特許第6780799号(P6780799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6780799活性エネルギー線硬化性ハードコート剤、積層体、透明導電フィルム、光学部材、および電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6780799
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性ハードコート剤、積層体、透明導電フィルム、光学部材、および電子機器
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20201026BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20201026BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   C09D133/04
   C09D7/61
   B32B27/30 A
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-68724(P2020-68724)
(22)【出願日】2020年4月7日
【審査請求日】2020年4月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】清野 数馬
(72)【発明者】
【氏名】江草 直樹
(72)【発明者】
【氏名】早川 友浩
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−226787(JP,A)
【文献】 特開2018−203887(JP,A)
【文献】 特開2009−285963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/04
B32B 27/30
C09D 7/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化性成分(A)100質量部に対し、平均一次粒子径が10nm以上、100nm未満である金属酸化物(B)を1〜30質量部含み、
前記活性エネルギー線硬化性成分(A)100質量%中に、重量平均分子量が1,000〜3,000、且つ1分子あたりの(メタ)アクリロイル基数が平均で4〜8個のウレタン(メタ)アクリレート(A1)と、重量平均分子量が3,000〜5,000、且つ1分子あたりの(メタ)アクリロイル基数が平均で1〜3個であるウレタン(メタ)アクリレート(A2)とを合計で70〜100質量%含み、
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A1)と前記ウレタン(メタ)アクリレート(A2)との質量比が15/85〜75/25である、
活性エネルギー線硬化性ハードコート剤。
【請求項2】
金属酸化物(B)がシリカである、請求項1記載の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤。
【請求項3】
金属酸化物(B)の平均一次粒子径が20〜50nmである請求項1または2記載の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤。
【請求項4】
透明フィルムの少なくとも片面に、請求項1〜3いずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化ハードコート剤の硬化物層を有する積層フィルム。
【請求項5】
前記硬化物層の表面粗さRaが、0.1〜1.5nmである請求項4記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記透明フィルムが、シクロオレフィン樹脂フィルムである請求項4または5記載の積層フィルム。
【請求項7】
透明フィルムの両面にそれぞれ請求項1〜3いずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化ハードコート剤の硬化物層が積層され、前記の各硬化物層上にそれぞれインデックスマッチング層が積層され、さらに前記の各インデックスマッチング層上にそれぞれ透明導電層が積層されている透明導電フィルム。
【請求項8】
請求項7記載の透明導電フィルムを備える光学部材。
【請求項9】
請求項8記載の光学部材を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー硬化性ハードコート剤に関する。また本発明は、前記活性エネルギー硬化性ハードコート剤を用いてなる積層体に関し、さらに本発明は前記積層体を用いてなる透明導電フィルム、光学部材、および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
透明フィルム上に高屈折率コート剤を塗工して高屈折率層を作製後、高屈折率層上にスパッタリング等の方法により均一に透明導電層を形成した透明導電フィルムは、その後透明導電層をさらに所望の形状にパターン化することで、タッチパネル等の表示装置の電極材料として使用されている。
【0003】
従来、透明導電フィルムの基材には、安価な2軸延伸されたポリエチレンテレフタレート(以下、PETともいう)フィルムが用いられてきたが、2軸延伸PETフィルムは濁度(ヘイズ)が高く、又、複屈折率が高い上に面内バラツキがあり、特有の虹ムラが生じるという問題があった。又、偏光サングラスを着用して画面を見ると、見えづらいといった課題もあった。一方、シクロオレフィン樹脂系(以下、COPともいう)フィルムは、ヘイズ、及び複屈折率が低く、面内均一性も高いことから、2軸延伸PETフィルム特有の虹ムラも解決されるため、透明導電フィルムの基材として広く使用され始めている。しかし、COPフィルムは脆弱なため、ロール状に巻き取ろうとする際にフィルム同士が張り付いてしまい(ブロッキング)、巻取りの応力を緩和できずに破断してしまうといった大きな課題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、COPフィルムの表面にシリカ粒子を含有するアンチブロッキング性を有するコーティング層を設けることが検討されている。
【0005】
特許文献1には、(A)3個以上の(メタ)アクリロイル基を有するアルキレンオキサイド変性(メタ)アクリレートモノマー100質量部、(B)6個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー5〜60質量部、(C)平均一次粒子径が5nm〜20nm、平均二次粒子径が100nm〜300nmのシリカ粒子0.5〜20質量部、(D)光重合性開始剤、を含む紫外線硬化型アンチブロッキングハードコート樹脂組成物が開示されている。
【0006】
