(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6780489
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】電縫鋼管及び電縫鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 37/08 20060101AFI20201026BHJP
【FI】
B21C37/08 D
B21C37/08 R
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-246397(P2016-246397)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-99703(P2018-99703A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慧悟
(72)【発明者】
【氏名】和田 学
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−304647(JP,A)
【文献】
特開2012−223791(JP,A)
【文献】
特開2016−140867(JP,A)
【文献】
特開平07−284865(JP,A)
【文献】
特開2007−222881(JP,A)
【文献】
特開平05−161920(JP,A)
【文献】
特開2006−122932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 37/00−37/09
B23K 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向平均値より5%以上減肉している位置と、溶接部を頂点とした±90°の範囲における周方向平均値より外径が0.2%以上凹んでいる位置が重複していないことを特徴とする縮径加工強度に優れた電縫鋼管。
【請求項2】
肉厚が最小となる周方向の位置と、溶接部を頂点とした±90°の範囲における外径が最小となる位置が±10°以上離れていることを特徴とする縮径加工強度に優れた電縫鋼管。
【請求項3】
周方向平均値より5%以上減肉している位置と、溶接部を頂点とした±90°の範囲における周方向平均値より外径が0.2%以上凹んでいる位置が重複しておらず、かつ周方向の肉厚が最小となる位置と外径が最小となる位置が±10°以上離れていることを特徴とする縮径加工強度に優れた電縫鋼管。
【請求項4】
エッジベンドロールの段数が2段以下であり、サイジングロールでの塑性加工量が1.2%以上であることを特徴とする縮径加工強度に優れた電縫鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫鋼管及び電縫鋼管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、中空に形成された管の端部の径を調整する方法が知られている。管の端部の径を調整することにより複数の管を直線的に組立可能とすれば、長い筒を形成することが可能となる。このようにして形成された長い筒は、鉄塔の柱として用いられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51−149158号公報
【0004】
ところで、組立可能な管を形成する場合、
図5に示すように、電縫鋼管の一部を縮径することがある。しかしながら、縮径加工がなされた管には座屈が発生する場合があった。この管の厚みと外径の分布を分析した結果、
図6に示すような結果を得た。この電縫鋼管は直径が165.2mm、厚みが3.2mmであるSTK540の電縫鋼管である。なお、
図6の上端が溶接部であり、そこから円周方向に22.5度ずつずれた箇所における測定結果を示しているため、合計16カ所についての測定結果を示している。測定結果と座屈箇所を対比させた結果、厚みが薄い箇所と外径が小さい箇所が重なると、縮径時に、その部分から座屈が生じることが判明した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような過程でなされたものであり、本発明の課題は、縮径加工による座屈を抑制した電縫鋼管とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明は次の手段を採用する。先ず、第一の手段は、周方向平均値より5%以上減肉している位置と、周方向平均値より外径が0.2%以上凹んでいる位置が重複していないことを特徴とする縮径加工強度に優れた電縫鋼管である。
【0007】
第二の手段は、肉厚が最小となる周方向の位置と外径が最小となる位置が±10°以上離れていることを特徴とする縮径加工強度に優れた電縫鋼管である。
【0008】
第三の手段は、周方向平均値より5%以上減肉している位置と、周方向平均値より外径が0.2%以上凹んでいる位置が重複しておらず、かつ周方向の肉厚が最小となる位置と外径が最小となる位置が±10°以上離れていることを特徴とする縮径加工強度に優れた電縫鋼管である。
【0009】
第四の手段は、エッジベンドロールの段数が2段以下であり、サイジングロールでの塑性加工量が1.2%以上であることを特徴とする縮径加工強度に優れた電縫鋼管の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、縮径加工による座屈を抑制した電縫鋼管とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】電縫鋼管の偏肉割合と外径偏差と座屈の発生の有無との関係を示した図である。
【
図2】電縫鋼管の製造に使用される各ロールの使用目的を表した図である。
【
図3】実施形態に該当する製造方法による電縫鋼管の厚みと外径に関する周方向の分布例を表す図である。
【
図4】他の製造方法による電縫鋼管の厚みと外径に関する周方向の分布の他の例を表す図である。
【
図5】従来技術の電縫鋼管の端部を縮径した例を示す図である。
【
