【実施例】
【0015】
以下、
図1〜
図6を参照して本発明の塗膜転写装置の具体的実施形態について説明する。本発明の塗膜転写装置1は、筺体2に、基材に塗膜が塗布された転写テープPを送り出す送出軸部3と、送出軸部2から送り出された転写テープPを被転写体に転写するための転写部4と、転写部4により転写テープPから塗膜が被転写体に転写された後の基材を巻き取る巻取軸部5とを備え、幅の広い転写領域に塗膜を転写するために、送出軸部3、転写部4、巻取軸部5、をそれぞれ軸方向に複数並設したことを基本構成とする。
【0016】
なお、本実施例では、筺体2に、2組の送出軸部3、転写部4、巻取軸部5を備え、かつ送出軸部3が、転写部4側に配置された構成について説明する。また、転写テープPは、送出軸部3にあるときは基材に塗膜が塗布された状態(つまり転写テープP)であるが、巻取軸部5に巻装されると塗膜が被転写体に転写された基材だけとなり、説明の混乱を避けるため、以下、転写テープPと記した場合は、基材に塗膜が塗布された(送出軸部5から転写部4までの)状態及び塗膜が被転写体に転写されて基材だけとなった(転写部4から巻取軸部5までの)状態を、言うこととする。
【0017】
筺体2は、
図3及び
図4に示すように、転写テープPの幅方向に、筺体2A,筺体2Bのように2分割されている。筺体2Aと筺体2Bの中央位置には、セパレータ2Cが設けられている。筺体2Aは、内面において、送出軸部3,3、巻取軸部5,5の配置位置に、それぞれ軸2a,2bが突設されている。筺体2Bは、内面において、前記軸2a,2bのそれぞれに嵌入状に受ける軸受部2c,2dが突設されている。
【0018】
セパレータ2Cは、送出軸部3,3、巻取軸部5,5の各々に巻装端面位置に形成された転写テープPの巻装を整列させるためのガイドフランジFが当接する円筒部2e,2fが形成されており、前記軸2a,2bもこの円筒部2e,2fにそれぞれ挿通される。
【0019】
また、筺体2Aの内底面位置には、駆動手段である、送出ギヤ3A、巻取ギヤ5Aがそれぞれ軸2a、軸2bに挿通されている他、本例では、中間ギヤG1,G2が枢支されている。本例における(ギヤ)配列は、送出軸部3,3を転写部4側に位置させる関係で、送出ギヤ3Aが転写部4側、これと噛合する中間ギヤG1、これと噛合する中間ギヤG2、これと噛合する巻取ギヤ5A、とされている。
【0020】
送出ギヤ3Aは、
図3に示すように、送出ギヤ3Aの送出軸部3に面する側の中央端面に軸筒部3Aaが形成されている。この軸筒部3Aa内に、軸2aが挿通されている。また、軸筒部3Aaは、軸方向途中でセパレータ2Cの円筒部2e内の位置に段部3Abが形成されている。さらに、軸筒部3Aaは、軸方向に、段部3Abを境に内径が大きい大径部3Ac、内径の小さい小径部3Adが形成されている。
【0021】
また、大径部3Acと小径部3Adの各々の送出ギヤ3Aの端面から離間する方向の端部における周面の一部には、外側へ鉤状に突出した係合部3Ae,3Afがそれぞれ形成されている。さらに、送出ギヤ3Aの送出軸部5側の端面と、段部3Abの筐体2B側の端面には、それぞれ、自然長で伸張状態となったばね6,7が設けられている。
【0022】
一方、本例における巻取ギヤ5Aは、
図3に示すように、巻取ギヤ5Aの巻取軸部5に面する側の中央端面に軸筒部5Aaが形成されている。この軸筒部5Aa内に、軸2bが挿通されている。軸筒部5Aaは、巻取ギヤ5Aの巻取軸部5に面する側の中央端面から、筐体2Bの軸受部2dまで同一内径にて延設されている。
【0023】
