(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記速中性子検出器の一方の前記主面側に前記速中性子反応部材が配置され、前記速中性子検出器の他方の前記主面側に前記熱中性子検出器が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。また、以下の図においては、説明の便宜上、一部の構成を省略することがある。
【0011】
図1は、実施の形態に係る放射線検出装置の縦断面図である。
図1に示すように、放射線検出装置1は、筐体11内に配置された速中性子反応部材20、速中性子検出器30、熱中性子検出器40、熱中性子反応部材50、プリント基板(基板)12、報知部13、表示部14及び装着部15を備えている。速中性子検出器30及び熱中性子検出器40は、プリント基板12上に実装されて電気的に接続されている。速中性子検出器30及び熱中性子検出器40はそれぞれ概略板状に形成され、その表裏において略平行となる一対の主面30a、30b、40a、40bをそれぞれ備えている。報知部13は、プリント基板12のCPUにて処理した信号により、警告音等を報知するブザーやスピーカ等からなる。表示部14は、各中性子検出器30、40において検出した放射線量等を表示する。装着部15は、詳細な構成の図示説明を省略するが衣服等に装着可能なクリップ等により構成され、放射線検出装置1が使用者に装着できるようになる。
【0012】
図2は、速中性子検出器の構造を示す断面図である。速中性子検出器30は、放射線有感部の表面に厚さ0.1mm程度のシート状のポリエチレンシートからなる速中性子反応部材20が配置された構造をしている。なお、速中性子反応部材20は、水素を高密度で含む有機高分子であって、速中性子の入射により反跳陽子を発生するものであれば他の材質のものを用いてもよい。
図2では、速中性子反応部材20が速中性子検出器30に密着して示されているが、密着していない場合もある。これは、反跳陽子の空気中の飛程が充分に大きいので、僅かな隙間は無視できるからである。
【0013】
速中性子検出器30は、単結晶シリコンとアモルファスシリコンとのヘテロ接合型のダイオードである。この速中性子検出器30は、p形シリコン基板31を基材とし、その一方の主面30a(
図2の左面)に、1μm程度の薄い高抵抗率のn形のアモルファスシリコン膜32が形成されている。また、速中性子検出器30の他方の主面30b(
図2の右面)には、そのほぼ全面にアルミ蒸着膜からなる電極33が形成され、アモルファスシリコン膜32の外周部を除く全面に、アルミ蒸着膜からなる電極34が形成されている。この電極34の厚さは、その大部分が電極として必要最小限の厚さであり、リード線接続部だけがワイヤボンディングに必要な厚さを備えている。
【0014】
上記のヘテロ接合型ダイオードの両電極33、34に逆方向バイアスの電圧が印加されると、ヘテロ接合部を挟んで図示していない空乏層が形成される。空乏層が形成されるのは、アモルファスシリコン膜32側の電極34が形成されている部分に限られる。速中性子反応部材20からの反跳陽子が、この空乏層内に到達すると、その反跳陽子が空乏層に到達した時点に保有していたエネルギーに相当する数の電子−正孔対を空乏層内に形成する。この電子−正孔対が、空乏層の電界によって分離され、電流パルスとなる。したがって、空乏層の形成部分が、速中性子検出器30の放射線有感部であり、放射線有感部はアモルファスシリコン膜32側で表面に近接しており、速中性子反応部材20はアモルファスシリコン膜32側に配備されている。
【0015】
図3は、熱中性子検出器の構造を示す断面図である。熱中性子検出器40は、放射線有感部の表面に硼素膜からなる熱中性子反応部材50が形成された構造をしている。熱中性子反応部材50は、熱中性子検出器40の一方の主面40a(
図3の右面)に直接形成されている。その理由は、
10Bと熱中性子との核反応で放出されるα粒子及び
7Li原子核の飛程がそれほど長くないからである。なお、熱中性子反応部材50は、熱中性子との核反応によって荷電粒子を放出するものであれば、
6Liを含む物質等、硼素膜とは異なる材質のものを用いてもよい。
【0016】
熱中性子検出器40は、p
+n接合型のダイオードである。熱中性子検出器40は、n形シリコン基板41を基材とし、その一方の主面40a(
図3の右面)側に、薄いp
+層42が形成されている。また、熱中性子検出器40の他方の主面一方の主面40b(
図3の左面)には、そのほぼ全面にアルミ蒸着膜からなる電極43が形成され、p
