特許第6781306号(P6781306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6781306
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】巻上機のブレーキトルク調整方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20201026BHJP
【FI】
   B66B5/00 G
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-129126(P2019-129126)
(22)【出願日】2019年7月11日
【審査請求日】2019年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬口 泰生
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−274833(JP,A)
【文献】 特開平05−347050(JP,A)
【文献】 特開2001−278572(JP,A)
【文献】 特開2012−180188(JP,A)
【文献】 特開2016−183048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付勢手段によりアーマチュアを介してブレーキパッドを巻上機のブレーキディスクに押し付けることで前記巻上機を制動するブレーキ装置を備え、前記ブレーキ装置が巻上機を制動するときのトルクを調整する巻上機のブレーキトルク調整方法であって、
前記巻上機を制動するときのブレーキトルクを測定するブレーキトルク測定工程と、
前記ブレーキトルク測定工程で測定した値が所定の閾値の範囲内にあるか否かを判定する閾値判定工程と、
ブレーキトルク変更工程と、を備え、
前記ブレーキトルク変更工程は、前記ブレーキトルク測定工程で測定した値が、前記閾値の上限値を越えている場合には、前記付勢手段の付勢力を弱め、前記閾値の下限値未満の場合には、前記付勢手段の付勢力を強める巻上機のブレーキトルク調整方法。
【請求項2】
前記付勢手段は圧縮コイルバネであり、前記ブレーキトルク変更工程は、前記ブレーキトルク測定工程で測定した値が、前記閾値の上限値を越えている場合には、前記圧縮コイルバネの位置を前記アーマチュア側に前進し、前記閾値の下限値未満の場合には、前記圧縮コイルバネの位置を前記アーマチュアから離れる側に後退する請求項1に記載の巻上機のブレーキトルク調整方法。
【請求項3】
前記ブレーキトルク変更工程は、前記圧縮コイルバネの長さを測定するコイルバネ測定工程を有し、
前記圧縮コイルバネ測定工程で測定した前記圧縮コイルバネの長さが、バネ線が密着状態の長さである場合には、前記巻上機への給電停止状態で、ブレーキを解錠した後に急ブレーキを作動する非常制動を実施する請求項2に記載の巻上機のブレーキトルク調整方法。
【請求項4】
前記非常制動を実施後に、第2回目の前記ブレーキトルク測定工程及び前記閾値判定工程を実施し、前記ブレーキトルク変更工程は、前記第2回目のブレーキトルク測定工程で測定した値が、前記閾値の範囲内にない場合には、ブレーキトルク異常警報を発する請求項3に記載の巻上機のブレーキトルク調整方法。
【請求項5】
前記ブレーキトルク測定工程とその測定値を格納するエレベータ制御盤と、エレベータ制御盤を遠隔操作する管理プログラムを有する管理センタと備え、
前記管理プログラムが前記エレベータ制御盤にブレーキトルク測定信号を発信すると、前記エレベータ制御盤は前記ブレーキトルク測定工程に基づいて測定した測定値を前記管理プログラムに送信し、前記管理プログラムは、前記閾値判定工程で受信した前記測地値が前記閾値の範囲内にあるか否かを判定し、前記ブレーキトルク変更工程は、前記閾値判定工程の判定結果に基づいて前記付勢手段の付勢力を変更する付勢力変更信号を前記エレベータ制御盤に発する請求項1に記載の巻上機のブレーキトルク調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、巻上機のブレーキトルク調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの巻上機には、巻上機の駆動を制御するブレーキ装置が設けられている。
この種のブレーキ装置としては、巻上機の回転軸に固定したブレーキディスクにアーマチュアを介してブレーキパッドを押し付けて制動するブレーキ装置が公知である。
