特許第6780198号(P6780198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6780198センサ配置方法およびセンサ配置プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6780198
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】センサ配置方法およびセンサ配置プログラム
(51)【国際特許分類】
   F17D 5/06 20060101AFI20201026BHJP
   G01M 3/24 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   F17D5/06
   G01M3/24 Z
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-66214(P2016-66214)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-180598(P2017-180598A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(74)【代理人】
【識別番号】100174953
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 豪
(72)【発明者】
【氏名】荒井 康裕
(72)【発明者】
【氏名】小泉 明
(72)【発明者】
【氏名】稲員 とよの
【審査官】 岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/129031(WO,A1)
【文献】 特表2010−519513(JP,A)
【文献】 特開2004−226122(JP,A)
【文献】 特開2010−199736(JP,A)
【文献】 米国特許第06094580(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17D 5/06
G01M 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を流体が流動可能な複数の配管が接続された管路ネットワーク上に、複数の設置可能位置が予め設定され、前記配管における流体の漏出を検知可能なセンサの総数が前記設置可能位置の総数よりも少ない場合に、コンピュータを使用して、前記設置可能位置の中のいずれか複数にセンサを設置したと仮定して、各センサが漏出の検知を担当する配管の総延長を導出する際に、前記配管毎に予め設定された重要度に応じて設定された重み付け値に基づいて前記総延長を導出し、前記センサ毎の前記総延長の総和が最小になる設置可能位置の組み合わせを、前記センサを設置する位置に設定することを特徴とするセンサ配置方法。
【請求項2】
前記設置可能位置の総数をnとし、前記設置可能位置の集合をIとし、前記設置可能位置において前記センサを設置すると仮定した設置仮定位置の集合をJとし、前記集合Iに含まれる各位置をiとし、前記集合Jに含まれる各位置をjとし、前記センサの総数をkとし、前記設置可能位置iから設置仮定位置jまでの距離をCijとし、前記設置可能位置iまでの管路を設置仮定位置jに設置した前記センサで検知しようとする場合は1となり、それ以外の場合は0となる変数をxijとし、前記設置仮定位置jに前記センサが設置される場合は1となり、それ以外の場合は0となる変数をyjとし、前記設置可能位置iから前記設置仮定位置jまでの管路で且つ当該管路の距離が短い順に2番目以降の場合は「1」となり、それ以外の場合は「0」となる変数をzijとした場合に、k−メディアン問題の定式を改良した以下の数式を使用して、前記センサ毎の前記総延長の総和が最小になる前記センサを設置する位置に設定することを特徴とする請求項1に記載のセンサ配置方法。
【数1】
【請求項3】
コンピュータを、
内部を流体が流動可能な複数の配管が接続された管路ネットワークのデータを記憶する管路ネットワークデータの記憶手段、
前記配管毎に予め設定された重要度に応じて設定された重み付け値を記憶する重み付け値の記憶手段、
前記管路ネットワーク上に予め設定された複数の設置可能位置と、前記各配管の長さと、を含む管路ネットワークのデータを取得するデータの取得手段、
前記配管における流体の漏出を検知可能なセンサを、前記設置可能位置の中のいずれか複数に設置したと仮定して、各センサが漏出の検知を担当する配管の総延長を、前記重み付け値に基づいて導出し、前記センサ毎の前記総延長の総和が最小になる前記設置可能位置の組み合わせを、前記センサを設置する位置に設定する設置位置の設定手段、