また特許文献2には、環状オレフィン系樹脂基材に優れた耐擦傷性及び基材密着性を付与すべく、(A)不飽和基当量が110以上600未満、質量平均分子量が600〜6,000のウレタン(メタ)アクリレート、(B)ベンゾフェノン系開始剤及び/又はチオキサントン系開始剤、(C)平均一次粒子径が1nm〜200nmのシリカ微粒子を含む活性エネルギー線硬化型組成物であって、(A)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、(A)成分を15〜70質量部、(C)成分を30〜85質量部を含む活性エネルギー線硬化型組成物が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、片面にポリオレフィン系樹脂フィルムを積層してなるトリアセチルセルロースフィルムの反対面に、厚さが10〜25μmであって、(メタ)アクリレートモノマー及び/又は(メタ)アクリレートオリゴマー、無機化合物微粒子、光重合開始剤を含有するハードコート層を有し、さらに当該ハードコート層の上にポリオレフィン系樹脂フィルムを積層してなる積層フィルムが開示されている。具体的には、トリアセチルセルロースフィルムの片面に粘着剤層を介して低密度ポリエチレンフィルムを貼り、トリアセチルセルロースフィルムの他方の面にハードコート層を設け、該ハードコート層に粘着剤層を介して低密度ポリエチレンフィルムを貼って、積層フィルムを得る旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017−226787号公報
【特許文献2】特開2018−203887号公報
【特許文献3】特開2009−285963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のアンチブロッキング性コーティング剤はヘイズが高いので、COPフィルムに塗工してもCOPフィルムの優れた光学特性を十分に活かしきることができなかった。含まれるシリカ粒子の粒子を少なく、小さくしてヘイズを下げようとすると、表面粗さが低くなりアンチブロッキング性(以下、AB性ともいう)を発現できなくなる。
【0010】
例えば、特許文献1記載の紫外線硬化型アンチブロッキングハードコート樹脂組成物から形成されるアンチブロッキングハードコート層(以下、ABHC層ともいう)は、ABHC層同士の高温におけるAB性が不十分だったり、ABHC層とCOPフィルムとのAB性が不十分だったりする。また、特許文献1記載の紫外線硬化型アンチブロッキングハードコート樹脂組成物を用いてアンチブロッキングハードコート層をCOPフィルムの両面に設けた積層体は、2つ折りするとCOPフィルムが割れてしまうという問題もあった。
【0011】
特許文献2記載の活性エネルギー線硬化型組成物はシリカ微粒子を大量に含むので、COPフィルムの両面に硬化被膜を設けた場合はもちろん片面に硬化被膜を設けた場合でも、硬化被膜を設けた積層体を2つ折りするとCOPフィルムが割れてしまうという問題があった。
【0012】
本発明は、透明性に優れ、室温付近だけでなく高温時においても、ABHC層同士だけでなくABHC層とCOPフィルムとのAB性に優れ、ABHC層をCOPフィルムの片面に設けた場合だけでなく両面に設けた場合でも耐折り曲げ性に優れ、耐擦傷性にも優れる積層体を形成し得る、活性エネルギー線硬化性ハードコート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、活性エネルギー線硬化性成分(A)100質量部に対し、平均一次粒子径が100nm未満である金属酸化物(B)を1〜30質量部含み、
前記活性エネルギー線硬化性成分(A)100質量%中に、質量平均分子量が1,000〜3,000、且つ1分子あたりの(メタ)アクリロイル基数が平均で4〜8個のウレタン(メタ)アクリレート(A1)と、質量平均分子量が3,000〜5,000、且つ1分子あたりの(メタ)アクリロイル基数が平均で1〜3個であるウレタン(メタ)アクリレート(A2)とを合計で50〜100質量%含み、
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A1)と前記ウレタン(メタ)アクリレート(A2)との質量比が15/85〜75/25である、活性エネルギー線硬化性ハードコート剤に関する。
【0014】
別の本発明は、金属酸化物(B)がシリカである、上記の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤に関する。
【0015】
別の発明は、金属酸化物(B)の平均一次粒子径が20〜50nmである、上記の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤に関する。
【0016】
別の発明は、透明フィルムの少なくとも片面に、上記のいずれかの活性エネルギー線硬化ハードコート剤の硬化物層を有する積層フィルムに関する。
【0017】
別の発明は、硬化物層の表面粗さRaが、0.1〜1.5nmである、上記の積層フィルムに関する。
【0018】
別の発明は、透明フィルムが、シクロオレフィン樹脂フィルムである、上記の積層フィルムに関する。
【0019】
別の発明は、透明フィルムの両面にそれぞれ上記のいずれかの活性エネルギー線硬化ハードコート剤の硬化物層が積層され、前記の各硬化物層上にそれぞれインデックスマッチング層が積層され、さらに前記の各インデックスマッチング層上にそれぞれ透明導電層が積層されている透明導電フィルムに関する。
【0020】
別の発明は、上記の透明導電フィルムを備える光学部材に関する。
【0021】
別の発明は、上記の光学部材を備える電子機器に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、透明性に優れ、室温付近だけでなく高温時においても、ABHC層同士だけでなくABHC層とCOPフィルムとのAB性に優れ、ABHC層をCOPフィルムの片面に設けた場合だけでなく両面に設けた場合でも耐折り曲げ性に優れる積層体を形成し得る、活性エネルギー線硬化性ハードコート剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤は、活性エネルギー線硬化性成分(A)として特定のウレタン(メタ)アクリレート(A1)と特定のウレタン(メタ)アクリレート(A2)とを含む。
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、質量平均分子量が1,000〜3,000、且つ1分子あたりの(メタ)アクリロイル基数を平均で4〜8個有し、ウレタン(メタ)アクリレート(A2)は、質量平均分子量が3,000〜5,000、且つ1分子あたりの(メタ)アクリロイル基数を平均で1〜3個有する。以下、質量平均分子量をMwと略すこともある。
【0024】
<ウレタン(メタ)アクリレート(A1)>
このようなウレタン(メタ)アクリレート(A1)の市販品としては、ダイセル・オルネスク社製のEBECRYL 220(Mw:1000/(メタ)アクリロイル基数:6。いずれもカタログ値。以下同様。)、EBECRYL 1290(1000/6)、EBECRYL 4666(1100/4)、EBECRYL 4680(1400/4)、EBECRYL 8405(2700/4)、KRM 8200(1000/6)、KRM 8200AE(1000/6)、KRM 8904(1800/6)、及びKRM 8528(1600/4)等、
三菱ケミカル社製 紫光 UV−7605B(1100/6)、UV−7650B(2300/4.5)、UV−7600B(1400/6)、UV−7630B(2200/6)、UV−7640B(1500/6.5)、及びUV−6300(3700/7)等、
