特許第6780729号(P6780729)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6780729微細繊維状セルロース含有組成物およびその製造方法
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  • 特許6780729-微細繊維状セルロース含有組成物およびその製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6780729
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】微細繊維状セルロース含有組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/16 20060101AFI20201026BHJP
   C08L 89/00 20060101ALI20201026BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   C08L1/16
   C08L89/00
   C08K3/16
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2019-68416(P2019-68416)
(22)【出願日】2019年3月29日
(65)【公開番号】特開2020-164710(P2020-164710A)
(43)【公開日】2020年10月8日
【審査請求日】2020年3月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水上 萌
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紅
(72)【発明者】
【氏名】伏見 速雄
(72)【発明者】
【氏名】砂川 寛一
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2020−033398(JP,A)
【文献】 特開2017−057391(JP,A)
【文献】 特開2017−057389(JP,A)
【文献】 特開2017−057291(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/047768(WO,A1)
【文献】 特開2019−026651(JP,A)
【文献】 特開2018−141249(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/132903(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08B 1/00−37/18
D21H 11/00−27/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維幅が1,000nm以下の亜リン酸基を有する微細繊維状セルロースと、酵素に由来するタンパク質と、塩素を含むオキソ酸またはその塩とを含有
前記酵素が、セルラーゼであり、
前記塩素を含むオキソ酸またはその塩が、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸カリウムよりなる群から選択される少なくとも1つである、
微細繊維状セルロース含有組成物。
【請求項2】
前記微細繊維状セルロース100質量部に対する前記塩素を含むオキソ酸またはその塩の含有量が0.0001質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
【請求項3】
前記酵素に由来するタンパク質100質量部に対して、前記塩素を含むオキソ酸またはその塩を10質量部以上1000000質量部以下含有する、請求項1または2に記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
【請求項4】
前記塩素を含むオキソ酸またはその塩が、次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸カリウムよりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
【請求項5】
前記微細繊維状セルロースの重合度が430以下である、請求項1〜のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
【請求項6】
前記微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.4質量%において、B型粘度計を用いて、23℃にて回転速度3rpmで3分間回転させることで測定される組成物の粘度が、1.0×10mPa・s以下である、請求項1〜のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
【請求項7】
スラリー状である、請求項1〜のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
【請求項8】
パウダー状である、請求項1〜のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
【請求項9】
シート状である、請求項1〜のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
【請求項10】
溶媒中の亜リン酸基を有する繊維状セルロースを解繊して、微細繊維状セルロースを含有する分散液を得る工程、
前記微細繊維状セルロースを含有する分散液に酵素を添加する工程、および
酵素処理した前記微細繊維状セルロースを含有する分散液に塩素を含むオキソ酸またはその塩を添加する工程をこの順で有
前記酵素がセルラーゼであり、
前記塩素を含むオキソ酸またはその塩が、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸カリウムよりなる群から選択される少なくとも1つである、
微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。
【請求項11】
細繊維状セルロース1mgに対するセルラーゼの添加量が、0.0001U以上1.0U以下である、請求項10に記載の微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。
【請求項12】
前記塩素を含むオキソ酸またはその塩が、次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸カリウムよりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項10または11に記載の微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維状セルロースおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースは、セルロースナノファイバーと呼ばれ、コンポジット材料の補強材料や、高性能フィルタ、ディスプレイや太陽電池、エレクトロニクス、輸送機器、建材、医療等の種々の分野への展開が期待される。
一般に、微細繊維状セルロースは、分散液として得られるが、該分散液は粘度が高く、たとえば、基材上にフィルムを形成する場合、分散液の濃度が高すぎると、均質に塗布することが困難である。一方、均質に塗布するために分散液を希釈して用いると、所望のフィルム厚みが達成されるまで何度も塗布と乾燥とを繰り返し実施しなくてはならず、効率が悪いという問題があった。
特許文献1には、低粘度のセルロースナノファイバー分散液の製造方法として、特定の繊維長分布を有するパルプが得られる木材を選定し、該木材由来のパルプを解繊してセルロースナノファイバー分散液を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−090949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法では、特定の原料を用いる必要があり、また、得られた分散液の精密な粘度調整を行なうことが困難であった。
本発明は、微細繊維状セルロースの濃度を変えることなく、微細繊維状セルロース分散液の低粘度化が可能であり、かつ、粘度の安定性に優れる微細繊維状セルロース含有組成物、およびその製造方法を提供することを目的とする。さらに、前記微細繊維状セルロース含有組成物を含む成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、亜リン酸基を有する微細繊維状セルロースと、酵素に由来するタンパク質と、塩素を含むオキソ酸またはその塩とを含有する組成物により、上記の課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の<1>〜<12>に関する。
<1> 繊維幅が1,000nm以下の亜リン酸基を有する微細繊維状セルロースと、酵素に由来するタンパク質と、塩素を含むオキソ酸またはその塩とを含有する、微細繊維状セルロース含有組成物。
<2> 前記酵素が、セルラーゼである、<1>に記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<3> 前記微細繊維状セルロース100質量部に対する前記塩素を含むオキソ酸またはその塩の含有量が0.0001質量部以上10質量部以下である、<1>または<2>に記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<4> 前記酵素に由来するタンパク質100質量部に対して、前記塩素を含むオキソ酸またはその塩を0.1質量部以上1000000質量部以下含有する、<1>〜<3>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<5> 前記塩素を含むオキソ酸またはその塩が、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムおよび次亜塩素酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、<1>〜<4>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<6> 前記微細繊維状セルロースの重合度が430以下である、<1>〜<5>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<7> 前記微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.4質量%において、B型粘度計を用いて、23℃にて回転速度3rpmで3分間回転させることで測定される組成物の粘度が、1.0×10mPa・s以下である、<1>〜<6>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<8> スラリー状である、<1>〜<7>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<9> パウダー状である、<1>〜<7>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<10> シート状である、<1>〜<7>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<11> 溶媒中の亜リン酸基を有する繊維状セルロースを解繊して、微細繊維状セルロースを含有する分散液を得る工程、前記微細繊維状セルロースを含有する分散液に酵素を添加する工程、および酵素処理した前記微細繊維状セルロースを含有する分散液に塩素を含むオキソ酸またはその塩を添加する工程をこの順で有する、微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。