として機能させることを特徴とするセンサ配置プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が流動する配管からなる管路ネットワークにおいて、流体の漏出を検知するセンサを配置する位置を設定するセンサ配置方法およびセンサ配置プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、上水管や下水管、ガス管等の管路ネットワークにおいて、水やガスの漏出を検出する技術として、以下の非特許文献1に記載の技術が知られている。
非特許文献1には、水道管に任意の間隔でセンサを取付、漏水特有の振動をとらえ、無線ネットワークと公衆回線網を介して、データを集約し、その解析結果から漏水箇所を特定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】福屋慶、他5名、「センサとICTを融合させた漏水監視サービス」、NEC技報/Vol.67 No.1/社会の安全・安心を支えるパブリックソリューション特集p111-p114、2014年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の技術では、漏水箇所を精度よく特定するためには、多数のセンサが必要なる。しかしながら、漏水を検知するセンサは、高価であり、特定に必要なセンサの数に対して、センサの数は少数に限られてしまう問題がある。
また、センサを任意の間隔で取り付けようとすると、地中に配管が埋設されている場合、配管を掘り返す工事が必要になり、費用がかかる問題がある。したがって、任意の位置にセンサを配置することは現実問題としては困難であり、マンホールや消火栓のような配管上の既設の部位に設置することが現実的である。
よって、現実問題としては、漏水を検知するシステムを構築しようとした場合に、センサの個数も限られ、設置可能な場所も限られる問題がある。このとき、限られた個数のセンサを、どの位置に配置すれば効率的かどうかについて、今まで検討されてきていなかった。
【0005】
本願は、任意の間隔にセンサを配置して流体の漏出を監視する場合に比べて、限られた個数のセンサで流体の漏出を効率よく監視することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明のセンサ配置方法は、
内部を流体が流動可能な複数の配管が接続された管路ネットワーク上に、複数の設置可能位置が予め設定され、前記配管における流体の漏出を検知可能なセンサの総数が前記設置可能位置の総数よりも少ない場合に、コンピュータを使用して、前記設置可能位置の中のいずれか複数にセンサを設置したと仮定して、各センサが漏出の検知を担当する配管の総延長を導出する際に、前記配管毎に予め設定された重要度に応じて設定された重み付け値に基づいて前記総延長を導出し、前記センサ毎の前記総延長の総和が最小になる設置可能位置の組み合わせを、前記センサを設置する位置に設定することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のセンサ配置方法において、
前記設置可能位置の総数をnとし、前記設置可能位置の集合をIとし、前記設置可能位置において前記センサを設置すると仮定した設置仮定位置の集合をJとし、前記集合Iに含まれる各位置をiとし、前記集合Jに含まれる各位置をjとし、前記センサの総数をkとし、前記設置可能位置iから設置仮定位置jまでの距離をCijとし、前記設置可能位置iまでの管路を設置仮定位置jに設置した前記センサで検知しようとする場合は1となり、それ以外の場合は0となる変数をxijとし、前記設置仮定位置jに前記センサが設置される場合は1となり、それ以外の場合は0となる変数をyjとし、前記設置可能位置iから前記設置仮定位置jまでの管路で且つ当該管路の距離が短い順に2番目以降の場合は「1」となり、それ以外の場合は「0」となる変数をzijとした場合に、k−メディアン問題の定式を改良した以下の数式を使用して、前記センサ毎の前記総延長の総和が最小になる前記センサを設置する位置に設定することを特徴とする。
【数1】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明のセンサ配置プログラムは、
コンピュータを、
内部を流体が流動可能な複数の配管が接続された管路ネットワークのデータを記憶する管路ネットワークデータの記憶手段、
前記配管毎に予め設定された重要度に応じて設定された重み付け値を記憶する重み付け値の記憶手段、
前記管路ネットワーク上に予め設定された複数の設置可能位置と、前記各配管の長さと、を含む管路ネットワークのデータを取得するデータの取得手段、