+層42の一部に、ワイヤボンディングのためのアルミ蒸着膜からなるアルミ電極44が形成されている。p
+層42の一部だけにアルミ電極44が形成されるのは、p
+層42が電極の役目を兼ねるため、電極としてのアルミ蒸着膜は不要なので、ワイヤボンディングに必要な分だけを形成すればよいからである。
【0017】
このようなp
+n接合型ダイオードの両電極43、44に逆方向バイアスの電圧が印加されると、p
+n接合部を挟んで図示していない空乏層が形成される。熱中性子反応部材50から放出されたα粒子または
7Li原子核が、この空乏層内に到達すると、そのα粒子または
7Li原子核が空乏層に到達した時点に保有していたエネルギーに相当する数の電子−正孔対を空乏層内に形成する。この電子−正孔対が、空乏層の電界によって分離され、電流パルスとなる。したがって、ヘテロ接合型ダイオードの場合と同様に、空乏層の形成部分が、熱中性子検出素子40の放射線有感部であり、放射線有感部はp
+層42側で表面に近接しており、熱中性子反応部材50はp
+層42の表面に直接に形成されている。
【0018】
続いて、放射線検出装置の構成について
図4を参照して説明する。
図4は放射線検出装置の一例の構成を示すブロック図である。放射線検出装置は、速中性子検出器30及び熱中性子検出器40と、両検出器30、40のそれぞれの出力電流パルス(検出結果)を増幅するそれぞれの増幅回路3と、増幅されたそれぞれの信号パルスの内の基準値以上のパルスを計数するそれぞれの計数回路4と、速中性子検出器30側の計数値n
h及び熱中性子検出器40側の計数値n
thにそれぞれの検出感度に相当する重み付けをして加算する乗算加算回路5と、乗算加算回路5の出力から線量値を算出するための不図示の演算回路や計測値を表示するための不図示の表示部等で構成されている。
【0019】
計数回路4に設定される基準値は、それぞれの検出器30、40が検出したγ線の電流パルスを除去するために設定され、通常、500〜1000keVの間に設定される。乗算加算回路5では、速中性子検出器30側の計数値n
hに所定値αを乗じた値αn
hに、熱中性子検出器40側の計数値n
thが加算され、この値(αn
h+n
th)によって、放射線検出装置1では中性子の線量が計測される。所定値αは、速中性子検出器30の感度に対する熱中性子検出器40の感度の比である。
【0020】
次いで、各中性子検出器のレイアウトについて
図1及び
図5を参照して説明する。
図5は、基板及び各中性子検出器の概略斜視図である。ここで、速中性子検出器30及び熱中性子検出器40の主面30a、30b、40a、40bに直交する方向は、
図1及び
図5で矢印X方向にて図示し、以下の説明では単に「X方向」とする。
【0021】
図1に示すように、装着部15を介して使用者Uの衣服等に放射線検出装置1を装着した場合、線源Sと使用者Uとの間に放射線検出装置1が配置されることとなる。このとき、X方向では、線源Sから使用者Uに向かって順に、速中性子反応部材20、速中性子検出器30、プリント基板12、熱中性子検出器40、熱中性子反応部材50の順に並んで配置されるようになる。
【0022】
従って、プリント基板12の線源S側となる一方の面に速中性子検出器30が配置され、その反対側となる使用者U側の面(他方の面)に熱中性子検出器40が配置される。これにより、使用者Uと熱中性子検出器40との間に速中性子検出器30が配置され、速中性子検出器30より熱中性子検出器40の方が使用者U寄りに位置することとなる。また、速中性子検出器30の一方の主面30a側に速中性子反応部材20が配置され、速中性子検出器30の他方の主面30b側に熱中性子検出器40が配置される。更には、X方向において、熱中性子検出器40より使用者U側に、熱中性子反応部材50が配置されている。
【0023】
図5に示すように、速中性子検出器30及び熱中性子検出器40は、プリント基板12に装着された状態において、X方向に相互に重なって配置されている。例えば、
図5のように、速中性子検出器30及び熱中性子検出器40がX方向で見て概略同一となる外形形状に形成される場合、それぞれの外縁位置が揃うように略全領域で重なるように配置してもよい。また、X方向で見た形状が速中性子検出器30及び熱中性子検出器40で異なる場合、それらの何れか一方が他方に対してX方向で見てはみ出ずに収まるように配置したり、両方がはみ出るように配置したりすることも例示できる。要するに、速中性子検出器30及び熱中性子検出器40は、少なくとも一部がX方向に相互に重なって配置されていればよいが、重なる面積が広い程、プリント基板12の実装に必要な面積を縮小でき、装置全体を小型化できる点で有利となる。
【0024】