<12> 前記酵素がセルラーゼであり、微細繊維状セルロース1mgに対するセルラーゼの添加量が、0.0001U以上1.0U以下である、<11>に記載の微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、微細繊維状セルロースの濃度を変えることなく、微細繊維状セルロース分散液の低粘度化が可能であり、かつ、粘度の安定性に優れる微細繊維状セルロース含有組成物、およびその製造方法を提供することができる。さらに、前記微細繊維状セルロース含有組成物を含む成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、リンオキソ酸基を有する微細繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[微細繊維状セルロース含有組成物]
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物は、繊維幅が1,000nm以下の亜リン酸基を有する微細繊維状セルロース(単に微細繊維状セルロースということもある)と、酵素に由来するタンパク質と、塩素を含むオキソ酸またはその塩とを含有する。
従来、微細繊維状セルロースの分散液の粘度を低下させる方法としては、解繊処理工程の回数を増やす方法が挙げられるが、解繊処理による低粘度化では、精密な粘度制御を行なうことが困難であり、また、解繊処理は時間的、費用的な負担も大きい。
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物は、微細繊維状セルロースの濃度を変えることなく、微細繊維状セルロース分散液の低粘度化が可能であり、さらに、微細繊維状セルロース分散液の粘度の安定性に優れる。また、上述した解繊処理工程の回数を調整する方法に比べて、低粘度化に必要な時間が短く、さらに安価に低粘度化が可能である。
上述の効果が得られる詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように推定される。本発明では、微細繊維状セルロースを酵素で処理した後、さらに塩素を含むオキソ酸またはその塩で処理するものであり、酵素により微細繊維状セルロースを酵素的分解することにより、微細繊維状セルロース分散液の低粘度化が可能である。しかし、酵素による微細繊維状セルロースの分解が進行しすぎると、微細繊維状セルロースの有するフィラー(補強材)としての機能や、増粘剤としての機能等、微細繊維状セルロースの有する本来の機能が失われてしまう。
従来は、酵素処理後の酵素を失活させるために、加熱処理が多く行われてきたが、加熱処理を行うと、微細繊維状セルロースが着色するおそれがあった。
本発明では、酵素処理した微細繊維状セルロースに、さらに塩素を含むオキソ酸またはその塩を処理することにより、酵素を失活させるとともに、塩素を含むオキソ酸またはその塩自身による低粘度化が生じ、さらなる低粘度化が実現し、かつ、酵素が失活することで、粘度の安定性に優れる微細繊維状セルロース分散液が得られたものと考えられる。なお、塩素を含むオキソ酸またはその塩を含有することにより、微細繊維状セルロースの一部は分子鎖が切断され、低分子量化することにより、分散液の低粘度化が生じているものと考えられる。しかし、塩素を含むオキソ酸またはその塩による低粘度化は、低分子量化によるものだけではなく、塩素を含むオキソ酸またはその塩が、ヘーズや透過率といった光学特性が悪化しない程度の微細繊維状セルロースの凝集を惹起し、それにより、分散液の粘度が低下しているとも考えられる。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0009】
<微細繊維状セルロース>
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物は、微細繊維状セルロースを含有し、該微細繊維状セルロースは、繊維幅が1,000nm以下の亜リン酸基を有する微細繊維状セルロースである。なお、微細繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。
【0010】
微細繊維状セルロースの繊維幅は、1000nm以下であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下、よりさらに好ましくは10nm以下、よりさらに好ましくは8nm以下である。また、繊維幅は2nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましい。
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上であり、そして、好ましくは1000nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、よりさらに好ましくは10nm以下、よりさらに好ましくは8nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
【0011】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、微細繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0012】
微細繊維状セルロースの繊維長は、とくに限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0013】
微細繊維状セルロースの重合度は、微細繊維状セルロース分散液を低粘度化する観点から、好ましくは430以下、より好ましくは400以下、さらに好ましくは350以下であり、そして、補強材、増粘剤等としての機能の観点から、好ましくは200以上、より好ましくは250以上、さらに好ましくは300以上である。
微細繊維状セルロースの重合度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0014】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
また、微細繊維状セルロースの結晶化度は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは95%以下、さらに好ましくは90%以下である。
【0015】
微細繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、とくに限定されないが、たとえば好ましくは20以上、より好ましくは50以上であり、そして、好ましくは10000以下、より好ましくは1000以下である。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすく、また、溶媒分散体を作製した際に適度な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば微細繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0016】
本実施形態における微細繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。とくに、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
【0017】
本実施形態における微細繊維状セルロースは、亜リン酸基または亜リン酸基に由来する基(単に亜リン酸基ということもある)を有する。
【0018】
亜リン酸基または亜リン酸基に由来する基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。
【0019】
【化1】

【0020】
式(1)中、bは自然数であり、mは任意の数である(ただし、b×m=1である)。αは、各々、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。中でも、αは水素原子であることがとくに好ましい。なお、式(1)におけるαには、セルロース分子鎖に由来する基は含まれない。
【0021】
式(1)のαで表される飽和−直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、またはn−ブチル基等が挙げられるが、とくに限定されない。飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロピル基、またはt−ブチル基等が挙げられるが、とくに限定されない。飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基等が挙げられるが、とくに限定されない。不飽和−直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、またはアリル基等が挙げられるが、とくに限定されない。不飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロペニル基、または3−ブテニル基等が挙げられるが、とくに限定されない。不飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、とくに限定されない。芳香族基としては、フェニル基、またはナフチル基等が挙げられるが、とくに限定されない。
【0022】
また、αにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖または側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、またはアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加または置換した状態の官能基が挙げられるが、とくに限定されない。
また、αの主鎖を構成する炭素原子数はとくに限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。αの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、亜リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細繊維状セルロースの収率を高めることもできる。
【0023】
式(1)におけるβb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、または芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、または水素イオン等が挙げられるが、とくに限定されない。これらは1種または2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、とくに限定されない。
