(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クランクケース(31)に回転自在に支持され前記クランクケース(31)から外側に延出し、前記クランクケース(31)に結合されるクラッチカバー(45)で覆われる先端を有する駆動力伝達シャフト(35)と、
前記クランクケース(31)および前記クラッチカバー(45)の間に配置され、前記駆動力伝達シャフト(35)に相対回転自在に支持されるアウター部材(66)と、
前記アウター部材(66)の内側で前記駆動力伝達シャフト(35)に相対回転不能に支持されるセンター部材(67)と、
軸方向に相対変位自在に前記アウター部材(66)および前記センター部材(67)にそれぞれ支持され、相互に接触すると摩擦力を発揮し前記アウター部材(66)から前記センター部材(67)に回転力を伝達する摩擦部材(68)と、
ばね部材(69)の弾性力を受けて前記摩擦部材(68)の相互接触を拘束する第1位置、および、前記弾性力に抗して前記相互接触から前記摩擦部材(68)を解放する第2位置の間で、軸方向に相対変位自在に前記センター部材(67)に支持されるプレッシャー部材(71)と、
軸方向に相対変位自在に前記駆動力伝達シャフト(35)内に配置されて、軸方向変位に応じて前記第1位置から前記第2位置に向かって強制的に前記プレッシャー部材(71)の変位を引き起こすプッシュロッド(73)と、
を備える内燃機関において、
前記駆動力伝達シャフト(35)の周方向の一部に、軸方向に延びるようにして設けられた摺動孔(35a)と、
前記プッシュロッド(73)に連結されて、前記クランクケース(31)および前記クラッチカバー(45)の間で前記駆動力伝達シャフト(35)の径方向に配置され、前記摺動孔(35a)を貫通して前記駆動力伝達シャフト(35)の外周から径方向に突出するピン部材(94)と、
前記クランクケース(31)および前記クラッチカバー(45)の間で軸方向に相対変位自在に前記駆動力伝達シャフト(35)の外周に装着されて、前記ピン部材(94)に連結されて前記プレッシャー部材(71)に向かって前記ピン部材(94)の軸方向変位を伝達するリフター部材(74)とを備え、
前記駆動力伝達シャフト(35)の先端は前記クラッチカバー(45)に相対回転自在に支持されることを特徴とする内燃機関。
請求項1に記載の内燃機関において、前記クラッチカバー(45)には、前記駆動力伝達シャフト(35)を回転自在に支持する軸受(62)が組み込まれることを特徴とする内燃機関。
請求項2に記載の内燃機関において、前記プッシュロッド(73)の先端に前記駆動力伝達シャフト(35)の回転軸線(Mc)回りで相対回転自在に連結されるリフターピース(92)を備え、前記ピン部材(94)は、前記リフターピース(92)に穿たれた貫通孔(93)内に配置されることを特徴とする内燃機関。
請求項3に記載の内燃機関において、前記リフターピース(92)は、前記駆動力伝達シャフト(35)の先端から前記貫通孔(93)に至る軸方向油路(96)を有し、前記駆動力伝達シャフト(35)の先端には、前記クラッチカバー(45)に形成される油通路(98)が接続されることを特徴とする内燃機関。
請求項4に記載の内燃機関において、前記リフターピース(92)は、前記軸方向油路(96)から径方向に延びて前記リフターピース(92)の外周で開口する給油路(97)を有し、前記給油路(97)は、前記駆動力伝達シャフト(35)の外周で開放される開口(99)に接続されることを特徴とする内燃機関。
請求項5に記載の内燃機関において、前記リフター部材(74)は、前記駆動力伝達シャフト(35)の外周にスライド自在に接する円筒面を形成する軸受部(74a)と、前記軸受部(74a)から前記クランクケース(31)に向かって連続し、前記駆動力伝達シャフト(35)の外周との間に空間を形成する拡張部(74b)とを有し、前記円筒面には、前記開口(99)に接続されて、軸方向に前記空間に向かって開放される通路(101)が形成されることを特徴とする内燃機関。
