特許第6781331号(P6781331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6781331-生分解性高分子の精製方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781331
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】生分解性高分子の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/90 20060101AFI20201026BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20201026BHJP
   C08J 3/00 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   C08G63/90
   C08G63/06
   C08J3/00CFD
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-503919(P2019-503919)
(86)(22)【出願日】2017年7月6日
(65)【公表番号】特表2019-523324(P2019-523324A)
(43)【公表日】2019年8月22日
(86)【国際出願番号】KR2017007232
(87)【国際公開番号】WO2018021719
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2019年3月18日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0094321
(32)【優先日】2016年7月25日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】511285358
【氏名又は名称】サムヤン バイオファーマシューティカルズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】SAMYANG BIOPHARMACEUTICALS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ,ナヨン
(72)【発明者】
【氏名】コ,ヨンジュ
(72)【発明者】
【氏名】ヨ,ギュドン
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特表昭60−501217(JP,A)
【文献】 特開平09−100343(JP,A)
【文献】 特開2000−026582(JP,A)
【文献】 特開平08−245779(JP,A)
【文献】 特開2009−256668(JP,A)
【文献】 特開2014−88579(JP,A)
【文献】 特開平10−152550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00−64/42
C08J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)固体状態の生分解性高分子を第2級アルコール、第3級アルコール又はこれらの混合物と接触させ、固液抽出法により前記生分解性高分子から残留モノマーを抽出する工程;及び
(2)前記生分解性高分子から抽出された前記モノマーを除去する工程;を含み、
前記生分解性高分子が、ポリ−D,L−乳酸(PDLLA)、またはポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLDLLA)であり、
前記第2級アルコールがイソプロパノールであり、前記第3級アルコールがtert−ブタノールである生分解性高分子の精製方法。
【請求項2】
前記生分解性高分子の数平均分子量が1,000〜500,000である請求項1に記載の生分解性高分子の精製方法。
【請求項3】
前記第2級アルコール又は第3級アルコール:前記生分解性高分子の混合割合が1:1〜1:100(w/v)である請求項1または2に記載の生分解性高分子の精製方法。
【請求項4】
前記第2級アルコール、第3級アルコール又はこれらの混合物で前記生分解性高分子から残留モノマーを抽出するための時間が0.5〜24時間である請求項1〜のいずれか1項に記載の生分解性高分子の精製方法。
【請求項5】
