特許第6780757号(P6780757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6780757
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20201026BHJP
   B29C 55/14 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   C08J5/18CFD
   B29C55/14
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-185816(P2019-185816)
(22)【出願日】2019年10月9日
(62)【分割の表示】特願2015-162956(P2015-162956)の分割
【原出願日】2015年8月20日
(65)【公開番号】特開2020-2381(P2020-2381A)
(43)【公開日】2020年1月9日
【審査請求日】2019年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-168662(P2014-168662)
(32)【優先日】2014年8月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角野 弘
(72)【発明者】
【氏名】荻野 倫明
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−015936(JP,A)
【文献】 特開2010−006934(JP,A)
【文献】 特開平09−295345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 55/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルをシート状に溶融押出しする工程、
得られた溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る工程、
得られた未延伸シートをテンター方式の延伸機により、80℃以上120℃以下の延伸温度、且つ、2.5倍以上4.5倍以下の延伸倍率で幅方向に延伸した後、70℃以上180℃以下の延伸温度、且つ、3.4倍以上4.8倍以下の延伸倍率で長手方向に延伸する工程、
得られた延伸シートを215℃以上240℃以下の温度で熱固定処理する工程、
熱固定の後、150℃以上240℃以下の温度で、且つ、0.0%以上3.0%以下で熱緩和処理する工程を含むことを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法であって、
前記ポリエステルフィルムの長手方向に対する分子鎖主軸の配向角が20°以下であるポリエステルフィルムの製造方法
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムの厚さが7μm以上、25μm以下であり、かつ
以下の(1)〜(3)の条件を同時に満足する請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
(1)1.666≦Nx≦1.690
(2)1.630≦Ny≦1.663
[(1)及び(2)において、Nxは長手方向の屈折率であり、Nyは幅方向の屈折率である。]
(3)長手方向および幅方向の150℃における熱収縮率がともに3.5%以下
【請求項3】
前記長手方向に延伸する工程における前記延伸温度が100℃以上、前記延伸倍率が3.8倍以上である請求項1又は2に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱緩和処理は2段階以上で行われ、1段階目の熱緩和温度は220℃以上であり、2段階目以降の熱緩和温度は前記1段階目の熱緩和温度よりも低くその差が50℃以上である請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装用ポリエステルフィルムに関する。更に詳しくは、詰め替え用袋、スタンディングパウチ、液体用小袋などの用途に最適な包装用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルフィルムにおいて、一方向の配向を強くすることにより直線引裂き性を良好にするという技術が知られていた(例えば、特許文献1)。しかし、かかる従来技術は、一方向のみに直線引裂き性が良好であるという問題点があった。
また、ポリエステルフィルム中でポリマーブレンドにより異方性の高い相分離構造を誘起し、その異方性を利用して直線引裂き性を発現するという技術が知られていた(特許文献2)。しかし、かかる従来技術は複数のポリマーを混合するポリマーブレンドを利用するためコスト高になるという問題点があり、また、コストを低くするために回収原料を使用しようとすると、相分離構造を安定的に制御できず、良好な直線引裂き性が発現しないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭55−8551号公報
【特許文献2】特許第3110712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、長手方向および幅方向の両方向、あるいは斜め方向で直線引裂き性に優れた包装用ポリエステルフィルムを提供することにある。更に、ポリマーブレンドのようなコストが高くなる技術に頼ることなく、高い生産性を維持して低コストで直線引裂き性に優れた包装用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明に係る包装用ポリエステルフィルムは、包装用のポリエステルフィルムであって、ポリエステルフィルムの主配向方向に対する分子鎖主軸の配向角が20°以下であり、厚さが7μm以上、25μm以下であり、かつ、以下の(1)〜(3)の条件を同時に満足することを特徴とする。
(1) 1.666≦Nx≦1.690
(2) 1.630≦Ny≦1.663
[(1)〜(2)において、Nxは主配向方向の屈折率であり、Nyは主配向方向と90°方向の屈折率である。]
(3) 長手方向および幅方向の150℃における熱収縮率がともに3.5%以下
なお、ここでいう主配向方向とはフィルムの長手方向あるいは幅方向であって、分子鎖主軸とのなす角度が45°以下となる方向を意味する。(分子鎖主軸とのなす角度が45°の場合は長手方向とする。)
【0006】