日本化薬製 KAYARAD UX−5000(1500/6)、及びUX−5102D−M20(3,500/6)等、
根上工業社製 アートレジン UN−906S(1000/6)、UN−3320HA(1500/6)、及びUN−3320HC(1500/6)等、並びに
MIWON社製 Miramer PU610(1800/6)等、が挙げられるが、これらに限定されない。単独でも併用でも使用できる。
【0025】
このようなウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、例えば、以下のような方法で得ることができる。
方法1;水酸基を有する(メタ)アクリレート類(a1)とポリイソシアネート(a2)とを反応させて得られる方法。
方法2;ポリオールとポリイソシアネート(a2)とをイソシアネート基過剰の条件下に反応させてなるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを、水酸基を有する(メタ)アクリレート類(a1)と反応させて得られる方法。
方法3;ポリオールとポリイソシアネート(a2)とを水酸基過剰の条件下に反応させてなる水酸基含有ウレタンプレポリマーを、イソシアネート基を有する(メタ)アクリレート類と反応させて得られる方法。
方法4;カルボキシル基を有するポリオールとポリイソシアネート(a2)とを水酸基過剰の条件下に反応させてなるカルボキシル基含有ウレタンプレポリマーを、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート類と反応させて得られる方法。
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、方法1で製造することが好ましく、例えばジイソシアネート1分子に対し、1個の水酸基と2〜4個の(メタ)アクリロイル基とを有するアクリレート2分子を反応させて得ることが好ましい。
【0026】
<ウレタン(メタ)アクレート(A2)>
質量平均分子量が3,000〜5,000、且つ1分子あたりの平均(メタ)アクリロイル基数が1〜3個であるウレタン(メタ)アクリレート(A2)の市販品としては、
ダイセル・オルネスク社製 EBECRYL 8307(Mw:3500/(メタ)アクリロイル基数:2。いずれもカタログ値。以下同様。)、及び230(5000/2)等、
三菱ケミカル社製 紫光 UV−6630(3000/2)、UV−3310B(5000/2)、UV−6640B(5000/2)、UV−7000B(3500/2〜3)、及びUV−7461TE等、
日本化薬社製 KAYARAD UX−8101(3000/2)、UX−及び0937(4000/2)等、
根上工業社製 アートレジン UN−333(3000/2)、UN−352(3000/2)、UN−6305(4000/2)、UN−353(5000/2)、及びUN−9000PEP(5000/2)等、並びに、
共栄社化学社製 ウレタンアクリレート UF−8001G(4500/2)等、が挙げられるがこれらに限定されない。単独でも併用でも使用できる。
このようなウレタン(メタ)アクリレート(A2)は、前述の方法2により製造することが好ましいが、この方法に限らない。
【0027】
<ウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2)の原料>
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2)を製造する際の原料について簡単に説明する。
<水酸基を有する(メタ)アクリレート類>
前記方法1、2で用いられる水酸基を有する(メタ)アクリレート類としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性ジアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の水酸基を1個有する(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0028】
<ポリイソシアネート>
前記方法1〜4で用いられるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等およびこれらの水素添加体、もしくはイソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等およびこれらのトリメチロールプロパンアダクト体、三量化ヌレート体、アロファネート体、ビュレット体等が挙げられる。
【0029】
前記方法2、3で用いられるポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサントリオール、トリメリロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の他、
前記ポリオールと多塩基酸や多塩基酸無水物との縮重合物が挙げられる。
多塩基酸や多塩基酸無水物としては、フタル酸や無水フタル酸のような芳香族系多塩基酸、アジピン酸やセバシン酸のような脂肪族系多塩基酸が挙げられる。
【0030】
前記方法3で用いられるイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート類としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート等が挙げられる。
【0031】
前記方法4で用いられるカルボキシル基を有するポリオールとしては、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等が挙げられる。さらに、エチレングリコール、プロピレングリコールのようなポリオールとジメチロールブタン酸等と多塩基酸や多塩基酸無水物との縮重合物も挙げることができる。
【0032】
前記方法4で用いられるエポキシ基を有する(メタ)アクリレート類としては、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0033】
水酸基を有する(メタ)アクリレート類、ポリイソシアネート、ポリオール、イソシアネート基を有する(メタ)アクリレート類は、それぞれ一種類でもいいし、二種以上を併せて用いることができる。
【0034】
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2)は、カール低減の観点から分子内に環構造を有することが好ましい。例えば、脂環構造やヌレート環構造を有することにより活性エネルギー線照射時の硬化収縮を大幅に低減させることができ、その後暗反応が進行し硬化が進んでもカールしにくくなる。特にヌレート環構造を有することが好ましい。
【0035】
脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2))は、ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネートやトリレンジイソシアネートの水素添加体、キシリレンジイソシアネートの水素添加体、メチレンジフェニルジイソシアネートの水素添加体およびこれらの誘導体を用いることにより得ることができる。あるいは、水酸基を有する(メタ)アクリレート類としてシクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレートを用いることにより得ることができる。あるいは、ポリオールとしてシクロヘキサンジオールを用いることにより得ることができる。あるいは、多塩基酸や多塩基酸無水物としてシクロヘキサンジカルボン酸やその無水物を用いることにより得ることができる。
