(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基体及び該基体の外周面に突起を複数有する鋳包み用シリンダライナであって、以下の式(1)で定義される湯回り指数YIが、2.2以上14.5以下である、鋳包み用シリンダライナである。
湯回り指数YI=[突起頂部の面積率St(%)×溶湯浸透容積V(mm3)/シリンダライナ基体の外周表面積A(mm2)]/突起頂部の平均表面間距離Pav(mm) ・・・(1)
上記式(1)中、突起頂部の面積率Stはシリンダライナ外周側から突起の高さ方向にみた突起の投影面積率である。
上記式(1)中、溶湯浸透容積Vは、V=α−β−(γ×δ)で表される。但し、
α=π×(突起を含めたシリンダライナ最外径dmax(mm)/2)2×シリンダライナ軸方向長さL(mm)、
β=π×(シリンダライナ基体の外径d(mm)/2)2×シリンダライナ軸方向長さL(mm)、
γ=単位面積あたりの突起数×[(シリンダライナ基体の外径d(mm)×π×シリンダライナ軸方向長さL(mm))/単位面積(mm2)]、
δ=π×(突起の頂部の平均直径dpav(mm)/2)2×平均突起高さHav(mm)、である。
なお、シリンダライナ両端部に面取り加工が施されている場合は、当該面取り部の長さを差し引いた長さをシリンダライナ軸方向長さLとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、シリンダライナ基体の外周面に突起を設け、更にその突起の形状を括れたものとすることで、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を向上させる試みがされている。
一方で、シリンダブロックの製造の際には、シリンダライナを配置したシリンダブロックの鋳型内に鋳造材料を流し込んで、シリンダライナの外周を鋳造材料で鋳包む方法により製造されるが、この際に、鋳型内に流し込む鋳造材料が、シリンダライナ基体の外周面の突起間領域に十分に行き渡らないことがあった。特に、重力鋳造や低圧金型鋳造を用いる場合にこうした事象が起こりやすく、また、高圧金型鋳造を用いる場合においても、シリンダとシリンダとの間など湯が回りにくい部位にてこうした事象が散見された。その結果、シリンダライナ外周面とシリンダブロックとの接合部分に空隙が生成することで、接合強度が十分に得られない場合があることに想到した。なお、本明細書においてシリンダライナ基体とは、シリンダライナのうち突起部分を除いた略円筒形状のシリンダライナ本体部分を意味する。
本発明は、シリンダライナ基体の外周面とシリンダブロックとの接合部分に生じる空隙を抑制することで、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を向上し得る、鋳包み用シリンダライナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討し、シリンダライナ基体の外周面に存在する突起の形状のうち、隣り合う突起の突起間距離と、突起頂部の面積と、シリンダライナの突起頂部と基体外周面との間の空間と、に着目した。これは、発明者らが行った実験から知見を得たものである。
具体的には、
図6に従来技術のシリンダライナとシリンダブロック間の湯回りの様子を示す。なお、画面上側が鋳造材料、下側がシリンダライナであり、鋳造材料は画面右から左へ向かって流れてきた。
図6から明らかなように、鋳造材料がシリンダライナ表面を流れるにあたり、シリンダライナ基体の外周面に到達しない箇所があり、ここに空隙が発生することを確認した。
【0008】
そして、隣り合う突起の突起間距離と、突起頂部の面積と、シリンダライナの突起頂部とシリンダライナ基体の外周面との間の空間と、を適切に制御することで、溶湯(溶融状態にある鋳造材料を指す)がシリンダライナ基体の外周面の突起間領域に行き渡り、シリンダブロックとの界面に生じる空隙を低減することが可能となり、重力鋳造を用いる場合でもシリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を改善できることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、