請求項3〜6のいずれか1項に記載の内燃機関において、前記リフターピース(92)は、前記軸受(62)の内側で、軸方向に変位自在に前記駆動力伝達シャフト(35)内に配置されることを特徴とする内燃機関。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の摩擦クラッチではプッシュロッドの先端がメインシャフト(駆動力伝達シャフト)から突出してプレッシャー部材に相対回転自在に結合される。したがって、クランクケースとクラッチカバーとの間ではメインシャフトはクランクケースに片持ち支持される。片持ち支持のメインシャフトは回転時にぶれを抑制しきれず、メインシャフトの撓みの影響で摩擦クラッチの操作感は高められることができない。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、駆動力伝達シャフトの歪みを低減することで摩擦クラッチの操作感を向上することができる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面によれば、クランクケースに回転自在に支持され前記クランクケースから外側に延出し、前記クランクケースに結合されるクラッチカバーで覆われる先端を有する駆動力伝達シャフトと、前記クランクケースおよび前記クラッチカバーの間に配置され、前記駆動力伝達シャフトに相対回転自在に支持されるアウター部材と、前記アウター部材の内側で前記
駆動力伝達シャフトに相対回転不能に支持されるセンター部材と、軸方向に相対変位自在に前記アウター部材および前記センター部材にそれぞれ支持され、相互に接触すると摩擦力を発揮し前記アウター部材から前記センター部材に回転力を伝達する摩擦部材と、ばね部材の弾性力を受けて前記摩擦部材の相互接触を拘束する第1位置、および、前記弾性力に抗して前記相互接触から前記摩擦部材を解放する第2位置の間で、軸方向に相対変位自在に前記センター部材に支持されるプレッシャー部材と、軸方向に相対変位自在に前記駆動力伝達シャフト内に配置されて、軸方向変位に応じて前記第1位置から前記第2位置に向かって強制的に前記プレッシャー部材の変位を引き起こすプッシュロッドとを備える内燃機関において、
前記駆動力伝達シャフトの周方向の一部に、軸方向に延びるようにして設けられた摺動孔と、前記プッシュロッドに連結されて、前記クランクケースおよび前記クラッチカバーの間で前記駆動力伝達シャフトの径方向に配置され
、前記摺動孔を貫通して前記駆動力伝達シャフトの外周から
径方向に突出するピン部材と、前記クランクケースおよび前記クラッチカバーの間で軸方向に相対変位自在に前記駆動力伝達シャフトの外周に装着されて、前記ピン部材に連結されて前記プレッシャー部材に向かって前記ピン部材の軸方向変位を伝達するリフター部材とを備え、前記駆動力伝達シャフトの先端は前記クラッチカバーに相対回転自在に支持される内燃機関が提供される。
【0007】
第2側面によれば、第1側面の構成に加えて、前記クラッチカバーには、前記駆動力伝達シャフトを回転自在に支持する軸受が組み込まれる。
【0008】
第3側面によれば、第2側面の構成に加えて、内燃機関は、前記プッシュロッドの先端に前記駆動力伝達シャフトの回転軸線回りで相対回転自在に連結されるリフターピースを備え、前記ピン部材は、前記リフターピースに穿たれた貫通孔内に配置される。
【0009】
第4側面によれば、第3側面の構成に加えて、前記リフターピースは、前記駆動力伝達シャフトの先端から前記貫通孔に至る軸方向油路を有し、前記駆動力伝達シャフトの先端には、前記クラッチカバーに形成される油通路が接続される。
【0010】
第5側面によれば、第4側面の構成に加えて、前記リフターピースは、前記軸方向油路から径方向に延びて前記リフターピースの外周で開口する給油路を有し、前記給油路は、前記駆動力伝達シャフトの外周で開放される開口に接続される。
【0011】
第6側面によれば、第5側面の構成に加えて、前記リフター部材は、前記駆動力伝達シャフトの外周にスライド自在に接する円筒面を形成する軸受部と、前記軸受部から前記クランクケースに向かって連続し、前記駆動力伝達シャフトの外周との間に空間を形成する拡張部とを有し、前記円筒面には、前記開口に接続されて、軸方向に前記空間に向かって開放される通路が形成される。
【0012】
第7側面によれば、第3〜第6側面のいずれか1の構成に加えて、前記リフターピースは、前記軸受の内側で、軸方向に変位自在に前記駆動力伝達シャフト内に配置される。
【発明の効果】
【0013】
第1側面によれば、ばね部材の弾性力を受けてプレッシャー部材が第1位置に位置すると、摩擦部材の相互接触が確立され、アウター部材からセンター部材に駆動力は伝達される。アウター部材に入力される駆動力に応じて駆動力伝達シャフトは回転する。プッシュロッドが動作すると、ピン部材およびリフター部材を介してプッシュロッドの軸方向変位はプレッシャー部材に作用する。プレッシャー部材はばね部材の弾性力に抗して第1位置から第2位置に向かって変位し、摩擦部材は相互接触から解放される。アウター部材からセンター部材への回転力の伝達は切断される。駆動力伝達シャフトは駆動力から解放される。こうしてアウター部材、センター部材、摩擦部材、プレッシャー部材およびプッシュロッドは摩擦クラッチを形成する。この摩擦クラッチでは、プッシュロッドはクランクケースを横切るものの、クランクケースの外側で駆動力伝達シャフトはクランクケースとクラッチカバーとで両持ち支持されることができる。したがって、駆動力伝達シャフトの歪みは低減され、摩擦クラッチの操作感は向上する。
