(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6780457
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20201026BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20201026BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20201026BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20201026BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
H01L21/52 E
H01L23/36 D
H01L23/36 M
B22F7/04 D
B22F1/00 K
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-219745(P2016-219745)
(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公開番号】特開2018-78213(P2018-78213A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岩重 朝仁
(72)【発明者】
【氏名】河合 潤
【審査官】
堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−107368(JP,A)
【文献】
特表2013−541602(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/060173(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
B22F 1/00
B22F 7/04
H01L 23/36
H01L 23/373
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極(21、22)を有する搭載部材(2)が接合部材(5、6)を介して導電性部材(1、3)に電気的、機械的に接続された半導体装置において、
前記電極を有する前記搭載部材と、
前記電極と対向して配置される前記導電性部材と、
前記搭載部材と前記導電性部材との間に配置され、前記電極と前記導電性部材とを電気的、機械的に接続する前記接合部材と、を備え、
前記接合部材は、銀粒子(8)に、銀原子より凝集エネルギーが高い金属原子を含む補助粒子(9)が添加された焼結体で構成されており、
前記補助粒子は、前記金属原子の酸化物、または炭化物で構成されると共に、前記接合部材内に点在して配置されている半導体装置。
【請求項2】
前記補助粒子は、前記銀粒子よりも平均粒径が小さくされている請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記金属原子は、タングステン、モリブデン、ニオブ、またはバナジウムのいずれかである請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
電極(21、22)を有する搭載部材(2)と、
前記電極と対向して配置される導電性部材(1、3)と、
前記搭載部材と前記導電性部材との間に配置され、前記電極と前記導電性部材とを電気的、機械的に接続する接合部材(5、6)と、を備え、
前記接合部材は、銀粒子(8)に、銀原子より凝集エネルギーが高い金属原子を含む補助粒子(9)が添加された焼結体で構成されており、
前記補助粒子は、前記金属原子の酸化物、または炭化物で構成されると共に、前記接合部材内に点在して配置されている半導体装置の製造方法であって、
前記銀粒子に前記補助粒子が添加されたペースト材料を用意することを行い、
前記ペースト材料を所定箇所に塗布した後に焼結することにより、前記接合部材を構成する半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極を有する搭載部材が接合部材を介して導電性部材に接続された半導体装置
およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の半導体装置として、次のものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、この半導体装置では、搭載部材として半導体チップが用いられ、半導体チップに電極が備えられている。そして、半導体チップは、電極が導電性部材と対向するように配置されていると共に当該電極が接合部材を介して導電性部材と電気的に接続されている。なお、接合部材は、銀(以下では、単にAgという)粒子のみが焼結されたAg焼結体を用いて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−127535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らは、このようなAg焼結体で構成される接合部材を有する半導体装置について検討したところ、当該半導体装置が高温で長時間保持されると、接合部材内に大きな空隙が形成されることを見出した。すなわち、