図7に本発明のシリンダライナとシリンダブロック間の湯回りの様子を示す。なお、
図6と同様に画面上側が鋳造材料、下側がシリンダライナであり、鋳造材料は画面右から左へ向かって流れてきた。
図7から明らかなように、本発明者らが完成させたシリンダライナでは、明らかに鋳造材料(シリンダブロック)とシリンダライナとの間の空隙が低減された。
【0009】
本発明は、基体及び該基体の外周面に突起を複数有する鋳包み用シリンダライナであって、以下の式(1)で定義される湯回り指数YIが、2.2以上14.5以下である、鋳包み用シリンダライナである。
湯回り指数YI=[突起頂部の面積率S
t(%)×溶湯浸透容積V(mm
3)/シリンダライナ基体の外周表面積A(mm
2)]/突起頂部の平均表面間距離P
av(mm) ・・・(1)
上記式(1)中、突起頂部の面積率S
tはシリンダライナ外周側から突起の高さ方向にみた突起の投影面積率に相当し、括れのある突起においては、突起先端付近の径極大部に相当する箇所の面積率である。
上記式(1)中、溶湯浸透容積Vは、V=α−β−(γ×δ)で表される。但し、
α=π×(突起を含めたシリンダライナ最外径d
max(mm)/2)
2×シリンダライナ軸方向長さL(mm)、
β=π×(シリンダライナ基体の外径d(mm)/2)
2×シリンダライナ軸方向長さL(mm)、
γ=単位面積あたりの突起数×[(シリンダライナ基体の外径d(mm)×π×シリンダライナ軸方向長さL(mm))/単位面積(mm
2)]、
δ=π×(突起の頂部の平均直径d
pav(mm)/2)
2×平均突起高さH
av(mm)、である。
なお、シリンダライナ両端部に面取り加工が施されている場合は、当該面取り部の長さを差し引いた長さをシリンダライナ軸方向長さLとする。
【0010】
前記式(1)中、突起頂部の面積率St(%)が8以上35以下であることが好ましく、突起頂部の平均表面間距離P
av(mm)が0.7以上2.3以下であることが好ましく、溶湯浸透容積V(mm
3)/シリンダライナ基体の外周表面積A(mm
2)が0.3mm以上0.7mm以下であることが好ましく、突起の頂部の平均直径d
pav(mm)が0.7以上1.3以下であることが好ましい。
また、前記複数の突起は、その高さのばらつきΔH(mm)が0.3以下であることが好ましく、突起頂部の面粗さRz(μm)が100以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るシリンダライナを用いることで、鋳型内に流し込む溶湯がシリンダライナ外周の突起間にも行き渡り、シリンダブロックとの界面に生じる空隙を低減することが可能となり、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を改善できる。特に、溶湯が行き渡りにくいとされる重力鋳造法により製造されたシリンダブロックであっても、シリンダライナとシリンダブロックとの界面に生じる空隙を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態は、基体及び該基体の外周面に突起を複数有する鋳包み用シリンダライナであって、以下の式(1)で定義される湯回り指数YIが、2.2以上14.5以下である、鋳包み用シリンダライナである。
湯回り指数YI=[突起頂部の面積率S
t(%)×溶湯浸透容積V(mm
3)/シリンダライナ基体の外周表面積A(mm
2)]/突起頂部の平均表面間距離P
av(mm) ・・・(1)
【0014】
シリンダライナ基体の外周面には、括れた突起が複数存在する。括れた突起は、シリンダライナ基体の外周面から高さ方向に向かって太さが漸減し、最小太さを有する。その後高さ方向に向かって太さが漸増し、極大値を示す。このような突起を、本明細書では括れた突起とする。