【0014】
第2側面によれば、クラッチカバーに対して駆動力伝達シャフトの摩擦抵抗は低減されることから、摩擦クラッチの操作感は向上する。
【0015】
第3側面によれば、プッシュロッドと、ピン部材を支持するリフターピースとは相対回転自在に連結されるので、プッシュロッドとリフター部材との間で引きずり抵抗は低減され、摩擦クラッチの操作感は向上する。
【0016】
第4側面によれば、ピン部材には十分に油が供給されることができ、ピン部材には十分に潤滑が確保されることから、ピン部材の耐久性は高められることができる。
【0017】
第5側面によれば、駆動力伝達シャフトとリフター部材との間に軸方向油路から十分に油が供給されることができ、駆動力伝達シャフトとリフター部材との間で潤滑が確保され、リフター部材の作動性が向上し、摩擦クラッチの操作感は高められることができる。
【0018】
第6側面によれば、軸方向油路から通路を伝って駆動力伝達シャフトの外周とリフト部材との間の空間に油は供給される。駆動力伝達シャフトの回転中に当該空間から摩擦部材に向かって油は飛び散ることができる。こうして摩擦クラッチは潤滑される。摩擦クラッチの耐久性は確保されることができる。
【0019】
第7側面によれば、駆動力伝達シャフト内で軸方向に変位するリフターピースは軸受の内側の空間に配置されるので、リフターピースの変位は安定して案内されることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。ここで、車体の上下前後左右は自動二輪車に乗車した乗員の目線に基づき規定されるものとする。
【0022】
図1は本発明の一実施形態に係る自動二輪車(鞍乗り型車両)の全体構成を概略的に示す。自動二輪車11は車体フレーム12を備える。車体フレーム12の前端でヘッドパイプ13にはフロントフォーク14が操向可能に支持される。フロントフォーク14には車軸15回りで回転自在に前輪WFが支持される。
【0023】
フロントフォーク14にはヘッドパイプ13の上側でハンドルバー16が結合される。ハンドルバー16の両端にはグリップ17が固定される。左グリップ17の前方にはクラッチレバー18が設置される。乗員は左グリップ17に左手を絡ませながら左手でクラッチレバー18を握ることができる。
【0024】
車体フレーム12の後側でピボットフレーム19にはスイングアーム21が車幅方向に水平に延びる支軸22回りで揺動自在に支持される。スイングアーム21の後端には車軸23回りで回転自在に後輪WRが支持される。
【0025】
前輪WFおよび後輪WRの間で車体フレーム12には内燃機関24が搭載される。内燃機関24は回転軸線Rx回りで動力を生み出す。内燃機関24の動力は動力伝達装置25を経て後輪WRに伝達される。なお、本説明中では既知の内燃機関と同様な構成に関し説明が割愛されることがある。
【0026】
内燃機関24の上方で車体フレーム12には燃料を貯蔵する燃料タンク26が搭載される。燃料タンク26の後方で車体フレーム12には乗員シート27が搭載される。燃料タンク26から内燃機関24の燃料噴射装置28に燃料は供給される。自動二輪車11の運転にあたって乗員は乗員シート27を跨ぐ。
【0027】
図2に示されるように、内燃機関24は、車体フレーム12に連結されて、回転軸線Rx回りで動力を生成するクランクシャフトを支持するクランクケース31と、クランクケース31に結合されてクランクケース31から起立するシリンダーブロック32と、シリンダーブロック32の上端に結合されて、燃焼室に臨む吸気弁および排気弁を支持するシリンダーヘッド33と、シリンダーヘッド33の上端に結合されて、軸線Cx回りで回転して吸気弁および排気弁の動作を制御するカムシャフトをシリンダーヘッド33との間に支持するヘッドカバー34とを備える。クランクケース31には、後述されるように、軸線Mc回りで回転自在に支持されるメインシャフト(駆動力伝達シャフト)35および軸線Cc回りで回転自在に支持されるカウンターシャフト36を含む多段変速機(以下「変速機」という)37が収容される。カウンターシャフト36には、クランクケース31から突出する先端に、動力伝達装置25のスプロケット38が相対回転不能に固定される。
