特許第6780265号(P6780265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6780265
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】工作機械のチルト装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 1/72 20060101AFI20201026BHJP
   B23Q 1/52 20060101ALI20201026BHJP
   B23Q 1/64 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   B23Q1/72 A
   B23Q1/52
   B23Q1/64 D
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-46157(P2016-46157)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-159403(P2017-159403A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】古畑 鉄朗
(72)【発明者】
【氏名】臼田 敬介
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−179138(JP,A)
【文献】 特開昭54−039280(JP,A)
【文献】 特開2010−167508(JP,A)
【文献】 特開平04−115841(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0167183(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/72
B23Q 1/52
B23Q 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物又は工具が配置されるチルト体と、
前記チルト体を揺動可能に支持し、前記チルト体の重心とは異なる位置に揺動軸線を有する支持体と、
前記支持体に設けられ、前記チルト体を前記支持体に対して揺動させるための駆動力を付与する駆動モータと、
前記チルト体に連結され、シリンダ圧力を付与することで前記駆動モータによる前記チルト体の揺動を補助する補助シリンダと、
前記駆動モータ及び前記補助シリンダを駆動制御する制御装置と、
を備え、
重力により前記チルト体に発生する前記揺動軸線まわりのモーメントは、前記チルト体の可動範囲において、常に回転方向一方側のみであり、
前記シリンダ圧力により前記チルト体に付与される前記揺動軸線まわりの補助モーメントは、前記チルト体の可動範囲において、常に回転方向他方側のみであり、
前記制御装置は、重力により前記チルト体に発生する前記モーメントよりも前記補助モーメントが小さくなるように、前記チルト体の傾斜角度に応じて、前記チルト体の傾斜角度が予め定められた既定の傾斜角度に到達した場合に、前記シリンダ圧力を変動させ、
工作機械は、前記チルト体が前記既定の傾斜角度を超えた範囲のみにおいて、前記工作物の加工を行う、工作機械のチルト装置。
【請求項2】
前記チルト体は、前記チルト体の揺動軸線に直交する軸線まわりに前記工作物を回転させる回転テーブルを備え、
前記制御装置は、前記チルト体が前記既定の傾斜角度を超えた範囲のみにおいて、前記回転テーブルを駆動制御する、請求項に記載の工作機械のチルト装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記チルト体の傾斜角度に応じて前記シリンダ圧力を連続的に変動させる、請求項に記載の工作機械のチルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のチルト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
揺動可能に設けられたチルト体と、チルト体を揺動させるための駆動力を付与する駆動モータとを備えたチルト装置が知られている。こうしたチルト装置は、工作機械に設けられ、工作機械は、チルト体に配置された工作物や工具を傾斜させることにより工作物等の割り出しを行い、所定の加工を行う。
【0003】