図7Aおよび
図7Bに示されるように、接合部材J5が焼結体で構成されているため、初期状態においても微小な空隙Vが存在しているが、高温で長時間保持されると、多数の大きな空隙Vが形成されていることが確認される。この現象は、接合部材が高温で長時間保持されることによってAg粒子(すなわち、Ag原子)が拡散するためであると推定される。このため、このような半導体装置は、高温で長時間保持されるような使用環境では、接合部材の接合強度が低下し、接合部材が破壊されてしまう可能性がある。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、高温で長時間保持される場合であっても、接合部材が破壊されることを抑制できる半導体装置
およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1では、電極(21、22)を有する搭載部材(2)が接合部材(5、6)を介して導電性部材(1、3)に電気的、機械的に接続された半導体装置において、電極を有する搭載部材と、電極と対向して配置される導電性部材と、搭載部材と導電性部材との間に配置され、電極と導電性部材とを電気的、機械的に接続する接合部材と、を備え、接合部材は、Ag粒子(8)に、Ag原子より凝集エネルギーが高い金属原子を含む補助粒子(9)が添加された焼結体で構成されており、補助粒子は、金属原子の酸化物、または炭化物で構成され
ると共に、接合部材内に点在して配置されているものとしている。
【0007】
これによれば、接合部材は、Ag原子よりも凝集エネルギーの高い金属原子を含む補助粒子が添加された焼結体で構成されているため、高温で長時間使用されたとしても、補助粒子に含まれる金属原子によってAg原子の拡散が抑制される。このため、接合部材の内部に大きな空隙が形成されることで接合強度が低下することを抑制でき、接合部材が破壊されることを抑制できる。
【0008】
なお、上記および特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載される当該用語を例示する具体物等との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態における半導体装置の断面図である。
【
図2】
図1に示す第1接合部材の構成を示す模式図である。
【
図3A】Ag粒子にWO
3粒子を添加して構成した第1接合部材における初期状態を示すSEM写真に基づいて2値化した図である。
【
図3B】Ag粒子にWO
3粒子を添加して構成した第1接合部材における250℃で500時間保持した後の状態を示すSEM写真に基づいて2値化した図である。
【
図4A】Ag粒子にWC粒子を添加して構成した第1接合部材における初期状態を示すSEM写真に基づいて2値化した図である。
【
図4B】Ag粒子にWC粒子を添加して構成した第1接合部材における250℃で500時間保持した後の状態を示すSEM写真に基づいて2値化した図である。
【
図5】原子と凝集エネルギーとの関係を示す図である。
【
図6A】Ag粒子のみで構成した従来の接合部材における接合強度の変化を示す図である。
【
図6B】Ag粒子にWO
3粒子を添加して構成した第1接合部材における接合強度の変化を示す図である。
【
図6C】Ag粒子にWC粒子を添加して構成した第1接合部材における接合強度の変化を示す図である。
【
図7A】Ag粒子のみで構成した従来の接合部材における初期状態を示すSEM写真に基づいて2値化した図である。
【
図7B】Ag粒子のみで構成した従来の接合部材における250℃で500時間保持した後の状態を示すSEM写真に基づいて2値化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態の半導体装置は、
図1に示されるように、第1放熱部材1上に半導体チップ2が搭載され、半導体チップ2上に放熱ブロック3を介して第2放熱部材4が配置されることで構成されている。また、第1放熱部材1と半導体チップ2との間には第1接合部材5が配置され、半導体チップ2と放熱ブロック3との間には第2接合部材6が配置され、放熱ブロック3と第2放熱部材4との間には第3接合部材7が配置されている。
【0012】
