特許第6780412号(P6780412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6780412コーティング組成物ならびにコーティング製剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6780412
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】コーティング組成物ならびにコーティング製剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20201026BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20201026BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20201026BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20201026BHJP
   A61K 9/30 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   A61K47/36
   A61K47/02
   A61K47/38
   A61K47/32
   A61K9/30
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-189407(P2016-189407)
(22)【出願日】2016年9月28日
(65)【公開番号】特開2018-53059(P2018-53059A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 千晶
(72)【発明者】
【氏名】森部 光俊
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02703286(US,A)
【文献】 特表2000−503316(JP,A)
【文献】 特表2001−519379(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/056230(WO,A1)
【文献】 特開昭61−207328(JP,A)
【文献】 特開昭58−172313(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/035756(WO,A1)
【文献】 特開2015−122980(JP,A)
【文献】 特開昭55−007241(JP,A)
【文献】 特表2004−513182(JP,A)
【文献】 米国特許第05795606(US,A)
【文献】 国際公開第2000/022105(WO,A1)
【文献】 特表2001−509471(JP,A)
【文献】 特開平01−124356(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/123949(WO,A1)
【文献】 特表2004−507581(JP,A)
【文献】 特開2001−245609(JP,A)
【文献】 特表2016−505242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/00
A61K 47/00−48
A61K 9/00−72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エステル化度が3〜40%であるペクチン、(B)カルシウム塩及びマグネシウム塩から選ばれる1種以上、(C)ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アラビアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン及びカードランから選ばれる1種以上の被膜形成成分を含有し、カルシウム及びマグネシウム/(A)で表される質量比が、0.002〜0.1、(C)/(A)で表される(A)成分と(C)成分との質量比が0.2〜3である腸溶性コーティング組成物。
【請求項2】
(A)成分が、(B)成分によって架橋されたペクチンである請求項1記載のコーティング組成物。
【請求項3】
被コーティング物の表面に、請求項1又は2記載のコーティング組成物からなるコーティング層が形成されているコーティング製剤。
【請求項4】
被コーティング物とコーティング層との間に、(D)6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物を含有する中間層を有する、請求項記載のコーティング製剤。
【請求項5】
コーティング層の割合が、コーティング製剤に対して0.5〜30質量%である請求項3又は4記載のコーティング製剤。
【請求項6】
被コーティング物又は中間層を有する被コーティング物に、請求項1又は2記載のコーティング組成物を噴霧コーティングする工程を含む、請求項3〜5のいずれ1項記載のコーティング製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物ならびにコーティング製剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌や酵素等のタンパク質の機能成分のように、胃での分解を防ぎ、構造を維持して腸まで届けることにより高い機能性を発揮する成分があり、これらのために胃で溶けず腸で溶ける、腸溶性の製剤が求められている。
【0003】
