(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
[マスクの構成]
図1は、本発明の一実施形態のマスクの平面図である。
図1に示すマスク100は、x方向に沿って複数の開口が設けられた長尺マスクである。マスク領域70では、開口11の外周縁に沿って非接着領域71が設けられている。
【0015】
図2は、
図1のマスク100のA−A線における断面図であり、
図2の下側が被製膜基板との対向面である。
図4も、
図1のA−A線における断面図であり、
図2とは異なる形態のマスク104が図示されている。
図3A〜Eは、
図2のマスク100を用いて、被製膜基板1上にパターン状の薄膜111を形成する工程を示す概念図である。
【0016】
マスク基材30は、被製膜基板1との対向面である第一主面が、被製膜基板に対する接着性を有している。
図2に示すマスク基材30は、基材フィルム31の第一主面に粘着層32が設けられることにより、基板との接着性を有している。マスク基材30の第一主面上には、離型フィルム39が剥離可能に貼設されており、マスク基材30の第二主面上には、支持基材50が剥離可能に貼設されている。
【0017】
マスク基材30には開口11が設けられている。開口11の形状は、基板上に形成される薄膜111のパターン形状に対応している。
図1では矩形状の開口11が設けられているが、開口の形状は特に限定されない。開口11は、例えば、フィルム等の面状のマスク基材を切断して、開口に対応する領域を除去することにより設けられる。
【0018】
図2に示す形態において、マスク基材30の第一主面では、開口11の外周縁に沿った外周非接着領域71に、粘着層32が設けられていない。そのため、
図3Cに示すように基板1上にマスク基材30を貼着する際に、外周非接着領域71は、基板1に対する接着性を有していない。
【0019】
基材フィルム31は、可撓性を有していればその材料は特に限定されず、金属箔や樹脂フィルム等が用いられる。材料が安価であり、加工性に優れ、かつ被製膜基板との接触時の傷付きを低減できることから、基材フィルムとしては、可撓性樹脂フィルムが好ましい。可撓性樹脂フィルムの樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類等が挙げられる。フィルムの強度、耐熱性、寸法安定性等の観点から、基材フィルム31は二軸延伸フィルムであることが好ましい。マスクに高い耐熱性が求められる場合は、可撓性フィルムの樹脂材料として、ポリイミド等の高耐熱材料を用いてもよい。
【0020】
マスク基材30は透明でも不透明でもよい。マスク基材30の厚みは特に限定されない。自己支持性と可撓性とを両立させる観点からは、マスク基材30の厚みは、10〜100μm程度が好ましい。ロール・トゥ・ロール方式により被製膜基板1上への薄膜111の形成が行われる場合は、基板1の厚みよりもマスク基材30の厚みが小さいことが好ましい。
【0021】
粘着層32は、基板1に貼着可能であり、かつ薄膜形成後に基板1から剥離可能であればよく、一般の粘着テープ等に使用されている粘着剤で構成することができる。マスク基材30として、基材フィルム31用の樹脂材料と粘着層32用の樹脂材料とを多層押出により一体成型した自己粘着性フィルムを用いてもよい。マスク基材30として基材フィルム31と粘着層32とを一体成型したフィルムを用いれば、マスク基材を基板1から剥離した際に、基板1への糊残りが生じ難く、薄膜付き基板の品質を向上できる。
【0022】
粘着層32として、加熱やUV照射等により接着力が低下する材料を用いてもよい。この場合、基板1上に薄膜を形成する際には、基板1とマスク基材30とを強固に接着させ、薄膜形成後に接着力を低下させることにより、基板1の表面からマスク基材30を容易に剥離できる。
【0023】
開口11の外周に外周非接着領域71を設ける方法としては、事前にパターニングされた粘着シートを基材フィルム31に貼設する方法、基材フィルム31上の領域71上に粘着層が設けられないように粘着層の材料を塗布(印刷)する方法、基材フィルム31上の全面に粘着層を設けた後に領域71上の粘着層を除去する方法等が挙げられる。加熱やUV照射等により接着力が低下する材料を粘着層32として基材フィルム31上の全面に設けた後、領域71上の粘着層の接着力を低下させることにより、非接着領域としてもよい。