図6】従来技術の電縫鋼管の厚みと外径に関する周方向の分布を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、発明の実施形態について説明するが、まず、縮径により座屈した電縫鋼管についての分析内容について説明する。本発明者らによる分析により、厚みが薄い箇所と外径が小さい箇所が重なると、縮径時に、その部分から座屈が生じることが判明した。そこで、更なる分析を行うため、肉厚や外形の分布と座屈発生の有無の関係や、偏肉割合と外径偏差と座屈発生の有無の関係を調査した。偏肉割合は、最大となる肉厚から最小となる肉厚を引いた値が標準的な肉厚の何パーセントに当たるのかを示したものであり、マイナスを付して表す。また、外径偏差は、最大となる外径から最小となる外径を引いた値が標準的な外径(直径)の何パーセントに当たるのかを示したものであり、マイナスを付して表す。
【0013】
この調査の結果、周方向平均値より5%以上減肉している位置と、周方向平均値より外径が0.2%以上凹んでいる位置が重複している場合、縮径加工時に座屈が発生することがわかった。つまり、そのような重複がなされないことが好ましいことが判明した。
【0014】
また、電縫鋼管は、その肉厚が最小となる周方向の位置と外径が最小となる位置が±10°以上離れている場合には、縮径加工強度に優れた電縫鋼管となることが判明した。
【0015】
また、
図1に示すように、その肉厚が最小となる周方向の位置と外径が最小となる位置が±10°の角度範囲に属する位置にある場合には、外径偏差が-0.2%以下、かつ、偏肉割合が-5%以下である場合には、座屈が発生したが、それ以外場合においては座屈が見られなかった。なお、
図6に示した例では、厚みが3.2mmであることを標準とした電縫鋼管である。また、基準肉厚(3.2mm)から最小となる肉厚を引いた値は0.23mmである。したがって、偏肉割合は-7.19%である。また、直径が165.2mmである電縫鋼管であり、基準外径(φ165.2mm)から最小となる外径を引いた値は0.45mmである。したがって、外径偏差は-0.27%である。
【0016】
また、周方向平均値より5%以上減肉している位置と、周方向平均値より0.2%以上凹んでいる位置が重複しておらず、かつ周方向の肉厚が最小となる位置と外径が最小となる位置が±10°以上離れている場合は、より好ましいことが判明した。このようなことから、減肉と外径の凹みを調整することで、縮径加工しても座屈の発生を抑制することができることが分かった。
【0017】
ここで、電縫鋼管の製造工程について説明する。
図2に示すように、電縫鋼管を製造するに際して、複数のロールを用いて、板状の帯鋼を筒状に変形させるため、この点について説明する。帯鋼はエッジベンドロールにてエッジ部(材料端部)を曲げ加工しW字状とする。その後、コンベンショナルロールでU字状とする。その後フィンパスロール、スクイズロールを用いてエッジ部を接近させて溶接し、筒状とする。その後、サイザーロールを用いて真円度を調整する。
【0018】
この際、帯鋼の中でもエッジベンドロールと当接する部位は、減肉が発生しうる場所である。この減肉は縮径加工した際の座屈と関係する。また、エッジベンドロールによる処理を複数段で行う場合、その段数が多いほど、減肉割合が大きくなる。逆に、減肉割合を小さくしようとすると、エッジベンドロールの段数を低減すればよい。エッジベンドロールは4段以内で構成されるのが一般的ではあるが、3段以上であると圧延量が増加し、圧延位置である60度付近に、有害な減肉が発生した。したがって、エッジベンドロールは2段以下にすることが好ましい。なお、後述する例においてはエッジベンドロールを1段としている。
【0019】
また、電縫鋼管の真円度を調整するサイザーロールは外径の分布状態を調整するものである。このため、サイザーロールによる塑性加工量を増加させると、外径偏差に優れた電縫鋼管を製造することができる。つまり、外径の凹みが抑制された電縫鋼管を製造することができる。サイザーロールの塑性加工量は0.5〜3%程度が一般的であるが、1.2%より小さい場合、縮径加工をするには真円度が不十分となる虞があることが分かった。このため、サイザーロールの塑性加工量は1.2%以上とすることが好ましい。なお、後述する例においては、塑性加工量を確保するため、サイザーロールを3段としている。
【0020】
偏肉と外径偏差を好ましい範囲にするには、エッジベンドロールは2段以下にするとともに、サイザーロールの塑性加工量は1.2%以上とすることが好ましい。
【0021】
図3に、実施形態に該当する製造方法による電縫鋼管の厚みと外径に関する周方向の分布例を表す図を示す。より具体的には、
図6に示した例と同じく、直径が165.2mmであり、厚みが3.2mmであるSTK540の電縫鋼管である。なお、縦方向に-0.5から0.5まで記した数値は外径偏差である。また、外周に沿って記された数値は、電縫鋼管の中心位置からみて溶接箇所と測定箇所がなす角度である。この例では、略均等な厚みと外径を確保できており、電縫鋼管の周方向平均値より5%以上減肉している位置と、周方向平均値より0.2%以上凹んでいる位置が重複するようなことは発生していない。また、周方向の肉厚が最小となる位置と外径が最小となる位置が±10°以上離れている。この電縫鋼管を18乃至20%縮径しても座屈の発生は見られなかった。なお、本例における基準となる肉厚から最小となる肉厚を引いた値は0.13mmである。したがって、偏肉割合は-4.06%である。また、基準となる外径から最小となる外径を引いた値は0.23mmである。したがって、外径偏差は-0.14%である。
【0022】
図4には、
図3とは異なる製造方法による電縫鋼管の厚みと外径に関する周方向の分布例を表す図を示す。この電縫鋼管は、
図3の例よりもやや厚みにも外形にもばらつきがある。しかし、周方向の肉厚が最小となる位置と外径が最小となる位置が±10°以上離れているという条件を満たしている。この電縫鋼管を縮径しても座屈の発生は見られなかった。
【0023】
以上、一つの例を中心に実施形態を説明したが、本発明は、以上の実施形態には限定されることは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適応可能なことは勿論のことである。