また、前記包装用ポリエステルフィルムを用いて製造される包装袋であり、少なくとも3方がヒートシールされることにより形成されたものであることを特徴とする包装袋も本発明の技術的範囲に含まれる。前記包装袋は、ヒートシールにより注ぎ口が形成され、手で引裂くことにより注ぎ口が開封される液体用包装袋であることが好ましい。また前記包装袋は、1辺に開封加工が施され、その対辺もヒートシール部であることが好ましい。さらに、前記包装袋は、内容量が0.2〜100mlの液体用包装袋であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の包装用ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの主配向方向に対する分子鎖主軸の配向角が20°以下であり、厚さが7μm以上、25μm以下であり、かつ、主配向方向の屈折率Nxと、主配向方向と90°方向の屈折率Nyとが、(1)1.666≦Nx≦1.690、(2)1.630≦Ny≦1.663、(3)長手方向および幅方向の150℃における熱収縮率がともに3.5%以下 の関係を充足するため、長手方向および幅方向、あるいは斜め方向で直線引裂き性に優れる。ここでいう主配向方向とは、フィルムの長手方向あるいは幅方向であって、分子鎖主軸とのなす角度が45°以下となる方向を意味する。但し、分子鎖主軸とのなす角度が45°の場合は長手方向とする。
また、包装袋にして開封口を引裂く際に方向を変えたい場合でも意図する方向に容易に綺麗に引裂くことができる。このため、本発明の包装用ポリエステルフィルムは、詰め替え用袋、スタンディングパウチ、液体用小袋などの包装袋用途に最適である。また、本発明の包装用ポリエステルフィルムは、低コストの製造方法を利用するものであるため、高い生産性を維持しつつ、効率的かつ安価に提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】直線引裂き性の指標である泣き別れ距離の測定に供するサンプルの調製方法を説明するための概略図である。
図2】直線引裂き性の指標である泣き別れ距離の測定方法を説明するための概略図である。
図3】ヒートシールにより注ぎ口が形成されている袋の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルで構成される。ポリエステルは、耐熱性、機械的強度に優れ、低コストであるため、フィルムに好適に使用される。本発明のフィルムを構成するポリエステルは、分子内にカルボキシ基を2個有するジカルボン酸と、分子内にヒドロキシ基を2個有するグリコールとの重縮合体であることが好ましい。
【0010】
本発明のフィルムを構成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。中でもポリエチレンテレフタレートが好ましい。本発明のフィルムはホモのポリエステルであっても優れた引裂き特性を示すが、若干量共重合されていても良い。
これら共重合成分としてはそれぞれ全ジカルボン酸成分、全グリコール成分を100モル%とした場合、それぞれ5モル%以下が好ましく、さらには4モル%以下が好ましく、特には3モル%以下が好ましい。共重合されるジカルボン酸成分、グリコール成分の合計量では7モル%以下が好ましく、さらには6モル%以下が好ましく、特には5モル%以下が好ましい。
【0011】
本発明のフィルムを構成するポリエステルは、その目的を阻害しない範囲で他の共重合成分を含むことができる。使用できる他の共重合成分のうち、ジカルボン酸成分として、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸,コハク酸,アジピン酸,セバシン酸,デカンジカルボン酸,マレイン酸,フマル酸,ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が使用できる。これらの中でも特に許容されるジカルボン酸成分はイソフタル酸である。
【0012】
また、グリコール成分として、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール;シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール;ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキシド付加物等の芳香族グリコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;等が使用できる。この他、少量のアミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、カーボネート結合等を含有する化合物を含んでいてもよい。これらの中でも特に許容されるグリコール成分はジエチレングリコールである。
【0013】
中でも、本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルとしては、ジカルボン酸として芳香族ジカルボン酸を使用し、グリコールとして脂肪族グリコールを使用したポリエステルであることが好ましく、ジカルボン酸としてテレフタル酸を使用し、グリコールとしてエチレングリコールを使用したポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0014】
本発明のフィルムを構成するポリエステルは、その目的を阻害しない範囲でエラストマー成分を添加することができる。
【0015】
エラストマー成分としては、ポリエステル−ポリエチレンオキシドブロック共重合体、ポリエステル−ポリテトラメチレンオキシドブロック共重合体等のポリエステル系エラストマーなどを挙げることができる。これらのエラストマー成分を添加することにより、引裂き感をより軽くすることができる。ただし、本発明のポリエステルフィルムは、これらエラストマー成分を含有するブレンド系でなくとも、優れた引裂き特性を示すことができる。
【0016】
本発明のフィルムを構成するポリエステルは、その目的を阻害しない範囲で公知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤を含有することができる。また、フィルムに易滑性を付与するために各種の粒子を含有することができ、このような粒子としては、シリカ粒子等の無機粒子、有機粒子等を挙げることができる。前記粒子の粒子径(レーザー回折法により算出された体積基準の平均粒子径)としては、1μm以上、10μm以下であることが好ましく、1μm以上、5μm以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムの主配向方向に対する分子鎖主軸の配向角の上限は、20°である。これにより、直線引裂き性が良好となり、包装袋としたときの開封時の泣き別れを小さくすることができ、意図する方向に引裂くことが容易となる。前記配向角の上限は、好ましくは18°である。また、前記配向角の下限は、0°である。