【0024】
図4に示すように、領域71の粘着層32が基板1と接着しないように、領域71の粘着層32上に被覆部材35を設けてもよい。なお、
図4では、マスク基材30の第二主面上に支持基材が設けられていないが、領域71に被覆部材35を設けて非接着領域とする形態においても、
図2に示す形態と同様、マスク基材の第二主面上に支持基材50が貼接されていてもよい。
【0025】
マスク基材30として、基材フィルム31と粘着層32とを一体成型したフィルムを用いる場合は、領域71の粘着層を部分的に除去することは容易ではない。そのため、粘着層32上に被覆部材35を貼設することにより、開口11の外周縁に沿って外周非接着領域71を設けることが好ましい。基材フィルムの表面に粘着層が一体成型された自己粘着フィルムの所定領域71に被覆部材35を貼設する方法は、基材上への粘着層の形成や粘着層のパターニング作業を必要としないため、材料が安価であり、かつマスクの形成工程を簡素化できる。
【0026】
被覆部材35は、第一主面がマスク基材30の粘着層32と接着可能であり、かつ第一主面の反対面である第二主面が被製膜基板1と接着しないものであればよい。例えば、片面に粘着層を備える自己粘着フィルムを、粘着面がマスク基材30と対向するように配置して貼着してもよい。
【0027】
マスク基材30の第一主面上に離型フィルム39を貼設することにより、基板1との貼着前の粘着層32を保護できる。マスク基材30の第二主面上に支持基材50を貼設することにより、マスク基材30の表面を保護できる。また、マスク基材30の第二主面上に支持基材50を設けることにより、マスク基材30の開口11の面積が大きい場合でも、マスクの自己支持性を保持できるため、マスクと基板1との貼り合わせを安定して実施できる。また、支持基材50が設けられていることにより、開口11の形状が安定するため、基板1上に形成される薄膜111のパターン精度を向上できる。
【0028】
離型フィルム39および支持基材50は可撓性であればその材料は特に限定されない。離型フィルム39は、マスク基材30との対向面である第二主面に離型処理が施されていてもよい。離型フィルム39の表面に離型処理を施すことにより、マスク基材30からの剥離が容易となる。支持基材50は、マスク基材30との対向面である第二主面に粘着層52が設けられていることが好ましい。支持基材50の表面に粘着層52が設けられることにより、マスク基材30に対する相対的な位置の固定が容易となり、開口11の面積が大きい場合でも、開口の形状を一定に保持できる。支持基材50として、マスク基材30と同様のフィルム材料を用いてもよい。
【0029】
[マスクを用いた薄膜の形成]
図3A〜Eは、
図2のマスク100を用いて、被製膜基板1上にパターン状の薄膜111を形成する工程を示す概念図である。被製膜基板1は剛性基板でも可撓性基板でもよい。ロール・トゥ・ロール方式による連続的な製膜が可能であることから、可撓性基板が好ましい。被製膜基板1の表面には、事前に他の薄膜が設けられていてもよい。
【0030】
マスク基材30の第一主面に離型フィルム39が設けられている場合は、まず離型フィルムを剥離して、マスク基材30の粘着層32を露出させる(
図3A)。この際、マスク基材30の第二主面に支持基材50が設けられていれば、離型フィルム39を剥離後も、マスクの自己支持性が維持されるため、開口11の形状を安定化できる。
【0031】
マスク基材30の第一主面を、被製膜基板1上に貼着する(
図3B)。この際、マスク基材30の第一主面に設けられた粘着層32により、被製膜基板1上でのマスク基材30の位置が固定される。そのため、ロール・トゥ・ロールプロセスの様に、基板を移動させながら製膜を行う場合でも、基板1とマスク基材30との相対的な位置を一定に維持できる。マスクの開口11の外周縁部の非接着領域71では、マスク基材と基板とが当接しているが、両者は非接合状態である。マスク基材30の第二主面に支持基材50が設けられている場合は、開口11が設けられた領域において、支持基材50の粘着層52と基板1とが貼着していてもよい。
【0032】