前記第2級アルコール、第3級アルコール又はこれらの混合物で前記生分解性高分子から残留モノマーを抽出するための温度が0〜90℃である請求項1〜4のいずれか1項に記載の生分解性高分子の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸又はその誘導体などの生分解性高分子の製造中に発生する高分子中の未反応の残留モノマーを簡単、且つ効率的に除去することによって超高純度の生分解性高分子を得るための工程に関する。特に、固体状態の生分解性高分子を第2級アルコール又は第3級アルコールを含有する有機溶媒と接触させ、固液抽出法により、固体状態の高分子から残留モノマーだけを溶解させ、除去することによって、生分解性高分子の物性を低下させることなく超高純度の生分解性高分子を得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ−L−乳酸(PLLA)、ポリ−D−乳酸(PDLA)、ポリ−D,L−乳酸(PDLLA)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLDLLA)、ポリグリコール酸(PGA)、L−乳酸−グリコール酸共重合体(PLLGA)、D,L−乳酸−グリコール酸共重合体(PDLLGA)等を含むポリ乳酸及びその誘導体などの生分解性高分子は、生体適合性に優れ、人体に無害な乳酸又はグリコール酸などに分解される特徴により、ドラックデリバリー及び医療機器のような様々な分野で広く使用されている。
【0003】
これら生分解性高分子、特に、医療用途のための生分解性高分子の中で、最も盛んに研究され使用されてきた合成高分子は、α−ヒドロキシ酸(alpha−hydroxyl acid)を単位とするポリエステルである。その中でも、乳酸(lactic acid)及び/又はグリコール酸(glycolic acid)を構成単位とするポリエステルが最も良く知られている。これらの高分子は、一般に、単量体の加熱脱水縮合によって生成されたオリゴマーを減圧及び加熱分解することにより得られる環状二量体であるグリコリド又はラクチドを、触媒存在下で開環重合することにより合成される。重合用触媒としては、2−エチルヘキサン酸スズなどの二価スズのエステル化合物が用いられる。開始剤としては、ラウルイルアルコールなどのアルコールが用いられる。次いで、得られた高分子塊は、切断、粉砕又はペレット化のような追加工程を経て、高分子チップ又はペレットに成形される。
【0004】
前記重合工程で得られた生分解性高分子中に残留する未反応モノマーは、速やかに加水分解され、その加水分解生成物は、高分子の分解を促進させる。あるいは、モノマーの加水分解により生成した物質が高分子に可塑性を与えることで高分子のガラス転移温度(Tg)又は融点(Tm)を低下させるため、高分子の物理的性質が残留モノマーの含量によって変わることが報告されている。したがって、高分子の物性を安定的に維持するためには、残留する未反応モノマーを除去する必要がある。一般に、残留モノマーは、加熱及び減圧乾燥(vacuum drying)により除去される。高分子中の残留モノマーの最終含量は、0.5wt%以下であることが好ましい。しかし、減圧乾燥によりモノマー除去をする間、モノマーは高分子中の微量の水により加水分解される。これは、高分子の分解をもたらし、乾燥後、高分子の物性変化が観測される理由となり得る。
【0005】
特許文献1では、高分子量のPLLAから残留モノマーを除去するために、アセトンを用いた固液(solid−liquid)抽出法が採用されており、高分子の物理的性質を変えることなくモノマーを除去できることが開示されている。しかし、このような方法は、高分子量及び高結晶性を有するPLLAのような高分子にしか適用できず、PDLLA、PLDLLA、PLGAのようなアセトンに溶解してしまう非晶質高分子には適用することができない。
【0006】
特許文献2は、高分子を有機溶媒に溶解し、そこにアルカリ金属塩水溶液を加え、液−液抽出によってモノマーを水溶液層に移動させて除去し、次いで高分子が含まれた有機層を再沈殿させて高分子を得る方法を紹介している。しかし、この方法は、一旦高分子を溶解した後、モノマーを除去する必要があり、次いで高分子を再沈殿させなければならないという不便があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許 第5319038号
【特許文献2】韓国特許 第10−1119861号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、結晶性生分解性高分子であるPLLAだけでなく、非結晶性(amorphous)特徴を有するPDLLA、PLDLLA、PLLGAなどの生分解性高分子を溶解させることなく、高分子に含まれた未反応モノマーのみを有機溶媒に溶解させ、固液抽出法により残留モノマーを除去して、超高純度の生分解性高分子を得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、(1)固体状態の生分解性高分子を第2級アルコール、第3級アルコール又はこれらの混合物と接触させ、固液抽出法により前記生分解性高分子から残留モノマーを抽出する工程;及び(2)前記生分解性高分子から抽出されたモノマーを除去する工程;を含む、生分解性高分子の精製方法が提供される。
【0010】
本発明の別の態様によれば、1H NMRで測定したときに、残留モノマーの含量が0.5%(w/w)以下である、前記方法に従って精製又は製造される生分解性高分子を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高分子の物性を低下させることなく簡単、且つ効率的に高分子に残留する未反応モノマーを除去することにより、超高純度の結晶性又は非結晶性生分解性高分子(例えば、ポリ乳酸又はその誘導体)を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例3において、ポリ(D,L−ラクチド)(PDLLA)をイソプロパノール(IPA)で処理前(上)と処理後(下)に測定されたプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H NMR)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下で、本発明を詳細に説明する。