前記配管における流体の漏出を検知可能なセンサを、前記設置可能位置の中のいずれか複数に設置したと仮定して、各センサが漏出の検知を担当する配管の総延長を、前記重み付け値に基づいて導出し、前記センサ毎の前記総延長の総和が最小になる前記設置可能位置の組み合わせを、前記センサを設置する位置に設定する設置位置の設定手段、
として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1,3に記載の発明によれば、任意の間隔にセンサを配置して流体の漏出を監視する場合に比べて、限られた個数のセンサで流体の漏出を効率よく監視することができる。また、重み付けを考慮しない場合に比べて、流体の漏出を高精度に検知することができる。
請求項2に記載の発明によれば、k−メディアン問題の定式を改良しない場合に比べて、全てのセンサが考慮された状態で、センサを配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の実施例1の管路管理システムの説明図である。
図2図2は実施例1のコンピュータ本体12の機能ブロック図である。
図3図3は実施例1の管路ネットワークの一例の説明図である。
図4図4は実施例1の重み付け値の一例の説明図である。
図5図5は実施例1の重み付け値の導出方法の一例の説明図である。
図6図6は実施例1の受け持ち管路長の説明図である。
図7図7図3に示す管路ネットワークにおいて、5つの消火栓の位置どうしの距離の説明図であり、図7Aは最短距離の一覧表、図7B図7Aの各距離に重み付け値を考慮した距離の一覧表である。
図8図8図3に示す一例の管路ネットワークにおいて5つの設置可能位置に対して3つのセンサを配置する場合の総延長の演算結果の説明図である。
図9図9は実施例1のセンサ配置設定処理のフローチャートの説明図である。
図10図10は重み付けを行わずにセンサの配置位置を計算した場合の説明図であり、図10Aは従来公知のk−メディアン問題の定式を使用して演算した場合の説明図、図10Bはk−メディアン問題の定式を改良して演算した場合の説明図である。
図11図11は実施例1の重み付けを考慮してセンサの配置位置を導出する場合に、従来のk−メディアン問題の定式を利用した場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の実施例1の管路管理システムの説明図である。
図1において、実施例1の管路管理システムSは、管路ネットワークの一例として、流体の一例としての水道水を各家庭や病院、学校、公園等に供給する上水管ネットワークNを有する。上水管ネットワークNは、複数の配管1が接続されて構築されている。なお、各配管1は、大半が地中に埋設されている。また、上水管ネットワークNには、消火栓2が複数箇所設置されている。そして、消火栓2の一部には、漏水センサ3が設置されている。漏水センサ3は、一例として、漏水が無い状態と、漏水が発生した状態とを、音圧の違いで検知するセンサを使用することが可能である。なお、漏水センサ3は、例えば、非特許文献1に記載のセンサのような従来公知の種々の構成を使用可能である。実施例1の漏水センサ3は、無線通信で漏水の検知結果を、通知可能に構成されている。
【0013】
また、実施例1の管路管理システムSは、利用者が利用可能な情報処理装置の一例としてのパーソナルコンピュータ11を有する。パーソナルコンピュータ11は、コンピュータ本体12と、表示器の一例としてのディスプレイ13と、入力装置の一例としてのキーボード14およびマウス15と、を有する。
実施例1のパーソナルコンピュータ11は、公衆回線の一例としてのインターネットワーク21に接続されている。パーソナルコンピュータ11は、インターネットワーク21を介して、情報処理装置の一例としての複数のサーバー22との間で情報の送受信が可能になっている。
なお、実施例1では、コンピュータ本体12は、インターネットワーク21に対してケーブルを介して有線接続されているが、これに限定されず、無線通信の一例としての無線LANやBluetooth(登録商標)、携帯電話回線等、任意の通信技術を利用して、無線接続することも可能である。
【0014】
(実施例1のコンピュータの制御部の説明)
図2は実施例1のコンピュータ本体12の機能ブロック図である。
図2において、実施例1のコンピュータ本体12は、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行うI/O(入出力インターフェース)、必要な起動処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータ及びプログラムを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶された起動プログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)ならびにクロック発振器等を有するコンピュータ装置により構成されており、前記ROM及びRAM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