ここで、バランス位置に対して傾斜した状態にあるチルト体には、重力によりチルト体をバランス位置へ戻そうとするモーメント(以下「アンバランスモーメント」と称す)が発生する。チルト体に発生するアンバランスモーメントは、チルト体の傾斜角度を大きくするほど大きくなり、チルト体が傾斜した状態を維持しようとする駆動モータに加わる負荷となる。従って、チルト体及びチルト体に配置しようとする工作物等の重量が大きい場合において、アンバランスモーメントにより駆動モータに加わる負荷を駆動モータによる駆動トルクのみで支持しようとした場合には、大型の駆動モータを用いる必要がある。
【0004】
これに対し、特許文献1には、シリンダ装置をチルト体に連結し、シリンダ装置からチルト体に付与される付勢力によってアンバランスモーメントを相殺することにより、駆動モータに加わる負荷の軽減を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−167508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1では、チルト体の傾斜角度が所定の傾斜角度よりも小さくなると、シリンダ装置からチルト体に付与されるモーメントが、チルト体に発生するアンバランスモーメントを上回る。即ち、チルト体の傾斜角度が上記した所定の傾斜角度よりも大きい場合と小さい場合とで、駆動モータに加わる荷重の向きが逆となり、駆動モータによる駆動トルクの向きも逆となる。従って、チルト体を揺動させる過程において、チルト体の傾斜角度が上記した所定の傾斜角度を超える際に駆動モータの駆動トルクが反転することをきっかけとして、チルト体にガタが発生する恐れがある。
【0007】
本発明は、駆動モータの大型化を抑制しつつ、チルト体にガタが発生することを防止できる工作機械のチルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の工作機械のチルト装置は、工作物又は工具が配置されるチルト体と、前記チルト体を揺動可能に支持し、前記チルト体の重心とは異なる位置に揺動軸線を有する支持体と、前記支持体に設けられ、前記チルト体を前記支持体に対して揺動させるための駆動力を付与する駆動モータと、前記チルト体に連結され、シリンダ圧力を付与することで前記駆動モータによる前記チルト体の揺動を補助する補助シリンダと、前記駆動モータ及び前記補助シリンダを駆動制御する制御装置と、を備え、重力により前記チルト体に発生する前記揺動軸線まわりのモーメントは、前記チルト体の可動範囲において、常に回転方向一方側のみであり、前記シリンダ圧力により前記チルト体に付与される前記揺動軸線まわりの補助モーメントは、前記チルト体の可動範囲内において、常に回転方向他方側のみであり、前記制御装置は、重力により前記チルト体に発生する前記モーメントよりも前記補助モーメントが小さくなるように、前記チルト体の傾斜角度に応じて、前記チルト体の傾斜角度が予め定められた既定の傾斜角度に到達した場合に、複数の所定圧力に設定可能な前記シリンダ圧力を変動させ、工作機械は、前記チルト体が前記既定の傾斜角度を超えた範囲のみにおいて、前記工作物の加工を行う
【0009】
本発明の工作機械のチルト装置によれば、補助シリンダのシリンダ圧力をチルト体に付与することで、駆動モータによるチルト体の揺動が補助されるので、駆動モータに必要とされる駆動トルクを小さくすることができる。よって、駆動モータの大型化を抑制することができる。
【0010】
また、チルト体の可動範囲内において、重力によりチルト体に発生する揺動軸線まわりのモーメントは、常に回転方向一方側のみであり、シリンダ圧力によりチルト体に付与される補助モーメントは、常に回転方向他方側のみである。これに加え、制御装置は、補助モーメントが重力によりチルト体に発生するモーメントよりも小さくなるように、シリンダ圧力を変動させる。この場合、チルト体の可動範囲において、駆動モータには、常に重力によりチルト体に発生するモーメントに基づく負荷が加わり、駆動モータによる駆動トルクの向きが常に一定となる。従って、チルト体を揺動させる過程において、駆動モータの駆動トルクが反転することを回避できるので、チルト体にガタが発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態におけるチルト装置を備えた歯車加工装置の外観斜視図である。
図2】加工用工具の動作を示す図である。
図3】チルト装置の正面図である。
図4図3のIV方向から見たチルト装置の側面図である。
図5A】バランス位置にあるチルト体を模式的に表した図であり、チルト体の傾斜角度が−30度である状態を示す。
図5B】チルト体を模式的に表した図であり、チルト体の傾斜角度が0度である状態を示す。
図5C】チルト体の動作を模式的に表した図であり、チルト体の傾斜角度が20度である状態を示す。
