(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のセルを形成する多孔質の隔壁と、隔壁により構成されたセルの少なくとも一部が開口した端面を有し、気孔率が30%以上である多孔質の外皮部分からなるハニカム担体に対し、
外皮部分全域に樹脂組成物を含む水溶液又は疎水性油脂から選ばれるシーラーを塗工した後、
前記セル内に、水を媒体としてスラリー化した触媒成分を供給する工程と、供給されたセル内の触媒スラリーを空気圧で払い出す工程を含むウオッシュコート法により触媒成分を担持し、この触媒成分を担持したハニカム担体を乾燥後、焼成して触媒成分を担持するものであって、
前記ウオッシュコート法におけるセル内の触媒スラリーを空気圧で払い出す工程で、ハニカム担体の外周に弾性把持治具を近接させ、バルーン状支持体内部を空気加圧することで外皮部分全域を把持固定することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
前記ハニカム担体の外皮部分は、水銀ポロシメーターにより測定される平均細孔径が、10〜30μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
前記ハニカム担体のセルは、入口端面側の開口端部及び出口端面側の開口端部に目封止部を有し、該目封止部が互い違いに配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスには、窒素酸化物(NOx)、燃料由来の未燃焼の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)など様々な有害成分が含まれ、その浄化にあたっては従来から様々な手法が提案され実施されてきた。
【0003】
排ガスの発生源には、ガソリンを燃料とした自動車の他、軽油を燃料として使用したディーゼルエンジンを搭載したディーゼル自動車がある。ディーゼル自動車から排出される排ガスについては、前記のNOx、HC、COの他に、微粒子成分としてのPM(Particulate matter)も知られており、そのようなPMの浄化に使用する装置としてDPF(Diesel Particulate Filter)が広く使われてきた。
【0004】
DPFは、ウォールフローハニカムフィルターとも呼ばれる排ガス浄化用フィルター装置の総称であるが、その構造は入口端部から出口端部に向けて隔壁に仕切られた複数のセルからなり、このセルは入口端部と出口端部で交互に目封止されたハニカム構造である。セルを構成する隔壁は通気性を有し、この通気性を利用して排ガス中からPMを濾し取ることによってPMを除去している。
DPFによって排ガス中から濾し取られたPMは、そのままであるとDPFに堆積し続けて目詰まりを起こしてしまうことから、排ガスの熱や、エンジンの燃焼室や排ガス中への燃料の噴射によってPMを燃焼させてPMの堆積したDPFを再生している。このような再生を促進する目的で、DPFのセルの隔壁に触媒成分を被覆することがあり、触媒成分を被覆したDPFをCSF(Catalyzed Soot Filter)ということがある。本出願人も、これらの触媒を組み込んだシステムを提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
従来、排ガス中のPMの浄化が求められてきたのは多くがディーゼル自動車であったが、それはガソリンに比べて燃焼し難い軽油を使用することによるものであり、ガソリンの様に燃焼し易く、発生するPMの量も少ない燃料を用いる自動車については、環境問題として今まで特に注目されることはなかった。
【0006】
しかし、環境問題への関心が高まる中、排ガス中の有害成分への規制も厳しさを増し、ガソリン自動車から排出されるPMについてもその排出量を規制する動きが有る。特に近年は燃費についても市場の関心が高く、ガソリンエンジンにおいては緻密な制御のもと燃焼室内にガソリンを直接噴霧供給する直噴型エンジンが主流になりつつある。しかし、このような直噴型ガソリンエンジン(GDI:Gasoline Direct Injection)においては、噴霧されたガソリンの一部が微粒子の状態を保ったまま燃焼室内が燃焼状態となることから、粒子状の燃料に由来した不完全燃焼によって、従来のインテークマニホールドから燃料と空気の混合ガスを供給するガソリン自動車に比べて多くのPMが発生することがあり、排出規制の必要性もより現実味を増す様になってきた。
【0007】
このようなガソリン自動車から排出されるPMの除去にも、ディーゼル自動車用のDPFと同様にウォールフローハニカムフィルターを使用することが考えられるが、ガソリン自動車の特性からディーゼル自動車用のDPFをそのまま転用することは以下のような理由により難しかった。
【0008】
ガソリン自動車とディーゼル自動車の大きな違いの一つとして排ガスの流速が挙げられる。ディーゼルエンジンは高圧力で圧縮された空気に対し燃料を噴射し、その圧力の作用により燃料を着火し爆発させることで運動エネルギーを取り出している。高圧縮であることから効率の良いエンジンではあるが、高圧縮な状態を作る必要があることからエンジンの回転数がガソリン自動車に比べて低く、そのため排ガスの温度も低いため、従来のフィルタータイプのハニカム担体、すなわちDPFではハニカム担体の強度を向上するために外皮部分については緻密な高強度セラミックス材料で構成することができていた。
【0009】
