダ18)がマイクロカプセル14の外殻16に内包されているので、水ガラスが大気や骨材12に接触することが回避される。従って、水ガラスが硬化することも回避されるからである。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、湿分を付与して水ガラスの硬化を防止せずとも、造形材10に流動性が発現する。このため、造形材10を取り扱うことが容易となる。
【0043】
次に、ブローヘッド38を、ダイベース32に取り付けられた金型36の上部に配置する。なお、金型36は約150℃程度に予め昇温されている。
【0044】
次に、前記圧縮エア供給源から供給ホース50及びブローノズル46を介して、圧縮エアをブローヘッド38内に供給する。この圧縮エアで上方から押圧されることにより、底壁部38a側の造形材10がゲート40からキャビティ34に流入し始める。ここで、造形材10は十分な流動性を有するので、圧縮エアを低圧に設定することができる。具体的には、0.15〜0.5MPaとすれば十分である。このため、供給ホース50やブローノズル46、管継手48等を、低圧用の汎用品で構成することが可能となる。従って、設備投資の低廉化を図ることができる。
【0045】
ゲート40から流入した造形材10は、キャビティ34に沿って流動し、袋小路部42に到達する。所定の時間が経過した時点でブローを停止し、これにより造形材10のキャビティ34への流入を停止する。
【0046】
さらに、所定時間放置する。上記したように金型36が加温されているので、放置中に造形材10に熱が付与される。このためにマイクロカプセル14の外殻16が融解し、その結果、外殻16の中空内部に封入されていた水ガラスが流出する。外殻16をなす樹脂の融点が、水ガラスの硬化開始温度以下であると、外殻16が融解する前に該外殻16内で水ガラスが硬化することを回避することができるので好適である。
【0047】
水ガラスは、硬化開始温度以上となる熱が付与されることに伴って硬化する。これにより骨材12である無機物粒子同士が結着され、その結果、主型や砂中子等の砂型が形成されるに至る。
【0048】
この過程で、レジンコーテッドサンドを用いたときのような不快臭が発生することが回避される。この理由は、無機バインダである水ガラスを用いていること、また、マイクロカプセル14の外殻16をなす樹脂の量が、レジンコーテッドサンドの樹脂の量よりも著しく少ないためであると推察される。
【0049】
また、上記したように、水ガラスは、造形材10中でマイクロカプセル14の外殻16によって遮蔽されている。常温では外殻16は融解しないので、水ガラスが骨材12を濡らした後、乾燥して硬化することが防止される。すなわち、常温で造形材10が硬化することが回避される。
【0050】
従って、例えば、ブローヘッド38内に造形材10が残留したときには、そのままの状態で長期間にわたって保存しておくことが可能である。また、ゲート40等に付着した造形材10が硬化することが回避されるので、これを除去する必要も特にない。従って、試験用造形装置30のメンテナンス頻度の低減を図ることができる。
【0051】
ここで、図6図8に、造形材10、有機バインダであるレジンコーテッドサンド、又は、骨材12に無機バインダを添加した従来技術に係る造形材を用いて試験用造形装置30のキャビティ34に複数回充填を行ったときの充填率の結果を、グラフとして示す。なお、図6図8は、それぞれ、圧縮エアを0.15MPa、0.3MPa、0.5MPaとし、ブローの継続時間を5秒、熱付与を60秒としたときの充填率であり、○、×、□の各プロットが造形材10、レジンコーテッドサンド、従来技術に係る造形材を表す。また、レジンコーテッドサンドを用いたときのみ、金型36の温度を、レジンの硬化開始温度である250℃に設定した。
【0052】
さらに、充填率は、下記の式(1)に従って算出した。
P={W/(V×ρ)}×100 …(1)
ここで、Pは充填率(%)、Wは充填された造形材10の重量(g)、Vはキャビティ34の容積(cm3)、ρは造形材10の密度(g/cm3)である。
【0053】
これら図6図8を参照し、いずれの圧力においても、造形材10の充填率の平均値が最も大きいことが分かる。また、この造形材10では、充填が困難な形状のキャビティ34において、5秒という比較的短時間であるにも関わらず大きな充填率が得られることから、充填が容易な通常の成形型では、充填率が95〜98%程度となると推察される。
【0054】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0055】
例えば、上記の実施の形態では、マイクロカプセル14の外殻16をなす樹脂を熱で溶融させることで内包している液状バインダ18を骨材12に塗布しているが、外殻16を半透膜とすることで、造形材10を型内に充填した後、キャビティ34内部に高湿エアを流通させることでマイクロカプセル14の内部に水分を浸透させ、内圧を高めることで外殻16を破壊し、液状バインダ18を骨材12に塗布させることもできる。
【0056】
また、充填後のキャビティ34を機械的に加圧することでマイクロカプセル14の外殻16を破裂させ、液状バインダ18を骨材12に塗布するものであってもよい。
【0057】
以上の場合、加熱によってマイクロカプセル14の外殻16を溶融させる方法に比して一層正確に造形材10の硬化開始時期を制御することが可能である。しかも、造形材10の充填前に金型を十分冷却するための時間を短縮できるので、一層効率的に造形することが可能となる。
【0058】
また、加熱手段としては既存のヒータやオーブン、又はマイクロ波を用いた加熱等を採用することが可能であり、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0059】
10…砂型用造形材 12…骨材
14…マイクロカプセル 16…外殻
18…液状バインダ 30…試験用造形装置
34…キャビティ 36…金型
38…ブローヘッド 40…ゲート
46…ブローノズル 50…供給ホース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8