有効成分を腸まで到達させるための保護膜としては、胃の中のpH条件(酸性)で溶解せず、小腸のpH条件(中性)で溶解する成分が求められ、医薬品にはメタクリル酸系高分子化合物、食品にはシェラック及びツェインを用いることが一般的であるが、さらに、優れた腸溶性を可能にするコーティング組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−027651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、酸性下での耐溶解性(胃環境下での不溶性)を高め、さらに、優れた腸溶性を可能にするコーティング組成物、このコーティング組成物を用いた製剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ペクチンを用いた場合に一定の腸溶性を得ることができる可能性を見出した。しかしながら、ペクチンで調製したフィルムは、酸性下(pH1.2)で溶解はしないものの、もろく壊れやすいという問題を見出した。これに対して、被膜形成成分と組み合わせた上で、ペクチンの中でも、メトキシル化度合いが低く、エステル化度が3〜40%でアニオン性基を多くもつペクチンを選定し、酸性下での耐溶解性を高め、さらにカルシウム塩又はマグネシウム塩を併用してペクチンを架橋することにより、酸性下での耐溶解性を強化することができ、高い腸溶性能が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は下記発明を提供する。
[1].(A)エステル化度が3〜40%であるペクチン、(B)カルシウム塩及びマグネシウム塩から選ばれる1種以上、(C)被膜形成成分を含有し、カルシウム及びマグネシウム/(A)で表される質量比が、0.002〜0.1、(C)/(A)で表される(A)成分と(C)成分との質量比が0.2〜3であるコーティング組成物。
[2].(C)成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アラビアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン及びカードランから選ばれる1種以上である[1]記載のコーティング組成物。
[3].(A)成分が、(B)成分によって架橋されたペクチンである[1]又は[2]記載のコーティング組成物。
[4].被コーティング物の表面に、[1]〜[3]のいずれかに記載のコーティング組成物からなるコーティング層が形成されているコーティング製剤。
[5].被コーティング物とコーティング層との間に、(D)6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物を含有する中間層を有する、[4]記載のコーティング製剤。
[6].被コーティング物又は中間層を有する被コーティング物に、[1]〜[3]のいずれかに記載のコーティング組成物を噴霧コーティングする工程を含む、[4]又は[5]記載のコーティング製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸性下での耐溶解性を強化することができ、高い腸溶性能が得られるコーティング組成物、このコーティング組成物を用いた製剤及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
(A)エステル化度が3〜40%であるペクチン
本発明のペクチンは、エステル化度(メトキシル基)が3〜40%であるペクチンである。初期及び保存後の胃耐性、腸環境での溶解性の点から、エステル化度は22〜35%が好ましく、22〜30%がより好ましい。エステル化度が40%を超えると、カルシウム又はマグネシウムによる架橋が十分でなく、酸性下での耐溶解性、胃環境下での不溶性(以下、胃耐性とまとめて記載する)機能を十分に果たさない。エステル化度が3%未満であると、分子量が小さく、胃耐性機能を十分に発揮ができない。なお、エステル化度は、FCC及びFAO/WHOにおける測定方法に準拠した適定法で測定することができる。また、ペクチンは脱エステル化の方法の違いにより酸処理タイプとアルカリ処理タイプ(アミドペクチン)に大別され、特に限定はされないが、コーティング液中の溶解性およびゲル化挙動の点より酸処理タイプが好ましい。
【0010】
(A)成分の含有量は、組成物中2〜10質量%(固形分)が好ましく、3〜5質量%(固形分)がより好ましい。また、コーティング層中30〜55質量%が好ましく、35〜50質量%がより好ましい。
【0011】
(B)カルシウム塩及びマグネシウム塩から選ばれる1種以上、
カルシウム塩としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、サッカリンカルシウム等の水溶性カルシウム塩、マグネシウム塩としては、塩化マグネシウム等の水溶性マグネシウム塩が挙げられる。水への溶解性が高い点から、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、塩化マグネシウムが好ましい。
【0012】
(B)成分の含有量は、組成物中0.02〜0.5質量%(固形分)が好ましく、0.04〜0.2質量%(固形分)がより好ましい。また、コーティング層中0.2〜6質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。
【0013】
また、カルシウム及びマグネシウム/(A)で表される質量比は0.002〜0.1であり、初期及び保存後の胃耐性、腸環境での溶解性の点から、0.005〜0.05が好ましく、0.005〜0.02がより好ましい。なお、「カルシウム及びマグネシウム」量は、(B)成分の塩量ではなく、カルシウム及びマグネシウム量の総量であり、カルシウム単独の場合はカルシウム量、マグネシウム単独の場合はマグネシウム量である。上記質量比が0.1を超えると、コーティング組成物がゲル化してしまい、初期及び保存後の胃耐性、腸環境での溶解性が悪くなり、0.002未満だと、胃耐性機能を十分に発揮できない。