【0028】
クランクケース31には、メインシャフト35の延長線上でシリンダーケーシング39が連結される。シリンダーケーシング39には油管LPを通じてマスターシリンダー(図示されず)が接続される。マスターシリンダーは、クラッチレバー18の握り操作に応じてシリンダーケーシング39内に油圧を供給する。
【0029】
図3に示されるように、クランクケース31は、クランクシャフト41の回転軸線Rxに直交する合わせ面で相互に結合されて、クランクシャフト41のクランクを収容するクランク室Crを区画する第1ケース半体42および第2ケース半体43を備える。第1ケース半体42には、クランクシャフト41の回転軸線Rxに直交する合わせ面で左カバー44が結合される。左カバー44は第1ケース半体42との間に発電機室を区画する。第2ケース半体43には、クランクシャフト41の回転軸線Rxに直交する合わせ面で右カバー45が結合される。右カバー45は第2ケース半体43との間にクラッチ室を区画する。
【0030】
シリンダーブロック32にはシリンダーボア47が区画される。シリンダーボア47にはシリンダー軸線C(シリンダーボア47の中心軸)に沿ってスライド自在にピストン48が嵌め込まれる。ピストン48はシリンダーヘッド3
3との間に燃焼室を仕切る。燃焼室には吸気弁の開閉動作に応じて混合気が導入される。燃焼室内の排ガスは排気弁の開閉動作に応じて排出される。シリンダーブロック32はピストン48の線形往復運動を案内する。
【0031】
クランクシャフト41は、第1ケース半体42に組み込まれる軸受49aにジャーナルで連結される第1クランクウエブ41aと、第2ケース半体43に組み込まれる軸受49bにジャーナルで連結される第2クランクウエブ41bと、回転軸線Rxに平行に延び第1クランクウエブ41aおよび第2クランクウエブ41bを相互に結合するクランクピン51とを備える。クランクピン51は第1クランクウエブ41aおよび第2クランクウエブ41bと協働で軸受49a、49bの間でクランクを形成する。クランクはクランク室Crに収容される。クランクピン51には、ピストン48から延びるコネクティングロッド52の大端部が回転自在に連結される。コネクティングロッド52はピストン48の線形往復運動をクランクシャフト41の回転運動に変換する。
【0032】
クランクシャフト41には、軸受49aの外側で、クランクシャフト41の回転に応じて電力を生成する交流発電機(ACG)53が結合される。ACG53は、クランクケース31の第1ケース半体42を貫通して第1ケース半体42から突き出るクランクシャフト41に固定されるアウターローター54と、アウターローター54に囲まれてクランクシャフト41周りに配置されるインナーステーター55とを備える。インナーステーター55は左カバー44に固定される。インナーステーター55には電磁コイル55aが巻き付けられる。アウターローター54には磁石54aが固定される。インナーステーター55に対してアウターローター54が相対回転すると、電磁コイル55aで電力が生成される。
【0033】
クランクシャフト41には、ACG53のアウターローター54および軸受49aの間で動弁機構の駆動スプロケット56が固定される。駆動スプロケット56には環状のカムチェーン57が巻き掛けられる。カムチェーン57は、吸気弁および排気弁を駆動するロッカーアームに接触するカムシャフトにクランクシャフト41の回転動力を伝達する。こうして吸気弁および排気弁の動作はピストン48の線形往復運動に同期する。
【0034】
変速機37は、ドグクラッチ式に構成されて、クランク室Crから連続してクランクケース31に区画される変速機室Tmに収容される。メインシャフト35およびカウンターシャフト36は転がり軸受58a、58b;59a、59bで回転自在にクランクケース31に支持される。メインシャフト35の軸線Mcおよびカウンターシャフト36の軸線Ccはクランクシャフト41の軸心(回転軸線Rx)に平行に設定される。メインシャフト35の先端は軸受58bから第2ケース半体43の外側に突出し右カバー45に相対回転自在に支持される。右カバー45にはメインシャフト35の先端を回転自在に支持する軸受62が組み込まれる。
【0035】