ポリエステルフィルムの主配向方向に対する分子鎖主軸の配向角が20°以下であれば、長手方向およびその直角方向、あるいは斜め方向の直線引裂き性が優れる理由は定かではないが、包装袋にしたときに包装袋を形成する表裏のポリエステルフィルムの分子鎖主軸の配向方向の差を小さくできるので、泣き別れが小さく直線引裂き性に優れると推定している。
ここでいう、主配向方向とは、フィルムをJIS K 7142−1996 5.1(A法)により、ナトリウムD線を光源としてアッベ屈折計によりフィルム長手方向(MD)の屈折率、フィルム幅方向(TD)の屈折率を測定した場合に、屈折率の大きな方向を意味する。
従来、分子鎖主軸の配向角が20°を超える現象は、特に逐次二軸延伸方式において、長手方向に延伸した後に、テンターを用いて幅方向に延伸して製膜された場合のクリップに把持された幅方向の端部に近い部分からスリット(切断)されたフィルムに見られることがある。
【0018】
また、本発明のポリエステルフィルムは、主配向方向の屈折率をNx、主配向方向と90°方向の屈折率をNyとしたとき、(1)1.666≦Nx≦1.690、(2)1.630≦Ny≦1.663、(3)長手方向および幅方向の150℃における熱収縮率がともに3.5%以下 の条件を同時に満たすものである。これらの(1)〜(3)の条件を同時に満たすことにより、長手方向および幅方向に適度に延伸されて、両方向で直線引裂き性に優れた包装用ポリエステルフィルムを提供することができ、特に、長手方向の直線引裂き性を維持したまま、幅方向の引裂き性を向上することができる。その結果、斜め方向にも優れた直線引裂き性を得ることができる。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムのNxの下限は、1.666であり、好ましくは1.670であり、より好ましくは1.673である。1.666未満であると、特に、製造されたフィルム全幅の両端部分での配向歪み(分子鎖主軸の配向角)が大きくなり、直線引裂き性に優れたフィルム製品として採取できない部分が増えて生産性に劣ることがある。Nxの上限は、1.690であり、好ましくは1.688であり、より好ましくは1.686である。1.690を超えるとポリエステルフィルム製造時に破断しやすくなり生産性に劣ることがある。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムのNyの下限は、1.630であり、好ましくは1.635である。1.630未満であると主配向方向と90°方向の延伸倍率が不足していることを意味し、長手方向あるいは幅方向の直線引裂き性に劣ることがある。また、厚みムラを生じやすくなる。Nyの上限は、1.663であり、好ましくは1.658である。
1.663を超えるとポリエステルフィルム製造時に破断しやすくなり生産性に劣ることがある。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムの長手方向および幅方向の150℃における熱収縮率は、ともに3.5%以下であることが好ましく、より好ましくは3.0%以下である。3.5%を超えると印刷適性が不足することがあったり、ドライラミネート加工での乾燥時や押出ラミネート加工時にシワが発生することがある。なお、150℃における熱収縮率とは、ポリエステルフィルムを150℃の加熱空気中で30分間加熱した前後の、フィルム長手方向およびフィルム幅方向の変化率((加熱前の長さ−加熱後の長さ)/加熱前の長さ)を表す。
本発明のポリエステルフィルムの長手方向および幅方向の150℃における熱収縮率は、0.5%以上であることが好ましく、1.0%以上であることがより好ましい。
【0022】
さらに、本発明のポリエステルフィルムのNx−Nyの下限は、0.020が好適であり、好ましくは0.023であり、より好ましくは0.025である。0.020未満であると製造されたフィルム全幅の両端部分での配向歪みが大きくなり、直線引裂き性に優れたフィルム製品として採取できない部分が増えて生産性に劣ることがある。Nx−Nyの上限は、好ましくは0.060であり、より好ましくは0.057であり、さらに好ましくは0.055である。0.060を超えるとポリエステルフィルム製造時に破断しやすくなり生産性に劣ることがある。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムの厚みの下限は、7μmであり、好ましくは8μmであり、より好ましくは9μmである。7μm未満であるとポリエステルフィルムの腰感が低下し、取り扱い性に劣ることがある。ポリエステルフィルムの厚みの上限は25μmであり、好ましくは22μmであり、より好ましくは20μmである。25μmを超えると引裂き感が重くなり切りにくい、あるいは腰感が硬く包装袋用途として適さないことがある。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムの極限粘度の下限は好ましくは0.50dl/gであり、より好ましくは0.54dl/gである。0.50dl/g未満であると、ポリエステルフィルム製造時に破断が発生しやすく生産性に劣ることがある。極限粘度の上限は好ましくは0.70dl/gであり、より好ましくは0.66dl/gである。0.70dl/gを超えると所定の製品巾へのスリット工程で寸法不良が起こりやすくなり好ましくない。
【0025】
本発明の包装用ポリエステルフィルムは、少なくとも一方の面のラミネート強度が、2.5N/15mm以上であることが好ましく、より好ましくは3.0N/15mm以上である。2.5N/15mm未満であると包装用として不適であり内容物が漏れるおそれがあるだけでなく、包装袋にして開封する時にポリエステルフィルムが剥離し、シーラント層が伸びながら引裂かれる現象が生じて開封性が悪化することがある。ラミネート強度の上限は、特に限定されないが、例えば5N/15mmである。なお、ラミネート強度は、実施例において後述する方法で測定できる。
【0026】