送出軸部3は、転写テープPの幅分の間隔でガイドフランジF,Fが外周面に周設された筒状体とされており、この外周面に転写テープPが巻装される。また、送出軸部3の内周面には、大径部3Acの軸筒部3Aaの外径、小径部3Adの軸筒部3Aaの外径、が各々挿通されるコア部3B,3Cが設けられている。これらコア部3B,3Cの外周には腕部を介して外径を同じとする巻装部が設けられており、この巻装部に転写テープPが巻装されている。
【0024】
巻取軸部5は、転写テープPの幅分の間隔でガイドフランジF,Fが外周面に周設された筒状体とされており、この外周面に転写テープPが巻装される。また、送出軸部3の内周面には、軸筒部5Aaが挿通されるコア部5Bが設けられている。このコア部5Bの外周には腕部を介して巻装部が設けられており、この巻装部に転写後の転写テープP(基材)が巻装される。
【0025】
本例では、送出軸部3には、コア部3B(内径大)及びコア部3C(内径小)の各々の筐体2B側における端面がそれぞれ係合部3Ae及び係合部3Afと係合している。一方、コア部3B(内径大)の筐体2A側における端面でばね6を送出ギヤ3A端面に、コア部3C(内径小)の筐体2A側における端面でばね7を段部3Abの端面に、各々押圧している。
【0026】
すなわち、本例では、上記、送出ギヤ3Aの軸筒部3Aaに形成された筐体2Bに面した端面及び段部3Abの筐体2Bに面した端面、前記軸筒部3Aaに挿通されたばね6,7、コア部3B,3Cの軸方向の両端面、及び軸筒部3Aaに形成した係合部3Ae,3Afによって、本発明におけるスリップ機構が構成されている。
【0027】
転写部4は、本例では、転写テープPの粘着性(糊タイプ)としているため、この塗膜を被転写体に転写するのに適したローラ状のものを採用している。転写部4のローラは回動可能に筐体2に枢支され、この枢支軸は、位置的には同軸であるが、隣接方向に分離している。
【0028】
つまり、本発明の塗膜転写装置1は、送出軸部3、巻取軸部5、転写部4のセットが、筐体2A側と筐体2B側で2セット存在する構成とされているが、駆動に関しては1系統であり、それぞれのセットが独立していない。以下、上記構成の本発明の塗膜転写装置1の動作に関して説明する。
【0029】
塗膜転写装置1は、予め(特許文献1に示された転写台のような)トレーに載置された幅の広い被転写体が転写部4に押圧され、又は転写部4(塗膜転写装置1全体)が予めトレーのように部材に載置された幅の広い被転写体に押圧され、つまり、被転写体と転写部4とが、被転写体又は塗膜転写装置1のいずれか一方から他方に押圧され、被転写体を巻取軸部5から送出軸部3へ向かう方向へ移動させると、被転写体の移動により転写部4が回転し、転写テープPを送る。なお、ここでの説明では2セット分が同時に稼働するので、各部材の参照符号も総称して記している。
【0030】
転写部4の回転により、転写テープPが送られる、つまり、本例の場合は、送出軸部3から引き出されると、この引き出しに伴う送出軸部3の回転を動力として、この動力が送出ギヤ3A、中間ギヤG1、中間ギヤG2、巻取ギヤ5Aと伝達され、巻取軸部5Aが回転して転写部4からの転写テープPを巻き取る。
【0031】
このとき、塗膜転写装置1は、上記のとおり、送出軸部3、転写部4、巻取軸部5を2セット有するが、駆動手段が1系統であるため、通常であれば、スリップ機構が、巻装外径の差に起因した、送出軸部3による転写テープPの送り出し量と巻取軸部5による転写テープPの巻き取り量の差を調整するべく、常時、送出軸部3と巻取軸部5が駆動手段の回転軸に対してスリップ(空回り)するようにしている。
【0032】