本発明において、用語「生分解性高分子」とは、優れた生体適合性を有し、乳酸又はグリコール酸のような人体に無害な成分に分解される高分子を意味する。
【0014】
一実施形態では、前記生分解性高分子は、α−ヒドロキシ酸(alpha−hydroxyl acid)を単位とする、特に乳酸(lactic acid)及び/又はグリコール酸(glycolic acid)を構成単位とする脂肪族ポリエステルであってもよい。
【0015】
一実施形態では、前記生分解性高分子は、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、又は乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)であってもよい。
【0016】
一実施形態では、前記生分解性高分子は、ポリ乳酸又はポリ乳酸誘導体であってもよい。
【0017】
一実施形態では、前記ポリ乳酸誘導体は、例えば、ポリグリコリド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物及びこれらの共重合体よりなる群から選ばれる一つ以上であってもよい。より具体的には、ポリ乳酸誘導体は、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、又はポリジオキサン−2−オンである。
【0018】
一実施形態では、前記生分解性高分子は、ポリ−L−乳酸(PLLA)、ポリ−D−乳酸(PDLA)、ポリ−D,L−乳酸(PDLLA)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLDLLA)、ポリグリコール酸(PGA)、L−乳酸−グリコール酸共重合体(PLLGA)及びD,L−乳酸−グリコール酸共重合体(PDLLGA)よりなる群から選ばれる一つ以上であってもよい。
【0019】
一実施形態では、前記生分解性高分子は、ポリ乳酸、乳酸とグリコール酸との共重合体、乳酸とカプロラクトンとの共重合体及び乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンとの共重合体よりなる群から選ばれる一つ以上であってもよい。
【0020】
用語「ポリ乳酸」又は「ポリ乳酸誘導体」は、文脈上、明らかにそうでないと示さない限り、ポリ乳酸及びポリ乳酸誘導体をまとめて総称する概念であり、ポリ乳酸とポリ乳酸誘導体との精製方法に違いはない。
【0021】
一実施形態では、前記生分解性高分子の数平均分子量は、例えば1,000〜500,000ダルトン、さらに具体的には、10,000〜300,000ダルトンであってもよいが、これらに限定されない。本発明による精製方法は、低分子量の生分解性高分子(例えば、ポリ乳酸又はその誘導体)だけでなく、高分子量の生分解性高分子にも適用することができる。
【0022】
本発明では、固体状態の前記生分解性高分子を第2級アルコール又は第3級アルコール、又はこれらの混合物と接触させ、固液抽出法によって前記生分解性高分子から残留モノマーを除去する。
【0023】
本発明では、PLLAなどの結晶性ポリマーだけでなく、PDLLA、PLDLLA、PLGAなどの非晶質高分子、低分子量を有する高分子から高分子量を有する高分子までほとんどのポリ乳酸及びその誘導体を含む生分解性高分子を溶解せずに、固液抽出によって残留モノマーを除去する。
【0024】
非晶質高分子は、有機溶媒に対する耐性が弱く、ほとんどの非プロトン性(aprotic)溶媒に可溶性である傾向がある。したがって、非晶質高分子を溶解させない溶媒として、プロトン性(protic)溶媒であるアルコール類が考慮される。しかし、未反応モノマーを残存させたまま高分子をアルコール類に露出すると、アルコールのヒドロキシ基による環状モノマーの開環反応(ring−opening)が起こり、開環反応の生成物が高分子の分解を促進させる。これは、高分子の物性が水分により低下するという前述と同じメカニズムである。
【0025】
そこで、本発明では、モノマー除去時のモノマーの加水分解による高分子の分解を抑制するために、残留するモノマーとは反応し難い第2級アルコール(ヒドロキシ基が第2級炭素に結合したアルコール化合物)、第3級アルコール(ヒドロキシ基が第3級炭素に結合したアルコール化合物)又はこれらの混合物が用いられる。第2級アルコール及び第3級アルコールは、第1級アルコールと比較して立体障害効果によってラクチドモノマーの開環反応を引き起こすことが困難であるため、モノマー除去工程中の高分子の分解を抑制できると考えられる。
【0026】