第二主面に貼設された支持基材50を剥離除去することにより、開口11下に基板1が露出する(
図3C)。基板1上にマスク基材30が貼着された状態を維持しつつ支持基材50の剥離を容易に行うために、基板1とマスク基材30の粘着層32との接着力が、マスク基材30の第二主面と支持基材50の粘着層52との接着力よりも大きいことが好ましい。例えば、マスク基材30の粘着層32として、支持基材50の粘着層52よりも接着力の高い材料を用いることにより、基板1と粘着層32との接着力を相対的に高めればよい。また、マスク基材30の粘着層32の厚みを支持基材50の粘着層52の厚みよりも大きくすることにより、粘着層32の接着力を向上してもよい。基板1の材料が粘着層32に対して高い接着性を有する場合は、マスク基材30の粘着層32の接着力と支持基材50の粘着層52の接着力は同等でもよい。マスク基材30の第二主面を離型処理することにより、マスク基材30の第二主面と粘着層52との接着力を相対的に低下させてもよい。
【0033】
マスクの開口11下に基板1が露出した状態でスパッタ法等により製膜を行うと、開口11下に露出した基板1上に薄膜111が堆積する(
図3D)。マスク領域70では、マスク基材30上に薄膜が堆積するため、基板1上には薄膜は堆積しない。マスク基材30の開口壁面にも薄膜が堆積してもよい。
【0034】
薄膜を製膜後に、基板1上からマスクを剥離除去することにより、基板1上の所定領域(マスクの開口11に対応する領域)にパターン状の薄膜111が設けられた薄膜付き基板301が得られる(
図3E)。マスクの開口11の外周縁に沿った非接着領域71では、マスクと基板1とが当接しているため、基板1上には薄膜は形成されない。一方、非接着領域71では、基板1とマスクとが接合していないため、基板1上からマスクを剥離除去する際に、マスク基材30の開口11の外周やその近傍において、大きな力が付与されることや、剥離界面へ不均一な力が付与されることを抑制できる。そのため、マスクの剥離除去の際に、薄膜111が開口壁面に沿って切断され、基板上に堆積された薄膜の剥離や、マスク領域上に堆積された膜の剥離による基板上への膜残りが生じ難い。このように、マスクの開口11の外周縁に沿って非接着領域を設けることにより、基板1からマスクを剥離除去する際の膜剥がれや膜残りを防止できるため、パターン精度が向上する。
【0035】
マスク開口11の外周縁部に非接着領域71が設けられていることにより、基板1からマスクを剥離除去する際に、開口11の外周やその近傍における大きな力の付与や剥離界面への不均一な力の付与が抑制されるため、薄膜111の製膜前に基板1の表面に他の薄膜が設けられている場合でも、粘着層32による基板1の表面に設けられた薄膜の剥離を防止できる。基板1の表面に事前に設けられた薄膜がパターン状である場合は、事前に薄膜が設けられている領域を非接着領域とすれば、粘着層による薄膜の剥離をより確実に防止できる。
【0036】
[マスクキット]
図3A〜Eでは、事前に開口11が設けられたマスク基材30を被製膜基板1上に貼着して薄膜を製膜する例を示したが、マスクキットを用いて、被製膜基板1上で、マスク基材30に開口11を設けてマスクを形成してもよい。
【0037】
図5は、被製膜基板上に貼着後に、薄膜のパターン形状に対応した開口を設けてマスクを形成するためのマスクキットの一形態の断面図である。
図5に示すマスクキット105は、
図2に示すマスク100と同様、マスク基材530の第一主面上に離型フィルム39が剥離可能に貼設されており、マスク基材530の第二主面上に支持基材50が剥離可能に貼設されている。マスクキット105は、マスク基材530に開口が設けられておらず、代わりに基板1上に形成する薄膜111のパターン形状に対応する開口形成部511の外周に沿って切断線311が設けられている点において、
図2に示すマスク100と異なっている。
【0038】
切断線311は、開口形成部511を囲むように、マスク基材530の厚み方向の全体に渡って設けられている。そのため、マスク基材530は、開口形成部511(切断線311に囲まれた領域)と、開口形成部511の外側のマスク領域70とが分離可能となっている。マスクキット105では、マスク基材530上に支持基材50が貼着されているため、マスク基材530は、切断線311で囲まれた開口形成部と、切断線311の外側の領域との一体性が保持されている。