前記コンピュータ本体12には、基本動作を制御する基本ソフト、いわゆる、図示しないオペレーティングシステムOS、アプリケーションプログラムの一例としてのセンサ配置プログラムAP1、アプリケーションプログラムの一例としての漏水監視プログラムAP2、その他の図示しないソフトウェアが記憶されている。
【0015】
(実施例1のコンピュータ本体12に接続された要素)
コンピュータ本体12には、キーボード14やマウス15等の信号出力要素からの出力信号が入力されている。
また、実施例1のコンピュータ本体12は、ディスプレイ13等の被制御要素へ制御信号を出力している。
【0016】
(コンピュータ本体12の機能)
実施例1のセンサ配置プログラムAP1は、下記の機能手段(プログラムモジュール)31〜35を有する。
【0017】
図3は実施例1の管路ネットワークの一例の説明図である。
管路ネットワークデータの記憶手段31は、上水管ネットワークNのデータを記憶する。図3において、実施例1の管路ネットワークデータの記憶手段31では、上水管ネットワークNのデータとして、上水管ネットワークNにおける各家庭の水道栓のバルブといった水の供給を必要とする需要位置の一例としてのノード6の位置と、各ノード6どうしを接続する配管1の長さと、設置可能位置の一例としての消火栓2の位置と、各消火栓2から配管1で接続されている各ノード6までの距離と、を記憶する。なお、このような上水管ネットワークNのデータは、各自治体の水道局が管理する上水管ネットワークや道路や建物等のデータが複合された地図データ(GIS:Geographic Information Systemデータ)を利用することも可能である。
【0018】
図4は実施例1の重み付け値の一例の説明図である。
重み付け値の記憶手段32は、各配管の重要度に応じて設定された重み付け値を記憶する。なお、実施例1では、重み付け値は、各ノード6どうしの間ではなく、各消火栓2どうしの間で設定されている。図3において、実施例1では、一例として消火栓2が5つ設置されている上水管ネットワークNを仮定する。そして、5つの消火栓2に対して、A〜Eを割り振る。そして、実施例1では、消火栓2A,2B,2C,2D,2Eに対して、図4において、重み付け値が、一例として、有効数字3桁で、0.810,1.024,1.381,0.833,0.952に設定されている。
【0019】
図5は実施例1の重み付け値の導出方法の一例の説明図である。
図6は実施例1の受け持ち管路長の説明図である。
実施例1では、重み付け値を導出する際に、各消火栓2A〜2Eの受け持ち管路長を演算する。受け持ち管路長は、各消火栓2の位置A〜Eを起点として、等速で腕を伸ばすように受け持ち領域Aa〜Aeを拡大していき、他の消火栓2から伸びてきた受け持ち領域と接触すると、受け持ち領域Aa〜Aeの拡大を停止する。そして、全ての管路が、受け持ち領域Aa〜Aeのいずれかで埋め尽くされるまで、この処理を行う。実施例1の上水管ネットワークNでは、図5に示すように、受け持ち領域Aa〜Aeが導出される。そして、図6に示すように、各消火栓2A〜2Eの受け持ち領域Aa〜Aeの管路の総延長が演算される。
【0020】
一例として、実施例1の消火栓2Aの受け持ち領域Aaは、番号1を付した管路が50m、番号2を付した管路が100m、番号3を付した管路が100m、番号5を付した管路が20m、番号6を付した管路が70mとなった。よって、消火栓2Aの受け持ち管路長は、50+100+100+20+70=340mとなった。同様にして、各消火栓2B〜2Eの受け持ち管路長も、430m,580m,350m,400mとなった。したがって、管路の総延長2100mが、消火栓の総数=「5」となるように、正規化することで、各消火栓2A〜2Eに対して、図4に示す重み付け値が導出される。
したがって、上述の導出方法で導出された重み付け値では、例えば、消火栓2Aのみしか担当できない部分(番号3の管路の右側部分)が存在するような状況で、消火栓2Aでも消火栓2Bでも担当可能な部分(番号1や番号5の管路)については、重み付け値を使用することで、結果として、消火栓2Bの方が、消火栓2Aよりも、A−B間の管路を受け持ちやすくすることが可能となる。
【0021】
データの取得手段33は、管路ネットワークデータの記憶手段31から、上水管ネットワークNのデータを取得する。実施例1のデータの取得手段33は、各配管1の長さ(ノード6間の距離)や、消火栓2の位置、消火栓から各ノード6までの距離を含む上水管ネットワークNのデータを取得する。