本発明の包装用ポリエステルフィルムは、包装袋に好ましく用いることができる。本発明の包装袋は、少なくとも3方がヒートシールされることにより形成されたものであることが好ましい。ここで、ヒートシールとは、2枚以上の包装用ポリエステルフィルムを加熱し、加圧することによって接着する方法を意味する。前記加熱温度(ヒートシール温度)としては、130℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上である。また、180℃以下であることが好ましく、より好ましくは170℃以下である。また、前記加圧の圧力としては、0.1MPa以上が好ましく、より好ましくは0.15MPaである。また、0.3MPa以下が好ましく、より好ましくは0.25MPa以下である。ヒートシール時間(加熱、加圧する時間)は、0.1秒以上が好ましく、5秒以下が好ましい。
【0027】
ポリエステルフィルムをヒートシールする際には、予め、ポリエステルフィルムをラミネートしていてもよい。2枚以上のポリエステルフィルムの間に、シーラント層を挟持し、この積層体を加熱することによってラミネートできる。必要に応じて、ポリエステルフィルムとシーラント層の間に、接着剤を存在させてもよい。
【0028】
前記シーラント層としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、低密度ポリエチレン、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタアクリル酸共重合体等を挙げることができる。シーラント層の厚みは、好ましくは60μm以下であり、より好ましくは55μm以下であり、特に好ましくは50μm以下である。60μmを超えると直線引裂き性が低下することがある。シーラント層の厚みの下限は、特に限定されないが、例えば30μm以上である。
【0029】
前記接着剤は、有機溶剤と、樹脂とで構成されるものであることが好ましい。前記有機溶剤としては、酢酸エチル等のエステル系溶剤等を用いることができ、前記樹脂としては、ウレタン樹脂、ポリエステル−ウレタン樹脂等を用いることができる。前記接着剤は、必要に応じて、硬化剤を含んでいてもよい。
前記接着剤を使用する場合、接着剤の固形分の付着量は1g/m2以上であることが好ましく、より好ましくは2g/m2以上である。また、接着剤の付着量は、5g/m2以下であることが好ましく、4g/m2以下であることが好ましい。
【0030】
前記加熱温度(ラミネート温度)としては、シーラント層が溶融する温度、或いは接着剤層を設ける場合には、接着剤中の有機溶剤が揮発する温度であれば特に限定されず、例えば25℃以上であることが好ましく、より好ましくは30℃以上であり、さらに好ましくは35℃以上である。ラミネート温度の上限は特に限定されないが、例えば80℃であることが好ましい。
【0031】
また、本発明の包装袋は、ヒートシールにより注ぎ口が形成され、手で引裂くことにより注ぎ口が開封されるものであることがより好ましい。ここで、ヒートシールにより注ぎ口が形成されているとは、例えば図3のように開封場所の角の手前までは直線形状になって伸びてきている2辺のヒートシール部が開封場所で変形して注ぎ口形状になっているものをいう。前記注ぎ口形状は、少なくとも、平行な2辺を有することが好ましく、例えば、平行な2辺とそれに直交する1辺とで構成されるものであることが好ましい。ここで、前記辺とは、ヒートシール部と包装袋の内部との境界線を意味する。また、手で引裂くことにより注ぎ口が開封されるとは、注ぎ口形状を構成する平行な2辺が、引裂きにより寸断され包装袋の内部が外部と連通することを意味する。
【0032】
さらに、本発明の包装袋は、1辺に開封加工が施され、その対辺もヒートシール部であることが好ましい。開封加工が施されていることにより、引裂く際の起点となり、ヒートシール部を手で裂くことが可能となる。本発明の包装袋は、長手方向および幅方向の両方向への直線引裂き性に優れるため、所望の方向へ直線的に引裂くことが可能となる。ここで、開封加工とは、ノッチや切り込み、傷等の窪みを意味し、これらの形態や加工の方法は、一般的に採用されている方法を特に限定なく使用できる。また、対辺とは、1の辺と平行になるように形成された辺(ヒートシール部と包装袋の内部との境界線)を意味する。また、包装袋に注ぎ口が形成されている場合には、前記辺、対辺は、注ぎ口を形成する1の辺と、その対辺をそれぞれ包含するものとする。
【0033】
本発明の包装袋は、ラミネート強度の高いポリエステルフィルムを用いて形成されているため、液体用包装袋に好ましく使用することができる。前記液体としては特に限定されず、低粘度(例えば、1mPa・s以上)のものから、高粘度(例えば、105mPa・s以下)のものまで用いることができ、さらに、高粘度のものと固形物との混合物にも用いることができる。
【0034】
本発明の好ましい包装袋の形態1としては、少なくとも3方がヒートシールされることにより形成されたものであり、ヒートシールにより注ぎ口が形成され、手で引裂くことにより注ぎ口が開封される液体用包装袋1が挙げられる。このような液体用包装袋1としては、底部にマチが形成されることにより自立できるスタンディングパウチが挙げられ、シャンプー、リンス、液体洗剤、柔軟剤等の詰め替え用スタンディングパウチとして好ましく使用できる。このような液体用包装袋1においては、斜め方向への直線引裂き性が求められる場合が多く、本発明のポリエステルフィルムの方向に依存しない直線引裂き性を効果的に発揮することができる。
【0035】
詰め替え用の液体用包装袋1の内容量の下限は、好ましくは100mlであり、より好ましくは150mlであり、さらに好ましくは200mlである。100ml未満であると詰め替え用として効率的でなくなることがある。また、詰め替え用液体包装袋1の内容量の上限は、好ましくは2000mlであり、より好ましくは1500mlであり、さらに好ましくは1300mlである。2000mlを超えると質量が大きくなり詰め替え操作が困難になることがある。
【0036】
本発明の好ましい包装袋の形態2としては、少なくとも3方がヒートシールされることにより形成されたものであり、1辺に開封加工が施され、その対辺もヒートシール部である液体用包装袋2が挙げられる。このような液体用包装袋2は、レトルトカレーやシチューなどの高粘稠液体や煮物など液体と固体の混合物用の袋として好ましく用いることができ、スタンディングパウチ型であってもよい。また、チャック部が設けられているのも好ましい形態の一つである。この様な袋は開封した切れ端を完全に除去したい場合が多いが、開封終了部が対辺のヒートシール部であり、開封していくにつれて袋を構成する手前と裏側のフィルムで切り裂き位置がずれていく現象「泣き別れ」がしばしば発生する。この様に泣き別れが発生すると開封終了端のヒートシール部で切れ端を取り去ることがし難くなる。本発明のポリエステルフィルムは、力がかかる方向に切れよいため、フィルムの長手方向、幅方向いずれの方向に引き裂いた場合であってもこの泣き別れ現象を防ぐことが出来る。このため、この液体用包装袋2では、本発明のポリエステルフィルムの方向に依存しない直線引裂き性を効果的に発揮することができる。
