(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電子写真用トナー(以下、単にトナーともいう。)は、ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂とを含む結晶性複合樹脂を含有する結着樹脂を含有する。
【0011】
本発明における結晶性複合樹脂は、254nmの波長でUV検出を行ったときの分子量が1,000以下の成分を一定量含んでいることが重要である。これにより、低温定着性を損なうことなく、画像のカブリ発生を顕著に低減することができる。しかしながら、RI検出を行ったときの分子量が1,000以下の成分が多すぎると、トナーがカートリッジから現像機に供給されてから数時間放置されたときに、トナーから電荷がリークし、次に印字を行う際にカブリが発生しやすい(以下、放置カブリともいう)。これは、分子量が1,000以下の成分が過剰に含まれていると、トナーが吸湿しやすいため、トナーから電荷がリークしやすいためである。
【0012】
上記観点から、本発明における結晶性複合樹脂は、クロロホルム可溶分のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された分子量分布において、下記要件、(1)及び(2)を充足するものである。
(1) RI検出を行ったときの重量平均分子量が50,000以下であり、横軸をlog[M]、縦軸を重量分率[dW/d(log M)]とする微分分子量分布曲線における分子量が1,000,000以下の領域のピークの総面積中の、分子量が1,000以下の領域のピークの面積の比率が5%未満である。
(2) 254nmの波長でUV検出を行ったときの横軸をlog[M]、縦軸を重量分率[dW/d(log M)]とする微分分子量分布曲線における分子量が1,000,000以下の領域のピークの総面積中の、分子量が1,000以下の領域のピークの面積の比率が5%以上18%以下である。
【0013】
要件(1)のRI検出では、結晶性複合樹脂の全体の分子量分布が測定される。結晶性複合樹脂の重量平均分子量が50,000を超えると、結晶性材料の粘度が高くなるため、低温定着性を悪化させる。
【0014】
要件(1)のRI検出によるGPCにより測定される結晶性複合樹脂の重量平均分子量は、耐熱保存性の観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは40,000以下、より好ましくは30,000以下である。
【0015】
要件(1)のRI検出によるGPCにより測定される結晶性複合樹脂の数平均分子量は、耐熱保存性の観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは4,000以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは6,500以下、より好ましくは5,500以下である。
【0016】
また、RI検出を行ったときの横軸をlog[M]、縦軸を重量分率[dW/d(log M)]とする微分分子量分布曲線における分子量が1,000,000以下の領域のピークの総面積中の、分子量が1,000以下の領域のピークの面積の比率は、画像カブリ低減の観点から、5%未満、好ましくは4%以下である。
【0017】
要件(2)では、UV検出における、分子量が1,000以下の領域のピーク面積の比率を規定している。RI検出は、結晶性複合樹脂全体の分子量分布を示す一方で、UV検出を採用することで、UV領域に吸収を有する芳香族環を有する樹脂成分の分子量分布を知ることができる。放置カブリ抑制のためには、RI検出で全体の分子量を見た時、低分子量成分は少ない方が良好な一方で、画像カブリ低減の観点からは結晶性複合樹脂中に芳香族環を含む樹脂が分散している方が有利であり、UV検出では1,000以下の割合が少ないと効果が薄い。しかしながら、多すぎても芳香族成分の分散性が低下し、画像カブリ発生に対する低減効果が低下するとともに、RI検出においても5%以上となるほど低分子量成分が多くなり放置カブリも悪化させる。
【0018】
これらの観点から、254nmの波長でUV検出を行ったときの横軸をlog[M]、縦軸を重量分率[dW/d(log M)]とする微分分子量分布曲線における分子量が1,000,000以下の領域のピークの総面積中の、分子量が1,000以下の領域のピークの面積の比率は、5%以上であり、好ましくは6%以上、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは8%以上であり、そして、18%以下であり、好ましくは16%以下、より好ましくは14%以下である。
【0019】
結晶性複合樹脂において、ポリエステル樹脂は、結晶性が高く、低温定着性に優れる観点から、α,ω−直鎖ジオールを含有するアルコール成分とα,ω−直鎖ジカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分との重縮合物であり、該α,ω−直鎖ジオールと該α,ω−直鎖ジカルボン酸系化合物の炭素数の合計が16以上26以下である。
【0020】
アルコール成分におけるα,ω−直鎖ジオールとカルボン酸成分におけるα,ω−直鎖ジカルボン酸系化合物の炭素数の合計は、耐熱保存性の観点から、16以上、好ましくは18以上、より好ましくは19以上であり、低温定着性の観点から、26以下、好ましくは24以下、より好ましくは22以下である。なお、アルコール成分に複数種のα,ω−直鎖ジオールが含まれている場合は、それぞれのα,ω−直鎖ジオールの炭素数をモル比で加重平均した値を、アルコール成分におけるα,ω−直鎖ジオールの炭素数とする。カルボン酸成分に複数種のα,ω−直鎖ジカルボン酸系化合物が含まれている場合についても同様である。
【0021】
α,ω−直鎖ジオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられ、これらの中では、耐熱保存性の観点から、1,9-ノナンジオール又は1,12-ドデカンジオールが好ましく、1,12-ドデカンジオールがより好ましい。
【0022】
α,ω−直鎖ジオールの炭素数は、耐熱保存性の観点から、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは12以下である。
【0023】
α,ω−直鎖ジオールの含有量は、ポリエステルの結晶性を高める観点から、アルコール成分中、80モル%以上であり、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0024】