しかし、ガソリンエンジンからの排ガスにおいては、ディーゼルエンジンの場合とは状況が異なる。ガソリンエンジンは、点火プラグによって混合気に着火するため、一般的なディーゼルエンジンに比べて圧縮比が小さい。そのため、エンジンを高回転で稼働させ、高出力を得ることができるが、走行中の排ガス温度が高くなる。更に、近年の燃費向上に関する市場からの要求により、車両の軽量化を目的に高出力エンジンについても小型化する傾向がある。小型エンジンで高出力を得るためにはエンジンを高回転で稼働させ、過給器により多量の空気をシリンダー内に供給する必要があるが、高回転や過給状態で稼働させたエンジンから排出される排ガスの温度は更に高くなる。このような高温の排ガスに対し、従来のDPFのようなハニカム担体、すなわちその外皮部分(以下、外皮ともいう)に別材料からなる壁をつくると、走行中の温度がディーゼルエンジンよりも高温となるガソリンエンジン用触媒では、熱膨張率の差等によりクラックが生じるなどの問題も懸念される。このため、ハニカム担体のセルの隔壁と同質の一体成型のものが好ましい場合がある。
【0010】
従って、ガソリンエンジンの排ガス中からPMを除去するフィルターでは、DPFのように強度を求めて緻密な外皮部分を設けないハニカムフィルターが検討されている。このようなガソリンエンジン用のPMフィルターをGPF(Gasoline Particulate Filter)ということがある(例えば、特許文献3参照)。
GPFであれば、高温になるガソリンエンジンの排ガス中のPMを除去することが可能である一方、触媒の製造工程において新たな課題が生じていた。
【0011】
一般的にガソリンエンジンの排ガスの浄化には白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属を含有した三元触媒(TWC:Three Way Catalyst)という、NOx、HC、COを同時に浄化する成分で触媒化したハニカム担体が使用されている。従来のTWCは、DPFのようにセルの両端面で互いに目封止をしたハニカム担体(ウォールフローハニカム)ではなく、フロースルーハニカムと言われるセルの両端面が解放されたハニカムのセルの隔壁に触媒成分を被覆して使用されてきた。このようなフロースルーハニカムであれば、背圧の上昇も少なく、ガソリンエンジンのように高流速の排ガス処理に適している。
【0012】
フロースルーハニカムやDPFに限らず、ハニカム担体をTWCのような触媒組成物で触媒化するにあたっては、一般にウオッシュコート法と言われる製法が適用される(例えば、特許文献2参照)。
ウオッシュコートには多様な手法が提案・実施されているが、その一例としてはハニカム担体の中間位置をクランプで把持した後、下部の一部を液浴に浸漬して触媒成分含有液を含浸させ、該ハニカム担体をスラリーから引き上げて反転させ、次いで、該担持体にエアーブローして余剰スラリーを分離し、該担体全体に触媒成分含有液を含浸、付着させる方法がある(例えば特許文献5)。
【0013】
その基本原理は「ハニカムセル内部にスラリー化した触媒成分を供給する工程」、「供給されたセル内の触媒スラリーを空気圧で払い出す工程」からなる。「供給されたセル内の触媒スラリーを空気圧で払い出す工程」において、フロースルーハニカムであれば特段の支障なく開口端面から余剰なスラリーの除去が可能である。また、従来のDPFにおいても緻密な外皮部分を有することから、この場合も余剰スラリーは支障なく除去可能である。
ここで、ウオッシュコート装置におけるハニカム担体のクランプは、バルーンのように柔らかく弾性を有する把持装置でクランプされて前記のウオッシュコートの各工程において処理される。このように柔らかく弾性を有する把持装置を使用する理由は、ハニカム担体の損傷を防ぐためである。特にGPFのような担体では後述するような高気孔率とその構成上の特徴から強度不足が懸念される。そのため、弾性を有する把持装置を使用して慎重に工程を進める必要がある。
【0014】
GPFでは高温、高速の排ガスを処理することから、その外皮はセルの隔壁と同様に通気性のある多孔質から構成され、30%以上の気孔率、さらには50%以上の気孔率を有するハニカム担体を用いる必要がある。
このようなGPF用のハニカム担体は、隔壁と外皮とが一体的に形成されることがある。一体的に形成されるハニカム基材は、押出成形により、隔壁と外皮とを同時に成形し、得られた成形体を焼成することにより作製されるものであり、外皮と隔壁とが同様の気孔率を有する。
【0015】
GPFではDPFに比べて高温な環境で使用されることから、DPFのような緻密な外皮部分を設けてしまうと、セル隔壁と外皮部分との間で熱膨張率の差が生じてクラックが発生し易いという問題もあった。クラックが生じたハニカムはフィルターとしての機能を失う。
そのため、GPFに使用されるハニカムではセルの隔壁と外皮部分とが同質、すなわち熱膨張率を同じに設定する必要があった。このようにセルの隔壁と外皮部分を同質にする手段としては、セルの隔壁と外皮部分を同一材料で一体に成型することも考えられる。このようにハニカムの隔壁と外皮を一体的に成型することで、外皮と隔壁の熱膨張率を等しくなるため、製造時や触媒としての使用時の熱履歴によるクラック(損傷)を抑制することができる。
【0016】
また、セルの端部が目封止され外皮まで高気孔率の多孔質で形成されたハニカム担体では、ウオッシュコート時における「供給されたセル内の触媒スラリーを空気圧で払い出す工程」において目封止部分が障害になり、空気圧で払い出される触媒スラリーが外皮部分から極めて浸出しやすいという問題が有った。
