(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックス部材と、このセラミックス部材に接合されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材と、前記アルミニウム部材に接合された銅又は銅合金からなる銅部材と、を備えた接合体の製造方法であって、
前記セラミックス部材と前記アルミニウム部材とを接合材を介して積層するとともに、前記アルミニウム部材と前記銅部材とをニッケル層を介して積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス部材、前記アルミニウム部材及び前記銅部材を積層方向に加圧した状態で加熱し、620℃以上642℃以下の温度範囲で保持する高温保持工程と、
この高温保持工程の後に、500℃以上でアルミニウムと銅の共晶温度未満の温度範囲で保持する低温保持工程と、を有しており、
前記高温保持工程において、前記セラミックス部材と前記アルミニウム部材を接合するとともに前記アルミニウム部材とニッケル層及びニッケル層と前記銅部材をそれぞれ固相拡散接合し、
前記低温保持工程において、前記ニッケル層のNi原子を拡散させて前記ニッケル層を消失させることを特徴とする接合体の製造方法。
前記積層工程において、前記アルミニウム部材と前記銅部材との間に配設される前記ニッケル層の厚さを0.01mm以上0.05mm以下の範囲内とすることを特徴とする請求項1に記載の接合体の製造方法。
セラミックス基板の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる回路層が形成された絶縁回路基板の製造方法であって、
前記回路層を、請求項1又は請求項2に記載の接合体の製造方法によって形成することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
セラミックス基板の一方の面に回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる金属層が形成された絶縁回路基板の製造方法であって、
前記金属層を、請求項1又は請求項2に記載の接合体の製造方法によって形成することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
セラミックス基板の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる金属層が形成された絶縁回路基板の製造方法であって、
前記回路層及び前記金属層を、請求項1又は請求項2に記載の接合体の製造方法によって形成することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
セラミックス部材と、このセラミックス部材に接合されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材と、前記アルミニウム部材に接合された銅又は銅合金からなる銅部材と、を備えた接合体であって、
前記アルミニウム部材と前記銅部材との接合界面においては、前記アルミニウム部材側に、AlとNiの金属間化合物を含むAl−Ni金属間化合物層が形成され、前記銅部材側に、Cuの母相中にNiが固溶したCu−Ni固溶体層が形成されており、前記Al−Ni金属間化合物層と前記Cu−Ni固溶体層とが直接積層されていることを特徴とする接合体。
セラミックス基板の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる回路層が形成された絶縁回路基板であって、
前記アルミニウム層と前記銅層との接合界面においては、前記アルミニウム層側に、AlとNiの金属間化合物を含むAl−Ni金属間化合物層が形成され、前記銅層側に、Cuの母相中にNiが固溶したCu−Ni固溶体層が形成されており、前記Al−Ni金属間化合物層と前記Cu−Ni固溶体層とが直接積層されていることを特徴とする絶縁回路基板。
セラミックス基板の一方の面に回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる金属層が形成された絶縁回路基板であって、
前記アルミニウム層と前記銅層との接合界面においては、前記アルミニウム層側に、AlとNiの金属間化合物を含むAl−Ni金属間化合物層が形成され、前記銅層側に、Cuの母相中にNiが固溶したCu−Ni固溶体層が形成されており、前記Al−Ni金属間化合物層と前記Cu−Ni固溶体層とが直接積層されていることを特徴とする絶縁回路基板。
セラミックス基板の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる金属層が形成された絶縁回路基板であって、
前記アルミニウム層と前記銅層との接合界面においては、前記アルミニウム層側に、AlとNiの金属間化合物を含むAl−Ni金属間化合物層が形成され、前記銅層側に、Cuの母相中にNiが固溶したCu−Ni固溶体層が形成されており、前記Al−Ni金属間化合物層と前記Cu−Ni固溶体層とが直接積層されていることを特徴とする絶縁回路基板。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、例えばAlN(窒化アルミ)、Al