また、巻上機の安全点検の為に、ブレーキ装置により巻上機を制動するときのブレーキトルクを測定して、ブレーキトルクが所定の閾値の範囲内にない場合には、ブレーキ装置への電力供給を遮断して、ブレーキ装置を作動させる(ブレーキスリップ)ことで、ブレーキトルクの回復を試みることが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−49568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ブレーキスリップでは、ブレーキトルクの回復を試みるだけであり、巻上機に作用するブレーキトルクを調整するものではない。
一方、巻上機のブレーキトルク調整方法が望まれていた。
【0005】
本実施形態の目的は、巻上機のブレーキトルク調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態は、付勢手段によりアーマチュアを介してブレーキパッドを巻上機のブレーキディスクに押し付けることで前記巻上機を制動するブレーキ装置を備え、前記ブレーキ装置が巻上機を制動するときのトルクを調整する巻上機のブレーキトルク調整方法であって、前記巻上機を制動するときのブレーキトルクを測定するブレーキトルク測定工程と、前記ブレーキトルク測定工程で測定した値が所定の閾値の範囲内にあるか否かを判定する閾値判定工程と、ブレーキトルク変更工程と、を備え、前記ブレーキトルク変更工程は、前記ブレーキトルク測定工程で測定した値が、前記閾値の上限値を越えている場合には、前記付勢手段の付勢力を弱め、前記閾値の下限値未満の場合には、前記付勢手段の付勢力を強める巻上機のブレーキトルク調整方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係るエレベータの概略構成を示す正面図である。
図2図1に示す巻上機の側面図である。
図3図2に示す巻上機のブレーキ装置の構成を示す断面図であり、(a)はブレーキの非作動状態、(b)はブレーキの作動状態である。
図4図3に示すブレーキ装置の背面図である。
図5図3に示す付勢力変更手段の概略的構成を示す断面図である。
図6】管理センタにおけるブレーキトルク調整プログラムの構成を示すブロック図である。
図7】第1実施形態に係るブレーキトルク調整プログラムによる工程を示すフローチャートである。
図8】第2実施形態に係るブレーキトルク調整プログラムによる工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態にかかるエレベータ1について、添付図面を参照して説明する。
図1に示すように、エレベータ1の巻上機3は、エレベータ建屋5において、乗りかご8が昇降する昇降路内に設置されており、乗りかご8及びカウンターウエイト9が取り付けられたロープ10を巻き上げて、乗りかご8を昇降する。このエレベータ1は、建屋5内に機械室を設けていないマシンルームレスのエレベータである。
エレベータ1では、エレベータの運転を制御するエレベータ制御盤11が、乗りかご8が昇降する昇降路内に設けてある。
また、エレベータ制御盤11は、例えば、LAN,WAN等の通信ネットワーク13を介してエレベータの管理センタ15に通信により接続されている。
管理センタ15は、エレベータの運転や、保守、点検、診断等のプログラムを有し、これらのプログラムに基づいてエレベータ制御盤11からの各種データ信号を受けたり、エレベータ制御盤11に指令信号を送信する。
【0009】
図2に示すように、巻上機3の巻上シーブ17には、ロープ10が巻き掛けられている。巻上機3は電力の供給により回転軸3aを回転するモータであり、エレベータ制御盤11(図1参照)によりその駆動及び停止が制御されている。
巻上機3は、モータを構成する駆動部19と、回転軸3aの回転を制動するブレーキ装置21とを備えている。
【0010】
図3に示すように、ブレーキ装置21は、電磁コイル23と、アーマチュア25と、圧縮コイルバネ26と、ブレーキディスク27と、ブレーキパッド28と、トルク調整機構29とを備えている。
図3(a)に示すように、電磁コイル23はコイルケース31に収納されており、電磁コイル23が通電されて励磁することにより圧縮コイルバネ26の付勢力に抗してアーマチュア25を電磁吸引し、コイルケース31側に移動させる。
圧縮コイルバネ26は、複数設けてあり、各圧縮コイルバネ26は、コイルケース31に形成された収納部39に収納されている。収納部39はアーマチュア25側に開口39bが形成された穴である。
この圧縮コイルバネ26の一端26aはアーマチュア25に当接してあり、他端26bは収納部39に配置されたバネ支持部材24に当接してある。
尚、コイルケース31、アーマチュア25、ブレーキディスク27及び各ブレーキパッド28は、取付ボルト33を移動自在に挿通してあり、取付ボルト33は巻上機3の駆動部19に螺合により固定されている。