図5D】チルト体の動作を模式的に表した図であり、チルト体の傾斜角度が60度である状態を示す。
図6A】シリンダ圧力と、アンバランスモーメント及び補助モーメントと、駆動トルクとの関係を示すグラフである。
図6B】チルト体の傾斜角度と補助シリンダのシリンダ圧力及び駆動モータの駆動トルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る工作機械のチルト装置を適用した実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、工作機械としての歯車加工装置1にチルト装置100を用いる場合を例に挙げて説明する。なお、チルト装置は、歯車加工を行う工作機械以外の工作機械、例えば、穴開け加工を行う工作機械に用いることも可能である。
【0013】
(1.歯車加工装置1の概要)
まず、図1を参照し、歯車加工装置1の概要について説明する。図1に示すように、歯車加工装置1は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と、互いに直交する2つの回転軸(A軸及びB軸)とを備えた5軸マシニングセンタである。歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、回転主軸40と、テーブル50と、チルト装置100と、を主に備える。なお、図1ではチルト装置100の図示を簡略化している。
【0014】
ベッド10は、設置面に固定される。ベッド10の上面には、X軸方向へ平行に延びる一対のX軸ガイドレール11a,11bと、Z軸方向へ平行に延びる一対のZ軸ガイドレール12a,12bとが形成される。
【0015】
コラム20は、ベッド10に対してX軸方向へ相対移動する。コラム20の底面には、X軸方向へ平行に延びる一対のX軸ガイド溝21a,21bが形成され、テーブル50及びチルト装置100に対向するコラム20の一側面には、Y軸方向へ平行に延びる一対のY軸ガイドレール22a,22bが形成される。一対のX軸ガイド溝21a,21bは、ボールガイド(図示せず)を介して一対のX軸ガイドレール11a,11bに嵌め込まれる。ベッド10には、一対のX軸ガイドレール11a,11bの間に配置されるX軸ボールねじ(図示せず)と、そのX軸ボールねじを回転駆動するX軸モータ(図示せず)とが設けられ、これらX軸ボールねじ及びX軸モータに駆動されることにより、コラム20がベッド10に対してX軸方向へ相対移動する。
【0016】
サドル30は、コラム20に対してY軸方向へ相対移動する。コラム20に対向するサドル30の一側面には、Y軸方向へ平行に延びる一対のY軸ガイド溝31a,31bが形成され、一対のY軸ガイド溝31a,31bは、ボールガイド(図示せず)を介して一対のY軸ガイドレール22a,22bに嵌め込まれる。コラム20には、一対のY軸ガイドレール22a,22bの間に配置されるY軸ボールねじ(図示せず)と、そのY軸ボールねじを回転駆動するY軸モータ(図示せず)とが設けられ、これらY軸ボールねじ及びY軸モータに駆動されることにより、サドル30がコラム20に対してY軸方向へ相対移動する。
【0017】
回転主軸40は、サドル30に収容された主軸モータ(図示せず)により回転可能に設けられる。回転主軸40の先端には加工用工具41が固定され、加工用工具41は、回転主軸40の回転に伴って中心軸線Oまわりに回転する。なお、図1には加工用工具41が簡略表示されており、図2に示す加工用具41が取り付け可能となっている。テーブル50は、一対のZ軸ガイドレール12a,12b上に配置され、ベッド10に対してZ軸方向へ移動可能に設けられる。
【0018】
チルト装置100は、テーブル50に一体形成された一対の支持体110に対し、チルト体120がA軸まわりに揺動可能に設けられる。チルト体120には、工作物WをB軸まわりに回転可能に支持する回転テーブル125が設けられ、回転テーブル125は、チルト体120に設けられた旋回軸モータ126(図3参照)により回転駆動される。なお、チルト装置100の詳細な構成については後述する。
【0019】
(2.加工用工具41の動作)
次に、図2を参照して、工作物Wに切削加工を行う際の加工用工具41の動作を説明する。なお、ここでは円環状に形成された工作物Wの内周面に内歯を形成する場合を例に挙げて説明する。
【0020】