【0039】
マスク基材530に切断線311を設ける方法は特に限定されない。例えば、マスク基材530の第二主面に支持基材50を貼設した状態で、マスク基材530側から、切断刃やレーザーカッター等により、マスク基材530と支持基材50との積層体のハーフカットを行い、切断線を形成すればよい。この際、支持基材50の第一主面側(マスク基材の貼付面)にも切断線が形成される場合があるが、支持基材50の厚み方向の全体に切断線が形成されなければ特段の問題はない。ハーフカットによりマスク基材530に切断線311を形成後に、マスク基材530上の支持基材を別の基材に貼り替えてもよい。
【0040】
マスク基材530の第一主面には粘着層32が設けられており、基板1と貼着可能に構成されている。マスク基材530の開口形成部511の全体には粘着層が設けられておらず、基板1に対する非接着領域となっている。
図5に示すように、開口形成部511の外周縁に沿った領域71も基板1に対する非接着領域であってもよい。
【0041】
図6A〜Cは、被製膜基板1上にマスクキット105を貼着後に、マスク基材530から支持基材50を剥離するとともに開口形成部511のマスク基材535を除去して開口11を形成する様子を表す工程概念図である。
図5および
図6A〜Cにおいて、被製膜基板1、支持基材50および離型フィルム39の構成および材料等は、
図2および
図3A〜Cに示すマスク100を用いる形態と同様であるため、これらの詳細は省略する。また、マスク基材530の基材フィルム31および粘着層32は、マスク100の基材フィルム31および32と同様であるため、これらの詳細も省略する。
【0042】
マスク基材530の第一主面に離型フィルム39が設けられている場合は、まず離型フィルムを剥離して、マスク基材530の粘着層32を露出させる(
図6A)。その後、マスク基材530の第一主面を、被製膜基板1上に貼着する(
図6B)。開口形成部511(およびその外周縁に沿った領域71)は非接着領域であり、マスク基材530と基板1とが当接しているが、両者は非接合状態である。
【0043】
被製膜基板1にマスクキットを貼着後、マスク基材530の第二主面に貼設された支持基材50を剥離除去する(
図6C)。
図3Cに示す形態と同様、基板1上にマスク基材530が貼着された状態を維持しつつ支持基材50の剥離を容易に行うために、基板1とマスク基材530の粘着層32との接着力が、マスク基材530の第二主面と支持基材50の粘着層52との接着力よりも大きいことが好ましい。
【0044】
前述のように、マスク基材530の第一主面において、開口形成部511(切断線311で囲まれた領域)は、基板1に対する非接着領域である。一方、マスク基材530の第二主面は、粘着層52により、全面が支持基材50に貼着されている。そのため、開口形成部511においては、マスク基材530の第一主面と基板1との接着力は実質的にゼロであり、マスク基材530の第二主面と支持基材50の粘着層52との接着力に比べて小さい。
【0045】
マスク基材530の第二主面に貼設された支持基材50を、マスク基材530と粘着層52との界面で剥離すると、マスク領域70では、基板1上にマスク基材530が貼着された状態を維持しつつ、マスク基材530から支持基材50が剥離される。開口形成部511の外周縁に沿った領域71においてマスク基材530の第一主面と基板1とが接合していない場合でも、その外周の領域ではマスク基材530と基板1とが接合しているため、領域71のマスク基材530は基板1上に残存する。開口形成部511のマスク基材535は、マスク基材530の接着領域536と切断線により分離されているため、支持基材50とともに、基板1上から除去される。そのため、
図6Cに示すように、基板1上のマスク基材530が設けられていない領域が開口11となる。
【0046】
このように、支持基材50の剥離除去とともに、マスク基材30に開口11を設けた後は、
図3Dおよび
図3Eと同様に、薄膜を形成し、基板1からマスクを剥離除去することにより、開口形成部に対応する領域にパターン上の薄膜が設けられた薄膜付き基板が得られる。マスク開口11の外周縁に沿った領域71が非接着領域である場合は、基板1からマスクを剥離除去する際の膜剥がれや膜残りを防止して、パターン精度を向上できる。
