(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、ISプロセス等の高温の強酸を使う環境、具体的には800℃を超えるSO
3蒸気を含む環境で使用されるCr含有合金の腐食を抑制する方法について鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
【0026】
腐食性ガスであるSO
3を含む環境中に、SO
2を供給すると、SO
3による腐食が効果的に抑制される。SO
2が合金の表面に吸着することによって、SO
3による合金の腐食が抑制されるためと推測される。
【0027】
ただし、SO
3の分解によってSO
2が生成し始める(SO
3→SO
2+1/2O
2)と、SO
2の腐食抑制効果が自発的に出てくる。そのため、SO
2の供給はその効果が得られにくい反応初期(反応上流側)に有効である。
【0028】
なお、SO
3分解は平衡反応(SO
3⇔SO
2+1/2O
2)である。平衡定数は温度によって決まるが、SO
2濃度を高めると平衡は左に寄り、分解効率は低下する。そのため、過剰なSO
2の供給は好ましくなく、SO
2の供給量および供給するタイミングを適切に管理することが望ましい。
【0029】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0030】
本発明に係るCr含有合金の腐食抑制方法は、500〜1000℃の温度範囲において、SO
3を分解する反応器の内面に用いられるCr含有合金の腐食を抑制する方法である。SO
3の反応系において、SO
3は系内の白金等触媒(以下、「触媒層」という)を用いてSO
2へと分解させる。そして、SO
2がSO
3の分解によって発生し始めると、腐食抑制効果が表れる。
【0031】
しかし、反応系が流通式の場合には触媒層の前の上流側、バッチ式の場合には反応初期においては、SO
2の生成が不十分であるため、SO
3による腐食の進行が懸念される。そのため、本発明においては、上述のように、反応器の外部から、反応器内にSO
2を供給することによって、Cr含有合金の腐食を抑制する。また、SO
2の供給方法を適切に管理することで腐食抑制効果がより顕著になる。SO
2の供給方法について以下に詳述する。
【0032】
1.SO
2の供給方法
本発明の一実施形態に係る腐食抑制方法においては、SO
2とSO
3とを、混合ガスとして同時に反応器内に供給する。このような構成にすることによって、反応系が流通式の場合には触媒層の前の上流側、バッチ式の場合には反応初期であっても、SO
3による腐食を抑制することが可能になる。
【0033】
なお、この際に、SO
2の供給量が少なすぎると腐食の抑制効果が不十分となるおそれがある。一方、上述のように、SO
3分解は平衡反応(SO
3⇔SO
2+1/2O
2)であるため、SO
2の供給量が過剰であると、SO
3の分解効率が低下するおそれがある。そのため、混合ガス中のSO
3濃度(体積%)に対するSO
2濃度(体積%)の比は、0.001〜0.2の範囲に調整することが好ましい。上記の比は、0.01以上であるのが好ましく、0.1以下であるのが好ましい。
【0034】
また、本発明の他の実施形態に係る腐食抑制方法においては、反応器内にSO
3を供給する前に、SO
2をSO
2含有ガスとして供給し、事前にSO
2を反応器の内面に接触させおく。SO
2の供給による腐食抑止効果は、合金表面にSO
2が吸着し、腐食性のSO
3の合金への攻撃を防ぐことによって得られる。そのため、事前にSO
2を合金の表面を接触させることで腐食抑止効果が得られる。
【0035】
事前に供給するSO
2含有ガス中のSO
2濃度については特に制限は設けないが、体積%で、0.5〜100%であることが好ましい。SO
2含有ガス中のSO
2濃度が0.5%未満では、腐食抑制効果が得られにくくなるためである。SO
2含有ガス中のSO
2濃度が100%未満の場合、すなわち、SO
2単独で供給しない場合には、不活性ガスと混ぜて供給することが好ましい。また、SO
2含有ガスの供給時においても、反応器内の温度範囲は500〜1000℃とすることが好ましく、その後のSO
3分解時の温度と同じにすることが好ましい。
【0036】
事前にSO
2含有ガスを供給する場合において、その後に反応器内へのSO
3の供給を開始する。この際、SO
3の供給の前または同時に、SO
2含有ガスの供給を停止してもよいし、SO
3をSO
2との混合ガスとして供給してもよい。
【0037】
SO
3の供給の前または同時に、SO
2含有ガスの供給を停止していても、合金表面にSO
2が吸着した状態でしばらくの間は維持されるため、腐食抑制効果が得られる。なお、この形態においては、SO