一実施形態では、前記第2級アルコール又は第3級アルコールは、炭素数3以上(例えば、3〜10、又は3〜6、又は3〜5)の直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族の第2級アルコール又は第3級アルコールであってもよい。
【0027】
一実施形態では、前記第2級アルコールはイソプロパノール(IPA、イソプロピルアルコールとも呼ばれる)、2−ブタノール及び3−ペンタンオールからなる群から選ばれる一つ以上であってもよく、より具体的には、イソプロパノールであってもよい。
【0028】
一実施形態では、前記第3級アルコールは、tert−ブタノール及びtert−アミルアルコールからなる群から選ばれる一つ以上であってもよく、より具体的には、tert−ブタノールであってもよい。
【0029】
本発明で使用される固液抽出法は、固体状態の処理対象(即ち、固体状態の生分解性高分子)を、前記処理対象は溶解しないが、それから除去されるべき不純物成分(即ち、残留モノマー)は溶解する抽出溶媒(即ち、第2級アルコール又は第3級アルコール)を混合して接触させた後、ろ過により抽出溶媒中に不純物を残したまま、固体成分のみを回収することによって、固体の処理対象から不純物成分を除去する方法を意味する。
【0030】
一実施形態では、前記第2級アルコール又は第3級アルコール:生分解性高分子の混合割合は、1:1〜1:100(w/v)であり、より具体的には1:2〜1:10(w/v)であってもよい。
【0031】
一実施形態では、前記生分解性高分子中に残留する未反応モノマーを第2級アルコール又は第3級アルコールで抽出するための時間は、0.5〜24時間であり、より具体的には4〜12時間であってもよい。
【0032】
一実施形態では、前記生分解性高分子に残留する未反応モノマーを第2級アルコール又は第3級アルコールで抽出する時の温度は、0〜90℃であり、より具体的には25〜60℃であってもよい。
【0033】
一実施形態では、前記生分解性高分子中に残留する未反応モノマーを第2級アルコール又は第3級アルコールで抽出する工程は、1回以上20回未満繰り返すことができ、具体的には2回〜5回繰り返すことができる。高分子を抽出溶媒から分離するための洗浄及びろ過は毎回行われる。ろ過後に得られた固体高分子チップ又はペレットをオーブン中で減圧乾燥(vacuum drying)して残留溶媒を除去する。減圧乾燥中のオーブンの温度は、20〜120℃、より具体的には40〜90℃であってもよい。乾燥時間は、1日以上、より具体的には2〜10日であってもよい。
【0034】
したがって、本発明による生分解性高分子の精製方法及び製造方法は、固液抽出法で得られた混合物をろ過することによって固体状態の高分子を回収する工程、及び回収された高分子を減圧乾燥する工程をさらに含むことができる。
【0035】
本発明により生分解性高分子を精製又は製造すると、H NMRによる測定で残留モノマーが検出されない(即ち、残留モノマー含量がN.D.(Not detected)である)超高純度の生分解性高分子を得ることができる。したがって、本発明の別の態様によれば、1H NMRによる測定の際の残留モノマーが0.5%(w/w)以下である、本発明の精製方法又は製造方法に従って精製又は製造された生分解性高分子が提供される。
【0036】
本発明を、以下の実施例によってさらに詳細に説明する。ただし、これらの実施例は本発明を例示することのみを目的としており、本発明の範囲はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
減圧乾燥によるモノマーの除去及び第1級アルコールを用いた固液抽出法によるモノマー除去方法の有効性を確認するために、以下の比較例1〜4を行った。
【0038】
比較例1:減圧乾燥によるPLLAからの残留モノマーの除去
1kgのPLLAをステンレス鋼製のトレイに入れ、そのトレイをオーブンに入れた。オーブンの温度を20℃に設定し、約1時間減圧乾燥した。その後、オーブンの温度を40℃に上げ、4〜12時間乾燥した後、オーブンの温度を最終的に90℃に上げ、10日間乾燥した。減圧乾燥によるモノマー除去が完了した後、試料をオーブンから取り出し、1H NMR及びIV(固有粘度、inherent viscosity)を測定した。IV測定は、ウベローデ(Ubelohde)粘度管を用いて、クロロホルム(CHCl3)溶媒中、25℃、c=0.1g/dLの条件で行った。1H NMRにより測定した残留モノマー含量変化及びIVの測定結果を下記表1に示す。
【0039】
比較例2:減圧乾燥によるPDLLAからの残留モノマーの除去
1kgのPDLLAをステンレス鋼製のトレイに入れ、そのトレイをオーブンに入れた。オーブンの温度を20℃に設定し、約1時間減圧乾燥した。その後、オーブンの温度を40℃に上げ、4〜12時間乾燥した後、最終的に80℃に上げ、10日間乾燥した。減圧乾燥によるモノマー除去が完了した後、試料をオーブンから取り出し、1H NMR及びIVを測定した。1H NMRにより測定した残留モノマー含量変化及びIVの測定結果を下記表1に示す。
【0040】
比較例3:メタノールを用いることによるPLLAからの残留モノマーの除去