【0047】
マスクキットにおいて、開口形成部511およびその外周縁に沿った領域71を非接着領域とする方法は、マスク基材530に粘着層を設けない方法に限定されない。例えば、加熱やUV照射等により接着力が低下する材料を粘着層32として基材フィルム31上の全面に設けた後、開口形成部511およびその外周縁に沿った領域71の粘着層の接着力を低下させることにより、非接着領域としてもよい。
【0048】
図7に示すマスクキット107のように、開口形成部711に被覆部材735を貼着することにより、非接着領域を設けてもよい。開口形成部の全体を確実に被覆するために、被覆部材735は、開口形成部の外周縁に沿った領域71にも設けられていることが好ましい。被覆部材735が領域71にも設けられている場合、被覆部材735には、マスク基材530と同様に、開口形成部の外周縁に沿って、厚み方向の全体に切断線371が設けられていることが好ましい。被覆部材35に切断線371を設けることにより、マスク基材530の第二主面から支持基材50を剥離除去する際に、開口形成部711では、支持基材50に貼着されたマスク基材530およびマスク基材に貼着された被覆部材735が除去されるため、開口11が形成され、基板1が露出する。
【0049】
[多層パターニング]
上記のマスクまたはマスクキットを用いることにより、基板上にパターニングされた薄膜を形成できる。開口の形状の異なる複数のマスクを用いて、基板上へのマスクの付設(またはマスクキットを用いた基板上でのマスクの形成)、開口下に露出した基板への薄膜の形成、および基板上からのマスクの除去を繰り返し実施することにより、パターン形状の異なる複数の薄膜を備える多層膜を、基板上に形成できる。マスクの開口の外周縁に沿って非接着領域を設けることにより、多層膜を形成する場合でも、基板からマスクを剥離する際に、先に製膜された薄膜の基板からの剥離を抑制できる。
【0050】
[多層パターニング用マスクキット]
上記のマスクキットの応用により、1つのマスクキットを用いてパターン形状の異なる複数の薄膜を形成することもできる。
図8は、多層パターニング用マスクキットの平面図である。
図9は、
図8のマスクキット108のA−A線における断面図である。
【0051】
マスクキット108は、第一開口形成部811の内周に第二開口形成部812を有する。すなわち、第二開口形成部812は、第一開口形成部811の内部に設けられた領域である。
図9の断面図に示すマスクキット108は、
図5に示すマスクキット105と同様、マスク基材830の第一主面上に離型フィルム39が剥離可能に貼設されており、マスク基材830の第二主面側に支持基材50が剥離可能に貼設されている。マスクキット108は、第一マスク基材830と支持基材50との間に、第二切断線412が設けられた第二マスク基材840が配置されている点において、
図5に示すマスクキット105と異なっている。
【0052】
第一マスク基材830には、第一開口形成部811を囲むように第一切断線311が形成されている。さらに、第一開口形成部811の内側に位置する第二開口形成部812を囲むように第二切断線312が形成されている。第一切断線311および第二切断線312は、いずれも第一マスク基材830の厚み方向の全体に渡って設けられている。そのため、マスク基材830は、第二開口形成部812(第二切断線312に囲まれた領域)、第一開口形成部内811内かつ第二開口形成部812の外側の領域75(第一切断線311と第二切断線312の間の領域)、および第一開口形成部811の外側の領域70の3つの領域が分離可能となっている。
【0053】
第二マスク基材840には、第二開口形成部812を囲むように第二切断線412が形成されている。第二切断線412は、第二マスク基材840の厚み方向の全体に渡って設けられている。第一マスク基材830の第二切断線312と、第二マスク基材840の第二切断線412とは、マスクキット108を平面視した場合に同一の位置に設けられている。すなわち、切断線312と切断線412とは同一直線上に延在するように設けられている。
【0054】
