(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
変速機のケーシングに形成された開口部を外側から覆うようにして、カバー部材を複数本のボルトを使用して前記ケーシングに固定する時に、複数本の前記ボルトを前記カバー部材に挿通させた状態で保持するためのボルト保持治具であって、
前記カバー部材に外側から挿通された複数本の前記ボルトの頭部を前記カバー部材の側へ押圧する押圧部材を備え、
複数本の前記ボルトの頭部は、一定の外径を有する頭部本体と、前記頭部本体から径方向に突出するフランジをそれぞれ有し、前記押圧部材には、前記頭部本体の外径より大きく且つ前記フランジの外径より小さい内径を有するボルト頭部逃がし穴が、複数の前記ボルトに対応する位置にそれぞれ形成されていることを特徴とするボルト保持治具。
前記カバー部材が、その表面から突出する円筒形状の突出円筒部を有し、前記押圧部材に、前記突出円筒部の外径と略等しい内径を有する突出円筒部逃がし穴が形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のボルト保持治具。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0017】
(フロントカバーの構成)
まず、本発明の実施形態に係るボルト保持治具について説明するに先立って、ボルト保持治具を取り付ける対象である変速機のフロントカバー(特許請求の範囲に言う「カバー部材」)について説明する。
図1は、変速機70の一部を破断して内部構造を示した概略断面図である。変速機70は、互いに平行に配置される入力軸71及び副軸72と、入力軸71及び副軸72を収容するケーシング73と、ケーシング73に取り付けられて入力軸71を回転可能に支持する入力軸用ベアリング74と、ケーシング73に取り付けられて副軸72を回転可能に支持する副軸用ベアリング75と、開口部76を外側から覆うようにしてケーシング73に組みつけられるフロントカバー77と、フロントカバー77をケーシング73に固定する複数のカバー固定用ボルト78とを有している。
【0018】
フロントカバー77は、入力軸用ベアリング74と副軸用ベアリング75がケーシング73から脱落しないように外側から押圧する役割を果たす。このフロントカバー77は、
図1から
図3に示すように(
図2及び
図3では、フロントカバー77及びカバー固定用ボルト78を二点鎖線で示している)、表面から突出して設けられて入力軸71が挿通される筒状部79と、表面から突出する略円筒形状の突出円筒部80と、表面から突出する突起部81と、外周縁部に沿った複数箇所に形成されたボルト挿通穴82とを有している。
【0019】
なお、筒状部79の外周面は、不図示のベアリングを取り付けられるように平滑に形成されている。また、本明細書では詳細な説明を省略するが、突出円筒部80及び突起部81は、フロントカバー77に所定の部品を取り付けるためにそれぞれ設けられている。また、複数のボルト挿通穴82の位置に対応するようにして、
図1に示すケーシング73の複数箇所には、雌ネジ穴100がそれぞれ形成されている。
【0020】
カバー固定用ボルト78(特許請求の範囲に言う「ボルト」)は、フロントカバー77をケーシング73に固定する役割を果たす。このカバー固定用ボルト78は、
図3に示すように、略六角柱形状の頭部83と、外周面に不図示の雄ネジが形成された軸部84とを備えている。そして、頭部83は、一定の外径を有する頭部本体85と、この頭部本体85から径方向に突出するフランジ86とを有している。
【0021】
そして、軸部84の外径はフロントカバー77のボルト挿通穴82の内径より小さく設定される一方、フランジ86の最大外径はフロントカバー77のボルト挿通穴82の内径より大きく設定されている。また、
図2及び