センサ総数の取得手段34は、上水管ネットワークNに設置可能な漏水センサ3の総数kを取得する。実施例1のセンサ総数の取得手段34は、キーボード14等の入力部材から入力された漏水センサ3の総数を取得する。
【0022】
図7図3に示す管路ネットワークにおいて、5つの消火栓の位置どうしの距離の説明図であり、図7Aは最短距離の一覧表、図7B図7Aの各距離に重み付け値を考慮した距離の一覧表である。
図8図3に示す一例の管路ネットワークにおいて5つの設置可能位置に対して3つのセンサを配置する場合の総延長の演算結果の説明図である。
設置位置の設定手段35は、漏水センサ3を消火栓2の中のいずれか複数を設置したと仮定して、各漏水センサ3が漏出の検知を担当する配管の総延長を、重み付け値に基づいて演算、導出する。実施例1の設置位置の設定手段35では、図7Aに示す各設置可能位置(消火栓2の位置)どうしの距離に対して、重み付け値を考慮して、図7Bに示すように距離を補正する。
【0023】
また、実施例1の設置位置の設定手段35では、設置可能位置の総数nと、センサ総数kとから、設置可能位置(消火栓2の位置A〜E)のどこに漏水センサ3を設置するかの組み合わせ()を演算する。一例として、設置可能位置の総数nが5つで、センサ総数kが3の場合は、組み合わせの数は、=10通りとなる。そして、各設置可能位置A〜Eの組み合わせ(設置仮定位置:「ABC」、「ABD」、「ABE」、…)を図8に示すように、導出する。そして、実施例1の設置位置の設定手段35は、図7の各距離から、図8に示すように各組み合わせに応じた距離の一覧表を作成する。そして、各組み合わせの表において、漏水センサ3が担当する配管の総延長の総和(表におけるΣ)を演算する。設置位置の設定手段35は、漏水センサ3の総延長の総和(Σ)が最小になる設置可能位置A〜Eの組み合わせを、漏水センサ3を設置する位置に設定する。実施例1の設置位置の設定手段36は、図8に示す一例では、総延長の総和が最小の「BCE」の組み合わせを、漏水センサ3を設置する位置に設定する。
【0024】
設置位置の設定手段35が実行している処理を定式化すると、以下の数式で示されるように、k−メディアン問題の定式を改良した数式(改良式)となる。
【数1】
【0025】
ここで、設置可能位置A〜Eの総数をnとし、設置可能位置A〜Eの集合をIとし、設置可能位置の中で漏水センサ3を設置すると仮定する設置仮定位置の集合をJとし、集合Iに含まれる各位置をiとし、集合Jに含まれる各位置をjとし、漏水センサ3の総数をkとし、設置可能位置iから設置仮定位置jまでの距離をCijとし、設置可能位置iまでの配管1を設置仮定位置jに設置した漏水センサ3で検知しようとする場合は「1」となり、それ以外の場合は「0」となる変数をxijとしている。さらに、設置仮定位置jに漏水センサ3が設置される場合は「1」となり、それ以外の場合は「0」となる変数をyjとしている。また、設置可能箇所(センサ未設置箇所)iから設置仮定位置(センサ設置箇所)jまでの管路で、且つ、当該管路の距離が2番目以降の場合は「1」となり、それ以外の場合は「0」となる変数をzijとしている。
【0026】
したがって、実施例1のk−メディアン問題の改良式では、従来公知のk−メディアン問題の定式に対して、変数zijが追加されるとともに、式(1)の第2項が追加され、式(5)と式(8)が追加されている点が異なる。
よって、上述のk−メディアン問題の改良式を使用すると、式(1)の第1項の最も近いセンサまでの距離だけでなく、式(1)の第2項により、2番目、3番目に近いセンサまでの距離も計上される。
なお、yi=0(=センサ未設置)、且つ、yj=1(=センサ設置)、且つ、xij=0(=ij間をjのセンサで探索しない)の場合に、zij=1となる。また、式(5)は、センサ未設置箇所からセンサ設置箇所までの管路で、且つ、「xij=1」で集計済み分の距離についてダブルカウント(重複集計)を回避するための論理制約式である。すなわち、式(1)の第1項で集計した部分を、式(1)の第2項で重複して集計することが回避される。
【0027】
実施例1の漏水監視プログラムAP2は、下記の機能手段(プログラムモジュール)41〜43を有する。
測定結果受信手段41は、上水管ネットワークNに設置された漏水センサ3から送信された漏水の測定結果を受信する。
漏水判別手段42は、受信した漏水の測定結果に基づいて、漏水の発生の判別を行う。
漏水位置特定手段43は、漏水の発生を検知した漏水センサ3の位置と、漏水センサ3から漏水位置までの距離(音圧の違い)と、複数の漏水センサ3で漏水を検知しているか否か(漏水センサ3どうしの間か否か)に基づいて、漏水位置を特定する。
【0028】
(実施例1の流れ図の説明)