シリンダライナ基体の外周面に存在する突起のうち、括れた突起の割合(以下突起括れ率とも称する)は、50%以上であることが好ましく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、100%であってよい。突起括れ率は、シリンダライナ基体の外周面の任意突起を観察し、観察した突起数に対する括れた突起数の割合をいう。
【0015】
湯回り指数YIは、シリンダライナ基体の外周面に存在する複数の突起のうち、隣り合う突起の突起間距離と、突起頂部の面積と、シリンダライナの突起と基体の外周面との間の空間と、を適切に制御するための指数である。当該湯回り指数YIが上記範囲にあることで、溶湯がシリンダライナ基体の外周面の突起間領域に行き渡り、シリンダブロックとの界面に生じる空隙を低減することが可能となり、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を改善できる。湯回り指数について、図を用いて説明する。
【0016】
図1は、シリンダライナとシリンダブロックとの接合部を模式的に示す断面図である。図面上部がシリンダブロックであり、図面下部がシリンダライナである。
シリンダライナ基体の外周面11には、複数の括れた突起10が存在し、複数の括れた突起間にシリンダブロックを構成する鋳造材料が入り込むことで、シリンダライナ外周面に存在する括れた突起の頂部とシリンダブロックとが鍵と鍵穴の関係となり、強固な接合を実現する。
【0017】
一方で、シリンダライナとシリンダブロックとの接合は、鋳型内に配置したシリンダライナ基体の外周面に、溶湯を流し込むことで実現される。この際に、シリンダライナ基体の外周面に存在する複数の括れた突起の形成状況によっては、溶湯が突起間に行き渡らない場合もあった。本実施形態では、上記湯回り指数YIを特定の範囲内とすることで、鋳型内に流し込む溶湯が突起間にも行き渡り、シリンダブロックに生じる空隙を低減することが可能となり、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を改善できる。特に、溶湯が隅々まで行き渡り難いとされる重力鋳造法により製造されたシリンダブロックであっても、溶湯がシリンダライナ外周面の突起間にも行き渡る。
図4に、後述の実施例で明らかとなった、湯回り指数YIと空隙率の関係を示す。
【0018】
上記湯回り指数YIが上記上限より大きい場合、溶湯が突起の間に浸透せず、シリンダライナとシリンダブロックとの間に空隙が生じ、接合強度や燃焼室内で発生した熱を冷却水に伝える熱伝達性が不十分となる。一方で、湯回り指数YIが上記下限より小さい場合、溶湯が突起上を十分に流れることなく早期にシリンダライナ基体の外周面に触れてしまうことで溶湯温度が低下し、溶湯の流れが阻害される。その結果、溶湯が隅々まで行き渡らず、シリンダライナとシリンダブロックとの間に空隙が生じ、接合強度が不十分となることを新たに見いだした。
図5に、後述の実施例で明らかとなった、空隙率と接合強度の関係を示す。
【0019】
図1では、シリンダライナ基体の外周面11の複数の突起10が、比較的大きな突起頂部の直径d
pを有し、且つ突起間距離Pが比較的小さいため、シリンダライナ基体の外周面11に複数の突起が緻密に配置されている。そうすると、溶湯の粘度や表面張力が抵抗となり、複数の突起間に溶湯が浸透し難くなる。また複数の突起間に溶湯が浸透するために時間を要し、溶湯が突起間に浸透するよりも早く、溶湯が湯冷めし凝固する、といった悪循環に陥る。
他方
図2では、シリンダライナ基体の外周面21の複数の突起20が、比較的小さな突起頂部の直径d
pを有し、且つ突起間距離Pが比較的大きいため、シリンダライナ基体の外周面21に複数の突起が広い間隔を有し低密度に配置されている。そうすると、複数の突起上を溶湯が滑り流れる途中で溶湯が突起間に容易に浸透してシリンダライナ基体の外周面に触れ、溶湯が湯冷めしてしまう。そうすると、溶湯がシリンダライナの隅々まで流れなくなる。