【0024】
なお、微細繊維状セルロースは、亜リン酸基または亜リン酸基由来の置換基に加えて、さらにリン酸基またはリン酸基に由来する基を有していてもよい。リン酸基またはリン酸基に由来する基は、たとえば、下記式(2)もしくは(3)で表される置換基であってもよい。なお、リン酸基またはリン酸基に由来する基は、下記式(3)で表されるような縮合リンオキソ酸基であってもよい。
【0025】
【化2】
【0026】
式(2)中、aおよびb’は自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b’×mである)。αおよびα’のうちa個がOであり、残りはORである。ここで、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。なお、式(2)におけるαは、セルロース分子鎖に由来する基であってもよい。
【0027】
【化3】
【0028】
式(3)中、a’およびb’’は自然数であり、mは任意の数であり、nは2以上の自然数である(ただし、a’=b’’×mである)。α,α,・・・,αおよびα’のうちa’個がOであり、残りはRまたはORのいずれかである。ここで、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。なお、式(3)におけるαは、セルロース分子鎖に由来する基であってもよい。
【0029】
式(2)および(3)における各基の具体的例示は、式(1)における各基の具体的例示と同様である。また、式(2)におけるβb’+および式(3)におけるβb’’+の具体的例示は、式(1)におけるβb+の具体的例示と同様である。
【0030】
微細繊維状セルロースが亜リン酸基を置換基として有することは、微細繊維状セルロースを含有する分散液について赤外線吸収スペクトルの測定を行い、1210cm−1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収を観察することで確認できる。また、微細繊維状セルロースがリン酸基を置換基として有することは、微細繊維状セルロースを含有する分散液について赤外線吸収スペクトルの測定を行い、1230cm−1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収を観察することで確認できる。また、微細繊維状セルロースが亜リン酸基やリン酸基を置換基として有することは、NMRを用いて化学シフトを確認する方法や、元素分析に滴定を組み合わせる方法などでも確認できる。
【0031】
微細繊維状セルロースに対する亜リン酸基の導入量、すなわち、微細繊維状セルロースにおける亜リン酸基の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、微細繊維状セルロースに対する亜リン酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、3.00mmol/g以下であることがよりさらに好ましい。亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの増粘剤などの種々用途において良好な特性を発揮することができる。
ここで、単位mmol/gにおける分母は、亜リン酸基の対イオンが水素イオン(H)であるときの微細繊維状セルロースの質量を示す。
微細繊維状セルロースに対する亜リン酸基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた微細繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、亜リン酸基の導入量を測定する。
【0032】
図1は、リンオキソ酸基を有する微細繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHとの関係を示すグラフである。
微細繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、微細繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる微細繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる微細繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる微細繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。たとえば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
【0033】
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の微細繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の微細繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの微細繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである微細繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W−1)×A/1000}
A[mmol/g]:微細繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の強酸性基量と弱酸性基量を足した値)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0034】
なお、滴定法によるリンオキソ酸基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いリンオキソ酸基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、たとえば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5〜30秒に10〜50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、たとえば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0035】
また、亜リン酸基に加えて、リン酸基、縮合リン酸基のいずれかまたは両方を含む場合において検出されるリンオキソ酸が、亜リン酸、リン酸、縮合リン酸のどれに由来するのかを区別する方法としては、たとえば、酸加水分解などの縮合構造を切断する処理を行ってから上述した滴定操作を行う方法や、酸化処理などの亜リン酸基をリン酸基へ変換する処理を行ってから上述した滴定操作を行う方法などが挙げられる。
【0036】
<微細繊維状セルロースの製造方法>
(セルロースを含む繊維原料)
微細繊維状セルロースは、亜リン酸基を有し、セルロースを含む繊維原料(以下、単に「繊維原料」ともいう)から製造される。
セルロースを含む繊維原料としては、とくに限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
【0037】
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。
また、セルロースを含む繊維原料に代えて、その一部として、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0038】
ここで、亜リン酸基を導入した微細繊維状セルロースを得るためには、上述したセルロースを含む繊維原料に亜リン酸基を導入する亜リン酸基導入工程、洗浄工程、アルカリ処理工程(中和工程)、解繊処理工程をこの順で有することが好ましく、洗浄工程の代わりに、または洗浄工程に加えて、酸処理工程を有していてもよい。また、亜リン酸基導入工程の前に前処理工程を有していてもよい。以下、それぞれについて説明する。
【0039】
(亜リン酸基導入工程)
繊維原料に亜リン酸基を導入する工程(亜リン酸基導入工程)について以下に説明する。
亜リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、亜リン酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)をセルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、亜リン酸基導入繊維が得られることとなる。
【0040】
本実施形態に係る亜リン酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
【0041】
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、とくに乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、とくに限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。
化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、とくに水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、とくに限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0042】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、亜リン酸基を有する化合物およびその塩から選択される少なくとも1種である。亜リン酸基を有する化合物としては亜リン酸を挙げることができ、亜リン酸としては、たとえば99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。亜リン酸基を有する化合物の塩としては、亜リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リンオキソ酸基の導入の効率が高く、後述する解繊処理工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、または、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく用いられる。
【0043】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、とくに限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶対乾燥質量、以下、「絶乾質量」ともいう)に対するリン原子の添加量が好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。ここで、「絶対乾燥質量(絶乾質量)」は、ISO 638:2008に記載の方法で測定され、恒量に達した絶乾状態の質量のことである。