メインシャフト35およびカウンターシャフト36には複数の変速ギア61が支持される。変速ギア61は軸受58a、58b;59a、59b同士の間に配置されて変速機室Tmに収容される。変速ギア61は、メインシャフト35またはカウンターシャフト36に同軸に相対回転自在に支持される回転ギア61aと、メインシャフト35に相対回転不能に固定されて、対応する回転ギア61aに噛み合う固定ギア61bと、メインシャフト35またはカウンターシャフト36に相対回転不能かつ軸方向変位自在に支持されて、対応する回転ギア61aに噛み合うシフトギア61cとを含む。回転ギア61aおよび固定ギア61bの軸方向変位は規制される。軸方向変位を通じてシフトギア61cが回転ギア61aに連結されると、回転ギア61aとメインシャフト35またはカウンターシャフト36との相対回転は規制される。シフトギア61cが他軸の固定ギア61bに噛み合うと、メインシャフト35およびカウンターシャフト36の間で回転動力は伝達される。他軸の固定ギア61bに噛み合う回転ギア61aにシフトギア61cが連結されると、メインシャフト35およびカウンターシャフト36の間で回転動力は伝達される。こうしてメインシャフト35とカウンターシャフト36との間で特定の変速ギア61が噛み合うことで規定の減速比でメインシャフト35からカウンターシャフト36に回転動力は伝達される。
【0036】
メインシャフト35は一次減速機構63を通じてクランクシャフト41に接続される。一次減速機構63は、軸受49bの外側でクランクケース31から突出するクランクシャフト41に支持される一次駆動ギア63aと、軸受58bの外側でクランクケース31から突出するメインシャフト35上に相対回転自在に支持される一次従動ギア63bとを備える。一次従動ギア63bは一次駆動ギア63aに噛み合う。一次駆動ギア63aはクランクシャフト41に相対回転不能に固定される。
【0037】
クランクケース31の第2ケース半体43と右カバー(クラッチカバー)45との間でクラッチ室内には摩擦クラッチ65が配置される。摩擦クラッチ65は、メインシャフト35に相対回転自在に支持されるクラッチアウター(アウター部材)66と、クラッチアウター66の内側でメインシャフト35に相対回転不能に支持されるクラッチハブ(センター部材)67とを備える。クラッチアウター66には一次減速機構63の一次従動ギア63bが連結される。したがって、クランクシャフト41の回転はメインシャフト35の軸線Mc回りでクラッチアウター66の回転を引き起こす。
【0038】
摩擦クラッチ65は、軸方向に相対変位自在にクラッチアウター66およびクラッチハブ67にそれぞれ支持され、相互に接触すると摩擦力を発揮しクラッチアウター66からクラッチハブ67に回転力を伝達する摩擦部材68を備える。摩擦部材68は、メインシャフト35回りで相対回転不能にクラッチアウター66にスプライン結合されて、表面に摩擦材を備える複数枚のフリクションプレート68aと、軸方向にフリクションプレート68aと交互に配置されて、メインシャフト35回りで相対回転不能にクラッチハブ67にスプライン結合される複数枚のクラッチプレート68bとを含む。フリクションプレート68aおよびクラッチプレート68bの相互接触が確立されると、一次従動ギア63bからクラッチアウター66経由でクラッチハブ67に回転力は伝達される。相互接触からフリクションプレート68aおよびクラッチプレート68bが解放されると、両者の間で滑りが生じ、回転力の伝達は切断される。
【0039】
クラッチハブ67には、メインシャフト35の軸線Mc回りで環状に形成されて、ばね部材69の弾性力を受けてフリクションプレート68aおよびクラッチプレート68bの相互接触を拘束する第1位置、および、ばね部材69の弾性力に抗して相互接触からフリクションプレート68aおよびクラッチプレート68bを解放する第2位置の間で、軸方向に相対変位自在にプレッシャー部材71が支持される。摩擦部材68のうち最もプレッシャー部材71に近い位置(最も外側)にはクラッチプレート68bが配置される。最外側のクラッチプレート68bはメインシャフト35の軸線Mcに直交する平面で軸方向にプレッシャー部材71で支持される。プレッシャー部材71はフリクションプレート68aおよびクラッチプレート68bの傾きを防止する。摩擦部材68のうち最もプレッシャー部材71から遠い位置(最も内側)には表面に貼り付けられたコルク材を備えるダンパープレート68cが配置される。ダンパープレート68cはクラッチハブ67に支持される。摩擦部材68の傾き防止とコルク材のダンピング効果とで摩擦クラッチ65の断接性能は向上する。
【0040】
ばね部材69にはメインシャフト35の軸線Mc回りで環状に形成される皿ばねが用いられる。皿ばねの内縁はクラッチハブ67に係り合う。皿ばねの外縁はプレッシャー部材71に押し当てられる。皿ばねは、クラッチハブ67に裏打ちされるダンパープレート68cに向かってプレッシャー部材71を駆動する弾性力を発揮する。
【0041】