【0014】
(C)被膜形成成分
被膜形成成分としては、粘度が低い皮膜形成成分、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アラビアガム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、プルラン、カードラン等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、プルランが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがより好ましい。
【0015】
(C)成分の含有量は、組成物中0.5〜5質量%(固形分)が好ましく、0.5〜2質量%(固形分)がより好ましい。また、コーティング層中5〜45質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0016】
(C)/(A)で表される(A)成分と(C)成分との質量比は、0.2〜3であり、初期及び保存後の胃耐性、腸環境での溶解性の点から、0.2〜0.8が好ましく、0.3〜0.5がより好ましい。上記比率が、3を超えると、胃耐性機能を十分に発揮できない。また、0.2未満になると、膜の形成性が低下し、胃耐性機能を十分に発揮できない。
【0017】
本発明のコーティング組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で任意成分を配合することができる。このような成分としては、可塑剤、付着防止剤、滑沢剤、消泡剤、着色剤等が挙げられる。
【0018】
可塑剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、ショ糖等の糖、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール等の糖アルコール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノール等(好適には炭素数6〜22)の高級アルコール、中鎖脂肪酸エステル(好適には炭素数6〜12)等の油脂が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、コーティング膜の可塑効果の点から、グリセリンが好ましく、腸溶性の点からは界面活性剤が好ましく、グリセリン及び/又はショ糖脂肪酸エステルがより好ましい。可塑剤の含有量は、コーティング組成物に対して0.2〜5質量%(固形分)が好ましく、0.5〜2質量%(固形分)がより好ましい。また、コーティング層中2〜25質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0019】
付着防止剤及び滑沢剤としては、タルク、ステアリン酸カルシウム、二酸化ケイ素等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。微粒子の粒径は0.01〜50μmであり、0.1〜20μmが好ましい。なお、粒径の測定はレーザー回折式粒度分布測定装置にて行う。付着防止剤及び滑沢剤の含有量は、コーティング組成物に対して0.1〜2質量%(固形分)が好ましく、0.2〜1.5質量%(固形分)がより好ましい。また、コーティング層中1〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0020】
消泡剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ジメチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン・二酸化ケイ素混合物、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0021】
着色剤としては、例えば、アセンヤクタンニン末、ウコン抽出液、黄色三二酸化鉄、オレンジエッセンス、褐色酸化鉄、カーボンブラック、カラメル、カルミン、カロチン液、β−カロテン、カンゾウエキス、金箔、黒酸化鉄、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、三二酸化鉄、食用青色1号、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、水酸化ナトリウム、銅クロロフィンナトリウム、銅クロロフィル、ハダカムギ緑葉抽出エキス、薬用炭、酪酸リボフラビン、リボフラビン、緑茶末、リン酸リボフラビンナトリウム等が挙げられる。
【0022】
[コーティング組成物]
(A)エステル化度が3〜40%であるペクチンは、(B)カルシウム塩及びマグネシウム塩から選ばれる1種以上により架橋され、胃耐性機能がより発揮される。コーティング組成物中の水分量は特に限定されず、50〜98質量%から適宜選定される。
【0023】
[コーティング製剤]
上記コーティング組成物を用いて、被コーティング物の表面に、コーティング組成物からなるコーティング層が形成されているコーティング製剤とすることができる。
【0024】
本発明のコーティング組成物及びこのコーティング組成物から形成されるコーティング膜は、腸溶性、つまり「胃で溶けず腸で溶解し、被コーティング物を腸に到達させることができる」という性質を有するものである。
【0025】
本発明において「腸溶性」とは、日本薬局方の溶出試験法に準じ、胃液相当の溶出試験液(pH1.2)にて、2時間で溶出率20%以下、腸液相当の溶出試験液(pH6.8)で、2時間で溶出率70%以上をいう。