次に、実施例1のコンピュータ本体12における制御の流れを流れ図、いわゆるフローチャートを使用して説明する。
【0029】
(コンピュータ本体12におけるセンサ配置設定処理のフローチャートの説明)
図9は実施例1のセンサ配置設定処理のフローチャートの説明図である。
図9のフローチャートの各ステップSTの処理は、コンピュータ本体12に記憶されたプログラムに従って行われる。また、この処理はコンピュータ本体12の他の各種処理と並行して実行される。
図9に示すフローチャートは、センサ配置プログラムAP1が起動された場合に開始される。
【0030】
図9のST1において、次の処理(1)〜(3)を実行して、ST2に進む。
(1)上水管ネットワークNのデータ(設置可能位置A〜Eや各距離のデータ)を取得する。
(2)重み付け値を取得する。
(3)センサ総数kを取得する。
ST2において、k−メディアン問題の定式を改良した数式に基づいて、設置した全ての漏水センサ3に対する距離の総和が最小となる漏水センサ3の設置位置の組み合わせであるセンサ設置位置を導出する。そして、ST3に進む。
ST3において、導出されたセンサの最適設置位置をディスプレイに表示する。そして、センサ配置設定処理を終了する。
【0031】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の管路管理システムSでは、上水管ネットワークNにおいて、漏水センサ3を設置する場合、センサ配置プログラムAP1が、設置可能位置A〜Eの中から、全ての漏水センサ3に対する距離の総和が最小となる漏水センサ3の位置の組み合わせを、最適な設置位置として導出する。任意の間隔にセンサを配置して流体の漏出を監視する場合に比べて、限られた個数のセンサで流体の漏出を効率よく監視することができる。
そして、実施例1のセンサ配置プログラムAP1では、各漏水センサ3が漏水の検知を担当する配管1の距離を演算する際に、配管1の重要度に応じて、重み付けで距離の補正が行われる。したがって、重要度の高い配管1ほど補正後の距離が長くなり、相対的に、該当する配管1に対して、漏水センサ3が同じ検知能力を長い距離分、配分することとなる。すなわち、重要度の高い配管1の検知能力が強化されることとなる。したがって、実施例1では、配管1の重要度に応じた重み付けを行わない場合に比べて、漏水センサ3の検知能力を効率的に配分して、漏出を効率よく検知することができる。
【0032】
図10は重み付けを行わずにセンサの配置位置を計算した場合の説明図であり、図10Aは従来公知のk−メディアン問題の定式を使用して演算した場合の説明図、図10Bはk−メディアン問題の定式を改良して演算した場合の説明図である。
ここで、従来のk−メディアン問題の定式(上述した数式において、式(1)の第2項がなく、変数zijに関する式(5)、式(8)がない)で演算をすると、設置したいずれか1つのセンサに対する最短距離を最小にする計算となる。したがって、図10Aにおいてメッシュしていないセルの数値が集計されることとなる。よって、図10Aにおいて、重み付けを考慮せず、従来のk−メディアン問題の定式を使用して演算をすると、図10Aに示すように「ABC」の位置にセンサを配置することが最適と導出される。
仮に、重み付けを考慮せず、上述したk−メディアン問題の定式を改良した数式を使用して演算すると、図10Bに示すように「ADE」の位置にセンサを配置することが最適と導出される。
【0033】
重み付けを考慮しない場合は、全ての配管1の重要度が同一であるとみなされ、多くの建物等に水を供給する口径の大きな配管1や病院等の重要施設に接続される配管1といった漏水の影響が大きい配管1も、同じ検知能力が配分される事となる。したがって、図8図10を対比することでわかるように、重み付けが考慮されない場合、漏水センサ3を設置する位置が異なり、漏水時に影響が大きくなる恐れがある。これに対して、実施例1では、重要度に応じて重み付けがされており、漏水の影響が大きい配管1については、検知能力、検知精度の向上が期待できる。
【0034】
図11は実施例1の重み付けを考慮してセンサの配置位置を導出する場合に、従来のk−メディアン問題の定式を利用した場合の説明図である。
さらに、実施例1では、重要度に応じた重み付けを考慮するだけでなく、k−メディアン問題の定式を改良している。ここで、従来のk−メディアン問題の定式を使用した場合、いずれか1つのセンサに対する最短距離を最小にする計算に基づいて漏水センサ3を設置する位置が導出される。これに対して、k−メディアン問題の定式を改良した数式を使用して漏水センサ3を設置する位置を導出する実施例1では、最も近い漏水センサ3だけでなく、2番目、3番目に近い漏水センサ3までの距離も計上する式となっている。したがって、センサ未設置箇所から全ての漏水センサ3に対する距離の総和が最小になるように導出される。すなわち、センサ未設置箇所から1つの漏水センサ3でなく、全ての漏水センサ3が考慮されて、最適な設置位置が導出される。したがって、図11に示すように、図8とは異なる結果が得られる。よって、従来のk−メディアン問題の定式を利用する場合に比べて、実施例1では、全ての漏水センサ3の担当する距離が考慮された設置位置が導出され、検知能力、検知精度の向上が期待できる。