すなわち、溶湯の粘度や表面張力に適合させ、溶湯が突起間に浸透するために最適な突起配置を有するシリンダライナを開発する必要があった。
【0020】
式(1)中、突起頂部の面積率S
t(%)は、シリンダライナ外周側から突起の高さ方向に見た突起の投影面積率に相当し、括れのある突起においては、突起先端付近の径極大部に相当する箇所の面積率である。突起頂部の面積率S
tは8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、35以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましい。突起頂部の面積率S
tが上記範囲である場合、溶湯が突起の間に浸透しやすく、また、溶湯が早期にシリンダライナ基体の外周面に触れてしまうことで溶湯が冷めることを抑制できる。
【0021】
式(1)中、溶湯浸透容積V(mm
3)は、V=α−β−(γ×δ)で表される。α=π×(突起を含めたシリンダライナ最外径d
max(mm)/2)
2×シリンダライナ軸方向長さL(mm)であり、β=π×(シリンダライナ基体の外径d(mm)/2)
2×シリンダライナ軸方向長さL(mm)であり、γ=単位面積あたりの突起数×[(シリンダライナ基体の外径d(mm)×π×シリンダライナ軸方向長さL(mm))/単位面積(mm
2)]であり、δ=π×(突起の頂部の平均直径d
pav(mm)/2)
2×平均突起高さH
av(mm)、である。
【0022】
溶湯浸透容積V(mm
3)は、シリンダライナ基体の外周面から突起頂部までに存在する突起間領域を表す。そのため、突起を含めたシリンダライナ最外径d
max(mm)を円筒径とみなした円筒容積αから、シリンダライナ基体の外径d(mm)を円筒径とみなした円筒容積βを減じ、更にシリンダライナが備える突起数(みなし突起数)γと突起を円筒形状に見立てた突起体積(みなし突起体積)δとの積を減じたものを溶湯浸透容積Vとした。
シリンダライナ基体の外周表面積A(mm
2)は、シリンダライナ基体の外径d(mm)を円筒径とみなした円筒外周表面積であり、溶湯浸透容積Vはシリンダライナの径により大きく変化するため、溶湯浸透容積Vをシリンダライナ基体の外周表面積Aで除することで、実質的に規格化をした。
単位面積あたりの突起数は、1cm
2あたりに存在する突起数であり、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、また40以下であることが好ましく、35以下であることが好ましい。この範囲であることで、表面突起間距離Pが適正な値となりやすくなる。
【0023】
突起頂部の平均直径d
pav(mm)は、シリンダライナ外周側から突起の高さ方向に見た各突起の平均投影面積から算出した突起の直径であり、突起頂部における径極大部の直径に相当する。d
pavは、0.7以上が好ましく、0.8以上がより好ましく、1.3以下が好ましく、1.1以下がより好ましい。突起頂部の平均直径d
pavが上記範囲にあることで、突起頂部の平均表面間距離P
avが適正な値となりやすくなる。
【0024】
突起の平均高さH
av(mm)は特に限定されないが、通常0.3以上であり、0.4以上であってもよく、また通常0.9以下であり、0.7以下であってもよい。
突起頂部の面積率S
t、突起頂部の平均直径d
pav、突起頂部の平均表面間距離P
av、及び平均突起高さH
avは、3D表面計測器などにより測定できる。
【0025】
溶湯浸透容積V(mm
3)/シリンダライナ基体の外周表面積A(mm
2)は、0.7mm以下であることが好ましく、0.66mm以下であることがより好ましく、下限は0.3mm以上であることが好ましい。溶湯浸透容積V(mm
3)/シリンダライナ基体の外周表面積A(mm