図4に示すように、頭部本体85の頂面には、カバー固定用ボルト78の締め付け時に使用するプラスドライバー等の工具を係合させるための十字溝88(特許請求の範囲に言う「工具係合溝」)が形成されている。なお、工具係合溝の形状は、本実施形態のように平面視で十字形状に限られず、使用する工具の種類に応じて任意の形状とすることができる。例えば、工具としてマイナスドラバを使用する場合には、一文字形状の溝とすればよい。また、工具として六角レンチを使用する場合には、図に詳細は示さないが、頭部本体85の頂面に六角穴(特許請求の範囲に言う「工具係合穴」)を形成すればよい。
【0022】
このように構成されるカバー固定用ボルト78は、
図1及び
図3に示すように、その軸部84がフロントカバー77のボルト挿通穴82に挿通されて、フランジ86がフロントカバー77の表面に当接する位置まで、軸部84の雄ネジがケーシング73の雌ネジ穴100に螺合される。これにより、フロントカバー77がケーシング73の外側に固定される。
【0023】
(ボルト保持治具の構成)
次に、本発明の実施形態に係るボルト保持治具の構成について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係るボルト保持治具1を示す概略斜視図、
図3は
図2におけるA−A線断面図、
図4はボルト保持治具1を示す概略平面図である。なお、
図2から
図4では、前述のフロントカバー77及びカバー固定用ボルト78をそれぞれ二点鎖線で示している。
【0024】
ボルト保持治具1は、
図2に示すように、平板状の押圧部材2と、この押圧部材2の表面に立設された複数本の支柱ピン3と、複数本の支柱ピン3の上端に取り付けられた位置決め部材4とを備えている。
【0025】
押圧部材2は、複数のカバー固定用ボルト78をフロントカバー77に対して押圧する役割を果たす。この押圧部材2は、アクリルからなる透明な板状部材であって、
図2及び
図4に示すように、平面視で長円状に形成された外形を有している。この押圧部材2は、一端側に形成された円形の筒状部逃がし穴5と、他端側に形成された円形の突起部逃がし穴6と、中央部に突起部逃がし穴6と連通するように形成された円形の突出円筒部逃がし穴7と、周縁部に沿った複数箇所に形成された円形のボルト頭部逃がし穴8とを有している。
【0026】
これら筒状部逃がし穴5、突起部逃がし穴6、突出円筒部逃がし穴7、及びボルト頭部逃がし穴8は、ボルト保持治具1をフロントカバー77に取り付けた時に、押圧部材2がフロントカバー77の各所及びカバー固定用ボルト78と接触するのを回避する役割を果たす。具体的には、筒状部逃がし穴5はフロントカバー77の筒状部79との接触を、突起部逃がし穴6はフロントカバー77の突起部81との接触を、突出円筒部逃がし穴7は、フロントカバー77の突出円筒部80との接触を、ボルト頭部逃がし穴8はカバー固定用ボルト78の頭部83との接触を、それぞれ回避する役割を果たしている。
【0027】
従って、筒状部逃がし穴5の内径は、フロントカバー77の筒状部79の外径より大きく設定されている。また、突出円筒部逃がし穴7の内径は、フロントカバー77の突出円筒部80の外径と略等しいかそれより若干大きく設定されている。また、複数のボルト頭部逃がし穴8は、フロントカバー77に形成された複数のボルト挿通穴82に対応した位置にそれぞれ設けられている。そして、ボルト頭部逃がし穴8の内径は、カバー固定用ボルト78の頭部本体85の最大外径より大きく、且つ、フランジ86の最大外径より小さく設定されている。
【0028】
なお、押圧部材2の材質や形状は、本実施形態に限定されず適宜設計変更が可能である。但し、本実施形態のようにアクリル等の透明部材で押圧部材2を形成すれば、ボルト保持治具1をフロントカバー77に取り付ける際に、押圧部材2を通してフロントカバー77に取り付けられたカバー固定用ボルト78の位置を容易に視認することができるので、ボルト保持治具1の取り付け作業を効率的に行うことができるという利点がある。
【0029】
また、ボルト頭部逃がし穴8の個数や位置や形状は、本実施形態に限定されず、フロントカバー77のボルト挿通穴82の個数や位置、及びカバー固定用ボルト78の頭部83の形状等に応じて適宜設計変更が可能である。また、筒状部逃がし穴5の形状や位置も、フロントカバー77の筒状部79の外径や位置に応じて適宜設計変更が可能である。また、突起部逃がし穴6及び突出円筒部逃がし穴7の個数や位置や形状も、フロントカバー77の突起部81及び突出円筒部80の個数や位置や形状に応じて適宜設計変更が可能である。なお、フロントカバー77の表面に突起部81や突出円筒部80がない場合には、押圧部材2に突起部逃がし穴6や突出円筒部逃がし穴7を設けなくてもよい。