【0011】
ブレーキディスク27は巻上機3の回転軸3aに固定してあり、回転軸3aと共に回転する。
ブレーキパッド28は、ブレーキディスク27の両面にそれぞれ設けてある。図3(b)に示すように、電磁コイル23への通電を停止することで、アーマチュア25が圧縮コイルバネ26の付勢力に押されてブレーキディスク27側へ移動することで、ブレーキパッド28をブレーキディスク27に押し付け、ブレーキパッド28の摩擦力によりブレーキディスク27の回転を制動する。
【0012】
トルク調整機構29は、ブレーキ装置21が巻上機3を制動するときのトルク(ブレーキトルク)を高めたり弱めたりして調整するものであり、コイルケース31に設けられている。
図5に示すように、トルク調整機構29は、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35と、モータ(付勢力変更手段)37とで構成されている。本実施形態では、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35は、圧縮コイルバネ26と同種のものであり共に圧縮コイルバネ26と同様に収納部39に収納されている。
図4に示すように、圧縮コイルバネ26及び調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35は、例えば、コイルケース31に等間隔に合計6個設けてあり、そのうちのいくつか(例えば3個や2個)が調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35である。
図5に示すように、トルク調整機構29では、モータ(付勢力変更手段)37の回転軸37aは、スプライン43を介して可動バネ支持部材41に螺合されている。可動バネ支持部材41には、外周面に雄ネジ41aが形成してあり、この雄ネジ41aは、収納部39に形成された雌ネジ39aに螺合してあり、可動バネ支持部材41が一方に回転することで、アーマチュア25側へ押し込まれて前進し、他方に回転することで後退する。このように、可動バネ支持部材41を前進又は後退することで、アーマチュア25に作用する調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の付勢力を変更できる。
【0013】
次に、ブレーキ装置21及びトルク調整機構29の作用について説明する。
(巻上機3が駆動状態にあるとき)
図3(a)に示すように、エレベータ制御盤11はブレーキ装置21の電磁コイル23に通電し、各圧縮コイルバネ26及び調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の付勢力に抗してアーマチュア25をコイルケース31側に電磁吸引する。これにより、ブレーキディスク21の両面に設けたブレーキパッド28は自由状態になり、ブレーキディスク27が巻上機3の回転軸3aと共に回転する。
(巻上機3にブレーキ装置21を作用するとき)
図3(b)に示すように、電磁コイル23への通電を停止することで、アーマチュア25が圧縮コイルバネ26及び調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の付勢力に押されてブレーキディスク27側へ移動し、ブレーキパッド28をブレーキディスク27に押し付けて、ブレーキパッド28の摩擦力によりブレーキディスク27の回転を制動する。
【0014】
図5を参照して、トルク調整機構29によるトルク(ブレーキトルク)の調整について説明する。
ブレーキトルクを大きくしたい場合には、モータ(付勢力変更手段)37に一方向の電流を流して回転軸37aを一方側に回転する。これにより、可動バネ支持部材41は矢印Eに示すように雌ネジ39aを螺進して、アーマチュア25側へ移動するので、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35がアーマチュア25に作用する付勢力を強める。これにより、図3(b)に示すように、ブレーキパッド28をブレーキディスク27に強く押し付けることで、ブレーキトルクを高めることができる。
一方、ブレーキトルクを小さくしたい場合には、モータ(付勢力変更手段)37に逆方向の電流を流して回転軸37aを他方側に回す。これにより、可動バネ支持部材41は矢印Eと反対側に後退するので、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35がアーマチュア25に作用する付勢力を弱める。これにより、ブレーキパッド28をブレーキディスク27に押し付ける力を弱くすることで、ブレーキトルクを小さくできる。