第二マスク基材840としては、支持基材50および第一マスク基材830と同様、基材フィルム41の第一主面に粘着層42が設けられた可撓性フィルムを用いることが好ましい。第二マスク基材840は、第一主面の全面に粘着層42が設けられていることが好ましい。
【0055】
第一マスク基材830の第二主面と第二マスク基材840の粘着層42との接着力は、第二マスク基材840の第二主面と支持基材50の粘着層52との接着力よりも大きいことが好ましい。基板1と第一マスク基材830の粘着層32との接着力は、第一マスク基材830の第二主面と第二マスク基材840の粘着層42との接着力よりも大きいことが好ましい。基板1側から支持基材50側に向けて、順に接着力が小さくなるように、各層の接着強度を調整することにより、
図10A〜Gに示すように、支持基材50、第二マスク基材840、および第一マスク基材830を順に剥離しながら、パターン形状の異なる薄膜を形成することが容易となる。
【0056】
マスク基材830,840に切断線を設ける方法は特に限定されない。例えば、支持基材50の第一主面上に第二マスク基材840と第一マスク基材830との積層体を貼着した状態で、マスク基材830側からハーフカットを行い、マスク基材830に第一切断線を形成すればよい。この際、第二マスク基材840の第一主面側にも第一切断線が形成される場合があるが、第二マスク基材840の厚み方向の全体に第一切断線が形成されなければ特段の問題はない。第二切断線312,412もハーフカットにより形成できる。第一マスク基材830および第二マスク基材840を貫通するようにハーフカットを行えば、同一直線上に延在する第二切断線312,412を形成できる。この際、支持基材50の第一主面側にも第二切断線が形成される場合があるが、支持基材50の厚み方向の全体に第一切断線が形成されなければ特段の問題はない。ハーフカットにより切断線311を形成後に、第二マスク基材540に貼着された支持基材を別の基材に貼り替えてもよい。
【0057】
第一マスク基材830の第一主面には粘着層32が設けられており、基板1と貼着可能に構成されている。第一マスク基材830の第一開口形成部811の全体が、基板1に対する非接着領域である。
図9に示すように、第一開口形成部811の外周縁に沿った領域71も基板1に対する非接着領域であってもよい。
図9では、第一マスク基材830の第一主面において第一開口形成部811および領域17に粘着層32を設ないことにより非接着領域としているが、非接着領域の形成方法は特に限定されない。
【0058】
例えば、第一マスク基材830の全面に粘着層32が形成されている場合は、第一開口形成部811(第一切断線311の内側の領域)の粘着層32に被覆部材を貼着して、第一開口形成部を非接着領域としてもよい。被覆部材が領域71にも設けられている場合、
図7に示す形態と同様、被覆部材には、第一開口形成部の外周縁に沿って、厚み方向の全体に切断線が設けられていることが好ましい。
【0059】
図10A〜Gは、被製膜基板1上にマスクキット108を貼着後に、第二マスク基材540から支持基材50を剥離して開口12を形成し、第一マスク基材530から第二マスク基材540を剥離して開口11を形成し、それぞれの開口に薄膜を形成する様子を表す工程概念図である。以下では、マスク100およびマスクキット105を用いる形態において説明した事項と重複する事項については、詳細な記載を省略する。
【0060】
第一マスク基材830の第一主面に離型フィルム39が設けられている場合は、まず離型フィルムを剥離して、マスク基材830の粘着層32を露出させる(
図10A)。その後、第一マスク基材830の第一主面を、被製膜基板1上に貼着する(
図10B)。第一開口形成部811、第一開口形成部811の内側の第二開口形成部812、および第一開口形成部811の外周縁に沿った領域71は非接着領域であり、第一マスク基材830と基板1とは非接合である。
【0061】
第二マスク基材840の第二主面に貼設された支持基材50を、第二マスク基材840と粘着層52との界面で剥離すると、第二切断線312,412の外側(第二開口形成部812の外側)では、基板1上に第一マスク基材830および第二マスク基材840が貼着された状態を維持しつつ、支持基材50が剥離される。第二開口形成部812では、支持基材50に粘着層52を介して第二マスク基材840が貼着されており、第二マスク基材840に粘着層42を介して第一マスク基材830が貼着されているが、第一マスク基材830と基板1とは接合していない。そのため、