【0037】
この様な液体用包装袋2の内容量の下限は、好ましく30mlであり、より好ましくは50mlであり、さらに好ましくは100mlである。30ml未満であると袋が小さいものとなり、泣き別れが起こりにくい効果が実感できない場合がある。また、液体用包装袋2の内容量の上限は、好ましくは2000mlであり、より好ましくは1500mlであり、さらに好ましくは1300mlである。2000mlを超えると質量が大きくなり内容物の取り出し操作が困難になることがある。
【0038】
本発明の最適な袋の形態3としては、液体の内容量が少量(0.2〜100ml)である液体用包装袋3(液体用小袋)が挙げられる。この液体用包装袋3(液体用小袋)は、醤油、ソース、ドレッシング、からし、マヨネーズ、ケチャップ等を包装するための液体用包装袋として好ましく用いられる。液体用包装袋3(液体用小袋)では、手で引裂いて開封する際に、途中で方向を変えて切ることができ、液体用包装袋3(液体用小袋)の隅に好みの大きさの開封口を形成しやすく、好みの量を出すことができ、対象食品等に適量を均等に注ぐことができる。更には手を汚すことが少なくなる。
【0039】
液体用包装袋3(液体用小袋)の内容量の下限は好ましくは0.2mlであり、より好ましくは0.4mlである。0.2ml未満であると液体充填が煩雑になる。また、液体用包装袋3(液体用小袋)の内容量の上限は好ましくは100mlであり、より好ましくは80mlであり、さらに好ましくは60mlである。100mlを超えると液体用小袋として大き過ぎることがある。
【0040】
本発明の包装用ポリエステルフィルムは、例えば以下の方法で製造することができる。
【0041】
まず、易滑性付与を目的とした滑剤微粒子を含有するポリエステル(好ましくはポリエチレンテレフタレート)のペレットを十分に真空乾燥した後、押出し機に供給し、280℃以上、290℃以下(好ましくは284℃以上、286℃以下)でシート状に溶融押出しし、溶融シートを冷却ロールで冷却固化して、未延伸シートを得る。シート状溶融物を冷却ロール(回転冷却ドラム)に密着させながら、急冷して未延伸シートとするには公知の方法が適用でき、例えばシート状溶融物にエアナイフを使用する方法や静電荷を印荷する方法等が好ましく適用できる。これらの方法では後者が好ましく使用される。前記冷却固化温度としては、20℃以上、40℃以下であることが好ましく、25℃以上、35℃以下であることが好ましい。
【0042】
得られた未延伸シートを延伸することで、延伸シートを得ることができる。延伸は、二軸延伸であることが好ましい。二軸延伸の方法としては、最終的に得られたフィルム特性が本発明の要件を満足するものであれば良く、二方向に段階的に延伸する逐次二軸延伸法、二方向に同時に延伸する同時二軸延伸法のいずれでもよい。逐次二軸延伸法は、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する方法であってもよいし、長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する方法であってもよい。さらに、長手方向−幅方向−長手方向や、幅方向−長手方向−幅方向など、三段階以上に延伸を行ってもよい。
このような二軸延伸法の中でも、逐次二軸延伸法が好ましく、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する方法が好ましい。
【0043】
幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する方法においては、まず、上記のように得られた未延伸シートをテンター方式の延伸機により幅方向に延伸する。幅方向の延伸温度は、80℃以上、120℃以下(好ましくは85℃以上、110℃以下)であり、幅方向の延伸倍率は好ましくは2.5倍以上、4.5倍以下、より好ましくは3.0倍以上、4.3倍以下である。幅方向の延伸倍率が高いほど、得られたフィルムの平面性が良好となるため好ましい。また、4.5倍を超えると幅方向の配向が強くなり、長手方向での延伸において破断の頻度が多くなるため好ましくない。
【0044】
次いで、一段目の延伸方向と直交する長手方向に延伸を行う。長手方向の延伸温度は好ましくは70℃以上、180℃以下、より好ましくは80℃以上、180℃以下、さらに好ましくは100℃以上、160℃以下である。延伸を行う際、赤外線ヒーターなどを用いて補助加熱を行っても良い。長手方向の延伸倍率は好ましくは3.4倍以上、4.8倍以下、より好ましくは3.6倍以上、4.5倍以下である。長手方向の延伸倍率が大きいほど、得られたフィルム全体幅の両端部分の配向歪みを小さくすることができ、直線引裂き性に優れたフィルム製品としての生産性を向上することができる。長手方向の延伸倍率が4.8倍を超えると延伸において破断の頻度が多くなり好ましくない。
長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する場合においても同様の延伸温度及び延伸倍率を採用できる。
【0045】
次いで、得られた延伸シートに熱固定処理を行う。熱固定処理温度の下限は好ましくは215℃であり、より好ましくは220℃である。熱固定処理温度が高いほど、ラミネート強度を高めることができる。熱固定処理温度の上限は好ましくは240℃であり、より好ましくは237℃である。熱固定処理温度がこの範囲にあると、製膜されたフィルム全体幅の両端部分の配向歪みを抑制でき、直線引裂き性に優れたフィルム製品としての生産性を向上できる。
【0046】
熱固定処理の後、把持具のガイドレールを先狭めにして、熱緩和処理することが好ましい。これにより、熱収縮率、特に幅方向の熱収縮率を有効に制御することができる。熱緩和温度の下限は好ましくは150℃であり、より好ましくは160℃である。150℃未満であると幅方向の熱収縮率が高くなることがある。熱緩和温度の上限は好ましくは240℃であり、より好ましくは235℃である。240℃を超えると製膜されたフィルム全体幅の両端部分の配向歪みが大きくなり、直線引裂き性に優れたフィルム製品として採取できない部分が増えて生産性に劣ることがある。熱緩和処理としては温度を変えて2段階以上で行っても良い。この場合、1段階目の熱緩和温度は、幅方向の熱収縮率を低減する観点からは、200℃以上であることが好ましく、より好ましくは220℃以上である。また、2段階目以降の熱緩和温度は、1段階目の熱緩和温度よりも低いことが好ましく、その差が50℃以上であることがより好ましい。また2段階目以降の熱緩和温度は、180℃以下であることが好ましい。