図2に示すように、回転テーブル125には、工作物WがB軸と同軸に配置され、工作物Wは、回転テーブル125によりB軸まわりに回転可能に支持される。加工用工具41は、O軸と同軸に配置され、回転主軸40(図1参照)によりO軸まわりに回転可能に支持される。加工用工具41は、加工用工具41の中心軸線に対してねじれ角を有する複数の工具刃42を備える。工具刃42の径方向外面は、加工用工具の中心軸線に対して逃げ角を有し、工具刃42の端面は、加工用工具41の中心軸線に直交する平面に対してすくい角を有する。
【0021】
歯車加工装置1において歯車加工を行うに際し、工作物Wの中心軸線(B軸)が、加工用工具41の中心軸線(O軸)に対して、傾斜し、且つ、ねじれた状態となるようにチルト体120(図1参照)を揺動させる。その後、チルト体120の傾斜角度を維持した状態で、加工用工具41と工作物Wとを同期回転させながら、加工用工具41をB軸方向へ相対移動させる。このとき、工作物Wと加工用工具41との間に相対速度差が生じることにより、工具刃42との接触部位において工作物Wの内周面が切削され、工作物Wに内歯が形成される。
【0022】
(3.チルト装置100の構成)
次に、図3及び図4を参照し、チルト装置100の構成について説明する。図3及び図4に示すように、チルト装置100は、一対の支持体110と、チルト体120と、駆動モータ130と、補助シリンダ140と、制御装置150とを主に備える。支持体110は、テーブル50の上面に一体的に固定された板状部材であり、一対の支持体110は、X軸方向に間隔を空けて対向配置され、一対の支持体110の間にチルト体120が配置される。
【0023】
チルト体120は、チルト板121と、一対の立設部122と、一対の軸部123とを備える。チルト板121は、X軸方向を長手方向とする矩形板状に形成される。一対の立設部122は、チルト板121の長手方向両端部に立設される板状の部位であって、X軸方向に間隔を空けて対向配置される。
【0024】
軸部123は、X軸方向へ延びる円柱状の部位である。各々の軸部123は、一対の立設部122の互いに外側を向く面に同軸に配置され、一対の支持体110に揺動可能に支持される。各々の軸部123は、一対の支持体110に貫通した状態で設けられ、一対の支持体110の互いに外側を向く面から突出する軸部123の先端部分には、径方向外方へ張り出す張出部124が固定される。なお、各々の軸部123の中心軸線であるA軸は、チルト板121の幅方向(図4左右方向)における中心を含む平面であって、チルト板121の上面に垂直な平面上に配置される。
【0025】
また、チルト体120は、回転テーブル125及び旋回軸モータ126を備える。回転テーブル125は、工作物WをB軸まわりに回転可能に支持する部材であり、B軸に直交するチルト板121の上面に配置される。旋回軸モータ126は、回転テーブル125を回転させるための駆動力を付与するモータである。
【0026】
なお、回転テーブル125及び旋回軸モータ126は、チルト板121の幅方向(図4左右方向)における中心に対し、回転テーブル125及び旋回軸モータ126の重心をサドル30(図1参照)から離れる方向(図4左方向)へオフセットさせた状態で配置される。即ち、チルト板121の幅方向において、回転テーブル125及び旋回軸モータ126を含むチルト体120の重心は、軸部123の中心軸線であってチルト体120の揺動軸線であるA軸に対し、サドル30から離れる方向へオフセットしている。
【0027】
駆動モータ130は、チルト体120を回転させるための駆動力を付与するモータであり、支持体110の内部に収容される。チルト体120は、駆動モータ130から軸部123に駆動力が付与されることで、軸部123の中心軸線であるA軸まわりに揺動する。
【0028】
補助シリンダ140は、駆動モータ130によるチルト体120の揺動を補助する油圧シリンダである。補助シリンダ140は、ブラケットを介して支持体110に揺動可能に支持されたシリンダ本体141と、シリンダ本体141に対して伸縮可能に設けられたロッド142と備える。なお、軸部123には径方向外方へ張り出す張出部124が形成され、ロッド142の先端は、A軸からオフセットした位置で張出部124に連結される。即ち、補助シリンダ140とチルト体120とは、チルト体120の揺動軸線であるA軸とは異なる位置で連結される。
【0029】
制御装置150は、チルト体120を揺動させる際に、駆動モータ130及び補助シリンダ140を駆動制御する。また、制御装置150は、回転テーブル125を回転させる際に、旋回軸モータ126を駆動制御する。
【0030】