このような触媒スラリーの浸み出しは、空気圧でスラリーを払い出す工程でのみ発生するものとは限らない。GPF用のハニカム担体が高気孔率であることは前記のとおりであるが、気孔率が著しく高かったり、触媒スラリーの粘度が低かったり、触媒スラリー中の無機微粒子の粒径が著しく小さいような場合、またこれらの条件の組合せによってはハニカム担体にスラリーを供給しただけで、外皮部分から触媒スラリーが浸み出してしまうことがある。このような場合、ウオッシュコートで空気圧による触媒スラリーの払い出し、塗伸ばし、セル壁への含浸などの処理を施した際には更に浸み出しが助長される。
【0017】
特許文献6には、円筒型ハニカム担体の全周をバルーンで被い空気加圧した後、触媒スラリーをハニカム担体の内側の上部から流し込み触媒を担持させる際に、触媒がハニカム担体外部に付着するのを抑制する手段が記載されている。しかし、特許文献6ではハニカム担体の外皮部分から外側への触媒スラリーの浸出は防げるものの、外皮部分(外周壁ともいう)の内部に触媒が浸入してしまう。そのため、外皮部分に浸入した触媒成分を由来とした前記のような熱履歴によるクラックの発生や、背圧の上昇を防ぐことはできなかった。
【0018】
このように、GPF用担体のように多孔質の外皮部分を持つハニカム担体に対し、製造時にハニカム外皮部分からの触媒スラリーが浸出を抑制することで、熱履歴によるクラックが発生しない、ハニカム触媒として使用した際にも背圧の上昇も招きづらい、排ガス浄化触媒の製造方法が望まれている。また、このような排ガス浄化触媒製造にあたっては、量産時に工程時間が長くてはならない。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、それらの実施形態に限定解釈されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等を加え得るものである。
【0031】
1.ハニカム担体
本発明で用いられるハニカム担体(単にハニカムともいう)は、
図2に示すように、複数のセルを形成する多孔質の隔壁と、気孔率が30%以上である多孔質の外皮部分からなり、上下に開口端部を有するハニカム状の基材1である。
【0032】
ハニカム状の基材は、隔壁によって、一方の端面から他方の端面へ向かって伸びる多数の通孔(セル)が形成されており、これらが集まってハニカムを形成している。
ハニカム担体は、その構造の特徴から、フロースルー型(フロースルーハニカム)とウォールフロー型(ウォールフローハニカム)に大別されている。フロースルー型は、一方の開放端面から他方の開口端面に向けて開口する多数の通孔端部が封止されておらず、酸化触媒、還元触媒、三元触媒に広く用いられている。これに対し、ウォールフロー型は、通孔の一端が、互い違いに封止されているもので、排ガス中の煤やSOF(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)等、固形成分を濾し取ることができるため、DPFとして用いられている。
本発明はそのどちらにも使用できるが、GPFのような多孔質の外皮を有し空気圧で払い出す際に障害にもなる前記封止部を有するハニカム状の基材では、本発明によって製造時に触媒スラリーが外皮部分に浸出することを防止できることから、特にGPFに用いられるウォールフローハニカムに好適に使用できる。
【0033】
また、ハニカムを構成する隔壁から排ガスを外部に逃がす必要から、隔壁は、多孔質体により形成される。多孔質体の製造に用いられる材料は特に限定されるものではなく、ハニカム担体の原料として通常使用されている無機酸化物からなるものでよい。このような無機酸化物としては、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト、ムライト、アルミナ、シリカ−アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、アルミニウムチタネート等のセラミック材料がある。これらの中でも、コージェライトが特に好ましい。ハニカム基材の材料がコージェライトであると、熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れたハニカム担体を得ることができるためである。
また、隔壁と外皮部分とは、材質が同じであっても異なるものでもよい。GPF用のハニカム担体では同質材料により形成されることが好ましい。同質材料とはサーマルショックによるクラック発生が防げる程度の熱膨張率や気孔率の差の範囲である材料のことを示す。さらに、同一材料による一体成型で製造されることが好ましい。効率的な製造が可能であり、材料の違いによる問題を回避できるためである。また、高温となるガソリンエンジン用触媒では熱膨張率の差によりクラックが生じるなどの問題も懸念される。このため、隔壁と外皮部分とは、熱膨張率の同じものであるか、同一材料による一体成型のものが好ましい。
また、目封止部の材質は、ハニカム基材の材質と同様な材質が好ましい。目封止部の材質とハニカム基材の材質とは、同じ材質でも、異なる材質であってもよい。
【0034】
隔壁および外皮部分には多数の細孔が存在していることが好ましい。このような細孔の特性は細孔容積、細孔径としてもあらわされ、ガス吸着法、アルキメデス法、水銀圧入法 など様々な手法によって測定できるが、本発明においては特にことわりの無い限り、水銀圧入法により圧入圧力400MPaで測定し得られた値のことをいう。
本発明におけるハニカム構造体は、セルの隔壁、外皮部分の細孔容積は0.3〜1.6 ml/gである場合に有効であり、0.8〜1.6 ml/gであることが好ましく、1.0〜1.6 ml/gであるとより好ましい。また、ハニカム基材(隔壁及び外皮)の平均細孔径は10〜25μmである場合に有効であり、15〜25μmであることが好ましく、20〜25μmであるとより好ましい。