【0036】
本発明の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤は、活性エネルギー線硬化性成分(A)として、前記のウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2)の他に、(メタ)アクリル系化合物、脂肪酸ビニル化合物、アルキルビニルエーテル化合物、α−オレフィン化合物、ビニル化合物、及びエチニル化合物等の重合性不飽和二重結合基を有する化合物を用いることができる。
【0037】
(メタ)アクリル系化合物としては、アルキル系(メタ)アクリレート、アルキレングリコール系(メタ)アクリレート、カルボキシル基と重合性不飽和二重結合とを有する化合物、水酸基を有する(メタ)アクリル系化合物、窒素含有(メタ)アクリル系化合物、ベンジル(メタ)アクリレート等がある。形成されるABHC層のHC性の点からは、3個以上のアクリロイル基を有する多官能のものが好ましい。
【0038】
本発明の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤は、AB性と耐折り曲げ性を同時に達成する点から活性エネルギー線硬化性成分(A)100質量%中に、前記のウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2)を合計で50〜100質量%含み、60〜100質量%含むことが好ましく、70〜100質量%含むことがより好ましく、さらに80〜100質量%含むことが好ましい。
【0039】
本発明の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤は、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)とウレタン(メタ)アクリレート(A2)とを15/85〜75/25の質量比で含むものであり、30/70〜70/30の質量比で含むことが、形成されるABHC層のAB性や耐折り曲げ性の点で好ましい。
【0040】
<金属酸化物(B)>
本発明の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤は金属酸化物(B)を含む。
ABHC層の透明性という点においては、ハードコート剤の主成分である活性エネルギー線硬化性成分(A)の主成分であるウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2)の屈折率nDが1.46〜1.52程度なので、金属酸化物(B)の屈折率nDは1.46〜1.52程度であることが好ましい。このような金属酸化物(B)としては、例えばシリカ(nD=1.47)が挙げられる。シリカを単独で用いてもよいし、他の金属酸化物を含めた二種類以上を混合して用いてもよい。
なお、屈折率nDが上記範囲外であるアルミナやジルコニア等も本発明の効果を損なわない範囲で使用することもできる。
【0041】
シリカの市販品としては、例えば、
日本アエロジル(株)製:AEROSILシリーズ(50、90G、130、OX50、TT600)、
日産化学工業(株)製:オルガノシリカゾルシリーズ(MA−ST−M、MA−ST−L、IPA−ST−L、IPA−ST−ZL、MEK−ST−L、MEK−ST−ZL、MIBK−ST−L、MIBK−ST−M、MEK−AC−4130Y、MEK−AC−5140Z、PGM−AC−4130Y、MIBK−SD−L)、
シーアイ化成(株)製:ナノテックSiO等が挙げられる。
【0042】
これら金属酸化物(B)の平均一次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは25nm以上である。10nm以上の平均一次粒子径を有する金属酸化物(B)を含むことで、当該金属酸化物の一部がABHC層表面から突き出ることとなる。鉛筆等の接触によりハードコート層が傷つけられ切削されることを、突き出た金属酸化物が抑制・防止する。また応力を緩和しカールを抑制してクラックを防ぐという点からも、金属酸化物(B)の平均一次粒子径は、前記のように少なくとも10nmであることが重要である。
また、金属酸化物(B)の平均一次粒子径の上限としては、凝集して大きすぎる二次粒子となることを防ぐために、100nm未満であり、好ましくは50nm以下である。
金属酸化物(A)の平均一次粒子径は、電子顕微鏡の観察により求めることができる。即ち、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM−2800」)を用いて倍率2万倍で観察した際の粒子10個の平均サイズを平均一次粒子径として用いた。
【0043】
本発明の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤は、活性エネルギー線硬化性成分(A)100質量部に対し、前記金属酸化物(B)を1〜30質量部含むものであり、2〜20質量部含むことが好ましく、3〜15質量部含むことが更に好ましい。金属酸化物(B)の配合量をこれらの範囲とすることで、AB性発現と低ヘイズ、耐折り曲げ性が同時に達成できる。
【0044】
<光重合開始剤(C)>
本発明におけるハードコート剤は、光重合開始剤(C)を含む。
光重合開始剤としては、光励起によってウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2)を主成分とする活性エネルギー線硬化性成分(A)の(メタ)アクリロイル基の重合を開始できる機能を有するものであれば特に限定はなく、例えばモノカルボニル化合物、ジカルボニル化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾインエーテル化合物、アシルホスフィンオキシド化合物、アミノカルボニル化合物等が使用できる。
【0045】
具体的には、モノカルボニル化合物としては、ベンゾフェノン、4−メチル−ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチル−o−ベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、4−(4−メチルフェニルチオ)フェニル−エタノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、4−(1,3−アクリロイル−1,3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、4−(1,3−アクリロイル−1,4,7,10,13−ペンタオキソトリデシル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミン塩酸塩、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシエチル)メタアンモニウムシュウ酸塩、2−/4−イソ−プロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−ヒドロキ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9Hチオキサントン−2−イロキシ−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミン塩酸塩、ベンゾイルメチレン−3−メチルナフト(1,2−d)チアゾリン等が挙げられる。