ここで、バランス位置にあるチルト体120を揺動させると、重力によりチルト体120をバランス位置に戻そうとするアンバランスモーメントがチルト体120に発生する。アンバランスモーメントは、チルト体120の傾斜角度が大きくなるほど大きくなり、それに伴い、チルト体120が傾斜した状態を維持しようとする駆動モータ130には大きな負荷が加わる。従って、チルト体120及びチルト体120に配置しようとする工作物W(図1参照)の重量が大きい場合において、アンバランスモーメントにより駆動モータ130に加わる負荷を駆動モータ130の駆動トルクのみで支持しようとした場合、駆動モータ130が大型化する。
【0031】
これに対し、チルト装置100では、補助シリンダ140のシリンダ圧力を軸部123に付与し、チルト体120に発生するアンバランスモーメントとは逆向きのモーメントを発生させる。これにより、アンバランスモーメントの一部が、シリンダ圧力によりチルト体120に付与されるモーメント(以下「補助モーメント」と称す)に相殺されるので、アンバランスモーメントにより駆動モータ130に加わる負荷を軽減することができる。その結果、駆動モータ130に必要とされる駆動トルクを小さくすることができるので、駆動モータ130の大型化を抑制できる。また、加工方法によっては、バランス位置を変更するために回転テーブル125及び旋回軸モータ126の重心をサドル30に近づく方向へオフセットしてもよい。
【0032】
(4.アンバランスモーメント)
上記したように、チルト板121の幅方向において、チルト体120の重心は、A軸に対してサドル30から離れる方向へオフセットしている。従って、バランス状態にあるチルト体120は、チルト板121の上面がサドル30から離れる方向へ向かうにつれて下降傾斜した状態となる(図5A参照)。
【0033】
なお、以下において、チルト板121がZ軸方向に平行な状態にあるチルト体120(図5B参照)の傾斜角度を0度とする。また、傾斜角度が0度であるチルト体120を図5Bに示す時計回り方向へ傾斜させた場合の傾斜角度を正の数値で示し、傾斜角度が0度であるチルト体120を図5Bに示す時計回り方向へ傾斜させた場合の傾斜角度を負の数値で示す。
【0034】
図5Aには、バランス位置にあるチルト体120が図示されており、バランス位置にあるチルト体120の傾斜角度は−30度である。一方、チルト装置100は、チルト体120の傾斜角度が−5度〜95度となる範囲を、制御装置150による駆動モータ130及び補助シリンダ140の駆動制御によってチルト体120を揺動させることができる範囲としている。これにより、チルト体120に発生するアンバランスモーメントの向きは、チルト体120の可動範囲において、常に一定となる。なお、軸部123にはロータリエンコーダ(図示せず)が設けられており、制御装置150は、ロータリエンコーダから得られる検出情報に基づき、チルト体120の傾斜角度を把握する。
【0035】
(5.補助モーメント)
チルト体120と補助シリンダ140との関係において、軸部123には張出部124が設けられ、その張出部124にロッド142の先端が連結されている。従って、チルト体120の揺動に伴い、ロッド142と張出部124との連結位置は、A軸まわりを回転移動し、ロッド142の伸縮方向は、ロッド142及び張出部124の連結位置とA軸とを結ぶ方向(張出部124の張出方向)に対して変化する。この場合、補助シリンダ140のシリンダ圧力が一定であれば、チルト体120に付与される補助モーメントは、チルト体120の傾斜角度に応じて変化する。
【0036】
この点に関し、チルト装置100は、チルト体120の可動範囲において、シリンダ圧力によりチルト体120に付与される補助モーメントの向きが、常に一定となり、且つ、アンバランスモーメントの向きとは逆向きとなるように、補助シリンダ140の配置、及び、張出部124とロッド142との連結位置を設定している。これにより、チルト体120の可動範囲において、チルト体120に発生するアンバランスモーメントを補助モーメントにより相殺することができる。
【0037】
また、チルト装置100では、チルト体120の可動範囲において、アンバランスモーメントが大きくなるにつれて補助モーメントが大きくなるように、ロッド142と張出部124との連結位置が設定されている。よって、アンバランスモーメントと補助モーメントとの差を小さくすることができる。
【0038】
(6.制御装置150による補助シリンダ140の駆動制御)
次に、図6A及び図6Bを参照し、制御装置150による補助シリンダ140の駆動制御について説明する。制御装置150は、補助シリンダ140から出力するシリンダ圧力を高圧(例えば、6MPa)と低圧(例えば、3MPa)との何れか一方に設定し、シリンダ圧力によりチルト体120に付与する補助モーメントの大きさを調整する。
【0039】