【0044】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、チオ尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、とくに限定されないが、たとえば1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは100質量%以上であり、そして、好ましくは500質量%以下、より好ましくは400質量%以下、さらに好ましくは350質量%以下である。
【0045】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、とくにトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0046】
亜リン酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加または混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、亜リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは130℃以上であり、そして、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0047】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練または撹拌しながら加熱乾燥する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一に亜リン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分および化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(亜リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、たとえば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、亜リン酸エステル化の逆反応である亜リン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0048】
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから、好ましくは1秒以上、より好ましくは10秒以上であり、そして、好ましくは300分以下、より好ましくは1000秒以下、さらに好ましくは800秒以下である。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、亜リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0049】
亜リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えばよいが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上の亜リン酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くの亜リン酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、亜リン酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
【0050】
繊維原料に対する亜リン酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維原料に対する亜リン酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0051】
(洗浄工程)
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じて亜リン酸基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒により亜リン酸基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
洗浄工程では、亜リン酸基導入繊維を水や有機溶媒に分散させた後に、濾過する操作を繰り返すことが好ましく、濾液の電気伝導度を所望の範囲とすることで洗浄工程の進行を管理することができる。濾液の電気伝導度が、好ましくは10,000μS/cm以下、より好ましくは1,000μS/cm以下、さらに好ましくは300μS/cm以下、よりさらに好ましくは150μS/cmとなるように、洗浄工程を行うことが好ましい。
【0052】
(アルカリ処理工程(中和工程))
微細繊維状セルロースを製造する場合、亜リン酸基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行い、亜リン酸基の中和を行う、アルカリ処理工程(中和工程)を有していてもよい。アルカリ処理の方法としては、とくに限定されないが、たとえばアルカリ溶液中に、亜リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、とくに限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0053】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、とくに限定されないが、たとえば5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下である。アルカリ処理工程における亜リン酸基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、とくに限定されないが、たとえば好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上であり、そして、好ましくは30分以下、より好ましくは20分以下である。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、とくに限定されないが、たとえば亜リン酸基導入繊維の絶乾質量に対して好ましくは100質量%以上、より好ましくは1000質量%以上であり、そして、好ましくは100000質量%以下、より好ましくは10000質量%以下である。
【0054】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、亜リン酸基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、亜リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行った亜リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0055】
アルカリ処理においては、亜リン酸基導入繊維を分散させた分散液にアルカリ溶液を徐々に添加し、系内のpHを好ましくは10以上、より好ましくは11以上、さらに好ましくは12以上、そして、好ましくは14以下、より好ましくは13.5以下、さらに好ましくは13以下となるように、アルカリ溶液を添加することが好ましい。
アルカリ溶液の添加量を上記の範囲とすることにより、より解繊処理を容易に行うことができ、繊維幅の小さな微細繊維状セルロースを容易に得ることができる。
【0056】
(酸処理工程)
微細繊維状セルロースを製造する場合、亜リン酸基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。たとえば、亜リン酸基導入工程、酸処理、アルカリ処理および解繊処理をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、とくに限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、とくに限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、とくに限定されないが、たとえば好ましくは0以上、より好ましくは1以上であり、そして、好ましくは4以下、より好ましくは3以下である。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることがとくに好ましい。
【0057】
酸処理における酸溶液の温度は、とくに限定されないが、たとえば好ましくは5℃以上、より好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、とくに限定されないが、たとえば好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上であり、そして、好ましくは120分以下、より好ましくは60分以下である。酸処理における酸溶液の使用量は、とくに限定されないが、たとえば繊維原料の絶乾質量100質量部に対して100質量部以上、より好ましくは1000質量部以上であり、そして、好ましくは100000質量部以下、より好ましくは10000質量部以下である。
【0058】
(解繊処理)
亜リン酸基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。
解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、とくに限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0059】
解繊処理工程においては、たとえば亜リン酸基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、とくに限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0060】
解繊処理時の繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、亜リン酸基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、たとえば水素結合性のある尿素などの亜リン酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0061】
<酵素に由来するタンパク質>
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物は、酵素に由来するタンパク質を含有する。本発明の微細繊維状セルロース含有組成物が、酵素に由来するタンパク質を含有するメカニズムは、微細繊維状セルロース分散液を、酵素処理した後に、後述する塩素を含むオキソ酸またはその塩で処理することにより、酵素が変性して失活したため、酵素に由来するタンパク質となったものである。すなわち、「酵素に由来するタンパク質」とは、酵素が、少なくとも塩素を含むオキソ酸またはその塩によって変性して失活し、酵素活性を失ったタンパク質である。
【0062】
〔酵素〕
本発明において使用する酵素としてはとくに限定されないが、セルロースを低分子量化して、分散液を低粘度化する観点から、セルロース分解酵素、すなわち、セルラーゼであることが好ましい。
セルラーゼは、セルロースのβ1→4グルコシド結合を加水分解し、主にセロビオースを生成する酵素である。セルラーゼには、セルロース鎖をランダムに分解するエンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.4)と、セルロースの還元末端から分解し、セルビオースを生成するセロビオヒドロラーゼ(エキソグルカナーゼともいう。EC 3.2.1.91)が存在する。