2)の値が、上記上限以下であることで、溶湯が突起の間に浸透しやすくなる。
【0026】
突起頂部の平均表面間距離P
av(mm)は、隣り合う突起同士の、突起頂部間の距離の平均を示す。
図1で示すように、突起のうち、極大径を示し得る頂部間の距離Pは、すなわちシリンダライナ表面を流れる溶湯が突起間領域に浸透し得る入口の大きさを示すものである。
突起頂部の平均表面間距離P
av(mm)は、以下の方法により測定できる。
【0027】
d
maxは、シリンダライナ1本につき、上中下の3カ所、各XY方向の合計6カ所をノギスで測定し、その平均値とする。このとき、ノギスが確実に突起の先端に掛かるように測定する。
突起頂部の平均表面間距離P
avの算出方法は、後述の実施例で示す手順で行う。
【0028】
本実施形態のシリンダライナは、シリンダブロックに鋳包まれる際に、溶湯が突起間に浸透することを更に改善するため、更に以下の要件を満たすことが好ましい。
シリンダライナ基体の外周面に存在する複数の突起は、その高さのばらつきΔH(mm)が0.3以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましい。突起の高さのばらつきΔH(mm)が上記よりも大きい場合には、突起上の溶湯の流れを阻害する場合があり、好ましくない。高さのばらつきΔHは小さいほど好ましい。
高さのばらつきΔH(mm)は、3D表面計測器などにより測定でき、観察視野中での突起最大高さと突起最小高さとの差である。
【0029】
シリンダライナ基体の外周面に存在する複数の突起は、その頂部の面粗さRzが100μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましい。突起頂部の面粗さRzの下限については、特に限定されないが、実質的に10μm程度であり、小さい方が好ましい。また、複数の突起頂部の面粗さRskは0未満(マイナスの値)であることが好ましい。
突起頂部の面粗さRzが上記よりも大きい場合、及び/又は突起頂部の面粗さRskがゼロ乃至はプラスの値である場合には、突起上の溶湯の流れを阻害する場合があり、好ましくない。
突起頂部の面粗さRz及びRskは、レーザー顕微鏡により測定できる。
【0030】
本実施形態のシリンダライナの製造方法の一例を以下に説明する。
シリンダライナの素材となる鋳鉄の組成は、特に限定されるものではなく、典型的には、耐摩耗性、耐焼き付き性及び加工性を考慮したJIS FC250相当の片状黒鉛鋳鉄の組成として、以下に示す組成を例示できる。
C :3.0〜3.7質量%
Si:2.0〜2.8質量%
Mn:0.5〜1.0質量%
P :0.25質量%以下
S :0.15質量%以下
Cr:0.5質量%以下
残部:Fe及び不可避的不純物
【0031】
シリンダライナの製造方法は特段限定されないが、重力鋳造法であっても遠心鋳造法であってもよいが、遠心鋳造法によることが好ましく、典型的には以下の工程A〜Eを含む。
<工程A:懸濁液調製工程>
工程Aは、耐火基材、粘結剤、及び水を所定の比率で配合して懸濁液を作成する工程である。
耐火基材としては、典型的には珪藻土が用いられるが、これに限られない。懸濁液中の珪藻土の含有量は、通常15質量%以上、35質量%以下であり、珪藻土の平均粒径は通常0.02mm以上、0.035mm以下である。
粘結剤としては、典型的にベントナイトが用いられるが、これに限られない。懸濁液中のベントナイトの含有量は、通常3質量%以上、9質量%以下である。
また、懸濁液中の水の含有量は、通常62質量%以上、80質量%以下である。
【0032】
<工程B:塗型剤調製工程>
工程Bは、工程Aで調製した懸濁液に所定量の界面活性剤を添加して、塗型剤を作成する工程である。
界面活性剤の種類は特に限定されず、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等の既知の界面活性剤を1種、又は2種以上を組み合わせて用いられる。界面活性剤の配合量は、通常0.003質量%以上、0.04質量%以下である。