図6Aに示すように、シリンダ圧力を高圧に設定した場合では、シリンダ圧力を低圧に設定した場合と比べて、チルト体120に付与される補助モーメントが大きくなる。従って、チルト体120の傾斜角度が大きく、チルト体120に発生するアンバランスモーメントが大きい状態では、チルト体120に付与される補助モーメントが大きくなるように、補助シリンダ140のシリンダ圧力を大きく設定することが望ましい。
【0040】
しかしながら、チルト体120の傾斜角度に関わらず、補助シリンダ140のシリンダ圧力を常時高圧に設定した場合、チルト体120の傾斜角度が約10度以下となったときに、補助モーメントがアンバランスモーメントを上回る。この場合、チルト体120の傾斜角度が大きい場合と小さい場合とで、駆動モータ130に加わる負荷の向きが逆向きとなり、駆動モータ130による駆動トルクの向きも逆向きとなる。そのため、チルト体120を揺動させる過程において、アンバランスモーメントと補助モーメントとの大小関係が逆転し、それに伴って駆動モータによる駆動トルクが反転することをきっかけとして、チルト体120にガタが生じるおそれがある。
【0041】
一方、シリンダ圧力を低圧に設定した場合、チルト体120の可動範囲において、チルト体120に付与される補助モーメントは、常にアンバランスモーメントを下回るため、駆動モータ130による駆動トルクの反転が発生することを回避できる。しかしながら、チルト体120の傾斜角度に関わらず、シリンダ圧力を常時低圧に設定すると、チルト体120の傾斜角度を大きくした場合に、アンバランスモーメントと補助モーメントとの差が大きくなる。その結果、駆動モータ130に必要とされる駆動トルクが大きくなり、駆動モータ130が大型化する。
【0042】
これに対し、図6Bに示すように、制御装置150は、チルト体120の傾斜角度が20度に到達した場合(図5C参照)に、シリンダ圧力を変動させる。即ち、シリンダ圧力が低圧に設定された状態でチルト体120の傾斜角度が20度以上となった場合に、制御装置150は、シリンダ圧力を低圧から高圧に切り替える。同様に、シリンダ圧力が高圧に設定されている状態でチルト体120の傾斜角度が20度以下となった場合に、制御装置150は、シリンダ圧力を高圧から低圧に切り替える。
【0043】
この場合、チルト体120の傾斜角度が20度を上回っている状態において、チルト体120に付与する補助モーメントを大きくすることができるので、アンバランスモーメントと補助モーメントとの差を小さくすることができる。これにより、チルト体120の傾斜角度を大きくした状態であっても、アンバランスモーメントにより駆動モータ130に加わる負荷を軽減できるので、駆動モータ130に必要とされる駆動トルクを小さくすることができる。従って、駆動モータ130の大型化を抑制できる。
【0044】
一方、チルト体120の傾斜角度が20度を下回っている状態において、チルト体120に付与する補助モーメントを小さくすることができるので、補助モーメントとアンバランスモーメントとの大小関係が逆転することを回避できる。
【0045】
このように、制御装置150は、チルト体120の可動範囲において、補助モーメントが常にアンバランスモーメントよりも小さくなるように、補助シリンダ140のシリンダ圧力を変動させる。これにより、チルト体120の可動範囲において、駆動モータ130には常にアンバランスモーメントによる一方向のみの負荷が加わるので、駆動モータによる駆動トルクの向きは常に一定となる。その結果、チルト体120を揺動させる過程において、駆動モータ130の駆動トルクが反転することを回避できるので、チルト体120にガタが発生することを防止できる。
【0046】
また、制御装置150は、シリンダ圧力の変動をチルト体120の傾斜角度に基づいて行い、チルト体120の傾斜角度が予め定められた既定の傾斜角度(本実施形態では20度)に到達した場合に、シリンダ圧力を低圧から高圧へ、又は、高圧から低圧へと変動させる。よって、チルト体120の傾斜角度に応じてシリンダ圧力を連続的に変動させる場合と比べて、補助シリンダ140の駆動制御を簡素化できる。
【0047】
なお、歯車加工装置1(図1参照)は、チルト体120の傾斜角度を60度に維持した状態(図5D参照)で、工作物W(図1参照)に対する歯車加工を行う。即ち、制御装置150は、チルト体120の傾斜角度が20度に到達した際に、補助シリンダ140のシリンダ圧力を変動させるのに対し、歯車加工は、チルト体120の傾斜角度である20度を超えた範囲において行われる。この場合、歯車加工時においてシリンダ圧力の変動が行われることを回避できるので、歯車加工時における加工精度の低下を防止できる。