2含有ガスの供給を開始してから停止するまでの時間を、1分以上とすることが好ましい。上記時間に上限は特に設けないが、経済性の観点から、6時間以下とするのが好ましく、3時間以下とするのがより好ましい。
【0038】
また、事前にSO
2含有ガスを供給した後に、SO
3をSO
2との混合ガスとして供給する場合においては、上記の混合ガス中のSO
3濃度(体積%)に対するSO
2濃度(体積%)の比は、0.001〜0.2の範囲に調整することが好ましい。上記の比は、0.01以上であるのが好ましく、0.1以下であるのが好ましい。
【0039】
この形態においては、SO
2含有ガスの供給を開始してから、上記の混合ガスの供給を開始するまでの時間を、1分以上とすることが好ましい。上記時間に上限は特に設けないが、経済性の観点から、6時間以下とするのが好ましく、3時間以下とするのがより好ましい。
【0040】
なお、上記のSO
3とSO
2との混合ガスの供給時におけるSO
3の濃度についても特に制限は設けないが、体積%で、1〜90%であることが好ましい。また、上記の混合ガス中には、ベースガスとなる窒素もしくはアルゴン等の不活性ガスまたは水蒸気などが含まれていてもよい。
【0041】
さらに、SO
3の供給源として、硫酸の熱分解(H
2SO
4→SO
3+H
2O)を利用する場合には、硫酸分解時にSO
2を混入させながら、SO
3とSO
2との混合ガスとして、反応器内に供給してもよい。また、SO
3分解によって生成したSO
2を含むガスから一部を取り出し、供給側に戻してもよい。
【0042】
2.合金母材の化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0043】
本発明の腐食抑制方法については、効果を享受できるCr含有合金の組成範囲は広く、Ni基合金からステンレス鋼まで使用できる。特に、合金表面にクロム酸化物皮膜が形成されている場合には、当該皮膜がSO
2の吸着サイトとしての機能を発揮し、SO
3による腐食を抑制する効果が向上する。その効果を得るためには、合金中のCr含有量は15.0%以上であることが好ましい。
【0044】
また、本発明の腐食抑制方法に使用されるCr含有合金の化学組成は、C:0.001〜0.6%、Si:0.01〜5.0%、Mn:0.1〜10.0%、P:0.08%以下、S:0.05%以下、Cr:15.0〜55.0%、Ni:8.0〜70.0%、N:0.001〜0.25%、Mo:0.1%を超えて20.0%以下、O:0.02%以下、Cu:0〜5.0%、Co:0〜5.0%、W:0〜10.0%、Ta:0〜6.0%、Nb:0〜5.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜1.0%、Mg:0〜0.1%、Ca:0〜0.1%、残部:Feおよび不純物であることが好ましい。
【0045】
ここで「不純物」とは、合金を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0046】
C:0.001〜0.6%
Cは、Crと結合し結晶粒界にCr炭化物として析出し、合金の高温強度を高める効果を有する元素である。しかし過剰に含有させると、靭性が悪化する。また結晶粒界にCr欠乏層を形成し、耐粒界腐食性を損ねることがある。そのため、C含有量は0.001〜0.6%とする。C含有量は0.002%以上であるのが好ましい。また、C含有量は0.45%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。
【0047】
Si:0.01〜5.0%
Siは、酸素との親和力が強いため、Crを主体とする皮膜を均一に形成させる作用を有する。しかし過剰に含有させると、溶接性が劣化し、組織も不安定になる。そのため、Si含有量は0.01〜5.0%とする。Si含有量は0.03%以上であるのが好ましい。また、Si含有量は3.0%以下であるのが好ましく、2.0%以下であるのがより好ましい。
【0048】
Mn:0.1〜10.0%
Mnは、脱酸および加工性改善の効果を有する元素である。また、Mnはオーステナイト生成元素であることから、高価なNiの一部を置換することも可能である。しかし過剰に含有させると、クロム酸化物皮膜を母材酸化によって形成する場合にその生成を阻害するだけでなく、母材の加工性および溶接性を劣化させるおそれがある。そのため、Mn含有量は0.1〜10.0%とする。Mn含有量は5.0%以下であるのが好ましく、2.0%以下であるのがより好ましい。
【0049】
P:0.08%以下
S:0.05%以下
PおよびSは、結晶粒界に偏析し、熱間加工性を劣化させる。そのため、極力低減することが好ましい。しかしながら、過剰な低減はコスト高を招くため、P含有量は0.08%以下、S含有量は0.05%以下であれば許容される。P含有量は0.05%以下であるのが好ましく、0.04%以下であるのがより好ましい。また、S含有量は0.03%以下であるのが好ましく、0.015%以下であるのがより好ましい。