【0015】
次に、図6を参照して、管理センタ15におけるブレーキトルク調整プログラム(ブレーキトルク調整方法)47の構成を説明する。
このプログラム47は、ブレーキトルク判断部49と、トルク調整部51と、異常発報部53とから構成されている。
ブレーキトルク判断部49は、トルク測定部55と、トルク測定部55で測定した測定データを格納する測定データ格納部57と、基準データ格納部59と、比較部61とを備えている。
トルク測定部55は、通信ネットワーク13を介してエレベータ制御盤11にトルク測定信号を発する。エレベータ制御盤11では、例えば、巻上機3の駆動を停止して、図3(b)に示すように、ブレーキを作用した状態のまま巻上機3を駆動したときに滑り出すときの電力を測定することで、ブレーキトルクを測定する。
測定したブレーキトルク(測定データT)は、エレベータ制御盤11から通信ネットワーク13を介して測定データ格納部57に格納される。
【0016】
基準データ格納部59には、適正なブレーキトルクの閾値の範囲T1〜T2が格納されている。閾値の範囲T1〜T2は、エレベータの乗りかご8(図1参照)を停止させるために十分なものであると同時に急停止による大きなショックが発生しないような適正な範囲の値であり、T2は下限値、T1は上限値である(T2<T1)。
尚、基準データ格納部59には、気温や湿度等の環境に応じた種々の適正なブレーキトルクの閾値の範囲T1〜T2が格納されている。
比較部61は、測定データ格納部57で格納した測定データTと閾値の範囲T1〜T2とを比較し、測定データTが閾値の範囲T1〜T2内(T2≦T≦T1)にあるか否かを判定する。
【0017】
トルク調整部51は、ブレーキトルク設定部63と、トルク調整機駆動部65と、バネ長計測部67と、非常制動部69とを備えている。
ブレーキトルク設定部63は、比較部61で比較した結果について、ブレーキトルクの測定データTが、閾値の範囲の上限値T1を越えている場合(T>T1)には、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の付勢力を弱める位置に変更し、閾値の範囲の下限値T2未満の場合(T<T2)には、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の付勢力を強める位置に変更するように、トルク調整機駆動部65に設定信号を発信する。
トルク調整機駆動部65では、ブレーキトルク設定部63から受けた設定信号に基づいて、エレベータ制御盤11にモータ(付勢力変更手段)37の駆動信号を発し、モータ(付勢力変更手段)37を駆動して、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35が付勢力を強める位置又は弱める位置へ移動させる(図5参照)。
バネ長計測部67は、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35のバネ長さを測定し、バネ線が密着状態の長さか否かの測定信号をブレーキトルク設定部63に送信する。バネ長さの測定は、モータ(付勢力変更手段)37による可動バネ支持部材41の移動量の累積を計算して、圧縮コイルバネ(付勢手段)35がそのバネ線を密着した状態の長さであるか否かを判定する。
【0018】
非常制動部69は、巻上機3への通電停止状態で、ブレーキを解除した後に非常制動を作動する操作を行うものであり、非常制動の作動信号を管理センタ15のプログラムから通信ネットワーク13を介してエレベータ制御盤11に送信する(図1参照)。
異常発報部53は、エレベータの異常を報じるものであり、非常灯の点滅や警報又はその旨の表示を制御盤や管理センタ15に表示する。
【0019】
次に、図7を参照して、第1実施の形態にかかるブレーキトルク調整方法のフローについて説明する。
ブレーキトルク調整フローの開始は、エレベータを通常運転する前に毎日定期的にしても良いし、数日毎に行うものであっても良いし、予め設定された点検時期に開始する。このブレーキトルク調整フローは、管理センタ15に格納されたプログラムに基づいて通信ネットワーク13を介して行われる。
フローが開始されると、ステップS1でブレーキトルクの測定が行われる。ブレーキトルクの測定は、エレベータ制御盤11がトルク測定部55(図6参照)から測定信号を受けると、ブレーキトルクの測定を開始し、測定データTは、測定データ格納部57(図6参照)に格納される。
ステップS2で比較部61(図6参照)が測定データTを閾値の範囲T1〜T2と比較して、閾値の範囲T1〜T2内(T2≦T≦T1)にあるか否かを判断し、閾値の範囲内にある場合(T2≦T≦T1)には、正常であるから、プログラムは終了する。