アルコール成分には、α,ω−直鎖ジオール以外の多価アルコールが含まれていてもよい。他の多価アルコールとしては、分岐鎖ジオール等のα,ω−直鎖ジオール以外の脂肪族ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、グリセリン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0025】
α,ω−直鎖ジカルボン酸系化合物としては、マレイン酸、フマル酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、これらの酸の無水物、それらの炭素数1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられ、これらの中では、低温定着性の観点から、セバシン酸が好ましい。なお、本発明において、カルボン酸系化合物には、遊離酸だけでなく、反応中に分解して酸を生成する無水物、及び炭素数1以上3以下のアルキルエステルも含まれる。
【0026】
α,ω−直鎖ジカルボン酸系化合物の炭素数は、耐熱保存性の観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは8以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは14以下であり、より好ましくは12以下である。なお、アルキルエステル部のアルキル基の炭素数は、脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数には含めない。
【0027】
α,ω−直鎖ジカルボン酸系化合物の含有量は、ポリエステルの結晶性を高める観点から、カルボン酸成分中、80モル%以上であり、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0028】
カルボン酸成分には、α,ω−直鎖ジカルボン酸系化合物以外の多価カルボン酸系化合物が含有されていてもよい。他の多価カルボン酸系化合物としては、α,ω−直鎖ジカルボン酸系化合物以外の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸系化合物;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の3価以上の芳香族カルボン酸、及びこれらの無水物、炭素数1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。
【0029】
また、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、分子量調整等の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0030】
ポリエステル樹脂におけるカルボン酸成分とアルコール成分との当量モル比(COOH基/OH基)は、樹脂の軟化点を調整する観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.1以下、さらに好ましく0.95以下である。
【0031】
アルコール成分とカルボン酸成分の重縮合は、例えば、不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは135℃以上250℃以下の温度で行うことができる。エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤としては、tert-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0032】
結晶性複合樹脂において、スチレン系樹脂は、スチレン化合物を含有する原料モノマーの付加重合物である。
【0033】
スチレン化合物としては、スチレン以外に、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体等が挙げられ、これらの中では、スチレンが好ましい。
【0034】
スチレン系樹脂の原料モノマー中のスチレン化合物の含有量は、ポリエステル系樹脂のアルコール成分100モルに対して、画像カブリの観点から、30モル以上であり、好ましくは40モル以上、より好ましくは50モル以上、さらに好ましくは60モル以上であり、そして、低温定着性の観点から、220モル以下であり、好ましくは200モル以下、より好ましくは180モル以下、さらに好ましくは160モル以下である。
【0035】
また、スチレン化合物の含有量は、スチレン系樹脂の原料モノマー中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0036】
スチレン系樹脂の原料モノマーには、スチレン化合物以外の原料モノマーが含まれていてもよい。他の原料モノマーとしては、アルキル基の炭素数が2以上、好ましくは5以上、より好ましくは7以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸エステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物類等が挙げられる。
【0037】
スチレン系樹脂の原料モノマーの付加重合反応は、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等の重合開始剤、架橋剤等の存在下、有機溶媒存在下又は無溶媒下で行うことができるが、温度条件としては、好ましくは110℃以上、より好ましくは140℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下である。
【0038】
付加重合反応の際に有機溶媒を使用する場合、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等を用いることができる。有機溶媒の使用量は、付加重合系樹脂成分の原料モノマー100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下が好ましい。
【0039】
結晶性複合樹脂は、(i)アルコール成分とカルボン酸成分を含むポリエステル樹脂の原料モノマー、(ii)スチレン系樹脂の原料モノマー、及び(iii)ポリエステル樹脂の原料モノマー及びスチレン系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る両反応性モノマーを含む原料モノマーの重合物であることが好ましい。
【0040】