【0047】
熱緩和処理する際の熱緩和率の下限は好ましくは0.0%であり、より好ましくは0.5%であり、さらに好ましくは1.0%である。0.0%未満であると幅方向の熱収縮率が高くなることがある。熱緩和率の上限は好ましくは5.0%であり、より好ましくは4.5%であり、さらに好ましくは4.0%であり、特に好ましくは3.0%である。5.0%を超えると製膜されたフィルム全体幅の両端部分の配向歪みが大きくなり、直線引裂き性に優れたフィルム製品として採取できない部分が増えて生産性に劣ることがある。
【0048】
なお、最初に長手方向に延伸した後、幅方向に延伸を行う場合は、後に行う幅方向の延伸の影響を強く受けるため、配向方向が幅方向に強くなる傾向がある。また、ボーイング現象(フィルムの幅方向中央部が同方向端部に比べてフィルムの進行方向へ突出する現象)により、主配向方向である幅方向に対する分子鎖主軸の配向角が大きくなりやすくなる。この場合、長手方向の延伸を弱め、幅方向の延伸を強めることによって分子鎖主軸の配向角を調整することが出来る。
【0049】
本発明では、幅方向の熱緩和処理を行った後、巻取るまでに、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にコロナ処理を実施して、濡れ張力を44〜58mN/mに調整することが好ましい。
【0050】
フィルムとしては幅1000mm以上であることが好ましい。また、長さは1000m以上、さらには2000m以上でコアに巻かれたロール状であることが好ましい。
本発明のポリエステルフィルムは上記方法で得られたフィルムから切り出して得ることができる。
【0051】
ポリエステルフィルムの分子鎖主軸の配向角は、フィルムの位置(幅方向の中央、端部)により変動するが、フィルムの位置にかかわらずフィルムの主配向方向に対する分子鎖主軸の配向角は、好ましくは20°以下であり、より好ましくは15°以下である。この配向角が20°を超えると直線引裂き性が得られなくなり、包装袋にしたときの泣き別れが大きくなり、意図する方向に切りにくくなることがある。また、分子鎖主軸の配向角の下限は、0°である。
分子鎖主軸の配向角は、フィルムの幅方向の両端部から端部サンプルを切り出し、さらにほぼ均等の間隔で3箇所の計5箇所のサンプルを切り出し、さらにそれぞれのサンプルの中央部の100mm四方の正方形のフィルムサンプルを切り出し、そのフィルムサンプルについて、分子配向計を用いて、フィルムの主配向方向に対する分子鎖主軸の配向角を測定した。
従来のポリエステルフィルムが分子鎖主軸の配向角が20°を超える現象は、特に、テンターを用いて製膜された場合のクリップに把持された幅方向の端部に近い部分からスリット(切断)されたフィルムに見られることがあるが、本発明のポリエステルフィルムは幅方向の端部に近い部分からスリットされたフィルムであっても優れた特性、特に泣き別れがより改善されるという特徴を有する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を意味する。
本発明で用いた測定方法は、以下の通りである。
【0053】
(1)ポリエステルフィルムの厚さ
JIS Z 1702に準拠して測定した。
【0054】
(2)屈折率
JIS K 7142−1996 5.1(A法)により、ナトリウムD線を光源としてアッベ屈折計によりフィルム長手方向(MD)の屈折率、フィルム幅方向(TD)の屈折率を測定した。ここで、屈折率の値の大きな方向を主配向方向とし、その方向の屈折率をNx、主配向方向と90°方向の屈折率をNyとした。また、NxとNyの差によりNx−Nyを求めた。
【0055】
(3)分子鎖主軸の配向角
100mm四方の正方形のフィルムサンプルを切り出し、そのフィルムサンプルについて、王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計を用いて、フィルムの主配向方向に対する分子鎖主軸の配向角を測定した。ここでいう主配向方向とは、フィルムの長手方向あるいは幅方向であって、分子鎖主軸とのなす角度が45°以下となる方向を意味する。但し、分子鎖主軸とのなす角度が45°の場合は長手方向とする。
【0056】
(4)150℃における熱収縮率
JIS C 2318−1997 5.3.4(寸法変化)に準拠し、フィルム片の長手方向(MD)およびフィルム幅方向(TD)の寸法変化率(%)を測定した。
【0057】
(5)ラミネート強度
まず、東洋モートン社製2液硬化型ポリエステル−ポリウレタン系接着剤TM569及び同硬化剤CAT10Lを用い、固形分が3g/m2となるようにポリエステルフィルム
のコロナ処理面に塗布した後60℃にてシーラント層と貼り合わせ、40℃で48時間硬化させてラミネートし、ラミネートフィルムを得た。尚、シーラント層としては、東洋紡社製L4102の厚さ40μmのフィルムを用いた。
【0058】
次に、長手方向200mm、幅方向15mmの短冊を切り出し、オリエンテック社製のテンシロンUMT−II−500型を用いて、温度23℃、相対湿度65%の条件下で、ポリエステルフィルムのコロナ処理面とシーラント層との接合面の剥離強度(N/15mm)を測定した。尚、剥離速度を200mm/min、剥離角度を180°とした。各フィルムにつき3サンプル採取して測定し、その平均値をラミネート強度とした。
【0059】
熱収縮率が長手方向及び幅方向でいずれも3.5%以下であり、かつ、ラミネート強度が2.5N/15mm以上であるものを加工適正が「○」、熱収縮率が長手方向及び幅方向の少なくともいずれかで3.5%超であるか、または、ラミネート強度が2.5N/15mm未満であるものを加工適正が「×」として評価した。
【0060】
(6)ポリエステルの極限粘度
ポリエステル0.1gをフェノール/テトラクロロエタン(容積比で3/2)の混合溶媒25mL中に溶解させ、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0061】
(7)ポリエステルフィルムの直線引裂き性
直線引裂き性の指標として泣き別れ距離を測定した。