次に、上記の実施の形態に係る各中性子検出器の感度改善効果を確認するために行った実験について説明する。本実験では、実施例として、上記実施の形態と同様となる
図1に示す構成の放射線検出装置1を用意した。比較例では、上記実施の形態の放射線検出装置1に対し、プリント基板12の向きを反転し、これに装着される各中性子検出器30、40のX方向の向きを反対向きとした。言い換えると、プリント基板12の線源S側に熱中性子検出器40が配置され、その反対側となる使用者U側の面(他方の面)に速中性子検出器30が配置される構成とした。
【0025】
実施例及び比較例において、以下に述べる条件にて、線源から放射線(中性子線)を照射して各中性子検出器30、40のカウント数を測定した。その結果を以下の表1に示す。
・基準線源:252Cf
・線源強度[Bq]:200M
・速中性子検出器の基準線量[mSv]:17.20
・熱中性子検出器の基準線量[mSv]:0.13
【0027】
表1の結果から、速中性子検出器では、比較例が実施例の3%程度のカウント数しか測定しなくなり、実施例の方が優れた感度となることが実証された。また、熱中性子検出器では、比較例に対し実施例のカウント数が約157%となって増大し、実施例の方が優れた感度となることが実証された。なお、熱中性子検出器にあっては、比較例に比べて実施例の方が線源から遠ざかって使用者に近付くこととなり、使用者の人体にて反射された熱中性子がより多く熱中性子反応部材に入射して感度が向上したものと推測される。また、実施例のように、熱中性子検出器より使用者側に熱中性子反応部材が位置した方が、熱中性子反応部材に対し、使用者から反射される熱中性子がより多く入射するようになることも有利に作用したものと考えられる。
【0028】
上述した実施の形態によれば、
図5に示すようにプリント基板12の両面に速中性子検出器30及び熱中性子検出器40を装着している。これにより、各検出器30、40をプリント基板12の片面に両方装着する従来構造に比べ、X方向で各検出器30、40が重なる領域分、プリント基板12を小さくすることができる。この結果、筐体11を小さくして放射線検出装置1全体を小型化することができ、使用者Uに対する携帯性を向上させて個人被曝管理の促進を図ることができる。
【0029】
また、上記実施例にて実証したように、熱中性子検出器40でのカウント数を増大して感度を向上させることができる。なお、熱中性子検出器40及び熱中性子反応部材50は、従来構造のものを用いても感度向上を図ることができ、構造が複雑化したり新たな熱中性子検出器40を設計したりせずに簡単な構成として容易に放射線検出装置1の内部構造を容易に設計できるようになる。
【0030】
ところで、他の従来構造として、単一の半導体検出器における放射線有感部側に熱中性子反応部材(ほう素等)と速中性子反応部材(ポリエチレン等)とを設け、熱中性子と速中性子との両方を検出する装置が知られている。ところが、かかる装置では、上述したように熱中性子と速中性子との検出で感度の比が大きいにも拘らず、単一の半導体検出器からの出力パルスだけでは熱中性子及び速中性子の何れであるか特定できなくなる。このため、検出感度を良好に得るには、波高値を分析して処理したり弁別したりして制御負担が大きくなる、という問題がある。また、半導体検出器毎の出力のばらつきが大きくなり易く、放射線検出装置を量産した場合には調整作業が膨大となってしまう、という問題もある。
【0031】
この点、上記実施の形態では、速中性子検出器30と熱中性子検出器40とを別々に設けたので、それぞれの出力電流パルスも別々に取得してカウントすることができ、制御負担を軽減しつつ検出感度を良好に維持することができる。また、速中性子検出器30及び熱中性子検出器40それぞれの出力が安定化され、量産した場合の調整の負担も軽くすることができる。
【0032】
本発明の実施の形態は上記の各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0033】
上記実施の形態では、プリント基板12を挟むように速中性子検出器30及び熱中性子検出器40を配置したが、これに限られず、プリント基板12以外の板状或いはシート状のものを挟むように配置してもよい。また、プリント基板12を省略し、速中性子検出器30及び熱中性子検出器40が直接重なり合うようにしてもよい。この場合、少なくとも一方の検出器30、40の端部側で所定の支持構造を介して支持される。
【0034】
また、速中性子検出器30及び熱中性子検出器40にあっては、ヘテロ接合型ダイオード及びp
+n接合型のダイオードの何れの構成を採用してもよい。