両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシ基、より好ましくはカルボキシ基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることがより好ましいが、重縮合反応及び付加重合反応の反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸又はフマル酸がより好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸がより好ましく、アクリル酸がさらに好ましい。なお、重合禁止剤と共に用いた場合は、フマル酸等のエチレン性不飽和結合を有する多価カルボン酸系化合物は、ポリエステル系樹脂の原料モノマーとして機能する。この場合、フマル酸等は両反応性モノマーではなく、ポリエステル系樹脂の原料モノマーである。
【0041】
両反応性モノマーの使用量は、スチレン系樹脂とポリエステル樹脂との分散性を高める観点から、ポリエステル樹脂のアルコール成分の合計100モルに対して、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上であり、そして、好ましくは30モル以下、より好ましくは25モル以下、さらに好ましくは20モル以下である。また、スチレン系樹脂の原料モノマーの合計(重合開始剤を含めない)100モルに対して、好ましくは2モル以上、より好ましくは5モル以上であり、そして、好ましくは30モル以下、より好ましくは20モル以下、さらに好ましくは15モル以下である。
【0042】
結晶性複合樹脂は、
アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合して、ポリエステル樹脂を得る工程(A)、及び
スチレン化合物を含有するスチレン系樹脂の原料モノマーを、付加重合して、スチレン系樹脂を得る工程(B)
を含む方法により、得ることができる。ポリエステル樹脂のアルコール成分とカルボン酸成分の重縮合反応とスチレン系樹脂の原料モノマーの付加重合反応は、それぞれ順次行っても、同時に進行させてもよい。
【0043】
両反応性モノマーを用いる場合は、両反応性モノマーは、スチレン系樹脂の原料モノマーとともに使用することが好ましい。
【0044】
なお、ポリエステル樹脂の原料モノマーとスチレン系樹脂の原料モノマー、好ましくはさらに両反応性モノマーを含む原料モノマーの重合(重縮合反応と付加重合反応)は、同一反応容器中で行うことが好ましく、重縮合反応は、付加重合系樹脂の原料モノマーの存在下で、付加重合反応は、重縮合系樹脂の原料モノマーの存在下で、行ってもよい。
【0045】
ただし、本発明においては、分子量が1,000以下の芳香環を有する成分を一定量含み、前記の要件(1)及び(2)を充足する結晶性複合樹脂を製造する必要がある。その方法としては、製造過程において、低分子量のスチレンオリゴマーを添加する方法、スチレン系樹脂の原料モノマーの反応を、その一部が重縮合系樹脂とは反応しないように制御する方法等が挙げられる。
【0046】
低分子量のスチレンオリゴマーを添加する方法の具体的な方法としては、例えば、
(a) ポリエステル樹脂の原料モノマーの一部を、付加重合反応に適した温度条件下で反応させる工程、
(b) スチレン系樹脂の原料モノマーと両反応性モノマーを添加し、付加重合させる工程、
(c) ポリエステル樹脂の原料モノマーの残りと、スチレンオリゴマーを添加し、付加重合反応に適した温度条件下で反応させる工程、及び
(d) エステル化触媒、エステル化助触媒等を必要に応じて添加し、重縮合反応に適した温度条件下で反応させる工程
を含む方法が好ましい。
【0047】
工程(a)でポリエステル樹脂の原料モノマーとして使用するアルコール成分は、アルコール成分の総量の、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは全量である。また、カルボン酸成分は、カルボン酸成分の総量の、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下である。
【0048】
工程(c)で添加するスチレンオリゴマーの重量平均分子量は、好ましくは200以上、より好ましくは300以上であり、そして、好ましくは1,100以下、より好ましくは1,000以下である。
【0049】
スチレンオリゴマーの使用量は、目的とする分子量分布に応じて適宜選択するが、生成する樹脂の総量100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.10質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。生成する樹脂の総量は、使用するポリエステル樹脂の原料モノマー及びスチレン系樹脂の原料モノマーの総量から、重縮合反応により脱水する水の量を除いた量として算出することができる。
【0050】
また、スチレン系樹脂の原料モノマーの反応を、その一部が重縮合系樹脂とは反応しないように制御する方法としては、スチレン系樹脂の原料モノマーの付加重合工程におけるスチレン系樹脂の原料モノマーに対する重合開始剤の濃度、スチレン系樹脂の原料モノマーの重合開始剤の10時間半減期温度とその重合温度、両反応性モノマーの使用量等を調整する方法が挙げられる。
【0051】
結晶性複合樹脂におけるポリエステル樹脂とスチレン系樹脂の質量比(ポリエステル樹脂/スチレン系樹脂)は、画像カブリの観点から、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、さらに好ましくは85/15以下、さらに好ましくは80/20以下であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは50/50以上、より好ましくは55/45以上、さらに好ましくは60/40以上、さらに好ましくは65/35以上である。なお、上記の計算において、ポリエステル樹脂の質量は、用いられるポリエステル樹脂の原料モノマーの質量から、重縮合反応により脱水される反応水の量(計算値)を除いた量であり、両反応性モノマーの量は、ポリエステル樹脂の原料モノマー量に含める。また、スチレン系樹脂の量は、スチレン系樹脂の原料モノマー量であり、重合開始剤の量は含めない。
【0052】
複合樹脂の軟化点は、耐熱保存性観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは85℃以下である。
【0053】
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、1.4以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下の樹脂である一方、非晶質樹脂は、結晶性指数が1.4を超える、好ましくは1.5を超える、より好ましくは1.6以上の樹脂であるか、または、0.6未満、好ましくは0.5以下の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