なお、本実施形態では、第1放熱部材1および放熱ブロック3が導電性部材に相当し、半導体チップ2が搭載部材に相当し、第1接合部材5および第2接合部材6が接合部材に相当している。
【0013】
半導体チップ2は、本実施形態では、一面20aおよび一面20aと反対側の他面20bを有する半導体基板20を備えている。そして、半導体基板20には、IGBT素子やMOSFET素子等の半導体素子が形成されていると共に、一面20a側に一面電極21が形成され、他面20b側に他面電極22が形成されている。なお、特に図示しないが、半導体基板20には、一面20a側にゲートパッドが形成されており、当該ゲートパッドがゲート端子とボンディングワイヤを介して電気的に接続されている。
【0014】
放熱ブロック3は、半導体チップ2と第2放熱部材4との間に配置されてこれらを電気的および熱的に接続するものであり、例えば、電気伝導率および熱伝達率が大きい銅(Cu)等によって構成されている。本実施形態では、放熱ブロック3は、長方体形状とされている。そして、放熱ブロック3は、第2接合部材6を介して半導体チップ2の一面20a側における一面電極21と電気的、熱的および機械的に接続されていると共に、第3接合部材7を介して第2放熱部材4と電気的、熱的、および機械的に接続されている。
【0015】
第1放熱部材1および第2放熱部材4は、半導体チップ2にて発生した熱を広範囲に拡散させて放出する放熱板として機能するものである。第1放熱部材1および第2放熱部材4は、例えば、電気伝導率および熱伝達率が大きい銅(Cu)をベースとして形成され、必要に応じて表面に金メッキ等が施された構造とされる。
【0016】
また、第1放熱部材1は、第1接合部材5を介して半導体チップ2の他面電極22と電気的、熱的、および機械的に接続されており、放熱板としての機能に加えて、他面電極22に接続される配線部としても機能する。同様に、第2放熱部材4は、放熱ブロック3を介して半導体チップ2の一面電極21と電気的に接続されており、放熱板としての機能に加えて、一面電極21に接続される配線部としても機能する。
【0017】
以上が本実施形態の半導体装置の基本的な構成である。次に、本実施形態の第1接合部材5の構成について説明する。なお、本実施形態では、第2接合部材6および第3接合部材7も第1接合部材5と同様の構成とされている。
【0018】
第1接合部材5は、
図2に示されるように、Ag粒子8に、Ag粒子8を構成するAg原子よりも凝集エネルギーの高いタングステン(以下では、単にWという)の酸化物、または炭化物で構成された補助粒子9が添加された焼結体で構成されている。
【0019】
すなわち、
図7Bに示されるように、Ag粒子のみの焼結体で構成した接合部材J5は、高温で長時間保持されると、内部に大きな空隙Vが形成される。このため、本発明者らは、Ag粒子にAg原子よりも凝集エネルギーの高い金属原子を含む補助粒子を添加することでAg原子の拡散が抑制されると考え、
図3および
図4に示す実験結果を得た。
図3は、平均粒径が約1〜10μmであるAg粒子8の粉末に、平均粒径が約0.9μmである酸化タングステン(以下では、単にWO
3という)を2wt%添加した際の実験結果である。また、
図4は、平均粒径が約1〜10μmであるAg粒子8の粉末に、粒径が0.11μmである炭化タングステン(以下では、単にWCという)を2wt%添加した際の実験結果である。なお、Wは、
図5に示されるように、凝集エネルギーがAg原子の凝集エネルギーよりも著しく高い金属原子である。
【0020】
図3A、
図3B、
図4Aおよび
図4Bに示されるように、Ag粒子8に、WO
3またはWCの補助粒子9を添加して第1接合部材5を構成すると、250℃で500時間保持した場合であっても、初期状態の空隙Vに対して、大きな空隙Vが形成されていないことが確認される。なお、以下では、250℃で500時間保持した後のことを耐久後ともいう。
【0021】
また、
図6Aに示されるように、Ag粒子のみで構成した接合部材は、初期状態に対して、耐久後の接合強度が低下していることが確認される。これに対し、
図6Bに示されるように、Ag粒子8にWO
3粒子を添加して構成した第1接合部材5は、初期状態に対して、耐久後の接合強度が低下することが抑制されていることが確認される。同様に、
図6Cに示されるように、Ag粒子8にWC粒子を添加して構成した第1接合部材5も、初期状態に対して、耐久後の接合強度が低下することが抑制されていることが確認される。
【0022】
これらの各図より、Ag粒子8に、Ag原子より凝集エネルギーの高いW原子を含む補助粒子9を添加することにより、第1接合部材5の内部に大きな空隙Vが形成されることが抑制され、接合強度が低下することが抑制されることが確認される。なお、このような結果となるのは、Ag原子より凝集エネルギーの高いW原子を含む補助粒子9を添加することにより、W原子の周囲にAg原子が凝集するためであると推定される。
