【文献】
MBONIMPA E. G. et al.,Water Research,2012年,Vol.46,p.2344-2354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の殺菌装置および殺菌方法における処理対象は、香料を含んだ被処理溶液であって、当該被処理溶液には、例えば、液状の香料自体もしくは香料を含んだ飲食品などが含まれる。
【0012】
図1は、本発明の殺菌装置の一例における要部の構成を概略的に示す、流路に沿った断面図である。
図2は、
図1におけるA−A線断面図である。
この殺菌装置は、波長280nm〜310nmに主の発光をもつ紫外光を放射する紫外光照射装置20が被処理溶液Fが流通される流路に沿って設けられてなるリアクター10を備えている。ここに、波長280〜310nmに主の発光をもつ紫外光とは、ピーク波長が少なくとも波長280〜310nmの範囲内である紫外光をいう。
【0013】
リアクター10は、互いに同軸上に配置された円筒状の外管11および円筒状の内管12よりなり、外管11の内周面と内管12の外周面との間に、被処理溶液Fが流通される円筒状の流路(以下、「被処理溶液流路」という。)Rfが形成されている。
【0014】
リアクター10における外管11を構成する材料としては、特に限定されないが、例えばステンレス鋼などの金属材料を用いることができる。
リアクター10における内管12を構成する材料としては、紫外光照射装置20からの紫外光を透過するものであればよく、例えば石英ガラスなどを用いることができる。
【0015】
リアクター10における内管12の内部には、紫外光照射装置20がリアクター10の中心軸Cに沿って配置されている。
紫外光照射装置20は、波長280nm〜310nmに主の発光をもつ紫外光を放射する紫外光光源を備えている。紫外光光源が、280nmより短波長の光を含む紫外光を放射するもの、例えば低圧水銀ランプ(254nmの輝線)よりなる場合には、被処理溶液Fに含まれる香料の変性の程度が大きくなる。
【0016】
紫外光光源としては、例えば、XeとBrの混合ガスが放電用ガスとして封入されたXeBrエキシマランプ(ピーク波長が283nm)、Br
2 が放電用ガスとして封入されたエキシマランプ(ピーク波長が289nm)、XeとClの混合ガスが放電用ガスとして封入されたXeClエキシマランプ(ピーク波長が308nm)などを用いることができる。これらのうちでも、香料の劣化、変質を防止しながら、高い殺菌作用が得られることから、XeBrエキシマランプを用いることが好ましい。
また、紫外光光源としては、例えば紫外光放射蛍光ランプを用いることもできる。紫外光放射蛍光ランプは、誘電体バリア放電によって生成されるエキシマから放出される光を励起光として蛍光体に照射し、その蛍光体が励起することによって得られる特定の波長範囲の紫外光を放射光として放射する構成のものである。蛍光体としては、例えば、励起によってピーク波長が290nmの紫外光を放射するビスマス付活イットリウムアルミニウムホウ酸塩などを用いることができる。
【0017】
紫外光照射装置20による被処理溶液Fに対する紫外光照射量は、例えば170mJ/cm
2 以上であることが好ましく、より好ましくは170〜500mJ/cm
2 である。紫外光照射量が170mJ/cm
2 以上であることにより、後述する実験例の結果に示されるように、被処理溶液Fに含まれる香料の劣化、変質を防止しながら、充分な殺菌処理を行うことができる。
また、リアクター10における外管11の内周面と内管12の外周面との間の距離(被処理溶液流路Rfにおける光路長)dは、例えば0.05〜1mmであることが好ましい。
上記のような構成によれば、被処理溶液Fが紫外光照射装置20からの紫外光の透過率が低いものである場合(例えば被処理溶液Fに照射される紫外光の光量の99%が不透過である場合)においても、被処理溶液Fを均一に殺菌することができる。なお、光路長dが0.05mm以下である場合には、被処理溶液流路Rf内に被処理溶液Fを流通することが困難となる。
【0018】
以上において、被処理溶液流路Rf内に流通される被処理溶液Fの流量、被処理溶液流路Rfにおける紫外光が照射される領域の大きさ(紫外光光源を構成するランプの発光長)およびその他の条件は、紫外光照射量が上記特定の範囲内の大きさとなるよう適宜設定することができる。
【0019】
上記の殺菌装置においては、処理すべき被処理溶液Fが被処理溶液流路Rf内に導入されて当該被処理溶液流路Rf内を流通される過程において、紫外光射装置20から放射される波長280nm〜310nmに主の発光をもつ紫外光が被処理溶液Fに照射されることにより、被処理溶液Fの殺菌処理が行われる。
【0020】
而して、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、後述する実施例の結果に示されるように、波長280nm〜310nmに主の発光をもつ紫外光は、例えば飲食品の殺菌に有効でありながら、香料の劣化、変質を回避することができるものであることが明らかになった。