これらの中でも、本発明に使用される酵素は、少なくともエンドグルカナーゼを含むことが好ましく、エンドグルカナーゼとセロビオヒドラーゼとの両方を含んでいてもよいが、エンドグルカナーゼのみであることがより好ましい。
【0063】
酵素(好ましくはセルラーゼ、より好ましくはエンドグルカナーゼ)の添加量は、微細繊維状セルロースを低分子量化する観点か、微細繊維状セルロース1mgに対して、好ましくは0.0001U以上、より好ましくは0.0005U以上、さらに好ましくは0.001U以上であり、そして、経済性および過度な低分子量化を抑制する観点から、好ましくは1.0U以下、より好ましくは0.1U以下、さらに好ましくは0.01U以下である。
なお、Uは、酵素の国際単位であり、1分間に1μmolの基質を生成物に転換する酵素活性の量で定義される。
【0064】
<塩素を含むオキソ酸またはその塩>
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物は、塩素を含むオキソ酸またはその塩を含有する。
塩素を含むオキソ酸としては、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸が挙げられ、入手容易性および安定性等の観点から、次亜塩素酸が好ましい。
また、塩素を含むオキソ酸の塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸の塩;亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸銅、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸の塩;塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム、塩素酸亜鉛、塩素酸銀等の塩素酸塩;過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カルシウム、亜塩素酸銀、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸塩が挙げられる。
これらの中でも、塩素を含むオキソ酸またはその塩として、塩素を含むオキソ酸の塩を含有することが好ましく、次亜塩素酸の塩を含有することがより好ましく、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、および次亜塩素酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含有することがさらに好ましく、次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸カリウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含有することがとくに好ましく、次亜塩素酸ナトリウムを含有することが最も好ましい。
【0065】
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物において、微細繊維状セルロース100質量部に対する塩素を含むオキソ酸またはその塩の含有量は、酵素を失活させ、また、十分な粘度低減効果を得る観点から、好ましくは0.0001質量部以上、より好ましくは0.0003質量部以上、さらに好ましくは0.001質量部以上、よりさらに好ましくは0.01質量部以上、よりさらに好ましくは0.1質量部以上であり、そして、微細繊維状セルロースの黄変を抑制する観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、よりさらに好ましくは1質量部以下である。
なお、セルロース原料の酸化処理において、酸化剤として塩素を含むオキソ酸またはその塩を使用し、その後、洗浄工程を行った後に、解繊処理を行う場合のように、洗浄工程を経た場合には、塩素を含むオキソ酸またはその塩の含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.0001質量部未満となる。
【0066】
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物において、酵素に由来するタンパク質100質量部に対する塩素を含むオキソ酸またはその塩の含有量は、酵素を失活させる観点から、好ましくは10質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは1000質量部以上であり、そして、適度な低分子量化とする観点から、好ましくは1000000質量部以下、より好ましくは100000質量部以下、さらに好ましくは10000質量部以下である。
【0067】
<微細繊維状セルロース含有組成物>
本発明において、微細繊維状セルロース含有組成物は、微細繊維状セルロース、酵素に由来するタンパク質、および塩素を含むオキソ酸またはその塩を含有し、さらに、前記以外の、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、たとえば水溶性高分子、および界面活性剤を挙げることができる。
水溶性高分子としては、たとえばカルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル/アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、およびポリアクリルアミドなどに例示される合成水溶性高分子;キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、およびペクチンなどに例示される増粘多糖類;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、およびヒロドキシエチルセルロースなどに例示されるセルロース誘導体;カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、およびアミロースなどに例示されるデンプン類;グリセリン、ジグリセリン、およびポリグリセリンなどに例示されるグリセリン類;ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。
微細繊維状セルロース含有組成物中における水溶性高分子の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。一方で、微細繊維状セルロース含有組成物中における水溶性高分子の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース100質量部に対して、500質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることがさらに好ましい。水溶性高分子の含有量を上述の範囲とすることにより、微細繊維状セルロースが有する特性と、水溶性高分子の有する特性の双方を発現させることができる。
【0068】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤を使用することができる。ノニオン系界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、プルロニック、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアシルエステル、アルキルポリグリコシド、脂肪酸メチルグリコシドエステル、アルキルメチルグルカミド、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、たとえば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ラウリル酸ナトリウム、トデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンジアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、たとえば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、アルキルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルピリジニウム硫酸塩、ステアラミドメチルピリジニウム塩、アルキルキノリニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、脂肪酸ポリエチレンポリアミド、アシルアミノエチルピリジニウム塩、アシルコラミノホルミルメチルピリジニウム塩などの第4級アンモニウム塩、ステアロオキシメチルピリジニウム塩、脂肪酸トリエタノールアミン、脂肪酸トリエタノールアミンギ酸塩、トリオキシエチレン脂肪酸トリエタノールアミン、セチルオキシメチルピリジニウム塩、p−イソオクチルフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩などのエステル結合アミンやエーテル結合第4級アンモニウム塩、アルキルイミダゾリン、1−ヒドロキシエチル−2−アルキルイミダゾリン、1−アセチルアミノエチル−2−アルキルイミダゾリン、2−アルキル−4−メチル−4−ヒドロキシメチルオキサゾリンなどの複素還アミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、N−アルキルプロピレンジアミン、N−アルキルポリエチレンポリアミン、N−アルキルポリエチレンポリアミンジメチル硫酸塩、アルキルビグアニド、長鎖アミンオキシドなどのアミン誘導体等が挙げられる。両性界面活性剤としては、たとえば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、コカミドプロピルベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、ココアンホ酢酸ナトリウム等が挙げられる。
微細繊維状セルロース含有組成物中における界面活性剤の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。一方で、微細繊維状セルロース含有組成物中における界面活性剤の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量を上述の範囲とすることにより、微細繊維状セルロースが有する特性と、界面活性剤の有する特性の双方を発現させることができる。
微細繊維状セルロース含有組成物は、微細繊維状セルロース、水溶性高分子、および界面活性剤の他、たとえば有機イオン、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、分散剤、および架橋剤から選択される1種または2種以上を含んでもよい。
【0069】