2O
3(アルミナ)などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。
【0003】
また、上述の絶縁回路基板においては、セラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して回路層とし、また、他方の面に放熱性に優れた金属板を接合して金属層とした構造のものも提供されている。
ここで、絶縁回路基板の回路層および金属層として、アルミニウム層と銅層とが積層された接合体を用いたものが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1−4には、回路層及び金属層を、アルミニウム層と銅層とを積層した構造とした絶縁回路基板が提案されている。これらの絶縁回路基板においては、セラミックス基板側に比較的変形抵抗が低いアルミニウム層を配設することで、セラミックス基板と回路層及び金属層との熱膨張係数の差に起因する熱応力を吸収し、セラミックス基板の割れ等を抑制できる。また、熱伝導性に優れた銅層において半導体素子等で発生した熱を面方向に拡げることができ、放熱特性が向上する。
【0005】
ここで、アルミニウム層と銅層とを直接接合した場合には、アルミニウムと銅とが反応して比較的脆く硬いアルミニウムと銅との金属間化合物が多量に生成してしまい、冷熱サイクル負荷時に、アルミニウム層と銅層との接合界面に割れが生じてしまうおそれがあった。このため、特許文献1−4においては、アルミニウム層と銅層との間に、チタン、クロム、ニッケル等からなるバリア層を形成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、最近では、絶縁回路基板に搭載されるパワー半導体素子、LED素子及び熱電素子等においては、発熱密度が高くなる傾向にあり、絶縁回路基板には従来にも増して、優れた放熱特性が求められている。
ここで、上述のように、アルミニウム層と銅層との間にバリア層を形成したものにおいては、バリア層の熱伝導率がアルミニウム層や銅層に比べて低いため、このバリア層が熱抵抗となり、放熱特性が低下してしまうといった問題があった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、アルミニウム部材と銅部材との接合界面において液相の生成を抑制し、セラミックス部材とアルミニウム部材を確実に接合できるとともに、アルミニウム部材と銅部材との間に大きな熱抵抗となるバリア層が存在せず、放熱特性に優れた接合体を製造することができる接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法、及び、接合体、絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明の接合体の製造方法は、セラミックス部材と、このセラミックス部材に接合されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材と、前記アルミニウム部材に接合された銅又は銅合金からなる銅部材と、を備えた接合体の製造方法であって、前記セラミックス部材と前記アルミニウム部材とを接合材を介して積層するとともに、前記アルミニウム部材と前記銅部材とをニッケル層を介して積層する積層工程と、積層された前記セラミックス部材、前記アルミニウム部材及び前記銅部材を積層方向に加圧した状態で加熱し、620℃以上642℃以下の温度範囲で保持する高温保持工程と、この高温保持工程の後に、500℃以上でアルミニウムと銅の共晶温度未満の温度範囲で保持する低温保持工程と、を有しており、前記高温保持工程において、前記セラミックス部材と前記アルミニウム部材を接合するとともに前記アルミニウム部材とニッケル層及びニッケル層と前記銅部材をそれぞれ固相拡散接合し、前記低温保持工程において、前記ニッケル層のNi原子を拡散させて前記ニッケル層を消失させることを特徴としている。
【0010】
この構成の接合体の製造方法によれば、前記セラミックス部材と前記アルミニウム部材とを接合材を介して積層するとともに、前記アルミニウム部材と前記銅部材とをニッケル層を介して積層し、これを積層方向に加圧して加熱し、620℃以上642℃以下の温度範囲で保持する高温保持工程を有しているので、セラミックス部材とアルミニウム部材を確実に接合することができるとともに、アルミニウム部材とニッケル層、及び、ニッケル層と銅部材とを、それぞれ固相拡散接合によって確実に接合することができる。また、このニッケル層により、アルミニウム部材と銅部材とが直接接触することなく、液相が生じること抑制できる。
【0011】
そして、高温保持工程の後に、500℃以上でアルミニウムと銅の共晶温度未満の温度範囲で保持する低温保持工程を備えているので、前記ニッケル層のNi原子を拡散させて前記ニッケル層を消失させることができる。よって、熱抵抗となるニッケル層が存在せず、放熱特性に優れた接合体を製造することができる。なお、低温保持工程の温度の上限がAlとCuの共晶温度未満とされているので、低温保持工程においてニッケル層が消失して、Alを含む金属間化合物とCuを含む金属間化合物が直接接触した場合であっても液相が生じることを抑制できる。