【0054】
本発明の電子写真用トナーは、結着樹脂として、さらに、非晶質樹脂を含有していることが好ましい。
【0055】
非晶質樹脂としては、非晶質のポリエステル、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられるが、本発明では、低温定着性の向上の観点から、非晶質ポリエステルが好ましい。
【0056】
非晶質ポリエステルは、2価以上のアルコールを含有するアルコール成分と2価以上のカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分とを含む原料モノマーの重縮合物が好ましい。
【0057】
アルコール成分としては、低温定着性と耐熱保存性の両立の観点から、式(I):
【0059】
(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の値は、1以上、好ましくは1.5以上であり、そして、16以下、好ましくは8以下、より好ましくは4以下である)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキシド付加物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキシド付加物等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0060】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0061】
他のアルコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、グリセリン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0062】
一方、カルボン酸成分において、2価のカルボン酸系化合物としては、耐久性の観点から、芳香族ジカルボン酸系化合物が好ましく、テレフタル酸又はイソフタル酸がより好ましく、テレフタル酸がさらに好ましい。また、低温定着性の観点からは、脂肪族ジカルボン酸系化合物が好ましい。
【0063】
芳香族ジカルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸;それらの酸の無水物及びそれらの酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。なお、本発明において、カルボン酸系化合物には、遊離酸だけでなく、反応中に分解して酸を生成する無水物、及び炭素数1以上3以下のアルキルエステルも含まれる。
【0064】
芳香族ジカルボン酸系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、低温定着性と耐熱保存性の両立の観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下である。
【0065】
脂肪族ジカルボン酸系化合物における鎖状炭化水素基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数は、好ましくは4以上であり、そして、入手性の観点から、好ましくは14以下、より好ましくは12以下である。ただし、アルキルエステル部のアルキル基の炭素数は、脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数には含めない。
【0066】
脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、コハク酸(炭素数:4)、フマル酸(炭素数:4)、グルタル酸(炭素数:5)、アジピン酸(炭素数:6)、スベリン酸(炭素数:8)、アゼライン酸(炭素数:9)、セバシン酸(炭素数:10)、ドデカン2酸(炭素数:12)、テトラデカン2酸(炭素数:14)、側鎖にアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸、これらの酸の無水物、それらの炭素数1〜3のアルキルエステル等が挙げられる。
【0067】
脂肪族ジカルボン酸系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、低温定着性の観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、そして、保存性の観点から、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下である。
【0068】
また、カルボン酸成分は、保存性及び耐久性の観点から、3価以上の芳香族カルボン酸系化合物を含有していることが好ましい。
【0069】
3価以上の芳香族カルボン酸系化合物としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物、低級アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられ、これらの中では、トリメリット酸系化合物が好ましい。
【0070】
3価以上の芳香族カルボン酸系化合物の含有量は、アルコール成分100モルに対して、軟化点を向上させる観点から、好ましくは3モル以上、より好ましくは5モル以上、さらに好ましくは7モル以上であり、そして、軟化点を低下させ、低温定着性の観点から、好ましくは20モル以下、より好ましくは15モル以下、さらに好ましくは13モル以下である。
【0071】
また、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、分子量調整等の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0072】
ポリエステル樹脂におけるカルボン酸成分とアルコール成分との当量モル比(COOH基/OH基)は、樹脂の軟化点を調整する観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.90以下である。
【0073】
アルコール成分とカルボン酸成分の重縮合は、例えば、不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは180℃以上250℃以下の温度で行うことができる。エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤としては、tert-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0074】
非晶質樹脂の軟化点は、耐熱保存性の観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは128℃以下、さらに好ましくは125℃以下である。