このスリップは、巻装外径が小さい側が巻装外径の大きい側より多く回転することから、巻装外径の小さい側を多くスリップさせて調整する必要があるが、送出軸部3と巻取軸部5との間では、使用につれて巻装外径の大小関係が変化、換言すれば巻装外径が同一となるのは瞬間的であり、ほとんどが送出軸部3と巻取軸部5のどちらかが巻装外径が大きく、他方が小さい、という関係となる。
【0033】
よって、送出軸部3と巻取軸部5の両者にスリップ機構を設ければよいが、そうするとコストアップや装置全体が大型化する可能性があるので、通常、送出軸部3と巻取軸部5のうちより効率のよい一方、つまり本例では以下に検証したとおり巻取軸部3にスリップ機構を設けている。
【0034】
ここで、本発明構成に至る経緯と理由並びに効果について
図6及び
図7を用いて説明する。なお、
図6及び
図7では、上記構成を踏まえて、駆動手段をM1,M2、スリップ機構(スリップトルクとして記すこともある)をTc1,Tc2、送出軸部3及び巻取軸部4の軸部セットをC1,C2、送出軸部3の巻装径をD1,D2、巻取軸部5の巻装径をd1,d2、としており、各構成を抽象化して示している。
【0035】
幅の広い被転写体に対して塗膜を転写する場合、幅の広い転写テープとこれを転写可能な同じく幅の広い転写部を有すれば良いが、これでは幅が広いすなわち軸が長いため、軸中央部が被転写体に対して反るように撓んでしまうという課題がある。そこで、
図6(a)及び
図6(b)に示すように、幅の短いいわゆる文具として広く普及している転写具を軸方向に複数並設する構成で検討した。
【0036】
図6(a)に示す構成は、全く同じ転写具を2つ軸方向に並設している。
図6(b)に示す構成は、駆動部材M1と駆動部材M2が、並設した軸方向中央で線対称位置にある転写具を2つ軸方向に並設している。
【0037】
したがって、
図6(b)の構成は、駆動部材M2が軸方向中央部位に存在しないので、
図6(a)の構成に較べて、転写される塗膜同士の間隔を狭く(W2<W1)することが
できる点でより実用的である。しかし、
図6(b)も、
図6(a)同様に、2つの筐体、駆動手段M1,M2、スリップ機構Tc1,Tc2のように、全てにつき2セット備える点では変わりがない。
【0038】
そこで、
図6(c)の構成、つまり本発明のように、軸部セットC1,C2を1つの筐体に収納し、かつ駆動手段M1を共用する構成とした。こうすることで、駆動手段M2が
不要となるほか、並設した筐体の厚み分だけ転写される塗膜同士の間隔を
図6(b)の構成よりさらに狭くすることができる(W3<W2)。
【0039】
続いて、スリップ機構について説明する。文具として普及している通常の(送出軸部、巻取軸部、転写部を有した)転写具は、転写テープの巻き取りや送り出しの量の差に起因したたるみを防止するために、送り出し量よりも巻き取り量が多くなるようにギヤ比(駆動手段)を設定している。
【0040】
また、転写具は、使用初期は、送出軸部の巻装径が巻取軸部の巻装径より大きいので、送出軸部の転写テープの引出力が巻取軸部の転写テープの巻取力より大きく(送出量>巻取量)、よって転写テープが不必要に送り出されて弛む場合がある。
【0041】
上記の逆で、転写具は、使用末期になると、巻取軸部の巻装径が送出軸部の巻装径より大きくなり、巻取軸部の転写テープの巻取力が送出軸部の転写テープの引出力より大きく(巻取量>送出量)、よって転写テープの送出量が巻取量について行けず、転写テープが緊張して、破断する場合がある。
【0042】
スリップ機構は、ギヤ比を設定したうえでなお、上記不具合の抑制を図るべく設けており、ある一定のトルクが加わると、これを緩衝するべく、駆動手段の回転軸に対して空回り、すなわち駆動手段の回転軸は回転するがこれに伴っては回転しないようスリップさせるものである。