また、このような細孔の特性は、気孔率(細孔容積率)として表すこともできる。本発明におけるハニカム構造体の気孔率とは、セルの隔壁と外皮部分の厚みと長さ、セルの密度から求められる多孔質体の幾何学的な体積における細孔容積の占める割合を意味するものであり、本発明においては50〜80%であり、60〜80%が好ましく、60〜70%がより好ましい。
細孔容積、細孔系、気孔率が大きすぎるとハニカム担体の圧力損失が高くなりすぎて、GPFとして用いた場合に、エンジンの出力低下を招くことがある。また、細孔容積、細孔系、気孔率が小さすぎると十分な強度が得られないことがある。
【0035】
また、ハニカム担体のセルを構成する隔壁の厚みは、1〜18mil(0.025〜0.47mm)が好ましく、6〜12mil(0.16〜0.32mm)がより好ましい。隔壁が薄すぎると構造的に脆くなり、厚すぎるとセルの幾何学的表面積が小さくなるため、触媒の有効使用率が低下してしまうおそれがある。また、隔壁が厚すぎると圧損が高くなり、GPFとして用いた場合に、エンジンの出力低下を招くおそれがある。
ハニカム基材の外皮の厚さは、300〜1000μmであることが好ましく、500〜800μmであることが特に好ましい。外皮の厚さが300μm未満であると、十分な強度が得られないことがある。また、外皮の厚さが1000μmを超えると、ハニカム担体の圧力損失が高くなりすぎて、GPFとして用いた場合に、エンジンの出力低下を招くことがある。
【0036】
隔壁によって形成されるセルは、通常、直径あるいは一辺が凡そ0.8〜2.5mmであり、その密度は、単位断面積あたりの孔の数で表され、これはセル密度とも言われる。ハニカム担体のセル密度は、特に制限されないが、100〜1200セル/inch2(15.5〜186セル/cm2)が好ましく、150〜600セル/inch2(23〜93セル/cm2)がより好ましく、200〜400セル/inch2(31〜62セル/cm2)である事が特に好ましい。セル密度が1200セル/inch2(186セル/cm2)を超えると、触媒成分や、排ガス中の固形分で目詰まりが発生しやすく、圧力損失が高くなりすぎて、GPFとして用いた場合に、エンジンの出力低下を招くことがある。 100セル/inch2(15.5セル/cm2)未満では幾何学的表面積が小さくなるため、触媒の有効使用率が低下してしまい排ガス浄化触媒としての有用性がなくなるおそれがある。また、GPF用のハニカム担体として用いた場合に、フィルターとしての有効面積が不足して、PM堆積後の圧力損失が高くなり、エンジンの出力低下を招くことがある。
【0037】
本発明に使用されるハニカム担体としては、前記のようなGPF,DPFの他、ガソリン車用のTWCなどに使用される目封止のないフロースルー担体で有っても良い。この場合も本発明の効果が発揮されるためには、少なくとも外皮部分が隔壁と同質で多孔質体により形成されていることが必要であり、前記GPFと同様にセルを複数有するハニカム隔壁、外皮の気孔率は、30%以上であり、50〜80%が好ましく、60〜70%がより好ましい。また気孔径は、10〜30μmが好ましく、15〜25μmであることがより好ましい。なお、この場合の気孔率,気孔径の測定法もGPF用ハニカム担体と同様に水銀ポロシメーターにより計測することができる。
【0038】
ハニカム担体の形状は、特に限定されるものではなく、一般的に知られている円柱形、円柱状に類する楕円柱状のほか、多角柱なども含まれる。好ましいのは、円柱形あるいは楕円柱状のものである。
また、セルのハニカム基材の長さ方向に対して垂直な断面における形状(以下、「セル形状」という。)も特に限定されないが、四角形、六角形、八角形等の多角形あるいはそれらを組み合わせたもの、例えば四角形、六角形、四角形と八角形を組み合わせたもの等が好ましい。
なお、ハニカム基材の大きさは、直径60mm程度かつ長さが70mmのように比較的小ぶりなものから、直径300mm程度かつ長さが200mmのように大型なものもあり、本発明は、これらサイズによって制限されない。
【0039】
ハニカム担体をGPF等のPM捕集フィルターに用いる場合、所定のセルの入口端面側の開口端部及び残余のセルの出口端面側の開口端部を目封止する目封止部を形成している。
このように、ハニカム基材の各セルの一方の開口端部に目封止部を形成することにより、ハニカム担体は、高いPM捕集効率を持ったウォールフロー型フィルターとなる。このウォールフロー型フィルターにおいては、入口端面からセル内に流入した排ガスが、隔壁を透過した後、出口端面からセル外に流出する。そして、排ガスが隔壁を透過する際に、隔壁が濾過層として機能し、排ガス中に含まれるPMが捕集される。
尚、目封止部は、入口端面と出口端面とが、それぞれの開口端部が目封止されたセルと、目封止されていないセルとにより、互い違いの市松模様を呈する配置となるように形成されることが好ましい。しかし、本発明の実施形態は、このようなウォールフロー型フィルターに限られるものでは無い。
【0040】
外皮の外側表面への触媒スラリーの浸み出しや、強度不足の問題は、気孔率が50%以上であるような高気孔率のハニカム担体において特に顕著となる。よって、本発明は、気孔率が50〜80%のハニカム基材を用いた場合に有用性が高く、気孔率が60〜70%のハニカム基材を用いた場合に特に有用である。
【0041】
2.排ガス浄化触媒の製造方法