【0050】
Cr:15.0〜55.0%
Crは、オーテナイト合金の耐食性を中心的に担う元素である。母材の酸化または腐食などによってCr
2O
3を生じ、触媒性と耐食性とを発揮する。しかし過剰に含有させると、管製造性および使用中の高温での組織安定性を低下させる。そのため、Cr含有量は15.0〜55.0%とする。Cr含有量は20.0%以上であるのが好ましく、22.0%以上であるのがより好ましい。また、加工性とともに組織安定性の劣化を防止するためには、Cr含有量は35.0%以下であるのが好ましく、33.0%以下であるのがより好ましい。
【0051】
Ni:8.0〜70.0%
Niは、Cr含有量に応じて安定したオーステナイト組織を得るために必要な元素である。また、Cが鋼中に侵入した場合、侵入速度を低減する働きがある。しかし過剰に含有させると、コスト高につながるだけでなく製造性の悪化を招く。そのため、Ni含有量は8.0〜70.0%とする。Ni含有量は20.0%以上であるのが好ましい。また、Ni含有量は60.0%以下であるのが好ましく、50.0%以下であるのがより好ましい。
【0052】
N:0.001〜0.25%
Nは、高温強度改善に有効な元素である。しかし過剰に含有させると、加工性を大きく阻害する。そのため、N含有量は0.001〜0.25%とする。N含有量は0.002%以上であるのが好ましく、0.2%以下であるのが好ましい。
【0053】
Mo:0.1%を超えて20.0%以下
Moは、固溶強化元素として高温強度向上に有効な元素であり、硫酸または塩酸を含む超強酸環境における耐食性を向上させる元素である。特に硫黄とはMoS皮膜を作り耐食性を増進することも考えられる。しかし過剰に含有させると、シグマ相の析出を促進するため、溶接性および加工性の劣化を招く。そのため、Mo含有量は0.1%を超えて20.0%以下とする。Mo含有量は3.0%超であるのが好ましく、10.0%以下であるのが好ましい。
【0054】
O:0.02%以下
O(酸素)は、不純物として存在する元素である。O含有量が0.02%を超えると、鋼中に酸化物系介在物が多量存在し、加工性が低下するだけでなく、鋼管表面疵の原因になる。そのため、O含有量は0.02%以下とする。
【0055】
Cu:0〜5.0%
Cuは、オーステナイト相を安定にするとともに、高温強度向上に有効であり、またMoと同じく硫酸または塩酸を含む超強酸環境における耐食性を向上させる元素である。そのため、Cuを必要に応じて含有させてもよい。しかし過剰に含有させると、著しく熱間加工性を低下させる。したがって、Cu含有量は5.0%以下とする。上記の効果を得るためには、Cu含有量は0.01%以上とするのが好ましい。Cu含有量は0.5%以上であるのが好ましく、3.5%以下であるのが好ましい。この範囲では、耐食性を発揮し、かつ、加工性も担保される。Cu含有量は1.0%以上であるのがより好ましく、3.0%以下であるのがより好ましい。
【0056】
Co:0〜5.0%
Coは、オーステナイト相を安定にするため、Niの一部を置換することができる。そのため、Coを必要に応じて含有させてもよい。しかし過剰に含有させると、著しく熱間加工性を低下させる。したがって、Co含有量は5.0%以下とする。Co含有量は3.0%以下であるのが好ましい。上記の効果を得るためには、Co含有量は0.01%以上とするのが好ましい。
【0057】
W:0〜10.0%
Ta:0〜6.0%
WおよびTaは、いずれも固溶強化元素として高温強度向上に有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし過剰に含有させると、加工性を劣化させるだけでなく組織安定性を阻害する。したがって、W含有量は10.0%以下とし、Ta含有量は、6.0%以下とする。W含有量は8.0%以下であるのが好ましい。また、Ta含有量は2.5%以下であるのが好ましく、2.0%以下であるのがより好ましい。上記の効果を得るためには、WおよびTaの少なくとも一方の含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
【0058】
Nb:0〜5.0%
Ti:0〜1.0%
NbおよびTiは、極微量の添加であっても、高温強度、延性および靱性の改善に大きく寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし過剰に含有させると、加工性および溶接性を劣化させる。したがって、Nb含有量は5.0%以下とし、Ti含有量は1.0%以下とする。上記の効果を得るためには、NbおよびTiの少なくとも一方の含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