【0030】
複数本の支柱ピン3は、
図2及び
図3に示すように、長尺な棒状のピン本体9と、ピン本体9の一端部に螺合されるピン固定用ボルト10と、ピン本体9の他端部に螺合されるピン固定用低頭ボルト11とを備えている。
【0031】
ピン本体9は、位置決め部材4を押圧部材2から所定距離だけ離間させるスペーサとしての役割を果たす。このピン本体9には、図に詳細は示さないが、その長手方向両端部に雌ネジ穴がそれぞれ形成されている。
【0032】
ピン固定用ボルト10は、ピン本体9の一端部を位置決め部材4に固定する役割を果たす。このピン固定用ボルト10は、
図2及び
図4に示すように、頂面に六角穴12が形成された頭部13と、外周面に不図示の雄ネジが形成された軸部14(
図5を参照)とを備えている。
【0033】
ピン固定用低頭ボルト11は、ピン本体9の他端部に押圧部材2を固定する役割を果たす。このピン固定用低頭ボルト11は、
図3に示すように、頂面に不図示の六角穴が形成された頭部16と、外周面に雄ネジが形成された軸部(不図示)とを備えている。ここで、ピン固定用低頭ボルト11の頭部16は、その軸方向の厚みが、ピン固定用ボルト10の頭部13の軸方向の厚みより小さく設定されている。これにより、
図3に示すように、ボルト保持治具1をフロントカバー77に取り付ける際に、押圧部材2の裏面から突出するピン固定用低頭ボルト11の頭部16が、フロントカバー77に接触するのを回避することができる。
【0034】
このように構成される支柱ピン3は、
図2及び
図3に示すように、ピン本体9が押圧部材2と位置決め部材4との間に配置され、ピン固定用ボルト10が位置決め部材4を挿通してピン本体9の一端部に形成された雌ネジ穴に螺合されると共に、ピン固定用低頭ボルト11が押圧部材2を挿通してピン本体9の他端部に形成された雌ネジ穴に螺合される。これにより、ピン本体9の一端部が位置決め部材4に固定されると共に、ピン本体9の他端部が押圧部材2に固定される。
【0035】
なお、ピン本体9の長さは、押圧部材2と位置決め部材4の間に確保しようとする離間距離に応じて任意の長さとすることができる。また、ピン本体9の断面形状や本数や配置位置は、本実施形態に限定されず、位置決め部材4を安定して支持できる範囲で適宜設計変更が可能である。但し、本実施形態のように支柱ピン3の本数を3本と少なくした方が、ボルト保持治具1を全体として軽量化することができるという利点がある。
【0036】
また、本実施形態ではピン固定用ボルト10とピン固定用低頭ボルト11の締め付け時に不図示の六角レンチを使用することを想定して、ピン固定用ボルト10の頭部13とピン固定用低頭ボルト11の頭部16に、工具係合穴としての六角穴12,15をそれぞれ形成した。しかし、前述のカバー固定用ボルト78と同様に、締め付けに使用する工具の種類に応じて、例えば平面視で一文字形状の溝や十字形状の工具係合溝を、ピン固定用ボルト10の頭部13やピン固定用低頭ボルト11の頭部16に形成することも可能である。また、工具としてトルクレンチとソケットを使用する場合には、ピン固定用ボルト10の頭部13やピン固定用低頭ボルト11の頭部16に工具係合溝や工具係合穴を形成しなくてもよい。
【0037】
位置決め部材4は、
図2及び
図3に示すように、円盤形状の案内板18と、同じく円盤形状のリング収容ケース19と、このリング収容ケース19の内部に収容されるOリング20(特許請求の範囲に言う「リング部材」)と、リング収容ケース19を案内板18に固定する複数のケース固定具21とを備えている。
【0038】
案内板18は、ボルト保持治具1のフロントカバー77への取り付け位置を案内する役割を果たす。この案内板18は、アクリルからなる透明な板状部材であって、
図2及び