【0046】
ジカルボニル化合物としては、1,2,2−トリメチル−ビシクロ[2.1.1]ヘプタン−2,3−ジオン、ベンザイル、2−エチルアントラキノン、9,10−フェナントレンキノン、メチル−α−オキソベンゼンアセテート、4−フェニルベンザイル等が挙げられる。
アセトフェノン化合物としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−ジ-2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−スチリルプロパン−1−オン重合物、ジエトキシアセトフェノン、ジブトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、3,6−ビス(2−メチル−2−モルホリノ−プロパノニル)−9−ブチルカルバゾール等が挙げられる。
【0047】
ベンゾインエーテル化合物としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイゾブチルエーテル、ベンゾインノルマルブチルエーテル等が挙げられる。
【0048】
アシルホスフィンオキシド化合物としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、4−n−プロピルフェニル−ジ(2,6−ジクロロベンゾイル)ホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0049】
アミノカルボニル化合物としては、メチル−4−(ジメトキシアミノ)ベンゾエート、エチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、2−n−ブトキシエチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、イソアミル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、2−(ジメチルアミノ)エチルベンゾエート、4,4’−ビス−4−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス−4−ジエチルアミノベンゾフェノン、2,5’−ビス(4−ジエチルアミノベンザル)シクロペンタノン等が挙げられる。
【0050】
光重合開始剤の市販品としては、IGM−Resins B.V.社製のOmnirad 184、651、500、907、127、369、784、2959、IGM−Resins B.V.社製ルシリンTPO、DKSHジャパン(株)製エサキュアワン等が挙げられる。
特に、活性エネルギー線硬化後の耐黄変の観点で、Omnirad 184やエサキュアワンが好ましい。
【0051】
光重合開始剤は、上記化合物に限定されず、紫外線により重合を開始させる能力があれば、どのようなものでも構わない。これらの光重合開始剤は、一種類で用いられるほか、二種類以上を混合して用いてもよい。
光重合開始剤の使用量に関しては、特に制限はされないが、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2)を含む活性エネルギー線硬化性成分(A)100質量部に対して、1〜20質量部の範囲内で使用することが好ましい。増感剤として、公知の有機アミン等を加えることもできる。
さらに、上記ラジカル重合用開始剤のほかに、カチオン重合用の開始剤を併用することもできる。
【0052】
本発明のハードコート剤は、少なくとも、前述の(A)〜(C)と、必要に応じて溶剤とを含有するものであり、さらに様々な添加剤を、本発明の目的や効果を損なわない範囲において含むことができる。
添加剤としては、例えば、重合禁止剤、光増感剤、レベリング剤、スリップ剤、消泡剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、導電性ポリマー、導電性界面活性剤、無機充填剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0053】
溶剤を加える場合は、溶剤を揮発させた後に活性エネルギー線による硬化処理を行なうことが好ましい。
溶剤としては、特に制限されるものでなく、様々な公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には例えば、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、アセチルアセトン、トルエン、キシレン、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エタノール、メタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−2−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール、乳酸エチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、ブチルアセテート、イソアミルアセテート、アジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、テトラヒドロフラン、メチルピロリドン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、2種類以上を併用しても差し支えない。
【0054】
特に水酸基含有溶剤は、シリコーンやフッ素系等の表面張力を下げるような添加剤を含む場合には、各種材料を配合して攪拌した後、又は塗工時に噛んでしまう泡に対する消泡性に優れる。水酸基含有溶剤を溶剤組成中に含有することで、塗膜欠損を抑制し歩留り向上において非常に効果的であることから好ましい。
全溶剤組成中の水酸基含有溶剤含有量は、5〜70質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、15〜40質量%であることが更に好ましい。具体的には、水酸基含有溶剤としては、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エタノール、メタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−2−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール、乳酸エチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。特に、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルは、消泡性と遅口溶剤としての揮発性に優れ塗面がより良好となることから好ましい。
【0055】