【0059】
Al:0〜1.0%
Mg:0〜0.1%
Ca:0〜0.1%
Al、MgおよびCaは、いずれも熱間加工性を改善するのに有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし過剰に含有させると、溶接性を劣化させる。したがって、Al含有量は1.0%以下とし、MgおよびCaの含有量は、いずれも0.1%以下とする。Al含有量は0.6%以下であるのが好ましく、MgおよびCaの含有量は、いずれも0.06%以下であるのが好ましい。上記の効果を得るためには、Al:0.01%以上、Mg:0.0005%以上およびCa:0.0005%以上から選択される1種以上を含有させるのが好ましい。また、MgおよびCaの含有量は0.001%以上であるのがより好ましい。
【0060】
3.クロム酸化物皮膜
上述のように、合金表面にクロム酸化物皮膜が形成されている場合には、当該皮膜がSO
2の吸着サイトとしての機能を発揮し、SO
3による腐食を抑制する効果が向上する。合金中に所定量以上のCrを含有する場合においては、SO
3の腐食環境中で、Cr含有合金の表面にクロム酸化物皮膜が形成される。しかし、皮膜が形成される間も母材の腐食は進行する。さらに、皮膜中に硫黄が取りこまれると、皮膜のバリア性が低下するおそれがある。
【0061】
そのため、Cr含有合金の表面に、事前に水蒸気または酸素を用いる酸化処理などの方法によって、クロム酸化物を中心とする皮膜を形成しておくことが好ましい。なお、クロム酸化物皮膜とは、クロムを主体とする酸化物皮膜である。クロムは皮膜中に、クロミア(Cr
2O
3)もしくは水酸化クロム(Cr(OH)
3)等の単一酸化物、または、NiCr
2O
4もしくはFeCr
2O
4等の複合酸化物として含まれる。
【0062】
上記のクロム酸化物皮膜は、O、CおよびNを除く成分に占める割合として、原子%で、50.0%以上のCrを含有する。皮膜中に50.0%以上のCrが含まれることによって、緻密で遮蔽性が高い酸化物皮膜を得ることが可能となる。緻密性と触媒性との向上により耐食性をさらに向上させるためには、皮膜中のCr含有量は70.0%以上とするのが好ましく、90.0%以上とするのがより好ましい。
【0063】
また、クロム酸化物皮膜中または皮膜上に、Mo、Ni、Fe、CuおよびWから選択される1種以上、またはさらに、Ru、Pd、Re、Ir、Pt、Au等の貴金属元素から選択される1種以上が含有されていてもよい。これらの元素は金属単体であっても酸化物であってもよい。
【0064】
しかしながら、上述のように、耐食性を確保するためには、酸化物皮膜中に50%以上のCrが含有されている必要があるため、いずれの元素の含有量も50%未満とする。また、同様の理由により、上記の元素から選択される2種以上を複合的に含有させる場合には、その合計含有量を50%未満とする。
【0065】
上記の元素は、具体的には、Fe
2O
3、FeO、Fe
3O
4、Fe(OH)
2、Fe(OH)
3、CuO、Cu
2O、CuOH、Cu(OH)
2、MoO
3、Mo(OH)
6、NiO、NiOH、WO
3、W(OH)
6等として皮膜中に含まれてもよい。また、これらの元素の複合酸化物として、例えば、NiCr
2O
4、NiFe
2O
4等が挙げられる。これらの元素の存在形態としては、Crを主成分とする皮膜中に分相して存在していてもよいし、Cr酸化物に部分的に取り込まれた酸化物として存在していてもよい。
【0066】
なお、皮膜の組成の測定は、皮膜を断面から透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、TEMに装着されたエネルギー分散型X線分光法(EDX)またはX線光電子分光法(XPS)等の物理分析によって行うか、または皮膜を剥がしてそれを化学分析することによって行うことができる。皮膜組成の測定は、複数カ所で行い、その平均値を採用することが望ましい。
【0067】
また、クロム酸化物皮膜の厚さは0.1〜50μmであることが好ましい。厚さが0.1μm未満ではバリア性の効果がほとんど見られない。一方、厚さが50μmを超えると、皮膜内の応力蓄積量が増え、亀裂および剥離が生じやすくなる。その結果、硫黄酸化物およびハロゲン化水素の侵入が容易になり、耐食性の低下を招く。クロム酸化物皮膜の厚さは0.5μm以上であるのがより好ましく、20μm以下であるのがより好ましく、10μm以下であるのがさらに好ましい。
【0068】
なお、皮膜の厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)により直接測定してもよいし、X線光電子分光法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)、グロー放電発光分光法(GDS)等の深さ方向分析により測定してもよい。この際、皮膜厚さの測定を複数カ所で行いその平均値を求める等して、皮膜全体の平均的な厚さを求めることに留意するのがよい。