図4に示すように、平面視で略円形に形成されている。ここで、
図5は、
図2におけるB−B線断面を示す概略断面図である。この案内板18は、中心部を貫通して形成された筒状部挿通穴22と、周縁部を貫通して形成された固定具挿通穴23とを有している。そして、筒状部挿通穴22の内径は、フロントカバー77の筒状部79の外径と略等しいかそれより若干大きく設定されている。このように構成される案内板18は、
図2及び
図3に示すように、複数の支柱ピン3によって支持されることにより、押圧部材2からピン本体9の長さ分だけ離間した位置に、押圧部材2と略平行な状態で配置される。
【0039】
リング収容ケース19は、Oリング20を収容して案内板18に固定する役割を果たす。このリング収容ケース19は、アクリルからなる透明な部材であって、
図2及び
図5に示すように、平面視で案内板18より小径の略円形であって、その軸方向への厚みは案内板18の軸方向への厚みより大きく設定されている。このリング収容ケース19は、
図5に示すように、中心部を貫通して形成された筒状部挿通穴24と、径方向中間部を貫通して形成された固定具挿通穴25と、内周面に周方向に延びるように形成されたリング嵌合溝26とを有している。そして、筒状部挿通穴24の内径は、フロントカバー77の筒状部79の外径と略等しいかそれより若干大きく、且つ、案内板18の筒状部挿通穴22の内径と略等しく設定されている。また、固定具挿通穴25の内径は、案内板18の固定具挿通穴23の内径と略等しく設定されている。このように構成されるリング収容ケース19は、
図5に示すように、その裏面を案内板18の表面に当接させるようにして配置される。
【0040】
Oリング20は、位置決め部材4がフロントカバー77の筒状部79に沿って移動するのを規制する役割を果たす。このOリング20は、ゴム等の弾性部材からなり、
図5に示すように、略円形の断面形状を有する円環状の部材である。このOリング20は、その断面直径がリング嵌合溝26の溝深さより若干大きく設定されると共に、その内径がフロントカバー77の筒状部79の外径より若干小さく設定されている。このように構成されるOリング20は、
図5に示すように、リング収容ケース19のリング嵌合溝26に嵌合される。ここで、Oリング20の断面直径及び内径が上述のように設定されているため、リング嵌合溝26に嵌合されたOリング20は、その一部を筒状部挿通穴22の内周面より径方向内側に突出させた状態となっている。
【0041】
複数のケース固定具21は、リング収容ケース19を案内板18に固定する役割を果たす。これらケース固定具21は、
図2及び
図5に示すように、頭部27の頂面に六角穴28が形成された複数本のケース固定用ボルト29と、ケース固定用ボルト29それぞれの軸部30に螺合するナット31とを備えている。ここで、ケース固定用ボルト29は、その軸部30の外径が、案内板18の固定具挿通穴23の内径及びリング収容ケース19の固定具挿通穴25の内径より小さく設定されると共に、その軸部30の長さが、案内板18の厚みとリング収容ケース19の厚みの合計値より大きく設定されている。このように構成されるケース固定具21は、ケース固定用ボルト29の軸部30が案内板18の固定具挿通穴23及びリング収容ケース19の固定具挿通穴25にそれぞれ挿通されて、案内板18の裏面から突出したケース固定用ボルト29の軸部30に対してナット31が螺合される。
【0042】
なお、案内板18及びリング収容ケース19の材質や外形は、本実施形態に限定されず適宜設計変更が可能である。但し、本実施形態のようにアクリル等の透明部材で案内板18やリング収容ケース19を形成すれば、前述の押圧部材2と同様の理由により、ボルト保持治具1の取り付け作業を効率的に行うことができるという利点がある。また、本発明に係るリング部材は、本実施形態のOリング20に限定されず、リング嵌合溝26の内径や溝深さ等に応じて任意の材質や断面形状や外形とすることができる。
【0043】