【0033】
<工程C:塗型剤塗布工程>
工程Cは、鋳型となる円筒状金型の内周面に塗型剤を塗布する工程である。塗布方法は特段限定されないが、典型的には噴霧塗布が用いられる。塗型剤の塗布時には、塗型剤の層が内周面全周にわたって略均一の厚さに形成されるように塗型剤が塗布されることが好ましい。また、塗型剤を塗布し、塗型剤層を形成する際に、円筒状金型を回転させることで、適度な遠心力を付与することが好ましい。
【0034】
塗型剤層の厚みは、突起の高さの1.3〜1.8倍の範囲内で選択することが好ましいが、これに限られない。塗型剤層をこの厚みとする場合には、鋳型の温度を300℃以下とすることが好ましい。
【0035】
<工程D:鋳鉄鋳込み工程>
工程Dは、乾燥した塗型剤層を有する回転状態にある鋳型内へ、鋳鉄を鋳込む工程である。この際に、前工程で説明した塗型剤層の括れた形状を有する凹穴に溶湯が充填されることで、シリンダライナの表面に括れた突起が形成される。なお、この際にも適度な遠心力を付与することが好ましい。
【0036】
<工程E:取り出し、仕上げ工程>
工程Eは、製造したシリンダライナを鋳型から取り出し、シリンダライナ表面の塗型剤層をブラスト処理によりシリンダライナから除去することで、シリンダライナが完成する。
【0037】
上記工程を経てシリンダライナが完成する。シリンダライナ基体の外周面の突起について、湯回り指数YIを適切な値とするためには、突起間隔を適度に広くし、突起頂部の面積率を適度な大きさとすることが必要である。そのため、界面活性剤の量、ライニング厚さ、金型温度などを適宜調整することにより、シリンダライナ基体の外周面の突起を、所望の形態にできる。
また、突起頂部の面粗さRsk、Rzは、上記工程Eの耐火材の種類及び珪藻土の粒径を調整することで、適切な値とすることができる。また、ブラスト処理に用いるメディアの粒径を小さくすることで突起頂部の面粗さを小さくすることができる。
【0038】
本実施形態のシリンダライナは、シリンダブロックと接合し、複合体となる。複合体の製造は公知の方法を採用することができ、一例としては、シリンダブロック用鋳型を準備する工程、及び準備したシリンダブロック用鋳型に本実施形態のシリンダライナを配置する工程、及びシリンダライナが配置されたシリンダブロック用鋳型内に溶湯を流し込み、シリンダブロックを形成する工程、を含んでもよい。
【0039】
本実施形態のシリンダライナを用いてシリンダブロックとの複合体を製造することで、シリンダライナ基体の外周面の突起間距離及び突起面積率が適切な範囲であるため、シリンダブロックを形成する溶湯が、シリンダライナ基体の外周面に早期に触れて湯冷めすることなくシリンダライナの突起上を滑り流れ、シリンダブロック用鋳型の隅々まで行き渡る。そして、溶湯がシリンダライナ基体の外周面の突起間にも行き渡るため、シリンダライナとシリンダブロックとの界面の空隙が低減され、シリンダライナとシリンダブロックとの接合力が改善する。シリンダライナとシリンダブロックとの複合体において、シリンダブロックの空隙率は、良好な接合力を得る観点から、5.0%以下であることが好ましく、4.8%以下であることがより好ましく、4.0%以下であることが更に好ましく、3.0%以下であることが特に好ましい。また下限値は特に限定されず、通常0%以上である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、以下の実施例により本発明の範囲が限定されないことはいうまでもない。
【0041】
本実施例で用いたシリンダライナの各種物性の測定方法は以下のとおりである。
<突起括れ率の測定>
突起の括れ率は、マイクロスコープ(株式会社ハイロックス製デジタルマイクロスコープKH−1300)を用い、斜め方向から任意の突起を20個観察し、そのうち何個の突起に括れが認められるかによって算出した。1本のシリンダライナあたり、4カ所の測定を行い、その平均値を括れ率とした。