【0012】
ここで、本発明の接合体の製造方法においては、前記積層工程において、前記アルミニウム部材と前記銅部材との間に配設される前記ニッケル層の厚さを0.01mm以上0.05mm以下の範囲内とすることが好ましい。
この場合、前記積層工程において、前記アルミニウム部材と前記銅部材との間に配設される前記ニッケル層の厚さ(すなわち、接合前の状態のニッケル層の厚さ)が0.01mm以上とされているので、高温保持工程後にニッケル層を残存させることができ、アルミニウムと銅との金属間化合物が多量に生成することを抑制できる。一方、前記積層工程において、前記アルミニウム部材と前記銅部材との間に配設される前記ニッケル層の厚さ(接合前の状態のニッケル層の厚さ)が0.05mm以下とされているので、低温保持工程において比較的短時間でニッケル層を消失させることが可能となる。
【0013】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる回路層が形成された絶縁回路基板の製造方法であって、前記回路層を、上述の接合体の製造方法によって形成することを特徴としている。
【0014】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる金属層が形成された絶縁回路基板の製造方法であって、前記金属層を、上述の接合体の製造方法によって形成することを特徴としている。
【0015】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる金属層が形成された絶縁回路基板の製造方法であって、前記回路層及び前記金属層を、上述の接合体の製造方法によって形成することを特徴としている。
【0016】
以上のような構成とされた本発明の絶縁回路基板の製造方法においては、セラミックス基板の一方の面に形成された回路層及びセラミックス基板の他方の面に形成された金属層の少なくとも一方又は両方を、上述の接合体の製造方法によって形成する構成とされているので、アルミニウム層と銅層との間に熱抵抗となるニッケル層が存在せず、放熱特性に優れた絶縁回路基板を製造することができる。また、高温保持工程においては、アルミニウム層と銅層の間にニッケル層が残存しているので、アルミニウム層と銅層とが直接接触することなく、液相が生じること抑制できる。
【0017】
本発明の接合体は、セラミックス部材と、このセラミックス部材に接合されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材と、前記アルミニウム部材に接合された銅又は銅合金からなる銅部材と、を備えた接合体であって、前記アルミニウム部材と前記銅部材との接合界面においては、前記アルミニウム部材側に、AlとNiの金属間化合物を含むAl−Ni金属間化合物層が形成され、前記銅部材側に、Cuの母相中にNiが固溶したCu−Ni固溶体層が形成されており、前記Al−Ni金属間化合物層と前記Cu−Ni固溶体層とが直接積層されていることを特徴としている。
【0018】
この構成の接合体においては、アルミニウム部材と銅部材との接合界面において、前記アルミニウム部材側に形成されたAl−Ni金属間化合物層と、前記銅部材側に形成されたCu−Ni固溶体層と、が直接積層されているので、熱抵抗となるニッケル層が残存しておらず、放熱特性に優れている。
【0019】
本発明の絶縁回路基板は、セラミックス基板の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる回路層が形成された絶縁回路基板であって、前記アルミニウム層と前記銅層との接合界面においては、前記アルミニウム層側に、AlとNiの金属間化合物を含むAl−Ni金属間化合物層が形成され、前記銅層側に、Cuの母相中にNiが固溶したCu−Ni固溶体層が形成されており、前記Al−Ni金属間化合物層と前記Cu−Ni固溶体層とが直接積層されていることを特徴としている。
【0020】
本発明の絶縁回路基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる金属層が形成された絶縁回路基板であって、前記アルミニウム層と前記銅層との接合界面においては、前記アルミニウム層側に、AlとNiの金属間化合物を含むAl−Ni金属間化合物層が形成され、前記銅層側に、Cuの母相中にNiが固溶したCu−Ni固溶体層が形成されており、前記Al−Ni金属間化合物層と前記Cu−Ni固溶体層とが直接積層されていることを特徴としている。
【0021】
本発明の絶縁回路基板は、セラミックス基板の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層されてなる金属層が形成された絶縁回路基板であって、前記アルミニウム層と前記銅層との接合界面においては、前記アルミニウム層側に、AlとNiの金属間化合物を含むAl−Ni金属間化合物層が形成され、前記銅層側に、Cuの母相中にNiが固溶したCu−Ni固溶体層が形成されており、前記Al−Ni金属間化合物層と前記Cu−Ni固溶体層とが直接積層されていることを特徴としている。