摩擦クラッチ65は、ばね部材69の弾性力に抗して相互接触からフリクションプレート68aおよびクラッチプレート68bを強制的に解放するクラッチリリース機構72を備える。クラッチリリース機構72は、メインシャフト35の軸心(軸線Mc)に沿ってメインシャフト35に挿入され、軸方向に相対変位自在にメインシャフト35内に配置されるプッシュロッド73と、クラッチハブ67および右カバー45の間で軸方向に相対変位自在にメインシャフト35の外周に装着され、プッシュロッド73の変位に連動してメインシャフト35の軸方向に変位するリフター部材(操作部材)74と、リフター部材74の変位を受ける力点Lfから第1距離で離れた支点Lsでクラッチハブ67に軸方向に連結され、第1距離よりも短い第2距離で支点Lsから離れた作用点Lwでプレッシャー部材71に軸方向に連結されるリフタープレート(リフタープレート部材)75とを備える。リフタープレート75は、径方向内縁で右カバー45側からリフター部材74に係り合い、径方向外縁で右カバー45側からクラッチハブ67に支持される。プレッシャー部材71には、メインシャフト35の軸線Mc回りに円周方向に接する接線に沿って延び、径方向内縁および径方向外縁の間でリフタープレート75に接触する線形の突起76が形成される。リフタープレート75の径方向内縁は力点Lfとして機能し、リフタープレート75の径方向外縁は支点Lsとして機能し、プレッシャー部材71の突起76は作用点Lwとして機能する。リフター部材74の軸方向変位に応じて第1位置から第2位置に向かって強制的にプレッシャー部材71の変位は引き起こされる。リフター部材74の変位は縮小されてプレッシャー部材71に伝達される。
【0042】
クラッチハブ67は、外周にスプラインを有し、径方向内側からクラッチプレート68bを支持する筒体77と、メインシャフト35の軸線Mc回りで環状に形成されて、筒体77に軸方向から重ねられ、リフタープレート75の径方向外縁を支持する環状支持部材78と、環状支持部材78に支持されて、筒体77にばね部材69を締結するボルト79ごとにボスを形成し、プレッシャー部材71の軸方向変位を案内する複数(ここでは8つ)のカラー部材81と、メインシャフト35の軸線Mc回りで環状に形成されて、カラー部材81に軸方向から重ねられ、プレッシャー部材71に向かってばね部材69を拘束する抑えプレート82と、周方向にボス(カラー部材81)と交互に配置され筒体77にねじ込まれるボルト(締結部材)83によって筒体77に結合され、プレッシャー部材71との間に摩擦部材68を挟む鍔部材84とを備える。ボルト79は、抑えプレート82、カラー部材81および環状支持部材78を順番に貫通して筒体77にねじ込まれ、筒体77に抑えプレート82、カラー部材81および環状支持部材78を結合する。鍔部材84には、メインシャフト35に装着されてメインシャフト35にスプライン結合され、メインシャフト35にねじ結合されるナット部材85で軸方向に相対変位不能に締結される支持筒86が一体に形成される。筒体77は、アルミニウム合金といったアルミニウム系材料から成形される。カラー部材81および鍔部材84はそれぞれ炭素鋼といった鉄系材料から成形される。
【0043】
リフター部材74は、メインシャフト35の外周にスライド自在に接する円筒面を形成する軸受部74aと、軸受部74aからクランクケース31に向かって連続し、メインシャフト35の外周との間に空間を形成する拡張部74bとを有する。拡張部74bにナット部材85が収容される。
図4に示されるように、拡張部74bの外周には、径方向に、接線で仕切られるリフタープレート75の径方向内縁75aを支持する平面87が形成される。ここでは、メインシャフト35の軸線Mc回りに均等に8枚のリフタープレート75が配置される。拡張部74bのクラッチハブ67側端には、平面87から径方向外側に広がって軸方向にリフタープレート75の径方向内縁75aを支持する突片88が一体に形成される。
【0044】
クラッチハブ67の環状支持部材78は、接線で仕切られるリフタープレート75の径方向外縁75bを支持しリフタープレート75の支点Lsを形成し、径方向にリフタープレート75の変位を規制する第1規制部89aを形成する。カラー部材81は、支点Lsよりも径方向に内側でリフタープレート75の左右縁に接触し、回転方向にリフタープレート75の変位を規制する第2規制部89bを形成する。リフタープレート75には、カラー部材81の円筒面に倣って縁から窪んだ逃げ91が形成される。
【0045】