【0042】
<突起頂部の面積率S
t、突起頂部の平均直径d
pav>
1)3D測定器(キーエンス製VR−3000)により、倍率25倍で、測定視野(12mm×9mm)中の突起を計測し算出した。
2)計測したデータを付属の解析ソフトで開き、曲率補正を行った。補正条件は、二次曲面補正とした。
3)基準面を設定した。このとき、領域指定による自動設定とした。
4)しきい値を設定した。しきい値の目安は突起高さの1/2から1/3程度とし、例えば0.15mmから0.3mmの値を設定する。今回表1のしきい値は0.25mmとした。
5)計測結果を閲覧した。しきい値を超える高さ領域が突起と見なされ、その数量から突起数量を計測することができる。このとき、突起数量は視野内に存在する総突起数−視野の境界部に掛かる突起数×1/2個とした。
6)計測した3Dデータより、各突起のしきい値における突起断面積(投影面積に相当)が導出され、これらを合計した突起総面積を計測面積で除することにより、突起頂部の面積率Stを算出し、突起総面積を突起数量で除することにより、突起1つあたりの平均面積を算出し、そこから突起頂部の平均直径d
pavを求めた。
【0043】
<H
av、ΔH>
1)各突起高さは、表示レンジ中心+しきい値+最大高さの合計値である。その視野における各突起高さの平均値を平均突起高さH
avとした。なお、表示レンジ中心は測定するシリンダライナの性状に応じ自動的に決まるパラメータであり、突起のシリンダライナ基体外周面から基準面までの高さを表す。しきい値は基準面からの高さを表し、最大高さはしきい値から突起の先端までの高さを表しており、各突起により値が異なる。
2)視野内における各突起高さの最大値−最小値、を突起高さばらつきΔHとした。
【0044】
<突起頂部の平均表面間距離P
av>
突起頂部の平均表面間距離P
avの測定方法は、以下の手順で行った。
1)測定視野中に突起を、その隣り合う突起が等位置で6配位すると仮定して、測定視野中に突起を配置した。そして6配位で配置後、突起頂部の面積率S
tと突起頂部の平均直径d
pavから、突起中心からその隣り合う突起中心までの距離を計算した。
2)突起中心からその隣り合う突起中心までの距離からd
pavを引くことで、突起頂部の平均表面間距離P
avを求めた。
こうした手順で測定することによって、より簡便にそのシリンダライナの特徴を評価することができる。
なお、突起の括れ率、突起頂部の面積率S
t、突起頂部の平均直径d
pav、H
av、ΔH、及び突起頂部の平均表面間距離P
avは、1本のシリンダライナにつき4カ所(4視野)測定した平均値とした。4カ所とは、シリンダライナ両端部から約20mm位置において対向する位置にてそれぞれ2カ所ずつとし、両端部においては互いに約90°ずらした位置とすることが好ましいが、これに限定はされない。
【0045】
<突起頂部の面粗さRz及びRsk>
突起頂部の面粗さの測定方法は、以下の手順で行った。
1)レーザー顕微鏡(キーエンス製VK-X100)により、対物レンズ倍率20倍で任意の突起がモニタ中央に来るようセットしデータを計測した。このとき、シリンダライナ基体の曲面の頂部付近にある突起を撮影することを心がけた。
2)測定したデータを付属の解析ソフトで開き、面傾き補正を行った。表面粗さ計測ツールにて、突起先端部の粗さを解析した。解析面積は、縦300μm、横350μmを基本とし、解析範囲に突起端部の傾斜領域を含まないようにした。突起の端部が近接する場合は、縦200μm、横250μm程度としてもよい。解析結果から、Rz及びRskの値を読み取った。
3)Rz及びRskは、1本のシリンダライナにて、1カ所につき任意の5本の突起を測定し、これを上記4カ所にて行いその平均を求めた。
【0046】
実験:
・塗型剤の調製
以下に示す原料を用い、塗型剤を調製した。
【0047】
耐火材:珪藻土 18〜30%
珪藻土平均粒径:0.021〜0.034mm
粘結剤:ベントナイト 4〜8%