【0062】
泣き別れ距離の測定方法は以下の通りである。
図1に示すように、引裂き方向に200mm、その直交方向に50mm幅のポリエステルフィルム片11を切り出した。このフィルム片の一方の短辺に10mm幅の両面粘着テープ12を貼り付け、中央線13で半折して両短辺を重ね合わせて貼り付け、サンプル14を得た。次いで、サンプル14の重ね合わせた短辺側の中央部分(両端から25mm位置)に引裂き方向に30mmの切り込み15を入れた。
【0063】
引張試験機(オリエンテック社製テンシロンRTC−1225A)のチャック間距離を50mmにして、サンプル14の切り込み15で分けられた短辺aおよびbを各々上および下のチャックに装着した。次いで、1000mm/分の速度でチャックを130mm変位させて引裂き、図2に示すような引裂き後のサンプル21を得た。サンプル21の紙面表側フィルムの引裂き線22と紙面裏側フィルムの引裂き線23の引裂き開始点から50mm位置のズレ量を泣き別れ距離24とした。
泣き別れ距離の測定に際しては、短辺aおよびbを各々上および下のチャックに装着して測定するとともに、短辺aおよびbを各々下および上のチャックに装着して測定することも実施した。泣き別れ距離は、その平均値が長い方を採用した。各サンプル3回測定して、その平均値を泣き別れ距離とした。
【0064】
泣き別れ距離が15mm以下のものを直線引裂き性が「○」、15mmを超えるものを直線引裂き性が「×」とした。
【0065】
さらに、中央部、端部のいずれにおいても直線引裂き性、加工適正の評価が「○」であるものを生産性が「○」、中央部、端部の少なくともいずれかで直線引裂き性および/または加工適正の評価が「×」であるものを生産性が「×」として評価した。
【0066】
(作製例1)
ポリエチレンテレフタレート(極限粘度:0.62dl/g、平均粒径:2.5μmのシリカ粒子を600ppm配合)を、120℃で24時間減圧乾燥(1.3hPa)し、単軸押出機を用いて285℃で溶融させた後、静電印加キャスト法を用いて、Tダイより表面温度30℃の冷却ロール上へキャストして未延伸シートを得た。該未延伸シートをテンターで予熱温度95℃、延伸温度92℃で幅方向に3.9倍延伸し、続いてロール群
に導き、予熱温度80℃、延伸温度105℃で長手方向に4.0倍延伸した。続いてクリップでフィルム両端部を把持してオーブンに導き、230℃で熱固定処理した後、225℃で幅方向に1.0%、次いで170℃で幅方向に1.0%熱緩和処理した後、両端の把持部を15%ずつスリットして除去し、シーラント層との接着面側にコロナ放電処理を施し、厚さ12μmのポリエステルフィルム(1000mm幅、長さ2500m)を得た。
【0067】
得られたフィルムの物性を表1に示す。分子鎖主軸の配向角を(右端部、右中央部、中央部、左中央部、左端部)測定したところ、右端部または左端部のいずれかの配向角が最も大きかったため、配向角の大きい方の端部の物性値を示した。
【0068】
(端部のMD方向の熱収縮率および泣き別れ距離測定のサンプル採取方法)
このフィルムの端部から中央部へ幅方向200mmの範囲内で、図1に示すような200mm×50mmのフィルム片を、フィルム片の長軸方向がこのフィルムの長手方向になるように、幅方向に隣接するように切り取って、MD方向の熱収縮率および泣き別れ距離をそれぞれ各3回測定し、その平均値をとった。
【0069】
(端部のTD方向の熱収縮率および泣き別れ距離測定のサンプル採取方法)
このフィルムの端から中央部へ幅方向200mmの範囲内で、図1に示すような200mm×50mmのフィルム片を、フィルム片の長軸方向がこのフィルムの幅方向になるように、長手方向に隣接するように切り取って、TD方向の熱収縮率および泣き別れ距離をそれぞれ各3回測定し、その平均値をとった。
【0070】
作製例1で得られたフィルムは、中央部(実施例1)および端部(実施例2)の直線引裂き性に優れていて、かつ熱収縮率が低く、ラミネート強度が高く、加工適正も良好であった。さらに生産性も良好であった。
【0071】
(作製例2)
作製例1において、230℃で熱固定処理した後、225℃で幅方向に1.0%、次いで170℃で幅方向に1.0%熱緩和処理する代わりに、225℃で幅方向に2.0%、次いで170℃で幅方向に2.0%熱緩和処理した以外は、作製例1と同様にして製膜を行い、厚さ12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0072】
得られたフィルムの物性を表1に示す。作製例2で得られたフィルムは、中央部(実施例3)および端部(実施例4)の直線引裂き性に優れていて、かつ熱収縮率が低くラミネート強度が高く、加工適正も良好であった。さらに生産性も良好であった。
【0073】
(作製例3)
作製例1において、予熱温度80℃、延伸温度105℃で長手方向に4.0倍延伸する代わりに、予熱温度80℃、延伸温度105℃で長手方向に3.8倍延伸した以外は、作製例1と同様にして製膜を行い、厚さ12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0074】
得られたフィルムの物性を表1に示す。作製例3で得られたフィルムは、中央部(実施例5)および端部(実施例6)の直線引裂き性に優れていて、かつ熱収縮率が低くラミネート強度が高く、加工適正も良好であった。さらに生産性も良好であった。
【0075】
(作製例4)
作製例1において、230℃で熱固定処理した後、225℃で幅方向に1.0%、次いで170℃で幅方向に1.0%熱緩和処理する代わりに、235℃で熱固定処理した後、230℃で幅方向に1.0%、次いで170℃で幅方向に1.0%熱緩和処理した以外は、作製例1と同様にして製膜を行い、厚さ12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0076】
得られたフィルムの物性を表1に示す。作製例4で得られたフィルムは、中央部(実施例7)および端部(実施例8)の直線引裂き性に優れていて、かつ熱収縮率が低くラミネート強度が高く、加工適正も良好であった。さらに生産性も良好であった。
【0077】
(作製例5)
作製例1において、予熱温度80℃、延伸温度105℃で長手方向に4.0倍延伸する代わりに、予熱温度80℃、延伸温度105℃で長手方向に3.3倍延伸した以外は、作製例1と同様にして製膜を行い、厚さ12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0078】