なお、今回の数値の一例では、図11に示す重み付けを考慮した場合と、図10Aに示す重み付けを考慮しない場合では、たまたま同じ結果が得られているが、総和(Σ)の数値の違いを参照すればわかるように、重み付けの値や配管1の距離によっては、異なる結果が得られることは明らかである。すなわち、重み付けを考慮しない場合に比べて、配管1の重要度に応じた設置位置の導出、選択が可能である。
【0035】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H04)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、センサ配置プログラムAP1や漏水監視プログラムAP2は、1つのパーソナルコンピュータ11に組み込まれた形態を例示したがこれに限定されない。すなわち、1つの情報端末で集中処理する構成に限定されず、各手段31〜35,41〜43を、インターネットワーク21で接続された複数の情報端末に配置して、分散処理を行う構成とすることも可能である。例えば、管路ネットワークデータの記憶手段31は、自治体の水道局のサーバにあるものを利用したり、漏水監視プログラムAP2は、水道局の端末に組み込む等、任意の変更が可能である。
【0036】
(H02)前記実施例において、例示した具体的な数値は、適用される管路ネットワークの規模や、使用可能なセンサの数、設置可能位置の数等に応じて、適宜変更可能である。
(H03)前記実施例において、上水管ネットワークNとして、上水道の配管のネットワークを例示したが、これに限定されない。例えば、下水道の配管のネットワークや、ガス管の配管のネットワーク等、流体が内部を流動し、流体の漏出を検知するセンサを使用するネットワークに、本願発明は適用可能である。
(H04)前記実施例において、例示した「受け持ち管路延長」による重み付けは、これに限定されない。例えば、管路の老朽度、病院などの重要施設への給水有無等、管路の物理的、機能的な側面を考慮した指標による重み付けが、適宜追加可能である。具体的には、配管1の口径の大小、過去に漏水事故を起こしたことが多い箇所、配管1の老朽度、土壌の腐食性、病院や公園等に繋がっているか否か等に応じて、設定可能である。すなわち、配管1の口径が大きい場合は、多くの建物に水を供給する事となるため、漏水した場合の影響が大きく、重要度が高くなり、重み付け値も大きくすることが可能である。同様に、過去に漏水事故を起こしたことがある箇所は、重点的に監視を行うべき箇所であるとして、事故の回数が多いほど重み付け値を大きくすることが可能である。また、配管1の老朽度、すなわち、敷設されてからの経過年数が長いほど、漏水する可能性が高くなるため、監視を強化すべき箇所であるとして、老朽度が高いほど重み付け値を大きくする事が可能である。さらに、土壌の腐食性が高いと、配管1が腐食されて漏水する可能性が高くなるため、重み付け値を大きくすることが可能である。また、病院のような重要施設では、漏水して水を供給できないと人の生死に対する影響が大きく、重み付け値を大きくすることが可能である。一方で、公園や学校のように災害時に避難場所として利用される施設についても、重要度が高いとして、重み付け値を大きくすることも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…配管、
3…センサ、
11…コンピュータ、
31…管路ネットワークデータの記憶手段、
32…重み付け値の記憶手段、
33…データの取得手段、
35…設置位置の設定手段、
A〜E…設置可能位置、
AP1…センサ配置プログラム、
Cij…設置可能位置iから設置仮定位置jまでの距離、
i…集合Iに含まれる各位置、
I…設置可能位置の集合、
j…重合Jに含まれる各位置、
J…設置仮定位置の集合、
k…センサの総数、
n…設置可能位置の総数、
N…管路ネットワーク、
xij…設置可能位置iまでの管路を設置仮定位置jに設置したセンサで検知しようとする場合は1となり、それ以外の場合は0となる関数、
yj…設置仮定位置jにセンサが設置される場合は1となり、それ以外の場合は0となる関数、
Σ…総延長の総和。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11