本発明の排ガス浄化触媒の製造方法は、複数のセルを形成する多孔質の隔壁と、隔壁により構成されたセルの少なくとも一部が開口した端面を有し、気孔率が30%以上である多孔質の外皮部分からなるハニカム担体に対し、外皮部分全域に樹脂組成物を含む水溶液又は疎水性油脂から選ばれるシーラーを塗工した後、
前記セル内に、水を媒体としてスラリー化した触媒成分を供給する工程と、供給されたセル内の触媒スラリーを空気圧で払い出す工程を含むウオッシュコート法により触媒成分を担持し、この触媒成分を担持したハニカム担体を乾燥後、焼成して触媒成分を担持するものであって、
前記ウオッシュコート法におけるセル内の触媒スラリーを空気圧で払い出す工程で、ハニカム担体の外周に弾性把持治具を近接させ、バルーン状支持体内部を空気加圧することで外皮部分全域を把持固定することを特徴とする。
【0042】
次に、本発明の排ガス浄化触媒の製造方法について、図を用いて工程毎に説明する。
【0043】
(1)樹脂組成物または疎水性油脂による外皮部分のシール
本発明では、その外皮部分に触媒スラリーが浸み込まない様に樹脂組成物または疎水性油脂から選ばれるシーラー(シール成分ともいう)をハニカム担体の外皮部分に含浸させる。シーラーの種類は、特に限定されるものでは無いが、コストや取扱いの容易さの点から水溶性の樹脂もしくは樹脂組成物が好ましい(水溶性樹脂組成物ともいう)。
【0044】
このような水溶性樹脂組成物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。好ましいのはPVAであり、PVAを水溶性樹脂組成物として使用する場合、水溶液とすることでハニカム担体の外皮部分に含浸処理することができる。PVAの物性は、特に限定されるものでは無いが、平均重合度で1,000〜3,000のものが好ましく、1,500〜2,500であるものがより好ましい。なお、水を溶媒としPVAを溶解した場合、その濃度は特に限定されるものではないが、1〜10質量%が好ましく、3〜7質量%であることがより好ましい。このような濃度のPVAを選択してハニカム基材に適用すれば、外皮部分9への含浸が容易である上に、必要以上の深さ、すなわちハニカム中心軸線方向の隔壁4へのPVAの含浸が深くなりすぎることがない。なお、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂などでは、分子中に特定の親水性基が必要であり、分散剤を配合するなどの処理が行われる場合がある。
【0045】
このようなPVA等のハニカム担体への含浸深さは、外皮部分の厚みを含浸できることが必要であるが、外皮部分の内部に完全に含浸させるために、より深く、外皮部分を超えてセル一つ分程度の深さに至る様に制御されることが望ましい。ただし、それより深くまで水溶性樹脂組成物を含浸させてしまうと、含浸した水溶性樹脂組成物が障害となり、セルの隔壁内部に触媒スラリーが含浸しにくくなり、触媒機能を発揮するハニカム担体の幾何学的な面積が減少してしまう。
【0046】
また、外皮部分のシール成分としては、上記のような水溶性樹脂組成物の他、油脂成分のような疎水性成分も使用できる。ウオッシュコートに使用される触媒スラリーが水を媒体としていることから、シール成分として使用することで、触媒スラリーと親和性のない疎水性油脂がバリアとなって、外皮部分内部への触媒スラリーの拡散を抑制できる。
通常、このような疎水性油脂は、乾燥させることが難しいことから、従来のウオッシュコート法をそのまま適用すると、外皮部分の含浸させた疎水性油脂が気流の適用時の圧力で外側に押し出されてしまうが、本発明の方法であれば外皮部分全域がバルーン等の弾性体でシールされていることから、外皮部分のシール成分として流動性のある疎水性油脂を使用しても、ウオッシュコート時の圧力によって疎水性油脂成分が押し出され、外皮部分に触媒スラリーが浸入することがない。
このような疎水性油脂成分の種類は、特に限定されるものでは無く、通常入手可能な油脂成分の中から適宜選択することが可能であるが、油脂中に無機成分を含まない事が好ましく、また後段の操作である焼成工程において揮発や燃焼により除去されることから、菜種油等の植物由来の油脂や、牛脂などの動物性油脂を使用することが好ましい。
【0047】
(2)樹脂組成物水溶液の塗工装置
ハニカム担体の外皮部分へ樹脂組成物水溶液などのシーラーを塗工する手段は、特に限定されず、例えば
図5のような塗工装置をもって処理することができる。
図5の塗工装置では、駆動・塗布ローラー7を2つ並べ、その上に、ハニカム基材を載置して、ローラーにより回転させ円周側面に塗布液を付着させる例を模式的に示している。
【0048】
より具体的には、樹脂組成物水溶液8が蓄えられた液浴に下端部を漬けるなどして樹脂組成物を供給した駆動・塗布ローラー7上にハニカム担体1を載置し、駆動・塗布ローラー7表面にハニカム担体1の円周側面に接触させる。この駆動・塗布ローラー7の最外面はスポンジ状で形成されているものが好ましい。ハニカム担体1を載置された駆動・塗布ローラー7には水溶性樹脂組成物8が供給される。駆動・塗布ローラー7の最外面のスポンジ状材料部分を、塗布液が満たされた容器に浸漬させているので、水溶性樹脂組成物8がハニカム担体1へと供給されやすい。なお、駆動・塗布ローラーを2つ以上用いる場合は、どれか1つのみに水溶性樹脂組成物8を供給してもよいし、両方に塗布液を供給してもよい。
ハニカム担体1への樹脂組成物水溶液8の供給量は、駆動・塗布ローラー7の回転速度、駆動・塗布ローラー7への載置時間などにより制御することができる。このように所定量の樹脂組成物水溶液8が供給されたハニカム担体1の外皮部分9に浸入した樹脂組成物水溶液81は、外皮部分内部に触媒スラリーの浸入を防ぐ層として機能する。