【0020】
ステップS2で測定データTが閾値の範囲内にない場合(T>T1又はT<T2)には、ステップS3に移行する。ステップS3では、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の長さを測定し、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35のバネ長さが、バネ線が密着状態の長さか否かの判定信号をブレーキトルク設定部63(図6参照)に送信し、ステップS4に移行する。
ステップS4では、圧縮コイルバネ26のバネ長さが、バネ線が密着状態の長さでない場合には、トルク自動調整可能と判断して、ステップS5に移行して、トルク調整機構駆動を行う。
ステップS5のトルク調整機構駆動ステップでは、モータ(付勢力変更手段)37を駆動する。このモータ(付勢力変更手段)37の駆動では、図5に参照されるように、ブレーキトルク測定ステップS1で測定した測定データTが、閾値の範囲の上限値T1を越えている場合(T>T1)には、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の付勢力を弱める位置に変更し、測定データTが、閾値の範囲の下限値T2未満の場合(T<T2)には、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の付勢力を強める位置に変更するように、トルク調整機駆動部65(図6参照)に設定信号を発する。
ステップS5でトルク調整機構29(図3参照)を駆動した後、ブレーキトルク測定ステップS1に戻る。
【0021】
一方、ステップS4で、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35のバネ長さが、バネ線が密着状態の長さであり、トルク調整できない場合には、ステップS6に移行する。
ステップS6では、非常制動を実施する。非常制動操作は、非常制動部69(図6参照)の実施プログラム信号をエレベータ制御盤11に発する。エレベータ制御盤11は、巻上機3が駆動状態にあるときに、ブレーキ装置21への通電を停止して、非常制動を作動する操作を行う。このように非常制動を行うのは、ブレーキパッド28の擦りあわせの改善を図り、ブレーキトルクを回復できる場合があるからである。
次に、ステップS7で再度ブレーキトルク測定を行う。
そして、ステップS8で測定したブレーキトルクの測定データTが、閾値の範囲内(T2≦T≦T1)であれば終了する。
ステップS8で測定したブレーキトルクの測定データTが閾値の範囲内でない場合(T>T1又はT<T2)には、ステップS9で異常発報部53から異常発報を行い、終了する。
【0022】
次に、本実施形態の巻上機3の作用効果について説明する。
図3に示すように、巻上機3を制動するブレーキ装置21が巻上機3を制動するときのトルクを調整するトルク調整機構29を備えており、トルク調整機構29は、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35がアーマチュア25に作用する付勢力を変更するモータ(付勢力変更手段)37を駆動して、付勢力を変更できるから、ブレーキ装置21の制動力を常時適正な範囲に保持することができる。これにより、従来行われていたように、ブレーキトルクを安全確保から過大に設定するのを防止でき、乗り心地の良いエレベータを提供できる。
【0023】
図5に示すように、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35は、一端部35aをアーマチュア25に当接し、他端部35bを可動バネ支持部材41に当接してあり、モータ(付勢力変更手段)37は、可動バネ支持部材41を前進又は後退する構成であるから、簡易な構成で且つブレーキディスク27に作用するブレーキトルクの調整が容易にできる。
モータ(付勢力変更手段)37の回転軸37aに連動して、可動バネ支持部材41を前進又は後退する構成であるから、例えば、回転軸37aの回転方向を変えるだけで可動バネ支持部材41の前進又は後退ができるから、構成を簡易にできる。
図4に示すように、同じ構成の圧縮コイルバネ26、35を複数設けてあり、トルク調整機構29は少なくとも1つの圧縮コイルバネ26を調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35としているから、同種の部材を使用でき、部品点数を少なくできる。
【0024】
次に、本実施の形態にかかる巻上機のトルク調整方法の作用効果について説明する。