微細繊維状セルロース含有組成物は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、たとえば水および有機溶媒のうちの一方または双方を含むことができる。有機溶媒としては、アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭化水素類、ハロゲン類、非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。炭化水素類としては、たとえばn−ヘキサン、トルエン、キシレン等が挙げられる。ハロゲン類としては、塩化メチレン、トリクロロエチレン、クロロホルム等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0070】
微細繊維状セルロース含有組成物を微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.2質量%に調整したスラリーの、JIS K 7136:2000に準拠し、光路長1cmのガラスセルを用いて23℃において測定したヘーズは、好ましくは2.0%以下である。また、上記ヘーズは、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。一方で、上記ヘーズの下限値は、とくに限定されず、たとえば0%であってもよい。微細繊維状セルロース含有組成物のスラリーのヘーズをこのような範囲とすることにより、より透明性の高いシート等を形成することが可能となる。
本実施形態において、上記ヘーズは、たとえばヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM−150)を用いて測定を行うことができる。また、光路長1cmのガラスセルとしては、たとえば光路長1cmの液体用ガラスセル(株式会社藤原製作所製、MG−40、逆光路)を用いることができる。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
なお、上記のヘーズ測定時の溶媒は、少なくとも水を含有することが好ましく、溶媒全体に占める水の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、とくに好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
なお、微細繊維状セルロース含有組成物を、透明性が必要とされない用途に使用する場合には、ヘーズは、たとえば30%以上であってもよく、60%以上であってもよく、90%以上であってもよい。
【0071】
本発明において、微細繊維状セルロース含有組成物を微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.2質量%に調整したスラリーの、JIS K 7361−1:1997に準拠し、光路長1cmのガラスセルを用いて測定した全光線透過率は、好ましくは90%以上である。また、上記全光線透過率は、93%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。一方で、上記全光線透過率の上限値は、とくに限定されず、たとえば100%であってもよい。微細繊維状セルロース含有組成物のスラリーの全光線透過率をこのような範囲とすることにより、より透明性の高いシート等を形成することが可能となる。
本実施形態においては、前記全光線透過率は、たとえばヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM−150)を用いて測定を行うことができる。また、光路長1cmのガラスセルとしては、たとえば光路長1cmの液体用ガラスセル(株式会社藤原製作所製、MG−40、逆光路)を用いることができる。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
なお、上記の全光線透過率測定時の溶媒は、少なくとも水を含有することが好ましく、溶媒全体に占める水の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、とくに好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
なお、微細繊維状セルロース含有組成物を、透明性が必要とされない用途に使用する場合には、透過率は、たとえば60%以下であってもよく、30%以下であってもよく、10%以下であってもよい。
【0072】
微細繊維状セルロース含有組成物を微細繊維状セルロースの固形分濃度0.4質量%に調整したスラリーの、B型粘度計を用いて23℃、回転数3rpmの条件で測定した粘度は、好ましくは1.0×10mPa・s以下、より好ましくは5.0×10mPa・s以下、さらに好ましくは3.0×10mPa・s以下である。また、上記粘度の下限はとくに限定されないが、好ましくは1.0×10mPa・s以上であり、より好ましくは3.0×10mPa・s以上、さらに好ましくは5.0×10mPa・s以上である。
ここで、上記粘度の測定には、たとえばB型粘度計であるBLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVTを用いることができる。測定条件は、微細繊維状セルロース含有組成物を、微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.4質量%になるように希釈し、ディスパーサーにて、たとえば1500rpmで5分間撹拌後、23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置する。その後、たとえば液温23℃にて、粘度計の回転数は3rpmにて測定を行い、測定開始から3分後の粘度値を当該分散液の粘度とする。
なお、上記の粘度測定時の溶媒は、少なくとも水を含有することが好ましく、溶媒全体に占める水の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、とくに好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0073】
微細繊維状セルロース含有組成物の形態は、とくに限定されないが、たとえばスラリー等の液状物、粉粒物等の固形状物、またはゲル状物などが挙げられる。
(スラリー状)
微細繊維状セルロース含有組成物がスラリーである場合、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、微細繊維状セルロースが有する特性が発揮されやすくなる。
微細繊維状セルロース含有組成物がスラリーであり、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる溶媒が水である場合、該溶媒の含有量は、微細繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して好ましくは60質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上であり、そして好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.7質量%以下、さらに好ましくは99.5質量%以下である。溶媒の含有量を上記範囲とすることにより、好適な粘度とすることができる。
【0074】
(固形状物またはゲル状物)
微細繊維状セルロース含有組成物が固形状物またはゲル状物である場合、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、たとえば微細繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることがとくに好ましい。また、微細繊維状セルロース含有組成物が固形状物またはゲル状物である場合、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる微細繊維状セルロースの含有量の上限値は、とくに限定されないが、たとえば99.5質量%とすることができる。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、よりハンドリング性に優れた微細繊維状セルロース含有組成物を得ることができる。
【0075】
微細繊維状セルロース含有組成物が固形状物またはゲル状物である場合、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる溶媒の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましく、70質量%以下であることがとくに好ましい。微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる溶媒の含有量の上限値を上記範囲とすることにより、ハンドリング性に優れた微細繊維状セルロース含有組成物を得ることができる。一方で、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる溶媒の含有量の下限値は、とくに限定されず、たとえば0質量%であってもよい。本実施形態においては、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる溶媒の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して0.5質量%以上とすることができる。
また、微細繊維状セルロース含有組成物が固形状物またはゲル状物である場合、微細繊維状セルロース含有組成物は、たとえば後述する濃縮工程において用いられる濃縮剤を含んでいてもよい。たとえば濃縮剤が金属成分である場合、微細繊維状セルロース含有組成物中における金属成分の含有量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることがとくに好ましい。また、濃縮剤が金属成分である場合、微細繊維状セルロース含有組成物中における金属成分の含有量の下限値は、とくに限定されないが、たとえば0.0001質量%とすることができる。金属成分の含有量を上記範囲とすることにより、水など所定の分散媒への再分散性に優れた微細繊維状セルロース含有組成物を得ることができる。
【0076】
微細繊維状セルロース含有組成物がパウダー状(粉粒物)である場合、微細繊維状セルロース含有組成物は、粉状物および粒状物のうちの一方または双方を含む。ここで、粉状物は、粒状物よりも小さいものをいう。一般的には、粉状物は粒子径が1nm以上0.1mm未満の微粒子をいう。また、粒状物は、粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒子をいう。粉粒物の粒子径は、たとえばレーザー回折法を用いて測定および算出することができる。レーザー回折法による測定は、たとえばレーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(Microtrac3300EXII、日機装株式会社)を用いて行うことができる。
【0077】
固形状物またはゲル状物である微細繊維状セルロース含有組成物は、たとえば水等の溶媒に再分散させた再分散スラリーとして用いることができる。このような再分散スラリーを得るために使用する溶媒の種類は、とくに限定されないが、たとえば水、有機溶媒、および水と有機溶媒との混合物を挙げることができる。有機溶媒としては、アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭化水素類、ハロゲン類、非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。炭化水素類としては、たとえばn−ヘキサン、トルエン、キシレン等が挙げられる。ハロゲン類としては、塩化メチレン、トリクロロエチレン、クロロホルム等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0078】