ハードコート剤の製造方法としては既知の方法で得ることができ、特に制限されない。例えば、初めにウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2)及び金属酸化物(B)を混合分散し、安定な金属酸化物分散体を得た後、光開始剤(C)及び他の様々な添加剤を添加及び調整し製造する方法等が挙げられる。
【0056】
次に、本発明の積層フィルムについて説明する。本発明の積層フィルムは、透明フィルムの少なくとも片面に、本発明の活性エネルギー線硬化ハードコート剤の硬化物層、即ちABHC層が積層されてなるものである。
【0057】
<透明フィルム>
透明フィルムとしては、薄膜でロール状に巻取り可能なガラス、若しくはプラスチック類が挙げられ、ABHC層のHC性を高いレベルで発現できるものが好ましい。具体的には、シクロオレフィン系樹脂(COP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ガラス等である。また、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のような非結晶性のフィルムは、本発明の効果を阻害しない範囲で使用することができる。
本発明においては、低複屈折、低吸湿、高透明性、及び高耐熱性に優れるCOPフィルムを用いることが好ましい。商業的にも汎用性の高いPETにも用いることができる。
また、形成されるABHC層の密着性の観点から、透明フィルム上に易接着層を設けたり、コロナ処理などの易接着処理をしたりすることもできる。
透明フィルムの厚みは、好ましくは25μm〜500μm、より好ましくは50μm〜300μm、更に好ましくは75μm〜200μmである。
透明フィルムがCOPフィルムの場合、ABHC層はCOPフィルムの両面に設けることが好ましい。
【0058】
透明フィルムへハードコート剤を塗工する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えばロットまたはワイヤーバー等を用いた方法や、マイクログラビア、グラビア、ダイ、カーテン、リップ、スロットまたはスピン等の各種コーティング方法を用いることができる。
硬化処理は、透明フィルムにハードコート剤を塗工し、自然または強制乾燥させたあとに活性エネルギー線を照射し硬化する。
【0059】
活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、波長400〜500nmの可視光線等の利用が挙げられる。
紫外線および波長400〜500nmの可視光線の線源(光源)には、例えば高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ガリウムランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ等を使用することができる。電子線源には、熱電子放射銃、電解放射銃等を使用することができる。これらの活性エネルギー線照射に、赤外線、遠赤外線、熱風、高周波加熱等による熱処理を併用することができる。
なお、電子線で硬化させる場合は、水による硬化阻害または有機溶剤の残留による塗膜の強度低下を防ぐため、自然または強制乾燥させたあとに硬化処理を行なう方がより好ましい。硬化処理のタイミングは、塗工と同時でもよいし、塗工後でもよい。
【0060】
照射する活性エネルギー線量は、十分な性能発揮の点から、50〜2000mJ/cmの範囲内であることが好ましく、100〜1500mJ/cmの範囲内がより好ましく、200〜1000mJ/cmの範囲内がさらに好ましい。
ABHC層の厚みは、好ましくは0.5μm〜5μm、より好ましくは0.7μm〜4μm、更に好ましくは1μm〜3μmである。
また、ABHC層の表面粗さRaは0.1〜1.5nmであることが好ましい。表面粗さRaは、膜厚100μmの透明フィルム上に、膜厚2μmのABHC層を設けた場合の値である。表面粗さ(Ra)は、JIS B0601・JIS B0031に定義される算術平均粗さを示す。
【0061】
次に本発明の透明導電フィルムについて説明する。
本発明の透明導電フィルムは、透明フィルムの両面にそれぞれ本発明の活性エネルギー線硬化ハードコート剤の硬化物層、即ちABHC層が積層され、前記の各ABHC層上にそれぞれインデックスマッチング層(以下、IM層ともいう)が積層され、さらに前記の各インデックスマッチング層上にそれぞれ透明導電層が積層されているものである。
【0062】
<インデックスマッチング層(IM層)>
IM層は、当該IM層上に形成される透明導電層がパターニングされた後、パターニング形状を見えにくくする目的で積層される、屈折率の高い層であり、具体的には屈折率の高い金属酸化物粒子と活性エネルギー線硬化性成分とを含む組成物の硬化物層である。透明導電層は、後述するように導電性金属化合物によって形成されるので、その屈折率は1.55〜1.90程度である。従って、IM層の屈折率はできるだけ透明導電層の屈折率に近しいことが好ましい。
前記屈折率の高い金属酸化物粒子および活性エネルギー線硬化性成分は既知の材料を用いて得ることができる。例えば、屈折率の高い金属酸化物粒子としては、酸化チタン(nD=2.72)、酸化ジルコニウム(nD=2.22)、酸化アルミニウム(nD=1.77)等が挙げられる。また、活性エネルギー線硬化性成分としては、前述のハードコート剤に含まれるウレタン(メタ)アクリレート(A1)、(A2)やその他の硬化性成分を同様に例示できる。
IM層の厚みは、好ましくは0.03μm〜30μm、より好ましくは0.05μm〜10μmである。
【0063】
<透明導電層>
透明導電層は、IM層の上に積層される層であり、具体的には真空を利用した成膜法により形成される層である。真空を利用した成膜法としては、例えば、真空蒸着法(物理的蒸着法又は化学的蒸着法)、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のドライプロセスを用いることができる。これらの方法により、IM層に導電性金属化合物を付着させ透明導電層を形成できる。透明導電層は、IM層の全面に設けられた後、エッチング等の方法により所望の形状にパターニングすることによって、回路や電極とすることができる。
透明導電層の厚みは、導電性向上、及びIM層との密着性向上の点から、1nm〜数十nmの範囲内であることが好ましく、さらには0.01〜1μmの範囲内であることがより好ましい。
透明導電層の形成に用いられる導電性金属化合物としては、酸化インジウムスズ、酸化スズ、酸化亜鉛、銀又は銅ナノワイヤー等が挙げられる。
【0064】
またIM層と透明導電層との間にアンカー層を配し、IM層とアンカー層とが接し、アンカー層と透明導電層とが接する態様とすることができる。
IM層と透明導電層とが接する前述の場合と同様にして、まず、透明フィルム上にABHS層、IM層を順に形成する。次いで、IM層上にアンカー層を形成した後、透明導電層を形成する。
【0065】
アンカー層は、透明導電層の場合と同様に真空を利用した成膜法により形成される層である。アンカー層の形成に用いられる金属酸化物としては、酸化ケイ素が挙げられ、強固な密着性を付与できることから好ましい。
【0066】
<光学部材>
光学部材は、前述の通り、少なくともABHC層、透明フィルム、IM層、透明導電層を有する積層体をエッチング処理等によりパターニング化することにより得られるタッチセンサーを備えた部材である。
【0067】
<電子機器>