【0022】
これらの構成の絶縁回路基板においては、セラミックス基板の一方の面に形成された回路層及びセラミックス基板の他方の面に形成された金属層の少なくとも一方又は両方が、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と銅又は銅合金からなる銅層とが積層された構造とされており、アルミニウム層と銅層との接合界面において、前記アルミニウム層側に形成されたAl−Ni金属間化合物層と、前記銅層側に形成されたCu−Ni固溶体層と、が直接積層されているので、熱抵抗となるニッケル層が残存しておらず、放熱特性に優れている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アルミニウム部材と銅部材との接合界面において液相の生成を抑制し、セラミックス部材とアルミニウム部材を確実に接合できるとともに、アルミニウム部材と銅部材との間に大きな熱抵抗となるバリア層が存在せず、放熱特性に優れた接合体を製造することができる接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法、及び、接合体、絶縁回路基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0026】
図1に、本発明の実施形態である絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。なお、本実施形態における接合体は、
図1に示す絶縁回路基板10において、セラミックス部材としてのセラミックス基板11と、アルミニウム部材としてのアルミニウム層21、31及び銅部材としての銅層22、32が接合された回路層20及び金属層30とされている。
【0027】
図1に示すパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方の面(
図1において上面)に第1はんだ層2を介して接合されたパワー半導体素子3と、絶縁回路基板10の下側に第2はんだ層42を介して接合されたヒートシンク41と、を備えている。
【0028】
パワー半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。絶縁回路基板10とパワー半導体素子3とを接合する第1はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
【0029】
ヒートシンク41は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク41は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では無酸素銅で構成されている。絶縁回路基板10とヒートシンク41とを接合する第2はんだ層42は、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
【0030】
そして、本実施形態に係る絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層20と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層30と、を備えている。
【0031】
セラミックス基板11は、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、アルミナ(Al
2O
3)等の絶縁性の高いセラミックスで構成されている。本実施形態では、窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0032】
回路層20は、
図1に示すように、セラミックス基板11の一方の面に配設されたアルミニウム層21と、このアルミニウム層21の一方の面に積層された銅層22と、を有している。
ここで、回路層20におけるアルミニウム層21の厚さは、0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.4mmに設定されている。
また、回路層20における銅層22の厚さは、0.1mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、1.0mmに設定されている。
【0033】
金属層30は、
図1に示すように、セラミックス基板11の他方の面に配設されたアルミニウム層31と、このアルミニウム層31の他方の面に積層された銅層32と、を有している。
ここで、金属層30におけるアルミニウム層31の厚さは、0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.4mmに設定されている。
また、金属層30における銅層32の厚さは、0.1mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、1.0mmに設定されている。
【0034】
アルミニウム層21、31は、