図10Cに示すように、第二切断線412の内側の領域の第二マスク基材844および第二切断線312の内側の領域の第一マスク基材834は、支持基材50とともに基板1上から除去される。そのため、基板1上のマスク基材830,840が設けられていない領域が第二開口12となる。
【0062】
このように、第二開口12が設けられたマスク基材が基板1上に貼着された状態で、スパッタ法等により製膜を行うと、開口12下に露出した基板1上に第二薄膜112が堆積する(
図10D)。開口12の外側の領域では、第二マスク基材840上に薄膜が堆積するため、基板1上には薄膜は堆積しない。
【0063】
第二薄膜112を製膜後に、第一マスク基材830の第二主面に貼設された第二マスク基材840を、第一マスク基材830と粘着層42との界面で剥離すると、第一切断線311の外側(第一開口形成部811の外側)の領域70では、基板1上に第一マスク基材830が貼着された状態を維持しつつ、第二マスク基材840が剥離される。第一切断線311の内側の領域75では、第一マスク基材835が基板1と非接合であるため、
図10Eに示すように、第二マスク基材840に貼着された第一マスク基材835は、第二マスク基材840とともに基板1上から除去される。これにより、領域75の基板1が露出し、第一開口11が設けられる。
【0064】
このように、第一開口11が設けられたマスク基材を基板1上に貼着した状態で、スパッタ法等により製膜を行うと、開口11の第二開口形成部812下に露出した第二薄膜112上およびその外周の領域75に露出した基板1上に第一薄膜が堆積する(
図10F)。マスク領域70では、第一マスク基材830上に薄膜が堆積するため、基板1上には薄膜は堆積しない。
【0065】
第二薄膜を製膜後に、基板1上からマスクを剥離除去することにより、マスクキットの第二開口形成部812に対応する領域にパターン状の第二薄膜112が設けられ、第二薄膜112を覆うように、マスクキットの第一開口形成部811に対応する領域にパターン状の第一薄膜111が設けられた多層パターニング薄膜付き基板801が得られる(
図10G)。
【0066】
このように、複数のマスク基材が積層されたマスクキットを用いることにより、1つのキットで異なる形状のマスク開口を形成できる。そのため、パターン形状の異なる複数の層を形成する際の位置合わせが不要となり、製造効率を向上できるとともに、位置合わせ精度を向上できる。
【0067】
図9および
図10A〜Gでは、支持基材50に、2層のマスク基材840,830が積層されたマスクキットを用いて、形状の異なる2種類の開口12,11を順に設ける形態を示した。3層以上のマスク基材が積層されたマスクキットを用いることにより、3種類以上の形状の異なる開口を順に設けることもできる。
【0068】
[薄膜の形成方法]
上記の様に、本発明のマスクおよびマスクキットは、各種のパターン形状を有する薄膜の形成に用いられる。薄膜の材料は特に限定されず、有機材料、無機材料、金属材料等が挙げられる。薄膜は導電性でも絶縁性でもよく、半導体でもよい。
【0069】
薄膜の形成方法は、ドライプロセスであれば特に限定されず、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法や各種のCVD法を適用できる。また、複数の製膜方法を組み合わせて多層薄膜を形成してもよい。本発明のマスクおよびマスクキットは、可撓性基材を用いているため、ロール・トゥ・ロールプロセスにも適用できる。
【0070】
本発明のマスクを用いてロール・トゥ・ロールプロセスによりパターニングされた薄膜を形成する場合は、まず、基板およびマスクをそれぞれ走行させながら、ロール・トゥ・ロールプロセスにより基板上に連続的にマスクを貼着する。基板とマスクとの積層体を走行させながら、ロール・トゥ・ロールにより、製膜装置での薄膜の形成を行う。その後、基板とマスクとの積層体を走行させながら基板からマスクを剥離して、基板を巻取り、パターン状の薄膜が形成された基板の巻回体を得る。