【0043】
以上は、送出軸部、巻取軸部の軸部セットを1セットだけ備えた、通常の文具としての転写具におけるスリップ機構の考え方であるが、本発明の塗膜転写装置1は、軸部セットが2セットあり、かつ駆動手段の回転軸は隣接する各送出軸部3,3、巻取軸部5,5で共用であるため、隣接する軸部の回転量の差を考慮する必要がある。
【0044】
隣接する軸部の回転量の差は、例えば転写テープPの塗膜の塗工による総厚やスリット時の張力による巻装径のばらつきによって生じる可能性がある。つまり、隣接する送出軸部3、3では使用初期の段階から既に巻装径の差が生じている可能性がある。
【0045】
例えば送出軸部3,3で巻装径の差が生じていると、小径側がよりスリップしつつ大径側より多くの転写テープPを送り出す必要があり、よって隣接する軸部のそれぞれ(送出軸部3,3、又は巻取軸部5,5)についてスリップ機構を要するのである。
【0046】
そして、
図7に示すように、スリップ機構Tc1,Tc2は、送出軸部3,3の各々、又は、巻取軸部5,5の各々のいずれにするか、また、どのような条件で設けると良いかについて検証した。
【0047】
この結果、
図7(b)に示すように、巻取軸部5,5にスリップ機構Tc1,Tc2を設ける構成であると、送出軸部3,3の巻装径D1,D2の大小を問わず、送出軸部3,3の巻装径D1,D2の1回転における転写テープPの長さ差が発生した。
【0048】
また、送出軸部3,3の回転量が小径>大径(図の場合D2>D1:以下同じ)となりギヤの回転が回転量の多い小径側に追従するため、大径側で送り出される転写テープPの長さが余剰となった。
【0049】
さらに、巻取軸部5,5の回転は、送出軸部3,3における巻装径の小径側(D2)に比例するため、大径側(D1)において転写テープPの弛みが発生した。
【0050】
一方、
図7(a)、すなわち本発明の上記構成のように、送出軸部3,3にスリップ機構Tc1,Tc2を設ける構成の場合、次のような特徴があった。
【0051】
<巻装径がD1>D2の場合>
○:スリップトルクが「Tc1>Tc2」であると、小径側(D2)のスリップが生じて送出量の不足が改善された。
×:スリップトルクが「Tc1<Tc2」であると、大径側(D1)がスリップしやすくなり送出量の差が拡大し、弛みが発生した。
【0052】
<巻装径がD1<D2の場合>
×:スリップトルクが「Tc1>Tc2」であると、大径側(D2)がスリップしやすくなり送出量の差が拡大し、弛みが発生した。
○:スリップトルクが「Tc1<Tc2」であると、小径側(D1)のスリップが生じて送出量の不足が改善された。
【0053】
以上のことから、スリップ機構は、転写部4側に配置された送出軸部3,3の巻装径の小径側を大径側よりスリップしやすくすれば良いことが判明した。
【0054】
このように、本発明の塗膜転写装置1は、軸中央部が被転写体に対して反るように撓んでしまうということで生じる、被転写体上の塗膜に皺が発生したり、ローラ上の基材が蛇行搬送されることが防止されると共に、使用初期から使用末期に至るまで、弛んだり、緊張することなく、安定して転写テープPを送り出す及び巻き取ることができる。
【0055】
なお、上記では、塗膜転写装置1は、送出軸部3,3、巻取軸部5,5、すなわち1個の送出軸部3に対して1個の巻取軸部を設ける(一対一)構成を示したが、これに限らず、例えば送出軸部3,3、巻取軸部5、すなわち2個の(複数の)送出軸部3,3に対して1個の巻取軸部5を設ける(二対一)構成としてもよい。