界面活性剤:0.003〜0.02%
水:65〜75%
【0048】
・シリンダライナの作製
以下の組成の溶湯を用いて遠心鋳造により各実施例及び比較例のシリンダライナを作製した。鋳造されたシリンダライナの組成は、
C :3.4質量%、
Si:2.4質量%、
Mn:0.7質量%、
P :0.12質量%、
S :0.035質量%、
Cr:0.25質量%、
残部Fe及び不可避的不純物Z(JIS FC250相当)であった。
【0049】
表1に示す実施例1〜10、並びに比較例1〜5に係るシリンダライナを作製した。なお、いずれの実施例においても、工程Cにおける円筒状金型の温度は220〜280℃の範囲で適宜変更し、且つGno(ライニング)を40〜70Gとして塗型剤層を形成した。但し、塗型剤層の厚みについては、0.7〜1.3mmの範囲で適宜変更することで、適宜突起の高さを変更させた。また、工程D以降については、Gno(鋳込み)を100〜130G、金型温度を200〜260℃として鋳鉄の鋳込みを行った。その後得られた鋳鉄製円筒部材の内周面を切削加工して、肉厚を調整した。
このようにして得られた鋳鉄製円筒部材の寸法は、外径(突起の高さを含む外径)86mm、内径77mmであり、面取り部を除く軸方向の長さは133mmであった。作製したシリンダライナの突起の性状を表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
・シリンダブロックの作成
実施例1〜10、及び比較例1〜5に係るシリンダライナを用いて、以下の条件でシリンダライナとシリンダブロックとの接合体を製造し、得られたシリンダブロックの空隙面積率と、シリンダライナとの接合強度を評価した。なお、1つのシリンダにおいて、少なくとも周方向に8等分して測定サンプルとし、測定サンプルには、隣接するシリンダとの最近接部位を含むこととした。
鋳造方法:砂型重力鋳造
アルミ材質AC4
【0052】
得られたシリンダライナとシリンダブロックとの接合体は、以下の方法により、シリンダブロックの空隙率を測定した。
i)シリンダライナとブロックアルミとの界面を含む試料を切り出し、その断面を研磨した。
ii)研磨後、金属顕微鏡にて上記界面を含む連続した3枚の写真を撮影した。撮影倍率は100倍とした。
iii)撮影後、画像解析ソフト(Motic Images Plus 2,3S)を用いた二値化処理にて空隙部を抽出し、各写真の空隙面積率(撮影視野に対する界面の隙間の割合(%))を測定し、その平均を空隙面積率とした。空隙率と湯回り指数YIとの関係を
図4に示す。
【0053】
次に、以下の方法により、シリンダライナとシリンダブロックとの接合強度を測定した。
引張試験機(島津製作所製、万能試験機:AG−5000E)を用いて、接合面が約20mm×20mmとなるよう切り出したシリンダライナとシリンダブロックとの一方をクランプにより固定し、他方を両部材の接合面と直交する方向に引張荷重を加えた。両部材が剥離した際の引張強度を接合強度とした。これをシリンダライナの周方向8カ所について行い、最小接合強度が1.0MPa以上のものを良品(A)とした。また、接合強度の平均値は1.0MPa以上であるが、最小接合強度が1.0MPa未満である場合を(B)とし、接合強度の平均値が1.0MPa未満のものを(C)とした。空隙率と接合強度との関係を
図5に示す。
図4及び
図5から、シリンダライナとシリンダブロックとの良好な接合強度を得るためには、シリンダブロックの空隙率が5.0%以下であることが好ましいことが理解できる。また、所望の空隙率を有するシリンダブロックを形成するためには、湯回り指数YIが2.2以上であるシリンダライナを用いることが好ましいことが理解できる。
シリンダライナとシリンダブロックとの間に生じる空隙を低減することで、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を向上し得る、鋳包み用シリンダライナを提供することを課題とする。