得られたフィルムの物性を表1に示す。作製例5で得られたフィルムは、中央部(実施例9)が直線引裂き性に優れていて、かつ熱収縮率が低くラミネート強度が高く、加工適正も良好であった。しかし、端部(比較例1)は分子鎖主軸の配向角が高く、Nxが低く、直線引裂き性が悪いものであった。作製例5は、端部の直線引裂き性が悪いため、直線引裂き性に優れたフィルム製品として採取できない部分が増えて生産性に劣るものであった。
【0079】
(作製例6)
作製例1において、230℃で熱固定処理した後、225℃で幅方向に1.0%、次いで170℃で幅方向に1.0%熱緩和処理する代わりに、235℃で熱固定処理した後、230℃で幅方向に4.0%、次いで170℃で幅方向に4.0%熱緩和処理した以外は、作製例1と同様にして製膜を行い、厚さ12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0080】
得られたフィルムの物性を表1に示す。作製例6で得られたフィルムは、中央部(実施例10)が直線引裂き性に優れていて、かつ熱収縮率が低くラミネート強度が高く、加工適正も良好であった。しかし、端部(比較例2)は分子鎖主軸の配向角が高く、直線引裂き性が悪いものであった。作製例6は、端部の直線引裂き性が悪いため、直線引裂き性に優れたフィルム製品として採取できない部分が増えて生産性に劣るものであった。
【0081】
(作製例7)
作製例1において、230℃で熱固定処理した後、225℃で幅方向に1.0%、次いで170℃で幅方向に1.0%熱緩和処理する代わりに、243℃で熱固定処理した後、230℃で幅方向に2.0%、次いで170℃で幅方向に2.0%熱緩和処理した以外は、作製例1と同様にして製膜を行い、厚さ12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0082】
得られたフィルムの物性を表1に示す。作製例7で得られたフィルムは、中央部(実施例11)が直線引裂き性に優れていて、かつ熱収縮率が低くラミネート強度が高く、加工適正も良好であった。しかし、端部(比較例3)は分子鎖主軸の配向角が高く、直線引裂き性が悪いものであった。作製例7は、端部の直線引裂き性が悪いため、直線引裂き性に優れたフィルム製品として採取できない部分が増え、かつ製膜時に破断が頻発して生産性に劣るものであった。
【0083】
(作製例8)
作製例1において、230℃で熱固定処理した後、225℃で幅方向に1.0%、次いで170℃で幅方向に1.0%熱緩和処理する代わりに、195℃で熱固定処理した後、195℃で幅方向に1.0%、次いで145℃で幅方向に1.0%熱緩和処理した以外は、作製例1と同様にして製膜を行い、厚さ12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0084】
得られたフィルムの物性を表1に示す。作製例8で得られたフィルムは、中央部(比較例4)および端部(比較例5)の150℃における熱収縮率が高く、ラミネート強度が低いため、加工適正に劣るものであった。作製例8で得られたフィルムは、直線引裂き性に優れるが寸法安定性が悪く、ラミネート強度が低いために包装用ポリエステルフィルムに適さないものであった。結果的に、生産性に劣るものであった。
【0085】
(作製例9)
ポリエチレンテレフタレート(極限粘度:0.62dl/g、平均粒径:2.5μmのシリカ粒子を600ppm配合)を、120℃で24時間減圧乾燥(1.3hPa)し、単軸押出機を用いて285℃で溶融させた後、静電印加キャスト法を用いて、Tダイより表面温度30℃の冷却ロール上へキャストして未延伸シートを得た。該未延伸シートをまずロール群に導き、予熱温度75℃、延伸温度115℃で長手方向に1.4倍延伸し、さらに延伸温度125℃で長手方向に2.9倍延伸した。その長手方向に延伸したシートをテンターに導き、予熱温度117℃、延伸温度125℃で4.3倍横延伸した。引き続き233℃で熱固定処理した後、227℃で幅方向に3.2%、次いで190℃で幅方向に3.2%熱緩和処理した。引き続き、両端の把持部を15%ずつスリットして除去し、シーラント層との接着面側にコロナ放電処理を施し、厚さ12μmのポリエステルフィルム(1000mm幅、長さ2500m)を得た。
【0086】
得られたフィルムの物性を表1に示す。作製例9で得られたフィルムは、中央部(実施例12)が直線引裂き性に優れていて、かつ熱収縮率が低くラミネート強度が高く、加工適正も良好であった。しかし、端部(比較例6)は分子鎖主軸の配向角が高く、Nxが低く、直線引裂き性が悪いものであった。作製例9は、端部の直線引裂き性が悪いため、直線引裂き性に優れたフィルム製品として採取できない部分が増えて生産性に劣るものであった。
【0087】
【表1】
【0088】
ラミネート強度を測定するためにシーラント層を積層した実施例1〜12、比較例1〜6のフィルムを用い、5cm×8cmの4方を幅7mmで帯状にヒートシールした水の入った小袋を作製した。ヒートシールは、加熱温度160℃、加圧の圧力0.2MPaで、1秒間の条件で行った。一辺の端から約15mmの部分にはさみで約2mmの切り込みを入れ、手で角に向けて斜めに開封した。実施例1〜12のいずれにおいても、意図通りに開封できた。比較例1〜6では意図通りの斜めにならずに対辺に向かってそれ、開封口が大きくなった。
【0089】
ラミネート強度を測定するためにシーラント層を積層した実施例1〜12、比較例1〜6のフィルムを用い、12cm×20cmの図3に示すような水の入った袋を作製した。開封部を注ぎ口に対して直角になるようにして斜めに開封した。実施例1〜12のいずれにおいても、意図通りに開封でき、綺麗な注ぎ口ができた。比較例1〜6では意図通りにならずに上方に向かって、十分な開封口が開かなかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により、低コストでいずれの方向にも直線引裂き性に優れ、泣き別れ距離の小さい包装用ポリエステルフィルムを提供することができ、種々の包装袋にしたときに開封口を引裂く際に容易に綺麗に引裂くことが可能となるので、産業界に大きく寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0091】
11 ポリエステルフィルム片
12 両面粘着テープ
13 中央線
14 引裂き前のサンプル
15 切り込み
21 引裂き後のサンプル
22 紙面表側フィルムの引裂き線
23 紙面裏側フィルムの引裂き線
24 泣き別れ距離
a、b 引張試験機のチャックに装着する短辺
31 ヒートシール部
32 注ぎ口
33 ノッチ
図1
図2
図3