(シート状)
本発明において、微細繊維状セルロース含有組成物は、シート状であってもよい。
本実施形態においては、たとえば上述した液状物である微細繊維状セルロース含有組成物を用いて、後述のシート化工程を実施することにより、シートを得ることができる。
シート中における微細繊維状セルロースの含有量は、たとえばシートの全質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることがとくに好ましい。一方で、シート中における微細繊維状セルロースの含有量の上限値は、とくに限定されず、シートの全質量に対して100質量%であってもよく、95質量%であってもよい。
とくに機械的強度に優れたシートを得る観点からは、シート中における微細繊維状セルロースの含有量は、たとえば60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがとくに好ましい。
また、水溶性高分子などの他の材料をシート中に多く含ませる観点からは、シート中における微細繊維状セルロースの含有量は、たとえば50質量%以下であることが好ましい。
【0079】
シートは、たとえば水溶性高分子を含んでいてもよい。これにより、シートの透明性や機械的強度をより向上させることができる。水溶性高分子としては、たとえば上述したものを用いることができる。
シート中における水溶性高分子の含有量は、たとえばシートの全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、透明性や機械的特性に優れたシートを得ることができる。一方で、シート中における水溶性高分子の含有量は、たとえばシートの全質量に対して99.5質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0080】
シートは、微細繊維状セルロース、酵素に由来するタンパク質、塩素を含むオキソ酸またはその塩、および水溶性高分子の他に、たとえば界面活性剤、有機イオン、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、分散剤、および架橋剤から選択される1種または2種以上を含んでもよい。
シートは、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、たとえば上述したものを用いることができる。
シート中における溶媒の含有量は、たとえばシートの全質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、シートに柔軟性を付与することができる。一方で、シート中における溶媒の含有量は、たとえばシートの全質量に対して25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。これにより、可とう性の良好なシートを得ることができる。
シート中における溶媒の含有量は、たとえば以下の手順で算出することができる。まず、100mm角のシートを温度23℃、相対湿度50%の条件下で24時間調湿した後、シートの質量Wを測定する。次いで、このシートを105℃の恒温乾燥機にて16時間乾燥させた後、シートの質量Wを測定する。測定した質量から、下記式(4)にしたがってシート中における溶媒の含有量を算出する。
シート中における溶媒の含有量=100×(1−W/W) 式(4)
【0081】
シートの引張弾性率は、たとえば2.5GPa以上であることが好ましく、3.0GPa以上であることがより好ましく、3.5GPa以上であることがさらに好ましい。また、シートの引張弾性率の上限値は、とくに限定されないが、たとえば50GPa以下とすることができる。
ここで、シートの引張弾性率は、たとえばJIS P 8113:2006に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した値である。引張弾性率を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを測定用の試験片とし、23℃、相対湿度50%の条件下で測定を行う。
シートのヘーズは、たとえば2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。一方で、シートのヘーズの下限値は、とくに限定されず、たとえば0%であってもよい。ここで、シートのヘーズは、たとえばJIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM−150)を用いて測定される値である。
シートの全光線透過率は、たとえば85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、91%以上であることがさらに好ましい。一方で、シートの全光線透過率の上限値は、とくに限定されず、たとえば100%であってもよい。ここで、シートの全光線透過率は、たとえばJIS K 7361−1:1997に準拠し、ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM−150)を用いて測定される値である。
【0082】
シートの厚みは、とくに限定されないが、たとえば5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。またシートの厚みの上限値は、とくに限定されないが、たとえば1000μmとすることができる。シートの厚みは、たとえば触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定することができる。
シートの坪量は、とくに限定されないが、たとえば10g/m以上であることが好ましく、20g/m以上であることがより好ましく、30g/m以上であることがさらに好ましい。また、シートの坪量は、とくに限定されないが、たとえば100g/m以下であることが好ましく、80g/m以下であることがより好ましい。ここで、シートの坪量は、たとえばJIS P 8124:2011に準拠し、算出することができる。
シートの密度は、とくに限定されないが、たとえば0.1g/cm以上であることが好ましく、0.5g/cm以上であることがより好ましく、1.0g/cm以上であることがさらに好ましい。また、シートの密度は、とくに限定されないが、たとえば5.0g/cm以下であることが好ましく、3.0g/cm以下であることがより好ましい。ここで、シートの密度は、50mm角のシートを23℃、50%RH条件下で24時間調湿した後、シートの厚みおよび質量を測定することにより算出することができる。
【0083】
[微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法]
本発明において、上述した亜リン酸基を有する微細繊維状セルロース含有組成物は、以下の工程1〜工程3をこの順で有する方法により製造することが好ましい。
工程1:溶媒中の繊維状セルロースを解繊して、微細繊維状セルロースを含有する分散液を得る工程、
工程2:前記微細繊維状セルロースを含有する分散液に酵素を添加する工程、
工程3:酵素処理した前記微細繊維状セルロースを含有する分散液に塩素を含むオキソ酸またはその塩を添加する工程
なお、本発明において、工程2で添加する酵素は、上述したようにセルラーゼであることが好ましく、エンドグルカナーゼであることがより好ましい。また、酵素がセルラーゼである場合、添加する酵素の量は、微細繊維状セルロース含有組成物を低粘度化する観点から、微細繊維状セルロース1mgに対して、好ましくは0.0001U以上、より好ましくは0.0005U以上、さらに好ましくは0.001U以上であり、そして、過度な低粘度化を抑制する観点、および経済性の観点から、好ましくは1.0U以下、より好ましくは0.1U以下、さらに好ましくは0.01U以下である。
【0084】
工程3で添加する塩素を含むオキソ酸またはその塩の添加量は、適度な低粘度化を進めるとともに、酵素を失活させ、また、十分な粘度低減効果を得る観点から、微細繊維状セルロース100質量部に対して、好ましくは0.0001質量部以上、より好ましくは0.0003質量部以上、さらに好ましくは0.001質量部以上、よりさらに好ましくは0.01質量部以上、よりさらに好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、よりさらに好ましくは1質量部以下である。
【0085】
ここで、工程1における微細繊維状セルロースを含有する分散液を得る工程は、微細繊維状セルロースの製造方法において記載したように、セルロースを含む繊維原料に亜リン酸基を導入する亜リン酸基導入工程、洗浄工程、アルカリ処理工程(中和工程)、解繊処理工程をこの順で有することが好ましく、洗浄工程の代わりに、または洗浄工程に加えて、酸処理工程を有していてもよい。また、亜リン酸基導入工程の前に前処理工程を有していてもよい。したがって、本発明において、工程1において得られた微細繊維状セルロースを含有する分散液中の微細繊維状セルロースは、亜リン酸基を有する。
【0086】
工程2において、微細繊維状セルロースを含有する分散液に、酵素を添加する。添加の方法はとくに限定されないが、高い酵素活性を得る観点から、好ましくは酵素の至適pH±3、より好ましくは酵素の至適pH±2、さらに好ましくは酵素の至適pH±1である。
酵素がセルラーゼである場合には、酵素を添加する分散液のpHは、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上であり、そして、好ましくは12以下、より好ましくは11以下、さらに好ましくは10以下である。
また、工程2において酵素での処理時の分散液の温度は、酵素の至適温度にも依存するが、たとえば、高い酵素活性を得る観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
工程2における酵素での処理時間は、温度および酵素の添加量等により適宜選択すればよいが、好ましくは3分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは15分以上であり、そして、生産性等の観点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、さらに好ましくは8時間以下である。
【0087】
工程3において、酵素処理した微細繊維状セルロースを含有する分散液に、塩素を含むオキソ酸またはその塩を添加する。添加の方法はとくに限定されないが、塩素を含むオキソ酸またはその塩の添加量が、微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.0001質量部以上10質量部以下となるように添加を行なうことが好ましい。
分散液中に高濃度で塩素を含むオキソ酸またはその塩が存在することがないように、塩素を含むオキソ酸またはその塩の添加は、撹拌しながら行うことが好ましい。
【0088】