【0049】
このように樹脂組成物水溶液が塗工されたハニカム担体は、製造工程の後段で触媒スラリーの被覆、すなわちウオッシュコートが適用される。
従来、ハニカム担体の外皮を樹脂組成物で塗工していないと、把持するバルーンがハニカム担体の一部分しか覆っていないので、ウオッシュコート時の気流の適用時に、バルーンで覆われていない外皮部分の内部に触媒スラリーが浸入していた。
【0050】
しかし、本発明では、GPF用ハニカム担体のような脆弱な担体であっても、硬化性の樹脂組成物などのシーラーが塗工されれば、樹脂が硬化することによってハニカム担体の機械的な強度を向上することもでき、しかもハニカム担体のセル内に触媒スラリーをウオッシュコート法で被覆する際、ハニカム担体の外周部からスラリーの浸み出しの抑制も期待される。
【0051】
(3)樹脂組成物水溶液の乾燥程度の影響
樹成物水溶液が塗工されたハニカム担体は、次に触媒スラリーの被覆、すなわちウオッシュコートが適用されるが、樹脂組成物水溶液の乾燥が不十分であると、スラリーの浸み出し抑制に対して大きな効果が得られない。
【0052】
樹脂組成物水溶液は、ウオッシュコートにおいて外皮部分から触媒スラリーが浸み出すのを抑制するために塗工されるものであり、すなわち外皮部分の細孔を密封(シール)するためのものである。そして、充分な密封性能を得るためには、塗工された樹脂組成物水溶液が完全に乾燥されている必要があり、不完全な乾燥であると、
図6のようにウオッシュコート時にその気流の圧力で未乾燥部分から触媒スラリーが浸み出してしまう。
【0053】
一見、樹脂組成物水溶液には相当の粘性もあり、塗工後の乾燥が不充分であっても溶媒の揮発による粘度の上昇もあることから、ウオッシュコートによる触媒スラリーは浸出し難いように思われる。しかし、乾燥が不充分であるとウオッシュコートにおける気流の適用によって触媒スラリーは容易に浸み出してしまう。
このような樹脂組成物水溶液の不充分な乾燥により、容易に触媒スラリーの浸み出してしまう要因はいくつか考えられるが、その一つはハニカム基材の外皮の薄さによるものと思われる。前述の様にハニカム基材の外皮は通常300〜1000μmと極めて薄い。そのため、樹脂組成物水溶液が完全に乾燥していない状態であると、多少増粘した程度では気流の圧力に抗して細孔内で留まる事が困難で、ウオッシュコートにおける気流適用時の圧力や、水溶液シーラー中への水性触媒スラリーの拡散、また外部部分を構成する細孔の毛細管現象等が作用して、触媒スラリーが浸み出してしまうものと考えられる。
【0054】
ウオッシュコートにおける気流の適用時に触媒スラリーが浸み出さない程度に樹脂組成物水溶液を乾燥硬化させるためには、室温においては概ね5時間以上の長い乾燥時間を要している。このような乾燥時間は、水溶性樹脂組成物と溶媒の組合せがPVAと水の場合に限ったものでは無く、樹脂組成物水溶液の濃度や塗工量によっても変わってくる。しかし、いかような組合せにおいても相応の乾燥時間が必要であることに変わりは無く、このような数時間にも及ぶ乾燥時間は工業的な製造工程においては生産効率上、大きなデメリットとなる。
【0055】
(4)ハニカム担体の把持
本発明のウオッシュコート法では、まず
図1のa)に示すように、ハニカム担体1の外周部にバルーン状支持体2を有する弾性把持治具3を近接させ、該バルーン状支持体の内部に空気を供給してバルーンでハニカム担体を把持固定する。
【0056】
弾性把持治具は、
図4のようにバルーン状支持体2に空気を流通する空気流通口4がバルーン2の内側に向けて開口している。本発明における空気流通口4は、各個別にバルーン2の内部に空気を送り込むもの、バルーン2の内部の空気を吸引するもので有っても良く、一つでその両方の機能を有するものであっても良い。なお、空気流通口の作用については以下同様である。
【0057】
バルーンは、
図1では、お椀状のサイズが短いタイプのバルーンを示している。従来のように単にハニカム担体を把持するのであれば、このようなタイプでも構わないが、本発明では、ハニカム担体に樹脂組成物を塗工後にハニカム担体の外皮部分の全域を液密把持するために、上下方向にサイズが長いタイプのバルーンを用いる。
【0058】
すなわち、本発明ではハニカム担体の外皮部分を全域に覆う事ができる軸線長さを持ち同一円周上では気室を一にする一つのバルーンを使用して把持することが好ましい。このようなバルーンを使用することで均等な圧力によりハニカムを把持することが容易になり、GPF用途のような脆弱なハニカムを取り扱う際に把持力による破損を抑制することができ、液密性も保つことが容易になる。
【0059】
ここで把持操作に際しての弾性把持治具のバルーンによるハニカム担体の把持は、前述のとおり外皮部分全域を液密に把持するものである。ただし、「全域」とは外周表面の100%であることが望ましい。このように全域を液密に把持するバルーンのハニカム担体の軸線方向の長さは、外皮部分の長さの95%以上が好ましく、100%以上であることがより好ましい。ただし、バルーンの長さが長すぎると、バルーンの材質によってはバルーンの加圧時にセルの開口部を覆ってしまい、ウオッシュコート時に触媒スラリーや気流の流通に対する障害となってしまう場合がある。そのため、バルーンのハニカム担体の軸線方向の長さがハニカム担体の長さを超える場合は外皮部分の110%以下であることが好ましく、105%以下であることがより好ましい。