図7において、ステップS4及びステップS5に示すように、ブレーキトルク測定工程で測定した測定データTが、前記閾値の範囲の上限値T1を越えている場合(T>T1)には、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の付勢力を弱め、閾値の範囲の下限値T2未満の場合(T<T2)には、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の付勢力を強めているので、トルクを高める場合及び弱める場合の両方の調整ができる。
ステップS3に示すように、調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)35の長さが、バネ線が密着状態の長さである場合には、非常制動(ステップS6)を実施して、ブレーキパッド28の擦りあわせの改善を図っているので、これによりブレーキトルクの回復を図ることができる。
ステップS6で非常制動を実施後に、ブレーキトルク測定工程(ステップS7)及びブレーキトルクの測定データTが閾値の範囲内(T2≦T≦T1)か否かの判定(ステップS8)を実施しているので、ブレーキパッド28の擦りあわせの改善の確認ができる。
エレベータ制御盤11と、エレベータ制御盤11を遠隔操作する管理プログラムを有する管理センタ15とを通信ネットワーク13を介して遠隔操作する構成であるから、エレベータの点検作業を行う作業員の削減ができる。
【0025】
(第2実施形態)
以下に本発明の他の実施形態を説明するが、以下に説明する実施形態において、上述した第1実施形態と同一の作用効果を奏する部分には同一の符号を付することによりその部分の詳細な説明を省略し、以下の説明では第1実施形態と主に異なる点を説明する。
図8に第2実施形態にかかる巻上機のブレーキトルク調整方法を示す。この第2実施形態では、ブレーキトルク設定部63(図6参照)がステップS4のトルク自動調整が可能であると判断した場合には、ステップS5でトルク調整機構駆動した後、ステップS6で非常制動実施をした後、ステップS1に戻ってブレーキトルクの測定をすることが第1実施の形態と異なっている。
この第2実施の形態の制御フロー(図7参照)によれば、第1実施の形態にかかる制御フロー(図8)参照と同様の作用効果を奏することができると共に、更に簡易な制御フローにすることができる。
【0026】
上述した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、請求項に記載の付勢手段は、圧縮コイルバネに限らず、油圧等によりアーマチュア25を付勢しても良いし、トルク調整機構29は油圧を高めたり弱めたりするポンプであっても良い。
巻上機3は、エレベータの巻上機に限らず、エスカレータの巻上機であっても良い。
図5に示に参照されるように、モータ(付勢力変更手段)37の回転軸37aと可動バネ支持部材41との連結はラックピニオンや歯車の組み合わせによる連結で、可動バネ支持部材41を前進及び後退するようにしても良い。
【符号の説明】
【0027】
3…巻上機、11…エレベータ制御盤、13…通信ネットワーク、15…管理センタ、21…ブレーキ装置、23…電磁コイル、25…アーマチュア、27…ブレーキディスク、28…ブレーキパッド、29…トルク調整機構、35…調整用圧縮コイルバネ(付勢手段)、37…モータ(付勢力変更手段)、41…可動バネ支持部材、51…トルク調整部、55…トルク測定部、55…異常発報部、61…比較部、69…非常制動部、S1…ブレーキトルク測定工程、S2…閾値判定工程、S3…バネ長確認(コイルバネ測定工程)、S5…トルク調整機駆動(ブレーキトルク変更工程)、S6…非常制動実施、S9…ブレーキトルク異常発報(ブレーキトルク異常警報)、T…測定データ(測定値)、T1…閾値の範囲の上限値、T2…閾値の範囲の下限値。
【要約】      (修正有)
【課題】巻上機のブレーキトルク調整方法を提供する。
【解決手段】付勢手段によりアーマチュアを介してブレーキパッドを巻上機のブレーキディスクに押し付けることで巻上機を制動するブレーキ装置を備え、ブレーキ装置が巻上機を制動するときのトルクを調整する巻上機のブレーキトルク調整方法であって、巻上機を制動するときのブレーキトルクを測定するブレーキトルク測定工程S1と、ブレーキトルク測定工程S1で測定した値が所定の閾値の範囲内にあるか否かを判定する閾値判定工程S2と、ブレーキトルク変更工程S5と、を備え、ブレーキトルク変更工程S5は、ブレーキトルク測定工程S1で測定した値が、閾値の上限値を越えている場合には、付勢手段の付勢力を弱め、閾値の下限値未満の場合には、付勢手段の付勢力を強める。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8