従って、本発明の殺菌方法によれば、波長280nm〜310nmに主の発光をもつ紫外光が、香料自体もしくは香料を含んだ飲食品などの被処理溶液Fに照射されることにより、香料の劣化、変質を防ぎながら、充分な殺菌処理を行うことができる。
そして、上記構成の殺菌装置によれば、このような殺菌方法を確実に実施することができる。
【0021】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、リアクターの構造は、被処理溶液が流通される流路に沿って紫外光照射装置が設けられた構造とされていれば、上記のような構造に限定されるものではない。
【0022】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例を示す。
<実験例1>
図1に示す構成に従い、下記の仕様のリアクターを製作した。
外管はステンレス鋼よりなり、内径がφ27mmである。また、内管は石英ガラスよりなり、外径がφ26.5mm、肉厚が1.0mmである。紫外光照射装置からの紫外光が照射される領域の長さは80mmである。また、外管11の内周面と内管12の外周面との間の距離(被処理溶液流路Rfにおける光路長d)は、0.5mmである。
紫外光光源としては、ピーク波長が283nmの紫外光を放射するXeBrエキシマランプを用いた。
図5に、実験例1で用いたXeBrエキシマランプの発光スペクトルを示す。XeBrエキシマランプの発光長は80mmである。
【0023】
1.味分析試験
液状のコーヒー香料を試験溶液として用い、この試験溶液について、製作したリアクターによる紫外光照射処理(殺菌処理)を行った。そして、紫外光照射処理後の試験溶液について、味覚センサー(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製の味認識装置「TS−5000Z」)を用いて味の分析試験を行った。結果を
図3に示す。
図3は、紫外光照射処理を行わない場合の試験溶液の味(試験溶液本来の味)の分析により得られた各項目の数値を0.0(
図3において一点鎖線で示す。)とする相対値で示されている。この味認識装置による味分析試験において、敏感な人が味の違いを検知できる閾値は±0.8程度である。
[殺菌処理条件]
被処理溶液流路内における試験溶液の流量:2.3ミリリットル/min
被処理溶液流路における紫外光強度:3.6mW/cm
2
処理時間:175秒
紫外光照射量:170mJ/cm
2
処理中の被処理溶液温度:30℃
[分析項目]
A.酸味(先味):クエン酸や酒石酸が呈する酸味
B.苦味雑味(先味):苦味由来物質で、低濃度ではコクや隠し味などに相当するもの
C.渋味刺激(先味):渋味物質による刺激味
D.旨味(先味):アミノ酸、核酸などの旨味
E.塩味(先味):食塩などの無機塩の塩味
F.苦味(後味):一般食品に見られる味の苦味
G.渋味(後味):渋味物質由来の後味の渋味
H.旨味コク(後味):旨味物質が呈する持続性のあるコク味
【0024】
2.殺菌処理試験
セレウス菌(JCM2152)を芽胞状態としたものを供試菌として用い、初発菌数が10
5 CFU/mLとなるよう、所定量の供試菌を液状のコーヒー香料に懸濁させて試験溶液を調製した。
紫外光照射処理(殺菌処理)を行う前の試験溶液と、上記リアクターによる紫外光照射処理(殺菌処理)を上記味分析試験と同一の条件で行った後の試験溶液とをそれぞれ寒天培地上に塗沫し、30℃で48時間培養した後、寒天培地に発生したコロニーの数を調べた。結果を
図4に示す。
図4における(a)は紫外光照射処理前の試験溶液を1000倍に希釈した希釈液についての結果、(b)は紫外光照射処理後の試験溶液の原液についての結果である。
図4より、充分な殺菌処理を行うことができることが確認された。
【0025】
以上の結果より明らかなように、波長280nm〜310nmに主の発光をもつ紫外光を照射することにより、香料の劣化、変質を防止しながら、充分な殺菌処理を行うことができることが確認された。
【0026】
また、紫外光照射量を170mJ/cm
2 未満の範囲で適宜変更したことの他は、上記実験例1と同一の条件で、紫外光照射処理を行い、上記味分析試験および上記殺菌処理試験を実験例1と同一の条件で行ったところ、いずれの場合も、香料の劣化、変質が生ずることは回避することができるものの、紫外光照射量が小さくなるに従って、寒天培地上に発生するコロニーの数が増加すること(殺菌作用が低下すること)が確認された。
さらに、紫外光照射量を170mJ/cm
2 より大きい範囲で適宜変更したことの他は、上記実験例1と同一の条件で、紫外光照射処理を行い、上記味分析試験および上記殺菌処理試験を実験例1と同一の条件で行ったところ、紫外光照射量が500mJ/cm
2 (上限値)を超えると、いくつかの分析項目(例えば項目D、項目E)において閾値を超える香料の劣化、変質が生ずることが確認された。