【0071】
基板とマスクとの貼着後、製膜を行う前に、基板とマスクとの積層体を、一旦ロール状に巻き取ってもよい。また、基板とマスクとの積層体上に薄膜を製膜後、基板からマスクを剥離する前に、積層体を一旦ロール状に巻き取ってもよい。製膜装置のパスライン上で、基板とマスクとの貼着、製膜、および基板からのマスクの剥離を連続して実施してもよい。
【0072】
本発明のマスクキットを用いてロール・トゥ・ロールプロセスによりパターニングされた薄膜を形成する場合は、まず、基板およびマスクキットをそれぞれ走行させながら、ロール・トゥ・ロールプロセスにより基板上に連続的にマスクキットを貼着する。この積層体を走行させながら、支持基材50を剥離して開口下に基板1を露出させる。以降は、マスクを用いる場合と同様に、ロール・トゥ・ロールによる製膜およびマスクの剥離を行い、パターン上の薄膜が形成された基板の巻回体を得る。これらの各工程の間に、積層体を一旦ロール状巻き取ってもよく、各工程を連続して実施してもよい。
【0073】
図9に示すような開口形成部の形状が異なる複数のマスク基材を備えるマスクキットを用いる場合は、薄膜形成後にマスク基材を剥離して異なる形状の開口を設けた後に別の薄膜を形成することにより、パターン形状の異なる複数の薄膜を備える多層膜を形成すればよい。製膜装置内に複数の製膜源が設けられている場合は、1つの製膜源と別の製膜源との間のパスラインでマスク基材を剥離することにより、基材の巻出しから巻取りまでの1回のパスでパターン形状の異なる複数の薄膜を形成できる。
【0074】
図11は、1回のパスでパターン形状の異なる複数の薄膜を形成するための製膜装置の構例を示している。この製膜装置200は、2つの製膜室282,281のそれぞれに製膜ロール292,291が設けられ、製膜ロール292,291に対峙して製膜源としてのスパッタターゲット212,211が配置されている。基板1は、巻出しロール201から巻き出されて製膜室282に搬送され、製膜ロール292上で基板上への第二薄膜112の製膜が行われる。第二薄膜が形成された基板は、製膜室282に搬送され、製膜ロール291上で基板上への第一薄膜111の製膜が行われる。
【0075】
第二薄膜112の製膜が行われる製膜ロール292と第一薄膜111の製膜が行われる製膜ロール291との間のパスラインには、一対のニップロールからなる剥離ロール224が設けられており、基板の表面から第二マスク基材840を剥離するように構成されている。基板表面から剥離された第二マスク基材840は、巻取りロール204により巻取回収される。このように、2つの製膜部の間に剥離手段を設け、基板上からのマスク基材の剥離をインラインで実施することにより、巻出しロール201から基板を巻き出して、巻取りロール209で巻き取るまでの間に、パターン形状の異なる第二薄膜812と第一薄膜811とを基板1上に形成できる。3以上の製膜部が設けられている装置では、それぞれの製膜部の間に剥離手段を設けることにより、3種類以上の形状の異なる薄膜を1回のパスで形成できる。
【0076】
製膜装置は、複数の製膜部の間に剥離手段が設けられていること以外は、通常の製膜装置と同様の構成とすることができる。製膜装置200では、基材上に設けられたマスクキットから支持基材50を剥離するための剥離手段としてのニップロール225が設けられており、剥離後の支持基材50は巻取りロール205で巻取り回収されるようになっている。このように、インラインで支持基材50を剥離することにより、基板1上にマスクキットが貼着された基板を製膜装置にセットして、インラインで基板1上にマスク開口を形成できるため、基板表面の清浄性を維持できると共に、生産効率を向上できる。
【0077】
製膜装置200では、製膜ロール292と、多層パターニング薄膜付き基板801を巻き取るための巻取りロール209との間に、一対のニップロールからなる剥離ロール229が設けられており、基板1からの第一マスク基材830の剥離をインラインで実施できるように構成されている。
【0078】
製膜装置には、基板1とマスクキットとを貼着するための貼着手段(例えばニップロールからなる貼合ロール)や、マスクキット108の表面から離型フィルム39を剥離除去するための剥離手段等が設けられていてもよい。