図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面に、アルミニウム板51、61が接合されることにより形成されている。
アルミニウム層21,31となるアルミニウム板51、61は、純度が99mass%以上のアルミニウムや純度99.99mass%以上のアルミニウムで構成されている。
【0035】
銅層22、32は、
図4に示すように、アルミニウム層21、31の一方の面及び他方の面に、銅又は銅合金からなる銅板52、62が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、銅層22、32を構成する銅板52、62は、無酸素銅の圧延板とされている。
【0036】
ここで、アルミニウム層21、31と銅層22,32との接合界面の拡大図を
図2に示す。
アルミニウム層21,31と銅層22,32との接合界面においては、アルミニウム層21,31側に、AlとNiの金属間化合物を含むAl−Ni金属間化合物層25,35が形成され、銅層22,32側に、Cuの母相中にNiが固溶したCu−Ni固溶体層26,36が形成されている。そして、これらAl−Ni金属間化合物層25,35とCu−Ni固溶体層26,36とが直接積層した構造とされている。
【0037】
Al−Ni金属間化合物層25,35に含まれる金属間化合物としては、例えばAl
3Ni、あるいは、Al
3Ni
2が挙げられる。
また、Al−Ni金属間化合物層25,35の厚さは、0.02mm以上0.1mm以下の範囲内とされている。
【0038】
Cu−Ni固溶体層26,36においては、Ni濃度が厚さ方向で傾斜している場合もある。なお、このCu−Ni固溶体層26,36におけるNi濃度は、例えば0.1mass%以上50mass%以下の範囲内とされている。
また、Cu−Ni固溶体層26,36の厚さは、0.001mm以上0.02mm以下の範囲内とされている。
【0039】
次に、本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、
図3から
図7を参照して説明する。
【0040】
まず、
図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図4において上面)に、接合材としてAl−Si系のろう材箔58を介してアルミニウム層21となるアルミニウム板51を積層し、さらにその上にニッケル材54を介して銅層22となる銅板52を積層する。また、セラミックス基板11の他方の面(
図4において下面)に、接合材としてAl−Si系のろう材箔68を介してアルミニウム層31となるアルミニウム板61を積層し、さらにその上にニッケル材64を介して銅層32となる銅板62を積層する(積層工程S01)。
なお、ニッケル材54,64としては、厚さが0.01mm以上0.05mm以下の範囲内、純度99mass%以上の純ニッケル箔を用いることができる。
【0041】
次いで、
図5の温度パターン図に示すように、真空条件下において、上述の積層体を、積層方向に1.0kgf/cm
2以上30kgf/cm
2以下(0.1MPa以上3.0MPa以下)の範囲内で加圧した状態で加熱し、620℃以上642℃以下の温度範囲で保持する(高温保持工程S02)。
【0042】
この高温保持工程S02において、セラミックス基板11とアルミニウム板51,61を接合するとともに、アルミニウム板51,61とニッケル材54,64及びニッケル材54,64と銅板52,62をそれぞれ固相拡散接合する。これにより、
図6に示すように、アルミニウム層21,31及び銅層22,32が形成される。ここで、
図6に示すように、高温保持工程S02の後には、アルミニウム層21,31と銅層22,32の接合界面には、ニッケル層24,34が残存しており、このニッケル層24,34のアルミニウム層21,31側にAl−Ni金属間化合物層25,35が形成され、ニッケル層24,34の銅層22,32側にCu−Ni固溶体層26,36が形成される。
【0043】
ここで、高温保持工程S02における保持温度が620℃未満では、セラミックス基板11とアルミニウム板51,61の接合や、アルミニウム板51,61とニッケル材54,64(ニッケル層24,34)及びニッケル材54,64(ニッケル層24,34)と銅板52,62の固相拡散接合が、不十分となり、セラミックス基板11とアルミニウム板51,61との接合性、及び、アルミニウム板51,61と銅板52,62との接合性が低下する。
また、高温保持工程S02における保持温度が642℃を超えると、アルミニウム板51,61とニッケル材54,64(ニッケル層24,34)の間に液相が生じ、アルミニウム板51,61が溶融してしまい、形状不良が発生する。
以上のことから、本実施形態では、高温保持工程S02における保持温度を620℃以上642℃以下の範囲内に設定している。
なお、高温保持工程S02における保持温度の下限は630℃以上とすることが好ましく、635℃以上とすることがさらに好ましい。また、高温保持工程S02における保持温度の上限は640℃以下とすることが好ましい。
【0044】
また、高温保持工程S02における保持時間は、5分以上30分以下の範囲内とすることが好ましい。