また、把持するタイミングは、ハニカム担体にシーラーが塗工された後、完全に乾燥するまでの間であれば構わないが、乾燥時間をとらず、そのまま把持工程に進むのが好ましい。
【0060】
本発明では、バルーンのハニカム担体側の表面は、ハニカム担体の外皮部分を実質完全に覆うものであり、これらは空気の出し入れや接触圧力の調整で、充分な液密性をもってハニカム担体に密着させることができる。
【0061】
本発明により、弾性把持治具のバルーン状支持体でハニカム担体の外皮部分全域が覆われるように、内部に空気を加圧状態で導入すると、シーラーが未乾燥であっても、PVAなど樹脂成分自身の粘性により、また外皮のマクロ細孔が複雑な多数の流路となって構成されており、その内壁にシーラーが含浸され閉塞あるいは狭窄されていることによる流動抵抗が加わることも相まって、ウオッシュコートによる触媒スラリーが浸出し難い、液密状態でハニカム担体を把持することができる。
したがって本発明において液密とは、気流の適用によって未乾燥の樹脂組成物水溶液の移動が抑制され、触媒スラリーがハニカム担体の外皮部分に浸入しない程度であることを意味する。
【0062】
(5)減圧による触媒スラリー液の供給
弾性把持治具のバルーンでハニカム担体を把持しながら、
図1の中央に示すように、触媒成分を含むスラリーをハニカム担体に供給する。このような触媒スラリーの供給の仕方については、特に制限されるものではなく、
図1においても矢印(1)で二方向に示したように、ハニカムの上端もしくは下端いずれから供給しても良い。
【0063】
なお、エアーブロー前の触媒スラリーの供給においては、若干の圧力を加えても良い。供給圧力は、触媒スラリーをハニカム担体上端から供給する場合は、上端からの加圧もしくは下端からの吸引により、また触媒スラリーをハニカム担体下端から供給する場合は、上端からの吸引もしくは下端からの加圧によって加えることができる。
【0064】
本発明に使用される触媒スラリーは、ウオッシュコートによりハニカム担体を触媒化可能な流動性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、アルミナなどの無機酸化物粒子にPt,Pd,Rh等の貴金属成分を担持した触媒成分を水媒体に分散し、必要に応じて増粘材などの添加剤を含む触媒スラリーとして調製されたものが使用できる。
このように本発明に使用される触媒スラリーとしては、B型粘度計による粘度が10〜200mPasのものが挙げられる。また、触媒スラリー粘度は、アルミナ等の無機微粒子の含有量にも影響され、このような無機微粒子の濃度としては5〜60質量%のような触媒スラリーが挙げられる。また、無機微粒子に由来する粘性については、無機微粒子の粒径の影響も無視できず、例えば0.1〜10μmの無機微粒子を含む触媒スラリーが挙げられる。
【0065】
本発明において触媒スラリーの組成は、特に限定されるものではないが、三元系触媒(TWC)の場合は、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属を主とする触媒成分が用いられる。貴金属等の触媒は、セル隔壁表面もしくはその内部に高分散状態で担持させるため、予めアルミナのような比表面積の大きな耐熱性無機酸化物に一旦担持させた後、ハニカム担体のセル隔壁に被覆もしくは含浸させることが好ましい。尚、触媒を担持させる耐熱性無機酸化物としては、アルミナ以外にもシリカ、ゼオライト、ジルコニア、セリア、チタニア、またはこれらの複合酸化物等を用いることもできる。貴金属の担持量は、ハニカム担体の単位体積当たり、0.3〜3.5g/L程度であっても良い。
【0066】
触媒スラリーは、無機粒子の種類や粒度などで限定されるものでは無いが、少なくともその一部がセルの隔壁の細孔内部には浸入出来ることが好ましく、このような触媒スラリーは、その粒度分布における小粒径側からの累積分布が90%となるときの粒子径D90が5μm以下となるように、ボールミルなどで微粒子化されていることが好ましく、より好ましくはD90が3μm以下である。D90が5μm以下であることで、隔壁の細孔内部へ、適切な量の触媒成分が浸入可能になる。特にGPF用途としてウォールフローハニカムを使用する場合、排ガス中の有害成分と共に煤等の微粒子成分の浄化能力も充分に発揮され、しかも、いたずらに圧力損失を招く事も無い。
【0067】
(6)気流の適用:エアーブロー
次に、
図1の右側、すなわち矢印(2)のように、触媒スラリーが供給されたハニカム担体1は、必要によりバルーン2にフードを被せた後、担体1の一方の端面からエアーブローを加えて、余剰の触媒スラリーの除去、触媒スラリーのセル壁表面への塗り伸ばし、触媒スラリーのセル壁内部への充填を行う。
【0068】
バルーン2によって外皮部分全域を液密に把持固定しない従来の方法で、樹脂組成物水溶液81が未乾燥な状態のハニカム担体に対してウオッシュコートにより触媒スラリーを被覆した場合は、
図6(c−2)に示した様になり、バルーンで液密に把持されていない部位の樹脂組成物水溶液81が外皮から浸み出してしまう。そのため、触媒スラリーが外皮部分に浸入し、ハニカム触媒に熱履歴によるクラックが発生し、背圧の上昇を生じてしまう。
ところが、本発明では、シーラーである樹脂組成物水溶液がハニカム担体の外皮部分に塗工された直後、また塗工後に不充分な乾燥状態であっても、外皮部分全域をバルーン状支持体で液密に把持することで、ウオッシュコート時の気流の適用によって外皮部分への触媒スラリーの浸入を防ぐことができ、外皮部分から浸み出してしまうことが無く、かつ触媒製造工程の大幅な時間短縮を図ることができる。
【0069】