図5に示されるように、クラッチリリース機構72は、プッシュロッド73に同軸に軸方向に相対変位自在にメインシャフト35内に配置され、プッシュロッド73の先端にメインシャフト35の回転軸線(軸線Mc)回りで相対回転自在に連結されるリフターピース92を備える。リフターピース92には、径方向に円筒形の空間を象る貫通孔93が穿たれる。貫通孔93には、クラッチハブ67および右カバー45の間で径方向にメインシャフト35の外周から突出するピン部材94が挿入される。リフター部材74の軸受部74aは、メインシャフト35の外周から突出するピン部材94を受け入れる溝95を有する。
メインシャフト35の周方向の一部(この実施形態では軸線Mcを挟む2箇所)には、ピン部材94を貫通させて径方向に突出させる摺動孔35aが軸方向に延びるようにして設けられる。リフター部材74はメインシャフト35の軸線Mc回りに相対回転不能にピン部材94に覆い被さる。ばね部材69の弾性力はプレッシャー部材71に作用してクラッチハブ67に向かってリフター部材74を駆動する。ばね部材69の働きでリフターピース92はプッシュロッド73の先端に押し付けられる。こうしてリフターピース92はプッシュロッド73に連結される。リフター部材74は、プレッシャー部材71に向かってピン部材94の軸方向変位を伝達する。プッシュロッド73の軸方向変位に応じて第1位置から第2位置に向かって強制的にプレッシャー部材71の変位は引き起こされる。
【0046】
リフターピース92は、メインシャフト35の先端から貫通孔93に至る軸方向油路96と、メインシャフト35の先端および貫通孔93の間で軸方向油路96から径方向に延びてリフターピース92の外周で開口する給油路97とを有する。メインシャフト35の先端には右カバー45に形成される油通路98が接続される。貫通孔93および給油路97には油通路98からエンジンオイルが供給される。
【0047】
図6に示されるように、メインシャフト35には、給油路97に接続されて、メインシャフト35の外周で開放される開口99が形成される。開口99はメインシャフト35の軸線Mcに平行に長孔に形成される。したがって、メインシャフト35内でリフターピース92が軸方向に変位しても、開口99と給油路97との接続は維持される。
【0048】
リフター部材74の軸受部74aでは、メインシャフト35の外周に接する円筒面に開口99に対応する位置で溝101が形成される。溝101は軸方向に延びて拡張部74
b内側の空間に開口する。溝101は、メインシャフト35の外周とリフター部材7
4との間にメインシャフト35の開口99に接続される空間を区画する。
【0049】
図3に示されるように、クラッチリリース機構72は、シリンダーケーシング39内に区画される油圧シリンダー102にメインシャフト35の軸方向に変位自在に収容される油圧ピストン103を備える。油圧ピストン103にはメインシャフト35の回転軸線(軸線Mc)回りで相対回転自在にプッシュロッド73が連結される。ばね部材69の弾性力の働きでプッシュロッド73は油圧ピストン103に押し当てられる。マスターシリンダーから油圧室104に油圧が供給されると、プッシュロッド73はばね部材69の弾性力に抗して右カバー45に向かって変位する。
【0050】
プッシュロッド73は、本軸73aと、本軸73aに同軸に本軸73aの一端に連結されて、油圧ピストン103に接触する半球面を形成する第1端軸73bと、本軸73aに同軸に本軸73aの他端に連結されて、リフターピース92との間に球体を挟み込む環状溝105を形成する第2端軸73cとを備える。本軸73a、第1端軸73bおよび第2端軸73cはいずれも断面円形の軸体に形成される。第1端軸73bおよび第2端軸73cには、本軸73aの端部に形成される嵌め穴に嵌め込まれる小径軸106が一体に形成される。こうしてプッシュロッド73が3体に分解されることで、プッシュロッド73の端部は高い精度で加工されることができる。
【0051】
次に本実施形態の動作を説明する。クラッチレバー18が外力から解放され、シリンダーケーシング39の油圧室104が開放されると、プッシュロッド73には、プレッシャー部材71、リフタープレート75、リフター部材74、ピン部材94およびリフターピース92を経由してばね部材69の弾性力が作用する。したがって、プレッシャー部材71はばね部材69の弾性力を受けて第1位置に維持される。フリクションプレート68aおよびクラッチプレート68bの相互接触が確立され、クラッチアウター66からクラッチハブ67に駆動力は伝達される。クラッチアウター66に入力される駆動力に応じてメインシャフト35は回転する。
【0052】