【0048】
また、制御装置150は、チルト体120の傾斜角度が20度を超えた範囲において、旋回軸モータ126の駆動制御を行う。即ち、制御装置150は、シリンダ圧力の駆動制御と旋回軸モータ126の駆動制御とが同時に行われないように設定されている。これにより、チルト体120の揺動と歯車加工時に行う工作物Wの回転とが同時に行われることが回避されるので、歯車加工時においてシリンダ圧力の変動が行われることを予め防止することできる。
【0049】
(7.その他)
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。また、上記実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0050】
例えば、上記実施形態では、チルト体120の傾斜角度が20度に到達したときにシリンダ圧力を変動させる場合について説明したが、これに限られるものではない。即ち、チルト体120の可動範囲において、補助モーメントが常にアンバランスモーメントを下回るようにシリンダ圧力を変動させればよく、その限りにおいて、シリンダ圧力を変動させる際のチルト体120の傾斜角度を任意で設定してもよい。さらに、上記実施形態では、補助シリンダ140から出力されるシリンダ圧力が低圧又は高圧の2パターンである場合について説明したが、3パターン以上のシリンダ圧力が出力されるようにしてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、チルト体120の傾斜角度が60度に到達した場合に、歯車加工を行う場合について説明したが、これに限られるものではない。即ち、歯車加工を行う際のチルト体120の傾斜角度が、シリンダ圧力を変動させる際のチルト体120の傾斜角度を超えた範囲にあればよく、その限りにおいて、歯車加工を行う際のチルト体120の傾斜角度を任意で設定してもよい。
【0052】
さらに、上記実施形態では、チルト体120の傾斜角度が−30度である場合にチルト体120がバランス状態となる場合について説明したが、バランス位置となるチルト体120の傾斜角度が、チルト体120の可動範囲の下限(上記実施形態ではー5度)よりも小さい傾斜角度に設定されていればよく、その限りにおいて、バランス位置となるチルト体120の傾斜角度を任意で設定してもよい。また、チルト体120の可動範囲は、バランス位置となるチルト体120の傾斜角度を上回る範囲内で設定されていればよく、その限りにおいて、チルト体120の可動範囲を任意で設定してもよい。
【0053】
上記実施形態では、チルト体120の傾斜角度が、予め定められた既定の傾斜角度(上記実施形態では20度)に到達した場合に、シリンダ圧力を変動させる場合について説明したが、これに限られるものではなく、チルト体120の傾斜角度の変動に応じてシリンダ圧力を連続的に変動させてもよい。この場合、チルト体120を揺動させる過程において、補助モーメントとアンバランスモーメントとの大小関係が逆転することを回避できるので、駆動モータ130による駆動トルクの反転をきっかけとしてチルト体120にガタが発生することを防止できる。また、補助モーメントをアンバランスモーメントに近づけることができるので、アンバランスモーメントにより駆動モータ130に加わる負荷を軽減できる。よって、駆動モータ130に必要とされる駆動トルクを小さくすることができるので、駆動モータ130の大型化を抑制することができる。また、駆動モータ130を支持体110の片側のみとすることができる。
【0054】
また、上記実施形態では、チルト板121の幅方向において、回転テーブル125及び旋回軸モータ126の重心をA軸からオフセットさせることにより、回転テーブル125及び旋回軸モータ126を含むチルト体120の重心をチルト体120の揺動軸線であるA軸とは異なる位置に設ける場合について説明した。これに対し、チルト体120の形状や軸部123の配置を変更することにより、チルト体120の重心をA軸からオフセットさせてもよい。
【0055】
(8.効果)
以上説明したように、本発明に係るチルト装置100は、工作機械としての歯車加工装置1に設けられるものである。チルト装置100は、工作物W又は工具が配置されるチルト体120と、チルト体120を揺動可能に支持し、チルト体120の重心とは異なる位置に揺動軸線としてのA軸を有する支持体110と、支持体110に設けられ、チルト体120を支持体110に対して揺動させるための駆動力を付与する駆動モータ130と、チルト体120に連結され、シリンダ圧力を付与することで駆動モータ130によるチルト体120の揺動を補助する補助シリンダ140と、駆動モータ130及び補助シリンダ140を駆動制御する制御装置150と、を備える。