電子機器は、前述のタッチセンサーを備えた各種機器、例えば、スマートフォン、タブレット、PC、テレビ、カーナビや、その他商業施設等の案内板や交通券売機などの機器のことをいう。これら機器において前述のタッチセンサーはタッチパネルとして機能する。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、この実施例により何ら限定されるものではない。尚、実施例において材料の配合部数は、溶剤を除き、不揮発分換算である。
【0069】
(実施例1)
ウレタンアクリレート(A1)としてMIRAMER PU610(MIWON社製 質量平均分子量:1,800、アクリロイル基数:6個。以下、ウレタンアクリレート(A1−1)ともいう)を20質量部、ウレタンアクリレート(A2)として紫光 UV−7000B(三菱ケミカル社 質量平均分子量:3,500、アクリロイル基数:2.5個。以下、ウレタンアクリレート(A2−1)ともいう)を80質量部、金属酸化物(B)としてAEROSIL130(シリカ、平均一次粒子径16nm、日本アエロジル(株)社製)(以下、金属酸化物(B1)ともいう)を5質量部、光重合開始剤としてDKSHジャパン(株)製のエサキュアワンを5質量部、レベリング剤としてBYK349(シリコーン系添加剤、ビックケミー・ジャパン(株)社製)を0.1質量部、希釈溶剤として酢酸ブチル及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を用いて、ハードコート剤(以下、ABHC剤ともいう)を得た。
【0070】
透明フィルムである100μm厚のCOPフィルム(日本ゼオン(株)社製「ゼアノア ZF16」)上に、バーコーターを用いて、得られたハードコート剤を塗工し、乾燥して有機溶剤を除去した後、高圧水銀ランプを用いて200mJ/cmの紫外線を照射し、2μmのハードコート層(以下、ABHC層ともいう)を形成し、中間体を得た。
次いで、得られ中間体のハードコート層とは反対面の透明フィルム上に、得られたABHC剤を前述と同様に塗工・乾燥・照射し、両面にABHC層を設けた積層フィルムを得た。
後述する方法に従い、積層フィルムのヘイズ、ABHC層の表面粗さ(Ra)、ABHC層のアンチブロッキング(AB)性(張り付き性)、積層フィルムの耐折り曲げ性(COPフィルムの割れの有無)、及びABHC層の耐擦傷性の評価を行った。
【0071】
(実施例2〜9)、(比較例1〜5)
表1に示すようにウレタンアクリレート(A1)とウレタンアクリレート(A2)の種類と量を変更した以外は実施例1と同様にしてABHC剤を得、両面にABHC層を設けた積層フィルムを得、同様に評価した。
【0072】
(実施例10〜19)、(比較例6〜7)
表2に示すように金属酸化物(B1)の量を変更した以外は実施例1と同様にしてABHC剤を得、両面にABHC層を設けた積層フィルムを得、同様に評価した。
なお、実施例4を便宜上実施例13として表2に記載する。
【0073】
(実施例20〜26)、(比較例8)
実施例20〜25、比較例8は、表3に示すように金属酸化物(B)として、平均一次粒子径の異なる種々の金属酸化物(B1)〜(B7)を5部用いた以外は実施例1と同様にしてABHC剤を得、両面にABHC層を設けた積層フィルムを得、同様に評価した。
実施例26は光重合開始剤としてエサキュアワンの代わりにIGM−Resins B.V.社製のOmnirad 184を用いた以外は実施例25と同様にしてABHC剤を得、両面にABHC層を設けた積層フィルムを得、同様に評価した。
なお、実施例4を便宜上実施例13として表3に記載する。
【0074】
(比較例9〜17)
表4に示すように、ウレタンアクリレート(A1)、(A2)以外のウレタンアクリレート(A3−1)〜(A3−9)をそれぞれ100質量部用いた以外は実施例1と同様にしてABHC剤を得、両面にABHC層を設けた積層フィルムを得、同様に評価した。
【0075】
(比較例18〜21)
表4に示すように、ウレタンアクリレート(A1)と(A2)とを併用する代わりに、ウレタンアクリレート(A3−3)と(A3−8)、(A3−2)〜(A3−7)を併用した以外は実施例1と同様にしてABHC剤を得、両面にABHC層を設けた積層フィルムを得、同様に評価した。
【0076】
(比較例22)
表4に示すように、ウレタンアクリレート(A1−1)と(A2−1)とを20質量部づつ併用し、さらに「M−460」(東亞合成(株)製、ジグリセリンEO変性アクリレート)を60質量部用いた以外は実施例1と同様にしてABHC剤を得、両面にABHC層を設けた積層フィルムを得、同様に評価した。
【0077】
(比較例23〜24)
表4に示すように、ウレタンアクリレート(A3−8)と上記「M−460」とを用いた以外は実施例1と同様にしてABHC剤を得、両面にABHC層を設けた積層フィルムを得、同様に評価した。
【0078】
各実施例、各比較例で用いたウレタンアクリレート、金属酸化物、光重合開始剤等は以下の通り。
なお、ウレタン(メタ)アクリレートの1分子中の(メタ)アクリロイル基の個数及び質量平均分子量は、メーカーがカタログ等に表記している値を示した。
【0079】
<ウレタン(メタ)アクリレート(A1)>
・ウレタンアクリレート(A1−1):MIRAMER PU610(MIWON社製 質量平均分子量:1,800、アクリロイル基数:6個)
・ウレタンアクリレート(A1−2):紫光 UV−7650B(三菱ケミカル社製 質量平均分子量:2,300 平均(メタ)アクリロイル基数:4.5個)(※:カタログ値は「4〜5」であったので、「4.5」とした。)
・ウレタンアクリレート(A1−3):ウレタンアクリレート UV7605B(三菱ケミカル社製、分子量1,100、アクリロイル数:6個)
【0080】
<ウレタン(メタ)アクリレート(A2)>
・ウレタンアクリレート(A2−1):紫光 UV−7000B(三菱ケミカル社 質量平均分子量:3,500、アクリロイル基数:2.5個(※:カタログ値は「2〜3」であったので、「2.5」とした。)
・ウレタンアクリレート(A2−2):ウレタンアクリレート UF−8001G(共栄社化学社製 質量平均分子量:4,500、アクリロイル基数:2個)
【0081】
<その他のウレタン(メタ)アクリレート(A3)>
・ウレタンアクリレート(A3−1):ウレタンアクリレート AH−600(共栄社化学社製 質量平均分子量:613、アクリロイル基数:2個)
・ウレタンアクリレート(A3−2):ブレンマー DA−800AU(日油社製 質量平均分子量:1,100 アクリロイル基数:2個)
・ウレタンアクリレート(A3−3):紫光 UV−1700B(三菱ケミカル社製 質量平均分子量:2,000 アクロイル基数:10個)
・ウレタンアクリレート(A3−4):紫光 UV−6300B(三菱ケミカル社製 質量平均分子量:3,700 アクリロイル基数:7個)
・ウレタンアクリレート(A3−5):アートレジン UN−901T(根上工業社製 質量平均分子量:4,000 アクリロイル基数:9個)
・ウレタンアクリレート(A3−6):EBECRYL 4491(ダイセル・オルネスク社製 質量平均分子量:7,000 アクリロイル基数:2個)
・ウレタンアクリレート(A3−7):KAYARAD UX−5103D(日本化薬社製 質量平均分子量:7,000 アクリロイル基数:6個)