【0075】
非晶質樹脂のガラス転移温度は、トナーの耐久性を向上させる観点から、好ましくは50℃以上であり、そして、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。なお、ガラス転移温度は非晶質相に特有の物性であり、吸熱の最高ピーク温度とは区別される。
【0076】
非晶質樹脂の酸価は、トナーの帯電量の環境安定性を向上させる観点から、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは25mgKOH/g以下であり、そして、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは2mgKOH/g以上である。
【0077】
非晶質樹脂の水酸基価は、画像カブリと放置カブリの観点から、好ましくは80mgKOH/g以下、より好ましくは70mgKOH/g以下、さらに好ましくは60mgKOH/g以下であり、そして、好ましくは3mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上である。
【0078】
結晶性複合樹脂と非晶質樹脂の質量比(結晶性複合樹脂/非晶質樹脂)は、画像カブリの観点から、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは50/50以下、より好ましくは45/65以下である。
【0079】
本発明のトナーには、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0080】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料、磁性体等を使用することができる。例えば、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等が挙げられる。なお、本発明において、トナー粒子は、黒用トナー、カラー用トナーのいずれであってもよい。
【0081】
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0082】
離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物;カルナウバワックス、モンタンワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス;脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を用いることができる。
【0083】
離型剤の融点は、トナーの転写性の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、低温定着性の向上の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
【0084】
離型剤の含有量は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。
【0085】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0086】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業(株)製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業(株)製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業(株)製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業(株)製)等;スチレン−アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成(株)製)等が挙げられる。
【0087】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業(株)製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット(株)製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「TN-105」(保土谷化学工業(株)製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
【0088】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0089】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、離型剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0090】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
【0091】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0092】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは90nm以下である。
【0093】
外添剤の含有量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0094】
本発明のトナーの体積中位粒径(D
50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D
50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0095】
本発明のトナーは、そのまま一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して用いられる二成分現像用トナーとして、それぞれ一成分現像方式又は二成分現像方式の画像形成装置に用いることができる。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0097】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0098】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、0℃にて1分間維持する。その後、昇温速度10℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。