【0023】
また、本実施形態では、補助粒子9をWの酸化物、または炭化物で構成している。このため、W粒子(すなわち、W原子)のみを添加する場合と比較して、Ag原子の還元作用によってW原子の周囲にAg原子を凝集させ易くできる。
【0024】
さらに、
図6Bおよび
図6Cに示されるように、Ag粒子8に、補助粒子9を添加することにより、接合強度が低下することを抑制できるのみならず、接合強度が向上していることも確認される。これに関しても明確な論理については明らかではないが、Ag原子がW原子の周囲に凝集する際、
図3Bおよび
図4Bに示されるように、初期状態にて形成されている微小な空隙Vが埋められるためであると推測される。
【0025】
なお、添加する補助粒子9の平均粒径は、Ag粒子8との間に空隙Vが形成されないように、Ag粒子8よりも平均粒径が小さくされていることが好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、Ag粒子8の平均粒径を1〜10μm程度とし、補助粒子9の平均粒径を0.1〜3μm程度となるようにすることが好ましい。このようにすることにより、初期状態において、Ag粒子8と補助粒子9との間に大きな空隙Vが形成されることを抑制でき、接合強度が低下することを抑制できる。
【0026】
以上が本実施形態における半導体装置の構成である。なお、このような第1〜第3接合部材5〜7は、Ag粒子8をアルコールやエチレングリコール等の溶剤に混入したペースト材料を用意し、Ag粒子8よりも平均粒径の小さい補助粒子9を添加して撹拌する。そして、補助粒子9を含むペーストを所定箇所に塗布した後、例えば、280℃で1時間、大気雰囲気、または窒素雰囲気にて焼結することによって生成される。
【0027】
以上説明したように、本実施形態では、Ag粒子8に、Wの酸化物、またはWの炭化物で構成される補助粒子9を添加して第1〜第3接合部材5〜7を構成している。このため、
図3A、
図3B、
図4A、
図4B、
図6B、および
図6Cに示されるように、高温で長時間保持される場合においても、第1〜第3接合部材5〜7内に大きな空隙Vが発生することを抑制できる。したがって、第1〜第3接合部材5〜7の接合強度が低下することを抑制でき、破壊されることを抑制できる。
【0028】
また、補助粒子9として、Wの酸化物、またはWの添加物を用いている。このため、W粒子のみを補助粒子9として添加する場合と比較して、Ag原子の還元作用によってW原子の周囲にAg原子を凝集させ易くできる。
【0029】
さらに、補助粒子9の平均粒径をAg粒子8の平均粒径よりも小さくしている。このため、初期状態において、Ag粒子8と補助粒子9との間に大きな空隙Vが形成されることを抑制でき、接合強度が低下することを抑制できる。
【0030】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0031】
例えば、上記第1実施形態において、Ag原子よりも凝集エネルギーが高い金属原子としてWを例に挙げたが、Ag原子よりも凝集エネルギーが高ければ他の金属原子を用いることもできる。但し、Ag原子よりも凝集エネルギーが高いほどAg原子の拡散が抑制されると想定されるため、
図5に示されるように、W、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)のように、Ag原子よりも凝集エネルギーが著しく高いものを用いることが好ましい。また、上記第1実施形態において、補助粒子9は、Ag原子よりも凝集エネルギーが高い金属原子の酸化物または炭化物でなく、金属原子のみで構成されていてもよい。なお、補助粒子9を選定する際には、Ag原子と反応して特性が大きく変化しないものを選定することが好ましい。例えば、塩化物等は、Ag原子と反応すると粉末状態となり、接合部材としての機能を発揮しなくなってしまうと想定される。
【0032】
また、上記第1実施形態において、放熱ブロック3を備えず、半導体チップ2上に第2接合部材6を介して第2放熱部材4が配置される構成としてもよい。この場合、第2放熱部材4が導電性部材に相当する。
【0033】
さらに、上記第1実施形態において、半導体装置は、半導体チップ2における一面電極21および他面電極22の少なくとも一方の電極が接合部材5、6を介して導電性部材1、3に接続されるのであれば、他の構成は適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 第1放熱部材(導電性部材)
2 半導体チップ(搭載部材)
3 放熱ブロック(導電性部材)
5 第1接合部材
6 第2接合部材
21 一面電極
22 他面電極