【0026】
コーティング膜の厚さは特に限定されないが、5μm〜1mmが好ましく、10〜500μmがより好ましい。また、コーティング製剤に対して、コーティング膜が0.5〜30質量%とすることが好ましく、1〜25質量%がより好ましい。
【0027】
コーティング膜の水分量は、コーティング膜に対して10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましい。
【0028】
被コーティング物としては特に限定されず、食品、医薬品等の有効成分等が挙げられる。例えば、乳酸菌、システイン、鉄、抗体やラクトフェリン等のタンパク質、ペプチド、ATP−2Na等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、タンパク質等の高分子量成分や水不溶性の成分に好適である。コーティング錠の外観性および腸環境での溶出性の点より、結晶セルロース40〜100mg(1錠中)、マルチトール40〜80mg(1錠中)が好ましい。
【0029】
被コーティング物の形や、剤型は特に限定されず、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤等特に限定されない。錠剤は単層でも二層以上でもよい。この中でも、腸溶性をより発揮する点から、錠剤とすることが好ましい。錠剤の寸法は特に限定されず、錠剤の取り扱いやすさと嚥下性の観点から、錠剤の径として5〜14mmφが好ましく、7〜12mmφがより好ましい。また、1錠あたりの錠剤質量としては150〜700mg程度が適切であり、錠剤の形状としては特に限定されないが、丸型(R錠、2段R錠、スミカク平錠等)、三角形、四角形、六角形、八角形、楕円形、ラグビーボール型等があり、丸型のR錠、2段R錠が好ましい。
【0030】
本発明のコーティング製剤は、被コーティング物とコーティング層との間に、(D)6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物を含有する中間層を有することが好ましい。この中間層を設けることで、胃耐性機能がより向上する。6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物としては、粘度が低い皮膜形成成分、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アラビアガム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、プルラン、カードラン等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)が好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)がより好ましい。(C)成分の含有量は、中間層を形成するコーティング組成物に対して1〜20質量%(固形分)が好ましく、2〜10質量%(固形分)がより好ましい。また、中間層中20〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。
【0031】
中間層には、(D)成分以外にグリセリン、ショ糖脂肪酸エステル等の成分を含有してもよい。これらの成分の含有量は、中間層を形成するコーティング組成物に対して0.1〜10質量%(固形分)が好ましく、0.5〜5質量%(固形分)がより好ましく、中間層中に対して1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。
【0032】
中間層の量は、コーティング層の量に対し5〜50質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。5質量%以上とすることで、経時での十分な胃耐性を得ることができる。また、平滑なコーティング錠が得られる。また、50質量%以下とすることで、腸環境での溶出性が良好となる。また、(D)成分のコーティング中間層中の含有量は、10〜80質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましい。
【0033】
中間層の水分量は、中間層に対して5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0034】
[コーティング製剤の製造方法]
コーティング組成物は上記必須成分を混合することにより得ることができ、コーティング製剤は、被コーティング物に、コーティング組成物そのまま、又は水を加えたコーティング溶液を噴霧し、乾燥することにより、被コーティング物の表面にコーティング膜を形成させることにより得ることができる。本発明のコーティング組成物は水性であるため、水を用いたコーティングが可能であり、水溶性膜が形成される。
【0035】
コーティング溶液は、コーティング組成物及び水を含むものであり、コーティング溶液の水分量は50〜98質量%が好ましく、70〜96質量%がより好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、エタノール等の有機溶剤を配合してもよい。
【0036】
コーティング機は特に限定されず、パンコーティング機、流動層コーティング機、転動コーティング等を用いることができる。
【0037】
コーティング方法は特に限定されないが、例えば、被コーティング物に、コーティング溶液を噴霧し、加温により乾燥させることにより、被コーティングの表面にフィルム化させる方法が挙げられる。コーティング溶液は適宜加温することができ、温度は30〜80℃が好ましく、乾燥温度は40〜80℃が好ましい。コーティング溶液の添加速度は、乾燥風量1m3/minに対し、1〜5g/minが好ましい。その他、コーティング溶液に、被コーティング物を浸漬して乾燥させるディップコートの方法をとることも可能である。乾燥はコーティング製剤中の水分量が上記好適範囲になるまで乾燥させることが好ましい。