【0069】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
表1に示す化学組成を有する2種類の合金を高周波加熱真空炉で溶解し、通常の方法で熱間鍛造、熱間圧延および冷間圧延を行って、外径20mm、肉厚2mmの合金管を作製した。次いで1100〜1200℃の温度範囲内で固溶化処理を30分間施した。クロムを主成分とする酸化皮膜を事前に形成させる場合においては、上記固溶化熱処理の際、雰囲気中に水蒸気(1〜10体積%)を混入させ、母材を酸化させ皮膜を形成した。
【0071】
【表1】
【0072】
以上のようにして得られた合金について、下記の方法により耐食性とSO
3分解性とを評価した。
【0073】
<耐食性の評価>
耐食試験用の石英管に10mm×50mm×2mmに切断した試料を置き、アルゴンガスを流しながら850℃に加熱した。次いで濃硫酸を、マイクロポンプを用いて上流側から供給し、気化・分解させてSO
3を発生させ、純アルゴンまたはSO
2を含有したアルゴンガスを流しながら、9体積%のSO
3を含むガスとして流通させた。100時間経過後、試料の試験前後の重量の差により腐食減量を測定した。さらに母材の腐食状況をEPMA、皮膜の形態の変化をXPSにより追跡することで、皮膜の耐食性を総合的に評価した。
【0074】
<SO
3分解性の評価>
上記耐食性の評価に用いた流通系評価装置のガス出口に設置した酸素濃度計でSO
3の分解試験後の酸素(SO
3→SO
2+1/2O
2)を測定し、SO
3分解性を評価した。表2〜4に、各種条件での耐食試験の結果を示す。
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
<試験結果>
表2を参照して、合金1を用いた場合、SO
2を外部から供給していない試験No.5に比べて、SO
2を供給した試験No.1〜4では、SO
2の供給量の増加に伴って腐食減量は低下し、腐食が抑制されることが分かる。ただし、SO
2の供給量の増加と共にSO
3分解率は低下しており、特にSO
3濃度(体積%)に対するSO
2濃度(体積%)の比が、0.2を超えると分解率は10%を下回っていた。
【0079】
また、表3を参照して、合金2を用いた場合、腐食度合いが合金1を用いた場合より顕著であったが、SO
2を外部から供給していない試験No.7に比べて、SO
2を供給した試験No.6では、腐食が抑制された。
【0080】
図1に試験No.3および試験No.5の試験後のXPS分析の結果を示す。SO
2供給の有無に関わらず、2500nm程度のクロムを中心とする皮膜の形成が確認された。しかし、皮膜の直下の母材のCr量に違いが見られた。SO
2を供給した試験No.3では、Cr量は母材濃度(23%)に近かったが、SO
2を供給していない試験No.5では、クロムの欠乏が見られた。すなわち、試験No.5では、試験No.3に比べて、SO
3による酸化がより進行していることが分かった。
【0081】
また、
図2に試験No.3および試験No.5の試験後のEPMA分析の結果を示す。
図2に示すEPMAによる断面分析の結果から、SO
2を外部から供給していない試験No.5では、母材中の粒界に硫黄が検出され、硫化が起こっていることが確認された。
【0082】
これらの結果から、SO
3の分解時にSO
2を供給することで合金の酸化および腐食(硫化)がともに抑制されることが分かった。
【0083】
さらに表4には、母材に事前にクロム酸化物を中心とする皮膜を設けた合金を用いた試験の結果を示す。試験No.8および9では、SO
2の供給によって腐食抑制効果が認められた。また、皮膜を設けた合金では、母材のみ(皮膜処理なし)の場合に比べて、同量のSO
2を供給しても腐食減量はさらに少なく、SO
3分解率の低下も小さいことが分かる(表2の試験No.2および表4の試験No.9を参照)。
【0084】
試験No.10では、事前にSO
2ガス(残部:0.5%Arガス)を850℃で60分間流した後(SO
2処理という)、次いでSO
3の供給を開始し耐食試験を実施した。SO
2処理を施さない試験No.8に比べ、腐食減量は低下したことより、SO
2処理は腐食抑制に有効であることが分かる。
【0085】
試験No.11および12では、SO
2処理を60分間施した後、SO
2処理を止め、次いでSO
3を供給し、耐食試験を開始した。SO
2の供給を止めても、母材の減少量は低下しており腐食抑制効果は認められた。さらにSO
2濃度を高めると母材減少量が低下するとともに、SO
3の分解率も十分高い値となり、腐食抑制とSO
3分解とが高い次元で両立できることが明かであった。