また、本実施形態ではケース固定用ボルト29に対するナット31の締め付け時に不図示の六角レンチを使用することを想定して、ケース固定用ボルト29の頭部27に工具係合穴としての六角穴28を形成した。しかし、前述のカバー固定用ボルト78と同様に、締め付けに使用する工具の種類に応じて、例えば平面視で一文字形状の溝や十字形状の工具係合溝をケース固定用ボルト29の頭部27に形成することも可能である。また、工具としてトルクレンチとソケットを使用する場合には、ケース固定用ボルト29の頭部27に工具係合溝や工具係合穴を形成しなくてもよい。また、ケース固定具21としては、本実施形態のケース固定用ボルト29とナット31の組み合わせに限定されず、リング収容ケース19を案内板18に固定可能な任意の手段を用いることができる。
【0044】
(ボルト保持治具の使用手順)
次に、本発明の実施形態に係るボルト保持治具1の使用手順及びその作用効果について説明する。
図1に示す変速機70のケーシング73に対してフロントカバー77を組み付ける場合、まず、
図2及び
図3に示すように、フロントカバー77に形成された複数のボルト挿通穴82に対し、カバー固定用ボルト78をそれぞれ挿通させる。
【0045】
次に、複数本のカバー固定用ボルト78が挿通されたフロントカバー77に対し、ボルト保持治具1を取り付ける。詳細には、まずフロントカバー77の筒状部79を、押圧部材2の筒状部逃がし穴5に挿通させた後、案内板18の筒状部挿通穴22及びリング収容ケース19の筒状部挿通穴24に挿通させる。ここで、前述のように筒状部挿通穴22及び筒状部挿通穴24の内径は筒状部79の外径と略等しい大きさに設定されているので、ボルト保持治具1がフロントカバー77に対して概略的に位置決めされる。
【0046】
そして、フロントカバー77の筒状部79に沿ってボルト保持治具1を更に移動させることにより、
図2に示すように、フロントカバー77の突出円筒部80を押圧部材2の突出円筒部逃がし穴7に挿通させる。ここで、前述のように突出円筒部逃がし穴7の内径は突出円筒部80の外径と略等しい大きさに設定されているので、ボルト保持治具1がフロントカバー77に対して正確に位置決めされる。そしてこの時、押圧部材2に形成された複数のボルト頭部逃がし穴8に、カバー固定用ボルト78の頭部本体85がそれぞれ挿通される。そして、
図3に示すように、押圧部材2の裏面がカバー固定用ボルト78のフランジ86に当接した状態となる。
【0047】
ここで、前述のようにリング収容ケース19のリング嵌合溝26に嵌合されたOリング20は、その一部を筒状部挿通穴24の内周面より径方向内側に突出させた状態となっている。従って、リング収容ケース19の筒状部挿通穴24に対してフロントカバー77の筒状部79が挿通されると、Oリング20はリング収容ケース19と筒状部79との間で圧縮された状態となり、リング収容ケース19と筒状部79の双方に密着する。この時、Oリング20と筒状部79との間には摩擦力が作用し、この摩擦力によって、ボルト保持治具1の筒状部79に沿った移動がある程度規制される。これにより、ボルト保持治具1がフロントカバー77から離反することがある程度防止される。なお、前述のようにフロントカバー77の筒状部79に沿ってボルト保持治具1を移動させる際にはこの摩擦力が邪魔にならないよう、Oリング20の材質や筒状部挿通穴24の内周面からの突出具合が設定されている。
【0048】
次に、ボルト保持治具1が取り付けられたフロントカバー77を、
図1に示す変速機70のケーシング73における所定の組み付け位置にセットする。詳細には、入力軸71を筒状部79に挿入させながら、フロントカバー77に挿通された複数本のカバー固定用ボルト78が、ケーシング73の複数箇所に形成された雌ネジ穴100の入口部にそれぞれ当たるように、ボルト保持治具1をケーシング73に向かって押し出す。この時、頭部本体85がボルト頭部逃がし穴8から離脱しないよう、押圧部材2とフロントカバー77を互いに近づけながら、ボルト保持治具1をケーシング73に向かって押し出してもよい。これは両手で行ってもよいし、可能であれば片手で行ってもよい。
【0049】
次に、複数本のカバー固定用ボルト78をそれぞれ仮締めする。詳細には、前述のように一方の手でボルト保持治具1をケーシング73に向かって押しながら、カバー固定用ボルト78の頭部83に形成された十字溝88(