【0038】
中間層を設ける場合は、上記コーティングをする前に、(D)6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物溶液を調製し、上記と同様の方法でコーティングすればよい。中間層溶液の水分量は50〜99質量%が好ましく、80〜99質量%がより好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%、比率は質量比を示す。
【0040】
[実施例、比較例]
以上の原料を混合し、打錠機を用いて錠剤(300mg、φ9.0mm、厚み5.3mm、2段R錠(R1=3.6mm、R2=10.5mm、H=1.5mm))になるよう打錠を行い、素錠を調製した。下記表1に示す組成のコーティング溶液、中間層溶液を調製し下記方法で素錠をコーティングし、コーティング錠を調製した。得られたコーティング錠について、下記評価を行った。結果を表中に併記する。
[素錠]
1錠当たりの質量
ラクトフェリン:110mg
ヒハツエキス末:50mg
マルチトール50mg
結晶セルロース:80.5mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC−Ca):6.0mg
ステアリン酸カルシウム0.5mg
微粒二酸化ケイ素:3.0mg
【0041】
[中間層(1層目)]
〈中間層コーティング液の調製〉
<コーティング液の調製>
全原料を混合攪拌し溶解させて中間層コーティング液を得た。
<コーティング>
コーティング機(フロイント産業(株)製 ハイコーターFZ−Lab)を用い、素錠200gに対し、中間層コーティング液を45g噴霧し、水分残存量が約20%となるように乾燥させ、コーティング錠を得た。
【0042】
[コーティング層(2層目)]
<コーティング液の調製>
(A)成分と(B)成分を一部の水に分散し、80℃に加熱して溶解させた。その他原料を残りの水に分散し、上記液と混合してコーティング液を得た。
<コーティング>
コーティング機(フロイント産業(株) ハイコーターFZ−Lab)を用い、素錠200gに対し、コーティング液を300g噴霧し、水分残存量が15〜20%となるように乾燥させ、コーティング錠を得た。
【0043】
<溶出性試験>
コーティング膜の溶解性をラクトフェリンの溶出性で評価した。
コーティング直後のコーティング錠、コーティング後40℃75%RHにて4ヶ月保管後のサンプルを評価した。
【0044】
<試料溶液の調製>
日局1液(pH1.2)を用い、日局一般試験法に準拠した溶出試験を行った。
日局2液(pH6.8)を用い、日局一般試験法に準拠した溶出試験を行った。
<ラクトフェリン定量>
ラクトフェリンの定量法は第9版食品添加物公定書案の方法に準拠した。
<定量>
上記溶出試験の2時間後のサンプリング溶液を試料溶液とした。試料溶液及び3濃度の標準溶液をそれぞれ20μLずつ量り、次の操作条件で液体クロマトグラフィーを行った。それぞれの標準液のラクトフェリンピーク面積を測定し、検量線を作成した。この検量線と試料溶液のラクトフェリン面積から試料溶液中のラクトフェリン濃度を求め、次式によりラクトフェリン100mg/錠に対するラクトフェリン溶出率を求める。
ラクトフェリン溶出率(%)=試料溶液中のラクトフェリン濃度(mg/mL)×900(mL)×定量用ラクトフェリンの純度(%)×1/100×1/100(mg)×100
【0045】
クロマトグラフィー条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:280nm)
カラム充填剤:5μmの液体クロマトグラフィー用ブチル化ポリビニルアルコールポリマーゲル(Shodex Asahipak C4P−50 4D)
カラム管:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管
ガードカラム:Shodex Asahipak C4P−50G 4A
カラム温度:35℃
移動相A
0.03w/v%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリル/塩化ナトリウム溶液(3→100)混液(10:90)
移動相B
0.03w/v%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリル/塩化ナトリウム溶液(3→100)混液(50:50)
濃度勾配 A:B(50:50)から(0:100)までの直線濃度勾配を25分間行なった。
流量:0.8mL/分
定量用ラクトフェリン:和光純薬工業(株)製 生化学用「ラクトフェリン、牛乳由来」
定量用ラクトフェリンの純度(%):和光純薬工業(株)検査成績書の含量(HPLC)の数値を使用
【0046】
溶出率から、結果を下記基準で示す。
日局1液(pH1.2);
2時間で溶出性5%以下;◎
2時間で溶出性5%を超え、10%以下;○
2時間で溶出性10%を超え、20%以下;●
2時間で溶出性20%を超える;×
日局2液(pH6.8);
2時間で溶出性90%以上;◎
2時間で溶出性70%以上90%未満;○
2時間で溶出性30以上70%未満;△
2時間で溶出性30%未満;×
日局1液の試験で◎、○、●、かつ日局2液での試験で◎、○の場合を腸溶性とした。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
実施例及び比較例を調製する際に用いた原料を以下に示す。なお、表中の量は純分換算量である。
【表5】