ここで、高温保持工程S02における保持時間の下限は10分以上とすることが好ましく、20分以上とすることがさらに好ましい。
【0045】
この高温保持工程S02の後、
図5の温度パターン図に示すように、上述の積層体を、積層方向に1.0kgf/cm
2以上30kgf/cm
2以下(0.1MPa以上3.0MPa以下)の範囲内で加圧した状態で、500℃以上でアルミニウムと銅の共晶温度未満の温度範囲で保持する(低温保持工程S03)。
【0046】
この低温保持工程S03において、ニッケル層24,34のNi原子を拡散させて、ニッケル層24,34を消失させる。すなわち、この低温保持工程S03において、
図7に示すように、ニッケル層24,34のNi原子をアルミニウム層21,31側に拡散させることでAl−Ni金属間化合物層25,35が成長し、ニッケル層24,34のNi原子を銅層22,32側に拡散させることでCu−Ni固溶体層26,36が成長することにより、ニッケル層24,34が消失し、Al−Ni金属間化合物層25,35とCu−Ni固溶体層26,36とが直接積層されることになる。なお、ここで、ニッケル層24,34はNi濃度が99mass%以上の層である。
【0047】
ここで、低温保持工程S03における保持温度が500℃未満では、ニッケル層24,34のNi原子を十分に拡散させることができず、ニッケル層24,34が残存し、熱抵抗が高くなる。
また、低温保持工程S03における保持温度がアルミニウムと銅の共晶温度以上となると、ニッケル層24,34が消失してアルミニウム層21,31と銅層22,32とが直接接触した時点で液相が生じてしまい、形状不良が発生する。
以上のことから、本実施形態では、低温保持工程S03における保持温度を500℃以上でアルミニウムと銅の共晶温度未満の範囲内に設定している。
なお、低温保持工程S03における保持温度の下限は520℃以上とすることが好ましく、540℃以上とすることがさらに好ましい。
【0048】
また、低温保持工程S03における保持時間は、ニッケル層24,34が消失するために要する時間以上であればよく、ニッケル層24,34の厚さに応じて適宜設定することが好ましい。
本実施形態では、ニッケル層24,34の厚さが0.01mm以上0.05mm以下の範囲内とされているので、低温保持工程S03における保持時間は、例えば30分以上300分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0049】
以上の工程により、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0050】
次に、絶縁回路基板10の金属層30に、はんだ材を介してヒートシンク41を積層し、還元炉内においてはんだ接合する(ヒートシンク接合工程S04)。
次いで、回路層20の一方の面(銅層22の表面)に、はんだ材を介してパワー半導体素子3を積層し、還元炉内においてはんだ接合する(パワー半導体素子接合工程S05)。
上記のようにして、本実施形態であるパワーモジュール1が製造される。
【0051】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法においては、セラミックス基板11とアルミニウム板51,61とをろう材箔58、68を介して積層するとともに、アルミニウム板51,61と銅板52,62とをニッケル材54,64を介して積層し、これを積層方向に加圧して加熱し、620℃以上642℃以下の温度範囲で保持する高温保持工程S02を有しているので、セラミックス基板11とアルミニウム板51,61を確実に接合してアルミニウム層21,31を形成することができるとともに、アルミニウム板51,61とニッケル材54,64、及び、ニッケル材54,64と銅板52,62とを、それぞれ固相拡散接合によって確実に接合することで銅層22,32及びニッケル層24,34を形成することができる。また、このニッケル層24,34により、AlとCuが直接接触することが無く、液相の生成を抑制することができる。
【0052】
そして、この高温保持工程S02の後に、500℃以上でアルミニウムと銅の共晶温度未満の温度範囲で保持する低温保持工程S03を実施するので、ニッケル層24,34のNi原子をアルミニウム層21,31側及び銅層22,32側に拡散させることによって、このニッケル層24,34を消失させることができる。よって、アルミニウム層21,31と銅層22,32の接合界面に、熱抵抗となるニッケル層24,34が存在せず、放熱特性に優れた絶縁回路基板10を製造することができる。さらに、低温保持工程S03の温度の上限がアルミニウムと銅の共晶温度未満とされているので、低温保持工程S03においてニッケル層24,34が消失してAlを含む金属間化合物とCuを含む金属間化合物が直接接触した場合であっても、アルミニウム層21,31と銅層22,32の接合界面において液相が生じることを抑制でき、回路層20や金属層30の形状不良を防止することができる。
【0053】