【0099】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱ピークを測定する。吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0100】
〔樹脂の酸価及び水酸基価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0101】
〔樹脂のGPC測定方法〕
サンプル調整:測定試料(結晶性樹脂)0.4mgに対してクロロホルム10mLを添加し、25℃環境下にて6時間ボールミルを用いて撹拌処理して、溶解させる。次に耐溶剤性メンブランフィルタ「HP020AN」(ADVANTEC社製)で濾過する。
機種:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
カラム:TSKgel Super HZM-Mを2本直列(サンプル用)
TSKgel Super H-RCを2本直列(リファレンス用)
溶媒:クロロホルム
流速:0.35mL/min
測定温度:40℃
検出器:示差屈折率計(RI)及び紫外可視検出器(UV:254nm)
検量線:試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(商品名「PStQuickC」及び「PStQuickD」(いずれも東ソ−(株)製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
【0102】
〔スチレンオリゴマーの重量平均分子量〕
測定条件は〔樹脂のGPC測定方法〕と同じ。
【0103】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最高ピーク温度を離型剤の融点とする。
【0104】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0105】
〔トナーの体積中位粒径〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター(株)製)
アパチャー径:100μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター(株)製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター(株)製)
分散液:電解液にエマルゲン109P(花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB(グリフィン):13.6)を溶解して5質量%に調整したもの
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機(機械名:(株)エスエヌディー製US-1、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mLに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D
50)を求める。
【0106】
スチレンオリゴマーの製造例
80℃のキシレン100g中に、温度計、ステンレス製撹拌棒、脱水管、及び窒素導入管を装備した1リットル容の三つ口フラスコに入れ、スチレン100gと、重合開始剤「V-65」(和光純薬工業(株)製)42gの混合液を80℃で3時間かけて滴下した。その後80℃で7時間保持して重合させたのち、27kPaで減圧によりキシレンを留去してスチレンオリゴマーを得た。得られたスチレンオリゴマーの重量平均分子量は650であった。
【0107】
結晶性複合樹脂の製造例
表1、2に示すポリエステル樹脂の原料モノマーのアルコール成分の全量とカルボン酸成分の半分量を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、135℃から160℃まで6時間かけて昇温した後、160℃で2時間反応を行った。
次に、表1、2に示すスチレン系樹脂の原料モノマー、両反応性モノマー、及び重合開始剤の混合液を160℃で1時間かけて滴下した。その後、160℃で60分間保持したのち、20kPaの減圧下で1時間かけて反応させた。ここで、重合開始剤としては、パーブチルD(日油(株)製、ジ-t-ブチルパーオキシド)又はパーヘキシルI(日油(株)製、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート)を用いた。
その後、残っている半分量のカルボン酸成分、及びスチレンオリゴマー(樹脂C9では使用せず)を添加し、160℃にて4時間反応させた後、200℃まで5時間かけて昇温した。さらに、2-エチルヘキサン酸錫(II)及び没食子酸を添加して、200℃で1時間反応させた。
その後、200℃、8kPaにて所定の酸価になるまで反応させて、結晶性複合樹脂(樹脂C1〜C10)を得た。得られた樹脂の物性を表1、2に示す。
【0108】
結晶性ポリエステルの製造例
表2に示すポリエステル樹脂の原料モノマーのアルコール成分の全量とカルボン酸成分の全量を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、135℃から200℃まで10時間かけて昇温した後、200℃で2時間反応を行った。その後、160℃まで反応釜を冷却し、スチレンオリゴマーを添加し、160℃にて4時間加熱撹拌させた後、200℃まで5時間かけて昇温した。さらに、2-エチルヘキサン酸錫(II)及び没食子酸を添加して、200℃で1時間反応させた。その後、200℃、8kPaにて所定の酸価になるまで反応させて、結晶性ポリエステル(樹脂C11)を得た。得られた樹脂の物性を表2に示す。
【0109】
非晶質ポリエステルの製造例
表3に示すアルコール成分及びテレフタル酸と、2-エチルヘキサン酸錫(II)及び没食子酸を、温度計、ステンレス製撹拌棒、脱水管、流下式コンデンサー、及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃で8時間反応させた後、8KPaにて1時間反応させた。
その後200℃まで温度を下げ、アジピン酸及びトリメリット酸を添加して常圧で2時間反応させた後、8KPaにて目的の軟化点になるまで反応させて、非晶質ポリエステル(樹脂AP)を得た。得られた樹脂の物性を表3に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
実施例1〜8及び比較例1〜3