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物は、たとえば増粘剤として各種用途に使用することができる。また、樹脂やエマルジョンと混合し補強材として用いることもできるし、微細繊維状セルロース含有組成物のスラリーを用いて製膜し、各種シートを作製してもよい。シートは、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。さらに、糸、フィルタ、織物、緩衝材、スポンジ、研磨材などの他、シートそのものを補強材として使う用途にも適している。
【実施例】
【0089】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0090】
<製造例1>
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245/mシート状、離解してJIS P 8121−2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。この原料パルプに対して亜リン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、亜リン酸(ホスホン酸)と尿素の混合水溶液を添加して、亜リン酸(ホスホン酸)33質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調製し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で250秒加熱し、パルプ中のセルロースに亜リン酸基を導入し、亜リン酸化パルプを得た。
【0091】
次いで、得られた亜リン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、亜リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0092】
次いで、洗浄後の亜リン酸化パルプに対してアルカリ処理(中和処理)を次のようにして行った。まず、洗浄後の亜リン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下の亜リン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該亜リン酸化パルプスラリーを脱水して、アルカリ処理(中和処理)が施された亜リン酸化パルプを得た。
【0093】
次いで、中和処理後の亜リン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。これにより得られた亜リン酸化パルプに対しFT−IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm−1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基が付加されていることが確認された。また、得られた亜リン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置にセルロースI型結晶に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0094】
(解繊処理)
上記アルカリ処理工程を経て得られた亜リン酸化パルプにイオン交換水を添加して撹拌し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて4回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(A)を得た。
【0095】
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmであった。さらに、後述する測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は、1.51mmol/gだった。なお、総解離酸量は、1.54mmol/gであった。
【0096】
(リンオキソ酸基量の測定)
微細繊維状セルロースの亜リン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した微細繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社製、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行い、リンオキソ酸基を酸型に変換した。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。
この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点を二つ与えた。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値の第1解離酸量(mmol/g)を亜リン酸基量(mmol/g)とした。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を総解離酸量(mmol/g)とした。
【0097】
<実施例1>
微細繊維状セルロース分散液(A)を濃度2質量%に調整し、イオン交換水で1000倍に希釈したセルラーゼ(ECOPULP、AB Enzyme社製)を微細繊維状セルロース100質量部あたり5.0質量部(微細繊維状セルロース1mgに対して、0.0042U)添加し、温度50℃で、30分間、撹拌した。酵素添加時の微細繊維状セルロースを含有する分散液のpHは、8.8であった。その後、有効塩素濃度12%(次亜塩素酸ナトリウム濃度12質量%)の次亜塩素酸ナトリウム溶液を、酵素添加前の微細繊維状セルロース100質量部に対し、0.15質量部となるように添加し、40℃で15分撹拌した。このようにして、微細繊維状セルロースと酵素に由来するタンパク質と次亜塩素酸ナトリウムとを含む組成物を得た。
【0098】
<実施例2>
有効塩素濃度12%の次亜塩素酸ナトリウム溶液の添加量を酵素添加前の微細繊維状セルロース100質量部に対し、10質量部となるように添加した以外は全て実施例1と同様の方法で調製し、微細繊維状セルロースと酵素に由来するタンパク質と次亜塩素酸ナトリウムとを含む組成物を得た。
【0099】
<実施例3>
イオン交換水で1000倍に希釈したセルラーゼ(セルラーゼの商品名:ECOPULP、AB Enzyme社製)を微細繊維状セルロース100質量部あたり0.5質量部(微細繊維状セルロース1mgに対して、0.00042U)添加した以外は、全て実施例1と同様の方法で調製し、微細繊維状セルロースと酵素に由来するタンパク質と次亜塩素酸ナトリウムとを含む組成物を得た。
【0100】
<比較例1>
実施例1において、セルラーゼ(セルラーゼの商品名ECOPULP、AB Enzyme社製)と次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加しなかった以外は全て実施例1と同様の方法で調製し、微細繊維状セルロースを含む組成物を得た。
【0101】
<比較例2>
実施例1において、次亜塩素酸ナトリウム溶液を加えなかった以外は全て実施例1と同様の方法で試験した。
【0102】
(微細繊維状セルロースの繊維幅の測定)
微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。
湿式微粒化装置にて処理をして得られた上記微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEOL−2000EX)により観察した。
【0103】
(微細繊維状セルロース含有組成物の粘度の測定)
微細繊維状セルロース含有組成物の粘度は、次のように測定した。まず、微細繊維状セルロース含有組成物を固形分濃度が0.4質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌し、測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。次いで、これにより得られた微細繊維状セルロース含有組成物の粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値を当該組成物の粘度とした。また、測定時の組成物の液温は23℃であった。
上記の粘度計での測定限界は、100mPa・sである。なお、測定限界以下の粘度であっても、測定自体は可能であるが、定量性が失われる傾向にある。
微細繊維状セルロース含有組成物を調製から72時間後の粘度、および168時間後の粘度を測定した。
【0104】
(微細繊維状セルロース含有組成物の比粘度の測定)
微細繊維状セルロース含有組成物の比粘度は、Tappi T230に従い測定した。すなわち、測定対象の微細繊維状セルロース含有組成物の粘度(η1(単位;cP)とする)、および微細繊維状セルロースを除く媒体のみで測定したブランク粘度(η0(単位;cP)とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η](単位;mL/g))を下記式にしたがって測定した。
ηsp=(η1/η0)−1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時の微細繊維状セルロースの濃度(g/mL)を示す。
【0105】
(微細繊維状セルロースの重合度の測定)
微細繊維状セルロースの重合度は、Tappi T230に従い測定した。
下記式から微細繊維状セルロースの重合度(DP)を算出した。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
【0106】
(微細繊維状セルロース含有組成物の変色の有無の確認)
前記0.4質量%の微細繊維状セルロース含有組成物を調製から72時間後に目視で観察し、変色の有無を確認した。
【0107】
【表1】
【0108】
表中の実施例に示したとおり、酵素に由来するたんぱく質および塩素を含むオキソ酸またはその塩を含まない比較例1では、微細繊維状セルロースを含有する分散液の72時間後の粘度が20200mPaであったのに対し、実施例1〜3の微細繊維状セルロース分散液は、その10%以下であった。今回の出願の趣旨は、微細繊維状セルロース含有組成物の粘度を簡易な工程で精密に操作することであるため、実施例1〜3は目的を達成したと考えられる。
また、実施例1〜3では組成物の変色が確認されず、微細繊維状セルロースの特徴の一つである高透明性、無色であるという性状を損なわなかった。
一方、比較例2は、調製後72時間経過時点と168時間経過時点とで粘度が大幅に低下した。これは、酵素の変性処理を行わなかったため、組成物の静置中にも酵素が機能し続け、セルロースの分解が過度に進行したためと考えられる。想定していた粘度を一定時間保てなかったため、比較例2は今回の発明の趣旨には適わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明により、任意の粘度へ簡便かつ精密に調整した微細繊維状セルロース含有組成物を提供できる。微細繊維状セルロースの粘度を調整するには、従来の方法では解繊機によるさらなる解繊処理が必要であり、この方法では厳密な粘度調整が困難かつ、手順も煩雑であり、長時間を必要とした。
本発明はこうした問題を解決するものであり、微細繊維状セルロース含有組成物の、塗料、化粧品や食品等の増粘剤や、樹脂とのコンポジットといった、さまざまな用途への利用が期待できる。
図1