(7)弾性把持治具の分離
エアーブローが適用され触媒スラリーが塗工されたハニカム担体は、続いて弾性把持具から分離される。弾性把持具3からのハニカム担体1の分離は、バルーン2内部の空気を空気流通口4から解放するか減圧処理を施すことによる。
【0070】
この類似手段が、前記のとおり特許文献6に示されている。この文献では、円筒型ハニカム担体の全周をバルーンで被い空気加圧した後、触媒スラリーをハニカム担体の内側の上部から流し込み、触媒スラリーの被覆が完了したハニカム担体は、バルーン内部の空気を解放することで装置から分離される。
特許文献6では、更にハニカム担体内側から外皮に触媒スラリーが浸み出てしまうことを防ぐために、ハニカム担体の外皮部分全域を把持した態様についても開示されている。しかし、特許文献6には本発明のような樹脂組成物水溶液などのシーラーによる外皮部分への触媒スラリーの浸入抑制については記載も示唆も無いから、特許文献6のような製法は、GPFのようなハニカム触媒の製造には適用できず、熱履歴によるクラックの発生や、背圧の上昇を招くことになる。
【0071】
本発明で用いるバルーン状支持体は、その内部に空気の導入・吸引が可能な空気流通口を一つ以上有するものであり、この空気流通口から、空気を排出すればハニカムの外皮部分にスラリーが浸み出ていないので、バルーンと固着していないため、容易に分離できる。
【0072】
(8)乾燥、焼成
本発明では、最後に触媒スラリーの塗布されたハニカム担体を乾燥後、焼成して触媒成分を担持する。これにより触媒成分がハニカム担体に担持される。
ここで、乾燥、焼成の条件は特に制限されない。乾燥は例えば100〜200℃で0.1〜3時間かけて行い、焼成は例えば酸化性雰囲気下、400〜600℃で0.5〜5時間かけて行うことができる。
【0073】
上記一連の工程は、自動化され、アームの伸縮、回転、走行、ベルトコンベアによるハニカムの移動、フードの装着・脱着、減圧装置、エアーブロー装置などが自動制御されている。そして、この間にハニカムが減圧されセル内に所定量の触媒スラリーが入り、エアーブローによって、セル内で展延されたハニカム触媒が得られる。
【0074】
以下、本発明の実施態様を更に詳細に説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
【0075】
<実施態様1>
まず、
図2のGPF用のハニカム担体の外皮部分9に、
図5に示した塗工装置をもって樹脂組成物水溶液8を塗工する。ここでは樹脂組成物としてPVAを用いハニカム担体1を塗工装置の駆動・塗布ローラー7の上で回転しながら、外皮部分9に樹脂組成物水溶液8を塗布する。外皮部分9への樹脂組成物水溶液81の塗工量は、樹脂組成物水溶液8の濃度や、駆動・塗布ローラー7の回転数によって適宜調整される。
このようにハニカム担体1の外皮部分9に塗工された樹脂組成物水溶液81は、乾燥させることなく、次工程のウオッシュコートに移る。
【0076】
外皮部分9に樹脂組成物水溶液81が塗工された未乾燥のハニカム担体は、
図3のように、ハニカム担体1の外皮部分において、上端部を弾性把持治具3のバルーン2に近接させ、バルーン2内側の円周上に空気流通口4を二個持つ弾性把持具3を用いており、空気を流入することでハニカム担体が把持固定される。
本実施態様では、ハニカムの外皮部分に含浸された樹脂が乾燥していないので、
図4のように外皮部分全域が液密に把持固定される。バルーン2で把持されたハニカム担体には、この状態で液槽6などから触媒スラリーが供給される。触媒スラリーはハニカム担体の下端から供給されるが、触媒スラリーがハニカム担体の上端から供給されるようにしてもよい。
【0077】
本実施態様の
図4(a−1)では、弾性把持具3のバルーン2内側に設けられた空気流通口4からバルーン2内部の空気を導入することで、ハニカム担体1がウオッシュコート装置に装着されている状態であり、
図4(c−1)は触媒スラリーが供給されたハニカム担体1にエアーブローが加えられている状態である。
本実施態様によれば、樹脂組成物溶液81に時間のかかる乾燥工程を加えず、塗工後即座に触媒スラリーをウオッシュコートした場合で有っても、樹脂組成物水溶液81が外皮部分9の表面に押し出されてくる事が無く外皮部分9の内部に留まることができるので、ウオッシュコートにおいて気流を適用し、その圧力がセル内の触媒スラリーに加わっても、触媒スラリーが外皮部分9に浸入することが無く、後述する焼成工程や触媒としての使用時の熱履歴によるクラックの発生が抑制され、触媒としての使用時において外皮部分の細孔が塞がれず背圧の上昇を招く事が無い。
【0078】
ウオッシュコートが施されたハニカム担体は、触媒スラリーの浸み出しがなく固着していないので、バルーン内部の加圧空気を空気流通口4から解放、もしくは吸引することで、容易に弾性把持具3から解放され、
図3のようになる。
【0079】
こうしてバルーンと分離された触媒スラリー塗工済のハニカム担体は、加熱装置にて25〜100℃で乾燥した後、400〜600℃にて0.5〜3時間焼成して触媒成分が担持される。そして、この焼成により外皮部分9の細孔内に充填されていた樹脂組成物81は燃焼除去され、外皮部分9に触媒成分が含まれないハニカム触媒が得られ本発明によればシーラーの乾燥時間を大幅に削減できるから工業的な大量生産にとって好適である。
【0080】
なお、ハニカム担体に塗工した樹脂組成物水溶液を完全に乾燥させればウオッシュコート時の気流の適用によっても樹脂組成物水溶液の移動はさらに抑制されるが、そのためには数時間に及ぶ乾燥時間を要する事は前述のとおりである。