・ウレタンアクリレート(A3−8):紫光 UV−7610B(三菱ケミカル社製 質量平均分子量:1,1000 アクリロイル数:9個)
【0082】
<他の活性エネルギー線硬化性成分>
M−460:東亜合成(株)、ジグリセリンEO変性アクリレート
【0083】
<金属酸化物(B)>
(B1)AEROSIL130(シリカ、平均一次粒子径16nm、日本アエロジル(株)社製)、
(B2)CHO−ST−M(シリカ、平均一次粒子径22nm、日産化学(株)社製)、
(B3)AEROSIL50(シリカ、平均一次粒子径30nm、日本アエロジル(株)社製)、
(B4)MEK−AC−4130Y(シリカ、平均一次粒子径45nm、日産化学(株)社製)、
(B5)MEK−AC−5140Z(シリカ、平均一次粒子径85nm、日産化学(株)社製)、
(B6)MEK−ST(シリカ、平均一次粒子径10nm、日産化学(株)社製)。
(B7)KEP−10(シリカ、平均一次粒子径100nm、(株)日本触媒社製)。
【0084】
<光重合開始剤(C)>
(C1)エサキュアワン(DKSHジャパン(株)社製)、
(C2)Omnirad 184(IGM−Resins B.V.社製)
【0085】
<<評価方法>>
[ヘイズ(%)]
COPフィルムの両面にABHC層を設けた積層フィルムについて、JIS K 7136に準じた方法でヘイズを求めた。
【0086】
[表面粗さ(Ra)]
COPフィルムの両面にABHC層を設けた積層フィルムのABHC層について、タリサーフCCI(テーラーホブソン社製)を用い、算術平均表面粗さ Raを測定した。表面粗さ(Ra)とは、JIS B0601・JIS B0031に定義される算術平均粗さである。
【0087】
[アンチブロッキング性(AB性:耐張り付き性)]
COPフィルムの両面にABHC層を設けた積層フィルム、および100μm厚のCOPフィルムをそれぞれ4cm×4cmの大きさに切る。
積層フィルムを2枚用意し、ABHC層同士が接するように重ね、4cm×4cmの面全体に10kgの荷重を加えた状態で、23℃の環境下に3日間、または50℃の環境下に1日間それぞれ静置した。
別途、積層フィルムのABHC層がCOPフィルムに接するように重ね、4cm×4cmの面全体に10kgの荷重を加えた状態で、同様に静置した。
静置後、荷重を取り除き、張り付いた面積をフィルムの外部から目視で確認し、以下の基準で評価した。なお、積層フィルム同士が(つまり、ABHC層同士が)張り付いたり、積層フィルムとCOPフィルムが(つまり、ABHC層とCOPフィルムとが)張り付いたりしてしまうと、まるで透明なガラスの間に水が濡れ広がったかのような痕が観察される。
◎:張り付き面積率が0%未満。優良。
〇:張り付き面積率が0%以上、5%未満。良好。
△:張り付き面積率が5%以上、10%未満。使用可。
×:張り付き面積率が10%以上。不良。
【0088】
[耐折り曲げ性(COPフィルムの割れの有無)]
COPフィルムの片面にABHC層を設けた中間体、およびCOPフィルムの両面にABHC層を設けた積層フィルムをそれぞれ手で180°に折り曲げた際、COPフィルムに割れが生じるか否かを評価した。なお、中間体の場合、ABHC層が外側になるように折り曲げた。
無:良好
有:不良
【0089】
[耐擦傷性(SW試験)]
COPフィルムの両面にABHC層を設けた積層フィルムを学振試験機にセットし、ABHC層の表面を、No.0000のスチールウールで、荷重200gの条件で10回往復擦り、擦った後の傷の数で評価した。
◎:1本以上5本未満、優良。
〇:5本以上10本未満、良好。
△:10本以上15本未満、使用可。
×:15本以上、不良。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
表1〜3に示すように、比較分子量が小さく(メタ)アクリロイル基が多くハードコート性に優れるウレタン(メタ)アクリレート(A1−1)や(A1−2)と、比較的分子量が大きく(メタ)アクリロイル基が少なく柔軟性に優れるウレタン(メタ)アクリレート(A2−1)や(A2−2)との両方を特定の割合で含み、大きすぎない金属酸化物(B)を適量含む各実施例のABHC剤は、COPフィルムの光学特性を損なうことなく、ヘイズ値が低く、表面粗さRaが小さいにも関わらず、AB性に優れ、耐折り曲げ性や耐擦傷性にも優れる積層フィルムを提供できる。
【0095】
一方、比較例1に示すようにウレタン(メタ)アクリレート(A1−1)が多すぎたり、比較例2、3に示すようにウレタン(メタ)アクリレート(A1−1)や(A1−2)だけを用いたりする場合は、形成されるABHC層が硬すぎるので、積層フィルムを2つ折りするとCOPフィルム自体に割れが生じる。
また、比較例4、5に示すようにウレタン(メタ)アクリレート(A2−1)や(A2−2)だけを用いる場合は、形成されるABHC層が軟らかすぎるので、AB性、耐擦傷性の点で満足できない。
ウレタン(メタ)アクリレート(A1−1)や(A2−1)を併用しても、表2の比較例6に示すように金属酸化物(B)を含まないとAB性や耐擦傷性の点で満足できず、比較例7に示すように金属酸化物(B)の量が多すぎると耐折り曲げ性の点で満足できない。
また、表3の比較例8に示すように金属酸化物が大きすぎると、ヘイズが上昇し、耐折り曲げ性の点でも満足できない。
【0096】
また、比較例9〜21に示すように、ウレタンアクリレートではあっても、質量平均分子量や(メタ)アクリロイル基が特定の範囲内にないものを単独で用いたり、質量平均分子量や(メタ)アクリロイル基が特定の範囲内にないものを2種類併用したりする場合には、AB性、耐折り曲げ性、耐擦傷性を満足することはできなかった。
さらに、比較例22に示すように、ウレタン(メタ)アクリレート(A1−1)や(A2−1)を併用しても、活性エネルギー線硬化性成分中に占める割合が少ないと、AB性と耐折り曲げ性が満足できない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の活性エネルギー線硬化性ハードコート剤は、COPフィルムへの密着性もよく、COPフィルムを支持体として用いた場合に、高いレベルでアンチブロッキング性、耐折り曲げ性に優れる積層フィルムを提供できる。このような積層フィルムを用いてなる透明導電フィルムは、スマートフォン、タブレット、PC、テレビ、カーナビや、その他商業施設等の案内板や交通券売機などに搭載されるタッチパネル機能を発揮する部材として利用できる。
【要約】
【課題】 透明性に優れ、室温付近だけでなく高温時においても、ABHC層同士だけでなくABHC層とCOPフィルムとのAB性に優れ、ABHC層をCOPフィルムの片面に設けた場合だけでなく両面に設けた場合でも耐折り曲げ性に優れ、耐擦傷性にも優れる積層体を形成し得る、活性エネルギー線硬化性ハードコート剤の提供。
【解決手段】 活性エネルギー線硬化性成分(A)100質量部に対し、平均一次粒子径が100nm未満である金属酸化物(B)を1〜30質量部含み、前記活性エネルギー線硬化性成分(A)100質量%中に、重量平均分子量と1分子あたりの(メタ)アクリロイル基数とが異なる2種類のウレタン(メタ)アクリレート(A1)と(A2)とを合計で50〜100質量%含み、前記(A1)と(A2)との質量比が15/85〜75/25である、活性エネルギー線硬化性ハードコート剤。
【選択図】 なし