表4に示す結晶性樹脂10質量部、樹脂AP 90質量部、負帯電性荷電制御剤「ボントロン E-81」(オリエント化学工業(株)製)1質量部、着色剤「Pigment blue 15:3」(大日精化工業(株)製)5質量部、及び離型剤「HNP-9」(日本精蝋(株)製、パラフィンワックス、融点:80℃)2質量部をヘンシェルミキサーで十分混合した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出し機を用い、ロール回転速度200r/min、ロール内の加熱温度100℃で溶融混練した。混合物の供給速度は20kg/h、平均滞留時間は約18秒であった。得られた溶融混練物を冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにて粉砕し、分級して、体積中位粒径(D
50)が8μmのトナー粒子を得た。
得られたトナー粒子100質量部に、外添剤として疎水性シリカ「AEROSIL NAX 50」(日本アエロジル(株)製、疎水化処理剤:HMDS、平均粒子径:約30nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合して、トナーを得た。
【0114】
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、シャープ(株)製の紙[CopyBond SF-70NA(75g/m
2)]上に、トナー付着量が0.5mg/cm
2となるように未定着の状態で印刷物を得た。総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度200mm/sec)を用い、定着ローラーの温度を90℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各温度で前記未定着状態の印刷物の定着試験を行った。
500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、定着機を通して定着された画像を5往復こすり、こする前後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(こすり後/こすり前)が最初に70%を超える定着ローラーの温度を最低定着温度とした。結果を表4に示す。最低定着温度が低いほど低温定着性に優れ、最低定着温度は、140℃以下が好ましく、135℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましく、128℃以下がさらに好ましい。
【0115】
試験例2〔画像カブリ〕
トナー3質量部と、スチレン・メチルメタクリレート樹脂で被覆されたフェライト粉(関東電化工業製、平均粒子径100μm)97質量部とを混合して、二成分現像剤を得た。
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)に実装し、印字率5%の画像を20枚印字後、印字率0%画像を2枚続けて印字した。定着紙には、「CopyBond SF-70NA」(シャープ(株)製、75g/m
2)を使用した。
2枚目の印刷が紙の上方10〜20cmのところで複写機を停止させ、感光体部分に、セロハンテープ「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆(株)製、幅:18mm、JIS Z 1522)を貼り付けた後、セロハンテープを剥がし、新しい紙「CopyBond SF-70NA」(シャープ(株)製)の表面に貼り付けた。
別途、新品のセロハンテープを新しい紙「CopyBond SF-70NA」(シャープ(株)製)に貼り付けた紙を用意した。
セロハンテープ貼付部分のL
*a
*b
*を、色彩色差計「GRETAG-MCBETH AG CH-8105」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、下記式から算出される色相変化量ΔEにより、感光体上の画像のカブリを評価した。結果を表4に示す。色相変化量が小さいほど、画像のカブリが低減されていることを示す。その値は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。
色相変化量ΔE=√((a
*1−a
*2)
2+(b
*1−b
*2)
2+(L
*1−L
*2)
2)
L
*1、a
*1、b
*1:新品のセロハンテープのL
*a
*b
*値
L
*2、a
*2、b
*2:感光体から剥がしたセロハンテープのL
*a
*b
*値
【0116】
試験例3〔放置カブリ〕
トナー3質量部と、スチレン・メチルメタクリレート樹脂で被覆されたフェライト粉(関東電化工業製、平均粒子径100μm)97質量部とを混合して、二成分現像剤を得た。
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)に実装し、印字率5%の画像を20枚印字した後、印字率0%の画像を印字し、複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機をオフラインで定着可能なように改良した定着機(定着速度150mm/sec)を用い、定着温度を160℃にて定着を行い、カブリが0.03以下になるように複写機本体の印字条件を調整した。
温度23℃、相対湿度50℃の環境下で12時間放置後、再び、印字率0%の画像を5枚印字し、5枚目の画像のL
*a
*b
*を測定した。定着紙には、「CopyBond SF-70NA」(シャープ(株)製、75g/m
2)を使用した。
L
*a
*b
*の測定は、白紙を100枚重ねた上に、測定対象の紙を置き、色彩色差計「GRETAG-MCBETH AG CH-8105」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、下記式から算出される色相変化量ΔEにより、放置カブリを評価した。結果を表4に示す。色相変化量が小さいほど、カブリ抑制に優れていることを示す。その値は、0.25以下が好ましく、0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。
色相変化量ΔE=√((a
*1−a
*2)
2+(b
*1−b
*2)
2+(L
*1−L
*2)
2)
L
*1、a
*1、b
*1:白紙のL
*a
*b
*値
L
*2、a
*2、b
*2:印字率0%の紙のL
*a
*b
*値
【0117】
【表4】
【0118】
以上の結果から、実施例1〜8のトナーは、低温定着性に優れ、画像のカブリ及びトナー放置後のカブリも抑制されていることが分かる。
これに対し、GPC測定でUV検出される分子量が1,000以下の領域のピークの面積の比率が低すぎる比較例1のトナーは、画像カブリの発生が顕著であり、逆に多すぎる比較例2のトナーは、放置後のトナーのカブリの発生が顕著である。また、結晶性複合樹脂ではなく結晶性ポリエステルを含有した比較例3のトナーは、画像カブリ及びトナー放置後のカブリの両方が発生している。