【0056】
また、チルト装置100において、重力によりチルト体120に発生する揺動軸線まわりのモーメントであるアンバランスモーメントは、チルト体120の可動範囲において、常に回転方向一方側のみであり、シリンダ圧力によりチルト体120に付与される揺動軸線まわりの補助モーメントは、チルト体120の可動範囲において、常に回転方向他方側のみである。さらに、チルト装置100において、制御装置150は、重力によりチルト体120に発生するモーメントよりも補助モーメントが小さくなるように、シリンダ圧力を変動させる。
【0057】
このチルト装置100によれば、補助シリンダ140のシリンダ圧力をチルト体120に付与することで、駆動モータ130によるチルト体120の揺動が補助されるので、駆動モータ130に必要とされる駆動トルクを小さくすることができる。よって、工作物Wが大型である場合や工作物Wの重量が大きい場合であっても、駆動モータ130の大型化を抑制することができる。
【0058】
また、チルト体120の可動範囲において、重力によりチルト体120に発生する揺動軸線まわりのモーメントであるアンバランスモーメントは、常に回転方向一方側のみであり、シリンダ圧力によりチルト体120に付与される補助モーメントは、常に回転方向他方側のみである。これに加え、制御装置150は、補助モーメントが重力によりチルト体120に発生するモーメントよりも小さくなるように、シリンダ圧力を変動させる。この場合、チルト体120の可動範囲において、駆動モータ130には、常に重力によりチルト体120に発生するモーメントに基づく負荷が加わり、駆動モータ130による駆動トルクの向きが常に一定となる。従って、チルト体120を揺動させる過程において、駆動モータ130の駆動トルクが反転することを回避できるので、チルト体120にガタが発生することを防止できる。
【0059】
上記したチルト装置100において、制御装置150は、チルト体120の傾斜角度に応じてシリンダ圧力を変動させる。このチルト装置100によれば、制御装置150による補助シリンダ140の駆動制御を簡素化できる。
【0060】
上記したチルト装置100において、制御装置150は、チルト体120の傾斜角度が予め定められた既定の傾斜角度に到達した場合に、シリンダ圧力を変動させる。このチルト装置100によれば、制御装置150による補助シリンダ140の駆動制御を簡素化できる。
【0061】
上記したチルト装置100において、工作機械としての歯車加工装置1は、チルト体120が既定の傾斜角度を超えた範囲のみにおいて、工作物の加工を行う。このチルト装置100によれば、歯車加工時においてシリンダ圧力の変動が行われることを回避できるので、歯車加工時における加工精度の低下を防止できる。
【0062】
上記したチルト装置100において、チルト体120は、チルト体120の揺動軸線に直交する軸線であるB軸まわりに工作物Wを回転させる回転テーブル125を備え、制御装置150は、チルト体120が既定の傾斜角度を超えた範囲のみにおいて、回転テーブル125を駆動制御する。このチルト装置100によれば、チルト体120の揺動と歯車加工時に行う工作物Wの回転とが同時に行われることを回避できる。よって、歯車加工時においてシリンダ圧力の変動が行われることを予め防止することができる。
【0063】
上記したチルト装置100において、制御装置150は、チルト体120の傾斜角度に応じてシリンダ圧力を連続的に変動させる。このチルト装置100によれば、チルト体120を揺動させる過程において、補助モーメントとアンバランスモーメントとの大小関係が逆転することを回避できる。よって、駆動モータ130による駆動トルクの反転をきっかけとして、チルト体120にガタが発生することを防止できる。また、補助モーメントをアンバランスモーメントに近づけることができるので、アンバランスモーメントにより駆動モータ130に加わる負荷を軽減できる。その結果、駆動モータ130に必要とされる駆動トルクを小さくすることができるので、駆動モータ130の大型化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0064】
1:歯車加工装置、 100:チルト装置、 110:支持体、 120:チルト体、 125:回転テーブル、 130:駆動モータ、 140:補助シリンダ、 150:制御装置、 W:工作物
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B