自動二輪車の静止時や変速機37のシフトチェンジにあたってクラッチレバー18が操作されると、マスターシリンダーからシリンダーケーシング39に油圧が供給される。油圧室104の圧力が上昇し、
油圧ピストン
103は右カバー45に向かってプッシュロッド73を駆動する。プッシュロッド73の変位はリフターピース92およびピン部材94を介してリフター部材74の変位を生み出す。リフター部材74が軸方向に変位すると、リフタープレート75は軸方向に支点Lsで拘束されながら力点Lfでリフター部材74の変位を受け作用点Lwからプレッシャー部材71に変位を伝達する。プレッシャー部材71はばね部材69の弾性力に抗して第1位置から第2位置に向かって変位し、フリクションプレート68aおよびクラッチプレート68bは相互接触から解放される。クラッチアウター66からクラッチハブ67への回転力の伝達は切断される。メインシャフト35は駆動力から解放される。こうしてクラッチレバー18の操作に応じて摩擦クラッチ65ではクラッチアウター66およびクラッチハブ67の間で連結および切断が切り替えられる。
【0053】
本実施形態に係る摩擦クラッチ65では、支点Lsから力点Lfまでの距離に比べて支点Lsから作用点Lwまでの距離は短いことから、作用点Lwで受けるばね部材69の弾性力に対して力点Lfで受ける荷重は縮小する。荷重の縮小に伴ってリフター部材74、ピン部材94、リフターピース92およびプッシュロッド73といった荷重に曝される部品は軽量化されることができる。リフター部材74に加えられる駆動力も低減される。
【0054】
本実施形態に係る内燃機関24は、プッシュロッド73に連結されて、クラッチハブ67および右カバー45の間で径方向にメインシャフト35の外周から突出し、メインシャフト35に対して軸方向に相対変位するピン部材94と、クラッチハブ67および右カバー45の間で軸方向に相対変位自在にメインシャフト35の外周に装着されて、ピン部材94に連結されてプレッシャー部材71に向かってピン部材94の軸方向変位を伝達するリフター部材74とを備える。その結果、プッシュロッド73はクランクケース31を横切るものの、クランクケース31の外側でメインシャフト35はクランクケース31と右カバー45とで両持ち支持される。メインシャフト35の歪みは低減され、摩擦クラッチ65の操作感は向上する。
【0055】
本実施形態では、右カバー45には、メインシャフト35を回転自在に支持する軸受62が組み込まれる。右カバー45に対してメインシャフト35の摩擦抵抗は低減されることから、摩擦クラッチ65の操作感は向上する。
【0056】
プッシュロッド73の先端には、メインシャフト35の回転軸線(軸線Mc)回りで相対回転自在にリフターピース92が連結される。ピン部材94は、リフターピース92に穿たれた貫通孔93内に配置される。プッシュロッド73と、ピン部材94を支持するリフターピース92とは相対回転自在に連結されるので、プッシュロッド73とリフター部材74との間で引きずり抵抗は低減され、摩擦クラッチ65の操作感は向上する。
【0057】
リフターピース92は、メインシャフト35の先端から貫通孔93に至る軸方向油路96を有する。メインシャフト35の先端には、右カバー45に形成される油通路98が接続される。ピン部材94には十分に油が供給されることができ、ピン部材94には十分に潤滑が確保されることから、ピン部材94の耐久性は高められる。
【0058】
リフターピース92は、軸方向油路96から径方向に延びてリフターピース92の外周で開口する給油路97を有する。給油路97は、メインシャフト35の外周で開放される開口99に接続される。メインシャフト35とリフター部材74との間に軸方向油路96から十分に油が供給され、メインシャフト35とリフター部材74との間で潤滑が確保され、リフター部材74の作動性が向上し、摩擦クラッチ65の操作感は高められる。
【0059】
本実施形態では、リフター部材74は、メインシャフト35の外周にスライド自在に接する円筒面を形成する軸受部74aと、軸受部74aからクランクケース31に向かって連続し、メインシャフト35の外周との間に空間を形成する拡張部74bとを有する。円筒面には、開口99に接続されて、軸方向に拡張部74b内の空間に向かって開放される溝101が形成される。したがって、軸方向油路96から溝101を伝ってメインシャフト35の外周とリフ
ター部材74との間の空間にエンジンオイルは供給される。メインシャフト35の回転中に拡張部74b内の空間から摩擦部材68に向かってエンジンオイルは飛び散る。こうして摩擦クラッチ65は潤滑される。摩擦クラッチ65の耐久性は確保される。