また、本実施形態である絶縁回路基板10においては、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層20及びセラミックス基板11の他方の面に形成された金属層30が、アルミニウム層21,31と銅層22,32とが積層された構造とされており、アルミニウム層21,31と銅層22,32との接合界面において、アルミニウム層21,31側に形成されたAl−Ni金属間化合物層25,35と、銅層22,32側に形成されたCu−Ni固溶体層26,36と、が直接積層されているので、熱抵抗となるニッケル層24,34が残存しておらず、放熱特性に優れている。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0055】
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0056】
また、
図8に示すパワーモジュール101及び絶縁回路基板110のように、セラミックス基板111の一方の面(
図8において上面)に形成された回路層120のみが銅又は銅合金からなる銅部材(銅層122)と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材(アルミニウム層121)とが積層されたものであってもよい。この場合、金属層130及びヒートシンク141の材質等には特に限定はない。
あるいは、
図9に示すパワーモジュール201及び絶縁回路基板210のように、セラミックス基板211の他方の面(
図9において下面)に形成された金属層230のみが銅又は銅合金からなる銅部材(銅層232)と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材(アルミニウム層231)とが積層されたものであってもよい。この場合、回路層220及びヒートシンク241の材質等には特に限定はない。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
AlNからなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.635mmt)の一方の面及び他方の面に、Al−7mass%Si合金からなるろう材箔(厚さ10μm)を介して純度99mass%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)からなるアルミニウム板(37mm×37mm×0.6mmt)、ニッケル材(37mm×37mm、厚さは表1に記載)、無酸素銅からなる銅板(37mm×37mm×0.3mmt)を順に積層し、積層体を得た。
【0058】
そして、真空条件下(5×10
−4Pa)において、上述の積層体を積層方向に表1に示す圧力で加圧した状態で加熱し、表1に示す条件の高温保持工程と低温保持工程とを実施し、回路層と金属層を有する、本発明例及び比較例の絶縁回路基板を製造した。なお、従来例として、低温保持工程を実施せずに、絶縁回路基板を製造した。
【0059】
上述のようにして得られた絶縁回路基板について、セラミックス基板とアルミニウム層との接合率、積層方向の熱抵抗、アルミニウム層と銅層の接合界面におけるニッケル層の有無について評価した。
【0060】
(接合率)
接合率の評価は、絶縁回路基板に対し、セラミックス基板とアルミニウム層との界面の接合率について超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて評価し、以下の式から接合率を算出した。
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち本実施例では回路層及び金属層の面積(37mm×37mm)とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
【0061】
(熱抵抗)
熱源チップ(1.0mm×1.0mm)を絶縁回路基板の一方の面側の表面に、はんだ付けした。そして、投入電力1Wとした際の熱源チップの温度と雰囲気温度(25℃)から以下の式で熱抵抗を算出した。
(熱源チップ温度−雰囲気温度)/投入電力
【0062】
(ニッケル層の有無)
得られた絶縁回路基板の回路層の断面を、EPMA(日本電子株式会社製JXA−8530F)を用いアルミニウム層から銅層に向かって積層方向にNi濃度のライン分析を行い、Ni濃度が99mass%以上の箇所が存在した場合、Ni層「有」とした。
【0063】
【表1】
【0064】
低温保持工程を設けなかった従来例及び低温保持工程の保持温度が低かった比較例1では、ニッケル層が残り、熱抵抗が高かった。高温保持工程の保持温度が高かった比較例2及び低温保持工程の保持温度が高かった比較例3では、アルミニウム層が融解し、回路層及び金属層の形状不良が生じた。このため、比較例2及び比較例3では「ニッケル層の有無」「接合率」「熱抵抗」の測定が行えなかった。高温保持工程の保持温度を低くした比較例4では、セラミックス基板とアルミニウム層の接合率が低下した。
一方、高温保持工程の保持温度及び低温保持工程の保持温度を本件発明の範囲内とした本発明例1〜11では、ニッケル層が消失し、熱抵抗が低くなっているとともに、セラミックス基板とアルミニウム層が良好に接合された絶縁回路基板を得ることができた。