10gのPLLAチップをフラスコに入れ、無水メタノール20mLを加えた。得られた混合溶液を室温で約4時間撹拌又は放置した。次いで、メタノールを除去し、新たなメタノールと交換した。この過程を計4回行った後、メタノールをろ過し、得られたPLLAチップをオーブンで乾燥した。乾燥温度は40℃、乾燥時間は4〜12時間であった。メタノール乾燥が完了した後、試料をオーブンから取り出し、1H NMR及びIVにより測定した。1H NMRにより測定した残留モノマー含量変化及びIVの測定結果を下記表1に示す。
【0041】
比較例4:エタノールを用いることによるPDLLAからの残留モノマーの除去
10gのPDLLAチップをフラスコに入れ、無水エタノール20mLを加えた。得られた混合溶液を室温で約4時間撹拌又は放置した。次いで、エタノールを除去し、新たなエタノールと交換した。この過程を計4回行った後、エタノールをろ過し、得られたPDLLAチップをオーブンで乾燥した。乾燥温度は40℃、乾燥時間は4〜12時間であった。エタノール乾燥が完了した後、試料をオーブンから取り出し、1H NMR及びIVにより測定した。1H NMRにより測定した残留モノマー含量変化及びIVの測定結果を下記表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、減圧乾燥によりモノマー除去したPLLA試料(比較例1)は、依然としてモノマーが残留している。乾燥前と比較して、IVが15%減少したことも観察された。比較例2においても同様の結果が得られた。即ち、減圧乾燥後もモノマーが残留し、IVの低下が観察された。
【0044】
メタノールを用いた固液抽出法によるモノマー除去を試みた比較例3では、メタノール処理した後にIVが低下したことは注目に値する。エタノールを用いた固液抽出法を行った比較例4の場合も同様にIVの低下が観測された。これは、第1級アルコールによるモノマーの開環反応及びそれに続く高分子の分解によるものと推測される。
【0045】
次に、下記実施例1〜3において、第2級アルコール又は第3級アルコールを用いてモノマーの除去を行った。
【0046】
実施例1:イソプロパノールを用いることによるPLDLLA70/30からの残留モノマーの除去
10gのPLDLLA70/30(L−ラクチド:D,L−ラクチドモル比=70:30)をフラスコに入れ、イソプロピルアルコール100mLを加え、撹拌した。撹拌中のフラスコ内の温度は60℃に設定した。約1〜4時間撹拌した後、イソプロパノールをろ過により除去し、同量の新たなイソプロパノールと交換した。この過程を計4回行った。最終的に、ろ過により得られたPLDLLA70/30チップを減圧乾燥により残留溶媒を除去した。イソプロパノールを除去するために、オーブンの温度を40〜80℃に設定した。イソプロパノールが完全に乾燥した後、試料をオーブンから取り出し、1H NMR及びIVにより測定した。1H NMRにより測定した残留モノマー含量変化及びIVの測定結果を下記表2に示す。
【0047】
実施例2:tert−ブタノールを用いることによるPDLLAからの残留モノマーの除去
10gのPDLLAをフラスコに入れ、tert−ブタノール100mLを加え、撹拌した。撹拌中のフラスコ内の温度は40℃に設定した。約1〜4時間撹拌した後、tert−ブタノールをろ過により除去し、同量の新たなtert−ブタノールと交換した。この工程を計4回行った。最終的に、ろ過により得られたPDLLAチップを減圧乾燥により残留溶媒を除去した。tert−ブタノールを除去するために、オーブンの温度を40〜80℃に設定した。tert−ブタノールが完全に乾燥した後、試料をオーブンから取り出し、1H NMR及びIVにより測定した。1H NMRにより測定した残留モノマー含量変化及びIVの測定結果を下記表2に示す。
【0048】
実施例3:イソプロパノールを用いることによるPDLLAからの残留モノマーの除去
10gのPDLLAをフラスコに入れ、イソプロパノール100mLを加え、撹拌した。撹拌中のフラスコ内の温度は50℃に設定した。約1〜4時間撹拌した後、イソプロパノールをろ過により除去し、同量の新たなイソプロパノールと交換した。この工程を計4回行った。最終的に、ろ過により得られたPDLLAチップを減圧乾燥により残留溶媒を除去した。イソプロパノールを除去するために、オーブンの温度を40〜80℃に設定した。イソプロパノールが完全に乾燥した後、試料をオーブンから取り出し、1H NMR及びIVにより測定した。1H NMRにより測定した残留モノマー含量変化及びIVの測定結果を下記表2に示す。また、モノマーを除去する前後の1H NMRスペクトルを図1に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示すように、実施例1〜3のように第2級アルコール又は第3級アルコールを用いた固液抽出法によりモノマーを除去したところ、IV低下などの物性の低下は観測されなかった。特に、実施例1と同様に、IPAを用いて60℃に加熱して抽出を行った場合、残留するモノマーを完全に除去できることが確認された。これにより、第2級アルコール又は第3級アルコールを用いた固液抽出によるモノマーの除去方法が有効であることが確認された。
図1