図2及び
図4を参照)に対し、他方の手でプラスドライバー等の工具を差し込んで数回転させることにより、カバー固定用ボルト78をケーシング73の雌ネジ穴100に対して数個のネジ山ぶんだけ螺合させる。この作業を全てのカバー固定用ボルト78について繰り返すことにより、フロントカバー77は変速機70のケーシング73(
図1を参照)に軽く固定された状態となる。
【0050】
次に、ボルト保持治具1をフロントカバー77から取り外す。詳細には、ボルト保持治具1をOリング20の摩擦力に抗して筒状部79に沿って引き抜くことにより、押圧部材2の裏面をカバー固定用ボルト78のフランジ86から離間させる。そして、リング収容ケース19の筒状部挿通穴24、案内板18の筒状部挿通穴22、押圧部材2の筒状部逃がし穴5の順にこれらを筒状部79から抜き取ることにより、ボルト保持治具1をフロントカバー77から取り外す。
【0051】
最後に、複数本のカバー固定用ボルト78をそれぞれ本締めする。詳細には、不図示のソケット及びトルクレンチ等の工具を使用してカバー固定用ボルト78の頭部83を回すことにより、カバー固定用ボルト78をケーシング73の雌ネジ穴100に対して十分に螺合させる。これにより、フロントカバー77は変速機70のケーシング73(
図1を参照)に完全に固定された状態となる。以上により、ケーシング73に対するフロントカバー77の組み付け作業が完了する。
【0052】
(作用効果)
以上説明したような本発明の実施形態に係るボルト保持治具1によれば、ボルト保持治具1が取り付けられたフロントカバー77を変速機70のケーシング73における所定の組み付け位置に一方の手で押し当てることにより、フロントカバー77に挿通された全てのカバー固定用ボルト78がケーシング73の雌ネジ穴100に螺合可能な位置にそれぞれ配置される。従って、他方の手で工具を取り上げて、全てのカバー固定用ボルト78の締め付け作業を一気に行うことができる。従って、一方の手でフロントカバー77を所定の組み付け位置に押し付けながら、他方の手で複数本のカバー固定用ボルト78をフロントカバー77のボルト挿通穴82に差し込んで締め付ける作業を繰り返す場合と比較すると、一本のカバー固定用ボルト78の締め付け作業が完了するたびに工具を他方の手から離す必要がない分、作業能率が向上するので作業時間を短縮化することができる。
【0053】
(変形例)
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態としては以下に示すような変形例も考えられる。
【0054】
(1)本実施形態では、押圧部材2でカバー固定用ボルト78の頭部83に設けられたフランジ86を押圧したが、押圧部材2でカバー固定用ボルト78の頭部83を押圧する態様はこれに限定されない。
図6は、押圧部材40でカバー固定用ボルト41の頭部42を押圧する他の実施形態を示す概略断面図である。この実施形態では、押圧部材40に形成するボルト頭部逃がし穴43の構成とカバー固定用ボルト41の構成が本実施形態とは異なっている。具体的には、カバー固定用ボルト41は、一定の外径を有する頭部44と、外周面に不図示の雄ネジが形成された軸部45とを有し、前述のようなフランジ86を有していない。一方、ボルト頭部逃がし穴43は、その上部開口の縁部に、径方向内側に突出するボルト頭部押圧片46を有している。そして、ボルト頭部押圧片46は、その径方向への突出長さが、カバー固定用ボルト41の頭部42の周縁部を上方から押圧可能であって、且つ、頭部42に形成された十字溝47に対して外部からアクセス可能な程度に設定されている。このような構成によれば、ボルト頭部押圧片46でカバー固定用ボルト41の頭部44の頂面を押圧することができると共に、カバー固定用ボルト41の締め付け時にはボルト頭部押圧片46が邪魔になることなく、不図示のプラスドライバー等の工具を十字溝47に差し込んで仮締めすることができる。
【0055】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。